060◇日常の謎とその謎解き
――なんとなく……眠れない。
次郎氏も、茶トラ君ももう寝たらしいけど、さすがに男二人(?)の傍で、ごそごそオナ○ーとかしてる場合じゃないしな(笑)。
眠れない。そして、ヒマだ。
どうせなら『口内錬成』でも試してみたいところだけど……この車内に手頃な食べ物は無いしな。
馭者台に行けば、座席の下に「ポタテ」の詰まったズタ袋があるけど、わざわざ取りに行くのも面倒だし、物音立てて起こしてしまったら、二人(?)に悪いしな。
ゴロゴロゴロ――
俺の腹からヘンな音がする。
昨日『オ○●の駒』を『錬成』するために、牛乳とお酢を混ぜたアレな液体を飲んで以来、お腹の調子がおかしいんだよな。
ゴロゴロゴロ――
茶トラ君は喉を撫でてあげると、嬉しそうに喉をゴロゴロ鳴らすけど、これはソレじゃない。
俺の不調な胃腸の音だ。
このまま放置すると、ヤバい事になりそうな気がする。
……コレって『身体錬成』の応用で、自力で治せねーかな?
ちょっと試してみよう。
俺は念じる。
(身体錬成。整腸)
チン!
こんなに簡単に出来るのか?
俺は下腹部を撫でてみる。
もう、ゴロゴロした嫌な感じは消えていた。
ホントにオナ○て……イヤ、治ってしまった。
でも、嬉しさよりも、自分が普通の人間じゃなくなりつつある淋しさを感じるな(泣)。
お腹も落ち着いたし、今夜のところは、何もしないで素直に寝てしまうべきなんだろうけど……やっぱり眠れない。
といっても、傍に寝てるのは男だし……。
オス♂ はいらないのに。
そう言えば、一昨日の朝、男性同性愛者同士の痴話げんか騒ぎに巻き込まれた時に、俺が「同性愛かあ。女の子同士ならともかくなあ」とか言ったら、ミーヨとシンシアさんが、妙に熱く見つめ合ってた気がしたけど……。
あの二人、二階で何もしてないよな?
うーむ。いかん。変な妄想が……。
俺も女の子になって混ざりたい。
薔薇には薔薇。百合には百合で。
きっとそれが正しいに違いない。
てか……あれ?
俺って『身体錬成』で自分自身の身体をある程度、作り変える事が出来るけど……「トランスジェンダー」じゃないな、この場合は「性転換」か?
イヤ「女体化」か?
……女の子になれんのかな?
ち、ちょっと怖いけど……試してみようかな?
(身体錬成。女体化)
…………。
あ、この感覚。
可能なパターンだ。
失敗する時のひんやりした冷たい感覚じゃなくて、身体がぽーっと熱くなる感覚だ。
ただ、これは少なくとも、一晩はかかる長時間の錬成になるな。
――出来るのか、俺?
女の子になれるのか?
ジン子ちゃんか?
……イヤイヤイヤイヤ。待て待て待て待て。
なったらあかんやろ。
隣に男の次郎氏寝てんのやから。
朝起きたらどうすんねん?
てかなぜ関西弁ぽくなってんだ。
やっぱ、止めとこう。
(身体錬成。中止。キャンセル)
チン?
チン? じゃねーよ。
訊いてくんなよ。なんで疑問形だよ。
……ま、これは最終手段だな。
何かやむにやまれぬ事情でもない限り、「女体化」は止めとこう。
何がどうなるか不確定過ぎるし……何よりまず、女の子になったら、一人っきりでいろいろとごそごそしてみたいからな。
今度、ゆっくり落ち着いた時に、改めて試してみよう。うん。
ん?
「…………」
少し寒いらしくて、茶トラ君が無言でやって来て、俺の両足の間にすっぽりとおさまり、そのまま寝てしまった……。
◇
「今日も、雨と風やまないね」
ミーヨがぽつんと言った。
おでこは全開のままだけど、珍しく三つ編みにしないで、そのまま垂らしてる。
ウェーブのかかった栗毛が胸までかかっていて、なんとなく女教師っぽい。髪、ずいぶん伸びたな。
――くんかくんか。
いつも彼女が愛用してる『薫化枯木』のクシの良い匂いがする。
「今日もお馬さん貸して貰えないね」
ミーヨの呟きに、
「いや、『荒嵐』がおさまるのを待ってはいられないよ」
プリムローズさんが決然と言う。
この人も珍しく、波打つ赤毛をポニーテールにして、素っ気ない黒紐でまとめてる。
なんだろう? 書道に使う「墨」みたいな香りがするな。
「で、相談だが、君とセシリアの『合体魔法』で馬車を……どうだろう?」
プリムローズさんは俺に向かって言った。
「『魔法の馬車』っスか? 分かりました! じゃあ、カボチャを一個と、ネズミを六匹用意してください」
ついついネタで返したら、不思議そうな顔をされた。
「……?」
「…………」
「…………?」
「…………ヒント『ガラスの靴』」
「ああ! 『しんでれら』か! なるほど! いやー、懐かしいなー」
しみじみ言われた。
もお、ボケが台無しじゃないですか?
「ですが『永遠の道』まではどうします? 人力で引っ張るんスか?」
「ジンと次郎の仲良し『こんび』で、いっちょ景気よく頼むよ!」
もしかしたら意外とお祭り好きかもしれないプリムローズさんが、俺を茶化す。
「ヤですよ」
言っておくが、『俺の馬車』は神輿や山車ではない。
「……じゃあ、可哀相だがセシリアに」
「やりますよ」
10歳児にやらせるワケにはいかないのであった。
そこに、シンシアさんがやって来た。
綺麗な黒髪を、三つ編みにしている――のを初めて見た。
髪の一本一本が細いんだろう、ぶっといミーヨの三つ編みと違って、細くて長い三つ編みが古風な日本人っぽい。
「ジンさん、おはようございます」
目が合うと、礼儀正しく挨拶してくれる。
揺れる三つ編みから、ふわりと良い香りがする。お花みたいだ。
「おはようございます。シンシアさん」
体調は良さそうだ。昨日、少しだけど休めたしな。
でも、今日の女子はなんなんだ? みんな髪型変えてるのか?
「どうでした? プリマ・ハンナさん?」
「うん、作戦成功だ。君の言う通りだったよ」
「よかった」
シンシアさんが俺を見て、にっこり笑った。
どゆこと?
◇
「あ、おはようございます。ラウラ姫」
「うむ。よい朝だな」
イヤ、外は『荒嵐』です。
姫はわしゃわしゃとした癖のある金髪を、高い位置でツインテールにしていた。
幼さ150%だった。そして、なんか甘いお菓子の匂いがする。
にしても、まさか異世界で「金髪ツインテール」を見ることになるとは、思ってもなかった。
どうせなら、いつだったか『冶金の丘』で見た赤いドレスを着て欲しい気もする。
「お兄さん」
呼ばれて振り向くと、ドロレスちゃんまで姫とそっくり同じ金髪ツインテールだった。
香りまで同じような甘い匂いだ。
この様子だと、確実に「寄せてる」な。
「おはよう、ドロレスちゃん」
「おはようございます。さ、二人とも」
ドロレスちゃんに引率されて来たのは、年少組の二人だった。
イヤ、彼女自身もまだ12歳だけれども。
「おにさ、おっはー」
「うん、おはよう」
なんとなく懐かしい感じの朝の挨拶をしたセシリアは……いつもの黒髪と、それに馴染む黒い猫耳だ。
あれ? 変化がない。
「おはようございます。お兄様」
「おはよう、ヒサヤ」
礼儀正しく、ていねいな挨拶をしたヒサヤも……肩までの淡い金髪はいつも通りだ。
……うーむ。
◇
『馬車ごと旅亭』から、風除けになるような路地裏を歩いて、朝食のお店に入る。
席についた面々をあらためて見渡すと……明らかにいつもと違う。
16歳チームが、みんな髪型を変えている(ドロレスちゃんは姫のオマケだろう)。
しかも、彼女たちの「匂い」も普段と違う……って、この理由はハッキリしてる。
実は『女王国』の女子の装飾用品……髪を結ぶための紐だとか、リボンだとか、服の背中の閉じ紐とかには「香料」が浸み込ませてあって、「香り」がついているのだ。
みんな買う時に、自分の好みの「香り」がするのを選んでいるのだ。
なので、普段と違う髪型をして、紐やリボンで結んでいれば、当然その香りがする。
ただ、なぜ、このタイミングで全員揃ってヘアスタイルをチェンジしたんだ?
わけが分からない。
これが『日常の謎』ってヤツか?
なんで、みんな髪型を?
そう言えば、あのアニメでもちょくちょく……。
「ご注文は?」
「うさぎはありますか?」
逆に店員さんに訊き返してやったよ。
「うさぎはありませんが……牛・豚・羊・山羊。アタリヤは切らしておりまして……ポッポ鳥やダメドリなどのお肉ならございますが」
マジか? 意外と品揃え豊富なのか?
朝っぱらから「お肉祭り」やられてもかなわんぞ。
「……お願いですから、それ、あの金髪の二人には黙っててください」
俺は金髪ツインテールの姉妹を示して、頼み込んだ。
そう言えば、『セーラー○ーン』って、きちんと観た事ないけど、金髪ツインテールのヒロインが「うさぎちゃん」じゃなかったっけ? ……変身キャラの本名って、意外と知らないな。
◇
溶けたバターの乗った厚切りの丸パンの上に、甘く煮た『虹色豆・こげ茶』の「半殺しペースト」を「スプレット」として塗って食べている。
食パンではないけれど、まるっきり「小倉トースト」みたいだ。
『虹色豆』は、大昔に神様から贈られた『神授の食べ物』のひとつで、『この世界』ではメジャーな豆だ。
収穫時期によって、青・深緑・クリーム色・黄色・赤・こげ茶色・真っ黒……と変化して、それぞれ食味がまるで違う。
『地球』では有り得ない話だ。
ハッキリ言って、完全な「遺伝子組み換え食品」だ。
どう考えても、思いっきり魔改造されてる。
それはそれとして、そのうちの『虹色豆・こげ茶』は初冬に採れるそうだ。
砂糖の代わりの甘味料として広く料理に使われてる『アマネカブ』と一緒に煮ると、風味と色合いが「あんこ」そっくりになる。なんでかは知らないけれども。
こうなると、ホントにモーニング風にコーヒーが欲しいところだ。
でも『この世界』には、コーヒーが無い。
元々の「コーヒーの木」そのものが無いらしい。
なので、コーヒー党だったプリムローズさんは、『前世の記憶』を取り戻してから数年間悶え苦しんだらしい。
てか俺も飲みたくなってきた。……ああ。
『地球』だと、色々な原料から「代用コーヒー」を作ってたはずだけど……よく知らないしな。
でも「お茶」の元になる「チャノキ」も無いらしいし……「コーラ」の元は「コカの葉」でいいんだっけ? それも無いらしい。
似たようなカフェインぽいものがあれば、俺の『錬金術』でなんとか出来そうな気もするけれども……。
それはそれとして、『日常の謎』は、朝食の最中にあっさりと解けた。
どうしても「いつもと髪型の違う女の子4人+1」が不思議だったので、「おでこ全開栗毛ソバージュ」のミーヨに訊いてみたら、あっさり教えてくれたのだ。
某アニメの主人公気取りで前髪をいじる必要もなく、すんなり解決した。
もう一個やりたい「謎解きポーズ」もあるけれど……それは「女体化」するまで温存しとこう。
「……前にね。『浮気防止のために、時々髪型変えた方がいいよ』って、ジンくんのお母さんに教わったの。あ、ごめん、もうわたしのお義母さんだ!」
ミーヨが笑顔で言う。
そう、ここの『駅』で偶然会った「ボコ村の知り合い」から聞いたそうで、ちょうど俺がラウラ姫と決闘した日に、ミーヨの父親と俺の母親が再婚したそうだ。
なんでも「正式な結婚」とか言う、ちゃんとしたやつだったらしい。
聞いたら、『神殿』みたいなところの「神の御前」で、「愛を誓う」らしい。
それを、俺の『前世の記憶』にある日本の「神前結婚式」と混同しないようするためか、『脳内言語変換システム』が「正式な結婚」と、そんな風に翻訳している。
目立つのがイヤで、ひっそりした式だったそうだけど、お目出度い事だ。
子供の俺たちが出席しなかったのは、どうかと思うんだけど……照れくさいしな。
ま、それは置いといて、
「浮気? 俺が?」
「だってジンくん、昨夜もその前も、男の人と一緒に寝たでしょ?」
からかってるのか、ミーヨが楽しそうだ。
「だから、わたしたち女の子の良さを再認識してもらおうと思って」
よりによって次郎氏と俺が?
あり得なさすぎる。
「うむ。男よりも女子の方がたんと良かろう?」
大幅に○リ度がUPしてる「金髪ツインテール」のラウラ姫までもが言った。
「あのー、なぜか昨夜女子の間で、下の馬車の中で、男子二人で何してるのかしら? という流れの話になりまして」
なんとなく薄幸の文学少女的な「黒髪三つ編み」のシンシアさんが……そんな話してたんかい? おい。
とか言いながら、俺も「女体化」して女の子と百合百合したいとか、イヤイヤ、まずは一人でごそごそしたい……とか変な妄想してたから、人の事言えないけど(笑)。
そう言えば、アニメ化もされた某ライトな百合小説の黄色い薔薇の蕾の子が「黒髪三つ編み」だったなあ。
「私は巻き添え」
プリムローズさんが、「赤毛ポニーテール」を揺らしながら、否定的に首を振った。
そして、
「……ぼそぼそ(うわ。んな話の後で『日の出鳥』の玉子料理か。カンベンしてや)」
なんか呟いてる。
『日の出鳥』って鶏のコトだけど……はて?
てか、プリムローズさんの皿には、まるっきり「目玉焼き」がのってる。
「……ぼそっ(ないな。お醤油)」
そりゃそうだ。
ちなみに「マンゴーソース」もないよ。
『王都』に行けば、色々な調味料があるそうだけど、ここには肉汁ベースのグレイビーソースみたいなのしかない。
でも、やっぱり「目玉焼き」には「めんつゆ」だよね?
そんで「目玉」はいいけど、赤い薔薇の蕾の妹さんも「○子」だしな……あの時はまだそうじゃなかったけど……って思いっきりネタバレか?
てか、このあたりのエピソードってアニメになってたっけ?
俺が『マリ○て』ぜんぶ読んでたのがバレバレになるな(笑)。
「……ぼそぼそ(ああ、白米のご飯とご飯のお供の味海苔食べたい)」
まだ、そんな事を呟いてるし。
そう言えば「友達」の「○子」を想う白い薔薇の妹の「乃○子」が、また泣かせるんだよな……もう、やめとこ。怒られる。
「でも、プリちゃんも最後まで聴いてた」
ミーヨが付け加える。あとで怒られない事を祈ってるよ。俺の分も。
ちらっと見ると、向こうの席では、次郎氏とロザリンダ嬢が、食事にかこつけてイチャついてた。
イヤ、ロザリンダ嬢が異常にべったりしてるだけか。
そう言えば「ロザ」って薔薇だな。とすると「リンダ」ってどんな意味だろ?
『この世界』の夜空には、『真っ赤な薔薇』って呼ばれてる赤いガス状星雲が見られるけど、悪天候続きで星どころじゃないしな。
「はい、次郎様」
「やあ、どうも」
何が「やあ」だ。なんか腹立つぞ。
「イヤ、どっちにしろ、男同士で同じ馬車の中で寝たからって、そんなに簡単にそっちへは行かないよ?」
密談と商談と雑談と猥談はしたけど。
でも、その会話中に俺の脳内に浮かんだ『ハ○チ○~○ルタと○カは青春する~』も、ほんのりとBL風味だった気もするな――△
そう言えば、シンシアさんに訊くはずだった話も、雑談の中で出て来た。
『泥の中で育つムギ』は、やっぱり『米』らしかった。
次郎氏が育ったところでは、薄い「粥」にして食べていたらしい。
次郎氏は、イタズラ好きな子供で、夜の間にお父さんの股間にその「粥」をかけておいて、朝カピカピに固まってたのを「夢○」だとからかって、死ぬほど怒られた――とか言ってたな。
やっぱりアホだ、あの人。
ちなみに俺の父親譲りの『旅人のマントル』にも、一部カピカピに固まってた部分があったけど、きちんと洗って、丁寧にブラッシングして落としましたよ。
その原因は未だ解明されていないけど、そっちはガチに「○精」かもしんない……。
「俺と次郎氏の男同士でなんて、ホントにあり得ないよ」
「でも今朝、起こしに行った時、ジンくん、△△してたよ?」
ミーヨが真っ赤な顔で言った。
「イヤ、それは違う。お前は男の体の仕組みを分かっていない」
いつもの朝の生理現象を見られて、変な疑惑を受けてたのか。
「そうですよ、ミーヨさん。人間の睡眠には、夢を見る眠りと深い眠りが波のように交互に来て、夢を見る眠りの時に△△するのであって、性的な興奮とは無関係らしいですよ……いえ、違うんです。『神殿』で習うんです。『癒し手』として人間の身体の知識がないといけないので、決して個人的な興味で知っているわけでは……」
シンシアさんが俺の無実を証明するために、弁護してくれている……と思ったら、最後は必死に自己弁護してるし。
「うむ。ジンの△△のお陰で、よい佩刀が出来た」
ラウラ姫が、俺様の俺様的なカタチをした柄を愛しそうに撫でている。うん、こっちこそ、ありがとう。
「殿下。△△という言葉はお控えください。△△は不適当です」
注意にかこつけて、自分は2回言ってるプリムローズさんであった。
「でも、なにかえっちな夢見て△△する事だってあるんじゃないですか?」
ドロレスちゃんまで……。
もう! みんなして△△、△△って、はれ○ん……イヤ、破廉恥です!
てか俺も「女体化」したら、男のアレに興味深々になるのかな?
それはちょっとイヤ過ぎるな。
「なんで……そんな話に?」
「ホラ、だって、おとといの朝に寄ったお店の主人と店員が、そういう関係だったじゃないですか?」
姫とお揃いの「金髪ツインテール」のドロレスちゃんが言った。
「……ああ」
あの不愉快な『シンシアさん襲撃事件』の事か……俺様の活躍で、無事事無きを得たからいいようなものの。
そうだ! ドロレスちゃんに質問があったのだ。それを訊かないと!
そんで、もう強引にでもBLトークと△△から離れよう。
「ドロレスちゃん。その事なんだけど……君は何か知ってるんじゃないのかい? 『双子星』とか『三人に六点』の意味を」
俺は可能な限り、尻assな……シリアスな顔で訊いてみた。
その試みは失敗したらしく、何人かに笑われた。
「「「……ぷっ」」」
「ええ、知ってますよ」
ドロレスちゃんは、ニヤリと笑った。
「教えてくれるかな?」
俺が言うと、
「みなさん、朝なので軽めですけど、あたしは肉が食べたいんです!」
大型肉食獣が吠えた。さっき店員さんと話してたのを聞かれてたのか?
「うむ。では、私も負けていられないな!」
小型肉食獣のラウラ姫まで参戦しなくてもいいです。
「「これとそれとあれとこれも」」
二人とも、競うように注文してる。
料理が来ないうちは話してくれないだろうな。
何気なくヒサヤを見ると、
「私たちとセシリアは早目に寝てました」
ちびっ子代表の「いつも通り」のヒサヤが言った。
つまり昨夜の、16歳チームのBLトークには参加してない、と言いたいんだろう。なんとなく言い訳っぽいけど。
ヒサヤは、塩漬け燻製豚肉(ベーコンだ)と緑の葉野菜と赤い物(ポタテらしい)を、薄切りにした丸パンに挟んだものを、大事そうに両手で持って、少しずつ齧ってる。なんかの小動物みたいだ。
……関係ないけど、BLTサンドの「BLT」ってなんだっけ?
「ボーイズ・ラブ・ティーチャー」とかじゃないよね?
白衣で痩身で眼鏡で総受けとか(笑)。
……てか、イカン。俺まで完全にBL脳に……。
◇
「いっせーに!」
「「「「「どん!!」」」」」
頼んだ肉料理がまだ来ないので、みんなで『この世界』の珍野菜「オトメナス」を使った「恋占い」を始めてしまっている。
オトメナスは手のひらサイズの茄子だ。
断面が完全なハート形だけど、切ってすぐは白い。
少し置いておくと、空気に触れて酸化作用で綺麗なピンク色に染まる。
みんなで一斉に半分に切って、誰のがいちばん早くピンク色になるかを競うのだ!
……って、コレよく考えたら「恋占い」じゃねーよ!!
「やっぱり、ミーヨだよ。どうしてなんだ?」
「ホントですね。また一番です」
「むう?」
「えへへへ」
俺は知っている。
ミーヨが知っている事を。
オトメナスには、色が変化しやすくなる熟度があって、それを密かに見分ける方法があるらしいのだ。
辺境の農村「ボコ村」で育った彼女は、それを知っているのだ。
そして、『冶金の丘』のパン工房に居た時には、それを利用して、独身の女主人スウさんを相手に、連戦連勝で無敵を誇っていたのだった。
……ちょっと可哀相だったよ、スウさん。毎回半泣きになってたよ。
それはともかく、セシリアと二人のメイドさんたちはどこだろう?
――と思っていたら、猫耳奴隷のセシリアが店内に入って来た。
なんとなく、怒られないかとビクビクおどおどしているのが可哀相だった。
俺を見つけると、ほっとした顔で近寄って来て、
「おにさ、おねさ、から」
手紙みたいな紙を数枚渡して寄こした。
ちょっと湿っぽくて、紙が丸まってる。どんな状況で届けられたんだ? この手紙。
『親愛なる私の妹セシリアとそのご主人様へ』
1枚目には、えらい達筆な字でそう書いてあった。
つい先刻ドロレスちゃんが言っていた「カッパの店(?)」に居た、セシリアの「姉貴分」からの手紙らしい。
にしても、あの犬耳奴隷の子、こんな字書けるのか?
「手紙かー。この暴風下で、よく届いたな」
「たけ、ふみ」
セシリアがなんか言った。
「たけふみ、って何?」
プリムローズさんがたまにやってる「青竹踏み」の健康法かな? それとも人名?
「ふとい、たけり、たけ、ながす」
んっ? 『タケリタケ』って、△△した男性器そっくりの『地球』のエロキノコなんじゃないの?
おいおい、16歳チームの悪影響か? オマセにも程があるぞ。
「太い竹を流すんです」
小さな『巫女見習い』のヒサヤが、どことなく心配そうに近づいて来て、きちんと意訳してくれた。
そゆことですか?
俺とセシリアだけじゃ頓珍漢なやり取りになるもんな。そして『王都』に着いたら、どっかの路地裏に行ってみようっと。
「竹ね」
でも、竹は輸入品らしくて、この辺りで生えてるのは見かけない。
「手紙を入れた竹筒を水路に流して、他の『駅』に届けます。近いところへは大きな太い竹にしておくと、格子の網にひっかかって、目的の『駅』に留まります。水路には守り人がいて、見つけたら宛名のところに届けてくれます。それが『竹書』です」
ヒサヤが意訳……というか、まるまる説明してくれた。
葉書をチョウチョみたいに飛ばす『★羽書蝶☆』の『魔法』は、二打点(約3時間)しか飛ばせないから、街中だけだ。
それ以上の、『駅』と『駅』の間くらいの、中距離間の連絡は、そんな感じになってるのかな?
一昨日聞いた話では、大きな都市の間では『神殿通信』ってヤツで連絡を取り合ってるそうだけど。
にしても、ガラスのボトルじゃなくて「竹筒」なんだ?
『ボトルメール』じゃないんだ? なんとなく忍者っぽいな。
そう言えば、珍しい『ボトルシップ』作りを趣味にしてたアニメキャラもいたな。
「……水色の髪……じゃなくて、水路で届いた手紙か」
どことなく紙が湿っぽいのはそのせいか。
にしても専用の水路があるのか? イヤ、『永遠の道』の両脇の草地にある水路の事だろうな。
『守り人』がいるって事は、天然の水路ではなかったのね。人の手が加わってたのか。それは知らんかった。
「はい。水路はすべて『上り』ですから」
「すべて?」
「はい」
ついでのようにヒサヤが教えてくれたところによると……『永遠の道』ってアホみたいに広いから、迷って不明瞭になりがちな『王都』への「上り」を、きちんと判別出来るように、『道』の脇の水路の流路の向きを、それに合わせてあるらしい。
つまりは、すべての水路は『王都』に向かって流れているらしい。
ただし『王都』の近辺で、大きな「運河」に合流されてるらしい。
そんで、その「運河」は、逆にすべて「下り」らしい。
次郎氏も、それを知らなかったのかな?
葉っぱでも千切って流してみれば、分かったろうに……てか、『荒嵐』だしな。他に馬車なんて走って無かったから、選択の余地なんて無かったかもだけど。
「二人とも物識りだね」
「「……(照れ)」」
褒めると、二人とも照れくさそうだった。
「おにさ、おかま、ほられる」
イヤイヤイヤ、俺は大丈夫だよ。次郎氏の事は完全に誤解だし。
前にシンシアさんの矢がホールインワンした事があったけど、ヒサヤが治してくれたし、シンシアさん攻略の「フラグが立った」と思えば、なんてことないよ?
「お兄様、お金を取られる――そうです。この『竹書』の」
「そうなの? そういう意味?」
今のよく意訳出来たな、すげーな、ヒサヤ。
実は犬耳ちゃんには、「謝礼」として元手タダの『真珠』と、さらに「調査費」として『月面銀貨』1枚を崩した『地球銅貨』16枚を渡しておいたんだけど……手紙代は「着払い」か……ま、いいけど。
「いくら?」
「ちん、たま、いっこ」
うお――い。
「『地球銅貨』1枚だそうです」
だから、何で分かるの?
俺の『脳内言語変換システム』では、下ネタ連発してるようにしか聞こえないのに。
それでいくと『明星金貨』はどうなるの?
ま、そんなことはともかく、水路の『守り人』は、それで小遣いを稼いでいるらしく、店の外で待っているそうな。
『扉の守り人』のお婆ちゃんもそうだったけど、『守り人』って人からチップ巻き上げないと気が済まないのか?
「ミーヨ聴いてたか? 『地球銅貨』2枚だって」
俺はいつもの定位置「右隣」にいるミーヨに投げた。
「うん! ……って増えてない?」
増えてます。
◆
予告かな? 予告じゃないよ 予告だよ(予告)※元ネタは『俺ガ○ル』――まる。




