063◇とーちゃ―――く!!
ラテン語で「道路」の事を「strata」と言って、英語の「直線」の語源らしい。
ついさっき、プリムローズさんに教えてもらった。
『永遠の道』は、ほぼ完全な直線道路で、しかも惑星『この世界』を、ぐる――っと一周しているらしい。
そしてそれが、もう一本あって、『王都』で「X」字形に交差しているそうだ。
とんでもない長さの「惑星周回道路」がふたつあって、『この世界』そのものを四分割しているそうなのだ。
『地球』から「コピー&ペースト」で移植(?)された人間たちは、その『道(正体は本当に道路かどうか疑わしい)』をそのまま「道路」として利用して、『この世界』なりの文化や文明を築き上げてきたらしい。
『女王国』の国内に限って言えば、『道』には、ほぼ100㎞ごとに『駅』があるそうだ。
そのせいか、ひとに「長い距離」を訊ねると「駅3つ分」とか言われてしまう。
『駅』では、広域団体『馬蹄組合』から、馬車を牽くための「牽き馬」をレンタルしてもらえる。
借りたものは、返さないといけないので、次の『駅』で返却する事となり、自然にそれが一日の移動距離となる。
100㎞ごとに『駅』がある、と言っても、実は『上り車線』と『下り車線』とで、ずらして配置されている。
つまり、最低でも一日50㎞進めば、道幅の広い『道』を跨ぐ不便さはあっても『駅』を利用出来る。
で、さらにその50㎞の間には、10㎞くらい毎(上下車線を合わせると5㎞毎)に、休憩場的な「馬車溜まり」があって、普通ならばそこで『店馬車』が商売している。
ただし、俺とミーヨが出て来たボコ村のような、小さな辺境の村には、そんなものはなかった。
プリムローズさんの話によれば、ボコ村は『女王国』の北東の端っこなのだそうだ。
◇
「ところで『この世界』で長い距離を表す単位ってあるんスか?」
眠気覚ましに訊いてみた。
「そりゃ、あるわよ。最小単位の『なの(約1㎜)』が小さいしね。『地球』の『1きろ』が『100万なの』じゃ『いんふれ』過ぎるでしょ?」
そりゃ、そうか。俺はわざわざ『地球』風に○㎞とか脳内で変換して考えてたけど。
「で、なんて言うんスか?」
「『100万なの』が『1なのです』」
「…………」
プリムローズさんが普段と違って、ちょっと可愛い。
それにしても……やっぱりそうなの?
なんというか、想像していた通りなのです。
これはもう一体誰に突っ込めばいいんだろう?
「……それにしても、知らない事ばっかりなのです」
俺がちょっとボケると、
「本でも読んで、『この世界』について勉強しなさい」
大真面目に言われたよ。
「……ハイ」
でも俺は、人との会話の中から、色んな情報を拾い集める方が好きなのだ。
なにより、女の子の声を聞いてるのって、単純に心地いいし。
声フェチなのかもしれないな。俺。
「ほら、着いたよ」
プリムローズさんもいい声だ。
◇
昼食休憩のために、とある「馬車溜まり」に停車した。
暴風雨のせいで、他に一台の馬車も無く、無人だった。
そこでキャンプ地にテントを張るみたいに、プリムローズさんが『合体魔法』で絶対防風安全圏を造った。
「『守護の星』よ! 『世界の理の司』に働きかけよ! ★風の護円っ☆」
『荒嵐』から切り離された別空間だ。
遮音性があって、外の暴風の唸りがまったく聴こえない。
そして、ここで初めて気付いた。
上を見上げると、嵐の暗い雲の中に、丸く小さく青空が見えているのだ。
(うわー、すげー)
驚いて目が醒めた。
合体魔法『★風の護円☆』とは、発動させた『術者』を中心にした完全無風の円筒形が、雲を突き抜けて直立しているモノらしい。
発動させた術者であるプリムローズさんを「中心」にしてるので、この前はそのまま『俺の馬車』に乗り込まれて、「マグヌス効果」でかるい事故気味になったけど、相対的に動く事のない大地の上に立っている分には問題ないらしい。
「空か……空恐ろしい」
プリムローズさんたら、珍しくダジャレかしら? と思って声の方を見たら、かなり本気で怯えていた。
彼女も頭上に見える青空を見つけたらしい。
「普通なら、こんな事絶対に出来ないはずなのに……なんなんだ? 『賢者の玉』って? ……ぼそぼそっ(後でまた見せてもらおうっと)」
最後の呟きは別にいいとして(いいのか? 俺)、俺様の金○袋に収まってるケンちゃんは、ちょっとシャレにならないほど、『魔法』の効果を強化出来るらしい。
「なあ、ジン。『★風の護円☆』って本当なら、数人程度の小集団の護身用なんだよ」
「……」
そう言われても、俺は「護身用です」と言って『トゲ付きの鉄球』を振り回す水色髪のメイドさんを知ってるぞ。
――アニメの話だけど。
「ああやって雲を突き抜けて青空が見えてるって事は、外からはきっと『竜巻』みたいに見えてるかもしれないな」
そんな事をぶつぶつ言ってる。
「この『魔法』って誰かに習ったんスか?」
「いや、これは私の『おりじなる』だよ。6歳くらいだったかな? ようよう物心がついて『前世の記憶』が明瞭になってから、身を守るための『魔法』がいるだろうと思ってね。ボコ村近くの麦畑で練習したんだよ」
プリムローズさんが懐かしそうに言う。
……って「ボコ村近くの麦畑」だとう?
「ち、ちなみにその練習をすると、麦畑はどーなるんスか?」
訊いてみた。
「もちろん丸く跡がつくよ。『護円』だからね」
さくっと言われた。
「……プリムローズさん。『ふしぎなわっか』って言葉に聞き覚えはないっスか?」
「ああ、あるよ。それって私の仕業だからね(ニヤリ☆)」
平然と言いやがった。
俺が『全知神』さまに「惨殺」された「きっかけ」だぞ。それ。
「私が12歳の頃だったかな? ついに騒ぎが大きくなって『王都』から『対空兵団』がやって来てね。ま、知らんふりしてたけどね」
楽しそうにニヤニヤと笑ってますよ。困った人だよ。
「それってミーヨに話しました?」
「いや、今の今まで誰にも話した事は無いよ」
……でも、ちょっと話の辻褄が合わない。
プリムローズさんって12歳で『王都』に呼ばれてボコ村を離れてるはずだ。
いなくなってからの数年間にも『ふしぎなわっか』は出来てたそうだから……そっちは誰がやってたんだろ?
面白がってマネする「模倣犯」もいたかもしれないけど……それこそ、やっぱり『全知神』さまの「お遊び」だったのかな? 謎は残るな。
「でもホントに凄すぎるよ。君の『合体魔法』って」
幼い頃から『魔法の天才』と呼ばれていたというプリムローズさんが言うんだから、きっと本当に凄いんだろう。
てか、さっきの話からすると、要は『前世の記憶』を利用した「知識チート」だったんだろうな、きっと。
「二人以上で発動させる『協調魔法』や『多重詠唱』はあるけど……それはあくまでも『足し算』。でも君のは間違いなく『掛け算』。モトの何倍……何千……何万倍かだよ。こんな事『増幅円』を使っても無理だろうな」
色々とぶつぶつ言われた。
でも、直接『魔法』を使えない俺には、あんましピンとこない。
「『合体魔法』って凄いよね」
ミーヨが寄って来て言った。
幸い『ふしぎなわっか』の話は聞いてなかったみたいだ。教えない方が良い気もする。
「わたしも『合体』した――い!」
地味な「衛生魔法」や、ネタじみた「育児魔法」がメインのミーヨとは『合体』してな……イヤ、昨日『★洗浄☆』したろ?
つまり、それって違う意味の『合体』ってコトになるぞ(笑)。俺もしたいぞ(笑)。
……そう言えば、シンシアさんの『脱毛エステ』やら『馬車ごと旅亭』での寝泊まりが続いてて、ここ数日「えっちなこと」してないな。
絶対に『暴発事故』が起きないように気をつけないとな。
未然に防ぐためには、どうしたらいいんだろうな?
万が一に備えて、何か対策を考えとかないとな。
そしたら、また「こんなこともあろうかと」と披露だな。
ただ、事前練習は不可能だろうから、ぶっか……ぶっつけ本番になるな。
俺がそんなバカな事を考えていると――ミーヨが馴れた感じで指を絡ませて来た。
気持ち良くて、ぞくっとするぞ。
「もう我慢できないから、今しちゃおう。祈願! このあたりの地面いったいを ★乾燥っ☆」
ミーヨが誤解を生むような言い方で、広範囲に『合体魔法』を発動させた。
キラキラキラキラキラン☆
『守護の星(普通サイズ)』の虹色のキラキラ星が、眩く地面を覆い、雨でぬかるんで水たまりも出来ていた地面を、数秒で乾かしてしまった。
膨大な量の白い水蒸気が、何かに追い立てられるように上空に上っていくのが見えた。
「「「「おおおっ!」」」」
「すっご――――い!!」
発動させたミーヨ自身がいちばんびっくりしてる。
普段はハンカチ位の布切れ乾かすだけで、ひーひー言ってるのに、それが一発でこれか?
確かに、これは凄いのかもしれない。
「ありがとうございます。若奥様」
二人のメイドさんたちは、乾いた地面に、好都合とばかりに大きな帆布を広げてる。ピクニックでもする気か?
てか「若奥様」とか呼ぶと調子に乗るから、やめて。
「ふふん!」
ほら、ミーヨの鼻息が荒い。
その様子を見守っていたプリムローズさんが、
「……ぼそぼそ(『賢者の玉』って『守護の星』の製造装置で、彼はその散布機にさせられてるんじゃないのかな?)」
何やら呟いてる。
彼女が言ってるのはナノマシン的な『守護の星(極小サイズ)』の方だろう。
前に『魔法』の効果・強さは『守護の星(極小サイズ)』を「どれだけ沢山、遠くまで飛ばせるか?」に関わってる、って言ってたもんな。
「……ぼそぼそ(そして、その『賢者』って名前からして、『世界の理の司』に対して上位者的な働きかけが出来る? 神様みたいだな)」
なにやら怖ろしい呟きを漏らしている。
でも、俺って何かの『実験体』らしいんだよな。
『全知神』さまから、はっきりそう言われてるし……。
つっても『賢者の玉』が入ってるのは俺の金○袋(笑)だし……そこで『守護の星(極小サイズ)』が製造されてるんなら、俺様の○液をなんらかのカタチで「摂取」した人間は、『魔法』の能力が大幅にパワーアップする――とか言う18禁のエロゲみたいな話になるんじゃねーの?
それ目的で、種牛みたいに人工的に搾取されるのは絶対イヤだけど……素敵な女性を相手に適度になら。
…………。
……。
男って、そういう生き物なの!
◇
「「「お疲れ様でーす」」」
『魔法』が勝手に切れるまで、二打点(約3時間)ほど走りっぱなしだったので、ずっと馬車の中に閉じ込められていた面々が、ぞろぞろと下りて来た。
牽き馬なしなので、蹄のカポカポという音もしないし、『道』は平坦な直線なので、いったん安定してしまうと車内は物凄く静からしい。
退屈で何人も寝てたそうな。
「ところで、ここはどのあたりですか?」
ドロレスちゃんがまだ眠そうに訊ねると、
「ああ、ここはもう『王都』だよ」
プリムローズさんがあっさりと答えた。
「「「「「えっ?」」」」」
みんなびっくりしてる。
◆◇◆
「『対空監視台』ね」
『荒嵐』の暴風雨の中、暗い灰色の曇天を背景に、黒い影となって聳え立っていた。
「『対空監視台』?」
プリムローズさんが見つけた「信じ難い、有りうべからざるモノ」とは、そんな名前の大型建造物だったのだ。
「『王都』の『しんぼる』よ。なんとなく『えんぱいあ・すてーと・びるでぃんぐ』みたいでしょ?」
「……ハイ?」
突然『地球』の話になって、戸惑う。
「知らない? 『きんぐこんぐ』が登る『びるでぃんぐ』よ」
「きんぐこんぐ?」
「獣の○人」をボディー・ビルディングで鍛えてマッチョに……じゃなくてハリウッド映画に出てくるデッカいゴリラの事だろうな。
そんで『エンパイア・ステート・ビル』って、NYにあるデッカいビルの事だろう。
そう言われると、シルエットが似てる。……建物のね。
建造物の上部先端が、段々になって尖ってるのだ。
「気を抜くと襲って来る『空からの恐怖』に備えた防御施設よ。『王都』の四つ角に立ってるの。アレは『北東口』ね」
『冶金の丘』にも『物見の塔』があって、『魔法』で動く「対空速射砲」が設置されてるそうだけど……それの、さらにデカいヤツか?
「……えーっと、つまり?」
「だから、もう『王都』に到着しちゃったのよ」
「……マジっスか?」
退屈しのぎに雑談してるあいだに、時速100㎞以上で約3時間……『駅』3つ分……つまり、3日分の行程を一気に走破してしまったのだった。てへ。
◇
『王都』は『女王国』のほぼ中心に位置している。
2本の『永遠の道』がクロスする『大交差』がある、大陸最大の交通の要衝だ。
その市域は『大交差』が描く「X」に沿って広がっていて、俺たちは今、広大な『王都』の北東の外れにある「馬車溜まり」に居る。
と言っても『荒嵐』の最中なので、俺たち以外の馬車なんていないけれども。
「まあ、完全に予定が狂ったわけだよ」
プリムローズさんが苦笑いしてる。
「6日以上はかかると思っていたのに、4日目の昼食前に到着……って、ありえないよ。これからどうすんのよ?」
「イヤ、俺たちが悪いみたいに言わないでください」
「……あい」
俺とセシリアの肩身が狭い。悪い事はしてないのに。
だいたい俺は21世紀の日本から転生してるから、半日で約300㎞移動したって聞いても、ぜんぜんなんとも思わないんだけどな。
逆に『女王国』って意外と狭いと知ったよ。
「この手前の『駅』に宿泊して、そこから『王都』入りを予告して、準備を整えてもらおうと思ってたんだよ。物事には『段取り』ってものがあるんだよ」
プリムローズさんは言うけど、『女王国』のしきたりやら段取り云々言われてもなあ。
「ですが、姫殿下やジンさんが襲撃を受けるかもしれない可能性を考えると、襲撃者の思惑が大きく外れる事になるわけですから、悪い事ばかりではないのではないですか?」
シンシアさんが執りなすように言ってくれた。お味方して頂き、嬉しゅうございます!
「良い方に考えればそうだね。まあ、みんな無事に『王都』に着けたし、良しとしよう」
プリムローズさんがそう言うと、みんなにほっとしたような空気が流れる。
「じゃあ、食事しながら、みんなのこれからの予定を確認しておこうか?」
ホントに司会進行役だ。
ここで一息入れて、みんなに飲み物を配る。
各「馬車溜まり」には『旅人の水』って名前の井戸(貯水槽)があるそうで、そこから『★水玉☆』で汲んだ水を『★滅菌☆』して大き目のティーポットに入れる。
そこにマカロンみたいなカタチの魔法加熱器『魔炉丸』を放り込むと、「焼け石に水」ならぬ「水に焼き石を入れた」みたいにお湯が沸くそうだ。
そのお湯で淹れた『赤茶』だ。あたりに酸っぱい匂いが漂う。
カップは各自持参のやつだ。
陶器だったり、磁器だったり、木工品だったり、てんでバラバラだ。
途中参加したセシリアと茶トラ君と次郎氏は代用の船型のお皿だ……って、猫に飲ませていいのか? 赤茶?
食料品は、なんだかんだで二連泊した『北東路・上り第四駅』で大量に買い込んでおいた。
ここで「でっかいチーズの塊の計り売り」ってのを初体験したよ。
上下を平らにカットしたバレーボールくらいの大きさのやつの、半分割1個と四分割2個……って結局丸ごと1個買っとるやん!
あれ、待てよ。『第四駅』?
とすると移動距離は約400㎞くらいだったんだな。『駅』4つ分だ。「400なのです」だ。
にしても……そんなに危険は無いとは聞いてはいたけれども『ケモノ(獣)』にも『化物』にも『空からの恐怖』にも遭わずに、あっさりと目的地の『王都』に着いちゃったな。
襲ってきたのは人間だけだったよ。
やっぱり「人間の敵は人間」なのか?
これ言ったのは、水色髪の女の子(※メイドさんではありません)の頭の上に乗ってる白くて丸い謎生物だったよな?(※激しく勘違い)
そして「人間は吸血○よりも○よりも怖い」のか?
これを言ったのは誰だっけ? お兄さんに教えておくれ(※悪質な誘導)。
◇
チーズ、うめー。
やっぱ、プロが作ったものはコクが違うよ。
で、クイズの正解は、前者が「N○RVの副司令」で、後者が「阿修羅○」だ。『終○りのセラフ』だ。ちなみに俺は某シリーズは観ていないので、ドーナツ好き金髪幼女とかは、ネタでしか知らないのだ。
……それはそれとして、
「まず、私と殿下は、女王陛下と他の王族がたに、帰還のご挨拶だね。長い事『王都』を離れていたし」
プリムローズさんが珍しく乗り気なので、あとは任せようかな?
「そして、『冶金の丘』滞在中の出来事の報告」
あいまいに言ってるけど、ドロレスちゃんと一緒に『王家の秘宝』発見の顛末の報告だろう。
その『秘宝』の大部分は、すでに売り飛ばされて無くなっていた。
ドロレスちゃんのお爺さんの指示らしいけど、彼女も実行犯的な責任があるらしいので、事情の説明を行って、女王陛下の裁定を受けないといけないのだ。
「あとは次郎氏と共に、『東の円』の『使者』の再訪の報告。殿下に『愛し人』誕生の報告。これって君のことだからね。この三件については我々に同行願おうか? 全部まとめて済ませたいし」
「ええっ?」
任せちゃダメだった。
みんなの前で明言されてしまった。
「うむ」
ラウラ姫が当然、と頷く。
マジでかっ? ……いいえ、違いますわね。
本当に大きいですわね? ……いいえ、これも違いますわね。
本当ですの? 信じられませんわ。
うん、ここは『王都』なんだから、きちんと「悪役令嬢口調」でいかないとな(※状態異常『混乱』)。
「あたしは……覚悟は出来てますよ」
ドロレスちゃんが珍しく緊張気味だ。
「ところで、あたしはどこに宿泊する事になるんですか?」
一応、窃盗事件の容疑者的なアレだしな……警察署? 留置場?
「殿下と父君が同じ妹君だからね。殿下のお客人という事にするよ」
プリムローズさんが意外と甘い。
「……(ほっ)」
でも言われたドロレスちゃんは安堵してる。
見た目はハイティーンでも中身は12歳だしな。そりゃそうか。
「で、俺とミーヨとセシリアと茶トラ君が『野宿』か」
俺がそう言うと、いつものあの方が短い悲鳴を上げた。
「うええっ? 『王都』まで来て野宿なのっ? 『荒嵐』なのに」
「む? ジンも皆も、私の『宮殿』に来るが良い」
ラウラ姫が言った。
「……」
イヤ、後ろで筆頭侍女が渋い顔してるよ?
てか、私の『宮殿』? 『王宮』じゃないの?
「そんなに皆で押し掛けるわけには……」
元・日本人の俺様は、こんな時、ちょっと遠慮してしまうのだ。
「でしたら『全知全能神神殿』にいらっしゃればいいじゃないですか? ジンさんのアレの中のアレは、元々『全知神』さまからの、アレですし」
シンシアさんが細部を誤魔化そうとして、もの凄く不自然な感じになっちゃってる。
でも正直言って、また『神殿』で「性交禁止」はもう無理なんです(泣)。
「……お誘いはありがたいんですけど、『野宿』します」
「うええっ」
それやめな。はしたないから。
「いや、ふざけてないで、殿下と同行してもらわないと困るよ。君は殿下の『愛し人』なんだから」
「うむ」
「……はあ」
そうなるのか?
「それに、この辺りは『荒嵐』じゃなくても『夜半過ぎの強風』が吹くからね。野宿なんて止めとくのが正解だよ」
プリムローズさんに諭される。
そう言えば、陸と海の温度差のせいで、毎晩のように強風が吹くって話だった。夏場でも夜間は冷えるらしいのだ。
「でも、ドロレスちゃんと一緒に、マルカさんとジリーさんも、その……姫の『宮殿』に滞在する事になるんじゃ」
「ああ、もちろん、お二人にも『宮殿』に滞在してもらうよ。部屋はたくさん空いてるから」
「うむ!」
ラウラ姫が頼もしく頷いた。
「……(渋顔)」
ただ、筆頭侍女の方は微妙に迷惑そうなんだよな。
「「ご慈悲をいただき、感謝いたします。姫殿下」」
マルカさんとジリーさんは丁寧にお辞儀した。
そう言えば、『代官屋敷』でこの二人から礼儀作法の「特訓」を受けたせいで、俺は「悪役令嬢口調」が身についてしまったのだった。
でもって、俺ってどうやら『身体錬成』の応用で、自分の身体を作り変えて「女体化」出来るみたいだし、いつか必ずこれが役立つに違いないな。
今から楽しみだな。『ソー○ランド潜入捜査』とか『温泉グルメレポート』とか!
……イヤ、最初のはパスだな。身の危険を感じる。
でも、あるかな、そんな機会?
イヤ。「ある」と信じて、今から「悪役令嬢口調」をブラッシュアップしとこう!
「ロザリンダさまは、どのようなご予定でございますのこと?」
俺は失礼のないように訊ねた。
「……?」
変な表情をされた……。
俺の「悪役令嬢口調」は完璧のハズだが?
ちょっと声が甲高かったかな?
「まっすぐ『全知全能神神殿』に向かいますが」
ロザリンダ嬢が、豚耳をつけっぱなしの次郎氏に侍りながら言った。
そうなの? 二人でどっかにしけこんだりしないよな?
ところで、「しけこむ」って何?
どんな字だろ?
「ヒサヤも『神殿』かい?」
あ、いけね。気が緩んだら、地が出た。
「はい。役目をおおせつかっております」
11歳とは思えない丁寧さだ。
「たしか『冶金の丘』でお世話になった『全能神神殿』の『神官長』さまの、地元のお知り合いの方の『苦しみ』を取り除いてあげるんだよね?」
『苦しみ』ってぶっちゃけ「●゛」の事だ。
ヒサヤは、俺がその事を知ってるのが意外そうだったけど、
「ご存知でしたか? はい。その方は『南の街区』にお住まいだそうです」
そう言ってにっこりと笑った。
「そっか」
その話を俺にしてくれたのは『俺の聖女』のシンシアさんなので、忘れるワケがないのだ。
美しく清楚な黒髪の美少女が、3回も「●゛」と言ったのだ。
忘れられなくなっちゃってるのだ。
「そして、シンシアさん」
「なんですか? ロバ耳さん?」
シンシアさんに、そんな事を言われた。
俺が『全知全能神神殿』への宿泊を断ったせいか?
なんかちょっとツンとしていて、出会った最初を思い出させる。
「……ロバ耳さんですか?」
もともとが、貴女にキスしようとして『巫女見習いへの過剰接近』の罪で『一日奴隷』になったんですけど。
そして、そもそもがシンシアさんの頼みで「神殿組」のみなさんもこの『王都』への旅に同行する事になったんですけど。
「……(ツン)」
でも、そんな彼女も可愛いので、許す!!
「シンシアさんは『巫女選挙』ですよね。もちろん、実弾ブチ込み……イヤ、全力で応援しますよ!」
俺が張り切って言うと、
「はい、出来る限り……頑張ります」
シンシアさんは気弱に笑った。
やっぱり『選挙』に対して消極的だ。何か心配事でもあるんかな?
「おお、そうか。美月も『巫女選挙』に出るのか……」
豚耳をつけっぱなしの次郎氏が、なんとなく感慨深げだ。
「……(デレ)」
ロザリンダ嬢が、その彼に近い。デレてるっぽい。
そしてメイドの丸齧りさんたちも、不必要に彼に近い。次郎氏がプチ・ハーレム形成中だ。ちょっと殴りたい。
「美月も――というからには、他にもお知り合いが『選挙』に出られるんですか?」
一応礼節をもって、訊いてみる。
男三匹(含む茶トラ君)の時の「小者モード」は、今は封印だ。
「こちらのお美しい『巫女』さまの妹さんも、『巫女選挙』に出られるそうですよ」
「まあ……」
豚耳の次郎氏が、胡散臭いほど爽やかに言い、隣のロザリンダ嬢を陶然とさせている。
「……へー」
そう言えば次郎氏はどこに泊るんだろ?
確か『捕縛命令』が出てたハズだし、彼こそブタ箱行きかな?
「そうでしたの? 妹さんが」
少しも聞いておりませんでしたわ。
思わず、詰問するような口ぶりになってしまいましたわ。
妹さんもお胸が大きくていらっしゃるのかしら? どうなのかしら? ロケットなのかしら?
というか、間違いなく近いうちに出会う事になるだろうな、その子と。
「ええ、ですから……あなた方とは、敵対する陣営となりますね」
ロザリンダ嬢が挑発的な態度だ。
「じゃあ、ロザリンダさまだけは徒歩で『神殿』に向かってもらう事にして……『荒嵐』にお気をつけくださいね」
そう言われると、こう言うしかないのであった。
「……ちょ、ちょっと」
慌ててるけど、敵対を表明した以上、もう知ったこっちゃないのだ。
「茶トラ君はどうするんだ?」
俺は、ヒサヤとドロレスちゃんの間に挟まれている「六本指の猫」茶トラ君にも訊いてみる。
でも、旅先で勝手気ままな猫を自由にさせたら、そのまま居なくなりそうな気もするけど……それも彼の人生だしな……猫だけど。
「みゃぁぁああ゛あ゛あ゛」
ちゃ、茶トラ君がしゃべった!
「こづ、くり、いてる」
何故か猫耳奴隷セシリアが通訳してくれた。猫語わかるらしい。
ただしセシリアは、獣人でも何でもない(※『キリング○イツ』)。
「子作りする、と言っているそうです。お兄様」
そしてそれを、ヒサヤが意訳してくれた。
お顔が赤い。この様子だと「子作りの何たるか」を知ってるようだ。
11歳なのに賢い子だ。偉いぞ。……って褒めていいのか?
「そうか……頑張れよ!」
俺は茶トラ君に向けて言った。
うん。生き物としては当然の事だな。
「みぃぃあああ゛」
「おま、もな」
「お前もな、だそうです」
リレー式に意訳された返信が来た。
「おうよ! ……では、ロザリンダさま以外のみなさんは『俺の馬車』に乗ってください。出発しましょう!」
「お願いです。私も乗せてください」
ロザリンダ嬢がいつの間にか半泣きだった。
「ふっ、甘いですわ! わたくしの上に乗って、馬代わりにしていいのは『今のところ』ミーヨさんとラウラ姫だけでしてよ!」
騎馬のするどい方が勝つのだ(※『キリン○バイツ』。ただし誤字と誤認と誤用あり)。
そして、きちんと「今のところ」を強調しといたぜ。俺様に抜かりはないぜ。可能性は無限大だぜ。未来は誰にも分からないぜ。某アニメみたいな「ビターエンド」も嫌いじゃないぜ……ダメやん。
「「「「…………!!」」」」
なんか、みなさん物凄い衝撃を受けたような沈黙だ。
「はうっ!」
ミーヨが茹でダコだ。おでこから蒸気が。
「…………むう」
ラウラ姫が、何故か剣の柄を握って抜刀体勢だ。
あれ? また「やっちゃった」かな?
◇
意味もなく不必要にドタバタしたけど……休憩を終えて、再出発の準備中だ。
「あのー、ところで、ミーヨさんも上に乗るんですか? ……いえ、間違えました。ミーヨさんはどうなされるんですか?」
シンシアさんがミーヨに控えめに訊ねてる。
なんだかんだで二人とも仲良くなってるし、離れるのが残念そうだった。
「わたしはたまに……ううん、また『侍女』のフリして、ジンくんに後ろから……ちがくて、ジンくんの後ろに着いてくと思うよ?」
「そうですか。すると普段は後ろから……あ、いえ、また『侍女』のフリを……」
やっぱり、別れが辛いのか――会話の流れがぎこちない……というか、明らかにどこか変だな。
「ミーヨ。それでいいのか?」
俺が訊ねると、
「うんっ」
いつもの調子だ。
「でも、お前は元々は……」
立ちバ……イヤ、立場から言えば、王家に次ぐくらいの「高位貴族」の跡継ぎ娘なのに。
「大丈夫! ここぞ、という時には『侍女というのは世を忍ぶ仮の姿。実はわたしは……』って正体を明かすから」
ミーヨは明るく言って、キラン☆ とおでこを輝かせた。
……前から気になってたけど、それって無意識に何かの『魔法』を発動してるわけじゃないよね?
「おお、なんかカッコ良さそうですねえ!」
ドロレスちゃんだ。
「あたしも何か考えとこう!」
この子も実は七番目のお姫様だし、そういうの好きそうだもんな。
「……ぼそぼそ(ただ、身分を証明するようなものが、なーんにもないだよね)」
ミーヨは俯いて、呟いていた。
そうなのか?
うなじにある『魔法の黒子』が身分証になるって聞いてるけど。
ミーヨのはきちんと見た事無いから……どんな情報が刻まれてるのか不明なんだよな。今度じっくりと(以下略)。
「……ぼそぼそ(『紅い卵』があればなぁ)」
「え?」
「ううん、なんでもない。なんでもない」
ミーヨが慌てて首を振る。
イヤ、俺には聞こえてるぞ。
『紅い卵』は、オ・デコ家の家宝で、何かの出来事で失われてしまったそうだ。
ミーヨはずっとそれを探してるっぽいけど……かすかな記憶だけで、何の手がかりもないらしい。
その正体は「ルビー」だろう――と思う。
それならば、卵くらいの大きさならば、原料となるアルミナ(酸化アルミニウム)さえあれば、俺の『口内錬成』で錬成れる。
俺に任せとけ、ミーヨ。
でも、ボーキサイトとかアルミナとか……人体に有害だから、粉末を吸い込んじゃダメなハズだな。
あくまで雑学的な知識しかないから、何がどう毒なのかは知らないけれども……。
即効性なのか? 遅効性なのか? 中高生なのか? 『M○X』なのか? 姉と弟が逆転してるのか? 姉だけど、やっぱり妹ポジ希望……誰にだよ?
それはそれとして、そんな心配はしなくても、俺の『錬金術』の『体内錬成』では、当該部位が謎の被膜みたいなバリアーで守られるから、きっと問題はないだろう。
もうすぐ行われる『巫女選挙』の投票券だという『銀の円盤』は、『軽い銀』と呼ばれるアルミニウム製だそうだ。
ミーヨのために『宝石』を『錬成』する分と、シンシアさんに投票する分と、箱で大人買い……イヤ、業務用レベルで大量購入してやるっ。
見てろ、みんなが「引く」ほど、買ってやるぜっっ!
……お金ぜんぜんないけどね。
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頑張り過ぎて失敗する事だってある――まる。




