065◇メロン味のクリームソーダ
「それでは、行ってまいります」
「お気をつけて! 無事をお祈りしています!!」
俺が言うと、
「目の前ですから」
シンシアさんがにっこりと笑った。
シンシアさんとヒサヤ。そしてプリムローズさんが『俺の馬車』から出て行く。
目の前にある『全知全能神神殿』に『七人の巫女』ロザリンダ嬢の到着を告げるためだ。
あとは当人たちの滞在許可みたいな手続きもあるらしい。『巫女見習い』なら、どこの『神殿』でも自由に出入り出来るワケでもなさそうだ。色々と所属やら階級やらあるっぽい。
ちなみにプリムローズさんは『魔法』の雨除け要員だ。傘代わりだ。
「……(ギロリ)」
何故か本人に睨まれた。怖っ。
◇
「……すう……はうう……すう……」
俺が助けた子は、髪の毛が無茶苦茶なまま、まだ寝てる。
呼吸もだいたい落ち着いてる。
寝息に合わせて上下する胸元を見てるのは楽しい。
大きくてまん丸いグレープフルーツのようなお胸だ。くっはー。
「ところで、この子。ロザリンダさまによく似てる気がするんですけど」
俺は「グレープフルーツちゃん(仮)」とロザリンダ嬢を見比べる。
二人ともねっとりとしたクリームみたいな金髪がそっくりなのだ。白い肌の色も。
まだ瞳を閉じてるけど、くちびるのぽってりした感じも似てる。ツンとした鼻筋も。
そして、なにより、二人とも「パイ○ツカイデー」だ(笑)。
「ぎくっ」
……わざわざ、そんな擬音を口に出さなくても。
「たしか『巫女選挙』に出る予定の妹さんがいるとか」
俺は追及する。
「……そうです。この子は私の不肖の妹です。名をクリムソルダといいます」
ロザリンダ嬢が事実関係を認めたようだ。
妹に近寄って、無茶苦茶に乱れた髪を直してあげようとしている。
――でも、その子を俺が「偶然」助けたのか?
そのうち出会う事になるだろうなあ……とは思ってたけど、もう、か?
ここまでくると『ご都合主義』も、いっそ清々しいな。
爽やかな清涼感すら感じるよ。
ま、いいけど。
にしても、姉は尖った「ロケット」なのに、妹ちゃんはまん丸い「グレープフルーツ」か……。
二人ともマンガのような巨乳だ。二人ともあいだに挟まれたら最高だろうな。
あれ? 二人のあいだに挟まれたら最高だろうな、か?
イヤ、どっちもアリだな。
「……(じーっ)」
気付くとミーヨの視線が、右の頬に刺さっていた。
「……」
俺は慌てて、巨乳姉妹から目を逸らす。
その先に居たラウラ姫とドロレスちゃんの王女姉妹を、つい見てしまう。
「む?」
「なんですか? お兄さん?」
「……別になんでもないよ」
お二方とも「グレープフルーツ」からは程遠かった。
でも、大丈夫。
俺は世間話でお天気の話の後で「どんなおっぱいが好きですか?」と訊かれたら、「全部」と答える「おっぱい博愛主義者」なのだ。
そして、もしそこで「お婆ちゃんの垂れ下がったおっぱいでもいいんですか?」と訊かれたら、「あれはおっぱいじゃなくて、おっぱいを引退した『垂れ乳』です」と答えるさ。
てか、そんなシチュエーションまず無いか。
うん、絶対にないな。
――イヤ、まてよ。
名前が「クリームソーダちゃん」なんだから、グレープフルーツは不適当だな……他にまん丸い果物……おお、ちょうどいいものを思い出した。
「メロンだ!」
俺が思わず叫ぶと、
「な、なぜご存知なのです?」
ロザリンダ嬢が本気で驚愕している。
「えっ?」
なんの話っスか?
「家名です。私たち姉妹の……この子はクリムソルダ・ダ・メルォン。ただし、『巫女』や『巫女見習い』は家名を名乗らないのが通例。貴方にお教えした覚えはありませんが……何故ご存知なのです?」
如何にも不審そうにそう訊かれた。
そうだったの?
たまたま、妹さんのお胸見て言ってみただけっスよ?
にしても「メルォン」なのに、『この世界』の発音だと完全に「メロン」に聞こえる。
そして貴族のD音入りの名前だ。ロザリンダ嬢も貴族の家柄だったのね。
そんで……気のせいだとは思うけど「駄目ロン」に聞こえるな。
(ああ、やはり、そうだったのですね? メルォン家のロザリンダ様)
その呟きは小さく、多分俺の耳にしか届いてなかっただろう。
その声を発したのは――ドロレスちゃん付きのメイドの、マルカさんじゃない方のジリーさんだった。
昔『王宮』で働いてたらしいけど……どういう関係なんだろう?
「あっ……んあ」
色っぽい声を上げて、メロン味のクリームソーダちゃんが目を開けた。
「……お、おねいちゃん? お久しぶりっこですぅ」
その一声で察した。
この子、駄目そうだ。
◇
「おねいちゃんがー、わたしをー、助けてくれ……違いますーよねぇ?」
キツい印象の姉ロザリンダ嬢と真逆に、妹クリムソルダ嬢は、ぽわんとして、ふわふわした子だった。髪の毛は無茶苦茶なままだけど。
そして「メロンみたいなおっぱい」って何かのアニメであったな。
可愛い感じの短編アニメ……『ピア○ェ』だったかな?
「あのですねー、わたしをー、助けてくれたのはー、確かー、裸のー男の人だった……と思うんですよぉ」
どことなく、トロそうな緑色の瞳だ。ミーヨのペリドット・アイとも違う、メロン色の瞳だ。
「もしかしてー、あなたーですかぁ?」
じっと見つめられる。
どうでもいいけど、俺の『脳内言語変換システム』では、この子の「語尾」が小っちゃい「母音」で表示されてる。でも胸元を見ると、大っきいボインだ(笑)。くっはー。
「ちょっとー、確認してもー、いいですかー? 祈願。★おむつ取り換えぇ☆」
その子が言うと、虹色のキラキラ星が俺の「おむつ」にまとわりつき、それをしゅるしゅると外してしまった。
「清き乙女」の『巫女見習い』って『育児魔法』は使えないものだと思っていたけど、そんなことはないようだった。
てか、俺の意思に反して、全裸だ。
すっ裸に剥かれてしまった。イヤン。
「「「「「…………」」」」」
みんなが固唾を飲んで、その様子を見守っていた。
イヤ、誰か助けて。
「……」
クリームソーダちゃんに、俺様の俺様をガン見される。
「あ、はい。確かにぃそうですねー。先ほどー、わたしをー、助けてくれた方のー、ち○こです。良かったー。こんなことしてー、別人だったらー、大変ですものねぇ?」
イヤ、本人でも大変なことですよ?
てか顔とか指紋とか声紋とか虹彩とかじゃなくて「ち○こ認証」って何だよ?
こんな方法で「本人確認」されたの初めてだから、ドッキドキだよ。
「ああ、ぜんぜん変わってない。……御覧の通り、少し常識に欠ける子なのです」
『ロケットおっぱい』のロザリンダ嬢が悄然と言った。
しかし謝罪の言葉はなかった。でもって「少し」か? 「だいぶ」だよ。
そして「ロケットおっぱい」って何かであったな。
アニメじゃないな。こっちは確実にAVだな(笑)。
「おっきぃ、おにーさん。助けてー、いただいてー、ありがとーございましたぁ」
「ジンです」
「ち○さん?」
「ジンです」
ちゃんと呼んで欲しいです。
「わたしはー、クリムソルダですう。お気軽にぃ、クリちゃん、って呼んでくださいねぇ」
「……」
いえ、無理です。
女性をそんな風に呼ぶことは出来ません。不可能です。
「あっ! いけないっ! 名乗っちゃった! どうしよう、おねいちゃん! 『巫女選挙』の前ってー、男の子にぃ名前ー、教えちゃいけないー、決まりなのにぃ!」
クリームソーダが泡立ってる……イヤ、クリムソルダ嬢が慌ててる。
そう言えば、シンシアさんに初めて会った時も、同じような事を言われて、本人からは名前を教えてもらえなかったっけ。いま出掛けてて居ないけど。
「選挙は違反で失格ですね」
俺はからかってみた。
「はううう」
クリムソルダ嬢は泣き出しそうだ。めんどくさい子なのか?
「大丈夫です。こんなことになりそうな予感がありましたので、貴女が名乗る前に、私が名を告げておきました」
ロザリンダ嬢が目眩を感じているかのように眉間を押さえながら言うと、
「はううう、ホントぉ?」
クリムソルダ嬢は、ほっとしたようにメロンを揺らした。
そう、理由は知らないけど、他人から教えられる分にはOKらしいのだ。
◇
話を聞いてみると、本人が言っていた「『巫女選挙』の前って男の子に名前教えちゃいけない決まり」を愚直に守り、門番に自分の名前を告げなかったために、不審者扱いされて『神殿』に入れてもらえず、『荒嵐』の中で途方に暮れていたところを、俺が助けたらしい。
うん、アホな子だ。
異世界にも居たよ、ア○ガール。
やっぱバナナ好きなのかな? 『この世界』には無いけど。
「で、花畑○しこさん」
「クリムソルダです。クリちゃん、でいいですよぉ」
クリちゃん……イヤ、クリムソルダ嬢はにっこりと笑って言った。
笑うとかなり可愛い子だった。……髪の毛は無茶苦茶なままだけど。
「ほらー、クリちゃんってー、呼んでくださいよぉ」
「……ク……クリムソルダさん」
イヤ、呼べないってば。
「ところでー、ち○さん」
「あ、忘れてた! 服着てなかった!」
ミーヨが俺が全裸のままなのに、ようやく気付いた。残念。
「じゃーん。『夏の旅人のマントル』~っ!」
ミーヨが言って、デカい布のマントを広げてみせた。
マントだよな? なんでマントルなの?
そして何故『ドラ○もん』風?
……って、以前もやったな。こんな事を。
「前の『駅』で買っておいたの忘れてた。さ、これ着て、隠して」
ミーヨが言って、それを渡してよこした。
頭巾付きで、足元まで覆えるような大きさの、淡いベージュ色のマントだ。
なので、フードを被ってる状態で後頭部に「へのへのもへじ」と書かれたら、てるてる坊主みたいになってしまうだろう……って、なりたかねーよ、そんな風に(泣)。
「ナニコレ? 何の布地?」
「『脱衣亜麻ちゃん』の抜け殻で出来てるんだって」
「……ハア?」
なんでも『化物』の卵に植物の種を植え付けた『女体樹』とか言う植物(?)の「外皮」から出来た。天然素材100%のマントらしい。
布(?)製なので、それなりの通気性もあるようだ。
そんでもって、俺様もついに「衣替え」か?
クラスチェンジならぬ「クロス・チェンジ」か? 夏服になるのか?
「でも、なんで『脱衣』?」
心ときめく単語ではあるけれども。
「じゃんけんで負けると、ずるっと脱げるんだって」
「……ハア?」
奇天烈すぎる生態だ。なんなの、その謎生物は?
そして「麻雀」じゃないんだ? じゃんけん勝負なら「野球拳」やん!
なんでも、『脱衣亜麻ちゃん』は成長すると、女体みたいな「幹」の周囲に「貫頭衣」みたいに「外皮」を形成するらしい。
そして、手みたいに見える枝の一部が、ずっと「パー」のカタチになっていて、そこに「チョキ」であるVサインを突き出すと、何故か「それ」がべろりと剥がれてしまうらしい。
「あ、違いますう。じゃんけんじゃあなくってぇ、二本指をー、鼻の穴にぃ、突き刺すんですう」
話を聞いてたらしいクリムソルダ嬢から、そんな事を言われた。
採取方法がちょっと違ってたらしい……って、鼻の穴?
「息がー、出来なくなってぇ、ぺろ――ん、と脱げちゃうんですう」
「へー……そうなんだ?」
ミーヨが素直に感心してるし。
『女体樹』って人間みたいな「顔」があるらしい。
そこって「気孔」みたいになってんのかな? 別にどうでもいいけど。
とにかく、その脱げた「外皮」が「タタミ一畳」分くらいの大きさの、丈夫な布状の繊維(たぶん「不織布」だろう)で、それを縫い合わせて大型帆船用の「帆布」とかにするらしい。
あと、豆とか穀物とかを貯蔵・運搬する「穀物袋」とかも作るらしい。
わりと肌触りはいいのに、そんなものに使ってるのか、もったいない。
クリムソルダ嬢は意外な事に、植物やら動物について、色々と詳しいらしい。
いま出掛けてて居ないけど、ヒサヤと話が合いそうだ。
とにかく、ただの「アホな子」じゃなかったようだ。
それはそれとして、
「ありがとうな、ミーヨ」
俺のために買ってくれたようなので、お礼を言っておこう。
コレって、今までの『旅人のマントル』とほぼ同じような扱いが出来るので、必殺の「バサッとな!」が可能だ。
うん、これならば、いつでもどこでも、最高にカッコ良く脱ぎ捨てる事が出来るぜ。
その時は、この俺の雄姿を、しっかりと見守っていてくれ。
サンキュー、ミーヨ。
「えへへ。似合うよ、ジンくん」
「そっかー。てへへ」
「「……(にこにこ)」」
何故かセシリアとクリムソルダ嬢の二人が、俺とミーヨをあたたかく見守って、幸せそうに微笑んでる。俺とミーヨに、何か「ほっこり」するような要素あった?
「あのー、ジンさん。ところでぇ」
隠した途端、クリムソルダ嬢はちゃんとした名前で俺を呼んだ。
……んなアホな。
んなら、アンタ、今までどこ見て「ち○さん」言うててん?
◇
実はこの時、クリちゃん……イヤ、クリムソルダ嬢から聞いた過去話で、この後に起きた、ある問題を解決するヒントを貰った。
――ま、それは後で、回想で。
◇
「クリちゃん。お腹空いてない? 何か食べる?」
ミーヨがあっさりと愛称で呼び、餌付けを試みているようだ。
「あ、あーりーがーとーごーざーいーまーすう」
クリムソルダ嬢があっさりと釣られて、お礼を言ってる。
何かの信号みたいにも思えるけど。
「うむ。いただこう」
「あたしも、何かあれば」
王女姉妹が乗っかった。って、君らはさっきお昼食べたでしょ?
てか、すぐ出せる食べ物なんて何かあったかな?
お昼に出した物は、この二人がほとんど食べちゃったし。
「何がいい?」
オーダー訊いて、応じられるのか?
まさか俺の『口内錬成』で錬成らせる気か?
「なにかー、あまーいものがー、あればぁ。ん……あ、いやぁん!」
クリムソルダ嬢の返答だ。
最後のセクシーボイスは、「六本指の猫」茶トラ君から、ひざに額を押し付けられたのだ。何故か気に入られて「マーキング」されたらしい。
「甘いもの……ちょっと待っててね」
ミーヨが俺の腕をぐいぐい引っ張る。やっぱり俺かよ?
つい先刻会ったばかりの子に、いきなり俺の熱いの(※体温です)をブチかますのか?
『俺の馬車』の左側にある出入り扉から、外に出る。
俺様の秘密を隠蔽するためとは言え、多少不自然ではある。
ちなみに今も『★星の雨傘☆』で守られてる。
俺と手を繋いで『耳コピ追従式合体魔法』を発動させたセシリアが「中心」だ。
試しにやってみたら、いともあっさりと発動出来たので、プリムローズさんが何とも言えない渋い表情してたよ。
「これで何かつくれる?」
ミーヨが手のひらに丸いものを乗せてる。
「『糖衣甘味丸』かあー」
とんでもなく甘ったるいキャンディードロップだ。
原料は『この世界』での甘味料的野菜「アマネカブ」の、さらに最上級に甘い「冬越し株(蕪)」だ。
アマネカブは、冬の寒い時期に凍り付かないように、自ら糖分を作り出して蓄えて「不凍状態」になるらしい。
それを春先に雪の下から掘り出して、煮詰めて作ったのが『糖衣甘味丸』だそうだ。
ただでさえ甘い物を「糖衣」でコーティングしてるのだ。アホみたいに甘いのだ。
「甘い食べ物なあ」
何があるんだろう?
てか『錬成』のモトになるような物質が近くにないと上手くいかないし……この馬車の中には……たしか、非常用の『食用煉瓦(※大型堅焼きビスケット)』があったハズだな。岩みたいだけど一応小麦粉製品だ。
お客様の真名は「クリムソルダ・ダ・メルォン」嬢。
よし、メロン味のクリームソーダを錬成る――と見せかけて(笑)、
「よし。じゃあ、メロンパンだな!」
「『めろんぱん』?」
クリムソルダ嬢の家名とおっぱいに因んだ「メロンパン」を錬成ろう!
ただし、こっちはおっぱいと違って一口サイズ……てか俺の「人口サイズ」だけど。
うん。メロンパンなら『前世』でわりと食べてた。きちんとイメージ出来る。
月にかざしたり、ブラのパッドになったり、ヘアアクセサリーとして髪に付けたりも出来る素敵アイテムだ……違うか。
フツーのパンに甘いクッキー生地を乗せて、切れ目を入れて焼いたヤツがベーシックな「メロンパン」だ。余計なアレンジは不要だ。『冶金の丘』のスウさんのパン工房では「甘い菓子パン」なんて作ってなかったからな。まず俺が食べたい。
そんで口に入れる「初期固形物」は、またまたポタテにしようっと。牽き馬のオヤツ用に大量購入したやつが、結局ほとんど使わずに残ってて、馭者台の座席の下にいっぱいあるし。
俺は馭者台に向かい、座席の下からポタテの入ったズタ袋を引き出す。
そう言えば、このズタ袋が『脱衣亜麻ちゃん』の「外皮」で出来てるらしいよ。
とにかく、なるべく大きなやつを錬成りたいので、事前にお口のウォーミングアップをしとこう。
口の両端を両手の人差し指で引っ張りながら「学級文庫」と言ってみた。
「『がっきゅー○んこ』?」
ミーヨさん、いちいち復唱しなくてもいいです。
ちなみにコレ、色々と「昭和」なプリムローズさんから悪ふざけで教えられた。
とにかく真っ赤なポタテを口の中に詰め込む。
この詰め込んだ容積が、錬成後の「最終固形物」の大きさを決めるのだ。
(口内錬成。メロンパン)
しばし待つ。
チン!
かすめ取られた。
出来立てで、口から出したばかりだったのに……一体なにやつ?
「うむ。美味」
ラウラ姫だった。あとで姫の分も錬成したげるから、ちょっと待っててよ。
2個目行こう。
(口内錬成。メロンパン)
チン!
ジルバ。マンボ、タンゴ。ワルツ。ルンバ……あれ?
暇潰しに『地球』のダンスの種類を思い浮かべてたのに、もう出来たのか?
同じ物を連続して錬成ると、手順が最適化されて高速化するのかな? 某料理アニメの主人公みたいだ。関係ないけど、あの作品なんであんなに巨乳キャラ多いんだろ?
「あ! ナニコレ! 美味しい!!」
2号機はミーヨに強奪された。
お前が言い出して、クリムソルダ嬢に何か食べさせようとしてたんだろうに。
しゃーない。3個目だ。
(口内錬成。メロンパン)
チン!
チンアナゴ。ダンゴウオ。オオメンダコ。フサアンコウ……あれ?
暇潰しに『地球』の愉快な海洋生物を思い浮かべてたのに、もう出来たのか?
やっぱりスピードアップしてるな。先日『オ○●の駒』を量産した時も、中盤から終盤にかけては怒涛の勢いだったな。そう言えば。
「おお! これは幻の『さんらいず』じゃないですか? はぐはぐ、うん、美味しいです」
3個目はドロレスちゃんに……って君ら、いい加減にしなよ……って、あれ?
「ドロレスちゃん、このパン知ってるの?」
ミーヨが不思議そうだ。
そう、何で知ってんだ? そして何、その名前?
「はい、プリマ・ハンナさんから聞いて。『前世』でよく食べてたそうです」
ドロレスちゃんがさくっと言う。
「「……へー」」
発信源はプリムローズさんか。
『さんらいず』ってメロンパンの事なのか? 知らんけど。
なんかの食事の時に、独り言を呟いてるのを聞いて、訊ねてみたら図解入りで「解説」してもらえたらしい。
ま、それが分かってれば、変な詮索しないですむからいいけど。
そんで、ドロレスちゃんと間接キスした事になるけど……ま、いいか。なんか、もう親戚の子みたいな感覚だし……って忘れてた。
自分用じゃない「贈答用の食品」は、『守護の星(普通サイズ)』で包み込んで「ラッピング」するんだった。
透明な虹色のキラキラ星を纏って、見た目が綺麗なので、女子に大人気なのだ。
これって『★密封☆』とほぼ同じ事らしいけど、単体の『魔法』としては、俺使えないんだよな。
とにかく、あんまり待たせちゃいけないな。
(口内錬成。メロンパンにキラキラ星でラッピング)
チン!
ポコポッ○イト……って早っ!
◇
「どうぞ、召し上がれ」
「いーたーだーきーますう」
クリムソルダ嬢がメロンパンをぱくっ、と咥える。
「うおっ!」
「えっ? なに? どーしたの?」
クリムソルダ嬢が突然叫んだので、ミーヨがびっくりしてる。
「うおっいっしーですううう」
「そっちかよ!」
つい先刻会ったばかりだけど、突っ込んでみた。
セシリアにも勧めると、はにかんだ笑顔で受け取って食べ始めた。
「うまうま」
イヤ、君は猫耳。
「「「「……(じ――っ)」」」」
見るとロザリンダ嬢やマルカさんとジリーさん、さらには次郎氏までもが物欲しそうに見てるし。
しゃーない。また馬車の外に出て量産しようっと。
◇
俺がメロンパン・ディスペンサー(メーカーじゃない気がするし)と化していると、不意に『全知全能神神殿』の通用門の扉が開いて、3人……シンシアさんとヒサヤ。そしてプリムローズさんが戻って来た。
「シンしゃしゃん!」
……つい噛んじゃった。
『宝○の国』の気になるあの子みたいになっちゃった。
メロンパンを錬成し過ぎて、アゴがガクガクなのだ。通算30個目だよ。
「(すんすん)……なにか甘い匂いがしますね」
そう言う「シンシアさん」は、何か「お香」のような香りを身に纏って戻って来た。
「あのー、焼き甘菓子ですか?」
可愛く訊ねられた。「焼き甘菓子」はクッキー系全般を指す言い方だ。
「それとパンの合体した物です」
俺はメロンパンを見せながら言った。
「合体?」
「合体です」
俺は力強く言った。でも融合かもしれない。どっちやろ?
そんで『女体樹』って、別な生物同士の融合だろうなあ。「つむぎちゃん」みたく。
「こ、これは『さんらいず』じゃないか! これは……君が作ったのか?」
プリムローズさんが妙に勢い込んでる。
「ハイ。俺の……あ!」
「……(ぱくっ)」
説明する間もなく、奪い取って食べ始めた。
「ああ、少し違うけど、懐かしい味だ。もう1個貰うよ」
本人気付いてないようだけど、プリムローズさんとも間接キスしちゃったよ。
……なんか微妙な気持ちだよ。
「何か、私に対して失礼な事を考えていただろう?」
睨まれた。
「……だから、本当にエスパーなんスか? プリムローズさん」
なんで、俺の思考が漏れるだろう? 怖いんですけど。
『光眼』か『賢者の玉』のせいかな?
それとも『★伝声☆』の魔法で、リンクしたからかな?
なんか俺自身が気付いてない事を感知されてそうで、怖いっス。
みんなで馬車の中に入った後に、
「ジンくん。『えすぱー』って何? 『どエス』とか『どエム』とかと何か関係あるの?」
ミーヨに訊ねられて、ハタ、と気付く。
大事な事忘れてた。
「お前の……イヤ、俺の義理のお父さんはドMなんだよな?」
「えへへ。そうだよ」
照れくさそうに笑うミーヨは可愛いからいいとして――ドSとかドMとか、その概念とか用語を誰が『この世界』に広めたんだろ?
「あと……ずっと訊くの忘れてたけど、お前の父君であり、俺のお義父さんって、お名前なんてーの?」
「あー……やっぱり知らないよね? ずっと『ご当主』って呼んでたもんね」
そん時の記憶無いけど、そーなんだ? どっかの財団の人? 主人公の父親?
「そんで?」
「ヤム・オ・デコだよ」
ミーヨがあっさりと言う。
ヤムさん、か……ふうん?
「あれ、どういう事だ? 貴族なんだから、ヤム・デ・オ・デコ――にならないのか?」
どっちにしても、なんか変な感じの名前だけど。
「ああ、家の当主はもう」
ミーヨが何か言いかけると、シンシアさんが、こほん、と咳払いした。
「あのー、いいですか? そこのお3人さん。イチャついてないで、聴いてくださいね」
俺とミーヨと……あと、誰だろ? と思ったら、ミーヨにべったりのセシリアの事らしい。あー、びっくりした。
「「「あい!」」」
3人で唱和する。
「現在、『神殿』では『荒嵐祓い』の儀式の真っ最中で、門を閉ざして関係者以外立ち入り禁止でした。ただし、私たちはその関係者ですのでで、ただちに儀式に合流するようにと言われました」
ああ、これで、シンシアさんともお別れか……。
「短いあいだでしたが、みなさんとご一緒出来て、本当に楽しかったです。ありがとうございました」
シンシアさんがそう言って、お腹で両手の甲を「X」に交差させ、深々とお辞儀する。
後ろに控えていたヒサヤとロザリンダ嬢も立ち上がって、それに倣う。
しんみりとする。
「また会えますよね?」
俺が訊くと、
「はい。もちろんです」
黒髪の美少女は、にこやかに言った。
「あ、わたしもー、またー会いたいですぅ」
クリームソーダちゃんが甘ったるい声で言った。髪の毛は無茶苦茶なままだったけど。
◇
シンシアさんとヒサヤ。ロザリンダ嬢とクリムソルダ嬢の姉妹が、『全知全能神神殿』に宿泊するべく、手荷物をまとめて建物の中へと入っていった。
手土産に渡したメロンパンはたいへん喜ばれた。
てか食べ物を持ち込むワケにいかないらしいので、急いで食べてったけど。
しばらく、『俺の聖女』シンシアさんとは会えなくなるだろう。
けれど彼女の願い通り、無事に『王都』にまで送り届ける事が出来て本当に良かった。
間抜けな人違いで襲撃されたこともあったけど……俺が盾になって、無関係な、ぱっと見似てる人を助けたから、ぜんぜん怪我は無かったし。
あとは『巫女選挙』について調べて、全力で応援しよう。
そして、なんとしてでもシンシアさんを、彼女の願い通りに『七人の巫女』にしてあげよう!
『巫女』は1年の任期が終わると、「恋愛禁止」が解除されて、普通に恋愛も結婚も出来るようになるらしいし。
そうすれば、その後……。
…………。
……。
ぐへへへ(邪悪な笑い)。
◆
コメディーの主人公は、狙った子をおとせない(ひでぇネタバレ)――まる。




