067◇先々代の女王陛下
前回と酷い落差。
(……黄色い花だ)
『音の宮殿』の裏手は、来訪者の馬車を停めておくための駐車スペースだった。
そこの東側には、煉瓦組みの高い壁が衝立のように立ちふさがっていた。
きっと『王都大火』の「焼け跡」を、人目につかないように隠すためのものだろう。
その壁の端には「祠」のような凹みがあった。
そして『大火』の犠牲者の追悼のためなのか、黄色い花が奉げられていた。
『荒嵐』の最中なのに、花は吹き飛ばされていなかったし、枯れてもいなかった。
……不意に、『宮殿』の扉が開いて、数人の取り巻きに囲まれた老婦人が近づいて来た。
扉が開いた時、玄関の奥にも、それが見えた。
同じ「黄色い花」が飾られていた。
なんとなく「繋がった」気がした。
「『先々代の女王陛下』にあらせられる。みなでお出迎えを」
相手が相手なので、プリムローズさんも自失から立ち直ったようだ。
◇
集団の真ん中に居る老婦人が、ラウラ姫やドロレスちゃんの曾祖母ちゃんらしい。
かなりのご高齢のはずなのに、背筋は真っすぐしていて、若々しい感じだ。
髪は……地毛なのか不明な、銀髪に近い白髪だ。
瞳は……エルドラド家の血筋なのか、王女姉妹と同じ青い色だ。
「…………(ん?)」
ふと気付くと、みんなは『先々代の女王陛下』に「最上位者への礼」をしていた。
片膝をついて、首を垂れる姿勢だ。俺も慌てて、それに続く。
「しゃきのしゃきの女王陛下におきゃれまひては……」
ラウラ姫だ。
めっちゃ噛んでる。
そうは見えないけど、シャキシャキしてるらしい……じゃなくて、この手の挨拶に慣れてないんだろうな。
「よい、私的な場ぞ。もっと気軽にせい、ラウラ」
老婦人がかるく手をあげて、姫の挨拶を中断させた。
なんか巻き舌で「ラウラ」が「らうるうら」に聞こえた。
レ○ルーラか! てか「レウ○ーラ」ってなんだっけ?
ああ、思い出した。二人の「大佐」が乗ってた真っ赤な(宇宙)戦艦だ。
「オオババ様。我が『宮殿』をお返しください」
ラウラ姫が態度を変えて、『先々代の女王陛下』に言った。
甘えてる感じだ。気安い仲らしい。
……そして思い出した。「ライラウラ」は二人いるのだ。
姫の真名は「ライラウラ・ド・ラ・エルドラド」だけど「曾祖母」と同じ名前だから、ずっと愛称の「ラウラ」で呼ばれてるんだった。
それって、つまり、このお婆ちゃんの事だ。
「返すも何も、元よりココを今上の陛下より賜りしは、姫であろう? わっしはただの留守居のババアぞ。気にはすな」
ひ孫だし、完全に子供扱いだな。
プリムローズさんは「乗っ取った」って言ってたけど……?
実際のところはどうなんだ?
「それより、訊きたい事がある。なぜに『荒嵐』が止んだ? あり得ぬ話ぞ」
老婦人は、天候の急変に気付いて外に出て来たらしい……そう言えば、いつの間にか雨も止んでる。
『王都』には雲間から、幾条かの陽光が射しこんでいる。
天使が降臨しそうな光景だ。「薄明光線」てやつだ。
なんて名前の現象だっけ、これ? チンダル現象?
イヤ、俺はそんなでもないよ? ……訊かれてないか。
「『全知全能神神殿』にて執り行われておりました『荒嵐祓い』の儀式が功を奏したのではないかと」
プリムローズさんが取り繕うように言った。
まあ、そんな風に誤魔化すしかないわな。
「嘘をぬかせ。あんなもの効くか」
乱暴な口をきくお年寄りだ。
プリムローズさんが敬意を払うように頭を下げて、
「……ぼそっ(チッ)」
こっそり舌打ちした。悪い人だ。
「わっしは見ておったぞ。なんぞしておったろう?」
老婦人は見ていた……らしい。
「あの者、グルグル振り回しておったぞ」
その辺りも見てたのね? イヤン。
「……グルグル?」
そのあたりの、筆頭侍女さまの「記憶」は消えてるワケか。
『この世界』のあらゆるところに存在していて、生き物の生命活動に合わせてグルグルと循環しているという、ナノマシン的な『守護の星(極小サイズ)』が、ニンゲンの脳の短期記憶を司るカバに働きかけて……それを消去してしまったのかな?
でも、あの時見えた小型犬用のドライフードの粒くらいの大きさの「黒い星」は何だったんだろう?
誰かが『魔法』を使うと、虹色のキラキラ星に混じって、あの「★」も見える事は見えるけど、通常と違う数が見えた。
あ、待てよ。
確か「タツノオトシゴ」にそっくりな器官だから「河馬」じゃないはずだな。
なんだっけ……「海馬」?
てか、そんなコト考えてたら『ガル○ン』の「カ○さんチーム」のカバの絵を思い出して、笑えて来た……。
「説明せよ、プリマ・ハンナ・ヂ・ロース」
「はい、陛下」
『先々代の女王陛下』の問いかけに、第三王女の筆頭侍女が応えてる。
――なんとか上手く誤魔化してください。
◇
どうでもいいけど、曾祖母ちゃんってば、プリムローズさんをフルネーム『真名』で呼んでたけど……知り合いなんだろうか?
そんで今さらだけど「真名」って中二臭いな。
てか、俺も「曾祖母ちゃん」呼ばわりはダメか。
「なんと!」
『先々代の女王陛下』は、お年に似合わず声がデカい。
大きな騒音が嫌いなプリムローズさんの眉間に、しわが寄ってる。頭痛いのね?
「どうだ……にかけるか?」
『先々代の女王陛下』がそう言うと、プリムローズさんは、
「ご容赦ください」
頭を下げていた。
確かに、もう、ぶっかけちゃったしな。
イヤ、それはもう無かった事になってるのだ。
じゃなくて、「……」の部分は『魔法審議会』とか言ってたな。
ヤバそうな感じがするな。審議とか査問とか召喚とか……やめて欲しい。
そして、この場でいちばんエラいらしい『先々代の女王陛下』の御許可が無いと、建物の中に入れないらしい。
みんなして馬車を置くための駐車場的なスペースで、立ち話になっちゃってるし。
こっちにはちびっ子もいるのに。
そのうちの……イヤ、立派に成人してるラウラ姫は、
「……」
余計な口出しはしないで無言のままだけど、かるく無視されている形なので、ちょっと可哀相そうだ。
そこに、
「殿下。お久しゅうございます。お留守のあいだ、宮殿をお借りしておりました。ご無礼をお許し下さい」
一人の中年女性が声を掛けて来た。
「む?」
しかし、不審がってる。
姫の事だ。きっと誰なんだか分かんないんだろう。
とりあえず、俺もまったく誰か分からないので、フォローのしようがない。
「これは……ゴスメリラ様。お懐かしゅうございます。ジリーでございます。こちらにマルカも」
そこに助け舟がはいった。
「なんと、久しい。マルカとジリーか」
元々『王宮』勤めだったという、ドロレスちゃん付きメイドの二人とは知己のようだ。懐かしそうに雑談を始めた。
漏れ聞こえてくるところによると、お相手は『先々代の女王陛下』の「筆頭侍女」らしい。
にしても「ゴスメリラ」って、微妙なお名前だ。
間違えそうな予感が、今からする。
「……(むう)」
またしても軽く無視されてるラウラ姫が可哀相だったので、俺は近づいて話しかけた。
ちょっと『亡霊』について「情報収集」もしときたいし。
「姫。ここにはどれくらい住んでるんですか?」
「うむ。成人の祝いに、女王陛下より下賜された故、四分ほどかな」
突然訊かれて驚いたようだけど、あっさり教えてくれた。
て事は……16歳の「バースデイ・プレゼント」だったのかな?
『この世界』って4の倍数好き(?)なので、4歳・8歳・12歳……と幼少期に3回。日本の七五三みたいなお祝いをして、16歳で「成人」としているらしいのだ。
でもって『この世界』の1年は384日。
でもって「四分」は一年の四分の一って意味だから……えーっと96日か?
といっても実は「1日」が『地球』よりも長いらしい。
だから、なんだかんだで『地球』の時間に換算すると100日くらいだ……多分。
で、逆算すると、ラウラ姫の誕生日は『土の日々(地球の3月に相当)』の終わりくらいか『萌えの日々(地球の4月に相当)』の始め頃かな?
ついでなので誕生日を訊いてみたら、
「うむ。『萌え』のいちばんの『お菓子』だ」
「……覚えて……おきます」
ちょっと噴きそうになるようなお答えだ。
『地球』の感覚だと「4月2日」かな? あくまでも「感じ」だけど。
とすると姫って日本の「学年」で言うと、俺たちより「いっこ下」だったんだな。
俺とミーヨは同じ日生まれで、もうすぐ17歳だし、シンシアさんも『深緑の日々(7月に相当)』らしい。
プリムローズさんは誕生日いつなんだろう?
ちなみに猫耳奴隷のセシリアは、生まれた日が不明だったので、俺とミーヨと同じ『深緑の日々の最後のお野菜の日』にして『奴隷籍』とかいうのに登録しといた。
なので、彼女も「もうすぐ11歳」なのだ。
その時には、焼き肉をお腹いっぱい食べさせてあげよう。『お野菜の日』だけど。
俺がそんな事を考えていると――
「だが、しばらく留守にしたら、盗られてた……」
ラウラ姫がしょんぼりと言う。
「イヤ、留守番って言ってましたよ? 盗られてはいないんじゃ」
一応、フォローしとこ。
そんな話をしていると、ドロレスちゃんが「支度」を終えて『俺の馬車』から出て来た。
その正体を隠すために、侍女姿に変装している。
プリムローズさんと同じラウラ姫付きの侍女服だ。不思議な赤い光沢のある黒い服だ。
茶色い髪のウィッグとメイクのソバカスで、パッと見、ドロレスちゃんとは全然分からない。
上手く化けてる。
こう言うと『化物』呼ばわりした、って怒るだろうけど。
「……(ニカッ)」
目が合うと、彼女は笑った。
本人は「悪女」気取りらしいけど「悪ガキ」にしか見えない。
父親が同じラウラ姫とドロレスちゃんの姉妹は、本当にそっくりだ。
わしゃわしゃとした癖のある金髪をしていて、二人とも頭髪のボリュームは満点だ。
なので、カツラを被ってるドロレスちゃんの頭部が、ひときわデッカく見える……。
ま、それは黙っていようっと。
ラウラ姫との話を続けよう。
「……それで、その住んでいるあいだに、『幽霊』が出たとか『亡霊』が出たとか『綾○レイ』が出たとか『桐○零』が出たとか言う話はあったんですか?」
他にも「レイさん」はいるだろうけど……そのくらいしか知らないや。
「知らぬ。世の人々は『亡霊宮殿』と呼ぶらしいが……まったく、そんなものは見ぬ」
ラウラ姫はそう言うけれども、姫の耳には入らないようにしているだけかも?
「どんな風に伝わってるんですか? その話は?」
「なんでも真ん中の『劇場』において、その『声』だけが聞こえるという」
この『宮殿』って元が「音楽堂」だったそうで、建物の中央部には、舞台と客席が完備された大きな「劇場部分」があるそうなのだ。
「『声』だけですか?」
「うむ。歪んで、歪んだ不気味な『声』であったと言う」
とすると「彼女」が言ってたのは……。
「私は元々の『音の宮殿』が出来上がってすぐの、『こけら落とし公演』の時にも、ここに来ていた。が、その折はオオババ様と『おトイレ』に行っておって、その騒ぎには立ち会わなかった」
「……『おトイレ』ですか」
VIP用の、めっちゃ豪華なやつだろうなあ。
にしても、姫は普段は無口だけど、話を振ると、よく喋る子だ。
てか、俺の事を信頼して、好いてくれてるからこそ、色々と話してくれてるんだろう。こそばゆい気もする。
「ちなみに姫は信じておられますか?」
「『亡霊』か? 私は聞いたことがない。故に信じてはおらぬ。プリムローズなどは、私室で何やら物音が聞こえて、よく眠れぬとぼやく事もあるが、私は昼も夜も、ぐっすり寝られるぞ」
プリムローズさんの「私室」がね。そっちの「原因」は何だろう?
てか「昼も」って何だよ? いつもの「お昼寝」の事だろうけれども。
「プリムローズも、『亡霊』ではない、と断言しておったぞ」
「そうですか」
この主従。そろって「怖いもの知らず」と言えば、そうなんだよな。
『この世界』では、「輪廻転生」が信じられているので、心霊話はあまり聞かない。
でもここは、『王都大火』の跡地。
悲劇のあった場所なのだ。
それに関連付けて、不必要なまでに「騒ぎ」が大きくなっちゃっただけなのかも。
「れ、みた、ない」
猫耳奴隷セシリアが呟く。
これはどっちの意味だろう? 「幽霊は見たことない」か「幽霊は見たくない」か?
いつも意訳してくれてたヒサヤが、シンシアさんたちと『全知全能神神殿』に行っちゃったからな。
セシリアは、密かに『獣耳奴隷』の中で伝えられていて、なおかつ『東の円』での共通言語になってるっぽい『日本語』なら流暢に話せるから、『日本語』で話しかけてみようかな?
でも、よく考えたら、『この世界』で話されてる『日本語』を『日本語』と呼ぶのは語弊があるな。
ここ『地球』じゃないし、日本無いし。『この世界の日本語』とでも呼ぶべきか?
どっちにしろ、次郎氏に聞かれるとややこしい事になりそうな気もする。
次郎氏を見ると、豚耳つけて『一日奴隷』として馬車を牽いていたせいか、手がすこし痛いらしい。
『癒し手』が居れば癒してくれただろうけど……するといま、俺たちの仲間には「回復役」がいないのか? 何もなきゃいいけどな。
そんで、俺、ゲームだと「回復役」を育てるの、わりと好きなんだけどな。
◇
ミーヨはどこだろう? 見当たらない。
『おトイレ』かな? と思ってたら、こちらにやって来た。
ああ、お花を摘みに行ってたのか……イヤ、そっちじゃなくて――両手いっぱいに、水色の花を抱えていた。
ミーヨもドロレスちゃんと同じく、赤みを帯びた黒い侍女服を着て、ラウラ姫の侍女に変装している。
実はこの「侍女服」。『冶金の丘』の『服の仕立て屋』で服を大量にオーダーした時に、夏服・冬服合わせて何十着もまとめて発注した物だ。
黒いのに赤い光沢のある、ふしぎな布地なのだ。
『西の七国』からの輸入物の珍しい生地で、すごく高価らしい。
膨大な量だったとは言え、めちゃくちゃお金がかかったわけだよ。
あん時は酷い目に遭った……思い出すと、なんか「*」がひりひりするよ(笑)。
「殿下」
「うむ。参ろう」
普段は気安く「姫ちゃん」と呼ぶミーヨが、妙に改まってる。
姫の指示で、花壇から花をツンデレ……イヤ、ミーヨは『俺のチョロイン』だ。
ラウラ姫が先頭で歩き出した。
みんなでそれに続く……のはいいけど、どこへ「参る」んだろう?
と思ったら、『王都大火』の焼け跡を隠すための、高い「目隠しの壁」の端の、祠のような凹みのある場所だった。
そこには、既に黄色い花が奉げられていた。
「「「「…………」」」」
ラウラ姫が献花して、みんなで黙とうを奉げる。『地球』と同じだ。
やっぱりここは『王都大火』の犠牲者を追悼するところだったらしい。
◇
建物の方に戻る途中――
「お兄さんは、幽霊とか亡霊とか信じてるんですか?」
不意にドロレスちゃんが、俺にそんな事を訊いてきた。さっきの話を聞いてたらしい。
「うーん。『魂』はあるのかもしれないけど、『生まれ変わり』のためにも、いつまでも死んだところに留まっててもしょうがないんじゃないの?」
俺個人の意見としては「無駄なことやってないで、さっさと生まれ変われよ」と思ってしまう。
「『生まれ変わり』ですか? もし、あたしが誰かの『生まれ変わり』だったとしたらどうします?」
意味ありげだけど……その質問には意味がない、と思う。
「イヤ、だって、みんながみんな誰かの『生まれ変わり』でしょ? 『魂』の循環……『輪廻転生』があるんだから」
その『魂』って、『この世界』に特有な「魔法的な何か」って気もする。
「あたしの『前世』が誰であっても興味がないと?」
「俺も『前世の記憶』を持ってるけど、それでもやっぱり『俺』は『俺』だよ。過去の自分とはもう同じじゃない。今の自分から見れば、はっきり言ってしまえば『他人』だよ。気にする事はないと思うよ」
てか正直言って、俺は『前世』の自分がどんなんだったか覚えてない。
忘れ去ってしまいたいと願って、もう忘れ去ってしまってるのかもしれない。
俺の『白い花』を浴びて、自ら『記憶消去』を行ったプリムローズさんみたいに……。
「……そうですか」
ドロレスちゃんは、思惑を外されたらしく、困ったように、ぽりぽりと頬を掻いてる。
あ、メイクのソバカスがちょっと消えた……。
「でも、いつか聞く機会があれば聞かせてよ。まあ、それは今ではないけどね」
「…………」
突き放してしまったようだけど、俺にとっては「ドロレスちゃん」は「ドロレスちゃん」なので、今この場で『前世』の「過去バナ」に突入されても困るのであった。
◇
ようやっと『宮殿』の中に入れた。
やたらと広い正面ロビーみたいなところで、みんな休んでる。
「殿下。『赤茶』を」
「うむ。大儀」
ミーヨがみんなに「赤茶」のカップを配ってる。使い捨て可の木製カップらしい。
「……(俺のは?)」
「……(ふるふる)」
アイコンタクトしてみたら、首を振られた。
「……(あたま。あたま)」
『一日奴隷』の「ロバ耳」装着してるから駄目らしい。セシリアにも貰えなかった。
用意してくれた向こうの侍女軍団の人が、獣耳を付けた俺たち二人を、員数外扱いにしたらしい。
「…………」
セシリアは、こういう場面では最初から諦めてるみたいに何も言わない。
プリムローズさんは向こうの筆頭侍女との、細々した打ち合わせに入ってしまった。
また、俺たち放置だよ。
「姫。家臣の方々とかは、どちらに?」
挨拶しといたほうがいいのかな、くらいのノリで言うと、
「む? そんなものはない。侍女たちだけだ」
あっさりしてる。
「……そーなんですか?」
そーゆーもんなのか?
補佐役……はプリムローズさんがいるから良いのか。
でも他にも、秘書とか侍医とか爺とか家令とか出納係とか護衛の騎士とか司厨長とか……そんなんいないのかな?
じいやがパチンコ中毒で、なおかつ車で人身事故ばっかり起こしてると困るけれども(※『ハイス○アガール』)。
余った食べ物が無駄にならないように、美味しくいただくスタッフはいないのか?
ラウラ姫なら、まったく残さずに全部綺麗に食べそうな気もするけど。
『冶金の丘』の『代官屋敷』には、結構な数の、「住み込みの使用人」みたいな人たちが居たんだけどな……はて?
「……こんな事をお訊きしても、いいのかどうか」
「む? なんでも訊くが良い」
「お金の管理とかは……誰がしてるんですか?」
ちょっと不安になって訊いてみた。
思い出してみると、俺がラウラ姫の『愛し人』になって以来、いろんな場面で「お会計」してるのが、俺のような気がするのだ。
ま、『愛し人』つっても「公認の恋人」くらいの意味の「名誉称号(?)」みたいなもんで「お姫様のヒモ」じゃないそうだけれども。
「うむ……ふむ?」
考え込んじゃったよ。
「筆頭侍女たるプリムローズでもあろうか?」
すげー、不確か。
「では、殿下の収入はどこから? ……国家予算から歳費みたいなものが?」
「それは無い。16歳で成人すると『一の家』と領地を下賜される」
「ハイ」
と言っても『一の家』が判らない。
本宅とか本拠地か?
ああ、この『宮殿』か。
「その後は、独立した貴族家のように扱われる……と聞く。故に、領地からの収入を元にしているのであろう……と思われる」
なんか色々と把握してないようだ。大丈夫か、この子?
「姫のご領地はどちらに?」
「うむ。美南海の島だ」
めっちゃ遠そう。てかプリムローズもいつだったか、そう言ってたな。
「なんでも大きな『翼竜』が棲んでいるらしい。一度行ってみたいものだ」
「はあ」
でも、それって『空からの恐怖』ってヤツだよ。
『亡霊宮殿』をあてがわれてたり、なんか微妙に扱いが悪いような気もするよ。
◇
それにしても、ミーヨの違和感がハンパない。
いつもは「おでこ全開」なのに、付け毛らしい栗毛の前髪で、おでこを隠してるのだ。
「おでこ」という「記号」を失ったミーヨは……かなりに良かった。いいな、これ。
メイド服というか侍女服だしな。うん、今度この恰好で(以下略)。
「めっ!」
ミーヨに怒られた。羞恥で赤く頬を染めてる。
目元だけはいつもと同じ「ペリドット」みたいな深緑色の瞳で、俺をキツく睨んでる。
はて? 俺なんで今怒られたんだろう?
「……変態」
いつの間にか近くにいたプリムローズさんにまで、ぼそっと呟かれた。
「……え?」
なんなんだ?
「「……(赤面)」」
変装したミーヨと、俺を変態呼ばわりしたプリムローズさんが、恥ずかしそうに頬を染めてる。
もしかして、さっきのミーヨのメイド服のスカートを後ろからめくりあげるイメージが……いけね、また伝わったらしい。
「「……(じろり)」」
二人から赤い顔で睨まれた。
でも、ミーヨの方はまんざらでもなさそうだ。
よし……じゃなくて、つまり、コレって、俺が脳内で思い描いた「イメージ映像」みたいなものが、二人に届いてるってコトになるな。
そこで、気付いた。
二人には、俺が『口内錬成』で作った「真珠っぽい耳栓」をあげたっけ。
プリムローズさんも、まるでエスパーのように、俺の思考を読んでたけど……そのせい?
『巫女見習い』の『神授の真珠』みたいに――何らかの魔法的リンケージで繋がって、俺様の思考が伝わってる……のか?
一体、どういう条件で俺の思考やら脳内映像がダダ漏れになってるんだ?
有効射程(?)距離があるっぽいし、いろいろ検証したい。今すぐ問い詰めたい。
そんな事を考えていると――
「お前が、ジンか?」
何というか、ロバでも見るような目で『先々代の女王陛下』に言われた。
「そうだよ。ところで、オオババちゃん」
俺がそう呼びかけると、
「「「……!」」」
みんなにぎょっとされた。
「ジンくん! 無礼だよ!」
またミーヨに怒られた。
「「「「「……(ざわっ!)」」」」」
俺の無礼は、流される事なく、『先々代の女王陛下』の取り巻きたちを刺激したらしい。
「そのほう! 奴隷の身で、あまりにも無礼であろう!!」
取り巻きの一人が怒気を発して言った。
奴隷?
ああ、ロバ耳付けっぱなしだったな。
「「「「「……(ぎろり)」」」」」
なるほど。『獣耳奴隷』って、こんな目つきで見られて、こんな風に上から偉そうに物を言われなくちゃならないのか……。
実際に「これ」を体験してみると、ホントにめっちゃ腹立つな。
セシリアや他の人たちの為にも、この「制度」そのものをぶっ壊さないといけないな。
それには、「蒙古斑」が『前世の罪人』につく「奴隷の証」って「誤解」やら「思い込み」を消し去らないとダメなんだよな。
そのための「手」はあるかな?
そのために、泥を被って「汚れ役」になる覚悟は……まだ、ないけれども……。
「違います! アレは『一日奴隷』のロバ耳にございます!」
おお、ラウラ姫が俺を庇ってくれた。
ちょっと感動したよ。
「それにしても、陛下に対し奉り……」
老婦人揃いの取り巻きの中では、最年少っぽい侍女が不満そうだ。
「大目に見よ。こやつは姫の『愛し人』ぞ」
言葉とは裏腹に、『先々代の女王陛下』が、す――っと目を細めた。
けど、お婆ちゃん、老眼なのかな? くらいの印象しか受けない。
たぶん、「女王さま」を退位してから長いんだろう、カリスマとかオーラとか風格みたいな……目には見えない「大物感」が摩耗してる感じだ。
俺は、ワザとこの老婦人を怒らせる作戦に出る事にした。
「で、オオババちゃん。あんた知ってんだろ? 12年前の『王都大火』のことを」
俺がそう言うと、彼女は物凄く狼狽した。
「う……は……な、な」
「「「「「……!?」」」」」
みんな、びっくりして、まるで怪物を見るみたいな目で、俺を見てる。
『宮殿』の中に飾られている黄色い花と、焼け跡を隠す『壁』に奉げられている黄色い花。
ふたつは間違いなく、同じ花のハズだ。
ふと思い出して、花を奉げたって感じじゃない。
つい先刻まで『荒嵐』が荒れ狂っていたのだ。
強い意志の下に、その行為は成されたのだ。
犠牲者の追悼――という生き残った加害者の自己欺瞞。
つまり、『王都大火』の真犯人は、こいつらだ。
権力者が「市街地の再開発」を目的に、「大火」を引き起こす……そんな「陰謀説」や「謀略論」は『地球』にも幾つもある。
ま、たいがい「濡れ衣」らしいけど……。
俺は、ミーヨとプリムローズさんに向けて、そんなイメージを思い描いてみた。
二人とも、はっとした表情で俺を見ていた。それの思念が届いたらしい。
……でも、二人とも疑わしそうだ。
――だよね?
なんの証拠も無いし、根拠も薄い当てずっぽうな推理だし。
「「……(こけっ)」」
俺の想いが届いたのか、二人が大きな動作でコケた。某新喜劇か?
「……な、な、何を言う小僧」
『先々代の女王陛下』は、激しく動揺している。
「ただの小僧じゃないぜっ。プロペラ小僧だっ!」
って、自分で言うなよ、俺。
「楽になりたかったら、知ってることを全部話しな。このまま死んだら、あんたこそ来世じゃ『前世の罪人』って事で奴隷落ちだぜ」
「…………ぐぐ」
この様子だと確実に何か知ってるし、隠してる感じだ。
「うぬぐ……まさか……ぐぬ」
あれ? ちょっとやり過ぎたのか?
なんか顔色が悪い。
「「「……陛下っ!」」」
でも、取り巻きの中には、『癒し手』らしい女性がいるから平気だろう。
最悪、死んじゃっても、俺が『合体』して『癒し手』の力を増強すれば大丈夫だろう……と甘く考えていた。
「で、どうなんです?」
「……ぐぬぬ…………(かくっ)」
いきなり、うなだれたように下を向いた。
頭頂部の髪の「根元」が黒かった。意外な事に「染めた銀髪」だったようだ。
「……(しーん)」
それきり、『先々代の女王陛下』は動かなくなった。
「…………ウソだろ?」
ホントに死んじゃったのか?
「…………(ぐごー、ぐごー)」
なんだ、この音?
「あ、御就寝です」
取り巻き中最年長と思われる老婦人が、代表して告げた。
「「「「…………」」」」
みんな呆然としてる。
「寝たのかよ!」
仕方ないから、俺が代表して突っ込んだよ。
◆
行き過ぎた敬老精神が、お年寄りを不快にする事もある――まる。




