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061◇双子星とロケット馬車


「みよねさ、ため、きん」

「はい。セシリアはいい子」


 せっかく、お駄賃(だちん)にあげたのに……。

 猫耳奴隷のセシリアは、『地球銅貨(アアス)』をミーヨに預けて「貯金(ちょきん)」しちゃうらしい。

 串焼き肉くらいなら買えるのに。それとも何か目的があって貯めてんのかな?


「あた、いく、そと」

 セシリアは水路の『守り人』にチップを渡すために、店から出て行ってしまった。


      ◇

 

 ――とりあえず、手紙を見てみよう。



      拝啓

      『荒嵐(あらあらし)』の荒れ狂う季節となりましたが、

      皆様いかがお過ごしでしょうか。


      ご依頼の件について、様々な情報が集まりましたので、

      早速ではありますがそちらにお送りいたします。


      内容をご精査いただけますよう、お願い申し上げます。


                        あらあらかしこ

                          名もなき犬耳奴隷より


 2枚目は、特に()らない文面だった。


 俺が密かに情報収集を頼んでおいた「犬耳ちゃん」は、この『荒嵐(あらあらし)』のせいで、俺たちが数日間は足止めされると思って、こんなカタチで手紙を出してくれたんだろうな。


 俺たちが、この『駅』に居るあいだに届いて良かった。

 危うく行き違いになるとこだったよ。


 ん? 端っこに「代筆・文責/マルグリット・ジレッタ」とある。

 代筆か? 人形……じゃなくて人間に頼んだのね? って、そりゃそうか。

 てか、誰なんだろ? この人。


 ま、いいか。先を見てみよう。


 3枚目の紙を見ると、



   『黒髪の女。足に双子星。三人に六点』について分かった事


       黒髪……………黒い頭髪。下も黒い場合が多い。私は秘密。


       女………………人間のメスと思われるが、男性同性愛者

             の女性役をあらわす場合あり。


       足に双子星(ふたごぼし)……素直に二つ並んだ黒子(ほくろ)か?

             『双子星』ではなく『二つ星』と考えた場合、

             軍隊なので階級を表す。

             『道の警備隊』では足に階級章を付ける。

             『二つ星』は三人隊長。でも給料は安い。

             休みも少ない。便秘もきつい。


       三人……………三人。ちなみに『道の警備隊』の三人隊も三人。


       六点……………時刻の「朝の六打点」でない場合は

             「弔いの鐘」か?

             その場合、六点は「平民階級」。


      あの『駅』の中に『双子星』という名のお店はありませんでした。

      薄紅色と水色の髪の双子のお人形も売ってませんでした。

      それと、広場の貯水槽の横っちょのやつは無事でした。


      4枚目に、犬耳さんの描いた絵もあるので、そちらも参照の事。


         ※ご注意「自分で書いていて思ったのですが、これらの点から

         私を連想されるかもしれませんが、私はあの店の主人とは、

         なんの関係ありません。本当ですよ。代筆者・マルグリット」



 そうか……あの広場の貯水槽の横っちょの「ど根性スケベダイコン」。

 まだ無事か……良かった良かった。


 じゃなくて……つまりは、この手紙を代筆したのは、太ももに「二つ星の階級章」をつけた『道の警備隊』の、黒髪の女性『三人隊長』さんか……思い出したよ。


 俺がシンシアさんと間違えて助けちゃった女性(ひと)だよ。

 あの「犬耳ちゃん」……なんてひとに代筆頼んでんだ?

 しかし今さら何言っても遅いので、ま、いいか。


 にしても、端に代筆者の弁明が書いてあるな。

 しかも、本文中には余計な私見や愚痴が混じってるし。


「これってホントに信用出来る内容なのか?」


 ついつい、そんな事を呟いていると――


「最後の『六点』については、合ってるかもしれません。確かに『神殿』で『時告げの鐘』以外で鐘を鳴らす場合、お祝い事は奇数回。葬儀・追悼などの(とむら)いには、偶数回鳴らします。その対象となる方の、社会的地位によって鳴らす回数は増えていきます」


 シンシアさんだ。

 『神殿』に仕える『巫女見習い』だもんな。詳しそうだ。


 実は左手(そば)から、ずっと手紙を見られていたのだ。

 ちなみに反対側からはミーヨが見ている。美少女二人に挟まれてるのだ。

 背後にも誰かの気配を感じるな。誰だろ? お肉を食べてるような咀嚼音(そしゃくおん)がする。


「ちなみに『時告げの鐘』やお祝い事の場合は、小さい鐘も鳴らすので『リン、ゴ――ン。リン、ゴ――ン』と聴こえますが、弔いの鐘では大きい鐘だけで、長めに『ゴ――ン。ゴ――ン』と鳴らします」


 綺麗なお声だ。

 鐘の音の擬音が「銀の鈴の音」みたいだ。こう言うと『リ○ロ』のエ○リアみたいだ。


「はむはむ……(ごっくん)。『弔いの鐘』から転じて『死』または『殺害』を意味する隠語になってますので、『黒髪の女。足に双子星。三人に六点』が『平民階級で双子星の付いた三人の黒髪の女を殺せ』という指示書になってるかもしれませんよ?」


 ドロレスちゃんだ。

 俺の後頭部近辺で何かを飲み込んだ後で、ぞっとするような事を平然と言った。

 俺はお気楽な異世界転生組なので『女王国』の「隠語(いんご)」とか全然知らないしな。

 『地球』の日本の「淫語(いんご)」なら、それなりに詳しいけれども……。


「物騒な話だが……本当にそうだったかも知れないな」

 俺と同じく異世界転生組のプリムローズさんだ。

 いつの間にか、俺の背後に回って、ドロレスちゃんとプリムローズさんが、手紙をのぞき込んでいたようだった。


「「えっ?」」


 両サイドから、同じセリフが聴こえる。


「「ドロレスちゃん、なんで、そんな事知ってるの?」」


 いつの間にか、いいコンビになりつつあるミーヨとシンシアさんだった。


「あたしは『代官屋敷』で育ってるので、裏社会の情報とかも自然に耳に入るんです……(あれ?)」

 ドロレスちゃんが悪女ぶってニヤリと笑い、髪をかきあげようとして……変な顔になる――そう、残念ながら今朝の髪型は、ツインテールなのであった。


「はぐ……はむ……むぐ」

 俺の真向かいのラウラ姫は……食欲全開だった。

 金髪ツインテールをぴこぴこ揺らしながら、ポッポ鳥(地球の「鳩」の子孫かもしれない)の焼き鳥を食べている。


「ところで『双子星』の方は、どんな意味か知ってる?」

 金髪ツインテールのドロレスちゃんに訊ねてみた。

「……(赤面)」

 なぜか俺を見つめたまま、顔を赤くして黙っている。


 はて? なんか、エロい事なの?


 そう言えば、さっき――


      ◆◇◆


 『おトイレ』でドロレスちゃんと会った。


「……」

 ちょうどツインテールで、「王家の姫」の証の「★」が入ってるという「うなじ」が丸見えだったので、ついついスケベ心からそれを見ようとして、背後からこっそり近づいた。


「な、なんですか? ムズがゆい」

 なんでやねん。

 俺の気配を敏感に感じて、ドロレスちゃんが振り向いてしまった。


「……イヤ、なんでもないよ」

 あくまで秘密裏に調査(?)したかったのに、気付かれちゃったら警戒されるだろうな。


「ははん、さてはあたしの『尻割れ髪』を見て、興奮しちゃったんですね? それだけ男性にとっては魅力的なんですね? この髪型。無理もありません」

 なんか突っ込みどころ満載な事を言われた。


「てか『尻割れ髪』ってナニ?」

 知らないので訊いてみた。

「この髪型です。後頭部が二つに割れてて、お尻みたいじゃないですか?」

 ドロレスちゃんがさくっと言う。


「……まあ、見えなくも無いけど」

 「ツインテール」が『この世界』では、がっかりするような呼び方で呼ばれてたよ……。

 なんだよ「尻割れ」って? 最初から割れてるよ(笑)。


 そんで、『この世界』で『尻割れ髪』は、男性を誘惑するような時にする髪型らしい。

 よりにもよって王家の姫たちが、朝っぱらからそんな髪型すんなよ。

 てか「尻尾」の部分は無視かよ。


「あ、そうだ。頭の後ろで一つ結びにしてると何て言うの?」

 好きだったゲームキャラを思い出しつつ、訊いてみた。


「『()●(固体)飛ばし』の事ですか?」

「……」

 河馬とかサイじゃないんだから、飛ばさないと思うんだけどな。ウ○コ。


「……フツーに『馬の尻尾』じゃダメなの?」


 ポニーはあくまでも「ポニー」だけれども。


      ◇


 そんな回想から帰って来ると――


 ドロレスちゃんの代わりに答えてくれたのは、シンシアさんだった。


「単純な話で……双子の赤ちゃんが生まれた時に、取り違えのないように、体の(つい)になっている部位に『魔法』で黒子(ホクロ)を入れるんです。見分けがつくように、左右に。私がそうです」


 それは彼女の右膝にある、(ふた)つ並びの黒子の事だろう。

 『脱毛エステ』の時に拝見しました。画像もあります。俺の脳内に。


 ん? あれ?


「……シンシアさん、双子だったんですか?」

 お姉さんがいるとは聞いてたけど、双子の姉妹だったのか?


「はい、私には姉が1人と弟が2人いまして……どちらも双子で生まれてきたんです。ついでに言うと、亡くなった私の母も双子の一人でした」

 いつもながら、(いさぎよ)い明快さだ。


「「「へえー」」」


 遺伝的に、双子は双子を生みやすくなるんだっけ?

 にしても、こんな黒髪美少女がもう一人いるのか?

 お会いしてみたいけど……どっちがどっちか見分けられないと、シンシアさんの俺に対する好感度が大きく低下するだろうから、気をつけないとな。失敗して「攻略不可能」になるとか、ヤだしな。


「シンシア。君、姉と叔母さんだかが『前世の記憶』持ちって言ってなかったか?」

 プリムローズさんがシンシアさんに訊ねた。


「はい。姉は12歳の時に大怪我をして瀕死の状態から生き返り、『前世の記憶』を取り戻しました。そして……居なくなりました。最後に言い残したのは『双子の片割れを(さが)しに行く』って……姉は、前世でも双子だったようです」

 シンシアさんが淡々と言った。

 表情は……沈痛だ。

 ……淋しそうだ。


 そりゃそうか。

 12歳まで一緒に暮らしていた双子の姉が、『前世の記憶』のせいで、いきなり他人みたいになって、家出しちゃったって言うんならな。


 シンシアさんは、その時に、怪我したお姉さんを救いたくて『癒し手』として『覚醒』したらしいんだよな。

 今、このタイミングでは訊けないけど……。


「「「「…………」」」」


 みんな、かける言葉もなく黙り込んでる。


 そんな時、声を上げたのは、次郎氏だった。


美月(みつき)! 日向(ひなた)なら『東の(つぶら)』に居るぞ」


 日向……ってシンシアさんのお姉さんか? 月と太陽か?


「えっ? 初めて聞きました。本当……なのですか?」

 シンシアさんは、疑わしそうだ。

 次郎氏の事を、全面的には信用出来ないのかも。


「……いやー、黙っていようと思ってたんだが……仕方ないな。俺が『東の(つぶら)十二単王国』の使者に選ばれたのは『縁戚』だからだ。意味は分かるか?」

 次郎氏の言葉には、何やら底意が含まれている。


「分かりません。はっきりと言ってください」

 シンシアさんがきっぱりと言った。


「つまり……『東の(つぶら)十二単王国』の女王『火巫女(ヒミコ)』とは、お前の双子の姉の日向(ひなた)の事だ。ただし、今は違う名前を名乗ってる」

 次郎氏が言った。


「姉が……? 『東の(つぶら)』の女王に? 信じられない、です」

 何か支えになるものが欲しかったのかもしれない。

 シンシアさんが俺の腕をぎゅっ、と掴んだ。意外と握力があって……かなり痛い。

 こうなったら『★不可侵の被膜☆』全開! ……って、実は俺の任意には発動しないのだ。痛いっス。


「最初は『巫女』だったんだが……『神授祭』で『奇跡』を起こしてな。それで上手く豪族どもに乗せられて、『女王』に(まつ)り上げられてしまったんだ。まあ、政治の実権は年寄り共が握ってるし……お飾りみたいなものだけどな」


 『神授祭』って、『この世界』のクリスマスみたいなものらしいけど……『奇跡』ってなんだろ?


「……『奇跡』? 違う名前とは?」

 シンシアさんは硬い表情で次郎氏に訊ねる。


「ああ、詳しくは知らないが、『奇跡』を起こして、捜していた『双子の片割れ』を見つけたらしい。そして今は、『ユヒ・ホノカ』と名乗っている。『片割れ』の方は……俺は会った事がないけど、『ユヒ・カオリ』だってさ」


 一人でか?

 一人で「ゆ○かおり」なのか?


 待てよ……ユヒだから、「由比」さんかな? 「ガハマさん」じゃないよね?

 どんな字なんだ? 伝わってこないな。


 てか、「ゆ○かおり」って、もう別々に活動してるよ?


「それで二人は『前世の記憶』で結ばれた『魂の双子』だってさ」

 次郎氏はそう言って、かすかに笑った。


 にしても、その二人、よく『前世』の名前とか憶えてるな……俺、まったく思い出せないのに……。

 プリムローズさんも過去の……『前世』の自分を事を話したがらないから、そんな話しないしな。


 イヤ、そんな事考えてる場合じゃない。

 シンシアさんの事だ。


「……」

 シンシアさんは……深く沈んでいる。


「シンシアさん」

 思わず俺が手を握ると、彼女はきゅっと握り返して、

「大丈夫です。もう気持ちの整理はついていますから。誰が悪いという事ではありませんし……姉が元気にしていれば、それでいいです」

 そう言って、静かに微笑んだ。


「うー……」


 その声で、シンシアさんが慌てて手を離した。


「うー……どんどん話がずれてるけど……最初は何の話だったっけ?」

 ミーヨだ。別に怒って唸ってたワケじゃなさそうだ。


 確かにズレてる。

 ガターもいいとこだ。もう隣のレーンかも?


 ちなみに、『て○きゅう』の亀○戸高校・新聞部の近藤うどん○さんの実家は、元ボウリング場のうどん屋だ。

 そして近藤さんの中の人は「ゆ○かおり」の関連人物だ。てか当該人物だ。

 ついでに言うと、謎の宇宙人ト○リン・トンプソン・トマリンソンもそうだ。

 ト○リンの頭の(ふた)つの赤い玉の正式名称は「ト○リン・ゴールデン・ボール」だ。

 どうでもいいと思うかもしれないけど、ウィ○ペディアにも載ってない貴重な情報だ。


 それはそれとして、

「えーっと、確か『荒嵐(あらあらし)』のせいで、馬車の牽き馬が貸して貰えない……って話だな」

 言ってみた。


「「「戻し過ぎ!」」」


 かもね。


      ◇


「話を戻しますと、『双子星』は本当の双子じゃなくても、入れる場合があるらしいですよ。ね、ロザリンダ様」

 ドロレスちゃんが突然そんな風に、『巫女』さまに話を振った。


「……そうですね。親しい、とても親しい友人同士が、お互いの体に刻む場合があります。深い友情の証として」

 ロザリンダ嬢が見たこともないような表情だ。

 遠い記憶を、追想してんのかな?


 この女性(ひと)にも、そんな過去があったのか……。


「見して」

「えっ?」

「その口ぶりだと、あるんでしょ? 見して」

「な、何を言い出すんですか?」


「おっぱい見して!」

「そんなところじゃありません! 膝です!」

「そう? んじゃ、どれどれ」

「いやーん!」


 これ、俺じゃないよ。

 次郎氏とロザリンダ嬢だよ。


「わ、分かりましたから、ちょっと落ち着いてください。次郎様」


 ね?


「もう、仕方ありませんね」

 ロザリンダ嬢は嬉しそうだった。

 てか彼女の「ロケットおっぱい」の方なら、俺も見たかったけれども。


「「「「……(冷気)」」」」


 もちろんみんなで冷気魔法発動中だよ。

 感情のベクトルが違うけど、どっかの学校のお兄様大好きの○雪ちゃんみたくなってるよ。


「ジンさん。ちょっといいですか?」

 シンシアさんに、左腕にしがみつかれた。なんか、ぷるぷる体が震えている。


「……殴りたい。殴ってやりたいです」

 怒りのこもった小声が聴こえる。

 次郎氏を力の限り、ぶん殴りたいんだろう。


 なるほど、その気持ちは痛いほど理解できる。

 てか今現在左腕が痛い。

 じんわりと握られてるので『★不可侵の被膜☆』が発動しない。


「えーっと、暴力は『戒律』に触れないんですか?」

「触れます。特に『癒し手』でもある『巫女見習い』が、故意に、他人を傷つけるような事があってはいけません」


 ギリギリで我慢してるんですね?

 てか今「故意に」を強調しましたけど、「事故」はいいわけですね? 「事故」はありましたもんね?


「シンシアさんは亡くなられたお母さんに憧れてて、『七人の巫女』を目指しているんですよね?」

「そうです。はい!」

 俺を見上げるその顔は、とても美しかった。


 思わず、見つめ合ってしまう。


「「……」」


 黒い瞳に、吸い込まれそうだった。

 俺は……いつの間にか「愛のシュワルツシルト半径」(なんだそれ?)を越えていたらしい。


 も、もう、ダメだ!


「だったら! 今ここでキスしていいですか?」

「ええっ? か、『戒律』がっ!?」


「「「「こら――――――ッ!!」」」」


 いつの間にか「ヘイト」がこっちに回って来てた。


「あれ?」


 俺?


      ◇


「おにさ、なかま」

「うん。似合うだろ? ロバ耳」

「あい!」


 「清き乙女」である『巫女見習い』に接近し過ぎたようです。

 罰として、ついに『一日奴隷』になりました。


 獣耳つけてみました。


 ロバ耳です。

 ロバ耳って、なんか王様ぽいじゃないですか?

 ちょっと気に入ってます。


「俺はなんで豚耳なんすか?」


 次郎氏もでした。

 この人も堂々と『巫女』さまに対して胸部露出を強要してましたしね。充分、ブタ野郎じゃないっスか?

 そんで『真珠』見せても、あんまり興味なさそうだったじゃないっスか?


「さ、みんなで馬車を、()くでがんす!」


「「ふんがー!!」」


 イヤ、セシリアは馭者台だけどね。


      ◇


 親切に引き止めてくれた『駅』の人々の忠告を笑顔で無視し、荒れ狂う暴風雨『荒嵐(あらあらし)』の中を、俺と次郎氏の「人力」で『俺の馬車』を牽き、『永遠の道』に出る。


 そこで、豚耳をつけた『一日奴隷』次郎氏には、車内に戻ってもらう。

 前に、獣耳奴隷の同乗に難色を示したロザリンダ嬢や、二人のメイドさんたちは、今回は何も言わなかった。そりゃそうだよね。


 彼は目障り……というか、これから発動させる『合体魔法』を部外者に見られると、いろいろと支障があるのだ。


 今回は、ある程度事前に準備しておいた。

 悪天候をものともしない「全天候型魔法走行」を実現するために。


 プリムローズさんと相談の上、いくつかの魔法の要素を組み合わせ、新たに創出した『オリジナル合体魔法』を発動させる事にしたのだ。


 そのキーになるのが、セシリアだ。


 『この世界』の『魔法』に精通したプリムローズさんに言わせると、「蒙古斑」のせいできちんとした言語教育を受けられず、ついこの間まで『魔法』を使えなかった純真無垢な猫耳奴隷セシリアは、『魔法』に対する凝り固まった固定概念がまったく無いので、「今までにない」タイプの『創作魔法』を編み出すのに適しているらしい。


 今朝早く『魔法の馬車』云々(うんぬん)と言ってたのはこの事だったのだ。


 と言っても、俺と手を繋いだ『耳コピ追従式合体魔法』じゃないと発動しない。

 残念ながら、セシリア単独では『魔法』の使用は無理なのだった。


 どうにか一人でも『魔法』を使えるようにしてあげたいけれども……それは今後解決すべき課題として、とりあえず今回問題になったのが、『俺の馬車』全体を覆う「風 防(フェアリング)」の形状だった。


 『守護の星』と呼ばれる、虹色のキラキラ星を張り巡らせて、それを「不可視の外装」とし、進行方向の空気を掻き分けて進むための。


 それは……鋭く尖った戦闘機の機 首(ノーズコーン)のようなカタチか、むしろ新幹線の先頭車両みたいなカタチが望ましいのだけれども……まだ10歳で、しかも『奴隷の館』で育ったセシリアに、上手く形状を伝えられる言葉が見つからなかった。


 鳥のような姿を想像されて、翼を付けられると、空飛んじゃうしな。


「ええっと、丸くて、先が尖ってて…………はッ!」


 ――俺の脳裏に、天啓(てんけい)(ひらめ)いた!


「セシリア。ロザリンダさんの『おっぱい』見た事あるよね?」

 おととい「姉貴分」の犬耳ちゃんと『日本語』で話してた時、そんな事言ってたよね?


「あい!」

「……おい、ジン。何を言い出す?」

 元気よく答えたセシリアと違い、プリムローズさんは冷たい疑念の表情(カオ)だ。


「それを思い出してごらん。どんなカタチだった?」

「さゆ、おっぴろ、がってる」


 全体の「八の字」展開の事だろう。見た事ないけど、そうらしいのだ。


「……ああ、確かに」

 そんなとこ同意しなくていいです。プリムローズさん。


「片方だけ、思い浮かべて」

「まる、ぼーん、とびで、てる」

「先っぽは?」

「とが、てる。どんぐ、り、みた、い」


「よし、それを『ロケットおっぱい』と名付けよう」

「ロケットおっぱい!」

 おお、何故そんなワードだけスルっと言えるんだ、セシリア?


「……あのなあ」

 露骨に呆れないで下さい。プリムローズさん。


 だがしかし、(くじ)けず続行だ。


 こーゆー事は「やりきる勇気」が大事なんだ!

 たとえ人にバカにされても、負けず、挫けず、恥ずかしがらず、何としても最後までやりきるんだ!!


 負けるな! 俺!! 頑張れ! 俺!!


 ……てかもう、誰に言い聞かせてるんだ? 俺??


 ()(かく)

「やりきる勇気!」

「やき、にく、じゅうし!」

 何を重視しているんだ? セシリア。

 君のその、つぶらな黒い瞳は何を見つめているんだ?


 それはそれとして、

「そのカタチ……焼き肉じゃないぞ。違う方のカタチを思い描きながら、後ろの方に空気を押し流す感じだ!」

「あい!」

「……やれやれ」

 俺は、両手でプリムローズさんの手とセシリアの手を握った。

 プリムローズさんに補助してもらいながら、俺とセシリアで『合体魔法』を発動させるのだ。


 手を繋いだセシリアから、風 防(フェアリング)の明確なイメージが伝わって来て、びっくりした。

 イメージの中でも、やっぱりそれはロザリンダ嬢の『ロケットおっぱい』だったのだ。


「行くぞ、セシリア。ロケットお……イヤ、祈願。馬いらずっ!」

「行くぞ、セシリア。ロケットお……イヤ、祈願。★馬いらずっ☆」


 耳コピでまったく同じセリフを言わせると、何故かスラスラしゃべれる、もうすぐ11歳のセシリアなのであった。


 キラキラキラン☆ と小さな虹色の星が輝き、「()き馬」のいない『俺の馬車』が『魔法』の力で走り出す。


「おおっ、本当にセシリアの言葉だけが『魔法』として発動するんだな。……『多重詠唱』や『協調魔法』じゃないんだ」

 プリムローズさんが何やら驚嘆している。


「偉いぞ、セシリア」

 俺は褒めた。

「あい!」

 セシリアが誇らしげだ。


      ◇


 でも『魔法』の名前がひどい。


 せっかくの新魔法なので、ネーミング会議を開こうとしたら、

()き馬なしで馬車を走らせるんだから『馬いらず』でいいでしょ?」

 とプリムローズさんに面倒くさそうに言われたので、そんな名前になったのだけど……。


 ――なんとなく古臭くて、センスのない名前だ。

 しかも『この世界』には、珍野菜「ヨメイラズウリ」と言うものがあるらしいのだ。なんかソレを連想させられる。まあ、秋に収穫されるとかで、まだ見た事ないけど、独身の男性が「使う」らしいのだ(笑)。

 あと、もう一個あって「ヒトリミヒョウタン」とか言うのは、独身の女性が「使う」らしい。


 野菜なんだから、「食べろ」よ。


「……また何か、くだらない事を考えてるだろう?」

「あんた、エスパーかっ?」


 はて? なんで分かったんだろう?


「やっぱり考えてんじゃないかっ!」

 すぐ隣に座っているので、グリっ、と腰骨を押し付けられた。

 ……硬くて痛い。

 やっぱり馭者台に3人はキツい。狭苦しい。


 俺なら出来るけど、プリムローズさんには走行中の馭者台から車内に移るのは不可能なので、そのまま残ってしまっているからな。


 プリムローズさんは全体的にはスリムなのに、意外に幅のあるヒップをしている。

 まだ16歳で成長期のはずだから、もっと胸が大きくなったら、とんでもないセクシーな体形になりそうな気がする。

 そう言えば、『王家の秘宝』探しの時の「おっぱいを見せる」という約束も、結局うやむやにされちゃったな……うーむ。


 そんな事を考えていたら、プリムローズさんと目が合った。


「何か私に関する性的な事を考えているだろう?」

「だから、あんた、エスパーか?」

 なんで分かるんだろう?

 プリムローズさんが鋭い……というよりも、俺の目線や表情でバレバレだったのかもしれないけど。


「いや、まあいいんだけど……」

 いいのか?


「そう言えば、私ってどう見えるの? 男の目から見て」

「えっ?」

 意外な質問をされて、そっちの方に戸惑う。


「そうっスね。見た目で言ったら、めっちゃ美少女だと思いますけど」

 俺がそう言うと、

「……それはどうも」

 物凄く迷惑そうに、礼を言われた。


「……プリムローズさんって、『前世』と顔が違うスか?」

 言ってから、自分でも愚問だと思った。

 違ってて当然だ。別人の身体(からだ)なんだから。

 彼女はコーカソイド系の顔立ちで、くっきりとした目鼻立ちだしね。


「そりゃそうでしょ? 日本人で、こーんな赤毛でバタ臭い顔して生まれてきたら、変でしょ」


 『ばたくさい』? ナニソレ?

 イカ臭いなら……イヤ、いいか。

 またなんか「昭和」な言い回しらしい。「バタ」ってなんだろ?

 俺が『俺』として目覚めた頃の、ミーヨの気持ちが理解できた気がする。

 よく知ってる人との会話の中に、全然知らないヘンな言葉が混じってたら、そりゃ戸惑うわな。


「『前世の記憶』があるから、今の自分と違和感が半端ないと……」


 てか、俺たちの、この『前世の記憶』って「魂の輪廻転生」とかとは違うんじゃないのか? って疑念があるんだけどな。


「それもあるけど、『王宮』では女官や侍女ばっかりで、最近まで自分よりもず――っ年下の若い男性と接する機会がなかったのよ」

 プリムローズさんは自分の内面を言葉にして説明するのが、面倒くさそうだった。


「ま、いいや。気にしないで」


 かるく言って、後はしばらく無言だった。


      ◆


 新知の事柄を、既存のものに例えると、ややこしくなる事もある――まる。

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