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060◇日常の謎とその謎解き


 ――なんとなく……眠れない。


 次郎氏も、茶トラ君ももう寝たらしいけど、さすがに男二人(?)の傍で、ごそごそオナ○ーとかしてる場合じゃないしな(笑)。


 眠れない。そして、ヒマだ。


 どうせなら『口内錬成』でも試してみたいところだけど……この車内に手頃な食べ物は無いしな。

 馭者台に行けば、座席の下に「ポタテ」の詰まったズタ袋があるけど、わざわざ取りに行くのも面倒だし、物音立てて起こしてしまったら、二人(?)に悪いしな。


   ゴロゴロゴロ――


 俺の腹からヘンな音がする。

 昨日『オ○●の駒』を『錬成』するために、牛乳とお酢を混ぜたアレな液体を飲んで以来、お腹の調子がおかしいんだよな。


   ゴロゴロゴロ――


 茶トラ君は喉を撫でてあげると、嬉しそうに喉をゴロゴロ鳴らすけど、これはソレじゃない。


 俺の不調な胃腸の音だ。

 このまま放置すると、ヤバい事になりそうな気がする。

 ……コレって『身体錬成』の応用で、自力で治せねーかな?


 ちょっと試してみよう。


 俺は念じる。


(身体錬成。整腸)


   チン!


 こんなに簡単に出来るのか?


 俺は下腹部を撫でてみる。

 もう、ゴロゴロした嫌な感じは消えていた。

 ホントにオナ○て……イヤ、治ってしまった。


 でも、嬉しさよりも、自分が普通の人間じゃなくなりつつある淋しさを感じるな(泣)。


 お腹も落ち着いたし、今夜のところは、何もしないで素直に寝てしまうべきなんだろうけど……やっぱり眠れない。


 といっても、傍に寝てるのは男だし……。

 オス♂ はいらないのに。


 そう言えば、一昨日の朝、男性同性愛者同士の痴話げんか騒ぎに巻き込まれた時に、俺が「同性愛かあ。女の子同士ならともかくなあ」とか言ったら、ミーヨとシンシアさんが、妙に熱く見つめ合ってた気がしたけど……。


 あの二人、二階(うえ)で何もしてないよな?


 うーむ。いかん。変な妄想が……。


 俺も女の子になって混ざりたい。

 薔薇には薔薇。百合には百合で。

 きっとそれが正しいに違いない。


 てか……あれ?


 俺って『身体錬成』で自分自身の身体をある程度、作り変える事が出来るけど……「トランスジェンダー」じゃないな、この場合は「性転換」か?


 イヤ「女体化」か?


 ……女の子になれんのかな?


 ち、ちょっと怖いけど……試してみようかな?



(身体錬成。女体化)


 …………。


 あ、この感覚。


 可能なパターンだ。

 失敗する時のひんやりした冷たい感覚じゃなくて、身体がぽーっと熱くなる感覚だ。

 ただ、これは少なくとも、一晩はかかる長時間の錬成になるな。


 ――出来るのか、俺?


 女の子になれるのか?

 ジン子ちゃんか?


 ……イヤイヤイヤイヤ。待て待て待て待て。


 なったらあかんやろ。

 隣に男の次郎氏寝てんのやから。

 朝起きたらどうすんねん?


 てかなぜ関西弁ぽくなってんだ。


 やっぱ、止めとこう。


(身体錬成。中止。キャンセル)


   チン?


 チン? じゃねーよ。

 訊いてくんなよ。なんで疑問形だよ。


 ……ま、これは最終手段だな。


 何かやむにやまれぬ事情でもない限り、「女体化」は止めとこう。

 何がどうなるか不確定過ぎるし……何よりまず、女の子になったら、一人っきりでいろいろとごそごそしてみたいからな。


 今度、ゆっくり落ち着いた時に、改めて試してみよう。うん。


 ん?


「…………」

 少し寒いらしくて、茶トラ君が無言でやって来て、俺の両足の間にすっぽりとおさまり、そのまま寝てしまった……。


      ◇


「今日も、雨と風やまないね」


 ミーヨがぽつんと言った。

 おでこは全開のままだけど、珍しく三つ編みにしないで、そのまま垂らしてる。

 ウェーブのかかった栗毛が胸までかかっていて、なんとなく女教師っぽい。髪、ずいぶん伸びたな。


 ――くんかくんか。


 いつも彼女が愛用してる『薫化(くんか)枯木(こぼく)』のクシの良い匂いがする。


「今日もお馬さん貸して貰えないね」

 ミーヨの呟きに、

「いや、『荒嵐(あらあらし)』がおさまるのを待ってはいられないよ」

 プリムローズさんが決然と言う。

 この人も珍しく、波打つ赤毛(レディシュ)をポニーテールにして、素っ気ない黒紐でまとめてる。

 なんだろう? 書道に使う「墨」みたいな香りがするな。


「で、相談だが、君とセシリアの『合体魔法』で馬車を……どうだろう?」

 プリムローズさんは俺に向かって言った。

「『魔法の馬車』っスか? 分かりました! じゃあ、カボチャを一個と、ネズミを六匹用意してください」

 ついついネタで返したら、不思議そうな顔をされた。

「……?」

「…………」

「…………?」

「…………ヒント『ガラスの靴』」

「ああ! 『しんでれら』か! なるほど! いやー、懐かしいなー」

 しみじみ言われた。


 もお、ボケが台無しじゃないですか?


「ですが『永遠の道』まではどうします? 人力で引っ張るんスか?」

「ジンと次郎の仲良し『こんび』で、いっちょ景気よく頼むよ!」

 もしかしたら意外とお祭り好きかもしれないプリムローズさんが、俺を茶化す。


「ヤですよ」

 言っておくが、『俺の馬車』は神輿(みこし)山車(だし)ではない。


「……じゃあ、可哀相だがセシリアに」

「やりますよ」

 10歳児にやらせるワケにはいかないのであった。


 そこに、シンシアさんがやって来た。

 綺麗な黒髪を、三つ編みにしている――のを初めて見た。

 髪の一本一本が細いんだろう、ぶっといミーヨの三つ編みと違って、細くて長い三つ編みが古風な日本人っぽい。


「ジンさん、おはようございます」

 目が合うと、礼儀正しく挨拶してくれる。

 揺れる三つ編みから、ふわりと良い香りがする。お花みたいだ。


「おはようございます。シンシアさん」

 体調は良さそうだ。昨日、少しだけど休めたしな。


 でも、今日の女子はなんなんだ? みんな髪型変えてるのか?


「どうでした? プリマ・ハンナさん?」

「うん、作戦成功だ。君の言う通りだったよ」

「よかった」

 シンシアさんが俺を見て、にっこり笑った。


 どゆこと?


      ◇


「あ、おはようございます。ラウラ姫」

「うむ。よい朝だな」


 イヤ、外は『荒嵐(あらあらし)』です。


 姫はわしゃわしゃとした癖のある金髪を、高い位置でツインテールにしていた。

 幼さ150%だった。そして、なんか甘いお菓子の匂いがする。


 にしても、まさか異世界で「金髪ツインテール」を見ることになるとは、思ってもなかった。

 どうせなら、いつだったか『冶金の丘』で見た赤いドレスを着て欲しい気もする。


「お兄さん」

 呼ばれて振り向くと、ドロレスちゃんまで姫とそっくり同じ金髪ツインテールだった。

 香りまで同じような甘い匂いだ。

 この様子だと、確実に「寄せてる」な。


「おはよう、ドロレスちゃん」

「おはようございます。さ、二人とも」


 ドロレスちゃんに引率されて来たのは、年少組の二人だった。

 イヤ、彼女自身もまだ12歳だけれども。


「おにさ、おっはー」

「うん、おはよう」

 なんとなく懐かしい感じの朝の挨拶をしたセシリアは……いつもの黒髪と、それに馴染む黒い猫耳だ。


 あれ? 変化がない。


「おはようございます。お兄様」

「おはよう、ヒサヤ」

 礼儀正しく、ていねいな挨拶をしたヒサヤも……肩までの淡い金髪はいつも通りだ。


 ……うーむ。


     ◇


 『馬車ごと旅亭』から、風除けになるような路地裏を歩いて、朝食のお店に入る。


 席についた面々をあらためて見渡すと……明らかにいつもと違う。

 16歳チームが、みんな髪型を変えている(ドロレスちゃんは姫のオマケだろう)。


 しかも、彼女たちの「匂い」も普段と違う……って、この理由はハッキリしてる。

 実は『女王国』の女子の装飾用品……髪を結ぶための紐だとか、リボンだとか、服の背中の閉じ紐とかには「香料」が浸み込ませてあって、「香り」がついているのだ。

 みんな買う時に、自分の好みの「香り」がするのを選んでいるのだ。


 なので、普段と違う髪型をして、紐やリボンで結んでいれば、当然その香りがする。


 ただ、なぜ、このタイミングで全員揃ってヘアスタイルをチェンジしたんだ?


 わけが分からない。


 これが『日常の謎』ってヤツか?


 なんで、みんな髪型を?

 そう言えば、あのアニメでもちょくちょく……。


「ご注文は?」

「うさぎはありますか?」

 逆に店員さんに訊き返してやったよ。


「うさぎはありませんが……牛・豚・羊・山羊。アタリヤは切らしておりまして……ポッポ鳥やダメドリなどのお肉ならございますが」


 マジか? 意外と品揃え豊富なのか?

 朝っぱらから「お肉祭り」やられてもかなわんぞ。


「……お願いですから、それ、あの金髪の二人には黙っててください」

 俺は金髪ツインテールの姉妹を示して、頼み込んだ。


 そう言えば、『セーラー○ーン』って、きちんと観た事ないけど、金髪ツインテールのヒロインが「うさぎちゃん」じゃなかったっけ? ……変身キャラの本名って、意外と知らないな。


      ◇


 溶けたバターの乗った厚切りの丸パンの上に、甘く煮た『虹色豆・こげ茶』の「半殺しペースト」を「スプレット」として塗って食べている。

 食パンではないけれど、まるっきり「小倉トースト」みたいだ。


 『虹色豆』は、大昔に神様から贈られた『神授の食べ物』のひとつで、『この世界』ではメジャーな豆だ。

 収穫時期によって、青・深緑・クリーム色・黄色・赤・こげ茶色・真っ黒……と変化して、それぞれ食味がまるで違う。


 『地球』では有り得ない話だ。

 ハッキリ言って、完全な「遺伝子組み換え食品」だ。

 どう考えても、思いっきり魔改造されてる。


 それはそれとして、そのうちの『虹色豆・こげ茶』は初冬に採れるそうだ。

 砂糖の代わりの甘味料として広く料理に使われてる『アマネカブ』と一緒に煮ると、風味と色合いが「あんこ」そっくりになる。なんでかは知らないけれども。


 こうなると、ホントにモーニング風にコーヒーが欲しいところだ。


 でも『この世界』には、コーヒーが無い。

 元々の「コーヒーの木」そのものが無いらしい。

 なので、コーヒー党だったプリムローズさんは、『前世の記憶』を取り戻してから数年間悶え苦しんだらしい。


 てか俺も飲みたくなってきた。……ああ。


 『地球』だと、色々な原料から「代用コーヒー」を作ってたはずだけど……よく知らないしな。

 でも「お茶」の元になる「チャノキ」も無いらしいし……「コーラ」の元は「コカの葉」でいいんだっけ? それも無いらしい。

 似たようなカフェインぽいものがあれば、俺の『錬金術』でなんとか出来そうな気もするけれども……。


 それはそれとして、『日常の謎』は、朝食の最中にあっさりと解けた。


 どうしても「いつもと髪型の違う女の子4人+1」が不思議だったので、「おでこ全開栗毛ソバージュ」のミーヨに訊いてみたら、あっさり教えてくれたのだ。


 某アニメの主人公気取りで前髪をいじる必要もなく、すんなり解決した。

 もう一個やりたい「謎解きポーズ」もあるけれど……それは「女体化」するまで温存しとこう。


「……前にね。『浮気防止のために、時々髪型変えた方がいいよ』って、ジンくんのお母さんに教わったの。あ、ごめん、もうわたしのお義母さんだ!」

 ミーヨが笑顔で言う。


 そう、ここの『駅』で偶然会った「ボコ村の知り合い」から聞いたそうで、ちょうど俺がラウラ姫と決闘した日に、ミーヨの父親と俺の母親が再婚したそうだ。


 なんでも「正式な結婚」とか言う、ちゃんとしたやつだったらしい。 

 聞いたら、『神殿』みたいなところの「神の御前(みまえ)」で、「愛を誓う」らしい。

 それを、俺の『前世の記憶』にある日本の「神前結婚式」と混同しないようするためか、『脳内言語変換システム』が「正式な結婚」と、そんな風に翻訳している。


 目立つのがイヤで、ひっそりした式だったそうだけど、お目出度い事だ。

 子供の俺たちが出席しなかったのは、どうかと思うんだけど……照れくさいしな。


 ま、それは置いといて、

「浮気? 俺が?」

「だってジンくん、昨夜もその前も、男の人と一緒に寝たでしょ?」

 からかってるのか、ミーヨが楽しそうだ。

「だから、わたしたち女の子の良さを再認識してもらおうと思って」


 よりによって次郎氏と俺が?

 あり得なさすぎる。


「うむ。男よりも女子(おなご)の方がたんと良かろう?」

 大幅に○リ度がUPしてる「金髪ツインテール」のラウラ姫までもが言った。


「あのー、なぜか昨夜女子の間で、下の馬車の中で、男子二人で何してるのかしら? という流れの話になりまして」

 なんとなく薄幸の文学少女的な「黒髪三つ編み」のシンシアさんが……そんな話してたんかい? おい。


 とか言いながら、俺も「女体化」して女の子と百合百合したいとか、イヤイヤ、まずは一人でごそごそしたい……とか変な妄想してたから、人の事言えないけど(笑)。

 そう言えば、アニメ化もされた某ライトな百合小説の黄色い薔薇の(つぼみ)の子が「黒髪三つ編み」だったなあ。


「私は巻き添え」

 プリムローズさんが、「赤毛ポニーテール」を揺らしながら、否定的に首を振った。


 そして、

「……ぼそぼそ(うわ。んな話の後で『日の出鳥』の玉子料理か。カンベンしてや)」

 なんか呟いてる。


 『日の出鳥』って(ニワトリ)のコトだけど……はて?

 てか、プリムローズさんの皿には、まるっきり「目玉焼き」がのってる。


「……ぼそっ(ないな。お醤油)」

 そりゃそうだ。

 ちなみに「マンゴーソース」もないよ。

 『王都』に行けば、色々な調味料があるそうだけど、ここには肉汁ベースのグレイビーソースみたいなのしかない。


 でも、やっぱり「目玉焼き」には「めんつゆ」だよね?

 そんで「目玉」はいいけど、赤い薔薇の蕾の妹さんも「○子」だしな……あの時はまだそうじゃなかったけど……って思いっきりネタバレか?

 てか、このあたりのエピソードってアニメになってたっけ?

 俺が『マリ○て』ぜんぶ読んでたのがバレバレになるな(笑)。


「……ぼそぼそ(ああ、白米のご飯とご飯のお供の味海苔(あじのり)食べたい)」

 まだ、そんな事を呟いてるし。

 そう言えば「友達」の「○子」を想う白い薔薇の妹の「乃○子」が、また泣かせるんだよな……もう、やめとこ。怒られる。


「でも、プリちゃんも最後まで聴いてた」

 ミーヨが付け加える。あとで怒られない事を祈ってるよ。俺の分も。


 ちらっと見ると、向こうの席では、次郎氏とロザリンダ嬢が、食事にかこつけてイチャついてた。

 イヤ、ロザリンダ嬢が異常にべったりしてるだけか。

 そう言えば「ロザ」って薔薇だな。とすると「リンダ」ってどんな意味だろ?


 『この世界』の夜空には、『真っ赤な薔薇』って呼ばれてる赤いガス状星雲が見られるけど、悪天候続きで星どころじゃないしな。


「はい、次郎様」

「やあ、どうも」


 何が「やあ」だ。なんか腹立つぞ。


「イヤ、どっちにしろ、男同士で同じ馬車の中で寝たからって、そんなに簡単にそっちへは行かないよ?」

 密談と商談と雑談と猥談はしたけど。


 でも、その会話中に俺の脳内に浮かんだ『ハ○チ○~○ルタと○カは青春する~』も、ほんのりとBL風味だった気もするな――(さんかく)


 そう言えば、シンシアさんに訊くはずだった話も、雑談の中で出て来た。


 『泥の中で育つムギ』は、やっぱり『米』らしかった。

 次郎氏が育ったところでは、薄い「(かゆ)」にして食べていたらしい。


 次郎氏は、イタズラ好きな子供で、夜の間にお父さんの股間にその「粥」をかけておいて、朝カピカピに固まってたのを「夢○」だとからかって、死ぬほど怒られた――とか言ってたな。


 やっぱりアホだ、あの人。


 ちなみに俺の父親譲りの『旅人のマントル』にも、一部カピカピに固まってた部分があったけど、きちんと洗って、丁寧にブラッシングして落としましたよ。

 その原因は未だ解明されていないけど、そっちはガチに「○精」かもしんない……。


「俺と次郎氏の男同士でなんて、ホントにあり得ないよ」

「でも今朝、起こしに行った時、ジンくん、△△してたよ?」

 ミーヨが真っ赤な顔で言った。


「イヤ、それは違う。お前は男の体の仕組みを分かっていない」

 いつもの朝の生理現象を見られて、変な疑惑を受けてたのか。


「そうですよ、ミーヨさん。人間の睡眠には、夢を見る眠りと深い眠りが波のように交互に来て、夢を見る眠りの時に△△するのであって、性的な興奮とは無関係らしいですよ……いえ、違うんです。『神殿』で習うんです。『癒し手』として人間の身体(からだ)の知識がないといけないので、決して個人的な興味で知っているわけでは……」


 シンシアさんが俺の無実を証明するために、弁護してくれている……と思ったら、最後は必死に自己弁護してるし。


「うむ。ジンの△△のお(かげ)で、よい佩刀(カタナ)が出来た」

 ラウラ姫が、俺様の俺様的なカタチをした(グリップ)を愛しそうに撫でている。うん、こっちこそ、ありがとう。


「殿下。△△という言葉はお控えください。△△は不適当です」

 注意にかこつけて、自分は2回言ってるプリムローズさんであった。


「でも、なにかえっちな夢見て△△する事だってあるんじゃないですか?」

 ドロレスちゃんまで……。


 もう! みんなして△△、△△って、はれ○ん……イヤ、破廉恥(はれんち)です!


 てか俺も「女体化」したら、男のアレに興味深々になるのかな?

 それはちょっとイヤ過ぎるな。


「なんで……そんな話に?」

「ホラ、だって、おとといの朝に寄ったお店の主人と店員が、そういう関係だったじゃないですか?」

 姫とお揃いの「金髪ツインテール」のドロレスちゃんが言った。


「……ああ」

 あの不愉快な『シンシアさん襲撃事件』の事か……俺様の活躍で、無事事無(ぶじことな)きを得たからいいようなものの。


 そうだ! ドロレスちゃんに質問があったのだ。それを訊かないと!

 そんで、もう強引にでもBLトークと△△から離れよう。


「ドロレスちゃん。その事なんだけど……君は何か知ってるんじゃないのかい? 『双子星』とか『三人に六点』の意味を」


 俺は可能な限り、尻assな……シリアスな顔で訊いてみた。


 その試みは失敗したらしく、何人かに笑われた。


「「「……ぷっ」」」


「ええ、知ってますよ」

 ドロレスちゃんは、ニヤリと笑った。


「教えてくれるかな?」

 俺が言うと、

「みなさん、朝なので軽めですけど、あたしは肉が食べたいんです!」

 大型肉食獣が吠えた。さっき店員さんと話してたのを聞かれてたのか?


「うむ。では、私も負けていられないな!」

 小型肉食獣のラウラ姫まで参戦しなくてもいいです。


「「これとそれとあれとこれも」」


 二人とも、競うように注文してる。

 料理が来ないうちは話してくれないだろうな。


 何気なくヒサヤを見ると、

「私たちとセシリアは早目に寝てました」

 ちびっ子代表の「いつも通り」のヒサヤが言った。

 つまり昨夜の、16歳チームのBLトークには参加してない、と言いたいんだろう。なんとなく言い訳っぽいけど。


 ヒサヤは、塩漬け燻製豚肉(ベーコンだ)と緑の葉野菜と赤い物(ポタテらしい)を、薄切りにした丸パンに挟んだものを、大事そうに両手で持って、少しずつ齧ってる。なんかの小動物みたいだ。


 ……関係ないけど、BLTサンドの「BLT」ってなんだっけ?


 「ボーイズ・ラブ・ティーチャー」とかじゃないよね?


 白衣で痩身で眼鏡で総受けとか(笑)。


 ……てか、イカン。俺まで完全にBL脳に……。


      ◇


「いっせーに!」


「「「「「どん!!」」」」」


 頼んだ肉料理がまだ来ないので、みんなで『この世界』の珍野菜「オトメナス」を使った「恋占い」を始めてしまっている。


 オトメナスは手のひらサイズの茄子だ。

 断面が完全なハート形だけど、切ってすぐは白い。

 少し置いておくと、空気に触れて酸化作用で綺麗なピンク色に染まる。


 みんなで一斉に半分に切って、誰のがいちばん早くピンク色になるかを競うのだ!


 ……って、コレよく考えたら「恋占い」じゃねーよ!!


「やっぱり、ミーヨだよ。どうしてなんだ?」

「ホントですね。また一番です」

「むう?」


「えへへへ」


 俺は知っている。

 ミーヨが知っている事を。

 オトメナスには、色が変化しやすくなる熟度(じゅくど)があって、それを(ひそ)かに見分ける方法があるらしいのだ。

 辺境の農村「ボコ村」で育った彼女は、それを知っているのだ。


 そして、『冶金の丘』のパン工房に居た時には、それを利用して、独身の女主人スウさんを相手に、連戦連勝で無敵を誇っていたのだった。

 ……ちょっと可哀相だったよ、スウさん。毎回半泣きになってたよ。


 それはともかく、セシリアと二人のメイドさんたちはどこだろう?


 ――と思っていたら、猫耳奴隷のセシリアが店内に入って来た。

 なんとなく、怒られないかとビクビクおどおどしているのが可哀相だった。


 俺を見つけると、ほっとした顔で近寄って来て、

「おにさ、おねさ、から」

 手紙みたいな紙を数枚渡して寄こした。

 ちょっと湿っぽくて、紙が丸まってる。どんな状況で届けられたんだ? この手紙。




     『親愛なる私の妹セシリアとそのご主人様へ』



 1枚目には、えらい達筆な字でそう書いてあった。

 つい先刻(さっき)ドロレスちゃんが言っていた「カッパの店(?)」に居た、セシリアの「姉貴分」からの手紙らしい。

 にしても、あの犬耳奴隷の子、こんな字書けるのか?


「手紙かー。この暴風下で、よく届いたな」

「たけ、ふみ」

 セシリアがなんか言った。

「たけふみ、って何?」

 プリムローズさんがたまにやってる「青竹踏み」の健康法かな? それとも人名?


「ふとい、たけり、たけ、ながす」

 んっ? 『タケリタケ』って、△△した男性器そっくりの『地球』のエロキノコなんじゃないの?

 おいおい、16歳チームの悪影響か? オマセにも程があるぞ。


「太い竹を流すんです」

 小さな『巫女見習い』のヒサヤが、どことなく心配そうに近づいて来て、きちんと意訳してくれた。


 そゆことですか?

 俺とセシリアだけじゃ頓珍漢(とんちんかん)なやり取りになるもんな。そして『王都』に着いたら、どっかの路地裏に行ってみようっと。

 

「竹ね」

 でも、竹は輸入品らしくて、この辺りで()えてるのは見かけない。


「手紙を入れた竹筒を水路に流して、他の『駅』に届けます。近いところへは大きな太い竹にしておくと、格子の網にひっかかって、目的の『駅』に留まります。水路には守り人がいて、見つけたら宛名のところに届けてくれます。それが『竹書(たけふみ)』です」


 ヒサヤが意訳……というか、まるまる説明してくれた。


 葉書をチョウチョみたいに飛ばす『★羽書蝶☆』の『魔法』は、二打点(約3時間)しか飛ばせないから、街中だけだ。

 それ以上の、『駅』と『駅』の間くらいの、中距離間の連絡は、そんな感じになってるのかな?

 一昨日聞いた話では、大きな都市の間では『神殿通信』ってヤツで連絡を取り合ってるそうだけど。


 にしても、ガラスのボトルじゃなくて「竹筒」なんだ?

 『ボトルメールメッセージ・イン・ボトル』じゃないんだ? なんとなく忍者っぽいな。

 そう言えば、珍しい『ボトルシップ』作りを趣味にしてたアニメキャラもいたな。


「……水色の髪……じゃなくて、水路で届いた手紙か」

 どことなく紙が湿っぽいのはそのせいか。

 にしても専用の水路があるのか? イヤ、『永遠の道』の両脇の草地にある水路の事だろうな。

 『守り人』がいるって事は、天然の水路ではなかったのね。人の手が加わってたのか。それは知らんかった。


「はい。水路はすべて『(のぼ)り』ですから」

「すべて?」

「はい」

 ついでのようにヒサヤが教えてくれたところによると……『永遠の道』ってアホみたいに広いから、迷って不明瞭になりがちな『王都』への「上り」を、きちんと判別出来るように、『道』の脇の水路の流路の向きを、それに合わせてあるらしい。


 つまりは、すべての水路は『王都』に向かって流れているらしい。

 ただし『王都』の近辺で、大きな「運河」に合流されてるらしい。

 そんで、その「運河」は、逆にすべて「(くだ)り」らしい。


 次郎氏も、それを知らなかったのかな?

 葉っぱでも千切って流してみれば、分かったろうに……てか、『荒嵐』だしな。他に馬車なんて走って無かったから、選択の余地なんて無かったかもだけど。


「二人とも物識(ものし)りだね」


「「……(照れ)」」


 褒めると、二人とも照れくさそうだった。


「おにさ、おかま、ほられる」

 イヤイヤイヤ、俺は大丈夫だよ。次郎氏の事は完全に誤解だし。

 前にシンシアさんの矢がホールインワンした事があったけど、ヒサヤが治してくれたし、シンシアさん攻略の「フラグが立った」と思えば、なんてことないよ?


「お兄様、お金を取られる――そうです。この『竹書(たけふみ)』の」

「そうなの? そういう意味?」

 今のよく意訳出来たな、すげーな、ヒサヤ。


 実は犬耳ちゃんには、「謝礼」として元手タダの『真珠』と、さらに「調査費」として『月面銀貨(ルナー)』1枚を崩した『地球銅貨(アアス)』16枚を渡しておいたんだけど……手紙代は「着払い」か……ま、いいけど。


「いくら?」

「ちん、たま、いっこ」

 うお――い。


「『地球銅貨』1枚だそうです」

 だから、何で分かるの?


 俺の『脳内言語変換システム』では、下ネタ連発してるようにしか聞こえないのに。

 それでいくと『明星金貨(フォスファ)』はどうなるの?


 ま、そんなことはともかく、水路の『守り人』は、それで小遣いを稼いでいるらしく、店の外で待っているそうな。

 『扉の守り人』のお婆ちゃんもそうだったけど、『守り人』って人からチップ巻き上げないと気が済まないのか?


「ミーヨ聴いてたか? 『地球銅貨』2枚だって」

 俺はいつもの定位置「右隣」にいるミーヨに投げた。

「うん! ……って増えてない?」


 増えてます。


      ◆


 予告かな? 予告じゃないよ 予告だよ(予告)※元ネタは『俺ガ○ル』――まる。

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