059◇商談とオ○●ゲーム
その夜。『俺の馬車』の中。
「時に、時定殿は……」
俺、サムライに話しかけるみたいになってるな。
「いやー、それやめましょうよ。次郎でいいっすよ」
美青年で、なおかつ一国の『使者』のわりに容儀が軽い次郎氏は、ひらひら手を振って応えた。
「……」
レアな「六本指の猫」である事が発覚した茶トラ君は、退屈そうにしながらも、どこか安心しているようで、ヒサヤ愛用の座布団の上で前脚を折り畳んで「箱座り」してる。
「じゃ、次郎さん。ロザリンダさんはどうやって口説いたんスか?」
「いやー、ありゃ、俺からじゃなくて、向こうからっすよ」
認めたくないけど……めっちゃ美形だしな、この人。
「そうなんスか?」
「そうなんすよ」
どうでもいいけど、二人して「小者口調」だ。
ちなみに俺の語尾は「ス」っス。
「結婚するんスか?」
「いやー、どうなんすかね?」
その様子だと「つまみ食い」だな?
イヤ、まだそこまでは行ってないのかな?
「俺、家を出て、商人になる時、親父と約束させられて、好きな事やってもいいけど『血』だけは残せって言われてるんす」
「血?」
美月ちゃんの前でそれ言うなよ。気分悪くするから。
「なんてーか、俺らみたいな『東の円』の血をね。だから、あの金髪のお姉さんはどうなんすかね? 混血の子が生まれるだろうし」
「そうなんスか」
次郎氏が21世紀日本の様子を知ったら驚くだろうな。
「ところで、次郎さん。商売の方では、どんなものを扱ってるんスか?」
俺は用意していた「本題」に入る。
◇
「この国では『銀の都』と『冶金の丘』からの金物っすね。『東の円』で欲しがってるのは、とにかく金属っすからね」
どうも『東の円』には、超古代文明の遺産を利用した金属精錬施設がないらしい。
「それも『美南海の水都』から船で『東の円』に向かうんすよ。だから、この『道』のこの辺り事はあんまり知らなくてね。難儀したっす」
次郎氏は気取らず、ぺらぺら話した。
「じゃあ、『東の円』からは、何を?」
「いやー、正直なところ、金になりそうなものは全部――って感じっすかね」
なんか嫌な含みがある。
裏で、『女王国』の奴隷制度から逃げた人が、また奴隷として「逆輸入」されてないよね?
「まあ、実際には『桑子の糸』とか『ケモノ』の皮革とか『鮫』の皮とかっすかね。まあ、サメって言っても本当は『エイ』の皮なんすけどね」
生物由来のモノばっかだな。
もともとの『朱印船貿易』では日本から、鉄製品や銅なんかを輸出して、生物由来の絹や皮革、香木なんかを輸入していたはずなので、この異世界では、まったく逆だ。
あと……ラウラ姫の佩刀の柄に使われる『鮫皮』って、魚のエイの皮だったのか……知らんかった。
「『桑子の糸』ってのは?」
俺が不審に思って訊くと、次郎氏はあっさり教えてくれた。
「もともと『蚕』って虫がつくる繭からとれる『絹糸』ってのがあったらしいんすけど、俺らのご先祖が『この世界』に乗ってきた船には、その虫積んでなくてね、似たような『蛾』を見つけて、400年かけて根性で似たような糸吐く虫を作り出したんすよ。そいつの名前が『桑子』っす」
つまり、いい糸を吐く「蛾」同士で交配を重ねて、「品種改良」したんだろうけど……400年って……メンデルやダーウィンもびっくりだ。
「突然変異」で生まれた「六本指の猫」茶トラ君は……もう丸まって寝ちゃってる。
「ところで……『東の円』では、『宝石』とか売れるんスかね? 俺、いろいろ持ってるんスけど」
これが俺の「本題」なんだけど、ついついワルイ感じになってしまうな。
「ほう、どんなやつっすか?」
食いついて来たっスね? グヒヒヒ。
「こんなのとか」
俺は『錬成』しておいたダイヤモンドを見せる。
『水灯』の明かりの下で、ダイヤモンドが眩く輝く。
無色透明。
多面体の「ブリ○カットセーラ恵美」(※2回目)だ……イヤ、「ブリリアントカット」だ。なお、前者は声優さんだ。『ハル○カ』観てました! ……って、それは今いいか。度が過ぎると怒られるし。
とにかく俺が昨夜、みんなからハブられて、『魔法の檻』の中で一人寂しく寝た時に、ひと晩かけて『錬成』したもののひとつだ。
名付けて『涙のダイヤモンド』と呼ぼう(泣)。
「……おおっ。キラッキラっすね」
次郎氏は俺の手のひらのソレを、無遠慮に手に取ったりせずに、ただいろんな角度から検分する。
「いやー、素晴らしい石っす。でも、こりゃ『東の円』じゃ売れないな」
あっさり言われて、距離を置かれる。
「え?」
うそん。
「こうね、キラキラし過ぎなんすよ。まあ、西方の人の好みなんでしょうけど」
残念そうに次郎氏は言う。
「『東の円』じゃ『玉』って言ってね。こう、丸くてつるつるした色のついた石のほうが売れると思うっすよ」
「はあ?」
ぐぬぬぬぬ。
とりあえず、手持ちにそんなのはない……と思いかけて、プリムローズさんとの『★伝声☆』用の『真珠っぽい耳栓』を思い出し、取り出して見せてみる。
「こんなのはどうっスか?」
「ああ、『真珠』ね。うん、売れると思いますよ。ただ、どっちかっていうと、あっちからこっちへ売るもんだな、これは」
真珠が名産品なのか? そこだけは『地球』の日本とおんなじなのね。
「そうなんスか?」
がっくり、と力が脱ける。
「俺らのご先祖様に、海で真珠採ってる時に『隠し神』に遭って、こっちの世界に来たっていう『海女』の子孫がいっぱいいてね。その人らが、こっちの海に持ち込んだ貝から、いい玉採れるんすよ」
「へー」
そんなカタチで、こっちに来た人たちもいたのか?
『隠し神』って「神隠し」のことか?
シンシアさんは前に、ご先祖が『ご朱印船』に乗ってて、気付いたら『この世界』にいたって言ってたっけ。
でも、女性がいないと血筋なんて伝わらないだろうに、と不自然に思ってたけど……そう言う事なのか?
もしかして、その中に、後裔の黒髪の美少女シンシアさんに繋がるような、すんごい美少女がいたんじゃないの?
そんなことを考えていると――
「というかね、ジンさん。なんで、そのキラキラを『女王国』で売らないんすか?」
次郎氏はわざわざ俺の名を呼んで、そう訊いてくる。
イヤ、実は売った相手から襲撃を受けて、拉致されそうになったっス――とは言えない。
「信頼できる商人がいないんス」
仕方なく、事実に近い話をする。
「もし次郎さんが代わりに売ってくれるんなら……」
「今日会ったばかりの俺は、信頼出来るんすか?」
次郎氏は、ちょっと皮肉を込めて言った。
「イヤ、もし裏切り行為があったら、シンシアさんのお父君に怒ってもらおうかと」
まだ会った事もないけど、伝手はシンシアさんとラウラ姫の二本立てだ。
きっと会えるはずだし、なんらかの警告と抑止にはなるだろう……と思ったら、よく効いた。
「待って! ……『灰狼』さんはヤベぇっすよ」
次郎氏は、本気でビビっていた。
「うわあ……それだけはやめてください。シャレになんないっす」
なんか、めっちゃ怯えてる?
シンシアさんのお父君ってそんな怖い人なの?
「でも、ジンさん。そういう脅し無しなら、俺がそれ捌きましょか?」
「お願い出来ますか?」
「ええ、大商いになりそうすからね」
次郎氏はニヤリと笑った。
確かに、前に売った「余り物のダイヤ」は日本円で約300万だったけど、今ここにある『涙のダイヤモンド(なんか昭和の野球漫画みたい)』は、それよりもはるかにデカい。
やはり「*」よりも、口の中の方が大きいものを『錬成』出来るのだ。
そんな時、車内の魔法照明『水灯』がす――っと消えていった。
消灯時間に合わせて、それぞれの座席に横になり、そのまま暗闇の中で、俺たちの「密談」というか「商談」は整い、あとは「雑談」になった。
とりあえず独立国家『東の円十二単王国』を標榜する『東の円』について訊くと、『女王国』のある大陸の、かなり東にある「ドーナツ型の島」だと分かった。
大陸最大の貿易港『美南海の水都』から東方の『太陽の大洋』に船出し、途中の『船の盛り場』って名前の難所を越えた先にあるらしい。
てか「船の墓場」とかじゃなくて「盛り場」って何だよ? 飲み屋でもあんのか?
それはそれとして、三方向から大きな海流が合わさるような場所で、そこにまん丸いドーナツ状の陸地が形成されたらしい。『地球』でも、川の流れが合わさって、丸い島が出来るって話を聞いた事があるな。
そんで、シンシアさんが「鬼門」に『海からの恐怖』が漂着すると言ってたのは、その北東からの海流の先に、それなりに大きな陸地があるかららしい。
で、真ん中にある浅い海は、地下水路みたいな洞窟で外海と繋がってるらしい。これも『地球』の中米の「セナーテ」みたいだ。
そこには、真珠やエイを初めとする『地球』由来の魚貝類が色々と生息してるらしい。次郎氏が言ってた「神隠し」みたいに連れて来られた『海女』と一緒にやって来たのかな? いろいろ謎だ。
ドーナツ型の陸地は、アナログ時計の文字盤みたいに12分割されてるらしい。
ただし、十二支で。
子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥……それを個別には『子の国』とか呼んでるらしい。ネズミの国とか、どっかの夢の国みたいだ。そんで『寅の国』や『辰の国』には、どっかのプロ野球好きが住んでるのかな?
北が「子」で、北東の「鬼門」が「丑寅」……あとは時計回りの配置だろうな、丸出し……イヤ、丸いんだし。
「俺の母親なんて『前世の記憶』とかで、『なんで、ミとかアとかナがないんだ?』とか言ってるんす」
丑寅警備隊の元「団員」だったという次郎氏が言う。
でも「巳の国」ならあるやん。カタカナの「ミ」じゃないとダメなのか?
「ジンさん、何の話か分かりますか?」
「……イヤ。なんなんスか?」
次郎氏に訊かれて、俺もまごつく。
てか二人して「すか」「スか」って『すか○か』か?
タイトル長すぎて、ちゃんと思い出せないぞ。『終末なにしてますか?(以下略)』だな。たぶん俺パニクってるぞ。
……主題歌はすごく印象的だったけど。「愛」って相手に刻み付けるものなのね?
「『れぷらかーん』の『おーらきゃのん』って何の事なんすかね?」
「……さあ?」
妖精さん? たしか『○かすか』の妖精兵も「レプラカーン」だったよ?
ヒロインのク○リは、蝶々みたいな羽で飛んで、聖剣で戦ってた。
でも『この世界』の『飛行歩兵』の羽はトンボみたいで、『魔法式空気銃』装備だ。
そう言えば……シンシアさんから前にちらっとだけ叔母と姉が『前世の記憶』持ちで、『にほん』の『あにめ』の話をされた、とか聞いたな。やっぱり、なんかのアニメの話かな?
『おーらきゃのん』とか、カタカナ変換すると男の武器っぽいし。
「『びらんびー』は噛みちぎられそうで怖いとか……何の事なんだろ?」
「……さあ?」
次郎氏がまだ言ってるし。
それはそれとして、その12の国が、一人の『巫女』を女王様として立てて、ミーヨ風(?)に言うと『合体』したらしい。
邪馬台国みたいな話だ。
女王様も『火巫女』だし。
「『女王国』からは、行くのにどれくらいかかるんスか?」
「陸行三十日。水行十日っすね」
ちょっとアレンジされてるけど、邪馬台国みたいやん。
◇
その後、この人が幼い頃にシンシアさんにしたイタズラ話を聞いて、彼女が血をキライになった理由が分かった。
――酷過ぎる話だった。
あとで折を見て「正義の鉄槌」を下してやろう――そう決意した。
◇
「申し訳ありませんね、次郎様。『東の円』からの『使者』である貴方に、馬車で寝泊まりなんかさせてしまって……」
朝起きると、すぐロザリンダ嬢が次郎氏にべったりだ。
あの様子だと、確実に「当ててる」な。
「いやー、俺はもともと商人ですから。交易船の中に較べれば快適なものですよ」
次郎氏は爽やかに笑うと、ロザリンダ嬢も笑った。
「まあ」
何が「まあ」だ。
なんか腹立つ。
この二人が「えっちなこと」しそうになったら、無邪気な子供のヒサヤかセシリアを派遣して阻止してやろう。
――ふっ、ラブコメ主人公が陥る『寸止め地獄』にハメ込んでやるぜっ。
朝からそんな邪悪な事を考えていると、
「ジンくん! たいへん! お馬さん、ダメだって!」
ミーヨ先生が騒がしい。
確かに旅の途中で、みんなと雑魚寝みたいな感じで、昨夜も俺は姫のお馬さんになれ……って、え?
「お馬さん、貸してもらえないって! このままだと、馬車が出せないらしいよ」
ミーヨがちょっと困ったみたいに言う。
なーんだ、ホンモノの「牽き馬」の事か。
てっきり俺の事かと思ったよ。わっはっはっは(……)。
そこにプリムローズさんもやって来た。
ミーヨのかるい調子と違って、深刻そうな表情をしてる。
「『荒嵐』がいよいよ近づいて来てる。雨が混じった暴風のせいだな。『馬蹄組合』が牽き馬の貸出を拒否したよ」
牽き馬なしじゃ……進めないのか?
『魔法』で何となりそうな気もするけど。
「ここで、何日か足止めですか?」
俺が言うと、
「とりあえず『王都』までの行程に、一日は休みを入れようと思っていたから、今日は『中休み』という事にするよ。問題は明日以降だね……」
プリムローズさんがこめかみを押さえている。またまた頭痛を我慢しているらしい。大変そう。
◇
旅の間の中休みだけど、外は嵐だし、する事も無かった。
ここの『駅』も小さな町で、特に珍しいものも無かった。
ミーヨは買い物があるらしくて、出掛けていない。
ラウラ姫は、体調は戻りつつあるらしいけど、まだ辛そうだ。
プリムローズさんは、姫に付き添いながら、静かに本を読んでる。
「神殿組」は、この町の小さな民家くらいの『神殿』で、『癒し手』として病人を診てあげているらしい。
ここで、ロザリンダ嬢が『癒し手』じゃない事が分かった。
なんとなく『七人の巫女』イコール『癒し手』だと思ってたけど、そうじゃない場合もあるみたいだ。
ロザリンダ嬢は、それでちょっと劣等感を抱えてるみたいだ。
まあ、それを紛らわすみたいに次郎氏にべったりしてるけど。
マルカさんとジリーさんは、旅の疲れかずっと休んでる。
二人とも長時間座りっぱなしの馬車の旅が辛いらしく、お尻を庇って、うつ伏せで寝てる……。
そんな中で、俺とネコミミーズ(初代猫耳ちゃんのドロレスちゃんと猫耳奴隷のセシリアと「六本指の猫」茶トラ君)は、『馬車ごと旅亭』の二階で、ゲームをやって遊んでいた。
『オ○●』だ(※大人の事情で二ヶ所ほど伏せ字になっております)。
銀貨『月面銀貨』は、『地球』の『月』の「潮汐ロック」みたいに、表は銀色。裏は真っ黒なのだ。
『この世界』には月が無いので、どういう経緯でこんな銀貨が生まれたのか知らないけど……そのまま『オ○●(※囲碁ではありません)』の駒として使えそうだ、と前々からずっと思っていたのだ。
で、適当な板に8×8のマス目を入れて、この日のためにミーヨに頼んで貯めておいてもらった64枚の『月面銀貨』で遊ぶのだ。
「さすがはお兄さん! 豪儀な遊びですねぇ!!」
ドロレスちゃんの言う通り、約40万円分の硬貨を使ったフザケた遊びになっちゃってるけど(笑)。
挟んでひっくり返すだけのゲームなので、ドロレスちゃんもセシリアもすぐにルールを覚えた。
ただし、勝つためには「戦略」や「戦術」がいるけど……ドロレスちゃんが強かった。
総当たり(茶トラ君は不参加だけど)で何戦かしてると――
「あーっ、ダメでしょ? お金で遊んじゃ!」
ミーヨ先生に見咎められて、またまた銀貨は没収されてしまったのだった(泣)。
「しろ、くろ、なく、なた」
見ろ、セシリアがしょんぼりしてるじゃねーか。
「ミーヨ。頼むから」
返してくれ! と言おうとしたら、
「代わりに、これあげる」
大き目の壺を押し付けられた。何か液体の入ってるらしい。たぷたぷと水音がする。
「……ナニコレ?」
「お酢だって。ボコ村に『お手紙』のお届け頼んだら、荷物減らしたいから買ってくれ! って言われて」
聞いたら、ミーヨが偶然にも故郷ボコ村の知り合いと出くわしていたらしい。
俺たちが育ったというボコ村には葡萄畑もあって、葡萄酒も造ってるそうだ。
それが酸っぱくなったヤツ……って、つまりは「ワイン・ビネガー」か?
「お酢って、こんなもの代わりになるわけ……」
言いかけて、
「!」
と、そこで俺の頭上で電球が点った。
新しい技を閃いたのだ。
てか、これって元々のモトネタは、なんなんだろう?
◇
ここの『駅』は小さな町で、特に珍しいものも無いけれど……昨夜チーズ入りのホワイトシチュー(ただしポタテ入りでピンク色)を食べたように、近くに牧草地というか放牧地があって、牛乳はふんだんにあるらしいのだ。
何かで見覚えがあるけど、牛乳に酢(酸)を入れると、化学変化で何かの物質になるらしいのだ。
そして、それがプラスチックみたいに成形出来て、それがハンコやボタンなんかに使われているらしいのだ。
確か、なんか風邪ひきそうな名前の物質だったけど……後でネットで調べ……られねーよ、異世界だし(泣)。
とにかく、そういう物質だから、『前世』のどこかで手にして、見た事があるはずなのだ。
『牛乳』と『お酢』を原料にして、『口内錬成』で『オ○●の駒』に作り替えてしまうのだ!
というわけで、俺は嵐の吹きすさぶ中、『前世』ではあまり飲まなかった『牛乳』を買いに、町に出た。
◇
『牛乳』ゲットだぜ!
別にこんなの、いらないか?
変に近代的なミスロリ(実はステンレス鋼)製の大きな容器で、二つ大人買いしましたよ。
ついでに俺の大好物の「チーズ」も発見したよ。
あとでこれもミーヨからお小遣い貰って大人買いしたろ(笑)。
◇
お店で少し温めて貰った牛乳にお酢を入れたら、なんかヨーグルトか固まりかけのチーズみたいになった。
俺の『体内錬成』は基本的には、『固体』を別の固体に。『液体』を別の液体……という仕様だけど、こんな感じの個体と液体の中間のようなコロイドというかゲル状物質は、固体と液体どっちにでも錬成出来るのだ。
昨日の夜の食事中、実は秘かにピンク色のホワイトシチューをモトに実験を繰り返して、好物のチーズを錬成して遊んでたのだ。
俺は心を落ち着けて、しっかりとイメージする。
駒だ! 『オ○●の駒』になるんだ!
そして、牛乳とお酢を混ぜたアレな液体を口いっぱいに含む。
『錬成』の材料そのものが口の中にあると、完成までの待ち時間を大幅に短縮出来るのも、「実験」で分かってるのだ。
(口内錬成。『オ○●の駒』)
チン!
ぽろっ、と口から出て来たソレは、紛れもなく『オ○●の駒』だった。いい出来だ。
ただし、一枚だけだった。
こ、これをあと63回もやるのか?
めっちゃ辛いな。
酸っぱくて、かなり賞味期限がヤバいヨーグルトみたいな味というか、なんというか……錬成前に口に含んでる状態では、しっかりと味を感じるから、ちょっと泣きそうになるくらい、キッツい。
でも、セシリアが待ってるだろうから、頑張ろうっと。
◇
時間にすると、一打点(約90分)くらいかかって、あと一枚というところで、
ドンドンドンドン!
「ジンくん。どうかしたの?」
流石に『おトイレ』の『個室』に籠りっぱなしの俺に異変を感じたらしいミーヨに扉を叩かれた。
そして――
「……ふむ……ふぐ……(ゴックン)……なんでもない……事もないかも」
そのアレな液体を、飲んじゃいました。
俺『前世』では飲むとお腹壊すから、牛乳あんまり飲まなかったのに、よりによってお酢と混ぜたアレなヤツを思いっきり飲んじゃいましたよ、ミーヨさん(泣)。
まあ、『この世界』に生まれ変わって『前世』の身体とは違うんだから、ひょっとしたら何ともないかもしれないけど……。
とにかく、セシリアが待ってる。
「ミーヨ。俺と『合体』してくれ!」
「え? うそっ、『おトイレ』で?」
「うん。『合体魔法』でこの『オ○●の駒』を『★洗浄☆』……って残念そうなカオすんなよ!」
◇
1枚足りないけど、出来た駒でみんなで遊んだ。
ミーヨとシンシアさんの勝負の時、最後の最後で大逆転出来そうだったシンシアさんが、『脱毛エステ』の時にミーヨがあげた『巾着』の中から『月面銀貨』を取り出して角に置き、逆転勝利をさらった。
ミーヨが俺から巻き上げた『罰金』だろう。
ミーヨの呆然とした顔と、シンシアさんの勝利の笑顔が可愛かったので、『光眼』の「カメラ機能」でこっそり撮影しました。パシャッとな。
プリムローズさんは参加しなかったけど、
「私は『将棋』の方が好きだから」
そんな事を言われた。
「ショウギ?」
絶対に違うだろうけど『あそ○あそばせ』の「お尻からビーム出す」やつ? 絶対に違うだろうな。ライオンとかドラゴン・キングの方だろうな。
「駒は自作したんスか?」
「いや、……私も入ってるけど『王都』には『将棋愛好会』があるんだよ」
「マジっスか?」
異世界なのに、そんなものがあるのか……。
『前世の記憶』持ちかな?
それとも『この世界』にコピー&ペーストされた『ご朱印船』の日本人の子孫かな?
「君は将棋は指せる?」
「駒の動かし方を知ってるくらいっス。めっちゃ弱いっスよ」
俺が言うと、
「ふうん、君は『プロペラ小僧』だから『振り飛車』使うのかと思ってたのに。『陽動振り飛車』。ぷーくすくす」
そんな事を言われて、あざ笑われた(泣)。
どっちも『将棋』の戦法だろうけど……怒られますよ?
「で、あの駒ってどうしたの? 君が作ったの?」
「ハイ」
俺が『駒』を錬成った経緯を説明すると――
「ん? 『かぜいん』だろう? それって元々牛乳の中に入ってる物質のはずだから、化学変化じゃないはずだよ」
「つまり……?」
「お酢はいらないって事だよ」
◇
というわけで、今夜も「馬車の見張り当番」は、俺と次郎氏と茶トラ君。
いらない「オス♂」が押し込まれた。
◆
またまたヘンなオチ――まる。




