073◇音の宮殿
「おはようございます。お兄様」
朝起きて、食堂に来てみたら、そんな事を言われたよ。
なんか「劣等生」とは名ばかりの、イケメン無敵主人公になった気分だ。
身だしなみのために、ついさっき鏡見たけど、俺、全然サッパリこれっぽっちも欠片も似てないよ?
俺にそう言ったのは、長い黒髪の妹――じゃなくて、淡い金髪でライトブラウンの瞳の、小学校高学年くらいの女の子だった。
「おはよう、ヒサヤ。……なんでここに?」
小さな、11歳の『巫女見習い』ヒサヤだ。
『音の宮殿』とは「お向かい」の『全知全能神神殿』に泊ったはずなのに。
「はい。『癒し手』として参りました。プリマ・ハンナ様が、頭痛が酷いそうで」
「プリムローズさんが?」
ひょっとしてアレかな?
俺が華麗に咲かせた『白い花』(笑)の記憶を消すために、自分自身に『記憶消去』の『魔法』をかけたあげく、気を失ってカベに頭突きした時のダメージが出たのかな?
「夜中からおでこの辺りが凄い痛かったんだって」
ラウラ姫の第六侍女に変装してるミーヨが言った。
実は彼女は「ミーヨ・デ・オ・デコ」という名の、高位貴族のご令嬢だ。
「壁に頭突きでもしたんですかね?」
ラウラ姫の第七侍女に変装してるドロレスちゃんが言った。
こっちも実は元・第七王女で、名前にDの音が入る貴族令嬢で、真名は「ドロレス・ヅ・ツキ」さんだ。
「……頭突き?」
てか間違いなく、俺が華麗に咲かせた『白い花』の記憶を消すために、自分自身に『記憶消去』の『魔法』をかけたあげく、気を失ってカベに頭突きした時のダメージが出たんだな(笑)。
あの直後は何とも無さそうだったし、昨夜も『見届け人』として……イヤ、そんなんはいいとして、時間が経ってからダメージが出るとか……逆にヤバくないか?
「それで、大丈夫だったの?」
心配だったので訊いてみた。
「はい、痛みは退かれたそうで、休んでおられます」
ヒサヤの落ち着いた様子を見ると、大丈夫そうだ。
「そっかー、それなら良かった」
一方、そのプリムローズさんの主人のラウラ姫は――
「……んぐんぐんぐ」
ミルクを壺でグビ飲みしている。
『この世界』では「牛乳を飲むと背が伸びる」と言うのは迷信らしい。
あと「寝る子は育つ」と言うのは、成長ホルモンがどうとかで、科学的根拠がある事実らしいのに、姫を見てる限りでは信じ難い。絶対ウソだろうって気がする。
飲み終えると――
「……ぷっはー!」
鼻の下に、見事な白い「おヒゲ」が出来てた。
まだ『王都』到着翌日のせいか、ウチの侍女さんたちも色んな体勢が整ってないみたいで、食事はカンタンなものだった。パンじゃなくて薄いクラッカーが食卓に上ってる。保存食みたいだ。あとは夏らしい色彩豊かなフルーツの「船盛り」がある。
「……だとすると、今日の予定はどうなってるんだっけ?」
「あー……うん、どうだっけ?」
「あたしは聞いてないです」
「……そっかー」
居ないと困るのだ。
スケジュール管理は彼女の仕事なのだ。
居ないと、物事がいろいろと詰んじゃうのだ。
みんなして雑多な事全部を、筆頭侍女さまに丸投げだったのだ。
もう、筆頭侍女じゃなくて、アニメの「制作進行」みたいな人なのだ。
ただし、宮森さんじゃなくて、どっちかと言うと矢野さんぽい人なのだ。
ただし、あくまでもどっちかと言うとであって、そんなには似てないのだ。
赤毛だし……髪の毛は○かちゃんみたいなのだ。
そんで、ず○ちゃんは「制作」じゃなくて「声優」なのだ。
そんで、○かちゃん絡みで、ラスト付近では二度も大泣きさせられたのだ。
友を思って流す涙は、美しいのだ。
……って『SHIR○BAK○』の話は置いといて。
今日のスケジュールが真っ白だ。変な話(※引きずってるぞ)。
◇
「うむ。では、まいろう」
先導はラウラ姫だ。
筆頭侍女が結石……イヤ、欠席してるせいか、なにやらのびのびしてる。
いま現在、滞在している『音の宮殿』の中を、みんなで散策してみる事になった。
姫に従う面々は、俺とミーヨとドロレスちゃんと猫耳奴隷セシリア。そしてヒサヤも居残りでそのまま加わった。
次郎氏は、出掛けて留守らしい。手紙貰ってたし、ロザリンダ嬢にでも会いに行ったのかな?
マルカさんとジリーさんは、真面目にきちんとメイドとしてのお仕事をしてるらしい。ちょっと申し訳ない。
あと「六本指の猫」茶トラ君は、大食堂は「出禁」らしく、廊下の休憩用の長椅子の背もたれの上(狭い)で寝てた。
彼は昼間は寝てる事が多いので、そのままでいいか。
プリムローズさんは『音の宮殿』の事を「鉤型(L字形)」と言ってたけど、そのカドは大きく「アール」を描いている。
L字の角の部分が、まんまるい「円形劇場」みたいになっていて、そこから細長く「両翼」が伸びてるので、上から見ると「トーションばね」に似てるハズだ。
難解な例えだけど、大きいクリップとかの中に入ってるヤツだ。90度に開いてる。
「右の翼」は、さっき居た「大食堂」。
「左の翼」には……何があるんだろう? まだ確認してない。
それはあとで探索してみる事にして、とりあえず真ん中の丸い「歌劇場」に向かっている。
真ん中の「歌劇場」部分には、劇場を取り囲むように舞台出演者の控室がたくさんあるらしい。
そこの2階と3階には、VIPが陣取るためのボックス席があって、昨日オオババちゃんが入って『亡霊』と化した……イヤ、『亡霊』と勘違いされた貴賓客用の『おトイレ』も、そこらへんにあるらしい。
しかし、俺様の大活躍で、ここに巣食っていた『亡霊』は退治したし、中は安全だろう。でも……でも、やめとこ、下品だし。
とにかく、もう恐怖に怯えて、スク水……イヤ、竦み上がる事もないのだ。
ところで、リアルタイムでもリアルでも見た事ないけど、「旧スク」ってどんなん?
ザ○とは違うのかな? ○クとは。
もしかするとこのネタ。誰かが既にやってるかもしれないな……したら、ゴメンね。
……また「変な話」になってるな。
えーっと、何の話だっけ? あ、『亡霊』だ。『亡霊』。
『音の宮殿』は、もともと王立歌劇場として建設されたらしいけど、その「こけら落とし」で起きた『亡霊の声』騒ぎで、6年間ほど放置され、閉鎖されていたそうだ。
それをラウラ姫が、16歳の成人の祝いとして、この春に下賜されたそうなのだ。
その、しょーもない『亡霊』も、俺様の……イヤ、正直に言うと、たまたま知り合いになったメロンのようなお胸をした『巫女見習い』クリムソルダ嬢から聞いた話をヒントに、さくっと「退治」しちゃったし、ここは女王陛下に返上する事になりそうな気配なのだ。
ここには定住する事もなさそうだし、逆に近いうちに退去する事になりそうなので、今のうちに中を見て回ろうという事になったのだ。
――ひま潰しに。
「迷わぬようにな」
俺たちはともかく、姫は数十日以上ここで暮らしていたらしいので、迷うことなく、スタスタ進んで行く。
てか長い直線の廊下を、だけど。
実は俺は、長い直線をまっすぐに歩くのが苦手だ。
女神『全知神』さまから貰った右目の魔眼『光眼』は、色々と便利は便利だけど、元のまんまの左目との視力のバランスが悪くて、何も考えず直進しようとすると、最終到着地点が必ずズレるのだ。
なので、歩きつつ補正する必要があったりする。
でもラッキース……イヤ、様々なスナップショットを、カメラ無しで任意に手軽に撮影出来るんだから、贅沢は言えないか。
◇
「そう言えば、昨日のアレって、どうやって抜いたの? やっぱり、手で?」
劇場内に入るなり、ミーヨにそんな事を言われた。
「えっ?」
いろいろと身に覚えがあった(笑)ので、ナニを指して言ってるんだろう? と一瞬焦ったけど、場所的に俺様の「縄抜けの奇術」の事だろうな……あー、びっくりした。
昨日ここでは、舞台上では侍女軍団の「茶番劇」が。
そして、客席側では俺様の「縄抜けの奇術」と言うか正確には「骨抜きの錬金術」が行われたのだった。
その後に『ヘビアタマの翼竜』とのバトルがあったので……俺自身もなんか印象薄いけど。
「見せようか?」
「もー……えっち」
イエス・アイ・ドゥ!
それは後でするとして、俺にはここで見てみたいものがあるのだ。
ここはようするに、「劇場」なので「舞台」と「客席」があるだけだ。
客席がズラリと並んでて壮観だけど、ぶっちゃけそれだけだ。面白味はない。
それよりも、ここの吹き抜けの壁面だ。
『前世』では、まったく縁のなかったVIP席が見たいのだ。
ここは異世界だけど『地球』の「オペラ座」とかにあるように、一般用の客席を取り囲む壁面に、3階建てのVIP用のボックス席があるので、自由に出入り出来る今のうちに、見ときたいのだ。
で、どこから昇るんだろう?
「昇降機ですね」
ドロレスちゃんがさくっと言う。
『この世界』にも「エレベータ」があるわけか。
案内されて行ってみると――
それは「劇場」の外に有った。
L字形の「左の翼」の根元にあたるところだ。
「これがグルグル回るんです。『プロペラ小僧』のお兄さんにぴったりですね」
いかにも異世界な謎仕様の「昇降機」だった。
なんで、こんなものがここに?
それは完全に――
「観覧車やん!」
小型の観覧車だったよ。建物の中なのに。
まあ、小型つっても3階分の高さを昇るわけだから、それなりにデカかった。
でも、某劇場版みたいに、転がして遊べる(?)ほどの大きさではなかったよ。
ただ、形状が変わってる。
観覧車に「風車」と「外輪船の外輪」を合わせたような構造だ。
あきらかに「翼断面」をした構造板が組み込まれている。
『魔法』で風を送って、空気力学的に動かしてるっぽいな。
「……なんで、こんなカタチしてるの?」
ミーヨがドロレスちゃんに訊ねてる。
「丸い輪になってると、なんとなく安心だからじゃないんですかね?」
そんな風な説明をされた。
「エレベーター」って、滑車でウェイトの上げ下げしてるんだっけ?
井戸の釣瓶みたいに下まで落ちて叩きつけられるような事が無いように、利用者の「安心感」に配慮されてるらしい。知らんけど。
「うむ、いざ」
4つしかないゴンドラのうちのひとつに乗った。
中は狭くて、座席が無くて、立ち乗りだったよ。
「祈願! 回転っ! あ、あれ?」
「あ、こーです! 祈願。★上へまいります☆」
やっぱり『魔法』で動くヤツだった。
そんで、その「発動句」はなに?
ギシ、ミシミシミシ――
すごく軋んだ。かなり揺れた。なんか整備不足っぽかったよ。
もしかして定員オーバーだったかもだけど。
「「「きゃっ!」」」
視覚的には特に何もなかったけど……肉体接触系のラッキースケベ・イベントが発生したよ。
つっても、観覧車の中でチン○ンに骨があるか確かめられたワケじゃないよ?
これ、モトネタは『ハイス○アガール』だよ。
そんで、みんなは骨が無いのを知ってるよ。
俺がいつもグルグル振り回して見せてあげてるからね(※それ、セク○ラだよ)。
ぶつかって、ごっちんこ! となっただけだ。これ、セーフだよね?
残念ながら、メンバーの中に、お胸の大きい子はいなかったよ。
あと、ドロレスちゃん。
突っ込むの忘れてたけど、俺は「プロペラ小僧」じゃないから。
◇
「祈願。★停止☆」
「止まる時は、フツーかよ!」
ちなみに「劣等生」は魔法科だよ。みんな知ってるとは思うけど。
それはそれとして、3階部分にまで上がって来た。
観覧車には、逆止装置が付いてたけど、なんか怖いので、みんなそそくさゴンドラから下りた。
転落防止のためだろう、ゴンドラと廊下の隙間は、ほとんど無かった。
「はな、や、また」
「……」
唐突だけど、猫耳奴隷セシリアが何かの部活を始めたらしい?
ダンスかな? よさこいだっけ?
俺、実は観てないんだよな。
主題歌は全員分(キャラごとのソロVerがあるのだ)聴いたことあるのに。EDもいい曲だったよな。もったいなかった。観れば良かった。異世界に生まれ変わる前に。
「大丈夫? ちょっと上向いててね、垂れるから」
ミーヨが心配そうに声をかけてる。なんかやらしい。
と言っても、そういった事ではなく、揺れて軋んだゴンドラの中で、セシリアがどこかしらぶつけて痛めたらしいのだ。
「☆治癒の指☆ そして、☆癒しの手☆」
「ふがふが? ……にゃうううううっ!」
それを『癒し手』のヒサヤが治してあげたらしい。
「うむ」
「あ、終わったようですよ」
俺は何故かドロレスちゃんから「目隠し」されていたらしい。
「む?」
姫が残念そうに俺を見上げてる。
でもラウラ姫はちっこいので、おんぶでもしない限り、俺に対して後ろから手を回して「目隠し」とか、無理なのであった。
俺? 実は何も見てないんだよ? 声は全員分聞いたけど。
◇
(なるほど、眺めがいい)
流石はVIP中のVIPの女王陛下用。
客席全体を見渡せるし、舞台が真っ正面だ。
音もよく聴こえるだろうな――そう思った瞬間。
ぶビ。ぶビビビビビぶぶぶぶビ……ぶビっ
豪華なボックス席に、とんでもなく下品な音が響き渡った。
「「「「「…………」」」」」
「……(赤面)」
みんなの視線を浴びて呆然としていたミーヨが、一瞬おいてから真っ赤になった。
「「……●(気体)?」」
こんな事訊くのは、俺とドロレスちゃんだけだ。
「ち、違うよお!」
「だって、今の音は……」
完全にホーヒーだったよ? みんないるのに、なにやってんの?
「違うの! 椅子に座った途端、なんか変な音がして。わたしじゃないの!!」
豪華な椅子に座ったままの、ミーヨが言い訳してる。
アタフタしてて、可愛い。
可愛い女の子の●(気体)だし、むしろ頂いておこうかしら?
イヤ、俺はそんな事をするような男だ(※力強く断言)。
「わたしの両足の間から……」
「「……だから、●(気体)?」」
こんな事訊くのは、俺とドロレスちゃんだけだ。
「ち、違うってば!」
でも……音は物凄かったけど、匂いは……なんとなく、ホコリっぽいな。うーむ。
「ミーヨ。ちょっと立って、椅子から退いてみ」
ふと思いついたコトがあって、そう言ってみた。
「う、うん」
ミーヨが椅子から退くと、ミーヨのヒップのカタチに凹んでいた座席のクッション部分が、ゆっくりと盛り上がって、モトのカタチに復元した。
革製らしいクッションの中は、空洞っぽい。
つまり中は空気だ。
そして、虫にでも食われたのか、破れてる箇所がある。
ここが振動したんだろうな。まるで「*」みたいに(笑)。
――要するに「ブーブークッション」だ。
『地球』のパーティーグッズだ。……違うか、ジョークグッズだ。
そんなものが、たまたま偶然『この世界』に誕生したんだな。
ちなみに「*」は英語で「ア○ホール」っス。
…………。
……。
イエス・アイ・ハヴ!!
そ、それはともかく『音の宮殿』って『亡霊』のせいで6年間も放置されてたらしいから、あちこち古びちゃってるし、「経年劣化」ってヤツだな。プリムローズさんは中身が……やめとこ。
試しに掌で圧してみると、
ぶビっ
さっきの音だ。
「……ああ、なーんだ。『雷神袋』みたいになってたんですね」
ドロレスちゃんがさくっと言う。
『この世界』にも、似たようなものがあるのか?
てか、凄い名前。作者覚えてないけど『風神雷神図』の風神が持ってるヤツの雷神版か? そんで「雷神様」って、背中に「観覧車」みたいなの背負ってなかったっけ? どんなんだっけ? てか同じ画を、何人かの絵師が描いてるハズだな。だから作者名覚えてないのか? そんな昔から「絵師」いたんだな。……もー、ワケ分かんねーな。
「『雷』? 完全に●(気体)の音だったよ?」
「だから、妙齢の女性が、●(気体)の音を誤魔化すために、雷鳴のせいにするんですよ」
「……へー、そうなんだ」
メインの使用目的は違うっぽい。
てかドロレスちゃんも妙齢と言えば妙齢だけど……さっきから連発してるよ?
でもまあ、明らかに違う音だけど……聞いたら、上流階級層のマナーとして定着している事で、みんなそう言う言い訳されると、それ以上は突っ込まないらしい。
なんか似たような話を聞いた事がある気もする。
時代と場所は忘れたけど、『地球』の上流階級の女性が、ソレを誤魔化す専用の侍女を連れて歩いて、主人の女性がしたら、その罪(?)を擦り付け……ひでーな、『地球』。他人のせいにすんによ!
でも『魔法』でなんとかなりそうな気もするけどな。
プリムローズさんなら色々知ってそうだけど……いないしな。
「『おトイレ』の音って『魔法』で消せないの?」
ドロレスちゃんに訊いてみた。
「『おトイレ』の個室で使う『魔法』で、そんなのがあります。放●(液体)音を消すためのものです。いつか一緒に『おトイレ』の個室に入る機会があったらお見せしますよ」
「ないよ。そんな機会」
俺は即座に否定した。
どんなオポチュニティーだよ? あれ? 「オポチュニティー」で合ってるのかな?
「うむ。我が王家に伝わる秘伝の『魔法』であるな。轟く雷鳴の如き脱●(固体)音をも消し去る、と聞く」
「…………」
ラウラ姫、そんなに凄い音すんのか? 確かに物凄くいっぱい食べる子だけど……。なんかの保存の法則的なヤツか? 因果律か?
お姫様だし、突っ込みづらいから放●……イヤ、放置しよう。
「とにかく、お前の放●(気体)疑惑は晴れたぞ。無実確定だ。良かったな、ミーヨ」
良かった良かった。
某ゲームで好きだったキャラの、変なイベント思い出しちゃったよ。
「みんな、プリちゃんがいないと色々と下品だよっ! ちびっ子もいるのにっ!!」
ミーヨ先生が真っ赤な顔でお怒りだ。
「「……」」
ラウ……イヤ、11歳の『巫女見習い』ヒサヤと、10歳の猫耳奴隷セシリアだ。
二人とも、困ったように黙り込んでる。
「「「……てへ」」」
◇
その流れで『おトイレ』に向かう。
まったく反省してないと思われそうだけど、ちょっと事情があるのだ。
では回想。
てか、ついさっきのコトなんで、わざわざ回想する必要もないのだけれども。
◆◇◆
「小僧! 聞こえておるぞ! そこにおるであろう? 返事せい、小僧!!」
聞き覚えがあるデカい声だ。
ラウラ姫の曾祖母『先々代の女王陛下』だ。
ボックス席から見下ろせる舞台上に、侍女軍団と勢揃いしていた。
また、みんなでお茶会かな?
「なに? オオババちゃん?」
俺は深い敬意を込めて、そう返した。
「あいかわらず、無礼な! まあ、良い。わっしの言う通りにせい!」
「なんだよ、偉そうに」
気持ちってなかなか伝わんないよね? 言葉遣いのせいかな?
◇
昨日「退治」された『亡霊』は、『おトイレ』で用を足していたオオババちゃんだった。
正確には、オオババちゃんが『おトイレ』の後で使った衛生魔法『★後始末☆』の声だ。
『★後始末☆』は発音も日本語風に「アトシマツ」なのだ。
オオババちゃんがたまたま入った……イヤ、貴賓室横の『おトイレ』なので、たまたまじゃねーよ。
入るべくして入ったそこは、『音の宮殿』中最高格付けの『おトイレ』にもかかわらず、換気用の通風管が、よりにもよって劇場の舞台の天井部分に伸びていた。
どうも設計上のミスがあったらしい。
しかも『この世界』の大気中には、『魔法』に使役される『守護の星(普通サイズ)』が漂っていて、それは細長い管の中にも入り込んでいるらしい。
そのせいで「管」を「伝声管」のように使うと、中のキラキラ星に音波がぶつかって、出てくる頃には不気味なディストーションがかかるらしい。
で、その歪んだ声が、舞台の天井についてる音響装置……反射板のせいで、やたらと大きく反響して聴こえてしまっていたのだ。
それが舞台と客席には、得体の知れない『亡霊の声』として丸聞こえになるので、パニックに近い大騒ぎになるのだ。
これが『亡霊の声』の「正体」だ。
ただ、コレって当のオオババちゃんは、『亡霊の声』を聴けないワケで、本人としては再現実験して、自分の耳で確認したいらしいのだ。
気持ちはよく理解るけど……自分の侍女に頼めよ、そんなの。
オオババちゃんは言った。
「6年前の最初の『亡霊騒ぎ』の折も、用を足しておって聴けなんだのだ」
「じゃあ、そん時の『亡霊』もアンタやん!」
俺は即座に突っ込んだよ。
――まあ、そんな気はしてたけど、お約束過ぎだ。
◇
「なんでこんな遠いんだろ?」
歩きながら、誰にともなく訊いてみた。
『おトイレ』のある王族用の『貴賓室』は、ボックス席のまるっきり反対側だった。
劇場の部分は円形なので、点対称の位置だ。アナログ時計だと12時と6時の関係だ。
「『貴賓室』ですから、『席に近い』と言う利便性よりも、休まれる方の快適性に配慮して『広さ』を求めた結果ではないでしょうか」
言ったのは小さな『巫女見習い』のヒサヤだ。
大人びた丁寧な口調だ。これで、まだ11歳だもんな。
「客席側に広い部屋をとったら、他の人が座るところを奪っちゃう事になるもんね」
言ったのは『俺のチョロイン』ミーヨだ。
思いやりのあるいい子だ。後で思いっきり(以下略)。
「さっきの『巣(ボックス席の事らしい)』は南向きだったじゃないですか? 昔からエラい人って南向きに座るものじゃないんですか?」
言ったのは実は第七王女のドロレスちゃんだ。
軟●(固体?)……イヤ、「南面」ってヤツだろう。
「はら、っぱー」
言ったのは猫耳奴隷セシリアだ。
『奴隷の印』とされる「蒙古斑」がついて生まれたので、『魔法』を使えないように言語学習を抑制されたために、こんなたどたどしい話し方なのだ……てか何言ったんだろ? お腹壊したの?
「うむ」
『三人の王女』の一人ラウラ姫が、獣耳奴隷の言った事に、強く頷いてる。
セシリアが言ったこと、理解出来たのかな? はて。
てか、こんなに自由な発言が許されてるのは、俺たちの仲間うちだけだろうな。
「……ところで、さっきのアレってあのまま放置しておいて、いいものなんかな? 女王陛下とかが座って、あの下品な音がしたら、みんな笑い堪えるのタイヘンだと思うけど」
「何らかの適切な処置」が必要だと思うけど……プリムローズさん、いないしな。
「「「「……(ぷるぷるぷる)」」」」
みんな自由に発言しなよ。笑い堪えてないで。
◇
「祈願! ★後始末っっっ☆」
なんか気合が入ってたから、扉の外に居た俺たちのところにまで聞こえた。
この『魔法』って、本当に排●しないと発動しないらしくて、俺たちの中から一人が、実験のために尊い犠牲となったのだ。
本人の名誉のために、誰かは名前は伏せるけれども。
ギぅいん、ぐぁぁぁぁあン。ヴゥォォオオドじじババぶうううっ
凄い音の歪み方だ。原型とどめてねー。
「「「「……っ……ぇぇぇ……ゃああ……!!」」」」
なんか下の方で、スゴい悲鳴がしてるよ。
「実験成功」だな(笑)。
「じゃあ、下に降りてみよう」
◇
「祈願。★下へまいります☆」
「やっぱり、ソレかよ!」
回転木馬……じゃなくて観覧車風の「昇降機」で1階に戻ると、オオババちゃんこと『先々代の女王陛下』が取り巻きの侍女軍団に取り囲まれて、動かなくなっていた。
「…………まさか」
「…………(ぐごーぐごー)」
この音って?
「陛下は御就寝です」
筆頭侍女メリーゴーランド(?)さんが告げた。
「「「「…………」」」」
みんな呆然としてる。
「また寝たのかよ!」
仕方ないから、また俺が代表して突っ込んだよ。
◆
前日色々あったので、少し狂騒的なのであった――まる。




