058◇白馬のオウジサマ
◇◇◇無駄に親切なこれまでのあらすじ◇◇◇
異世界の麦畑で、おでこの広い幼馴染ミーヨの『往復ちちびんた』で目覚めたジン・コーシュ。
なんだかんだで最初の目的地『冶金の丘』に到着し、そこでもなんだかんだで新たな仲間を加え、現在は旅の仲間12人と一匹(※多過ぎ)と共に『王都』に向かう馬車の車内である。
そしてそこでは、かつて訊き出す事の出来なかった『白馬のオウジサマ』の悲しい真実が、語られようとしていた。
「そう言えば『永遠の道』の脇にいる野生の白い馬って『オウジサマ』って名前じゃなかった?」
ふと思い出したので、ミーヨに訊いてみた。
そんで、牽き馬を受け取った時に『馬蹄組合』の人から「気をつけろ」みたいに言われたんだけど……なんでやろ?
「「「「「……ああ」」」」」
何故かみんなも反応した。有名なお話らしい。
「うん、『オウジサマ』には切ない悲話があってね。昔々に『選王剣・抜刀の儀』に失敗して『王都』を追われた王子様が、白い馬に乗って『永遠の道』を旅してね。途中でお金も食べ物も無くなって、『道』の脇で途方に暮れてたんだって」
ミーヨが悲しそうに言う。
てか「悲話」って言うんだから……そこから好転しないんだろうな、この話。
たしか『地球』でも、白い馬の悲しいお話があったよな。
「それで困ってるところに、『道』の向こう側にたまたま馬車が通りかかってね。助けてもらおうと思って、王子様が走って行ったら……」
そこでミーヨは言葉を途切らせた。
「えっ? それでどうなったの?」
途中で止めんなよ。
「……(ふるふる。ふるふる)」
ミーヨはイヤイヤするように首を振っている。続きを話すのが058らしい。
彼女は悲しいお話が嫌いなのだ。俺もヒロインや小動物が死んじゃうアニメでは、ついつい泣いちゃうけれども。ものによっては大号泣してしまうけれども……。
「誰か知ってる?」
気になるので訊いてみた。
「うむ。大きな『アタリヤ』に追突されて、頭を『道』にぶつけて死んでしまったそうだ」
ラウラ姫があっさりと言った。
「……そーなんですか」
『アタリヤ』って、でっかい白ウサギのハズだ。人間を押し倒すほどデカいのか?
「それで、今度は平民に生まれ変わったその元・王子様が、この話を広めたんですよ」
ドロレスちゃんがさくっと言った。
「へー、生まれ変わったの?」
どうしようもなく救いが無い話ってワケじゃないのか……なんか微妙だけど。
「それで『永遠の道』の上で亡くなった人の魂は、必ず『この世界』に『前世の記憶』を保ったまま生まれ変わる――という伝説が出来上がったらしいんです。ただ『神殿』では、それを否定していますけど」
シンシアさんがそう締めくくった。
「……そーなんですか」
『この世界』の説話とかいろいろ聞いてきたけど、どれもリアクションに困るものばっかだなあ。
「ん? あれ? でも『オウジサマ』って馬の方の名前でしょ?」
疑念がわいた。
「「「「「……ああ」」」」」
みんなどことなく恥ずかしそうだ。俺は女子のこういう反応が大好物だ(笑)。
「もー……ジンくんのえっち」
それはまったくもって事実だけど、それはそれだろ?
「うむ。王子様に先立たれた白馬が性欲が旺盛な馬でな。乗り手を失って自由の身となり、あちこちの牝馬を襲っては子種を植え付けたそうだ。故にその子孫と思しき白い牡馬は、みな『オウジサマ』と呼ばれる」
ラウラ姫が重々しく言った。
「……そーなんですか」
『地球』の白い馬の話とは、ぜんぜん違った……。
「……ひょっとして、『オウジサマ』って、いまだに、そのー、牝馬を襲ったりするの?」
訊いてみた。
「「「「「……(こくん)」」」」」
みんなは微妙な表情で首肯した。
『この世界』の人たちって、『地球』で「船」に乗ってるところを「コピー」されて、『この世界』に「貼りつけ」された地球人の子孫なので、「馬」をはじめとする動物たちを去勢するとかいう遊牧民的な発想が無いらしい。
俺も男の子なので、「玉抜き」とかイヤ過ぎる。
ま、1個されたけど、『全知神』に。
代わりに『賢者の玉』入れられたけど。
◇
「馬車溜まり」を表す石柱を発見したので、停車する事にした。
『荒嵐』で、「馬車溜まり」には一台も馬車がいないけど、それでも牽き馬たちの休息は義務付けられてるらしいのだ。
今回の牽き馬は、メスとメスのコンビだ。
でも俺、擬人化とか美少女化が苦手なので、某馬耳少女のアニメは観てないから、なんのネタも無いよ。
……それはともかく、見ると「たてがみ」が女の子らしく編み込まれてる。
尻尾もなんか三つ編み風に編まれてた。
女の子だ。
でも、ドロレスちゃんに言わせると、
「ああ、強風対策ですよ。風で馬具に絡まないようにしてあるんです。……ああ、せっかくの『溜まり』なのに『店馬車』が無いなんて! お肉うっっ」
色気のない返事だった。
てか移動式の『おトイレ』もなかったよ。
……って、おおおっ!
野外なのに、人目を気にせず、思いっきり放●(液体)してる子がいるっ!
しかも女の子なのに、立ったままかよ。
……って、馬だけど(笑)。
そんで……その匂いを嗅ぎつけたのか、白馬の『オウジサマ』がやって来たよ。
『オウジサマ』ったら、マニアックな性癖の変態さんだったのね(笑)。
◇
ひひひひひん!
馬のイナナキがして、そっちを見ると、その白いヤツはもう既に接近していた。
木馬……イヤ、白馬だ。
『馬蹄組合』から、お預かりしてる大事なお嬢様(?)たちに迫り、二本の後ろ脚だけで「竿立ち」してる。
まるで自身のシンボルを見せびらかして、誇示してるような体勢だ。
その股間の……うわー、でけー。「馬並み」ってこーゆー事だったんだ? と異世界で実感(苦笑)。
俺は男の子なので『ガン○ム』観た事あるけど、こんな時にピッタリなセリフがある。
「させるか!」
あるいは――
「やらせるか!」
……怒られないか、ちょっと心配。
(『光眼』。レーザー眼。魔針眼モード)
こんなこともあろうかと(笑)、準備していたのだ。
生命には別状ない。殺傷能力なんて無い。ハチに刺されたくらいだ。
やられると、チクっと痛いだけの、超ピンポイント。低出力パルスレーザーだ。
(発射っ!)
げひぃるるううん!
「竿立ち」の姿勢のまま、頭部にチクっとされたオウジサマは、異様な声を上げ、そのまま反りかえるように後方に倒れ込み、地響きを立てて、横倒しになってしまった。
地面に頭をぶつけて、脳震とうみたいになってるらしい。
白眼剥いて、口から泡噴いて、ピクピクいってる。
そして、白馬って言うけど……全身薄汚れていて「ねずみ色」だ。
「「「「「……」」」」」
咄嗟の事で、みんなは何があったのかよく分かってないらしい。呆然としてる。
「これって、オウジサマ?」
ミーヨに訊いてみた。
「そーみたい」
そーみたいだ。
別に人類の天敵『ケモノ』とか『空からの恐怖』ってワケじゃない。
ちょっと変態で、性欲旺盛な野生馬というだけのものだ。
でも、放置すると今みたいに牝馬を襲う強○馬と化すだろうし。
「どーしよう、これ?」
「……さあ?」
すんごい処置に困るんですけど?
「プリムローズさん?」
なんか呆然としたままだよ?
「……(はっ)。し、知らないよ。私も初めて見たよ、こんなの」
ナニを初めて見たんだろう?
「「「「「……で、どーするの?」」」」」
俺に訊かれても困る。
「今夜宿泊予定の『駅』まで連行して『馬蹄組合』に引き渡すのがよろしいかと」
メンバー中最年長だと思われるマルカさんがそう提案した。
犯罪者扱いだな。でも暴行未遂だしな。
「……そーします」
野放しにも出来ないらしいし。
予備の馬具を付けて、『俺の馬車』の後ろに牽引してる『とんかち』のさらに後ろに括り付けて、引き連れて行く事になった。
その様子を見守っていたメスの牽き馬たちが、なんか残念そうにしてるのは……多分、気のせいだろう。
そんで、走行中に暴れるといけないので、本来はパレードなんかの時に護衛役が乗る「後部踏み台」に俺が乗り、見張る事になった。
「……(びくびく)」
大人しくさせるために、『光眼』で睨んでは刺し、睨んでは刺し……を何度か繰り返すと、学習したらしく、ついに諦めて従順になった。てか完全にビビっていやがるぜ。
「発車しまーす!」
シンシアさんの声だ。
出来れば馭者台の隣には、俺が座りたかった……。
気を抜いてたら、慣性で上体が前のめりになり、『とんかち』の牽き棒に頭をぶつけた。
ぶひひひん!
オウジサマにあざ笑われた気がしたので、レーザーを一発喰らわせたった。
◇
その日の『駅』も、昨日泊ったところと大差なかった。
運よくひとつだけ空いていた『馬車ごと旅亭』に馬車を突っ込んで、お嬢様方を引き取りに来た『馬蹄組合』のおっちゃんに、事情を説明して白馬のオウジサマを託した。
なんでも、素行不良な男子生徒が集まる「ヤン○ー校」みたいな「じゃじゃ馬厩舎」とか言う所に押し込められるらしいよ(※他人事)。
オウジサマは、哀愁漂う感じで去っていった。
なんとなく、この先、また会いそうな気もするけれども……。
「……ドナドナドーナドーナ」
その様子を見守っていたプリムローズさんが、小声で悲し気な歌を口遊んでる。
俺も『ドナドナ』って何かで聴いたな。
違法駐車した馬のエンブレムの赤い高級車がレッカー車で運ばれてく動画だったかな?
でも、モトは牛じゃなかったっけ?
◇
「馬が笑ってた? それって笑ってるわけじゃなくて……メス馬の匂いを嗅いでる時の表情だよ」
「……へー、そーだったんだ?」
先刻の事を話してみたら、ミーヨ先生が意外な事を教えてくれたよ。
猫もマタタビとかの匂い嗅いで「ほげーっ」となる事あるけど……。
『カレーめん反応』だっけ? って、なで○こか! そんで「な○しこ」は『ゆ○キャン△』作中だと「元気な犬」呼ばわりされてたよ。
『フレーメン反応』だよ、猫のは。
それはそれとして、メス馬の匂いって「フェロモン」的なやつだよね?
●(液体)じゃないよね?
◇
『荒嵐』の吹きすさぶ中、みんなでスカート(俺も次郎氏もメンズ・スカートみたいな恰好なのだ)を気にしながら、夕飯を食べに「居酒屋」と「お食事処」に分かれて入った。
『この世界』、飲酒は18歳以上なので、二人のメイドさんたちとロザリンダ嬢、次郎氏は「居酒屋」行きで、その他は健全な「お食事処」に向かう。
しかし、ホントに『七人の巫女』ロザリンダ嬢が、次郎氏にご執心だ。
ずっと長い事「恋愛禁止」だったので、そういった鬱憤を晴らしたいんだろうか? それとも何か別の意図があるのか?
てか、4人とも酒飲む気か?
まあ、「大人」なんだから、放っておくしかないんだけど。
◇
「この『三味一体』ってなんだろ?」
壁に掛かった「お品書き」の黒板みたいなものに、そんなのを見つけた。
食べ物の名前だから、男女混合競技の「3」とか「P」とかじゃないだろうし。
「たぶん、牛酪で炒めた小麦粉を牛乳でのばした煮込みに乾酪が入ったものだと思います」
もともとどこかの令嬢だったらしいヒサヤは、いろいろな食べ物に詳しいようだ。まだ11歳なのに。
てか、その説明でも分かりにくいので、自分に――というか『脳内言語変換システム(自前の脳みそと前世の記憶で出来てます)』に言い聞かせて、バージョン・アップする事にする。
シンシアさんが言ってた「牛酪」は「バター」だから……「乾酪」って名前からすると個体だな。
つまりさっきのは「バターで炒めた小麦粉を牛乳でのばしたホワイトクリームシチューにチーズが入ったもの」って感じ? 乳製品の三種混合が『三味一体』か?
――てか、チーズ?
俺の大好物だ。
牛乳は飲むとお腹がゴロゴロしてダメなんだけど、チーズは大好きだ。
そんなのがあるのなら、シチューに入れないで、普通に「つまみ」として食べたい。
「なぜか『冶金の丘』ではチーズ無かったんだよな。なんでだろ?」
「え? チーズはちゃんとありましたよ、お兄さん」
ドロレスちゃんが意外そうに言った。
よし、ちゃんと「チーズ」が『この世界』でのチーズになってる。「パンツ」もちゃんとパンツだしな。やれば出来るじゃん。
「見かけなかったよ?」
俺が言うと、
「「ああ、そう言えば……」」
ミーヨとドロレスちゃんが、何かに思い当たったようだ。
「なに?」
「「スウさんが嫌いで、食卓には上らなかったから」」
答えまでハモってる。
にしても「嫌い」だからって……いい大人が。
「……そんな理由で、俺、長い事、大好物から遠ざけられてたのか?」
ちょっと愕然とした。
さらに、訊いてみると、『冶金の丘』の一般店舗では扱ってなくて、他所から来る「行商」みたいな感じの『店馬車』から買うのが普通だったらしい。
「大好物なんですか? そう言えば、私の……いえ、何でもないです」
シンシアさんが、俯いてしまった。耳が赤い。
なんだろう? 『脱毛エステ』の時かな? うーむ、バレてたか。てへ。
「あー……やっぱり、そうだったんだ。よく匂い嗅ぐもんね」
ミーヨまで何かに納得している。
「うむ。私の事を『美味しそうな匂い』と言っておったが、そうか。そういう事であったか」
ラウラ姫にまでモロバレだった。
みんな、やめて! 恥ずかしいっっ。
「まあ、乳酸菌が棲みついてるらしいから、掃除のし過ぎはむしろよくないらしい……って、コラ! 何言わせる?」
プリムローズさんが、淡々と言ったと思ったらノリツッコミだった。豆知識どうも。
ちなみに俺がついつい匂いを嗅いでしまうのは、「(女の子の)足の指」なんだけど、プリムローズさんは完全に勘違いしてるな。
待てよ、勘違いしてるのは俺の方か?
どっちにしろ、変態っぽいので、黙っておこうっと。
イヤ、明らかに「変態」だな。
NO「っぽい」だな。
…………。
……。
◇
「「「「お待たせしました!!」」」」
給仕のお姉さんたちが、大量の料理を運んできた。
だって、ウチには「食の暗黒天体」が二人もいるし。
パンや煮込みや果物がいろいろある中で、メインはど――ん、とでっかい鳥の丸焼きだった。大きさからいって多分「ダメドリ」だろう。
猫耳奴隷のセシリアが「切り分け担当」として、同席を許されているので、役目をこなすためにあたふたしてる。
なんとかしてあげたいけど、『奴隷の印』とされている「蒙古斑」を持って生まれて来た『真性奴隷』は、「前世の罪人」という間違った共通認識があるので、所有者(俺様だ)の好き勝手には『解放』出来ないそうなのだ。
『この世界』の神様らしき存在に直接ねじ込んで、そんなのは「でっち上げ」らしいってのはハッキリしたのに。
『奴隷期間』を満了すれば『解放』されるらしいけど、それは通常「蒙古斑が現れてから消えるまでの年月の4倍」らしい。
けれど、セシリアの場合『奴隷の館』から「逃亡」した「前科」があるので、それがさらに3倍になるのだった。
で、もうすぐ11歳になるけど、未だに蒙古斑は消えてないらしい。
それでいくと、セシリアが自由になれるのは132年後だ……。
「これ、ひめさ」
「うむ。大儀」
セシリアの中では、ラウラ姫が「いちばん偉い人」になっているらしい。俺じゃないんだね? 『ご主人様』なのに。ちょっと悲しいよ。
セシリアが、みんなに次々と取り分けたお皿を渡す。
「みよねさ」
「ひさねー」
「ぷりちゃ」
「しあねさ」
「どろんこさ」
「ねこちゃ」
「おにさ」
「……ありがとう」
茶トラ君の後なんだ(泣)? いちばん序列最下位なんだ(泣)?
「あれ? ところで『三味一体』は?」
気になったので、注文しといたのだ。
「あ、こちらになります」
まだ居た給仕のお姉さんに、深皿に入ったねっとりとしたピンク色のものを示された。
「……なんでこんな色?」
思ってたんと違う色だった。
「ポタテ入りですから」
お姉さんがさくっと答えた。
「…………」
よりにもよってあんな真っ赤なものを、ホワイトクリームシチューに入れんなよ!
見た目、えげつない「どピンク」じゃねーか? ありえねー。
「……」
あれ? シンシアさんの顔が青い。
いま「お月様」らしいし、それにどうも鳥の丸焼きとか、ピンク色とか、いろいろなトラウマを喚起してしまっているみたいだ。
ま、言ってしまえば、『三味一体』の原材料の「牛乳」……というか哺乳類の「母乳」って元々は「血液」だしな。
これ、シンシアさんには絶対言えないな。
きっと「エチケット袋」のお世話になってしまうだろうし。てか『この世界』にはエチケット袋ないけどな。
「シンシアさん、大丈夫ですか?」
「――いえ、平気です。……Uぷ」
しかし、ぜんぜんそうは見えないし、今にもゲ○イン誕生な感じで、口元押さえちゃってますけど?
「あ……でも……ちょっと、辛いので……夜風にあたってきます」
「イヤイヤ、『荒嵐』来てますから」
夜風とかいうレベルじゃない暴風が唸ってるのだ。
俺はシンシアさんに付き添う事にした。
◇
店を出て、しばらく歩いていると、突風に見舞われた。
ぶわっとシンシアさんのローブの裾が大きくめくれあがった。
「きゃっ」
可愛い悲鳴がしたけど、シンシアさんは俺の事は気にしてなかった。
きっと、暗いから見えてないと思ったんだろう。
たしかに、空は一面嵐の黒い雲に覆われていて、真っ暗だった。
普通であればこの暗闇では、まったく何も見えないだろう……しかし、俺様は違う!
我が右目に宿りし『光眼』には、闇を貫き、真実を見抜く「暗視機能」があるのだ!!
「ジンさん。見てください」
「えええっ!?」
「何をそんなに驚いてるんですか?」
「イヤ、その……何を見るんですか?」
「私たちの馬車に明かりが点っています。誰か居るようです」
「私たちの馬車」か……『俺の馬車』から改名しようかな?
それはともかく、『馬車ごと旅亭』の一階車庫部分に停めて、防犯用の鉄鎖で固定してある『俺の馬車』に、魔法照明『水灯』が点いてるのが見えた。
「ああ、そうですね。マルカさんかジリーさんかな?」
「そうでしょうか? お二方とも食事中なのでは」
風に負けないように、接近……てか密着した状態での会話が続く。
風よ。もっと吹くがいい。
「でも最悪、泥棒が物色中かもしれません。俺が一人で」
「イヤです。離れないでください」
シンシアさんにしがみつかれた。
「じゃあ、二人で見に行きましょう」
「はい」
俺が風上に立って、シンシアさんの「盾」になりながら歩く。
車庫に入り、光が漏れる後部物見窓から、そーっと中を覗く。
「「……あ」」
――次郎氏とロザリンダ嬢が、なんかやってた。
「「……」」
しばし、見入る。
中の音は聴こえないけど、序章は終わり、そろそろ本章に突入しそうだった。
『俺の馬車』をラブホ代わりに使われてはたまらないので、馬車の出入り口付近で物音を立ててから、中に向かって言う。
「あれー! 誰かいるのかなー? 明かり点いてるなー!」
「……」
そして、時間的猶予を与えた上で、扉を開ける。
「おや、次郎氏とロザリンダ嬢じゃああーりませんか? 『巫女』さまがこんなところに男と二人で……」
「あ、あなた方こそ、プロペラ小僧さまと『巫女見習い』がこんなところに二人で、何なのです?」
すかさず、ロザリンダ嬢にそう突っ込まれた。
――事情は違うんだけど、傍目には同じ事に見えるかもしれない。
「私たちは、この馬車に明かりが点いているのを見つけて、不審に思って見に来たのです」
シンシアさんがきっぱりと反論した。
そして次郎氏に対する視線が冷たい。
「み、見ました?」
ロザリンダ嬢が争点をボカして訊ねて来る。
「「……(こくん)」」
俺もシンシアさんも根は正直なので、つい頷いてしまう。
「「「「…………」」」」
「取引しませんか? ロザリンダさま」
「取引?」
「見せていただきたいものがあるのです」
「どこをです? 私は長年、殿方の好奇な視線に悩まされてきましたが、貴方もですか?」
勘違いされてる。
正直、そっちも見たい事は見たいけど、そっちじゃねーよ。
シンシアさん居るし。
「いえ、俺は商売でいろいろな宝石を扱ってまして」
「……へー」
次郎氏だ。なんとなく意味深な呟きだ。
「ああ、あの綺麗な……」
ロザリンダ嬢は先日見せたダイヤモンドを思い出しているんだろう。
表情がとろんとしてて、ちょっとエロい。
「後学のために、巫女さまが身につけているという『神授の真珠(極太)』を拝見したく思うのですが」
なるべく丁寧にお願いしてみると、
「……ぼそっ(ジンさんのえっち)」
シンシアさんに突かれた。
なんで、そうなるのかが判らない。
「そ、それはいけません。男性に見せてはいけない決まりなのです!」
ロザリンダ嬢にあっさりと突っぱねられた。
「そうなんですか? シンシアさん」
「はい。『戒律』では無いのですが、無暗に男性に見せてはいけないと注意はされています」
シンシアさんはきっぱりと言った。
だから、見せてもらえなかったのか?
てか「男性はダメ。男性はダメ」と言われると、めっちゃ気になって、逆にどうしても見たくなるな。
『見るなのタブー』ってやつか。
「ダメでしょうか?」
ロザリンダ嬢に向き直って、もう一度訊いてみる。
「……」
ツンとしてそっぽを向いてる。
無理そうだな。
『神授の真珠(極太)』は見せてくれなさそうだ。
見て、触って、匂いも嗅げば、俺様の『体内錬成』でコピー出来たかもしれないのに。
一度だけ、どさくさ紛れに「触った」けど、中途半端な模造品みたいなモノしか『錬成』出来なくて弱っているのに。
「分かりました。別に見た事は他の人には話しませんので、ご安心ください。俺たちは行きます」
俺はシンシアさんの手を引いて、そこを立ち去った。
「お食事処」に戻る途中、マルカさんを見かけた。
「マルカさん! どうかしたんですか?」
「あ、プロペ……若旦那さま。次郎様とロザリンダ様を見かけませんでしたか?」
そう訊かれたので、
「馬車の中です」
素直に答え、シンシアさんと共に「お食事処」に戻った。
……そのあと、何があったのかは知らない。
お店の入り口付近で、
「ジンさん。夜目が利くんですね」
シンシアさんにそう言われた。
「え?」
「こんなに暗いのに、マルカさんのお顔見分けたじゃないですか?」
「ああ、そうですね」
「さっき、私の……いえ、何でもないです」
うーむ、バレたか。てへ。
◇
食事を終えて、みんなと合流した。
大人組は誰が支払ったのか知らないけど、ノンアルコールの子供組の食事代は俺(というか財布を握ってるミーヨ)が払う事になった。
馬代・宿代・食費などなどで、『明星金貨』と『月面銀貨』がそれぞれ3枚ずつ消えた。
いちばん高くついたのは、食費だった。はふ。
「大人組」が何を食べたのか気になったので、次郎氏に訊いてみたら、
「いやー、ダマされたっす。久々に『ソウメン』を食べれると思ったら、違うものでしてね」
その口ぶりだと『この世界』にも「麵類」はあるらしいな。
「違うものというと?」
「割ったカボチャの中が、『錦糸卵』みたいになってたんす」
「ああ、ソウメンカボチャってヤツっスか?」
『この世界』にも、そんなのがあったのか。そっちにもびっくりだな。
「黄色いメンが押し込まれたみたいに、中に詰まってたんすよ。カボチャの中に」
「……へー」
◇
今夜の「馬車の見張り当番」は誰になるんだろう? と思ってプリムローズさんに訊いたら、答えはカンタンだった。
俺と次郎氏と茶トラ君。
メンズが馬車に押し込まれた。
◆
ヘンなオチ――まる。




