076◇三角広場で待ちぼうけ
チャキン!
「――うむ」
魔法合金『ロリハルコン』の黄金色の刀身を細かくチェックしていたラウラ姫が、納刀して言った。
「いざ、赴かん!」
別に戦いに出るわけでも、冒険に出掛けるわけでもない。
『王宮』に向かうのだ。
『女王国』第三王女ライラウラ姫殿下。その筆頭侍女プリムローズさん。第六侍女(偽装)ミヨレッタ嬢。第七侍女(偽装)ドロリータ嬢。そして「『東の円』からの使者」稲田次郎時定氏。
次々と『音の宮殿』から出て行く。
「じゃあ、いってらっしゃーい!」
俺と猫耳奴隷のセシリアは、みんなに手を振って見送っ……あ、やめて! その手を放して!
「こっちは寝不足なんだ。ぐだぐだ言ってないで、来い!」
プリムローズさんが不機嫌に言って、俺の手を掴んで引っ張る。
「……ぼそぼそ(ごめんね)」
第六侍女ミヨレッタ嬢(その正体は我々が良く知るミーヨ・デ・オ・デコ嬢である)が小声で謝罪した。
プリムローズさんの寝不足の原因は、俺とミーヨにあった。
昨日の「実験」で『俺の女王さま』ミーヨ様じきじきの、素手(※器具を使った場合は『★不可侵の被膜☆』が発動するのだ)による様々な責め苦を受けた俺様は、ついつい悩まし気な煩悶ボイスをあげてしまったのだが……その声が隣室のプリムローズさんに丸聞こえになっていたのだ。
で、その最中に、体調不良で休んでいた寝間着姿のプリムローズさんに、鬼のような形相で怒鳴り込まれたのだった。
その時ちょっとあったので、回想っと――
◆◇◆
騒音で無理矢理叩き起こされたために、もう一度寝室で休む気もなくなったらしいプリムローズさんは、起きて職務に戻るらしかった。
女王陛下に拝謁するための『王宮』との「つなぎ」とか、色々あるらしい。面倒そうだ。
空腹らしくて、大食堂の隅で、かるい昼食を摂っている間に、午前中にあった出来事を話した。
色々な事を有耶無耶にして誤魔化すための、フィクションを混ぜつつ。
「……『王家の秘宝』に関する『ひんと』だって?」
プリムローズさんは呆然としていた。
「ええ。劇場にある女王陛下用の『巣(ボックス席の事をそう言うらしい。鳥の巣みたいだからかな?)』の、陛下の玉座と言うべき観覧席に座って、真正面の壁を『★遠視☆』の『魔法』で見ると、それ《・・》が書いてあるんだそうです。ただ、俺たちには難解過ぎて解けなくて……プリムローズさんじゃないと」
「……へー、よく見つけたね。そんなの」
水色の瞳が紫がかって見える。(知的に)興奮してる証拠だ。
「……」
もちろん、この話。
まるっきりの嘘だ。
筆頭侍女さまを「ブーブークッション」……イヤ、『雷神袋』の罠に嵌めるための、出まかせのデタラメの作り話なのだ。ぐへへへへ。
「分かった。後で確認してみるよ」
「ハイ。お願いします」
俺は噴き出しそうになるのを我慢しつつ、大食堂を去った。
でもこの「罠」が発動したら、俺が怒られるのは確実な気もする……。
◇
……ちなみに、まだ怒られてはいない。
それで……さらにその後も、謎の発光事件(※俺とセシリアの『合体魔法』が原因だ)が発生し、オオババちゃんの侍女軍団に「安眠妨害だ!」と怒鳴り込まれたらしい。
もともと偏頭痛持ちらしいプリムローズさんは、そのせいで一晩中眠れなかったらしいのだ。
でも、俺の方だって昨夜は色々あって恥ずかしかったし、ナイーブでデリケートな俺様としては、今日くらいはそっと一人でいたかったのだ。
内省タイムが欲しかったのだ。
なのに……。
「いいから、細かいことは気にしないで来い!」
「はううう」
なんか、すっかりクリムソルダ嬢の口癖が伝染ってしまった。
一昨日『荒嵐』の中で、ちょこっと会っただけなのに。
……そう言えば『荒嵐』は、俺とプリムローズさんで消し去ってしまったので、その影響がいろいろな方面で出ているらしい。
簡単に言うと、みんな「お休み」が無くなっちゃったらしい。
前世日本でも、台風が来ると「臨時休校」や「臨時休業」があったけど、そういうのが無くなって、みなさん大変らしい。
――他人事ながら、ちょっと申し訳ない。
ま、いちばんの影響と言えば『ヘビアタマの翼竜』が落っこちて、バトルになった件だろうけど……あまり深く考え過ぎたくない。
彼女の「良き転生」を祈るだけだ。
◇
俺たちはこれから『王宮』に行って、ラウラ姫とドロレスちゃんのお母さん……と言うか、この国の「女王陛下」に会うらしい。
昨日、プリムローズさんが知己だと言う『大宮殿副総監』を通じて女王陛下への拝謁を申し込んだところ、
「じゃあ、明日の朝イチで来て」
と言われたそうだ。
ホントはもっと形式ばった言い方だったらしいけど。
急な話だ。
俺たち、一昨日『王都』に着いたばっかりなのに。
プリムローズさんも、数日は待たされると予想していたらしく、珍しく慌てていた。
急遽、送迎用の馬車を二輌も手配したそうな。
『王宮』なんて、『永遠の道』を挟んだ「お向かい」なんだから、歩いていきゃいいのにと思うけど、第三王女らしく、威儀を正さないといけないらしいのだ。
で、分乗して『王宮』に向かうと、すぐ到着した。
直線距離で100mちょいしかないんだから当然だ。
こんな事なら、わざわざタクシー的な馬車呼ばないで、『俺の馬車』使えば良かったのに……って思うけど、そのためだけに牽き馬を借りると、逆に損するワケか……やれやれ。
到着したのは『王宮』の一部で、『大交差』の北の角にある広大な二等辺三角形の広場だった。
広めの野球場が二つは入りそうな広さだ。
広場の北側には、『一の小宮殿』という名の、東西に物凄く長――い建築物があった。
「名は体を表す」意味で漢字の「一」ではなくて、英語の「ファースト」の意味だそうだ。『王宮』が、拡大と拡張を繰り返した結果、元々の「大宮殿」が、今では「小宮殿」扱いされてるらしいのだ。
でもプリムローズさんに言わせると、高い空の上から俯瞰で見下ろすと、建物は完全に漢字の「一」に見えるらしい。
いくつかの建物を継ぎ足しているらしくて、ところどころで、微妙に色合いが違う。
ぱっと見、ラウラ姫の『宮殿』よりも大きい。
『王宮』の「正門」と「来客用の宿泊施設」と「駅」と、さらに「船着き場」まで兼ねているらしい。
「船着き場? ……って船に乗るんですか?」
「うむ。『大宮殿』は島にあるのだ。船に乗って、湖面を渡る。船は……我が家のご先祖様が『この世界』に来る前に乗っていた帆船を模しているそうだ。似た物があの角にある」
俺の問いに、もともと口数の少ないラウラ姫が、精一杯答えてくれた。
「『永遠の道』のあっちこっちで真水が湧くのは知っているでしょう? ここは『大交差』で、湧き出す水量が多いから、消費も排水も追いつかない。それでやむを得ず『人造湖』を掘ってある。そして掘った土砂を固めて島にしたらしいよ。前に言わなかったかな?」
プリムローズさんが、まだ眠そうに説明してくれる。
人造湖の話は聞いた気がするけど、人工島については聞いてない。
壁みたいに見える長い建物の向こう側に、相当な広さの人造湖があるらしい。
「にしても、もともと外洋で乗るような帆船があるんですか?」
『地球』の大航海時代の帆船なら、全長だけでも30mくらいはあるはずだ。
この辺りの内陸部って、実は木材が不足気味で、木屑を固めて木工製品を作ってるって話を聞いたことがある。
なんでも謎生物『女体樹』の一種『恥ずかしカタメちゃん』とかいうヤツの「体液」が接着剤になってるらしい。プロレス技みたい。
そんな風なのに、大きな船を作れるだけの森林資源がどっかにあるのかな?
「『王都』の北に伸びる『北行運河』の基点……というか水源でもあるんだよ。ちなみにここの『三角広場』の地下には、水路がたくさん埋め込まれてあるよ。暗渠ってやつ」
「そうなんですか」
俺が頷いたのを見届けると、プリムローズさんが言葉遣いと表情を改めて、
「そして殿下。例の『御座船』は儀典用ですので、この度は使用しないはずです」
ラウラ姫に向かってそう言った。
「む? そうか? だそうだ」
姫は特に気にした様子もなく、俺に向かって言った。
そんな話をしながら、馬車寄せから「正門」に向かう。
◇
「申し訳ありません、殿下」
「うむ」
イヤ、全員に謝れ。
早く来過ぎて「正門」が開いてなかったよ。
大丈夫なのか? 筆頭侍女。
ホントに寝不足らしいけど、しゃんとして欲しい。
しばらく、建物の外で待つ羽目になった。
『一の小宮殿』の正門は、手すりのついたバルコニーの下にあって、今は大きな扉が閉ざされている。
バルコニーの張り出しは半円形で……というか先端が尖ってる。
船の船首みたいになってるみたいだ。
「古代ローマの『ロストラ』って知ってる? それみたいでしょ?」
珍しそうに見てたら、プリムローズさんに語りかけられた。
なんでも紀元前4世紀だかに、海洋国家フェニキアと戦ったローマが、戦勝を記念して敵の船の船首を切り取って持ち帰って、演説台の壁面に飾ったのが元で、「演壇」そのものを「ロストラ」と呼ぶようになったそうな。
ただ、ここの「ロストラ」は、大衆に呼びかける演説と言うよりも、お役所の「広報」に使用されているらしい。
建物の南側は、ず――っと長――い屋根付きの馬車乗り場になっていて、前世日本の、大き目の駅の駅前のタクシー乗り場やバスの待合所みたいな感じだった。
建物の壁際には、掲示板があって、広告や求人、人探し、何かの依頼みたいな張り紙がいっぱいあった。残念ながら『女王国』には無いけど、「冒険者ギルドの掲示板」みたい。
いちばん多いのは『農園』の求人みたいだ。春先から晩秋までの季節労働らしい。
『立ち乗り長距離馬車』に詰め込まれて、遠くの方の『農園』に連れて行かれるらしい……そのまま『王都』に戻れなくなりそうで、なんか怖い。
そして『三角広場』そのものは、だだっ広い石畳の広場だ。
一部は「馬車溜まり(要は駐車場だ)」になってるのかな。
ぽつんぽつんと鉄柱が立ってるのは、夜間照明用の『水灯』だろう。端の方には木もある。『地球』で見覚えのある樹だ。
『広場』の地下にあるらしい「暗渠」には、カタツムリ似の謎生物ヌメヌメスベスベがいっぱい潜んでいるらしい。
その話を聞いたミーヨが、いつもみたいに「うええっ」と呻いて怯えていた。嫌いなのだ。
早い時間のせいか、人はまばらだ。
『永遠の道』に面した角には、異○から来た正八面体の謎物体……ではなくて、巨大な船のモニュメントがあった。
日本の住宅一軒分くらいの馬鹿でかい台座の上に、船そのものの銅像が乗ってるのだ。何と言うか……物凄く豪快だ。
青銅なら自然に錆びるはずなのに、磨かれているのか、出来立てみたいに金ピカだ。
船の甲板には、男性や女性の像がいくつかある。
ラウラ姫が言ってた「ご先祖」の船に「似た物」ってコレだろう。
一昨日は『荒嵐』除けみたいな大きな布地が被せられていて、見えなかったな。
今日ここに来る時も目には付いてたけど、台座の下にちょこっとした噴水広場みたいなものがあって、たまたまそこで水を飲もうとしていた短いスカートの女性の方に目がいっていて、銅像の方はろくに見もしなかったのだ(笑)。
船の舳先は、西を向いてる。
ラウラ姫の「ご先祖」は、イベリア半島から新大陸に向かう途中で「コピー&ペースト」されたらしいので、行き先だった西を向いてるかもしれない。
関係ないけど、イースター島のモアイってどっち向いてるんだっけ?
どんなエモーションで立てられたんだろ?
某アニメのDVDでさんざん観たモアイは、それぞれ向き違うんだよな。
そんな事を考えながら、ちょっとボケっとしてると、
「どうかしたんすか?」
次郎氏に訊かれた。
「……いえ、別に。ところで次郎さんって、ここ来るの2回目でしょ? 前も船で渡ったんスか?」
俺は訊いてみた。
「ええ、まあ」
爽やかに笑う。
次郎氏は、見た目はとにかく美形なのだ。従妹のシンシアさんもめっちゃ美形だけど。
「小振りな『十櫂』でしたけどね」
さらっと言うけど、ナニソレ?
「十回?」
何の回数ですか? アンタ、イケメンの上に絶倫なのか?
「ああ、『十櫂』は船を進める櫂の数っす。左右に漕ぎ手が五人ずつ」
「……へー」
今ひとつピンと来ないけど、『この世界』の船舶用語みたいだ。
『地球』でも「ヨット」とか「カッター」とか「スクーナー」とか色々あるらしいけど……さっぱり分かんないしな。
「次郎さんが『東の円』と行き来する船ってどれくらいなんスか?」
行けるなら、いつかは行ってみたい。
「そっちは櫂じゃなくて帆で進みますから、高い帆柱に何枚も横帆渡すんすよ」
次郎氏が少し遠い目をして、懐かしそうに言う。
「マストは何本なんスか?」
「『ますと』?」
「えーっと、帆柱の事っス。帆を張る柱」
「いろいろ有りますけど、外洋ではバリバリに三本かな。場所や天気にもよりますけど、悪いと一本しか立たなくて。無い時もあるんすよ」
「……へー」
昔のケータイのアンテナみたいな話だ。
そんで次郎氏についでに訊いてみたら、大型船を造るような木材は、大抵『美南海』の島々からの輸入品らしい。
『地球』でも赤道あたりは熱帯雨林になってるから……木材が豊富なのかな?
◇
朝の早い時間のせいか、やって来る人は少ない……当然か。
一般人はまず『王宮』には用がないだろうし、こんなとこ立ち入らないよな。
と思ってたら、結構大胆な事をする連中もいた。
ここは『大交差』の北の角。言ったら「交差点」角にあるコンビニみたいな立地なので、そこの駐車場(?)を斜めに横切って「交差点」をショートカットしていく馬車が結構いた。
通り過ぎた一台に、見覚えのある顔があった。
日に焼けた顔で馭者台に座ってた。
誰だっけ? と思っていると、第六侍女に偽装してるミーヨが近づいて来て言った。
「あの人、『冶金の丘』で会ったね。屑鉄屋のおじさん」
「ああ、あのおっちゃんか」
俺たちが『冶金の丘』に着いた初日に会った人だった。
あちこちで屑鉄を回収して『冶金の丘』に持ち込んでた屑鉄屋のおっちゃんだ。
でも屑鉄屋って言い方もアレだから、リサイクル業者かな?
向かった先は『永遠の道・北東路』だから、きっとまた『冶金の丘』に行くんだろう。
てか、ここって一応『王宮』の一部らしいのに、そこをショートカットするとは……無茶をする。
俺は「小市民」なので、とても真似出来そうにない。
「そう言えば昨夜ね。もう一人にも会ったよ」
ミーヨが言う。
「もう一人?」
「その屑鉄屋のおじさんと会った時に、真面目そうな商人さんがいたでしょ?」
「そうだっけ?」
二人組の農夫のおじさんたちなら、なんとなく覚えてるけれども。
「昨夜『宮殿』中の『水灯』が全部点いちゃって、他の場所から見ても、煌々と明るくて、物凄く目立ってたらしくてね」
「ああ、うん」
プリムローズさんが無実の罪で怒られた件だな(笑)。
「なんか昔『東の街区』にあった『えっちなお店』が再開したと勘違いして入って来ようとしてね。ゴスメリラさんに物凄く怒られてた」
「……へー、そうなんだ」
えっちなお店? めっちゃ気になるけれども。
詳しく訊こうとしても、
「……ふふっ……ふふふ」
思い出し笑いしてるし。
◇
三角形の広場には、その後、結構な数の馬車が入って来た。
『永遠の道・北西路』や『南西路』『南東路』から、次々に多頭立ての大型の馬車が、三角地帯に入って来る。
そのための「換え馬」も次々に引かれて来る。多分『音の宮殿』の東側に広がってる『大馬場』から連れて来てるんだろう。だんだんと、賑やかで、騒がしくなって来ていた。
無秩序な騒音が嫌いなプリムローズさんの機嫌が、どんどん悪くなっていく……。
定期運行されてるらしい『長距離馬車』から、ぞろぞろと人が降りて来る。
中に、体の前後に大きな板を下げた「サンドイッチマン(※本来の意味)」みたいな男性もいた。
板には、女性の名前が大きく書いてある。そんなんが何人かいる。なんなんだろう?
かなり、痛々しい。板だけに……って言うと俺もかなり痛々しいな。
分からない事があったら、
「何なんスか? アレは?」
プリムローズさんに訊いてみよう。
「『巫女選挙』の応援団ね。この広場がその会場なのよ」
ざっくりした口調で、早口で言われた。
「「「……へー」」」
『冶金の丘』からの「おのぼりさん」の三人(俺とミーヨとドロレスちゃん)が、妙に深く感心した。
アイドルの親衛隊的な人たちか?
異世界とは言え、それに近い文化が形成されてる気がするな。
だとすると、あの「クリムソルダ」って、俺たちが知ってる、「メロンおっぱい」の『巫女見習い』クリムソルダ嬢の事かな? クリちゃん、人気あるじゃん! すげー。
……とか他人事じゃなく、俺も『俺の聖女』のシンシアさんの応援をしないと!
でも『巫女選挙』の詳しいシステム……まだ、全然知らないんだよな。
彼らなら詳しく知ってるだろうけど……あんまり関わり合いになりたくない気もする。
◇
ここって『王都』の『中央駅』を兼ねていたらしい。
『王宮』の一部だけど公共性のある広場なので、馬車のショートカットも大目に見られてるみたいだ。
見てたら広場の端に屋台が立ち並び始めて、軽食やら飲み物を売り始めていた。デカい『店馬車』までやって来て商売してる。これもホントの『王宮』の中には無いだろうな。市民に開放されてる感じだ。
暇なので、あちこち眺める。
いろいろと珍しくて意外と楽しい。
どこからともなく、揚げパンの匂いやら、スパイスの匂いが漂って来る。
でも食欲が励起されない。嗅ぎ慣れない、不思議な匂いばっかりだな。
あ、なんだアレ?
なんか大きな台車に載った「臼砲」みたいなのが、人力で牽き出されて来た。
「プリムローズさん。『魔砲』ってアレっスか?」
先日の『ヘビアタマの翼竜』騒ぎで、チラッと『88なの対竜魔砲』なんてものを見かけたので『対空兵団』の人に訊いてみたら、『魔砲』……『魔法式空気大砲』は、砲身の空気を真空に近い状態にまで抜いて、さらにその空気を砲尾の方に送って、圧縮してるって話だった。それを開放するとドッカーン! と発射……イヤ、衝撃波が出るくらいに凄くて、発射音は「バン!!」って音がするって言ってたな。
想像だけど、前に俺が『人間大砲』の『砲弾』になった時には、プリムローズさんが気を使ってくれて、砲身部分の空気を抜かなかったから、弾速が遅かったっぽい。
うん、ありがとう。それやられてたら、死んでた(笑)。
「んー……? ああ、アレは広報用の『すぴーかー』よ。移動式のね」
眠そうだな。
「正式な呼称は『全能神の薔薇の門』よ」
「……ヘンな名前っスね」
「正面から見ると、何故かそう見えるのよ」
「……へー」
●(気体)が出るトコに似てたりしないよね?
『冶金の丘』の工房街でもよく飛んでた『魔法』の空飛ぶ葉書『★羽書蝶☆』も、フワフワヒラヒラと舞い飛んでる。
なんとなく下着っぽい……風で洗濯物のパンツが空を飛ぶアニメは色々あった気もする。大概、顔か頭に張り付くパターンだ。
『北の街区』には『女王国』のお役所がいっぱいあるらしくて、その事務連絡用らしい。
用途に応じて色を変えてあるらしく、緊急連絡は「鮮やかな黄色」だそうな。
でも、だいたいは白かベージュ(脱色してない元々の紙の色だ)だ。
平和で何よりだ。
「……む?」
でも、ラウラ姫は『★羽書蝶☆』が近くを飛ぶと『抜刀術』で切り落としたくなるらしくて、ちょっと危険なのだった……。
◇
そして、気になるものを見つけた。
「船の銅像」が乗ってる馬鹿でかい台座の壁に、三隻の帆船が描かれていて、その帆にはたくさんの星が散りばめられていたのだ。
俺たちが時速100㎞オーバーで『永遠の道』をカッ飛んで来た『魔法の俺の馬車』みたいに、『魔法』のキラキラ星で帆走る船があるのかな?
そう思って訊いたら……。
「あれが『星』よ」
プリムローズさんに苦々しく言われた。
「「「……『星』?」」」
またまた無知な地方組がハモってしまう。
「言ったでしょ? 『三人の王女』は『星』を競い合って、次の女王を目指してるって」
言われて、ハタと思いだす。
そうだった。
他国は知らないけど、ここ『女王国』では、年長の3人の王女が王家や国家のために尽くして「手柄」を立てて『星』を稼ぎ、その数がいちばん多い王女が、次代の女王になる――という制度らしいのだ。
というか、ソレってこんな目立つところに公開されてるのか……?
すんごいオープンだ。
数えてみると、
右☆3つ。真ん中☆11。左端☆1つ。
凄いイヤな予感がする。
「……それで、ラウラ姫の『船』は? まさか、あの『星』がひとつのヤツじゃないっスよね?」
違うと信じたいけど、正解してる気がする。
「星ひとつ? ちょっと待って。★遠視っ☆(パスン!)」
プリムローズさんは『魔法』を発動させる時に指を鳴らすけど、寝不足で不調なのか、いつものパキン! という音にならなかった。
「あらら……何があったのかしら? あれは第一王女殿下よ。……大きな声では言えないけど、どうやら何か大失態を演じて、大きく『星』を減らされたみたいね。……ぼそぼそ(後で誰かに訊いてみないと)」
プリムローズさんは船の帆に張り付けられた星を『魔法』のテレスコープで確認すると、声をひそめて言った。
ちなみに俺は、右目の『光眼』のお陰で遠視も可能だ。
長女のハズの第一王女殿下が「星ひとつ」って事は……よっぽどとんでもないヘマやらかしてるのか?
そういう事になると思うけど……どうなんだ?
「減点もあるんスか……とすると、姫は11個?」
「あれは第二王女殿下」
「……そうなんですか」
じゃあ、ラウラ姫は「星三つ」か……『地球』なら良かったのに。
すると、ずいぶん差がついてるな……これって逆転可能なのか?
「『星』ってどうやって獲得出来るんスか?」
俺は訊いてみた。
「……色々ね。お役所の依頼で動いたり、細かい所では街中の奉仕活動や慈善活動みたいなのから、大袈裟なところでは戦争で戦功を立てたり、『ケモノ』や『空からの恐怖』と戦って武勲を立てるとか……でも、人事部の査定みたいなものもあるし、それには心証も入るし……色々と厄介なのよね」
プリムローズさんが自身の『前世』を思い出してるのか、未来に希望の持てないような事をぶつぶつと言い出す。
「いちばん簡単なのは『出産』ね。特に女の子。『女王国』だけに、血筋を確実に残してくれる王女様が産まれると『ぽいんと』高いのよ(ニヤニヤ)」
ポイントねえ……。
俺を見ながら意味ありげに、ニヤニヤ笑うのは止めて欲しい。
「ちなみに、今上の女王陛下は、子沢山であらせられるわ(ニヤリ☆)」
悪い笑顔だ。
その子供のラウラ姫もドロレスちゃんも見てないからいいけど。
「ラウラ姫の三つの『星』って、どうやって?」
気になるので訊いてみた。
「16歳になって『成人』したからよ。『星無し』じゃカッコ悪いでしょ?」
あっさりと言われた。
「……そうなんスか」
実質的には「星ゼロ」じゃん。
俺のがっかりが伝わったのか、
「でも、君と一緒に『ヘビアタマの翼竜』は討伐したし、『音の宮殿』の『亡霊の声』の一件も解決出来たし……それなりに『星』は獲れると思うわよ」
慰めるような口調で、そう言われた。
「ハイ」
俺はそう返事するしかなかった。
俺とプリムローズさんは、いつの間にか「獣耳奴隷制度の廃止」に向けて、共闘する感じになっちゃってるからな。
俺も、ラウラ姫が女王位に即けるように、ポイント稼ぎに協力しないと。
まあ、色々とこれからだ!
気を取り直して、そう思う事にする。
◆
なんとなく説明回? ――△




