064◇ずぶ濡れグレープフルーツ
「か、感謝いたします」
最後に「お情け」で乗せてあげたロザリンダ嬢が車内に入ると、ちょうどそのタイミングで『★風の護円☆』の魔法効果が切れた。
ビュォォォオオオ――
物凄い風の唸りがして、『荒嵐』の暴風が、『俺の馬車』を襲った。
「「「きゃっ!」」」
急にガタピシ言い出した車内に、怯えた悲鳴がいくつか聞こえた。
ほとんどの『魔法』の効果は、二打点(3時間)で自動的に切れてしまうのだ。
まるで、石油ファンヒーターの「3時間自動消火機能」みたいなのだ。
日本工業規格(JIS)か!? と突っ込みたい。延長ボタンが欲しいのであった。
「ジン!」
「ハイ!」
マニューバ? イヤ、違う。
俺とプリムローズさんは手を繋いだ。
性的な意味はない! けど『合体魔法』だ!!
「★星の雨傘☆」
プリムローズさんが、パキン! と小指で指パッチンをすると、虹色のキラキラ星が舞って『魔法』が発動した。
車体の軋み、雨音、風音が、ぴたっ、と止まった。
『俺の馬車』を中心としたかなり広い範囲を、ドーム形に防護したのだ。
元々は名前の通り「一人用の魔法の雨傘」でしかないものを、何十倍もの規模に拡張してるのだ。
俺の金○袋にインプラントされてる『賢者の玉』のたまものだ。たまだけに。
「「「…………」」」
俺の寒いギャグ……イヤ、あまりにも唐突な静けさに、みんな驚いて沈黙した。
「いやー、凄いっすね、その『魔法』。一昨日は危うく、吹き飛ばされそうでしたよ」
次郎氏だ。
そう言えば、この人。見た目はカオだけのヘタレっぽいのに、走行中の『俺の馬車』に飛び乗って来たんだっけ。もしかして腕は立つのか?
「どうやって飛ばされずに済んだんですか?」
「受け流すんすよ。逆らわずにね」
うーむ。合気道的な何かの体術かな?
「ところで、君ら何してる?」
「「え?」」
「馬車を牽くはずの二人が、車内でのんびり何してる?」
プリムローズさんの声が冷たい。
これ、きっとあの時の事思い出して腹立ててるな……。
でもって、そうなるともう馬車じゃなくて人力車っスよ。
「「はいっ、ただ今!」」
ついつい次郎氏とシンクロしてしまうのが忌々しい。
俺たちは、車外に出て、本来は馬が繋がれる位置に立った。
馭者台には、もう既に猫耳奴隷のセシリアが待機していた。
アレっぽく言い直すと、スタンバっていた。
「いく、で、がんす!」
「「ふんがー!!」」
ロバ耳の俺と、豚耳の次郎氏の声が、またまた重なる。
てか、これって何かのアニメの主題歌のハズだな。
なんだっけ? 『ら○☆すた』? 本編観た事ないので観たいな。
……異世界在住なので、もうどうあがいても視聴不可能だけれども(泣)。
とりあえず、大・中・小……女性を10人も乗せた『俺の馬車』は、牽くとめっちゃ重い。
……怒られるから黙ってるけれども。
◇
人力で『俺の馬車』を大回りに旋回させて、『永遠の道』の上まで引っ張ったところで、次郎氏には車内に戻ってもらい、俺とセシリアでまたまた新作の『合体魔法』を発動させる。イヤ、『耳コピ追従式合体魔法』とでも言うべきか。
「祈願! 魔法の馬っ!」
「祈願! ★魔法の馬っ☆」
キラキラキラキラン☆
マンマ・ミーア! 成功だ。
まんま馬だ。二頭の馬が現れて、馬車が走り出した。
と言っても本物の馬じゃなくて、牽き馬無しで走行してるのを誤魔化すための「馬の立体映像」だ。
実際には、後輪の車軸の真ん中に付いてる「制動用の円盤(フライホイールも兼ねてるハズだ)」を『魔法』で回転させる事で、馬車を走らせてる。
速度はぜんぜん遅いけど……もう『王都』に入ってるし、高速走行の必要はないからいいのだ。
で、セシリアが思い描いたのは、俺が捕獲した白馬の『オウジサマ』みたいな馬だった。白馬って言っても薄汚れてて「ねずみ色」だったけど……それも忠実に再現されてる。
馬車を進めると、蹄のカポカポカポ……という音まで再現されてる。
ただ、その音を出してるハズの脚が、固定されたまま動いてない。出来損ないのCGアニメみたいだ。
傍目からは脚がまっすぐなまま、全体が横滑りして行くように見えるだろうな……かなり不気味だ。
ま、急場しのぎだし、細かいトコはいいか。
それにコレって防風用の『★星の雨傘☆』と重ね掛け可能なのだ。地味に便利だ。
ところで……ノリで言ってはみたけど「マンマ・ミーア」って何て意味? イタリア語だよね?
◇
『★星の雨傘☆』は虹色のキラキラ星を使役した『魔法』だ。
膨大な数の「☆」のカタチをした薄膜状の謎の浮遊物体『守護の星(普通サイズ)』が「合体」して、フリスビーみたいな形に成っているらしい。
その内側から外を見ると、油膜みたいに虹色が揺れるシャボン玉の膜みたいだ。その膜が風雨を物理的に防いでるようだ。
物理的な物なので、雨粒は表面に当たって滴に成って滴り落ちる。
水を弾くような撥水性があってもよさそうなものなのに、それがないっぽい。
そのせいで、かなり視界が悪い。
なので、右目の『光眼』の「暗視機能」で、周囲の建物を確認している。
これだと無彩色のモノクロ画像だけど、風雨の影響をほとんど受けずに済むのだ。
……そう言えば、最近ラッキースケベ・イベントがないので、「カメラ機能」をあんまり使ってないな。
みんなには内緒の、記念撮影的なスナップショットが増えてくだけだ。
前にミーヨに「カメラ機能」の事を話して、実際に画像を見せた事があったけど……それ以来は、誰にも見せてない。
ミーヨもその事をすっかり忘れているようなので、もうそんなものは無かった事にして、誤魔化す事にしているのだ。
てか、こっそり撮り溜めてる「ラッキースケベ画像」(……)を、本人たちに見せるわけにはいかないので、もう俺様「最後の秘密」として、墓場にまで持っていくしかないだ!
隠し通すのだ! 絶対に!!
◇
『王都』の街の入り口は、道幅100m以上もある『永遠の道』なので、入市に関する制限や管理を、最初から諦めているような感じだった。『冶金の丘』にあったような、番兵の詰め所的な建物は無く、完全に素通りだ。楽でいいけど、元々住んでる人に不安感は無いのかな?
門の代わりか知らないけれど『道』の『大交差』が描く「X」の、中心からほぼ等距離の地点四か所には『空からの恐怖』に備えた巨塔『対空監視台』がおっ立ってるそうだ。
すぐ間近には、そのうちの一本が聳え立ってる。
『冶金の丘』の円形広場の真ん中にあった『物見の塔』より遥かに高い。
す――っと高く伸びた四角い塔の上部に細長いピラミッドみたいなのが載ってる感じだ。
段々がある塔の先端部には、真っすぐな金属の棒らしきものが見える。避雷針? 何かのアンテナか?
プリムローズさんは「『えんぱいあ・すてーと・びるでぃんぐ』みたいでしょ?」って言ってたけど、壁面に窓ガラスが無いので「ビル」には見えない。所々に物見用の穴が空いてるだけの「塔」だ。
そしてアレって高さが400m以上あるはずだ。流石にそこまでデカくはなさそうだ。
あと……東京にも、こんなビル無かった? でっかい時計がついてるビル。
建造するのに何らかの『魔法』が使われたんだろうけど……大型建設機械とか何もなしで、よくもまあ、こんなのおっ建てたもんだ。感心する。
とにかく目立つ建造物なので、この塔を見つけて、想定外に早い『王都』到着に気付いたのだ。
「あ、セシリア。停めるよ。左に寄って」
「あい」
セシリアが体を左に傾けた。「重心移動」らしい。
『★魔法の馬☆』は、発動させた本人であるセシリアの意を汲んで動くので、体感的に、感覚的にそうやってるらしい。
「あか、ぺか、ぺか」
「うん、あの辺に停めて」
道の先の『赤色発光魔法』の点滅に気付いたのだ。
「小市民」な俺は『前世』の日本での警察の検問を思い出し、素直に馬車を路肩に寄せて停止させたよ。
「どうかした?」
不審に思ったのか、プリムローズさんが出入り扉を開けて、馭者台までやって来た。
少し間があって、
「どわぁぁああぁっ!」
『★星の雨傘☆』の防護範囲を無理矢理突き破って、誰かが侵入して来た。
「あれ? 『対空兵団』だね」
プリムローズさんが意外そうに言う。
「あ、みたいっスね」
俺も見覚えがある。
特徴的な「ボマージャケット」風の革ジャンと、短兜をかぶっている。地上に降りているからか、ゴーグルは付けてなかった。
『王都』には、女王陛下直属の『王都防衛軍団』があるそうだけど、その人たちではないようだった。
「お仕事、ご苦労様です!」
俺は先手を取って、声を掛ける。
こちらに敵意はなく、無害で協力的な事を示し、相手の警戒心を解くのだ。
公務員にはコレが効くのだ。これがッ「小市民」の知恵だッッ。
「ああ、どうも」
相手もかるく敬礼しながら、近づいて来た。
「ジン、黙ってて」
プリムローズさんに、頭を指差されてそう言われた。
……そう言えば、『一日奴隷』のロバ耳付けてるのを忘れてた。
獣耳つけた奴隷が、ペラペラしゃべっちゃダメって事か?
プリムローズさんは『奴隷制度』を心底毛嫌いしていて、密かに廃止させるための策を練っているようだけど……懲罰的な意味の『一日奴隷』は別に気にしてないみたい。
……それとも俺だからか?
「それで、この『クラゲ』は……君たちの『魔法』で出来ているわけだな?」
「「『クラゲ』!?」」
俺とプリムローズさんはびっくりした。
どうやら合体魔法『★星の雨傘☆』は、外側から見ると、『クラゲ』に見えるらしい。
ま、丸い半透明なドーム形なんだしな。そう見えなくもないだろうけれども。陸の上だよ?
てか『この世界』の海にも海月いるのね? 月は無いのに。
でもって、その『クラゲ』が、「人が歩く」くらいの速さで『道』をなぞるように『王都』に入って来たので、めちゃくちゃ不審に思われたらしい。そりゃそうだわな。
ただ、よく観察すると『守護の星(普通サイズ)』のキラキラした虹色の星がチラついて見えていたので、『魔法』による人為的なものと判断して、とりあえず停止させるために『赤色発光魔法』を点滅させたらしい。
(コレはアレね。今回は『荒嵐』のドサクサで誤魔化せたけど、悪目立ちするから、セシリアのアレも私のコレも人前では使えないわね。よほど非常時でもない限り)
(ですね。しばらくは封印しましょう)
俺とプリムローズさんがこそこそ話していると、馬車の側面に回ったその人は、白地に銀で華麗に装飾された『王家の紋章』に気付いて、腰が引け始めていた。
「通ってもかまいませんよね?」
プリムローズさんが訊ねると、
「……どうぞ。お気をつけて」
あっさりと通してくれた。
まあ『荒嵐』の中、他の馬車なんて一台も走ってないし、きっと退屈してたんだろうな――とは思わずに、真面目で仕事熱心なんだな――と好意的に解釈しよう。
「最初は『全知全能神神殿』って言ってましたけど、どのあたりなんスか?」
結局、馭者台に残ったプリムローズさんに指示を仰ぐ。
「『大交差』の南の角にある大きな建物だよ。二つの高い塔があるから見ればすぐ分かるよ。このまま真っすぐ行ってくれ」
「だってさ、セシリア」
「あい。あい。はむっ」
間違ってるよ?
◇
暗い空から吹き荒れる雨と風のせいで、せっかくの『王都』が、全体的に灰色にくすんで見える。
建物は、鎧戸を閉め切っていたし、人通りもないし、馬車も走っていない。
残念ながら、華やかさはゼロだった。
『道』は不文律として左側通行なので、俺たちが進む左手には『王都大火』で壊滅的に焼失したという『東の街区』があるはずだった。
プリムローズさんの言っていた通り、『道』に面した部分だけは、建物が並んでいるけど、その奥が見えないように目隠ししてある感じだ。
今の時点では、確認しようがないし、ミーヨを刺激したくないので、あとで一人で来てみよう。
他の場所で見て来た限りでは、『永遠の道』の両脇は水路がある草地でしかないし、街や『駅』に入るための接続路との間には、かなりの段差があるのが当たり前みたいになっていた。
でも、『王都』では、ベージュっぽい色の石で完璧に舗装されていて、「歩道」として整備されていた。
その歩道がまた広い。1万なの(約10m)くらいありそうなの。
暴風雨なので、誰も歩いてないけれども。
歩道には、ところどころに、低い街路樹が植えてある。休憩用の石のベンチまである。
黒くて丸い古タイヤが捨てられて……イヤ、ゴロゴロダンゴムシだな。居るんだな、『王都』の街中にも。
馬車を進めていると、時々、風で千切れた葉っぱとか、何かの布切れが飛んでくる。
ただ、それらは『★星の雨傘☆』に防がれて、どこか上空へと吹き飛んでいく。
『俺の馬車』は、クラゲみたいなドームの中に居るのだ。
そして……本来なら濡れているはずの『永遠の道』の路面も、俺たちが進むと、まるでワイパーで拭い取ったような「弧状」に雨水が取り払われていく。シュールで異常な光景だ。
『魔法』って、魔法みたいだ。
我ながら、ナニソレ? な感想だ。
夏場とは言え、分厚い雨雲のせいで暗いし、風も強いので、少し肌寒いくらいだ。
車内のみんなも、ショールを被ったり、薄物を一枚羽織ったりして、寒さ対策しているようだった。
俺も久しぶりに『旅人のマントル』を着て、足元まで覆っている。
もちろん、その内部は全裸だ。
ミーヨの育児魔法『★おむつ☆』によって、ぴったりと押さえられていた俺様の俺様な部分も、ようやく解放されて、ブランコ遊びに興じている。
それはもう楽しそうに。
◇
しばらく進むと、暴風の中でも目立つ建造物が見えて来た。
「プリムローズさん、『全知全能神神殿』ってアレっスか?」
「ええ」
先刻通り過ぎた『対空監視台』ほどではないけど、物凄く目立つ二本の塔が見えた。
ツインタワーだ。
『対空監視台』のカクカクした形と違って、つるんとした白い円筒形だ。
空中で二本の塔を結ぶ「空中歩廊」らしいものがある。
塔の先端は……近づき過ぎてるために、よく見えない。
そのまま馬車を進めると、『永遠の道』の『大交差』に辿り着いた。
道幅100m以上ある舗装道路が交差しているポイントだけあって、だだっ広い。
そこからだと、『全知全能神神殿』が一望できた。
全体が、ぼわん、と霞んで見える、白く大きな建築物だった。
『永遠の道』から切り出した「石灰岩」を元にした『魔造大理石』造りらしい。
灰白色の「ツインタワー」は、東西に一本ずつ、そそり立っていた。
ここのどっちかに、大岩に刺さったままの『選王剣』があるらしい。
大交差の「X」に直接面した部分が、正門……と言うか「正面玄関」になってるらしい。
その、北を向いた黒い「大扉」が、とんでもなくデカい。
「7m級の巨人」が、すんなりと出入り出来そうなくらいの大きさだ。
その正門の前が、「白い石段」になっていた。ローマのスペイン広場の石段みたいな感じだ。
とにかく、見えてから接近するまで、やたらと時間がかかった気がする『全知全能神神殿』に、やっと着いたよ。
……あれ? 人がいる。
嵐のせいで閉ざされているらしい正門の前の石段に、一人の女性を見つけた。
台風時の日本でも、時々エッチなハプニングが起こるけど……その女性を襲っていたのは、それのフルコースだった。
クリーム色の金髪は、ねじれて尖って固まり、ドリルのようになっていた。
白いローブは雨に濡れてぺったりと肌に張り付き、大きな胸の形まではっきりと分かるし、何故かローブの後ろはめくれあがっていて、濡れたパンツがお尻に張り付いていた。もう、エロというよりも悲惨な感じだ。
よりによって『全知全能神神殿』のどん前なのに、何やってんだ、この子?
ちょっと、ヤバそうな状況だったので、スケベ心無しで、救助に向かおうと思う。
「セシリア。停止」
「あい」
「ん? シンシアの話だと『神殿』の通用門は東側の塔の根元らしいわよ」
プリムローズさんが不審そうに言った。
「ちょっと、止めます。で、困ってる人がいるので助けて来ます!」
俺は制動装置を固定してから、馭者台から飛び降りた。素足だったので『★不可侵の被膜☆』が発動して、着地の衝撃はゼロだった。
「え? ……ああ、アレ? まるで『カノッサの屈辱』ね」
プリムローズさんが、ずぶ濡れの子を見つけたらしい。そんな事を言った。
俺は『★星の雨傘☆』を抜けて暴風の中に飛び出した。
てか脱け出す瞬間、『旅人のマントル』を着た全身に風圧を感じた。ただ、剥き出しの顔だけは何ともなかった。また『★不可侵の被膜☆』が機能しているらしい。変な感覚だ。
そんで『カノッサの屈辱』って、神聖ローマ皇帝がなんかやらかしてローマ教皇に「破門」されて、それを解いてもらうために真冬に素足で三日間だか城門の前で立ってたって話だな。そして、その後リベンジされて教皇側が負けるんじゃなかったっけ?
でも、いまは初夏で、『荒嵐』が吹き荒れてるから……ちょい違うんじゃね? 台風のせいで鍵失くして家に入れないでいるアホな子みたいな感じだけどな。
◇
「大丈夫ですか!?」
俺は、その子に近寄って声を掛けてみた。
暴風雨の中なので、ついつい怒鳴るみたいになってしまう。
そんで、口の中に雨粒が入る。
『荒嵐』は『美南海』からやって来る「熱帯性低気圧」だそうだけど、そのせいか雨水がちょっとしょっぱい気もする。
あと、スケベ心無しのつもりだったけど、パシャパシャという脳内効果音が響いていた。
無意識に「カメラ機能」を作動させていたらしい。
我ながら、恐るべき痴的好奇心だ。
「……あううう……はううう」
返事は、呻き声だった。
靴もどこかで片方無くしたらしい。右足は裸足だった。
そして、強い風と髪から滴る水のせいで息苦しいのか、口をパクパクと開閉していた。
「……はううう」
瞳は死んだ魚のようだった。
意識はあるんだろうか? なんかヤバイ気もするけど?
近くで見ると、俺たちと同い年くらいに思えたので、言葉遣いを替える事にする。
「とりあえず、これ着なよ」
俺は着ていた『旅人のマントル』を脱ぎ、その子に紳士的に着せてあげた。
――俺はいま、吹きすさぶ嵐の中で、全裸だ。
うん、なんかドラマチックだ。
「中に入れなかったんだろ? もう大丈夫だから」
安心させるために、肩を抱いて話しかける。
「……はううう……うっ……うぅ」
泣いているのかもしれない。呻き声が小刻みなものに変わった。
「あっちに『俺の馬車』があるけど……歩けるか?」
外から見ると確かに「クラゲ」みたいになってるけど。
「……うおっ!? ……お……ち○こぉ」
その子は、俺様の俺様をガン見した後で、
「……おっ……きぃ(かくん)」
そう言い残して、気を失った。
お褒めの言葉をいただき、恐縮です。
てか、起きなよ。
起きないと、ヘンな事する……ワケにもいかないよ。
プリムローズさんとセシリアが、こっちを見てたよ。
「……」
でも完全に意識を失ってる。
仕方ない。このまま『旅人のマントル』に包んで、抱っこして連れてくか。
気を失った女の子を、車(てか馬車だよ)の中に運び込むとか……なんともいえない犯罪臭があるけれども……。
ま、『俺の馬車』は女性乗客率がやたらと高いから、目を覚ました時に騒がれずにすむだろう……たぶん。
◇
俺は『旅人のマントル』に包んだまま、その子を馬車の車内へと運び込んだ。
「「「……っ」」」
何人かから、驚いたような、声にならない悲鳴が漏れた。
全裸で「お姫様抱っこ」して来たから、俺のナニかが見えてたのかもしれないけれども。
でも一刻を争わない事も無い非常時だ。仕方ないのだ。
車内の「前部後ろ向き座席」を空けてもらって、そこに寝かせる。
次郎氏が、気を利かせて車外に出てってしまったようだ。それとも俺の全裸を見たくなかったのかな?
「誰か、乾燥を……」
『旅人のマントル』を剥いで、改めてその子を見ると、とても……いやらしかった。
だって、白いローブが肌に張り付いて……透けて見えてるんですもの。
……とっても大きなお胸の先端とか……色んなところが。
そう言えば「ビーチクイーン」の発音がちょっと変だったのは「お○えちゃん」だったかしら?(※『BanG ○eam!』OVA)
それはそれとして、その先端部なのですけれど、寒さのせいか……縮んで陥没してるみたいですの。
尖ってはいないんですの。
なので、まるでまん丸い大きな果実が双つ並んでいるようですの。
これって、なんていうのかしら?
この果実はなんと言ったかしら……?
思い出しましたわ!
グレープフルーツ!
「グレープフルーツ」ですわ!
……ただ、最近「グレープフルーツ」って、あんまり見かけませんけれども。
あたくし、フルーツゼリーなら、グレープフルーツ味がいちばん好きなのですけれども。
ところで、頭の中で聞こえる、この「パシャパシャ」という音はなんなのかしら?
◇
「ジンくん!」
「……(はッ)」
ミーヨの声で、俺は現実に帰還した(笑)。
「握ってもいい?」
俺様の『賢者の玉』の力を利用した『合体魔法』を発動させる気らしい。
「おう!」
「うー……ちがくて、手!」
「あ、そうか」
人間、誰しも間違いというものはある。
「祈願。この子をまるっと ★乾燥っ☆」
手を繋いで『合体魔法』だ。
てか、そんな適当な「範囲指定」でいいんだ? 雑過ぎない?
キランキランキラン☆ と星が舞い輝き、その子の白いローブが、ふわっふわに乾いた。
もう、グレープフルーツは……見えない。
それは後で個人的に画像を確認するとして……髪の毛は無茶苦茶なままだし、なによりも、風邪の症状のようなものが出てる気がする。
「はぁ……はぁ……」
呼吸が荒く、熱っぽいように、顔が赤かった。
「私と同様、『巫女見習い』の方のようです。見覚えがあります」
シンシアさんが、その子の手首を持って容態を診てる。
「……はぁ……はううう……」
でも、『巫女見習い』が身につける「白いヴェール」はかぶっていないんだよな。
『荒嵐』の暴風で、どっかに吹き飛ばされちゃったのかもしれないけれど。
「熱がかなり、ありそうです。ジンさん、握ってもいいですか?」
俺の『賢者の玉』の力で『癒し手』の効果を強化して、この子を治すつもりらしい。
「どうぞ!」
「じゃあ、遠慮なく……じゃなくて、手、です!」
「……ハイ」
人間、一日に2回くらいは間違う事もある。
「神々の愛し子に、憐れみと慈しみを。☆慈愛の手っ☆」
シンシアさんは左手で俺の右手を握りながら、右手に宿った輝く白い光を、その子に当て、全身を撫でるように、さ――っと移動させた。
これは本来、『癒し手』の体内に常駐する『守護の星(極小サイズ)』を、「患者」に移譲・注入する行為だ。
ただし、『合体』している俺側の、需要を無視して無駄に量産されてるヤツが、上滑り的に流れ込んでるので、術者であるシンシアさん自身の『守護の星(極小サイズ)』は失われていないハズだ。
『俺の聖女』の美容と健康のために、地味に役立てて嬉しいぜ。
「…………すぅ……すぅ」
未だ氏名不詳な「その子」の容態は安定したようだ。……髪の毛は無茶苦茶なままだけど。
「……落ち着かれたようです」
シンシアさんが、ほっとしたように言った。
「……ところで、こちらの方は一体……?」
メイドのマルカさんから、おそるおそる声を掛けられた。
最近、きちんと丸齧りさんたちの区別がつくようになりました。ハイ。ちなみに、こちらのマルカさんじゃない方が、ジリーさんです。
「『神殿』に入れなかったみたいで、雨の中ずぶ濡れで立ってたんです」
俺は言った。
「……(すっ)」
ふとロザリンダ嬢と目が合うと、すっと視線を外された。
なんだろう?
「ジンくん。そろそろ隠そうか?」
ミーヨ先生だ。
「え? ナニを?」
分かってはいても、男には訊かなくてはならない時があるのだ。
「だから、ジンくんのおち○ちん」
「はい、そこまで! ミーヨさん、ちびっ子もいるんですよ?」
シンシアさんは、ミーヨを強めにたしなめた。
しかし、プリムローズさんと違って、制止のタイミングが致命的に遅かった。
完全にアウトだった。
いつものショート・バージョンじゃなくて、フル・バージョンが公開されてしまった。
「はっ、そうでした! みんな! 今の聞こえなかったよね?」
ミーヨ先生は我に返り、ちびっ子たちに訊ねた。
「みよさね、ばち、いた」
セシリアは「ミーヨお姉さんは、ばっちり、言った」と言いたいらしい。多分。
「……(凝視)」
ヒサヤは何かに真剣に集中すると、無言になるタイプらしい。ナニかをじっと見つめていた。
「うむ。鞘から出た抜き身のままだ。見えているぞ」
ラウラ姫には「ちびっ子」の自覚があるんだろうか?
その「枠」で答えちゃってるよ? そして楽しそうだよ?
「お兄さん。今日も元気ですねー!」
「……い、いけません。お嬢様!」
「まだ早うございます!」
ドロレスちゃんが、二人の「お付き」のメイドさんたちに形式的(?)に怒られてる。
「……ぼそぼそ(まったく、そこだけは)」
ロザリンダ嬢が何かぶつぶつ言ってる。
ちなみに次郎氏は、馬車の外に居るので、俺様の全裸を観てはいない。
「もお! 祈願。★おむつっ☆」
ミーヨの育児魔法が発動され、虹色のキラキラ星と一緒にやって来た長い布切れが、俺様の俺様をきゅ――っとキツめに包んだ。ちょっと痛いです。
こうして、俺の「幸せなひととき」は終わった。
あー、楽しかった(※個人の感想です)。
◆
次回。主人公がクロス・チェンジ(※誤字ではありません)――まる。




