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075◇しっぽ


 ――「実験」は続けるぜ。

 長くなるから、説明は無しだ。


「俺たちはまだ若い! 過去の感傷は後にして、頼む! ミーヨ! 俺を叩いてくれ!!」


 シェイク・ヒップ!


「……お願いだから、横向きになって」

 硬く、冷たい声だった。


「おう!」

 俺はすぐにミーヨ様の言う通りにした。イヤ、張り切ってないよ?


「んー? ジンくんって右の『ぺた』に双つ並んだ黒子(ほくろ)あるよね? これって……」

「そんなこといいから、早く、早くっ!」


 俺はおねだりするようにお尻を振った。

 ちなみに、これはある人物の真似なのだけれども……誰かは黙っていようっと。


「もー……な、なんでわたし、こんな事に……」


 運命さ。


「こうなったら、もう思いっきりやるよ!」

「うんっ」

 俺はミーヨ風に元気よく返事した。


「えいっ。えいっ! えいっ!!」

 べちん。べちん! べちん!!

「はうっ。ふおっ! ひゅあ!!」


「はー……結構、疲れる。どうだった? 『魔法』使えた?」

 ミーヨから質問された。


「はふー、うん、変た……イヤ、大変、結構なお点前(てまえ)でした」


 普段は『★不可侵の被膜☆』のお(かげ)で、戦闘でもまったくノーダメージで痛みを感じる事がないので、なんというか「生きてる」っていう実感が()く。

 イヤ、もう脳も()いてるのかもしれないけれども……。


「え? 『魔法』は? 使えた?」


 ミーヨは「実験」の主旨を忘れていなかったらしい。


 しかし、俺は……。


「……忘れてた。もう一回、今の三連発やって!」

「うええっ」


 その後も「実験」は続いた。


      ◇


 そして――


「うるさぁ――い! いい加減にしろ――――っ!!」


 プリムローズさんが怒鳴り込んで来た。


「「うええっ!?」」


「この、ド変た――――いッ!!」


「ち、違うんスよ。これには深い割れ……イヤ、理由(わけ)が」


      ◇


 なんでも俺とミーヨが居た部屋の「お隣」が、プリムローズさんの私室だったそうです。


 なおかつ、部屋同士が「管」で繋がっていたそうなのです。


 といっても『亡霊騒ぎ』と同じ施工ミスとかではなく、設計通りの仕様で、それは「伝声管」として、本来の「歌劇場」としての舞台脇の「出演者待機所」(俺とミーヨが居る)と、「出演者控室(ひかえしつ)」(プリムローズさんが私室として使っていた。そして体調不良で休んでいた)を連絡用に繋いでいたらしいのです。

 そんで、その「壁一枚」くらいの長さなら、「管」を通しても音は歪まないそうで、むしろ形状によっては「拡声器」的な機能もあるそうなのです。


 そんな事などまったく知らなかった俺は、昨日『大交差』で思いついた事を試してみたのです。


 あくまでも「実験」のつもりで、誰に恥じる事もなく……。


 そしたらそれが、プリムローズさんに文字通り「筒抜け」になってたらしいのです。


 てへ。


       ◇


 そして――肝心の『魔法』の「実験」の方は、大失敗だった。


 なにより『魔法』はイメージが重要なのだ。それがすべてと言ってもいいくらいに、脳内で何をしたいのかはっきりと思い描く必要がある。最後に放つ言葉「発動句(スターター)」は、あくまでも始動スイッチみたいなものなのだ。


 しかし、苦痛と快感(あれ?)に耐えながら、細かい『魔法』のイメージなんて不可能だったのだ。

 ぶっちゃけ、それどころじゃなかったのだ。


 そしてこの「実験」の結果から(かんが)みるに、俺と誰か女の子が「性的に合体」する『正規型合体魔法』なんて出来ないんじゃないだろうか?

 残念ながら、そっちの方は試せなかったけど、恐らくはきっと、そうであろうと思える。

 なんかそんな確信がある。


 ――すべては徒労に終わった。


 イヤ、ミーヨが探していたオ・デコ家の家宝『(あか)い卵』に関するヒントは手に入った。


 それに「目覚め」と言うか、ナニかの『覚醒』があったような気もする。

 俺様の目の前に、新世界への地平が広がった気もする。


 しかし――


 ミーヨ様は無情に言った。


「もー……二度とやんないからっ!」


 『俺の女王さま』は退位なされるそうです。


      ◇


 廊下でミーヨ発見。


「なあ、ミーヨ」

「……(ツン)」


 激レアなツン・ミーヨだ。

 初めて見た。これはこれで可愛い。


      ◇


 その一打点(約90分)後。


「あのさあ、ミーヨ」

「……(ツン)」


 ……あれ? まだ?

 お前は『俺のチョロイン』なんだから、ツンデレ気取っても可愛いだけなんだけどな。


「……(じーっ)」

 そして猫耳奴隷のセシリアが、心配そうにして俺たちを見ていた。

 イヤ、別に夫婦喧嘩(?)とかじゃないよ。


      ◇


「あのー、ミーヨさま?」

「……(ツン)」


 もうかれこれ270ツン=三打点(約4時間半)も口をきいて貰えない。ツンのままだ。

 そういうプレイ(笑)とかじゃなしに、完全にミーヨの機嫌を(そこ)ねてしまったみたいだ。

 幼馴染のプリムローズさんにまで、ドSと誤解されたのを怒ってるっぽい感じだ。


 なんとか、ご機嫌をとらないと!


      ◇


 こうなったら例の「秘密作戦」を実行せねば!!


 今こそ、ミーヨとの約束を果たそう! 彼女の機嫌を取るために!!


 名付けて「ミーヨと交わした約束をきちんと守って、好感度を上げて、機嫌を直してもらっちゃおう作戦」だ。長いよ。


 どんな流れでそんな約束したのか忘れちゃったけど、前にミーヨに『真珠の首飾り』をプレゼントする約束をした気がするのだ。


 俺は『orzの錬金術師』……イヤ、否定はしない。


 俺は『錬金術師』なので、『体内錬成』のひとつ『固体錬成』で、それを錬成(つく)り出すのだ!


 原材料豊富な『永遠の道』の上でやるつもりだったけど、なんだかんだでバタバタしてたから正直忘れてた。でも、今回の「材料」は、『道』を構成する炭酸カルシウムと思われる白い物質から錬成(つく)った『真珠』だから、同じコトか。


 その時錬成して、ミーヨとプリムローズさんに渡しておいた「真珠っぽい耳栓」が、俺の脳内イメージ映像(※主にエロ)がアイコンタクトで伝わってしまう――と言う残念仕様だったので、昨日のうちに頼み込んで『明星金貨(フォスファ)』1枚ずつで買い戻したのだ。


 なんなんだ! このわけのわからない出費は?

 二人とも俺のエロ思考が伝わって来るのが、(わずら)わしかった(やっぱりかよ)らしくて、あっさり引き渡してくれた。


 それと、『ヘビアタマの翼竜』と会話するつもりで錬成(つく)った『神授の真珠モドキ』も、言ったら失敗作だったし、このまま持ってるのもなんなので、「再錬成」の「材料」にしてしまう事にした。


 『真珠の首飾り』による直接物理攻撃(プレゼント)で、ミーヨを再びデレさせるのだ!


 準備は万全。


 いざ、俺の錬金工房(アトリエ)『おトイレ』へ!!


      ◇


 もう通路は暗かった。


 昨夜はプリムローズさんが発動させた『合体照明魔法』でめちゃめちゃ明るかったけど、お年寄りの多いオオババちゃんの侍女軍団から「明る過ぎる」と怒られたらしいしな。


 俺の右目の『光眼(コウガン)』には「暗視機能」があるので、左目を閉じる。


 通路の端に、なにか丸くうずくまっているものが見えた。

 そこから、不気味なすすり泣きの声がする。

「……えぐっ……ぜくっ……てぶっ」

 知ってる声なので、ぜんぜんビビりはしないけど。

 てか「エグゼクティブ」って、なんか偉そうだ。


「ぐすっ……くら、こわ……みよねさー! おにさー!」

「セシリア?」

「はきゅっ」

 急に声をかけたので、驚かせてしまったらしい。


「おにさー!」

 暗がりから出て来たのは、猫耳奴隷セシリアだ。

 どこか明後日の方に行きそうになるのを、手を掴んで引き寄せる。

 本物の猫と違って夜目は利かないらしくて、暗闇が怖くて仕方ないらしいのだ。


「セシリア、どうした?」

「ねこちゃ、にげた」

 「六本指の猫」茶トラ君が居なくなったのか?


 昼間は寝てるけど、夜行性なので暗くなるとウロウロするんだよ、彼は。どこかに出掛けちゃって、いつだったかの宣言通りに「子作り」に励んでんのかな?

 首輪も鈴もつけてないし……てか、『この世界』に「飼い猫」の概念があるのか良く知らない。


「一緒に探してやるから、おいで。あ、その前に『おトイレ』行くけど、いいか?」

「……あい」

 セシリアはどことなく恥じらいながら、小声で返事した。

 暗闇が怖そうだったので、手をつなぐ。


 あ、そうだ。


「セシリア、『合体魔法』だ! 祈願。宮殿内全部の水灯を励光!」

「セシリア、『合体魔法』だ! 祈願。宮殿内全部の水灯を ★励光っ☆」


   キラキラキラキラキラン☆


 また『宮殿』全体が、アホみたいに明るくなった。

 また怒られるだろうな……プリムローズさんが。


      ◇


「やって、るぞ」

 何の宣言だ?


 セシリアが、『この世界』での『おトイレ』のアイコン「座って何かしてます像」を見つけて、指差した。

 見た目はほぼ完全にロダンの「考える人」みたいだ。アレって単体の独立した作品じゃなくて、『地獄の門』とか言う名前の大きな彫刻作品の一部分らしい。プリムローズさんがそう言ってた。


 中に入ると、広めの通路の両脇に「個室」の扉が、ずらりと並んでる。

 ここも、さっきの『魔法』のせいで、アホみたいに無駄に明るい。

 セシリアが暗闇に怯えなくて済むからいいけれども。


 『冶金の丘』では、『おトイレ』は全室個室の代わりに男女兼用だったけど……『王都(ここ)』でもそうらしい、と昨日知った。

 ただし、慣例的に、女性は通路の左側の個室群を使用するそうなので、きちんと憶えておいて俺も気をつけないといけないな。


「じゃ、いっといで」

「あい」

 なんとなく恥ずかしいので、セシリアとは離れた個室に入る。


      ◇


 さて『錬金術』のお時間です。


 まず、個室の中の、手荷物を置く小さな棚に「材料」を載せます。

 あ、一粒床に落ちちゃった。

 ま、いいか。どこにあっても同じ事だし。


 つづいて目を閉じ、イメージします。


(アレがあんなんで、カタチがこうで、こんなんで、よし)


 イメージが固まりました。

 発動句(スターター)、ONです。


(固体錬成。真珠の首飾り)


 しばらく待つ。


   チン!


 ポコン、と最初の一粒が「*」から出てくる。

 これを手がかりとして、残りは自分の手で引っ張り出すしかないようだ。


「……」

 俺は慎重にア*ル・パール……イヤ、『真珠の首飾り』を引っ張り出す。


 自分で言うのもなんだけど、「まさに外道」。イヤ、まさに変態の所業だ。

 しかし、一粒出すごとに、微妙な快感があるのは否定出来ない事実だった。

 そういう愛好家がいるのも理解(わか)らなくもない。

 誰にも見られない個室で良かった。俺、いまどんなカオしている事やら……。


「ぐぬぬ?」


 単純なカタチだと、数珠か冠婚葬祭用みたいになってしまうので、胸元にくる部分には大きな「垂れ飾り」があるデザインを思い描いてみた。

 なので、その部分まで引き出すと、ちょっと……イヤ、かなり抵抗が大きくなる。


「むぐぐぐぐ?」

 詰まりそう。


「おにさー!」

「はきゅっ!」


 突然の大きな声に、俺は、はきゅっ、となった(※詳細不明)。


「……ど、どうした? セシリア」

 まだ途中なんですけど。


「まほ、あと、しま、ぱん、つ!」

 なるほど。俺との『合体魔法』でなら、セシリアにも『魔法』が発動出来るから、『★後始末☆』やってみたいんだな。

 前にクリムソルダ嬢との話の中で言ってたもんな。

 あと「しまパン」は関係ないよな? 俺の聞き違いだよな?


「待ってな」

 俺は途中まで出掛てる『真珠の首飾り』を尻尾のようにぶら下げながら(※『夏の旅人のマントル』は着てます)個室を出て、扉が半開きになってる個室のところに向かう。


 セシリアの小さな手が出てる。

 中を見ないように、その手を握る。


「いいか、セシリア。祈願。後始末」

「いいか、セシリア。祈願。★後始末☆」

 俺のセリフを「耳コピ追従」したセシリアに、『守護の星(普通サイズ)』がキラキラ☆ と感応する。発動成功だ。


「「はきゅっ!」」


 なぜか、俺にまでその効果が発動されてしまった……。


「しー、いー、おー」

 セシリアが、ふわふわした「いい顔」で個室から出てくる。

 なんとなく、俺も初めて『ウォシュ○ット』使った時の事を思い出したよ。

 ところでCEOってエグゼクティブより偉いのか? 俺が密かに敬愛するル○ーシュ様が着任した某国のトップの座か?


「あ、いたいた。ジンくん!」

 そこに、ミーヨがやって来た。俺を探していたらしい。

 なんか、前にもあったな。「俺とミーヨとおトイレ」。なんだそれ?


 そんで声の調子からすると、もう機嫌は戻ってるな。なんかにこやかだ。


「……じゃないか。晩餐の支度が整いましてございます。ジン様」

 世を忍ぶ仮の姿として「ラウラ姫付き第六侍女ミヨレッタ」を名乗るミーヨなのだった。

 なんとなくイタリア風だ。意味知らないけど、オー、ソレ・ミーヨ! じゃなくて「オ・ソレ・ミオ」だったかな? どっちにしろ意味知らないな。


 ちなみにドロレスちゃんは「第七侍女ドロリータ」だそうな。速やかに改名して欲しい。


「ミーヨ、ご機嫌だけど、どうしたの?」

 なんか楽しそうなのだ。

「うん、この明るいのって二人の仕業でしょ? ……ぷっ。あははは」

 推察するに、『音の宮殿』全体が、急にアホみたいに明るくなったので、なにか笑えるハプニングがあったらしい。


「あ、セシリア。子供は寝る時間だよ」

 ミーヨが笑いをおさめて、まだ10歳のセシリアに(さと)すように言う。

「よるの、いと、なみ?」

 それの意図なに? って言ったのかな? セシリアは、未だにミーヨがおでこを隠して変装しているのか不思議でしょうがないらしい。慣れない様子で、見つめ返している。


 昼間その跡地を見たけど、12年前にあったという『王都大火』は、ミーヨの父親のお屋敷から出た火事で引き起こされたと信じられているらしいので、その直系の娘が、『王都』でおおっぴらに、「オ・デコ家」の長女として社交界に現れるわけにもいかないらしいのだ。


 というか、当のミーヨが気にし過ぎていて、それを拒絶しているのだった。


「……ミーヨはぜんぜん悪くないのにな。オ・デコ家の令嬢名乗ってもいいのに」


 聞かせるつもりはなかったのに、俺の密かな呟きが聞こえたらしい。


「……ん?」

 ミーヨが変な顔になる。


「ジンくん」

「なに?」

「ジンくんもだよ」

「なにが?」

「オ・デコ家」

「なんで?」


「えー……だって、わたしのお父さんとジンくんのお母さん、再婚したんだし」

「!」

 衝撃の事実だった。


「なん……だと?」

 俺は大袈裟に驚いてみせた。

 イヤ、ホントは既に知ってるけど……そう言えばそうだった。単純に忘れてた。

 二人とも、俺が『俺』として覚醒してから、一度も会った事ないし。


「あ、でも違うや。ジンくん、もう成人(16歳)してるし」

「そうなのか? ジン・コーシュのままか。てか『この世界』では、親同士の再婚の場合、未成年の子供はどうなるんだ? 戸籍とかあるの?」

 そういう事ぜんぜん知らないな、俺。


「もし、ジンくんが未成年(16歳未満)だったら、真名(まな)は『ジン・マシン・オ・デコ』になると思うよ」

「ジン……マシン。おでこ?」


 ナニソレ?

 おでこにだけ蕁麻疹(じんましん)出るのか? どんなアレルギーだよ?


「『マシン』は、その家の当主と血縁関係がない継子(ままこ)や養子につける言葉だよ。あ、婿養子にもつくかな?」

「へー?」

「……でも『王都大火』の事があるし、オ・デコは出さない方がいいよ」

「……」

 だから、ミーヨはおでこを付け毛で隠してるのか……違うか。


 でも……まだ見ぬ母親と義理の父親のためにも、俺はオ・デコ家の汚名を(すす)がないといけないのか。

 よし、頑張ろう。

 決意を新たにした。

 「*」からは『真珠の首飾り』をぶら下げたままだけど。


「じゃ、行くか」

 俺はミーヨの手をとって、「*」から『真珠の首飾り』をぶら下げたまま、三人で歩き出した。


「……(にこにこ)」

 ふと、セシリアを見ると、笑顔で嬉しそうだった。

 なんかこの子は、俺とミーヨが仲良くしてるところを見るのが好きらしい。


      ◇


「はきゅっ!」


 椅子に腰掛けた瞬間、忘れていた事を無理矢理気付かされた。


 悲鳴を上げて立ち上がってしまった俺に、

「どうしたんすか?」

 向かいの席の次郎氏が訊いてきた。


「イ、イヤ。なんでも」

 今俺様の「*」からは、取り出しかけの『真珠の首飾り(もう別な物の気がする)』が「しっぽ」のように垂れ下がっている。


 それを忘れて、着席したために、何粒か帰郷したのだ。

 生まれ故郷に戻ったのだった。遡上したのだ。Iターンの古里回帰なのであった。


 大失敗だった。

 きちんと全部取り出してから、ここに来るべきだった。

 ちょっと遠いけど、さっきの『おトイレ』に行って、完全に取り出そうっと。


 俺は席を離れて、大食堂から出た。


      ◇


「あ、ジンくん。……失礼いたしました。ジン様、いかがなさいました?」

 通路に出てしばらく歩くと、ミーヨとセシリアがまだ二人そろって居た。


「それ、もういいってば。なにやってんの?」


 俺の問いに、セシリアが応えた。


「みよねさ、と、ねこちゃ、さが」

「行方不明の茶トラ君を探してるんだよ」

「あ、そっか。ごめんな、忘れてた」

 そういう話だったっけ。疲れてんのかな? 俺。


「ねこちゃ、なかなかなかなかな」


 ハイー?


「茶トラ君がなかなか懐いてくれないんだって」

 まあ、猫耳はついててもセシリアは人間の女の子だから、茶トラ君の攻略対象外なんだろうけど。

 ……って、ミーヨも「意訳」出来るのか?

 ひょっとして猫耳奴隷セシリアが何を言ってるのか理解出来ないのは「ご主人様」の俺だけなのか?


「ジンくん。……『合体』していい?」

 ミーヨが近寄って来て、囁くように言う。完全に誘ってますよね?


「え? ここでか? お前がいいなら、いいけど。セシリア見てるし……あ、『魔法』の方か?」

 お約束通り、ボケてみました。

「もー……えっち!」

 イエス・マム! アイム・エム!!


 ミーヨが照れながら、指を絡ませてくる。


「祈願。ジンくん……ちがくて、茶トラ君を ★迷子探しっ☆」


 てか、なんで「迷子探し」の対象のデフォルトが俺なんだ?


   キラキラキラン☆


「ほし、きれー」

 セシリアがうっとりと言った。


 『守護の星(普通サイズ)』の虹色のキラキラ星が、道しるべのように並んで、空中に浮いているのだ。

 幻想的で美しい眺めだ。なんかのイリュージョンみたいだ。


 これが『★迷子探し☆』か。


(これ)辿(たど)っていけばいいのか?」

「うんっ」


 アニメの『○nG Dream!』みたいな展開だ。

 この先に、ツインテールの女の子が待ってるのかな?


      ◇


「祈願。後始末っ!」

「ひがん。あっ、と、しまぱんつ!」

「祈願。後始末だよ。セシリア」


 『魔法』の「発動句(スターター)」を練習しながら歩く。

 『★後始末☆』の発音は、日本語で「アトシマツ」と言ってるように聞こえる。何故かそっくりなのだ。

 でも、セシリアが言うと何故か「縞パンツ」に聞こえるな。おかしいな。ツインテールの子には「しまパン」がお約束かもだけれども……イヤ、お約束っていったら、むしろアレやろ?


「ニーハイあるいはハイニーソ。ニーソ。イヤ、オーバーニー?」

「にぱあ。あるいて、はいそーに? そーいや、Oh!! バニー!?」

「二人とも、ナニソレ?」


 笑顔で歩いて配送に行ったら、バニーガール姿の先輩とでも会ったのか? 出会いは図書館じゃなかった? ……じゃなくて「膝上まである長――い靴下」のコトだよ。

 ちなみに『この世界』では、ツインテが後頭部の見た目の印象から「尻割れ髪」って呼ばれてるよ。


「やっぱり、手を繋がないとダメかな?」

 俺はセシリアの小さな手を握る。


「祈願。ハイニーソックス」

「祈願。★ハイニーソックス☆」


   キラキラキラン☆


 うそだろ? 『地球』の言葉なのに、そのまま『魔法』として発動しちゃったよ。

 長靴……下を()いた猫……耳奴隷が誕生しちゃったよ。

 「しまパン」「しまパン」言ってたから、水色ストライプだよ……異世界なのに。

 某アニメの空色と白の「しまパン」は兄妹の絆の証なのか? ……異世界ものだよ。


 とすると、やっぱり俺の推察通りに誰か『前世の記憶』持ちが、日本語そのまんまで発動させたのが『★後始末☆』の『魔法』って事かもしれないな……。


「何? その長――い靴下?」

 ミーヨが驚いてる。


「イヤ、だからこれがハイニーソックス」

「あい?」

 セシリアが不思議そうだ。

 もしかして本人には見えてないのかな? 『裸の王様』みたいに……でも、アレは誰の目にも見えてないか。詐欺だしな。


「ああ、これってアレだね。『★謎の光☆』と同じで、見た目だけ変える『魔法』」

「……へー、そんなのが、他にもあるんだ?」

「まぞ、の、ひかり?」


 探せばいそうだけど……じゃなくて『謎の光』は、妙齢の女性が最重要機密部位を秘匿・隠蔽するための『魔法』だ。先日シンシアさんの『れーざーだつもう』の時に見た。そして、それが(ゆえ)に見られなかったよ、最重要機密部位(泣)。


 にしても光学迷彩魔法か。

 『攻殻○動隊』みたいに透明になったりも出来るのかな?


 でも、何かに悪用しようとすると『この世界』の『魔法』を(つかさど)る『世界の理(ことわり)(つかさ)』にNG出されて、発動しないだろうな。


      ◇


「風が強そう。外には出てないよね?」


 外はこの大陸に特有の、「夜半過ぎの強風」が吹いてるらしい。

 がっちりした建物の中に居るので気付かなかった。ミーヨの声で、窓の外の『星葉樹』の枝葉が揺さぶられてるのを見て、初めて気付いた。


「ちっ、ぱい」

「うん。心配だね」


 その会話は本当に噛み合ってるのか?


 しばらく星を辿って歩いていると――


「あっ! しっぽ! ねこちゃ!」

 セシリアが茶トラ君を発見した。

 てか正確には、茶トラ君が不機嫌そうにぶんぶん振り回しているしっぽを見つけたようだ。


「なんだこれ?」

 壁にめり込むように茶トラ君の下半身だけが、通路の床の上に存在していた。


「何かにはまり込んで抜けなくなってるみたいだけど」

 ミーヨの指摘は正しかった。


 通路の壁の、換気口か掃き出し窓みたいな四角い穴にはまって、前後方向ともに脱出不可能になって、八つ当たりみたいに「しっぽ」を振り回していたらしい。


 ――アホな猫だ。きっと飼い主に似てるんだろう。

 誰だよ、飼い主。

 イヤ、俺じゃないよ?


「じっとしてろよ」

 俺は茶トラ君のしっぽを掴んで引っ張った。


「みぎゃああ゛」

 茶トラ君の上半身が現れた。

 大きくなっていた黒目(瞳孔)が、俺とセシリアが発動させた明るすぎる魔法照明で、一気に縦に細まった。


「大丈夫か?」

 抱き上げたら、茶トラ君は嫌がって『夏の旅人のマントル』に爪を立てて俺の肩に飛び乗り、そのままびよ――ん、と飛び跳ねて通路を逃げて行った。


「……俺にも、あんま、なついてねーな」


 てか茶トラ君のせいで、またまた『夏の旅人のマントル』が脱げてしまった。

 いつものように、普通に全裸になってしまったよ。


「おにさ……。おにさ、にも、しっぽ」

 俺の背後に居るセシリアが言った。


 その言葉に、目の前に居るミーヨが、

「セシリア、ちがうよ。これはジンくんのおちん」

「こらやめろ!」

 ナニか言いかけたので、速攻で制止した。


「おにさ、に、しっぽ。しろ、しっぽ」

 セシリアが何かに驚いているようだった。


「そんな……まさか……あ!」


 確認するために、俺の背後に回り込んだミーヨが息をのんだ。


 なんだ? どうした?

 自分じゃ見えないってば!


「ジンくん。なに、その白いしっぽ!」

 ミーヨが驚いたように叫んだ。


「はあ?」

 イヤ、君ら何を言ってんの?


 しっぽじゃねーよ。


 『真珠の首飾り』だよ(※強弁)。


      ◇


 これ以上引っ張るのもアレなので、結果だけ言うと、俺の体内から全部取り出しました。


 ハイ、頑張りました。

 体の前後でのツインテール状態は解消されました。


 俺、ツインテールになってました(※過去形)。


      ◆


 過去形だから、大丈夫だよね? ――まる。

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