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066◇嵐の中に咲く花


 『全知全能神神殿』で()り行われているという『荒嵐(あらあらし)(はら)い』の儀式は、真摯(しんし)な祈りの力で、災厄(さいやく)荒嵐(あらあらし)』を退散させる「秘儀」らしい。


 てか『荒嵐』って、要するに「台風」とか「ハリケーン」みたいなものだから、勝手に移動するし、それを「祈りの力」で退散させるって言われてもな……。


 『神殿』の活動に、真剣に、真面目に取り組んでるシンシアさんやヒサヤには言えないけれども。


      ◇


「うむ。では、我が『宮殿』に()こう」

 ラウラ姫だ。声に少し湿った響きがある。


 姫は口には出さないけど、にぎやかで大人数な方が好きらしい。

 シンシアさんたちが抜けて、少し残念そうだ。

 根は「寂しがり屋」ってやつなんだろうな。


「かしこまりした。殿下」

 プリムローズさんが、丁寧に一礼して応じてる。


 反対に、筆頭侍女様の方は、人が多いのが苦手なのにに違いない。

 無秩序な騒音が引き金になって、持病の頭痛が起きているらしいし。

 神殿組が抜けても、まだ人間9人と猫一匹。少ない人数じゃないしね。


「俺は野宿しますよ」

「よしなさい」

「ハイ」

 プリムローズさんに言われると、翻意(ほんい)させざるを得なくなります。


「ところで、その『宮殿』に何か問題でもあるんスか?」

 明らかに迷惑そうなので、訊いてみた。


「広さはまったく問題ないし、全員余裕で泊まれるだけの部屋数はあるんだけど」

「……けど?」

「人手がまったく足りないのよ。お客様に『おもてなし』どころか、全部自力で自炊してもらう事になるんだけど……」

「そうなんスか?」


 なんで、一国の第三王女がそんな事になってるんだ?


「では、私をお使いください」

 マルカさんだ。メイド魂が燃えているらしい。

「わたくしも!」

 ジリーさんも熱い瞳で志願した……イヤ、ドロレスちゃんが後ろから二人に指示したらしい。


「御厚志に感謝いたします。なにとぞ、ご協力ください」

 プリムローズさんは、きちんと頭を下げる。

 事前に、そんな段取りになっていたみたいだ。ちょっと小芝居っぽい。


「うむ。では、赴こう!」

 ラウラ姫が、感傷を振り払うように、快活に言った。


      ◇


 馭者台で、プリムローズさんに訊ねた。


「それで、姫の『宮殿』って、どのあたりなんスか?」

「お向かいよ」


 ご近所かよ。


 てか、それならもう見えてるよ。


「あそこって……『宮殿』なんスか?」


 どう見ても、そうは見えない建物だった。


 幾何学的な庭園や噴水のある白い宮殿で「焼肉のたれ」を作ってる……イヤ、「焼肉のたれ」は作ってなくてもいいけど……そんなのを思い描いてたけど、どちらかというと――


「……劇場か、映画館みたいっスね」


 ただ、『この世界』には「劇」はあっても「映画」は無いらしい。

 でも『地球』じゃ、アニメ映画を「劇場版」って、よく言うから……なんかややこしい。

 さらに言うと、俺って『前世』では、あんまり「劇場に足を運ばない人」だったから、映画を自宅のPCで観た記憶の方が多い気がする。


「……やき、にく、ない、やん」

 何故か猫耳奴隷のセシリアが、しょんぼりしてるし。


 それはそれとして、「角地(かどち)」にあるのに、その先端が大胆に丸く曲線を描くデザインなのだ。

 通りに沿った壁には、窓(開閉不可能なガラス窓だ)がたくさん並ぶ、開放的な建物だ。

 と言っても、いま現在は『荒嵐(あらあらし)』対策らしく、全部閉まってる上に、所々に補強の板が()められていた。


「劇場ね……惜しい。本来は音楽堂よ。『王都大火』後の、再開発の目玉だったらしいわ」


 音楽堂って、コンサートホールみたいなものか?


「『地球』で言うところの『おーけすとら』の演奏や『おぺら』が上演されるような『歌劇場』を、『この世界』では『音の宮殿』って呼ぶらしくてね。ただ……」

 馭者台から降り立ったプリムローズさんが、なんとなく言いにくそうだ。


「本当かどうかも分からない幽霊騒ぎで『亡霊宮殿』呼ばわりされててね。しばらく封鎖されていたのを、すこし前に殿下が下賜(かし)されたのよ」

「……亡霊っスか?」


 ホラーは苦手だ。

 でも、『この世界(アアス)』には『魂』の循環『輪廻転生』があるらしいし、「たとえ死んでも来世がある」という妙なポジティブシンキングで、みんな生きてる印象がある。


 なので、呪縛霊だとか亡霊だとか、そういう怪談話は聞いた事がないんだけどな。


 それに「彼女」から聞いた話が本当なら――


      ◇


 『永遠の道』同士の大交差「X」によって、大きく四分割されている『王都』の、『南の街区』の頂点部分に『全知全能神神殿』があり、そこから『南東路』を挟んで『東の街区』の頂点部分に、ラウラ姫の『宮殿』があった。


 土地としたら「一等地」だろうけど、一度は『王都大火』で焼け野原になってしまった場所。


 もともとは、ミーヨの生家だったオ・デコ家のお屋敷の跡地。

 そこに、燃え残りの建築資材で建てられた『宮殿』が、ラウラ姫の現在の()()だそうだ。


 なんの巡り合わせか……その二人とえっちして、『(いと)(びと)』というか恋人関係にある俺ってなんなの?


 けれど、いろいろと思い悩む暇もないな。

 『永遠の道』を渡るだけなので――あっさりとそこに到着しちゃうし。


 とにかく「近くて、すぐそこ」なので、さっさと行こう。


「わたし……見ておきたい」

 ミーヨが馬車の外に出て来た。

 決意に満ちた表情だ。自分の目で確認しておきたいらしい。


「どうすればいいの? わたし『★回転☆』なら使えるよ?」


 どうでもいい事なので、今までずっと秘密にしてきたけれど、実はミーヨは何故か『魔臼(まうす)(魔法式碾臼(ひきうす))』の操作が得意なのだ。

 『魔法』のミキサー……じゃなくて「ミル」だな。固体を粉粒にする「粉ひき」だ。

 『冶金の丘』のスウさんのパン工房にいた時には、ゴリゴリに粉を()きまくっていたのだ。


「ここの部品を回転させるイメージなんだよ」

「ここ? ここでいいの?」


 某声優さんを思い出しちゃうような事を言いつつ、確認された。


「ここだよ」

 セシリアにも教えたコツを伝授する。

 『俺の馬車』の後輪の車軸の真ん中に付いてる「制動用の円盤(ブレーキ・ディスク)」を回転させるのだ。

 これって要は「はずみ車」だから、回ってるところをイメージしやすい。

 ただ、普通は「馬力」と「トルク」が足りなくて、馬車みたいな重い物を動かそうとしても不発に終わるらしい。


 でも、そこは俺様。

 俺との『合体魔法』でブーストすれば、フツーは不可能な「魔法走行」が可能になっちゃうのだ。


「『いめーじ』……思い浮かべろ、って事だよね?」

 ミーヨは少し考え込んだ後で、

「祈願! ★回転っっ☆」

 俺と握手して、『合体魔法』を発動させた。


 虹色のキラキラ星が、「制動用の円盤」にまとわりつき、それを回転させ始めた。


 そして『俺の馬車』が、ゆっくりと後退し出した……。


「向きが違う! 向きが!!」

「うええっ」


 さすがは俺とミーヨの『合体(魔法)』。


 バックでし……イヤ、バックしちゃったよ。


      ◇


 結局、俺とミーヨの間に猫耳奴隷のセシリアを挟んで、3人で『★魔法の馬☆』を発動させた。


 車内に戻ったプリムローズさんから、すれ違いざまに「親子連れみたい」って揶揄(からか)われたよ。

 俺いま『一日奴隷』の「ロバ耳」着けてるけど、その娘は「猫耳」か? そして嫁は「弱点」がそこか? ……どんな家族構成だよ?


 『永遠の道・南東路』を渡って、『宮殿』の大門を目指していると、

「ジン。馬車を回頭(まわ)して!」

 『★伝声☆』で指示があった。プリムローズさんだ。


「この暴風じゃ、こちら側の大門は開けられないのだったわ。『北東路』の方にも大門があるから、そこから馬車ごと中に入りましょう」


 『北東路』って言ったら、反対側だ。

 俺たちが『冶金の丘』から来た道だ。

 来た時には、巨大な(ふた)つの塔が目立つ『全知全能神神殿』と、ずぶ濡れで透け透けで、なおかつ巨大な(ふた)つの果実が目立つクリムソルダ嬢に完全に気をとられて、『宮殿』の存在にはまったく注意を払わなかった。

 なので、そんなものがあったとは全然気付かなかった。


「めっちゃ回り込む事になるじゃないですか!」

 馭者台から、物見窓上部の換気口に向かって言ってやったぜ。

 そんな事なら、前もって言っておいて欲しかったよ。


「仕方ないわよ。ここ『(かぎ)型』の建物だから、回り込まないと、入れるとこがないのよ!」

 また『★伝声☆』だ。

 魔法のイヤホンと化してる「真珠っぽい耳栓」が、「振動子」だ。


「鉤型?」

「『える』字よ」

 古典部の○反田さん?

 あの、でっかいお屋敷にお邪魔して、おにぎりご馳走になりたい……じゃなくて、アルファベットの「L」字の建物か。


「奥が馬車用の駐車場になってるのよ」


 全体の敷地が「二等辺三角形」になっていて、建物はL字で、その中庭部分は「カープール」になってるらしい。

 てか、「カー」じゃないか。

 でも「馬車」って、英語だと種類によって名称が違うしな。

 「クーペ」とか「ワゴン」とか……自動車の「車種」のモトネタになってるそうだけど。


「あっちだって」

「あい」

 言われた通りに、ミーヨが焼き肉好きらしいセシリアに指示を出した。

 ちなみに、彼女たちの耳にも、俺が錬成(つく)った「真珠っぽい耳栓」が入ってる。

 ミーヨの耳に装着してあげた時、色々あって個人的にはとても楽しかった(笑)。


 本来なら、交通の流れに沿って『大交差』を段階的に曲がって行くはずのところを、『荒嵐(あらあらし)』のせいで他に馬車がいないのをいい事に、ズルして「反対車線」を逆走し、言われた大扉の前で待機する。


 車内から登場したプリムローズさんが、ふしぎな赤い光沢を放つ黒い侍女服に着替えていた。

 『三人の王女』の一人、第三王女ライラウラ姫殿下の、筆頭侍女モードらしい。


「風で馬車が動かないように、抑えておいてよ!」

 馬車から地面に降りた彼女に、そう注意された。

 中心である「術者」の移動に合わせて『★星の雨傘☆』の有効範囲も移動しちゃうからだ。


 俺は馭者台にある「制動装置」の引き手を思いっきり引っ張った。

 でも、『合体魔法』で発動させたそれは、必要以上に有効範囲が広かったようで、扉に向かったプリムローズさんとの距離が開いても『俺の馬車』が暴風雨に見舞われることはなかった。


   ゴンゴン! ゴンゴン!


 大きな門扉(もんぴ)の中の扉――人間用の出入り口だ――に付いている、何か猛獣っぽい生き物の顔を(かたど)った「ノッカー」を、遠慮なく連打してる。

 ただ本人は苦痛だろうな。耳元うるさそう。

 嵐の最中だから、それくらいじゃないと聞こえないのかも知れないけれども。


 小さい扉が少し開いて、プリムローズさんは中の人物と何やらやり取りしている。


「そんな話は聞いてない! いつの話だ?」


 声を荒げてる……ってことは、また想定外のトラブルか?


「では、伝えてくれ! 第三王女殿下がただ今戻りました、と」

 プリムローズさんの声しか聞こえないけど、留守番の人と揉めてる感じだ。


      ◇


「まったく、あの二人もいないなんて……」

 プリムローズさんが馬車に戻って来て呟いた。

「あの二人……?」

「いたろ。私の他に、第二と第五侍女が」

 ちょっと苛ついているようだ。口調が荒い。


「ああ、そう言えば……」

 俺とラウラ姫の『破瓜(はか)()』の後に、とあるアイテムを届けに先行して『王都』に帰着してるはずの二人か。

 ほんのちょこっとしか会った事ないから、忘れてた。


「仕方ない。車内で待とう」


 ――待つことになった。


 みんな、車内に移った。


 どこからか「監視」されていたのかもしれない。

 誰かに見られているような、妙な気配を感じる。たぶん『宮殿』から。


 『俺の馬車』には今、9人の人間と一匹の猫が押し込められている。


 一応全員座席には座れているけど、さすがに窮屈だ。

 せっかく目的地に着いたのに、車内で待機はかなり辛い。

 いつまでも、こうしてここにいるのは耐えられない感じだ。


「「「…………」」」


 プリムローズさんの苛立ちが伝わり、みんな無言のままだ。


 そこへ門番らしい男性が現れて告げた。


先々代(さきのさき)の女王陛下のお許しが出ました。馬車ごとに中にお進み下さい!」


 え? 誰だって?


「なるほど、先々代(さきのさき)の女王陛下か」


 プリムローズが一人納得してるけど……ちゃんと説明しろよ。


「先ほどの問答では、あの御仁(ごじん)(門番のことだろう)『さる王族の方』としか言いませんでしたので、不確定でしたが……ただ今、告げられたところによると、殿下のひい(・・)御祖母(おばあ)様にあたられます『先々代(さきのさき)の女王陛下』が、殿下の『宮殿』を乗っ取っておいでのようです」


「む? オオババ様が?」

 ラウラ姫も不審そうだ。


「乗っ取る……って、どういう事ですか?」

 ドロレスちゃんが訊ねる。


「殿下のお留守のあいだに、近侍(きんじ)たちと引っ越して来ていたそうだ」

 プリムローズさんがこめかみを押さえてる。色々とトラブル続きで頭痛もするわな。


「むう(ぷくう)」

 ラウラ姫が子供っぽく頬っぺたを膨らませてる……。


「「「……」」」


 他のメンバーには口出し出来る問題じゃないので、黙り込んでしまっている。


 そこに――


「強風のため、門扉の開閉が困難です。申し訳ありませんが、後日出直していただけませんかな?」

 馬車の外から、そんな声がかかった。


 ――無体な事を言う。


 「入れ」って言っておいて、直後に「ダメ」ってなんなんだよ?

 そんな「おあずけ」酷過ぎる。

 でも、相手はおっさんだしな。


「どうしましょう?」


 俺が訊くと、プリムローズさんが手を差し出した。


「ジン。手」


「わん! って、イヤ、ロバ耳だし!」


 俺はついつい「お手」して、即座にセルフで突っ込んだ。


「ボケもノリツッコミも要らない。『合体魔法』だ。目にもの見せてやる」


 あ、普段は澄んだ水色の瞳が、血の赤みで紫色に変わってる。


 何かやる気なんですね?

 ちょっと怖いんですけど……。


      ◇


 二人で馬車の外に出た。


「ジン。『強風のため、大扉の開閉が困難』だそうだ。どうすればいいと思う?」

 プリムローズさんが冷たい表情で俺に訊ねる。


「……風が吹き止めばいいんじゃないんスか?」

「そうだね。そうしよう」

 プリムローズさんは、厚めの赤いくちびるをキュッと吊り上げる。


「握るよ」

「はううう」

 クリちゃんことクリムソルダ嬢みたいな情けない声が出る。

 しかし、正直、とてもいい気持ちだ。


 プリムローズさんは何を考えているのか、『夏の旅人のマントル』の隙間から、左手を挿し入れ、俺様の俺様を握りしめたのだ!


「……これって」

 そして、げんなりした顔で言った。


「ああ、君、下着着けてないんだっけ……忘れてた。直接握っちゃったよ……」


 イヤ、あんたこそなんのつもりなんだ?


 俺様の金○袋の中の『賢者の玉』の、より近いところに接触して、『魔法』を強化する力を増大させようとする意図なのかもしれないけれども……。


 いきなり直接握りしめるなんて!

 気持ちいいじゃないっスか! △△しちゃうじゃないっスか!!


「ホラ、行くよ!」

「……ハイ」


 握られたまま、体ごと引っ張られて、『永遠の道』の真ん中に出る。


「……はううう」

「変な声出さないの!」


 だったら、ヘンなとこ引っ張らないでください。

 俺様の俺様は、犬の散歩用のリードじゃありません。


「ちょうど『道』には人っ子一人居ない。馬車も居ない。右良し。左良し」


 鉄道員みたいに左右を指差し確認してる……。

 いったい何のつもりなんだ?


「真冬の『神授祭』で暴風雪を防ぐための『魔法』だ。これで『荒嵐』を一時的に止めて見せる! じゃあ、行くよ。『守護の星』よ! 『世界の理(ことわり)(つかさ)』に働きかけよ! ★大気の長城ッ☆ エネルジコッ!!」

 バキン! と指が鳴った。


   キラキラキラキラキラキラキラン☆


 物凄い勢いで『守護の星(普通サイズ)』のキラキラ星が降り注ぎ、そして散っていく。


 プリムローズさんは無人の『永遠の道』の上に、『★大気の長城☆』という、とてつもなく巨大な空気の壁を作り出したらしい。


 最後の「エネルジコ」って、『全知神』さまの個人(?)的な趣味で、『世界の理の司』に登録してあるという地球の「音楽用語」だろう。

 でもって、エネルギー・パワーアップ的な意味だろう……たぶん。


 ところで、暴風雪を防ぐため……って事は、巨大な防風フェンスみたいに作用するのか?


 『荒嵐(あらあらし)』は、大気の渦……言い換えると「空気の回転」。

 回転する流体を止めるには、回転運動を阻害するように、壁状の「ストッパー」を挿入すればいい――のか?


 イヤ、はっきり言って俺よく知らないよ?


 それにしたって「台風」みたいなものを止めようとしたら、その半径分だけでも何㎞になるんだ? 100㎞以上だろ? 「100なのです」以上だろ?


 そんで、「台風」って衛星軌道からでも確認できるくらいの高層まで渦があるはずなのに……もう、規模が無茶苦茶だぞ。


   ゴォォォォォオオオオ――


 風が、大気が、荒れ狂っている。


 おそらく……このままじゃ無理だ。

 台風だのハリケーンだのって、とんでもなく膨大なエネルギーを秘めていて、核爆弾を何発もブチ込んでも止められないって話を、何かで見た事がある。


 俺は、決断した。


 バサッとな!

 『夏の旅人のマントル』を脱ぎ捨てた。


「え?」


 いきなり、『合体』してる部分を直接見せつけられて、プリムローズさんが呆然としている。

 ずっと握られっぱなしなのだ。離してくれないのだ。


「断っとくけど、貴女(あんた)がずっと握りしめてるんだから、俺の精……俺のせいじゃ」


 ……ダメだ。


 正直に言おう。気持ちいい(笑)。


 もう、限界だ。もう、我慢出来ない。


 このままでは……また「暴発事故」が発生してしまう。


 しかし、俺とて猿ではない。過去の失敗から学んでいる。


 こんなこともあろうかと、密かに準備していた新ワザ披露だ!


(○液錬成。リンスインシャンプ)


「……う」


 あかん。間に合わなかった……。


「ぎぃやぁぁぁぁぁああああああ!!」


      ◇



 えーっと、詳しい描写ははぶくけど……また『白い花』咲かせちゃいました。

 てへ。



      ◇


「なななななななななななななななななな」

 なんだそれ?

 「いちめんのなのはな」か?


「かすかなるむぎぶえ?」

 一応、付き合いでボケてみる。


 てかコレなんだっけ? あとでプリムローズさんに訊いて……怒られるかな?


「わたわたわたわたわたわたわたわたわた私」


 綿(わた)が多すぎ。

 伝説のティーコゼー「プッ○ン」か?

 『ハチ○ツとク○ーバー』か? 怒られるか?


 俺は遠慮なく突っ込むぜ。ただし心の中でだけだけどな!


「♪ラアラア ラアラア」


 今度は歌い始めたよ……。

 何かの「悲しみ」に(さいな)まれているのか?

 風は吹きすぎてるけど、小雪は降りかかってないよ?

 でも「中也(ちゅうや)」って言ったら、某アニメの方しか頭に浮かばない……俺も重力操りてー。


 それはそれとして、いつまでも壊れかけのプリムローズさんに付き合っている暇はない。


「とりあえず、話は後で!」


 俺は言い捨てて、全裸のまま、『★大気の長城☆』に飛び込んだ。


 未だに原理は不明だけど、俺の『★不可侵の被膜☆』ならば、俺の肌に触れる、ある程度以上の衝撃の運動エネルギーを奪い取って、ゼロに出来る。

 それに賭けたのだ。


 ……プリムローズさんにもぶっかけちゃったけれども。


      ◇


 『魔法』はイメージだ。


 ――この惑星(ほし)この世界(アアス)』では、心の中で「思い描いたこと」が、生物の体内……脳内にまで常駐する『守護の星(極小サイズ)』を介して『世界の理(ことわり)(つかさ)』に読み取られ、『魔法』の「実行部隊」である虹色のキラキラ星『守護の星(普通サイズ)』を動かし、実際の現象として発現出来るのだ。


 その昔、この大陸では『月の欠片』という、とんでもなくバカデカい物体が落ちて来て、そのまま「山脈に成った」そうだ。


 小惑星レベルの物体が落ちて来たにもかかわらず、衝撃波とかで大量絶滅なんて起きなかったらしい。


 それは防いだのは、この俺の皮膚に張られた『★不可侵の被膜☆』とかいう「無敵のバリアー」と、同種のものに違いないのだ。


 俺なら……出来る。


 俺はプリムローズさんが展開した『★大気の長城☆』と一体化するイメージを思い描く。


 俺ひとりでは出来なくても、『合体魔法』として発動させた場合には、俺のイメージもある程度『魔法』に反映されるのが判明しているのだ。


 『荒嵐』をブロックするのだ!

 某工業高校バレー部の「鉄壁」の(ごと)く。


 ……イヤ、待てよ。


 むしろソフトにキルした方がいいのか?


 衝撃吸収って、「変形」してエネルギーを消費するのが一番良いんじゃなかったっけ?


 何か……柔らかいもので、『荒嵐』の膨大なエネルギーをすべて受け止め、吸収するようなイメージで。


 ……やわらかいもの……やわらかいもの……やわらかいもの……。


 わざわざ悩む必要なんてないか……答えはひとつだ。


 賢明なる読者諸氏には、もう既にお分かりだろう。


 俺は「おっぱい」をイメージした(笑)。

 

 ぽよんぽよんで、ぷよんぷよんなやつだ。


 ――イヤ、重要なのは「弾性」か?


 どうせイメージするんなら、落下する蛍光灯や、「はなまるマーク(?)」を、ぽよよよーん、と弾き飛ばしてしまうような弾力のある、大型で強い「おっぱい」をだな。


 なお、前者は、今となってはちょっと懐かしい『生○会役員共*』のア○アだ。

 後者は『がっこうぐ○し!』のOPの「り○さん」だ。ちなみにOPって(以下略)。


 それはそれとして、この付近にある全ての『守護の星(普通サイズ)』を合体させ、大気圏上層あるいは宇宙空間に存在していて有害な宇宙線から地上の生き物を守っているという『守護の星(特大サイズ)』にまで繋がり、タイフーン・ストッパーとなるのだ!


 もうこうなったら、なんとしてでも『荒嵐(あらあらし)』を(しず)めるのだ!!


 ――そうしないと、


「男女9人プラス猫1匹で、馬車の中で車中泊なんて、イヤどぅぁぁあああ!!」


 もう4日もしてないから、いつ「暴発事故」が起きても不思議はないんだぞ!


 ……もう既に起きちゃってしまっているけれども。


      ◇


 そして、俺の目論見は上手くいった。


 虹色に揺れる半透明の膜が、波打つようにうねり、エネルギーを吸収、分散させているのが見える。


 吸収しきれない分は、不可視の巨大なストッパーに阻害され、上方に逸らされているのが、吹き飛ばされて来た葉っぱの動きで見て取れた。


   ビュュユユュュュュュ――


 暴風が、(しず)まっていく。


 ――『荒嵐』は終息に向かっていくようだ。


 全ては終わった。


   し――ん


 『王都』は、まるで嘘のような静けさに満ちていた。


 何か動物の体臭のような、生暖かい空気が澱んでいる。


「……よし」

 俺は一人、成し遂げた気分で呟いた。


 そして、戦い終えた剣士が、剣を振って血糊を払うように、俺も「先端に残っている残り」を振り払うように、腰を回して勝利のプロペラ・ダンスだ。

 その遠心力によって「先端に残っている残り」も飛び去っていく。


「「「「プロペラ小僧さま……」」」」


 定着しつつあるけど、それ、ホントにやめてください。


 『俺の馬車』から出て来た俺の仲間たちみんなが、俺の雄姿を見守っていた。

 てか、次郎氏にまで見られてた。イヤン。


 そこに、どういう作用か解らないけど、小粒の(ひょう)の混じった冷たい雨が降り始めた。


 暴風(かぜ)を伴わない、真上からの雨だった。


      ◇


 冷たい氷雨(ひさめ)から逃げるために、『亡霊宮殿』の大門をこじ開けて、敷地内に入った。


 馬車で訪れる人たちにとっては「正門」に当たる、大きな裏門の前の「馬車寄せ」の屋根の下で、俺たちはようやく一息ついた。


 黙り込んでるのも何なので、

「やりましたね、プリムローズさん! 『荒嵐(あらあらし)』が跡形も……イヤ、雨降ってますけど、暴風雨って感じはなくなりましたよ。大成功ですね?」

「……(虚脱)」

 持ち上げてみたけど……失敗だった。


「プリムローズさん?」

「……(魚眼)」

 目が死んでますよ?


 何がそんなにショックだったんだろう?


 惑星規模の気象現象『荒嵐』を消し去った事か?


 それとも、俺が華麗に咲かせた『白い花』の方か?


 ……その両方かもしれないけれども。


「★乾燥☆ ★洗浄☆ ★消臭☆」


 プリムローズさんが力なく、機械的に、自分自身に衛生系の『魔法』をかけ始めた。

 無自覚なまま俺の手を握り、『合体魔法』として発動させているので、いちいち威力が物凄い。


 そして……以前プリムローズさんがラウラ姫にしてあげてた時には、「汚物除去」とかいう聞き捨てならない『魔法』もあったけど、今回はそんな魔法は使わなかった。要するに「気の持ちよう」なんだろう。


 この世に「汚物」なんてないのだ、と思えばその通りなんだし。


 彼女は『合体魔法』を連発した挙句、

「★滅菌☆ ★消毒☆ ★記憶消去★……(ごちん!)」

 いきなり壁に頭突きして、気を失った。

 最後に、なんか見慣れない、小さな「黒い星」が見えた気がする。


「…………」

 呆然とした。


 以前、プリムローズさんがラウラ姫にしてあげてた時には、『記憶消去』は『魔法』として発動しなかったハズなのに……今回は発動したな。


 やはり『魔法』はイメージ。


 強い想いが大事なんだな、きっと。

 よっぽどイヤだったんですね? どうしても忘れたい心の傷なんですね?


 てか、今もの凄い音を立てて壁に頭突きしましたけど……そっちは大丈夫ですか?


「……はッ! ここはどこやねん? ウチ誰やねん?」

 プリムローズさんは、唐突に正気(?)を取り戻した……ようだ?


「大丈夫っスか? 強風で飛んで来たコンビニの『のぼり』が頭にぶつかって、少しの間気を失ってたんスよ」

 俺は適当な事を言ってみた。


「なんや、ベタベタしたもん、ぶっかけられた気もすんねんけど」

「『とろろ』っスよ。強風で飛んで来たコンビニの『そば』に入ってたヤツです」

 俺はさらに適当な事を言ってみた。


「ああ、せやったんか……」

 プリムローズさんは朦朧(もうろう)としたまま、俺の言った事を受け入れてしまったようだ。


 ホントに忘れてんのかな?


 ちょっと試してみようっと。


「唐突ですけど、プリムローズさん」

「なんや?」

「野原一面に咲く菜の花を思い浮かべてください」

「……(瞑目)」


 目を閉じて、その光景を想像しているらしい。


「ではお訊ねします。『いちめんのなのはな』とか『かすかなるむぎぶえ』とか言うフレーズが入ってるのって、モトは何かご存知ですか?」

 訊いてみた。


「……詩やね。山村暮鳥(ぼちょう)の『風景 純銀もざいく』っていう詩」

「なるほど。そうでしたか。ありがとうございます。プリムローズさん」

「ああ、かまへんけど」


 うん、忘れてるようだ(笑)。


 そして今ので『白い花』は「黄色い菜の花」に上書きされちゃった事だろう。


 このまま有耶無耶にして、無かった事にしてしまおう!


      ◆


 その昔、熱帯性低気圧を核爆弾で止めようと研究していた人たちがいたらしい――まる。

次回は明々後日となります。

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