057◇嵐のヒッチハイカー
みんな交替で馭者をつとめていたけど、故障が出た。
巨乳のロザリンダ嬢が拒否したのだ。
でもまあ、彼女は神に仕える『七人の巫女』の一人だしな。
そんな女性に、馭者をやらせるワケにもいかないって事で全員納得した。
で、急遽リリーフとして猫耳奴隷のセシリア(俺が『御主人様』だ。一回も呼ばれたことないけど)が、馭者台に登る事になった。初登板だ。頑張れ。
10歳の女の子に馭者ってどうなんだろう? って思ったけど、多少経験があるらしくて、セシリアは平然としてる。
それに『馬蹄組合』とかいう公社みたいな組織が数千年以上かけて作り上げた『永遠の道』専用の「牽き馬」は、俺が思っていたよりもはるかに賢くて、素人の子供でも馭者が出来ちゃうのであった。
でも、さすがに子供を一人で馭者台に置いとくのは可哀相なので、ミーヨが付き添いで一緒に居るし、プリムローズさんと俺が手を繋いだ『合体魔法』『★星の雨傘☆』を発動させて、走行中の馬車ごと風雨から守っている。
「『シンシア様。前方に『道』の上で手を振ってる人がいます』」
ヒッチハイカーは、異世界にもいるらしい。
馭者台にいるセシリアが、『日本語』でそう報告してきた。
シンシアさんを名指ししたのは、『日本語』を理解できるからだろう。
ただ、元・日本人の記憶を持つ『転生者』の俺とプリムローズさんも、その言葉をすぐさま解した。
「止まらなくてもいい! こっちは『王家の馬車』だ。見れば分かるだろうし」
プリムローズさんが即断する。
イヤ、『俺の馬車』だってば!
「あい!」
セシリアは短くそう返事した。
――ところが、
どん!
馬車左手の出入り扉がある踏み台に、飛び乗られた。
「なんてことしやがる」
プリムローズさんが憎々し気に呟いた。
「ええっ? 『あ、兄さま!』」
そう言ったのは、シンシアさんだった。
そして物見窓から見えるその顔は、黒髪の美少女シンシアさんによく似た美青年だった。
◇
とりあえず、シンシアさんの知り合いらしいので、警戒しつつ、話を聞く事になった。
プリムローズさん得意の防壁魔法『★風の護円☆』の無風空間での邂逅となった。
前のような失敗をしないように、きちんと馬車の外、『永遠の道』の上に立ってから発動させたよ。
『★風の護円☆』の外では『荒嵐』が荒れ狂ってるのに、中は平穏だ。
何かに似てると思ってたけど、思い出した。
まるで「台風の目」みたいだ。
路肩に『俺の馬車』を停めると、なぜかもう全員外に出て来た。
振り向いた時には、車外に勢ぞろいしていたのだ。
みんなもっと警戒してよ。
「いやー、どうも、みなさん、初めまして。『美月』……いえ、シンシアの従兄です。名を稲田次郎時定と申します」
そう言って、深々とお辞儀した。
シンシアさん。『東の円』では「稲田美月ちゃん」らしい。へー、可愛い。
そんで「兄さま」と呼んでいたけど、実の兄ではなく、7歳年上のイトコだそうな。
幼少期に世話になっていたという「叔父の家」の「長男」だそうだ。
――次郎なのに。
「……ぼそぼそ(ジロウさん? 飛びます飛びます?)」
プリムローズさんが知ってる「ジロウさん」は空を飛ぶらしい。
『飛行魔法』でかな? ……イヤ、昔の日本の芸能人かもしれないけれども。
次郎氏は、「月代」のない、黒髪ロン毛だった。
『東の円』の人は昔の日本みたいに「髷」を結っているのかと思ってたのに。
なんとなく全身が薄汚れていたけど、丸齧りさんたちから衛生系魔法を連発されて、ピカピカに磨き上げられ、紅顔の美青年って感じになってる。
走行中の『俺の馬車』に飛び乗った事を考えると、体術や武術の心得があるんだろうけど、そんな感じのしない、悪く言うと「チャラい」印象だった。
「「…………」」
なんか、ロザリンダ嬢とヒサヤ(11歳)が、とろん、とした顔で彼を見つめている。二人とも美形に弱いようだ。
「このたび、我らが女王『火巫女』様より、『東の円十二単王国』の『使者』の大任を承りまして、貴国の『王都』に滞在しておりました」
にしても、女王『火巫女』って。
日じゃなくて火なの?
俺の『脳内言語変換システム』では、日本語が使用されているので、漢字でそう変換されてるのだ。
『巫女』って事は、神様と交信できる能力があるんだろうな。
それとも『七人の巫女』みたいに『神授の真珠(極太)』みたいなアイテムの力を頼ってるのか?
それはともかく、話を聞いてみると、行方不明になった件の『東の円からの使者』とは、この人の事だった。
でも――こういうのを何て言うか、知ってるか?
『ご都合主義』って言うんだぜ。
……やれやれ。
◇
「ですが、やんごとなき事情により、そこを出奔」
この人の言う「やんごとなき事情」ってラウラ姫のお姉ちゃんからの「性的なお誘い」を断った事だろうな。
『この世界』の「日系社会」には「据え膳食わぬは男の恥」って無いのかな? やっちゃえばよかったのに(笑)。
それとも、その女性……よっぽどアレな感じなのかな?
「『東の円』への帰還を試みておりましたが、何分不慣れな土地のため、道行は非常に難儀をしました。しかしながら、中には親切な御仁もおり、そう言った方々のご厚意に甘えつつ、馬車から馬車を乗り継いで、ここまでやって参りました」
美形の割に、腰が低かった。そしてよくしゃべる。
「何の奇縁か、みなさまは我が従妹・美月のお知り合い」
だから奇縁じゃなくて『ご都合主義』だってば。
「何卒、わたくしの『東の円』への帰国に、ご助力願いたい」
礼儀正しい人だ。
そして決定的にアホだ、この人。
「俺たち、これから『王都』に行くんですけど」
なぜ、反対方向の馬車に飛び乗った?
「……そこを曲げて!」
「曲がるか!」
美形とはいえ、見た目は日本人男性なので、つい突っ込んでしまう。
「美月。お前からも、頼んでおくれ」
女に頼るな! と言いたいところだけど、いつも女性に頼る俺に、そんな偉そうな事は言えない。
「……」
シンシアさんは怯えたように、俺の後ろに隠れた。
なんだろう?
(どうしたんですか?)
小声で訊いてみると、耳元で、
(苦手なんです)
とだけ言われた。てか近すぎます。当ててるのかもしれませんが、当たってます。
「……美月ィ。乗せてってくれよ。昔、いじめられてたのを助けてやっただろう?」
言う事が段々情けなくなってきた。
しかし美月ちゃんは首を振ったようだった。
「ウソです。狩りで獲った鳥の首をちょん切って、私に投げつけるような子供だったんです。私が極端に血が苦手になったのは、この人や叔父上のせいなんです」
と言われた。
――浦島太郎ならぬ「トラウマ次郎」だった。やれやれ。
「次郎君!」
ミーヨ先生だった。
「は、はい?」
次郎氏がヘタレくさく、ビビってる。
「この子、見てよ! 貴方が馬車に飛び乗ったのを、轢いちゃったと勘違いして、すんごい衝撃を受けて、落ち込んでるんだよ?」
ミーヨがセシリアを抱きしめながら怒ってる。
そう、馭者台にいたセシリアが、「人身事故」を起こしたと思い込んで、一時的なショック状態だったのだ。
「そして、君が居なくなって『王都』は大騒ぎなんだよ。ひょっとすると、戦争になるかも知れないんだよ!」
先生は、激おこ、だった。
「いやー、そんなまさか」
次郎氏は軽薄な感じで否定する。
「……いえ、その通りなんですよ」
プリムローズさんが、彼に事情を説明しだした。
◇
「はッ!」⇐ラウラ姫。
その間に、シンシアさんにいろいろ質問だ。
「『東の円』の人って頭を剃って『髷』は結わないんですか?」
我ながら、どうでもいい質問だったけど、シンシアさんに驚かれた。
「えっ? よくご存じで……結いますよ。ただ、頭は剃らないです。昔はそうだったと聞き及びますが、最近では剃らずに『総髪』にします。どちらにせよ、西方では奇異に見えますので。悪目立ちを避けるために結いませんが」
へー、やっぱりそうなんだ?
「はッ!」⇐ラウラ姫。
「次郎さん、こちらの言葉流暢ですね」
ロザリンダ嬢が、彼の様子に多少落胆しつつも、まだ目を離させないでいるようだ。
一方、ヒサヤは「人は見かけではない」と悟ったのか、完全にクールダウンしていた。やっぱり、この子賢い。
「商人なんです。こちらとあちらを往復する暮らしを続けているようなんです」
シンシアさんは言った。「商人」が「承認」を求める使者になったのか。おもしろくないな。
「あれ? でも、叔父さんの家は猟師って言ってませんでした?」
「あ、よく覚えていらっしゃいましたね」
シンシアさんは、俺が覚えていた事が嬉しそうだった。
「はッ!」⇐ラウラ姫。
「わたしが育ったところは『鬼門』と呼ばれていまして、よく『ケモノ』が漂着するんです。それを狩るための猟師なんです」
「そうだったんですか」
普通の猟師じゃなくて、モンスターのハンターだったらしい。
「それで『漂着』って言うのは、海から来るって事ですか?」
「はい。そんな『海からの恐怖』に備えて結成されたのが『丑寅警備隊』と言う組織なんですが」
ウシトラ警備隊? ナニソレ?
そんで、この辺じゃ『空からの恐怖』があるけど、『東の円』には『海からの恐怖』なんてものがあるのか? 海獣退治か? ○谷プロなのか?
「はッ!」⇐ラウラ姫。
でも残念ながら俺、特撮ものは守備範囲外なんだよな。
Sが四つのアニメは観てたけど……でも、あれって「ウルトラ」じゃない「マン」だしな。しかもロボットみたいに合体してたし。
それはそれとして、実写の「特撮ヒーローもの」ってイケメン俳優が起用されて、その後も活躍する人が多いそうだけど……次郎氏もまさにそんな感じのイケメンだ。ちょっとジェラシー?
「はッ!」⇐ラウラ姫。
「そこの団員だった兄さまは、狩った獲物を売るために人里に通っているうちに、商売に目覚めたようで、数年前からそちらの道に入ったようです」
彼の経歴には興味はないけれども、シンシアさんのお声はずっと聴いていたい。
イヤ、待って!
『警備隊』なのに構成員は「団員」なのか?
関係ないけど「大団円」って、どんな意味だっけ?
「うむ。確かに剣術は出来なさそうだ」
『俺の馬車』が止まったついでに、外に出て『抜刀術』の訓練を始めてしまっていたラウラ姫が、手を休めて次郎氏を見ながら言った。話が聞こえていたらしい。
強そうだったら、ひと勝負ふっかけそうな感じだ。
でも次郎氏は「丸腰」だ。武器は持ってない。
俺も「丸出し」だけど、いくつか「飛び道具」はあるからな。
……イヤ、手遅れ感あるけど「俺も丸腰」の間違いだった。
「……『先生』の甥御のはずだが」
ラウラ姫がぶつぶつ言ってる。
『先生』とは姫の剣術の師で、シンシアさんの父君の事だ。
元・獣耳奴隷だったらしいけど……まだ、お会いした事はない。
お会いして、きちんとご挨拶したい……。
「そう言えば、シンシアさんのお父君って、今どちらにいらっしゃるんですか?」
ちょうどいい機会なので訊いてみた。
「はい、『王都』の『南の街区』に家があるんですけど、姫殿下の護衛で『冶金の丘』に同道して、そこにしばらく滞在した後で、『王都』から『神殿通信』で召還の書簡が届きまして……今は『王都』に居るはずです」
たしか、ミーヨの話では、ラウラ姫とプリムローズさんは、『王都』からは馬車で二人旅だったはずだけど……まあ、男性がその馬車には同乗は出来ないだろうから、別の馬車で来たんだろう。そう言えば、他にも姫の侍女が二人いたな。『王都』に先行してるはずだけど、あの二人もどこでどうしてるんだろ?
「その召還の書簡て、あの人の問題だったんじゃないんですか?」
ドロレスちゃんが暗に次郎氏を指して言うと、
「ああ、そうですね。きっとそうだったに違いありません」
シンシアさんは深く頷いた。
そんな話をしていると――
「おいんために、そげん事になっちょるんか」
大きな嘆き声がした。
次郎氏はどこの人なんだ? そこでは「段々と」をなんて言うんだ?
「出来たばかりの国です。戦は避けたいでしょう?」
プリムローズさんが諭すように言う。
「ね? めっ、だよ」
ミーヨ先生の生徒は低年齢らしい。
「なんかごと、ややこやしいがね」
だから、どこの人なんだ? そこでは「熱い」をなんて言うんだ?
「我々に同行して『王都』に戻り、使者としての役目を全うしてください」
プリムローズさんが、現実的な解決策を示した。
「そうしていただければ、殿下の手柄になりますから」
そして一言多かった。
彼女は、ミーヨやシンシアさんと違う意味で、すごく正直なひとなのだ。
◇
道端に放置されてるゴロゴロダンゴムシの抜け殻で「爪とぎ」をしていた「六本指の猫」茶トラ君が戻って来たので、次郎氏も乗せて『俺の馬車』は再び進みだした。
――もちろん、『王都』に向けて。
ちなみに馭者台には、プリムローズさんに付き添われたヒサヤが登っている。期待のルーキーだ。頑張れ。てか『俺の馬車』の馭者台はプロ野球のマウンドではない。
次郎氏には、不人気の「前部後ろ向き座席」に座って貰った。
「いやー、どうもすみませんね」
次郎氏は、母性本能をくすぐるタイプらしく、30代後半の二人のメイドさんに可愛がられていた。
今も、何か食べ物を貰って、もごもごやってる。
さらに、巨乳美女のロザリンダ嬢までべったり張り付いている。
いいのか、『巫女』さま? 当たってるようですけど?
――正直、ちょっと殴りたい。
そんな俺の思考にシンクロしたかのように、
「殴ってやりたいです」
温厚で品行方正なシンシアさんが、らしからぬ発言だ。
「わたしも」
セシリアの肩を抱いたミーヨが、賛意を表す。
「俺も」
二人を窘めるつもりが、つい本音が出た。
「……みなさん、正直ですね」
わりと、どうでもいいらしく、ドロレスちゃんは適当だ。
「……(ごろごろ)」
猫耳奴隷のセシリアは、まだショックから抜けきっていない……わけではなく、なんとなく幼児退行ぎみにミーヨに甘えてるだけのような気もする……そんで、その「ごろごろ」って音。本物の猫みたいに「喉鳴らしてる」んじゃないよね?
「むう……誰? 『先生』に似てるが」
お昼寝から目覚めたラウラ姫が、次郎氏を見て不審がってる。
さっきのやり取り覚えてないのか?
「次郎君って、シンシアちゃんのお父さんに似てるの?」
ミーヨが訊ねる。
「そんなには……。でも、一見した感じでは似てるかもしれません」
彼は、シンシアさんの亡くなられたお母さんの、母方の親類じゃなかったっけ?
「ところで、シンシアさんのお父君って、どんな方なんですか? ラウラ姫の剣術の『先生』なんですよね」
俺が訊くと、娘さんではなく、生徒さんが応えた。
「うむ。『先生』は戦闘奴隷であられたが、『ケモノ』の大群との戦闘で大功をたてられたのだ」
前にも一度、ラウラ姫は自分の『先生』の事を誇らしげに語ってた。かなり敬愛しているらしい。
「『王都』に近づく大群を、弓・槍・刀をもって次々と討ち取り、その数は百を超えたと聞く。それをもって、女王陛下の勅令により『奴隷身分』から『解放』されたのだ」
てか『ケモノ』ってそん時『王都』にまで暴走して来てたのか?
「物凄く強い人なんですね……」
でも会ってご挨拶しときたい。
「うむ。強い。ジンも戦ってみるとよい」
そう来ましたか。
「父は奇矯な人で、奴隷身分から解放された後も『狼耳』をつけたままなんです。――それで『灰狼』なんて二つ名で呼ばれたりもするんです」
ちょっと困ってます的な感じで、シンシアさんが言った。
「……(びくびく)」
『灰狼』と言う言葉が聞こえていたようで、次郎氏が何かビクついてる。
彼には「おじさん」にあたるわけだから、何か怒られた経験でもあるのかな?
◇
「シンシアちゃん。『おばさん』が『前世の記憶』持ちって言ってたけど、あの人のおかーさんの事?」
ミーヨがそんな事を訊ねると、
「はい。そうです」
明快なお返事だ。
彼女の場合、叔母と姉がそうだって話だった。
しかも『にほん』の記憶を持っているらしい。『あにめ』の事も知ってるらしい。そんで、お姉さんの方は『ほっかいどー』の人らしい。
「『この世界』に広まっている『じゃんけん』は、叔母が広めるきっかけを作ったんです」
「「「……へー」」」
やっぱり『前世の記憶』持ちが「仕掛け人」だったのか。
しかもシンシアさんの叔母さんが……。
「近年『巫女選挙』の後で行われるようになった『じゃんけん大会』は、叔母の発案でして」
シンシアさんはそう言うけど……「発案」じゃなくて「パクリ」じゃないの? 某アイドルグループの。
『選挙』……というか「多数決による意思決定」の方は遥か太古からあったろうけど、「じゃんけん大会」の方はどうなんだろう?
でも、勝ち抜きのトーナメント方式も古くからあるだろうな。ただ勝敗の決し方が「じゃんけん」ってだけで。
「でも『七人の巫女』の中から『聖女』を選ぶわけですから、一人だけ一回戦不戦勝になるのは、なんか不公平じゃないですか?」
ドロレスちゃんだ。
言われてみれば、トーナメントなら「シード」になる子が、一人出るだろうな。
「はい……何てゆうんでしょう? 『埋め合わせの人』という方も参加されるんです」
いつも明快なシンシアさんにしては、なんか言いにくそうにしてる。
「『選挙』で選ばれたのに、その『埋め合わせの人』に負けちゃう人も出そうですけど?」
またドロレスちゃんだ。
「……(しーっ)」
シンシアさんが、くちびるの前で小指を立てた。美少女なので、めっちゃ可愛い。
『地球』だと、こんな場合は人差し指だけど『この世界』では小指なのだ。
そしてロザリンダ嬢をちら見する。
「「「「……(ああ)」」」」
みんなそれで察した。
去年選出の『七人の巫女』の一人ロザリンダ嬢。じゃんけんが「激弱」だそうだけど、そう言う事か。
「シンシアちゃんって『じゃんけん』強い方だよね?」
「……それ以前に……『選挙』がありますから」
なんか弱気だ。自信ないのかな? 美少女なのに。
ロザリンダ嬢が『巫女選挙』の投票券は『銀の円盤』だって言ってたけど……それって明らかに「お金で買う」ものらしいんだよな。
プリムローズさんが言うには、それこそが「民意の反映」らしいけど……いいのか? それで。
ま、良く分かんないから『王都』に到着してから、色々情報収集しないとな。
シンシアさんも、そのために『王都』に向かってるワケだからな。
そして、俺がその力にならないと!
そして、攻略フラグを立てないと!!
もう既に俺様の俺……いえ、なんでもないです。すみません。
「……(じ――っ)」
ミーヨ様がみてたよ。
◇
「ラウラ姫」
「うむ」
「姫のご家族――王族の方って、何人いらっしゃるんですか? 『王都』に着いたら、どなたとどなたにご挨拶すればいいんでしょう?」
俺は俺で、『愛し人』就任披露みたいなコトやらなきゃいけないらしいんだよな。やることやっちゃったから(笑)。
こういう質問は、本来は筆頭侍女のプリムローズさんに訊くべきだろうけど……今馭者台に居て、ここにいないしな。
「むー」
姫の表情が明らかに曇った。
失敗したかな。聞くべきじゃなかったか。
「『王都』に居るのは、曾祖母と私の母の女王陛下。姉の第一王女。第二王女。叔母と従姉妹もいるが……『王族』の枠から外れてしまっている」
イヤ、お名前くらい教えてよ。
「あと姉たちの『愛し人』たちは……色々いっぱい居るし、覚えきれないから、放っておくがいい」
雑だなー。
「あたしと殿下は、父が同じなんですけど……あとの5……4人の姫は、全部父親が違うんです」
ドロレスちゃんが補足してくれる。
しかし、それだと女王陛下は、全部で何人の『愛し人』がいるんだ?
「お二人のお父上って、どんな感じの人なんですか?」
「「…………」」
二人とも無言だ。
言いたくないのか、知らないのか……。どっちだろ?
ひょっとすると……亡くなられてるのかな?
まあ、俺も自分の父親の事なんてぜんぜん知らないしな。
外国人らしいのと「キ・コーシュ」って言う名前しか分かってない。
形見(※死んでないらしいけど)の『旅人のマントル』だけが唯一の手かがりだ。
まさか、王女姉妹かシンシアさんのどちらかのお父さんが、俺様の父親と同一人物で、実は「異母妹」でした♪ とかいうオチはないよな?
「ドロレスちゃんって、俺の事『お兄さん』って呼ぶけど、本物のお兄さんがいるんだよね?」
俺が言うと、姫もドロレスちゃんも、渋い顔をした。
「はい。その人たちも父が同じなんですが……いた、と言いますか」
へー、そっちは異父兄じゃないのか。ホントに「実兄」じゃん。
「む。『廃嫡』されたがな」
言いにくそうにするドロレスちゃんの言葉を、ラウラ姫が引き継いで言った。
「はいちゃく?」
ミーヨが口を挿む。
「あたしや他の姫は、大抵父方の縁戚……大体は貴族の家に『養女』に出されるんですけど……男子の場合は」
ドロレスちゃんが、なにかを躊躇って言葉を切ってしまった。
それを姉のラウラ姫がリレーする。
「王家のしきたりで、男子は16歳になると、『全知全能神神殿』の大岩に刺さったままの『選王剣』に挑む『選王剣・抜刀の儀』を行い、失敗すると、王族ではなくなるのだ」
「『王宮』から追い出されて、平民になっちゃってるんです。二人とも」
貴族のD音無しか。
前にもちらっと聞いた事あるけど、やっぱそうなんだ。
16歳まで王宮で育って、いきなり平民って……生きてくの辛そう。過酷だ。
「二人の兄のうち、いちばん上の兄は、追い出されるのを最初から覚悟してたらしくて、子供の頃から絵を習っていて、絵描きになってます」
ドロレスちゃんがさっくりと言う。
「画家さんかー」
それって、どんな「絵師」なんだろう? 萌え? エロ? ちょっと見たい。
ちなみに俺は『前世』では、みんなを笑顔にする「画伯」だったよ(泣)。
「いま一人は、私と同じく『先生』に剣を習っていて、自信満々に『選王剣・抜刀の儀』に挑んだが……」
姫が言いにくそうだったので、
「――ダメだったわけですね」
俺からそう言った。
「……(こくん)」
ラウラ姫は黙って頷いた。
ひょっとして、その様子を直接見ていたのかも知れないな。
◇
それにしても『選王剣・抜刀の儀』か。
プリムローズさんは「陰謀」とか「でっち上げ」って言ってたな。
その大岩って見たことないから知らないけど……300年もの間誰にも抜けないなんてあり得ないだろうから、何か仕掛けがあるんだろうな。
「シンシアちゃん。その儀式って誰でも出来るの?」
ミーヨがシンシアさんに訊いてる。
ラウラ姫に聞かれないようにするためか、小声だ。
「はい。あのー、『神殿』の『巫女見習い』としては言いにくいのですが……それなりの、喜捨をいただければ、出来るようです」
困ったような表情も可愛いシンシアさんがそう言った。
――てか、金次第でそんな事出来るんだ?
……やれやれだな。
「ジンくん。抜けるんじゃないの? 『冷金法』で」
ミーヨが簡単に言ってくれる。
てか『冷金法』って何だ? 俺のは『錬金術』だ。
『冷金』ってプリムローズさんが使う女性専用の非殺傷の『護身魔法』だろ?
それとも、『冶金の丘』での『宝探し』の時に、金属板(ミスロリことステンレス鋼)を冷やして持ち上げようとした時の事か?
アレって「熱膨張」の逆で「冷収縮」って言うんだっけ?
暑さ寒さで伸びたり縮んだり……まるで「金○袋」みたいだよね(笑)。
「あれ、ですが……それって……」
シンシアさんが何か言いたそうだったけど、黙ってしまった。
確かに女性にシンパシーを求めるのは無理……じゃなくて、何だろ? 何か誤解かな?
『冷金法』ならぬ『金冷法』って、本当に効果あるのか?
それこそ完全に「金○袋」の話だけど……イヤ、よく考えたら、そこだけじゃなくて全体的に縮むな……って「ち○こ」の話だけど(……)。
「ね? 出来るよね? ジンくんなら」
ミーヨが意外にしつこい。
「イヤ、無理だろう。きっと」
「抜けたら、ジンくん。王様だよ。女の子いっぱい侍らせて『後宮』持てるよ?」
ミーヨが、俺の失言を期待しているかのような口ぶりだ。
前にちらっと言った「ハーレム」なんて言葉覚えてやがった。
「イヤ、やらないって」
そう言えば『宝探し』の「謎解きの詩」の中には「剣は王に」ってフレーズがあった気がする。
その「剣」って、その詐欺まがいの『選王剣』の事なんだろうか?
「「……(じ――っ)」」
何故か二人に見つめられてる。
「やらない。やらない」
俺は頭と両手をぶんぶん振った。
――ホントにやらないよ。「小市民」だし。
◆
やりたくない事でも、必要に迫られ、やらざるを得なくなる時もあるかも――まる。




