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074◇緑の草原と紅い卵


「「「「……なにここ?」」」」


「はら、っぱー」


 扉の向こう側は、緑の草原だった。

 ここは『女王国』最大の都市『王都』のど真ん中なのに。いったいなんなんだ?

 なんでいきなり、こんな場所に出たんだ?


      ◆◇◆


 『音の宮殿』中央の劇場部分1階には、「馬車寄せ」付きの大玄関と一体化した無駄に広いエントランスがあって、そこにいる。


「おべん、じょ、だろ」

 猫耳奴隷セシリアが言う。

 ここは異世界なのに『地球』のインダス文明の遺跡「モヘンジョダロ」があるらしい……って『お●所』か。


 セシリアは『この世界』での『おトイレ』の()()を示すアイコン「座って何かしてます像」を見つけて、俺たちに教えてくれたみたいだった。


 ここは、もともと王立歌劇場なので、来客用に大き目の『おトイレ』があるのだ。

 その銅像も、よく目立つようにデカい。『地球』の某有名彫刻に激似だ。ロダンのアレだ。


 昨夜、まだ健在だったプリムローズさんに教えてもらって、俺もここの『おトイレ』に入ったな。……イヤ、プリムローズさん、まだ死んで無いけど。


「行って来てもいいんだよ」

「……あた、いい」


 ミーヨが優しく言ったら、恥ずかしそうに否定してる。

 とりあえず、俺も今は、そこには用は無いし、ミーヨもきっとそうだろう。


「陛下は特段お変わりありませんでした。お付きの方によれば『いつもの事』だそうです」

 『巫女見習い』で『癒し手』でもあるヒサヤが、俺たちに合流して、そう報告した。

 オオババちゃんの様子を診に行ってくれてたらしい。


「『亡霊の声』の実験で、すっごい驚いたらしいもんな」

 前回みたいにチビらなかったかな? ちょっと心配。


「……(赤面)」

 ん? なんかミーヨの顔が赤い。一体どうしたんだろう。


「あちらも本気で寝ちゃってるみたいです」

 姉の第三王女ラウラ姫の様子を見守っていたドロレスちゃんが、そう報告する。


 過度なストレスやショックを受けると、突発的に寝てしまうオオババちゃんこと『先々代(さきのさき)の女王陛下』にシンクロしたのか、ひ孫のラウラ姫まで寝ちゃったのだ。


「……(すやすや)」

 大きな長椅子で、小柄なラウラ姫が寝てる。

 こうなるともう、一打点(約1時間半)は、絶対に目を覚まさないんだよな。困った。


「一度、外に出ない? 実はわたし……窓から見たの」

 ミーヨが、妙に深刻な感じで言った。


「窓から見た……って何を見たんだ?」

「う、うん。あるハズのものが……無かったの」


 少し怯え気味だ。

 断っておくけど、ホラー展開とかはやめてよね。でも真昼間だから、ソレはないか。


      ◇


 外に出ると、日差しが眩しい。

 大玄関を出ると、かなり広い駐車場的なスペースだ。馬車用のだけど。

 東には、『王都大火』の焼け跡を隠すための「目隠しの壁」がそそり立っている。

 ミーヨは、その向こう側の「何か」を、『音の宮殿』の劇場部分の3階で御手洗(みたらし)……イヤ、見たらしいのだ。


 俺も実は同じ通路を歩いてた時に、「ある物」を見つけた。


 それは『冶金の丘』の『代官屋敷』にもあった『王都大火』を教訓に設置された火災時の緊急脱出装置だった。

 色々と脇道に逸れそうだったので黙ってたのだ。

 またな、「滑り台ごっこ」されても、かなわんな思て、黙っててん。

 うん。俺の似非(エセ)関西弁も、だいぶ板についてきたかな?


 それはそれとして、振り返って、その出っ張り部分を探してみたけど、建物の外観に巧妙に溶け込んでいて、見つからなかった。


「と、びーら、どこーら」

「あっちだよ。セシリア」

 セシリアと、その姉貴分のミーヨだ。

 ここは異世界なのに『地球』のインダス文明の遺跡「ビーラドーラ」があるらしい……って「扉、どこらへん?」って言ってたかな?


 って、『扉』? はて?


 「壁」は、強度を増すためのがっちりとした「支え壁」によって分割されていた。


 別に巨人の襲来に備えてるワケじゃないので、そんなには高くない。あくまでも「焼け跡」を隠すための「目隠しの壁」らしい。

 そのいちばん端の区画の壁に、『王都大火』の犠牲者に花や供物を奉げるための凹みがあって、今日も花があった。

 昨日俺たちが奉げた淡い水色の花と、さらに黄色い花だった。


 『音の宮殿』の維持管理は、オオババちゃんの侍女軍団からラウラ姫の侍女軍団に押し付けられてしまっているので、「ウチの子」の誰かが花を手向(たむ)けたんだろう。

 ドロレスちゃんに同行して『王都』にまで来たマルカさんとジリーさんかもしれない。

 彼女たちは元々『王宮』で働いてたって聞いてるし、『大火』で知り合いを亡くしてるのかもしれない。


 でも、ミーヨかな?

 昨日もお花摘んでたし……ここ『東の街区』には、かつてミーヨの父親の広大な邸宅があって、『王都大火』はそこを火元として、街区すべてを炎の赤い舌で舐め尽くしたらしいのだ。

 それをいちばん気にしているのは「ウチの子」たちの中で、ミーヨ以外にいない。


「じゃあ、見てみようか?」

 壁の凹みの前で、ミーヨが言う。

「見るって?」

「だから、この壁の向こう。扉の鍵は預かってるんだ」


「扉ってコレか」

 俺の勘違いだった。

 『王都大火』の犠牲者に花や供物を奉げるための凹みだと思っていたのは、「目隠しの壁」についてる「扉」だったのだ。


 普通の、人間用の扉よりも確実に大きい。

 と言っても馬車ごと入れるような「大扉」ってワケじゃない。

 なんか中途半端で、奇妙な大きさで、扉だと思えなかったのだ。

 向いてる方向は、『大火』の焼け跡のハズだから、なんかの資材搬入用とかじゃないと思うんだけどな。なんだ、この扉?


 でも、それよりも――


 ミーヨが心配だ。


「いいのか? 見ても平気か? 無残な焼け野原が広がってるんじゃないのか?」

 いつかみたいにショックで気を失うとか……もうあんな姿は見たくない。


「平気。色々と覚悟は出来てるし、上からはもう見たの。今度のは、その確認」

 強がりじゃなさそうだ。

 躊躇(ためら)いなく、鍵を差し込んで、開錠してしまった。


「みんな、押して!」


「「「「えいっ!」」」」


      ◇


 ――で、繰り返しになるけど。


「「「「……なにここ?」」」」


「はら、っぱー」


 ここは異世界なのに『地球』のインダス文明の遺跡「ハラッパー」があるらしい……。


 イヤ、扉の向こう側は、緑の草原だった。


 原っぱ、だ。

 猫耳奴隷セシリアは、そう言ってたのだ。


 だだっ広い草原だ。

 と言っても、実際には左右(方角的には南北)共に、建物に突き当たって終わってるので、見渡す限りの大草原ってワケじゃない。

 区切られた土地が、すべて緑の草におおわれているので、「原っぱ」なのだ。

 でも、正面。方角で言うと、東の方へは、果てしなく草っ原は続いてる。


 そして、遠くに生き物がいる。

 馬とか、牛だ。あとは羊。かなり遠くに点々といる。

 ぜんぶ『地球』由来の哺乳類・偶蹄目だ。


 ここは『女王国』最大の都市『王都』のど真ん中なのに。いったいなんなんだ?

 なんでいきなり、こんな場所に出たんだ?


 『王都』は『永遠の道』の『大交差』で、X字形に分断されてるけど、『道』沿いを除いた『東の街区』のほぼ全域が、緑の原っぱになってる感じだ。ず――っと東に続いてる。それこそ地平線の彼方まで続いてる。『街区』って言われても、建物は何も無い。草っ原だ。イヤ、生き物がいるんだから、牧場なのかもしれないけれども。


「「「「…………」」」」


 みんなして、ちょっと呆然とする。

 都会の真ん中で扉を開けたら、緑の草原が広がってたのだ。びっくりするよ。コレ。

 『どこでも○ア』か……なんかのドッキリみたいだ。


「……ぼそぼそ(やっぱり……建物がひとつも無い)」

 小さな呟きを漏らしたのはミーヨだ。

 さっき言ってた「あるハズのもの」って建物の事だったのか。


 不意に――


「小僧。何をしておる?」

 背後から声を掛けられた。目を覚ましてたのか。

「ここって何なの? 『王都大火』の跡なんじゃないの?」

 振り向いて訊ねる。


「ここは『大馬場(おおばば)』ぞ」

 声の主、オオババちゃんが言った。


大馬場(おおばば)?」


 イヤ、俺の『脳内言語変換システム』が、そう日本語を表示してるだけで、『先々代(さきのさき)の女王陛下』がダジャレを言ってるワケじゃないとは思うんだけど……。


      ◇


「『大馬場』とは王立放牧場の事にございます。『王宮』の『典厩(てんきゅう)部』が管理する地にございますが、何分(なにぶん)広すぎて使いきれず、今は『馬蹄(ばてい)組合』ならびに『お肉連合会』にも開放されております」

 主人の(そば)なので、ずーっと年下の俺たちにも、言葉遣いが丁寧だ。


 長い説明セリフは、オオババちゃんの筆頭侍女メ○ロブライアンさんだ。イヤ、もうお名前忘れてて、完全に原型とどめてねー。関係ないけど、日本の競走馬に俺が密かに敬愛するル○ーシュ様と同じ名前の馬がいたな……。今、不意に思い出したよ。


 そんで『馬蹄組合』は馬車用の()き馬を貸し出すところだから、俺たちもお世話になったし、知ってるけど……他のふたつはなんなんだ?


 特に『お肉連合会』て。

 額に『肉』と書かれた俺様としては、不愉快極まりないぞ。

 そんで『典厩(てんきゅう)部』って、アニメ『て○きゅう』とは関係ないだろうしな。

 俺は今、一応、やむを得ず、仕方なしに服を着てるから「棒の部分」は隠れてるし。


 でも『典厩(てんきゅう)』って聞いた事ある気がする。

 日本の戦国時代の武将的な……騎馬軍団で有名な甲斐(かい)武田家に。もちろん声優の武田(たけだ)理沙(りさ)多胡たごさんとは無関係だとは思うけど……多胡って九州の鍋島家の分家にあったような……。


 俺の思考が暴走する一歩手前で、口を開いたのは、

「ここには……『東の街区』の焼け跡があったんじゃないんですか?」

 ミーヨだった。


 ラウラ姫の第六侍女に偽装してる関係上、オオババちゃんじゃなく、その筆頭侍女に訊ねてる。

 でも、回答者はオオババちゃんだった。


「『大火』は12年も前の事ぞ。いつまでも焼け跡のままであるハズがなかろう」

 人を小馬鹿にした言い方だ。


 俺はともかく、『俺のチョロイン』に対して、なんて口の利き方だ……()ったろか?


「ぺったら、こい」

 猫耳奴隷セシリアだ。

 「蹴ったら、恋」? サッカー・ラブコメかなんかか?


 イヤ、ソレたぶん「人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られろ」が正しいんじゃ?

 てか、「蹴られて恋に落ちる」って、どんなドMだよ? ホントはなんて言ったんだろ?


「真っ平ら、だそうです。お兄様」

 いつもセシリア(10歳)の言葉を意訳してくれるヒサヤ(11歳)が、何かの秘密を告白するみたいに小声で教えてくれた。


「……(こくん)」

 俺はそれに対して、素直に頷いた。ヒサヤの(げん)に、全幅の信頼を寄せているのだ。

 でも、毎回毎回どうやって理解してるんだろう? 謎は謎だ。


「だからって、こんな真っ平らにするものなんですか?」

 ドロレスちゃんだ。


 確かに、街や建物の痕跡がまったく無い。

 すべて撤去されて完全に真っ平らな更地(さらち)にしたところが、何年か放置されたために、草地になったような印象だ。

 てか、ドロレスちゃんもラウラ姫の第七侍女に偽装してるのに、オオババちゃんに直接訊いちゃったよ。怒られても知らないよ?


「なんぞ、下らぬ思惑(おもわく)があって、今上(きんじょう)の側近がそうしたようだ」

 何かに(いきどお)りを感じてるようだけど、それは俺たちの事じゃないようだ。

 昨日も取り巻きの侍女軍団の人が何か言ってたけど、現在の女王陛下の近辺と、そりが合わないらしい。面倒くさそう。


 そして……その「思惑」って「何かを探すため」なんじゃねーの?


「……」

 ヒサヤが、じっと緑の草っ原『大馬場』を見つめてる。


 何かに思いを()せているようだけど……と思ったら、

「騎馬が一騎。こちらに向かって来ます」

 明瞭な声で、そんな事を報告した。

 なんか聞き覚えのあるセリフだ。まあ、定型文みたいなものだけど。


      ◇


「『近衛騎馬隊』の者です。訓練の最中でしたが、扉が開き、人影が見えましたので、確認に参りました」


 女性は、馬から下りて、丁寧に一礼した後、そんな事を言った。説明文だ(笑)。


 きりりとした表情の、綺麗な黒髪のお姉さまだった。

 前に『永遠の道』で『道の警備隊』って言う騎馬の交通機動隊みたいな人たちを見た事あるけど、そんな感じだ。

 服装は『地球』の乗馬服に似てる。薄い布地でお胸の部分がくっきりしてるよ。パシャっとな。


「ご苦労。不審に思うような事ではないぞ。未来ある若人(わこうど)たちに、先人たちの愚かさを見せておっただけぞ」

 オオババちゃんが言って、皮肉な表情で笑った。


「……左様でしたか……(びくっ)」

 なんかビビってる。

 この人、オオババちゃんが実は『先々代(さきのさき)の女王陛下』だと知ってるみたいだ。


「……(じーっ)」

 イヤ、俺を見て、びっくりしたんだな。ガン見されてる。なんだ?


「プロペラ小僧さま?」

「そ、そんな名前の人は知らない」


 俺は彼女から視線を()らせながら言った。

 イヤ、2度目だよ、コレ。『エロ○ンガ先生』だよ。

 俺が言っても、可愛くない、って何度言えば分かんだよ(怒)。


      ◇


 結局、いろいろ有耶無耶になってしまった。


 さっきの女性は、特になんでもないと分かると、颯爽と騎乗して、さっさと行ってしまった。

 その様子を見ていて気付いたけど、例の扉は、馬に乗ったまま出入り出来るような、微妙な高さにしてあるっぽい。


 いい機会なので、俺がオオババちゃんに色々訊こうとしても、侍女軍団に邪魔されて、何も訊けなかった。


 ミーヨは平静だ。

 ある程度予想していたのかもしれない。

 ドロレスちゃんもヒサヤもセシリアも、なんか黙り込んでる。

 それぞれに、何か思うところがあったのかもしれないけれど、みんなしばらく無言のままだった。


 建物の中に戻ると、ラウラ姫はマルカさんとジリーさんの手によって、寝室に運ばれてしまっていた。

 姫の事だから、そうなるともう夕飯までは目を覚まさないかもしれない。そういう子なのだ。


「では、わたしも『神殿』に戻ります」

 11歳の『巫女見習い』のヒサヤも、『全知全能神神殿』にご帰還か。


「ご苦労様。わざわざありがとうね」

「あ、一人で帰れる? 送ろうか?」

「あ! あたしが送っていきますよ」

「あた、も、にく」

 『肉』? ソレ、もうやめて。泣くよ。


 12歳のドロレスちゃんと10歳の猫耳奴隷セシリアが送っていく事になった。

 なんかほほえましい光景だ。

 ドロレスちゃんはどこからどう見ても、12歳には見えないくらいハイティーンな感じなので、年の離れたおねーさんぽいけれども。


 『巫女見習い』のヒサヤはともかく、ドロレスちゃんも何か『神殿』に用があるらしく、二打点(約3時間)は戻らないらしい。

 『冶金の丘』にいた時も、『神殿』に通っていたらしいし、時々悪女を気取るわりには、意外と「信心深い」のかもしれない。

 さらにセシリアも『神殿』に知り合いがいるらしい。ヒサヤに付き添われて会いに行くらしい。まったく事情が分からないけど、あとで機会があれば話してみようと思う。


「「気をつけてね」」


「「「あーい!」」」


 ヒサヤまで一緒になってセシリアの真似してる。いいけど。

 そんな3人を見送った後、


「「……」」


 俺とミーヨは、なんとなく二人で見つめ合った。

 なんか流れで二人きりになってしまったよ。

 とすると、やる事は……。


「なあ、ミーヨ。人目に付かない二人きりになれる場所って知らないか?」

 訊いてみた。

 昨日から、みんなの部屋の掃除とかしてたようだし、俺よりも『音の宮殿(ここ)』に詳しいはずなのだ。


「……こっち」

 ミーヨは恥ずかしそうに立ち上がり、俺の手を引いた。


      ◇


「こちらです。ジン様」


 芝居がかった調子で案内されたのは『音の宮殿』の劇場部分。

 「茶番劇」の舞台だった舞台脇の、もともとが「出演者待機所」という一室だった。

 ラウラ姫の『宮殿』は、本来は「歌劇場」だったそうで、こういう部屋があるのだった。

 そこは、なんかしらないけど客用の寝室みたいになっていた。


 真ん中に、でっかい寝台(ベッド)がある。


 うーむ。なんか勘違いされたかな?

 まあ、いいか。


 案内してくれたラウラ姫付きの侍女が、一緒に室内に入って来て俺に抱きつき、

「……(むちゅっ)」

 大胆にもキスをかまして来た。


 てか、実は侍女に変装してるミーヨなんだけれども。


「……待って、ミーヨ」

 俺は彼女を無理矢理引きはがした。ちょっと力が必要だった。


「えー……なんで? ここが姫ちゃんの『宮殿』だから?」

 ミーヨは哀しげに、潤んだ瞳で、俺を見た。


「イヤ、『お願い』があるんだ」

「おねがい?」

「うん、実は……」


 ちょっと躊躇(ためら)うけど、勇気を出すんだ、俺!


「たしか、お前のとーちゃん『ドM』で、『ドS』の俺の母親に攻められてらしいな?」


 なんかの話の流れで、そんな事を聞いた覚えがあるのだ。

 もっとも『この世界』に、SとかMとかの概念を持ち込んだのが誰なのかは不明だけれども。

 たぶん、地球の記憶を持つ「転生者」だとは思うんだけどな。


「う、うん。わたしも聞いた話なんだけど……お父さん、『王都大火』の事で自分を責めてね。『自分が悪いんだ。オレのせいなんだ』って言ってるうちに、精神こころの安定が保てなくなったんだって……」

 ミーヨが今まで一度も話さなかった事まで話してくれた。


 『大火』の火元として、いろいろと酷い事言われたんだろうな……。


 そうだったのか。

 ()もまた『大火』の被害者じゃないか。


「でも実際に肉体的な痛みを感じると、精神が落ち着くらしくて、それでわたしの乳母で、いつも近くに居たジンくんのお母さんに頼んで、いぢめてもらうようになって……。鞭とか縄とか……あと物理的な事だけじゃ物足りなくなって『変態』とか『豚野郎』とか『ク○虫』とか罵られるのも大好きになっちゃって……」


 …………大好きになっちゃったか。

 うん。いろいろと台無しな展開だな。


 まだ、ちゃんとは会った事ないけど、俺の母親ってミーヨの元・家庭教師でもあったらしいんだけど……なんなんだろうな、それ。


「じゃあ、お前もある程度はそういうの知ってるわけだな?」

「うん。ある程度は……」

 ミーヨは恥ずかしそうにしてる。


「それで、そんな風に俺を……俺をイヂめて欲しいんだ!」

「うええっ?」


 それ、やめろってば。


      ◇


 俺はミーヨに事情を説明した。


 昨日の『ヘビアタマの翼竜』とのバトルの後に、『大交差』で思いついた事を、試してみたいのだ。


 すなわち、「ミーヨの攻めで『★不可侵の被膜☆』の発動を阻止し、その隙に普通の『魔法』を使ってみーよ作戦」だ。長いよ。


 そのために、俺はM役となり、ミーヨにはS役を担当してもらう事になるのだ。

 ミーヨは根が「思いやりのある優しい子」なので、S役を嫌がるだろうけれども、実験のためと称して(イヤ、ホントに実験だってば)せがんでみようと思っていたのだ。


 ここはラウラ姫の『音の宮殿』なので、その『(いと)(びと)』として、ずっと姫と一緒の寝室になるかもしれないので、なんとかミーヨと二人きりになれるオポチュニティーを狙っていたのだ。


 イヤ、この場合の「機会」は「チャンス」だな。

 とにかく好機到来なのだ。せっかくのチャンスを活かさない俺様ではないのだ。


      ◇


「実験……あくまでも実験なんだよね?」

 ミーヨがぽつんと言った。やたらと恥ずかしそうだ。

 実はさっき、オオババちゃんの実験で、ちょっと恥ずかしい思いをしたらしいしな。

 よく知らないけど。


「おう」


 ドキドキ。


「うー……分かった! じゃあ、行くよ」


「お、おう」


 ワクワク。


「この変態! 豚野郎! ク○虫が!」


 ミーヨは俺を(ののし)り終えると、真っ赤になってうつむいてしまった。


「うー……恥ずかしいよう」


「イヤ、ミーヨさん。なかなか良くて、思わずゾクゾクしたけれども……言葉攻めじゃないんだってば!」

「うええっ?」


 ちょっと可愛い感じの「音波攻撃」で、どうやって俺様の『★不可侵の被膜☆』を破るつもりだったんだ? この子は?


「はうっ。恥ずかしいよお」

 寝台に倒れこんで、ジタバタもがいてる。


 ミーヨが立ち直るまで、TVアニメAパート分くらいの時間が必要だった。12分くらいかな?


      ◇


 立ち直ったミーヨが、今度はムチを構えている。


 彼女は『★痺れムチ☆』とかいう『護身魔法』を使うからか、なんとなくサマになっててカッコいい。


 素敵です! ミーヨ様!!


「じ、じゃあ行くよっ。えいっ!」


     ふにゃ。


 ミーヨの一撃が無効化された。

 実験用に持ち込んでいた『俺の馬車』の馭者台にあった長めの黒い革鞭が、俺の胸に音もなく張り付いた後、するんっ、と下に垂れたのだ。


「あれ? これが『★不可侵の被膜☆』? こうなるんだ、へー……ふしぎ。ナニコレ?」

 今更ながらに驚いてる。

 ちゃんとは見た事無かったんだっけ?


「あー、やっぱり、あいだに道具とか器具を挟むとミーヨでもダメなのか? やっぱ素手だな、素手で直接叩いてくれ! 頼むっ!」


 残念だが期待外れ……イヤ、残念でも期待外れでもないよ?


「えー……でも……顔とかは無理だよお。痛そうだもん」

 ミーヨが躊躇(ためら)う。


「じゃあ、お前のとーちゃん……まあ、俺の義理の父親だけれども、俺の義父上はどこを攻められるのが好きなんだ?」

「うーん、たぶん……お尻かなあ」

「え? *か?」


「ううん、*じゃなくて、『ぺた』の方……って、ジンくん、何てこと言わせるのっ!」

 真っ赤だ。

 恥ずかしさが退()いた後も、色が抜けきらずにピンク色に残りそうなくらいに真っ赤だ。


「よし、じゃあ、ほら!」

 俺は女王様が叩きやすいように、姿勢を変えた。


 orzの姿勢だ。


 『この世界』で目覚めて、これで何回目だろう?


 『オズの魔法使い』ってあるけど、俺は『orzの錬金術師』だな(笑)。


「……あ、あのね、ジンくん。まっすぐ向けられると……いろいろ見えるから」

 そっか、剣・玉・鏡の『三種の神器(?)』が丸見えだもんな。イヤ、他の二つはともかく鏡ってなに?

 俺様のツルツルスベスベの『ぺた』か?


「ん? あっ!」

 不意にミーヨが短い悲鳴をあげた。


「どした?」

「これ! これだよ!!」


 ミーヨが叫びながら、俺様の桃のようなお尻(イヤ、見た事ないけど)を両手で掴んで、ぐいっ、と左右に開いた。


「はううう」


 な、なんてことすんねん。


「うん、これこれ」

 ミーヨが嬉しそうな声を上げている。


 お前、今、俺の「*」をガン見しとるやろ?

 俺も普段ミーヨの「(アイ)」……イヤ、ミーヨが俺に向けた「愛」は見てるけれども。


「ジンくん、見つかった!」

 ミーヨが感極まったように叫んだ。


 ナニが? ナニが見つかったんだ?


「わたしの……わたしたちの家の家宝の、『(あか)い卵』の話憶えてる?」

 なんか泣き出しそうな声だ。


「ああ、もちろん。お前、ずっと探してるっぽかったし」


 それと俺様の「*」に、どんな関係が……?

 ちなみに『地球』のインダス文明には、「*」を「○」で囲んだような文字がある。どんな意味かは知らないけれども。


「丸くてつるん、とした卵のカタチの赤い石で……」

 震える声で、ミーヨは言う。


「そして真ん中に……こんな模様が入ってたの! 祈願。★描線☆」


 ミーヨが『魔法』で空中に描き出したのは――


 「*」の形だった。


「それで、わたしのお爺ちゃんは、その模様のことを『星』って言ってた!」

 ミーヨが叫んだ。


「あ、なるほど! 『スター効果』がある卵形の赤い宝石が……オ・デコ家の家宝『(あか)い卵』か!」


 『宝石』の中に、愛想の悪いお医者さん……イヤ、『ルチル』が入ってるヤツを……丸く半球形にカットすると、そういう風な光の効果が出るってヤツだな。


 『アスタリズム効果』とも呼ばれる『スター効果』か……。


 でもって赤いなら、それは『ルビー』で間違いないはずだ。

 同じ赤い色のガーネットにも『スター効果』は出るはずだけど、たしかカタチが違うはずなのだ。


 『冶金の丘』での『王家の秘宝』探しで、ルビーもガーネットもルチルも、俺が直接「見て」「触った」から、『錬成可能アイテム・リスト(実際にはない架空のリストだけど)』に追加されてるハズなのだ。


 だから、錬成(つく)れる。


 ただし……近くに原材料となる『元素』があれば――だけど。


 ダイヤの原材料の『炭』なら、わりとカンタンに入手出来るけど、ルビーの原料に成る「アルミニウム」はほとんど出回ってなくて、入手出来ずにいたのだ。


 でも『王都』までの旅の途中に、『巫女選挙』の投票券『銀の円盤』が、『この世界』では「軽い銀」と呼ばれているアルミニウムだという事が判明している。

 ご都合主……イヤ、好都合な事に、その『巫女選挙』はもうすぐ開催される。


 いろいろと、物事ってのは繋がっているみたいだ。


「……ジンくん、知ってるの?」

「おう! 任せとけ! 俺が知ってるヤツだったよ」

 俺は力強く請け負った。


「……そっか、よかった」

 ミーヨが涙を拭くみたいに、俺の『ぺた』に頬ずりしてる。


 ってこら。

「ありがとう。ジンくんの……」

 イヤ、待て。どこに感謝してる?


 しかしまあ、よりにもよって、俺様の*を見て、そんなめっちゃ大事な事を思い出すなよ……。


 あと、なんで男のクセにそんなに『宝石』に詳しいんだ? と言われそうだけど、俺はアニメの『宝石○国』が好きで、その頃いろいろと『宝石』についてネットで調べた記憶があるのだ。


 「愛想の悪いお医者さん」も『宝○の国』がモトネタなのだ。


 『宝○の国』と言えば「ダイヤモンドは(かや)愛衣(あい)」(※敬称略)なのだ!


 …………イヤ、ほら、アレですよ。


 『ジョ○ョの奇妙な冒険』に『ダイ○モンドは砕けない』ってあったじゃないですか?

 それの「砕けない」と「ダイヤモンド」役の声優「茅野(かやの)」さんをですね……。


 まあ、誰でも思いつきそうなアレなんで、もう既に誰かが何処かで言っちゃってるかもしれないんですけれども、えー、今回のこの件に関しまして、釈明をさせていただきますとね。


 だって、○さんって、声可愛いじゃないですか? 歌もうまいじゃないですか? もう一人のヒロインが酷い仇名の名作ではメイン・ヒロインの幽霊役だったじゃないですか? あと『俺の彼女と幼な○みが修羅場すぎる』では、同じお名前の「愛衣(あい)ちゃん」役を演じてらしたじゃないですか? それで『○修羅』の主人公とツンの方のヒロインって凄い『ジョ○ョ』好きで、しかも第4部推しだったじゃないですか? 『ノー○ーム・ノー○イフ』では「  」の○役で、お兄さんの○が「だが断る」ってやってたじゃないですか?

 ま、はっきり言って『宝石○国』では「ダイヤモンドは砕け○○」んですけどね。

 釈明長いな。読み飛ばしてね、ここ。

 ですからですね……。

 …………。

 ……。


      ◆


 どう言い(つくろ)おうとしてもダメな場合もある――×(ばつ)



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