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073◇音の宮殿


「おはようございます。お兄様」


 朝起きて、食堂に来てみたら、そんな事を言われたよ。

 なんか「劣等生」とは名ばかりの、イケメン無敵主人公になった気分だ。

 身だしなみのために、ついさっき鏡見たけど、俺、全然サッパリこれっぽっちも欠片も似てないよ?


 俺にそう言ったのは、長い黒髪の妹――じゃなくて、淡い金髪でライトブラウンの瞳の、小学校高学年くらいの女の子だった。


「おはよう、ヒサヤ。……なんでここに?」

 小さな、11歳の『巫女見習い』ヒサヤだ。

 『音の宮殿(ここ)』とは「お向かい」の『全知全能神神殿』に泊ったはずなのに。


「はい。『癒し手』として参りました。プリマ・ハンナ様が、頭痛が酷いそうで」

「プリムローズさんが?」


 ひょっとしてアレかな?

 俺が華麗に咲かせた『白い花』(笑)の記憶を消すために、自分自身に『記憶消去』の『魔法』をかけたあげく、気を失ってカベに頭突きした時のダメージが出たのかな?


「夜中からおでこの辺りが凄い痛かったんだって」

 ラウラ姫の第六侍女に変装してるミーヨが言った。

 実は彼女は「ミーヨ・デ・オ・デコ」という名の、高位貴族のご令嬢だ。


「壁に頭突きでもしたんですかね?」

 ラウラ姫の第七侍女に変装してるドロレスちゃんが言った。

 こっちも実は元・第七王女で、名前にDの音が入る貴族令嬢で、真名(まな)は「ドロレス・ヅ・ツキ」さんだ。


「……頭突き?」

 てか間違いなく、俺が華麗に咲かせた『白い花』の記憶を消すために、自分自身に『記憶消去』の『魔法』をかけたあげく、気を失ってカベに頭突きした時のダメージが出たんだな(笑)。


 あの直後は何とも無さそうだったし、昨夜も『見届け人』として……イヤ、そんなんはいいとして、時間が経ってからダメージが出るとか……逆にヤバくないか?


「それで、大丈夫だったの?」

 心配だったので訊いてみた。

「はい、痛みは退かれたそうで、休んでおられます」

 ヒサヤの落ち着いた様子を見ると、大丈夫そうだ。

「そっかー、それなら良かった」


 一方、そのプリムローズさんの主人のラウラ姫は――


「……んぐんぐんぐ」

 ミルクを(つぼ)でグビ飲みしている。


 『この世界(アアス)』では「牛乳を飲むと背が伸びる」と言うのは迷信らしい。

 あと「寝る子は育つ」と言うのは、成長ホルモンがどうとかで、科学的根拠がある事実らしいのに、姫を見てる限りでは信じ(がた)い。絶対ウソだろうって気がする。


 飲み終えると――

「……ぷっはー!」

 鼻の下に、見事な白い「おヒゲ」が出来てた。


 まだ『王都』到着翌日のせいか、ウチの侍女さんたちも色んな体勢が整ってないみたいで、食事はカンタンなものだった。パンじゃなくて薄いクラッカーが食卓に上ってる。保存食みたいだ。あとは夏らしい色彩豊かなフルーツの「船盛り」がある。


「……だとすると、今日の予定はどうなってるんだっけ?」

「あー……うん、どうだっけ?」

「あたしは聞いてないです」


「……そっかー」


 居ないと困るのだ。

 スケジュール管理は彼女の仕事なのだ。

 居ないと、物事がいろいろと()んじゃうのだ。

 みんなして雑多な事全部を、筆頭侍女さまに丸投げだったのだ。


 もう、筆頭侍女じゃなくて、アニメの「制作進行」みたいな人なのだ。

 ただし、宮森さんじゃなくて、どっちかと言うと矢野さんぽい人なのだ。

 ただし、あくまでもどっちかと言うとであって、そんなには似てないのだ。


 赤毛だし……髪の毛は○かちゃんみたいなのだ。

 そんで、ず○ちゃんは「制作」じゃなくて「声優」なのだ。

 そんで、○かちゃん絡みで、ラスト付近では二度も大泣きさせられたのだ。


 友を思って流す涙は、美しいのだ。


 ……って『SHIR○BAK○』の話は置いといて。


 今日のスケジュールが真っ白だ。変な話(※引きずってるぞ)。


      ◇


「うむ。では、まいろう」

 先導はラウラ姫だ。

 筆頭侍女が結石……イヤ、欠席してるせいか、なにやらのびのびしてる。


 いま現在、滞在している『音の宮殿』の中を、みんなで散策してみる事になった。


 姫に従う面々は、俺とミーヨとドロレスちゃんと猫耳奴隷セシリア。そしてヒサヤも居残りでそのまま加わった。


 次郎氏は、出掛けて留守らしい。手紙貰ってたし、ロザリンダ嬢にでも会いに行ったのかな?

 マルカさんとジリーさんは、真面目にきちんとメイドとしてのお仕事をしてるらしい。ちょっと申し訳ない。


 あと「六本指の猫」茶トラ君は、大食堂は「出禁」らしく、廊下の休憩用の長椅子の背もたれの上(狭い)で寝てた。

 彼は昼間は寝てる事が多いので、そのままでいいか。


 プリムローズさんは『音の宮殿(ここ)』の事を「鉤型(L字形)」と言ってたけど、そのカドは大きく「アール」を描いている。


 L字の角の部分が、まんまるい「円形劇場」みたいになっていて、そこから細長く「両翼」が伸びてるので、上から見ると「トーションばね」に似てるハズだ。

 難解な例えだけど、大きいクリップとかの中に入ってるヤツだ。90度に開いてる。


 「右の翼」は、さっき居た「大食堂」。

 「左の翼」には……何があるんだろう? まだ確認してない。

 それはあとで探索してみる事にして、とりあえず真ん中の丸い「歌劇場」に向かっている。


 真ん中の「歌劇場」部分には、劇場を取り囲むように舞台出演者の控室(ひかえしつ)がたくさんあるらしい。

 そこの2階と3階には、VIPが陣取るためのボックス席があって、昨日オオババちゃんが入って『亡霊』と化した……イヤ、『亡霊』と勘違いされた貴賓客用の『おトイレ』も、そこらへんにあるらしい。


 しかし、俺様の大活躍で、ここに巣食っていた『亡霊』は退治したし、中は安全だろう。でも……でも、やめとこ、下品だし。


 とにかく、もう恐怖に怯えて、スク水……イヤ、(すく)み上がる事もないのだ。

 ところで、リアルタイムでもリアルでも見た事ないけど、「旧スク」ってどんなん?

 ザ○とは違うのかな? ○クとは。


 もしかするとこのネタ。誰かが既にやってるかもしれないな……したら、ゴメンね。


 ……また「変な話」になってるな。

 えーっと、何の話だっけ? あ、『亡霊』だ。『亡霊』。


 『音の宮殿』は、もともと王立歌劇場として建設されたらしいけど、その「こけら落とし」で起きた『亡霊の声』騒ぎで、6年間ほど放置され、閉鎖されていたそうだ。

 それをラウラ姫が、16歳の成人の祝いとして、この春に下賜(かし)されたそうなのだ。


 その、しょーもない『亡霊』も、俺様の……イヤ、正直に言うと、たまたま知り合いになったメロンのようなお胸をした『巫女見習い』クリムソルダ嬢から聞いた話をヒントに、さくっと「退治」しちゃったし、ここは女王陛下に返上する事になりそうな気配なのだ。


 ここには定住する事もなさそうだし、逆に近いうちに退去する事になりそうなので、今のうちに中を見て回ろうという事になったのだ。


 ――ひま潰しに。


「迷わぬようにな」

 俺たちはともかく、姫は数十日以上ここで暮らしていたらしいので、迷うことなく、スタスタ進んで行く。

 てか長い直線の廊下を、だけど。


 実は俺は、長い直線をまっすぐに歩くのが苦手だ。

 女神『全知神』さまから貰った右目の魔眼『光眼(コウガン)』は、色々と便利は便利だけど、元のまんまの左目との視力のバランスが悪くて、何も考えず直進しようとすると、最終到着地点が必ずズレるのだ。

 なので、歩きつつ補正する必要があったりする。


 でもラッキース……イヤ、様々なスナップショットを、カメラ無しで任意に手軽に撮影出来るんだから、贅沢は言えないか。


      ◇


「そう言えば、昨日のアレって、どうやって抜いたの? やっぱり、手で?」

 劇場内に入るなり、ミーヨにそんな事を言われた。


「えっ?」

 いろいろと身に覚えがあった(笑)ので、ナニを指して言ってるんだろう? と一瞬焦ったけど、場所的に俺様の「縄抜けの奇術」の事だろうな……あー、びっくりした。


 昨日ここでは、舞台上では侍女軍団の「茶番劇」が。

 そして、客席側では俺様の「縄抜けの奇術」と言うか正確には「骨抜きの錬金術」が行われたのだった。

 その後に『ヘビアタマの翼竜』とのバトルがあったので……俺自身もなんか印象薄いけど。


「見せようか?」

「もー……えっち」


 イエス・アイ・ドゥ!


 それは後でするとして、俺にはここで見てみたいものがあるのだ。


 ここはようするに、「劇場」なので「舞台」と「客席」があるだけだ。

 客席がズラリと並んでて壮観だけど、ぶっちゃけそれだけだ。面白味はない。


 それよりも、ここの吹き抜けの壁面だ。

 『前世』では、まったく縁のなかったVIP席が見たいのだ。

 ここは異世界だけど『地球』の「オペラ座」とかにあるように、一般用の客席を取り囲む壁面に、3階建てのVIP用のボックス席があるので、自由に出入り出来る今のうちに、見ときたいのだ。


 で、どこから昇るんだろう?


「昇降機ですね」

 ドロレスちゃんがさくっと言う。

 『この世界』にも「エレベータ」があるわけか。


 案内されて行ってみると――


 それは「劇場」の外に有った。

 L字形の「左の翼」の根元にあたるところだ。


「これがグルグル回るんです。『プロペラ小僧』のお兄さんにぴったりですね」

 いかにも異世界な謎仕様の「昇降機」だった。


 なんで、こんなものがここに?


 それは完全に――


「観覧車やん!」

 小型の観覧車だったよ。建物の中なのに。


 まあ、小型つっても3階分の高さを昇るわけだから、それなりにデカかった。

 でも、某劇場版みたいに、転がして遊べる(?)ほどの大きさではなかったよ。


 ただ、形状が変わってる。

 観覧車に「風車」と「外輪船の外輪」を合わせたような構造だ。

 あきらかに「翼断面」をした構造板が組み込まれている。

 『魔法』で風を送って、空気力学的に動かしてるっぽいな。


「……なんで、こんなカタチしてるの?」

 ミーヨがドロレスちゃんに訊ねてる。


「丸い輪になってると、なんとなく安心だからじゃないんですかね?」

 そんな風な説明をされた。


 「エレベーター」って、滑車でウェイトの上げ下げしてるんだっけ?

 井戸の釣瓶(つるべ)みたいに下まで落ちて叩きつけられるような事が無いように、利用者の「安心感」に配慮されてるらしい。知らんけど。


「うむ、いざ」

 4つしかないゴンドラのうちのひとつに乗った。

 中は狭くて、座席が無くて、立ち乗りだったよ。


「祈願! 回転っ! あ、あれ?」

「あ、こーです! 祈願。★上へまいります☆」


 やっぱり『魔法』で動くヤツだった。

 そんで、その「発動句(スターター)」はなに?


   ギシ、ミシミシミシ――


 すごく(きし)んだ。かなり揺れた。なんか整備不足っぽかったよ。

 もしかして定員オーバーだったかもだけど。


「「「きゃっ!」」」


 視覚的には特に何もなかったけど……肉体接触系のラッキースケベ・イベントが発生したよ。


 つっても、観覧車の中でチン○ンに骨があるか確かめられたワケじゃないよ?

 これ、モトネタは『ハイス○アガール』だよ。

 そんで、みんなは骨が無いのを知ってるよ。

 俺がいつもグルグル振り回して見せてあげてるからね(※それ、セク○ラだよ)。


 ぶつかって、ごっちんこ! となっただけだ。これ、セーフだよね?

 残念ながら、メンバーの中に、お胸の大きい子はいなかったよ。


 あと、ドロレスちゃん。

 突っ込むの忘れてたけど、俺は「プロペラ小僧」じゃないから。


      ◇


「祈願。★停止☆」

「止まる時は、フツーかよ!」


 ちなみに「劣等生」は魔法科だよ。みんな知ってるとは思うけど。


 それはそれとして、3階部分にまで上がって来た。

 観覧車には、逆止装置(ストッパー)が付いてたけど、なんか怖いので、みんなそそくさゴンドラから下りた。

 転落防止のためだろう、ゴンドラと廊下の隙間は、ほとんど無かった。


「はな、や、また」

「……」

 唐突だけど、猫耳奴隷セシリアが何かの部活を始めたらしい?

 ダンスかな? よさこいだっけ?


 俺、実は観てないんだよな。


 主題歌は全員分(キャラごとのソロVerがあるのだ)聴いたことあるのに。EDもいい曲だったよな。もったいなかった。観れば良かった。異世界に生まれ変わる前に。


「大丈夫? ちょっと上向いててね、垂れるから」

 ミーヨが心配そうに声をかけてる。なんかやらしい。

 と言っても、そういった事ではなく、揺れて軋んだゴンドラの中で、セシリアがどこかしらぶつけて痛めたらしいのだ。


「☆治癒の指☆ そして、☆癒しの手☆」

「ふがふが? ……にゃうううううっ!」

 それを『癒し手』のヒサヤが治してあげたらしい。


「うむ」

「あ、終わったようですよ」

 俺は何故かドロレスちゃんから「目隠し」されていたらしい。


「む?」

 姫が残念そうに俺を見上げてる。

 でもラウラ姫はちっこいので、おんぶでもしない限り、俺に対して後ろから手を回して「目隠し」とか、無理なのであった。


 俺? 実は何も見てないんだよ? 声は全員分聞いたけど。


      ◇


(なるほど、眺めがいい)


 流石はVIP中のVIPの女王陛下用。

 客席全体を見渡せるし、舞台が真っ正面だ。

 音もよく聴こえるだろうな――そう思った瞬間。



   ぶビ。ぶビビビビビぶぶぶぶビ……ぶビっ



 豪華なボックス席に、とんでもなく下品な音が響き渡った。


「「「「「…………」」」」」


「……(赤面)」


 みんなの視線を浴びて呆然としていたミーヨが、一瞬おいてから真っ赤になった。


「「……●(気体)?」」


 こんな事訊くのは、俺とドロレスちゃんだけだ。


「ち、違うよお!」

「だって、今の音は……」

 完全にホーヒーだったよ? みんないるのに、なにやってんの?


「違うの! 椅子に座った途端、なんか変な音がして。わたしじゃないの!!」

 豪華な椅子に座ったままの、ミーヨが言い訳してる。


 アタフタしてて、可愛い。

 可愛い女の子の●(気体)だし、むしろ頂いておこうかしら?

 イヤ、俺はそんな事をするような男だ(※力強く断言)。


「わたしの両足の間から……」


「「……だから、●(気体)?」」


 こんな事訊くのは、俺とドロレスちゃんだけだ。


「ち、違うってば!」


 でも……音は物凄かったけど、匂いは……なんとなく、ホコリっぽいな。うーむ。


「ミーヨ。ちょっと立って、椅子から退()いてみ」

 ふと思いついたコトがあって、そう言ってみた。

「う、うん」


 ミーヨが椅子から退くと、ミーヨのヒップのカタチに凹んでいた座席のクッション部分が、ゆっくりと盛り上がって、モトのカタチに復元した。

 革製らしいクッションの中は、空洞っぽい。


 つまり中は空気だ。

 そして、虫にでも食われたのか、破れてる箇所がある。

 ここが振動したんだろうな。まるで「*」みたいに(笑)。


 ――要するに「ブーブークッション」だ。


 『地球(アース)』のパーティーグッズだ。……違うか、ジョークグッズだ。

 そんなものが、たまたま偶然『この世界(アアス)』に誕生したんだな。


 ちなみに「*」は英語で「ア○ホール」っス。


 …………。

 ……。


 イエス・アイ・ハヴ!!


 そ、それはともかく『音の宮殿(ここ)』って『亡霊』のせいで6年間も放置されてたらしいから、あちこち古びちゃってるし、「経年劣化」ってヤツだな。プリムローズさんは中身が……やめとこ。


 試しに掌で()してみると、


   ぶビっ


 さっきの音だ。


「……ああ、なーんだ。『雷神袋(らいじんぶくろ)』みたいになってたんですね」

 ドロレスちゃんがさくっと言う。

 『この世界』にも、似たようなものがあるのか?


 てか、凄い名前。作者覚えてないけど『風神雷神図』の風神が持ってるヤツの雷神版か? そんで「雷神様」って、背中に「観覧車」みたいなの背負ってなかったっけ? どんなんだっけ? てか同じ画を、何人かの絵師が描いてるハズだな。だから作者名覚えてないのか? そんな昔から「絵師」いたんだな。……もー、ワケ分かんねーな。


「『雷』? 完全に●(気体)の音だったよ?」

「だから、妙齢の女性が、●(気体)の音を誤魔化すために、雷鳴のせいにするんですよ」

「……へー、そうなんだ」

 メインの使用目的は違うっぽい。


 てかドロレスちゃんも妙齢と言えば妙齢だけど……さっきから連発してるよ?


 でもまあ、明らかに違う音だけど……聞いたら、上流階級層のマナーとして定着している事で、みんなそう言う言い訳されると、それ以上は突っ込まないらしい。


 なんか似たような話を聞いた事がある気もする。

 時代と場所は忘れたけど、『地球』の上流階級の女性が、ソレを誤魔化す専用の侍女を連れて歩いて、主人の女性がしたら、その罪(?)をなすり付け……ひでーな、『地球』。他人ひとのせいにすんによ!


 でも『魔法』でなんとかなりそうな気もするけどな。

 プリムローズさんなら色々知ってそうだけど……いないしな。


「『おトイレ』の音って『魔法』で消せないの?」

 ドロレスちゃんに訊いてみた。


「『おトイレ』の個室で使う『魔法』で、そんなのがあります。放●(液体)音を消すためのものです。いつか一緒に『おトイレ』の個室に入る機会があったらお見せしますよ」


「ないよ。そんな機会」

 俺は即座に否定した。

 どんなオポチュニティーだよ? あれ? 「オポチュニティー」で合ってるのかな?


「うむ。我が王家に伝わる秘伝の『魔法』であるな。(とどろ)く雷鳴の(ごと)き脱●(固体)音をも消し去る、と聞く」


「…………」

 ラウラ姫、そんなに凄い音すんのか? 確かに物凄くいっぱい食べる子だけど……。なんかの保存の法則的なヤツか? 因果律か?

 お姫様だし、突っ込みづらいから放●……イヤ、放置しよう。


「とにかく、お前の放●(気体)疑惑は晴れたぞ。無実確定だ。良かったな、ミーヨ」

 良かった良かった。

 某ゲームで好きだったキャラの、変なイベント思い出しちゃったよ。


「みんな、プリちゃんがいないと色々と下品だよっ! ちびっ子もいるのにっ!!」

 ミーヨ先生が真っ赤な顔でお(いか)りだ。


「「……」」


 ラウ……イヤ、11歳の『巫女見習い』ヒサヤと、10歳の猫耳奴隷セシリアだ。

 二人とも、困ったように黙り込んでる。


「「「……てへ」」」


      ◇


 その流れで『おトイレ』に向かう。

 まったく反省してないと思われそうだけど、ちょっと事情があるのだ。


 では回想。

 てか、ついさっきのコトなんで、わざわざ回想する必要もないのだけれども。


      ◆◇◆


「小僧! 聞こえておるぞ! そこにおるであろう? 返事せい、小僧!!」

 聞き覚えがあるデカい声だ。

 ラウラ姫の曾祖母『先々代(さきのさき)の女王陛下』だ。


 ボックス席から見下ろせる舞台上に、侍女軍団と勢揃いしていた。

 また、みんなでお茶会かな?


「なに? オオババちゃん?」

 俺は深い敬意を込めて、そう返した。


「あいかわらず、無礼な! まあ、良い。わっしの言う通りにせい!」

「なんだよ、偉そうに」


 気持ちってなかなか伝わんないよね? 言葉遣いのせいかな?


      ◇


 昨日「退治」された『亡霊』は、『おトイレ』で用を足していたオオババちゃんだった。

 正確には、オオババちゃんが『おトイレ』の後で使った衛生魔法『★後始末☆』の声だ。

 『★後始末☆』は発音も日本語風に「アトシマツ」なのだ。


 オオババちゃんがたまたま入った……イヤ、貴賓室横の『おトイレ』なので、たまたまじゃねーよ。

 入るべくして入ったそこは、『音の宮殿』中最高格付けの『おトイレ』にもかかわらず、換気用の通風管が、よりにもよって劇場の舞台の天井部分に伸びていた。

 どうも設計上のミスがあったらしい。


 しかも『この世界』の大気中には、『魔法』に使役される『守護の星(普通サイズ)』が漂っていて、それは細長い管の中にも入り込んでいるらしい。

 そのせいで「管」を「伝声管」のように使うと、中のキラキラ星に音波がぶつかって、出てくる頃には不気味なディストーションがかかるらしい。


 で、その歪んだ声が、舞台の天井についてる音響装置……反射板のせいで、やたらと大きく反響して聴こえてしまっていたのだ。


 それが舞台と客席には、得体の知れない『亡霊の声』として丸聞こえになるので、パニックに近い大騒ぎになるのだ。


 これが『亡霊の声』の「正体」だ。


 ただ、コレって当のオオババちゃんは、『亡霊の声』を聴けないワケで、本人としては再現実験して、自分の耳で確認したいらしいのだ。


 気持ちはよく理解(わか)るけど……自分の侍女に頼めよ、そんなの。


 オオババちゃんは言った。

「6年前の最初の『亡霊騒ぎ』の折も、用を足しておって聴けなんだのだ」

「じゃあ、そん時の『亡霊』もアンタやん!」

 俺は即座に突っ込んだよ。


 ――まあ、そんな気はしてたけど、お約束過ぎだ。


      ◇


「なんでこんな遠いんだろ?」

 歩きながら、誰にともなく訊いてみた。


 『おトイレ』のある王族用の『貴賓室』は、ボックス席のまるっきり反対側だった。

 劇場の部分は円形なので、点対称の位置だ。アナログ時計だと12時と6時の関係だ。


「『貴賓室』ですから、『席に近い』と言う利便性よりも、休まれる方の快適性に配慮して『広さ』を求めた結果ではないでしょうか」

 言ったのは小さな『巫女見習い』のヒサヤだ。

 大人びた丁寧な口調だ。これで、まだ11歳だもんな。


「客席側に広い部屋をとったら、他の人が座るところを奪っちゃう事になるもんね」

 言ったのは『俺のチョロイン』ミーヨだ。

 思いやりのあるいい子だ。後で思いっきり(以下略)。


「さっきの『巣(ボックス席の事らしい)』は南向きだったじゃないですか? 昔からエラい人って南向きに座るものじゃないんですか?」

 言ったのは実は第七王女のドロレスちゃんだ。

 軟●(固体?)……イヤ、「南面(なんめん)」ってヤツだろう。


「はら、っぱー」

 言ったのは猫耳奴隷セシリアだ。

 『奴隷の印』とされる「蒙古斑」がついて生まれたので、『魔法』を使えないように言語学習を抑制されたために、こんなたどたどしい話し方なのだ……てか何言ったんだろ? お腹壊したの?


「うむ」

 『三人の王女』の一人ラウラ姫が、獣耳奴隷の言った事に、強く頷いてる。

 セシリアが言ったこと、理解出来たのかな? はて。


 てか、こんなに自由な発言が許されてるのは、俺たちの仲間うちだけだろうな。


「……ところで、さっきのアレってあのまま放置しておいて、いいものなんかな? 女王陛下とかが座って、あの下品な音がしたら、みんな笑い(こら)えるのタイヘンだと思うけど」


 「何らかの適切な処置」が必要だと思うけど……プリムローズさん、いないしな。


「「「「……(ぷるぷるぷる)」」」」


 みんな自由に発言しなよ。笑い堪えてないで。


      ◇


「祈願! ★後始末っっっ☆」

 なんか気合が入ってたから、扉の外に居た俺たちのところにまで聞こえた。

 この『魔法』って、本当に排●しないと発動しないらしくて、俺たちの中から一人が、実験のために(とうと)い犠牲となったのだ。

 本人の名誉のために、誰かは名前は伏せるけれども。


   ギぅいん、ぐぁぁぁぁあン。ヴゥォォオオドじじババぶうううっ


 凄い音の(ゆが)み方だ。原型とどめてねー。


「「「「……っ……ぇぇぇ……ゃああ……!!」」」」


 なんか下の方で、スゴい悲鳴がしてるよ。

 「実験成功」だな(笑)。


「じゃあ、下に降りてみよう」


      ◇


「祈願。★下へまいります☆」

「やっぱり、ソレかよ!」


 回転木馬……じゃなくて観覧車風の「昇降機」で1階に戻ると、オオババちゃんこと『先々代(さきのさき)の女王陛下』が取り巻きの侍女軍団に取り囲まれて、動かなくなっていた。


「…………まさか」


「…………(ぐごーぐごー)」


 この音って?


「陛下は御就寝です」

 筆頭侍女メリーゴーランド(?)さんが告げた。


「「「「…………」」」」


 みんな呆然としてる。


「また寝たのかよ!」

 仕方ないから、また俺が代表して突っ込んだよ。


      ◆


 前日色々あったので、少し狂騒的なのであった――まる。

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