056◇ビストロ俺様
「むう」
ラウラ姫が不機嫌だ。
他の子に怒鳴りちらしたり、八つ当たりするような事はないけれど、その良くない波動は周囲に影響を及ぼす。
◇
強まって来た『荒嵐』のせいで、『永遠の道』を走る馬車を見かけなくなってきた。
この暴風の中で『道』を移動しているのは、『俺の馬車』とゴロゴロダンゴムシくらいなものだった。
他の馬車は、強風による横転を恐れて、『駅』で何泊かしちゃうらしい。
でも、元・日本人で結構せっかちなプリムローズさんが、『★星の雨傘☆』と言う名の、元々は一人用の簡単な雨除けのマジカル・アンブレラを、俺との『合体魔法』で強引に範囲拡張させ、さらに効果も増強させて、無理矢理に風の影響を軽減させつつ馬車を走らせてるのだ。
表面……と言うか内部から見た壁面の感じは、シャボン玉の膜みたいな虹色が揺れる透明なドーム形だ。
そんなの、台風の時のビニール傘みたいに、ペロンとめくれあがって壊れないの? って気もするけど、今んとこ無事だ。
魔法の効果は二打点(約3時間)で切れるけど、むしろそのくらいなら「トイレ休憩」に丁度いいらしい。
でも、本来なら『道』に脇に点在する「馬車溜まり」で簡単に手にはいる「ご飯」が入手不可能なのだ。
――店ないんだもん。
あちこちの「馬車溜まり」で商売していた『店馬車』が、『道』沿いから掻き消えてしまっているのだ。『荒嵐』のせいで。
「むう」
昼食の遅れに、第三王女殿下がご立腹だ。
最悪、今晩宿泊予定の『駅』まで「おあずけ」になるかもしれない……とか言ったら、姫どうすんだろ? 暴れはしないと思うけど……不貞寝するかも。
昨日買い込んでいた大量の食料品も、ほとんど食べ尽くしてしまってる。
万一に備えての、非常用のドライフード(何種類かの乾燥『虹色豆』や、大型堅焼きビスケット『食用煉瓦』。ドライフルーツや干し肉なんかだ)はあるけど、さすがに馬車の中で煮炊きは出来ないし、簡単なものしか用意できそうにない。
そんな事を考えていると――
(ジン。そろそろ馭者を代わってくれ)
左耳に入れている「真珠っぽい耳栓」が、プリムローズさんからの『★伝声☆』によって「音声」として振動した。
最初使っていた「木のプラグ」は装着感がいまいちだったので、暇潰しに『口内錬成』で作っておいたのだ。
『前世の記憶』にあるイヤホン的なカタチだ。
白くてツヤツヤしてて、なんとなく見た目が「補聴器」っぽくなってるけど、プラスチックじゃなくて炭酸カルシウムを主成分にした「真珠っぽい耳栓」だ。
俺の口の中で錬成ったヤツだから、ハッキリ『真珠』とは言えない。なので「真珠っぽい耳栓」だ。
生物由来の物質に近いはずだから、ずっと装着しててもアレルギー反応的な事は起きないだろう。
プリムローズさんにもひとつ渡しておいた。
俺は『魔法』を使えないから、こっちの声は届けられないけれども……。
あと、前にミーヨと約束した『真珠の首飾り』を「*」から引きずり出すのは、ちょっとアレ過ぎる(……)ので、『口内』で錬成れないかと試行錯誤している。
『地球』の『真珠』もそうだけど、意外なほどカラーバリエーションが豊富なので、何種類か作って「見本」を渡しておいた。
ただ「本番」で、同じ色を再現できるかどうかは、あんまり自信はない。
着色しようとすると、偶然性に依るところが大きくて、毎回微妙に色が違うのだ。
あ、そうだ!
――この際だから、『口内錬成』で色々と遊ぼう。
「姫。気晴らしに俺と馭者やりませんか?」
そう誘ってみた。
「……うむ」
なんか妙に照れてる。別にデートとかじゃないよ?
ほんの短い時間停車して、俺とラウラ姫は馭者台に登った。
足元には「あるもの」が大量にある。
交代する時に、
「殿下のような高貴なお方が馭者を買って出られるなど……」
プリムローズさんが「嘆いたフリ」をした。完全に「フリ」だ。
「良い。気晴らしだ」
「左様ですか? では、ご随意に」
その証拠に、あっさりと認めて、敢えて引き止めないし。
とりあえず、『★星の雨傘☆』とやらで、牽き馬たちを含めた『俺の馬車』全体を守って貰った。
傾斜を付けて展開する事で、走行時の空気抵抗の低減もしてたらしい。
「『かうんたっく』みたいにしといたから」
そんな事を言われて、ちょっと驚いた。
ひょっとして「ランボルギーニ・カウンタック」みたいなクサビ形ってコトかな? 知ってるとは意外だ。
俺も実車は見た事がないし、某ゲームでしか知らないけれど。
◇
「姫。何か食べたいものはありますか?」
俺が馬車を走らせながら訊くと、
「むう? なぜそんな事を?」
如何にも疑わしそうだ。
空腹で気が立ってるらしい。青い瞳でかるく睨まれた。
まあ、そりゃそうか。
「俺が『魔法』で姫の食べたいものを作ります」
「む? そんなことが出来るのか?」
「ハイ」
実は『この世界』の料理人の中には、本当に「そんなこと」をやってる人もいるらしいのだ。
調理の一部を『魔法』でやってる「マジカル・シェフ」が。
ちなみに「マジカル・パティシエ」は「デラちゃん」だ(※『ニセ○イ』OAD)。和菓子屋の長女なのに……。
……じゃなくて、前にプリムローズさんが言ってた、お料理の『れしぴ』みたいな事を考えて発動させる『創作系魔法』って、ズバリそういう事らしいのだ。
よくある「術式」とか「呪文」とか、コンピュータのプログラミングに類するような事だと、素人には難しいだろうけど、具体的な「手順」を脳内でイメージ出来れば、それを『魔法』のキラキラ星である『守護の星(普通サイズ)』に実行させる事が可能らしい。
それで個々人が、オリジナルの『魔法』を編み出して、「固有スキル」みたいに使ってるのだ。
ただ、俺の『錬金術』と違って、いきなり「完成品」が出て来たりはしないそうだけど。
「どうぞ、お好きな物を」
体調もある程度回復して来てるらしいし、食欲もあるみたいだ。
食べたい物食べて、機嫌も治して欲しい。
「うむ。では、まず、甘い菓子がいい。蜜の味がいいな」
ふむふむ。
そう言えば、あの甘い匂いは「メープルシロップ」の匂いだったな。
『この世界』でも似たような樹液が、代用品みたいにお菓子に使われてるらしい。
蜂蜜って高価だからな。そしてもっとも一般的な甘味料のアマネカブって、どうしても「カブの風味」がするし……。
「分かりました。あ、姫。最初にお断りしておきますが――口から口の、口移しになります。構いませんね?」
手頃なお皿持ってくるのを、忘れてたのだ。
でも、何度もしてるもんね。平気だよね?
「……むきゅう」
あれ? 照れてるのか?
ま、いいか。
「それでは、しばしお待ちを」
ちょっと気取って言ってみた。
『錬成』のモトになる「あるもの」……『ポタテ』はいっぱいある。
俺は足元の袋から「真っ赤なポタテ」を取り出して、口いっぱい頬ばる。
この時に詰め込んだ「容積」が、そのまま完成品の「体積」になる。そんな「仕様」なのだ。
にしても、相変わらず生なのに「茹でたジャガイモ」みたいな食感がする。
そう言えば、試しにやってみたら口の中に「げんこつ」が入ったよ。
自分でもその容量にたまげたよ。
俺って、頬っぺも膨らむし、口の中がデカいのだ。
とにかくしっかりと、その味を脳内で構築して、『守護の星』をミツバチのように周囲に派遣するイメージを思い描く。
(口内錬成。はちみつケーキ)
……待ち時間だ。
走行中の馬車の馭者台だからか、いつもより時間かかりそうだ。
『口内錬成』の「発見」当初は、口の中に入れれば、石ころだろうが木だろうが「材料」は何でもいいと思っていたけど……実験を繰り返してみた結果、ダメだった。
どうやら「人間の口の中にあっても、不自然ではないもの」じゃないと『口内錬成』は出来ないようで、無機物質をベースにすると、不成功に終わるのだった。
つまりそれは「食べ物」なんだけど、どこかに消えてなくなるもの(未だにどこに消えてるのか不明だ)に、わざわざ高価な食材は使いたくない。
で、「量」があって、値段が安くて、手に入りやすいもの――というと、『俺』が『この世界』で初めて食べた家畜のエサである異世界食物「ポタテ」が、いちばんコスパがいいのであった。
実は馬車を牽いてくれる馬たちのオヤツ用に大量購入したものが、この馭者台の座席の下に有り余ってるのだ。
チン!
ポタテ独特の風味が、はちみつ風味に切り替わる。
よし、出来た。
俺はラウラ姫を無言(※口内錬成なので、しゃべれないのだ)で抱き寄せて、ぶちゅっ、とキスして、口の中の甘い塊を、姫の口の中に舌で押し込んだ。
「ん……んぐ……ん……あっ」
なんか喘いでる。
押し込むペースが速かったかな?
「……んはぁっ」
甘い香りの吐息が漏れる。
「……ほぉっ」
美味しかったんだろう。なんか、うっとりしてる。
「他に食べたいものはありますか?」
「うむ。太い腸詰め肉がいい」
「かしこまりました」
ぶっとい、ソーセージだな。よし。
たしか、車内に姫のおやつの「干し肉」があるハズだ。
原料(?)にピッタリだ。組成が近い物が近くにあれば、大幅な時短になるし。
それを狙って、イメージを膨らませる。
(口内錬成。太い腸詰め肉)
『この世界』でのソーセージは「冬場の保存食」みたいな位置付けらしいので、いまの季節はあんまり見かけない。
出回ってるのは燻製されてドライソーセージ(サラミ)になってるヤツばっかだ。
『魔法』で成形される皮無しソーセージ『お肉の棒』(……)ってのもあるけど、パリパリした皮の食感が無いから、なんとなくそっちは「つくね」っぽい。
そんな事を考えながら、出来上がりを待つ――
チン!
ポコっと頬っぺが膨らむ。
成功だ。わりとすぐ出来た。
薫り高いソーセージの匂いが鼻から抜ける。
モッコリした頬が痛いので、俺は舌を使って口の中で向きを変え、一方の端を口からむにゅっ、と出す。
「……むう」
ラウラ姫が、真っ赤な顔をしてる。はて?
俺は細かい事は気にせず、口に咥えたソレをラウラ姫にも咥えさせる。
「んぐっ……おっきい」
たしかに小柄な姫は、口も小さい。
それでも、めっちゃ大食いだからなー。不思議なもんだ。
「はむ……んくっ……んぐんぐ」
噛み切って、咀嚼してる。なんか小動物みたいで可愛い。
「はむ」
もう一度、咥えさせる。
「ん……れろれろ……んっ」
今度は、噛み切らずに、肉汁を舐めとるようにしてる。
「はむっ」
脂の味に満足すると、噛みついて、残りを自分の口に持って行った。
「ちゅぽん」
――なんか、俺、ひな鳥に口移しで食べ物を与えている親鳥になった気分だ。
「他に食べたいものは?」
「……うむ。太いのをもう一本」
「かしこまりました」
姫は『ビストロ俺様』の味を気に入ってくれたようだ。
よかったよかった。
「んはぁっ……んんんっ。はぁはぁ」
でも、何か……おかしい。
どう見ても、姫が「性的に興奮」しているようにしか、見えない。
ただ、錬成した食べ物を食べさせているだけなのに……解せぬ。
「もっと……もっと……」
うーむ。「おねだり」もなんか、やらしいぞ。
俺自身は、まったく、えっちなことをしてる気分じゃないんだけどな。
『錬金術』はイメージが大事なので、雑念が入ると上手くいかない。
だから、えっちなことなんて考えもしてないんだけど……なんでだ?
なんで姫はこんなに悶えて、エロっちい事になってるんだろう?
「「「……(じ――っ)」」」
そこで、はっ、と気付いた。
馭者台の背後にある物見窓から、俺たちの様子を見つめている人たちがいる事に……。
「む? 見るでない!」
俺はラウラ姫口調で言った。
◇
ミーヨ先生から「指導」が入り、ラウラ姫は車内に連行されていった。
そこでいくつかの衛生系『魔法』をかけられたようだ。『★洗浄☆』とか『★乾燥☆』とか。
なんなんだろう?
――そして今。
二人しか座れない馭者台には、俺を真ん中にして右手にミーヨ。左手にシンシアさんの三人がいる。
正直、狭くて気持ちいい。二人とも密着してるし、気持ちいい。
「まったくー、人前であんなに何度もぶちゅぶちゅと……して、もー」
ミーヨ先生がぷりぷり怒ってる。
「ジンさん。ヒサヤやセシリアみたいな小さい子供もいるんですから」
風紀委員のシンシアさんにまで注意された。
イヤ、俺もついつい忘れちゃうけど、ドロレスちゃんも12歳だよ?
でもって、してたのは馬車の外側にある馭者台だよ?
人前じゃないだろ。車内でみんなの目の前でしてたワケじゃないんだから。
物見窓から勝手に覗き見してたのは、そっちでしょ?
――不当で理不尽な非難だ。
「…………」
でも、口に出しては言えない。だって「小市民」ですもの。
俺とラウラ姫が馭者台に上がってからすぐに、座席を交換してもらって、ず――っと観察していたらしい。
「それで、何やってたの? また『たま○ん術』?」
「ちげーよ。『錬金術』だ」
「……」
下品な事を言うなミーヨ。シンシアさんが呆れてるじゃないか。
あと『全知神』様からいただいた「ケンちゃん」こと『賢者の玉』を、「たま○ん」と呼ぶな。
「口の中で『錬成』して、食べ物作って、食べさせてたんだよ。そんだけだよ」
俺は特に隠さず、そう言った。
――どうせ、この二人はいろいろ知ってるし。
「ジンさん、そんな事も出来るんですね……? あ、じゃあ、この前いただいた大きな宝石もお口の中でつくられたんですか?」
あれ?
俺の●(固体)ベースの、『固体錬成』の事は、シンシアさんに言ってなかったけ?
あの時はまだ……。
「……ええ、まあ」
今さら、俺の「*」から出しました……とは言えない。
すんごい座薬感……イヤ、罪悪感が……。
(……ミーヨ。黙ってて)
すぐ右横に向けて、目配せする。
「……(こくん)」
よし、いい子だ。後で必ずや、その忠義に報いるであろう。ぐへへへ。
「じゃあ、わたしも食べたい。太い腸詰め肉」
ミーヨからおねだりされた。
よし、いい機会だ。
特訓(?)だな!!
◇
……とは言え、さすがにシンシアさんの目の前で「親鳥式給餌法(口移し)」に名を借りた「特訓(?)」は出来なかった。
「「わ――っ!」」
俺が口から、太いソーセージを出して見せると、二人とも手品か大道芸を観るみたいな感じで驚いていた。
そしてふと何かに気付いたように、恥ずかしそうに頬を染めた。
ラウラ姫もそうだったけど……なんで?
で、ミーヨが用意していた船型木皿の上に、『錬成』した太い腸詰め肉と、そのモトになったポタテを載せて、なんちゃってドイツ風『農民の朝食』にしてみた。もう時間的には昼過ぎだけど。
「祈願。滅菌っ。……あれ?」
ミーヨが唱えた『★滅菌☆』は発動しなかった。
「それって、汚れていないからですよ。『世界の理の司』が対象物に雑菌や汚れを感知しない場合には、その『魔法』は発動しないはずです。ジンさんが『魔法』で作ったものですから、『世界の理の司』を通じて、そう判定されてるんじゃないでしょうか」
シンシアさんが言った。
どうなんだろう?
雑菌がついてないんじゃなくて……逆に、俺の『錬金術』では雑菌とか微生物とかの、微細なレベルまで「再現」出来ないのかもしれない。
てか、そんなレベルまで再現しようとは思ってもいないけれども。
『錬成』中は、口内にも何かしらの「被膜」が張られてる感覚はあるし、「出来上がり」までは味も匂いも何も感じない。
完全にクリーンな無菌状態で出て来るらしい。
てか「食べ物」だしな。でないと困るよ。
とすると……俺の『口内錬成』では、微生物による「発酵」が必要な食品って、つくれないのかな?
その「段階」をすっ飛ばして『錬成』出来ると思うけど……後で「実験」してみよう。
でも、一応確認はしておこうっと。
(右目『光眼』。顕微鏡モード)
めったに使わない「顕微鏡モード」だ。
(拡大。拡大。拡大――)
4倍。8倍。16倍と……なぜかそんな感じで倍率が上がる謎な仕様なので、最大65535倍でカンストするかも?
で、『錬成』した極太ソーセージの表面を、拡大して見てみる。
微細な光の粒がちょろちょろ動いてるけど、にょろにょろした微生物的なモノはいないみたいだ。
そして、この光の粒って『守護の星』の極小サイズのちっこいヤツで、『魔法』にかかわるナノマシン的なヤツのハズだ。
詳しくは不明だけど、人間の体内にもいるらしいし、『この世界』の水や食べ物のほとんどすべてに含まれてるものらしい。
なので確証はないけど……食べても平気そうだ。
あ、そうだ!
『魔法』のキラキラ星の被膜で包んである『お肉の棒(※皮無しだ。ある意味大人だ)』みたいに、『守護の星(普通サイズ)』でマジカル・ラッピングしちゃえば、抵抗感なくなるかも。
(口内錬成。太い腸詰め肉にキラキラ星ラッピング)
チン!
ポコっとな。何故か完成までの速度がUPしてる気もする。
「……ふぉれふぁらほーれす」
でっかい虹色ソーセージが出来たよ。
「うええっ、『お肉の棒』みたい! ああっ、でも、きれー!」
「何でしょう? 真珠みたいな光沢が……あ、『守護の星』で包んであるんですね」
パキン!
手で持って二つに折ると、皮が弾ける「いい音」がする。
そしてその寸前、『魔法』のキラキラ星は飛び散っていくのが見えた。
へー、食品用の『★密封☆』って、こんな「仕様」なんだ? と、ちょっとびっくり。
「……はむっ。……別に……変な味は、しないよ」
ついでに二人の目の前で、毒見してみせる。
「じゃあ、食べる」
「では、私も」
よし。試作品が高評価なので、量産に移行だ。
◇
「「いただきまーす」」
二人ともお皿の上で、『この世界』での宗教的なシンボル「X」印を描いてから、食べ始めた。
俺が口から出したモノなのに、平気な顔で食べてる。
「「おいひい……(はむはぐ)」」
何の文句も言われなかった。
どういう基準でOKなのか不明だけど……だったら、姫みたいに口移しでもよくね? ダメ?
「牛酪が欲しいところですね」
「牛酪?」
シンシアさんに言われて戸惑う。
「ジンくんが『ばたー』って言ってる物だよ。あれってポタテに合うもんね」
ミーヨが助け舟を出してくれた。陸上で馬車の上だけど。
「ああ、なるほど……あれって牛乳が原料だよな。馬車にあったかな?」
「牛乳じゃなくても、おっぱいなら何でもいいはずだよ」
「そうなのか?」
牛乳以外のミルクは「おっぱい」呼ばわりか。
にしても、おっぱいなら何でもいい――とか、「おっぱい博愛主義者」の俺みたいだな。
俺って、大きくても小さくてもウェルカムだしな。つっても大抵は大きいお胸に目が行くけど(笑)。
「てかバターってどうやって作るんだ? 塩入れるのか?」
「違うよ。ジンくんが『くりーむ』って呼んでるおっぱいの脂からだよ。搾り立ての生乳を冷やすと浮いてくる、おっぱいの脂肪の部分をゆさゆさ揺するといいんだよ」
「……へー。めっちゃ楽しそうだな」
俺は本気で、心の底からそう思った。
「ジンさん。なにか誤解してませんか?」
シンシアさんの声が、アイスクリームみたいにひんやりしてた。
俺の評価が低下しないか心配だ。
「ジンさんのおち……いえ、あのー、そうではなくてですね、あのー、夜空のプロペラ星みたいに、グルグル振り回した方が早いですよ?」
製法について、そんな事を言われた。
「ああ、遠心分離機ですね?」
よくそんな事知ってるな。シンシアさん。
「え? 分離? うそ? 取れないよね?」
「ミーヨさん。ナニか誤解してませんか?」
俺は生暖かく言った。
「……(くすくす)」
黒髪の美少女がかわいい三日月目になってる。
◇
「ところで、シンシアさん。『神殿通信』ってご存知ですか?」
いい機会なので質問してみた。彼女は『神殿』の『巫女見習い』なのだ。
「『神殿通信』は、『神授の真珠』を介した超長距離の相互通話……相互『念話』の事です」
シンシアさんが、いつものように明快に言った。
「超長距離の相互念話?」
そんなのがあったのか。初耳だ。
「それは『★伝声☆』の『魔法』みたいな? 『神授の真珠』を介してるというと……『巫女見習い』の方が?」
やっぱり『神授の真珠』には、情報端末的な機能が色々と搭載されてんだな。
――俺も欲しい。なんとか『錬成』でコピーしたい。
「いえ、『神殿通信』は『巫女見習い』を引退した『神官女』様同士で行います。まだ十代の『巫女見習い』だと、無駄話に時間を費やしてしまいがちですから」
「はあ」
女性の長電話に年齢は関係ない気もするけど……。
「時間を費やしてしまう……と言うと、通話時間に制限があるわけですか?」
3分間とかかな?
NT○は5分だっけ? 『UC』の「デス○ロイ・モード」の事だけど……あれには「ハイフン」入るけれども。
「二打点(約3時間)ですね」
「……長いじゃないですか」
寝落ちしそう。
「いえいえ。合計で二打点なんです。直接会って、手を握り合って『★伝心☆』の『神聖術法』で繋がった者同士が、接続と遮断をこまめに行いながら……の合計二打点なんです」
「かなり、面倒なんですね?」
なんか例える物が見当たらない感じだ。なんだそれ? でも「手を握り合う」とか『合体魔法』みたい。
「普通の『魔法』だって、二打点で消えちゃうでしょう?」
話を聞いていたらしい。ミーヨが言った。
確かに『この世界』の『魔法』の「仕様」で、時限タイマー式に勝手に停止するのだ。
「叔母に言わせると『てれふぉん・かーど』みたいな感じだそうですよ」
元・日本人の『前世の記憶』を持つというシンシアさんの叔母さんか……。
「……そーなんですか」
そう言えば、昔あったな。テレカ。テレフォン・カード。懐かしい。
あらかじめ決められたポイントを消費しちゃうと、そこで「通話終了」か。
◇
さらに話を聞いたら、シンシアさんのお姉さんが『ほっかいどー』で生まれ育ったと言う『前世の記憶』持ちだった。
さっきの「遠心分離」の話はその「現代知識チート能力(?)」……らしい。
にしても、どこだろ? 『ほっかいどー』って。
イヤ、まあ、心当たり……あるけど。
◇
食事を終えると、俺は先日「ドロレス馬車教習所」で教わった馭者のやり方を、二人に伝授した。
といってもミーヨは故郷のボコ村で馬を扱った経験があるらしく、主にシンシアさんに教える事になった。ミーヨは『魔法』以外ならなんでもソツなくこなす子なのだった。
「……よし。今日の練習はここまで! 今日学んだ成果は、本番で発揮するように!」
「「はい、『こーち』!」」
二人とも、いい返事だった。
これで、馭者を出来る子が増えた。
みんなちょっとずつ楽になるな。
まあ実は『馬蹄組合』が貸し出す『永遠の道』専用の「牽き馬」は、本当に賢くて馭者が必要ないくらいなんだけれども。
「ところで、ジンくん。『俺のことはコーチと呼べ!』って言ってたから、そう呼んであげたけど……『こーち』って何? 別にえっちなことじゃないよね?」
そのへん、妙に鋭くなってるミーヨさんから突っ込まれましたよ。
確かに、部活モノのAVの中では、エッチなコーチもいっぱいいるだろうけれども。
特に水泳部とかテニス部とかに。ああ、俺も就任してー(笑)。
「『コーチ』は運動競技なんかの指導者の事だな。ただ遡ると、ハンガリーの地名らしい」
ウィ○で見た覚えがあるのだ。
「「『はんがりー』?」」
「板バネ付きの馬車の製造で有名な『コチ』って場所で、そこで作られた馬車はみんな『コチ』って呼ばれたらしいよ」
馬車の馭者台で、そんなことを語ってみた。
「「……ナニソレ?」」
ただ、異世界で『地球』のウンチクを偉そうに語ってみても、痛い「不思議ちゃん」扱いされて終わりだった(泣)。
◇◇◇
その日の『駅』に着いた後で――
「むう。干し肉がない」
ラウラ姫が嘆いていた。
「お肉」を『錬成』しすぎて、姫のおやつが無くなっちゃったらしい。
――ごめんちゃい。
◆
保存用の食品を、普通に食べきっちゃう事ってあるよね――ばつ×




