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056◇ビストロ俺様


「むう」

 ラウラ姫が不機嫌だ。


 他の子に怒鳴りちらしたり、八つ当たりするような事はないけれど、その良くない波動は周囲に影響を及ぼす。


      ◇


 強まって来た『荒嵐(あらあらし)』のせいで、『永遠の道』を走る馬車を見かけなくなってきた。

 この暴風の中で『道』を移動しているのは、『俺の馬車』とゴロゴロダンゴムシくらいなものだった。

 他の馬車は、強風による横転を恐れて、『駅』で何泊かしちゃうらしい。


 でも、元・日本人で結構せっかちなプリムローズさんが、『★星の雨傘☆』と言う名の、元々は一人用の簡単な雨除けのマジカル・アンブレラを、俺との『合体魔法』で強引に範囲拡張させ、さらに効果も増強させて、無理矢理に風の影響を軽減させつつ馬車を走らせてるのだ。


 表面……と言うか内部から見た壁面の感じは、シャボン玉の膜みたいな虹色が揺れる透明なドーム形だ。

 そんなの、台風の時のビニール傘みたいに、ペロンとめくれあがって壊れないの? って気もするけど、今んとこ無事だ。


 魔法の効果は二打点(約3時間)で切れるけど、むしろそのくらいなら「トイレ休憩」に丁度いいらしい。


 でも、本来なら『道』に脇に点在する「馬車溜まり」で簡単に手にはいる「ご飯」が入手不可能なのだ。


 ――店ないんだもん。


 あちこちの「馬車溜まり」で商売していた『店馬車』が、『道』沿いから掻き消えてしまっているのだ。『荒嵐(あらあらし)』のせいで。


「むう」

 昼食の遅れに、第三王女殿下がご立腹だ。


 最悪、今晩宿泊予定の『駅』まで「おあずけ」になるかもしれない……とか言ったら、姫どうすんだろ? 暴れはしないと思うけど……不貞寝するかも。


 昨日買い込んでいた大量の食料品も、ほとんど食べ尽くしてしまってる。

 万一に備えての、非常用のドライフード(何種類かの乾燥『虹色豆』や、大型堅焼きビスケット『食用煉瓦』。ドライフルーツや干し肉なんかだ)はあるけど、さすがに馬車の中で煮炊きは出来ないし、簡単なものしか用意できそうにない。


 そんな事を考えていると――


(ジン。そろそろ馭者を代わってくれ)


 左耳に入れている「真珠っぽい耳栓」が、プリムローズさんからの『★伝声☆』によって「音声」として振動した。


 最初使っていた「木のプラグ」は装着感がいまいちだったので、暇潰しに『口内錬成』で作っておいたのだ。


 『前世の記憶』にあるイヤホン的なカタチだ。

 白くてツヤツヤしてて、なんとなく見た目が「補聴器」っぽくなってるけど、プラスチックじゃなくて炭酸カルシウムを主成分にした「真珠っぽい耳栓」だ。

 俺の口の中で錬成(つく)ったヤツだから、ハッキリ『真珠』とは言えない。なので「真珠っぽい耳栓」だ。


 生物由来の物質に近いはずだから、ずっと装着しててもアレルギー反応的な事は起きないだろう。

 プリムローズさんにもひとつ渡しておいた。

 俺は『魔法』を使えないから、こっちの声は届けられないけれども……。


 あと、前にミーヨと約束した『真珠の首飾り』を「*」から引きずり出すのは、ちょっとアレ過ぎる(……)ので、『口内』で錬成(つく)れないかと試行錯誤している。


 『地球』の『真珠』もそうだけど、意外なほどカラーバリエーションが豊富なので、何種類か作って「見本」を渡しておいた。


 ただ「本番」で、同じ色を再現できるかどうかは、あんまり自信はない。

 着色しようとすると、偶然性に()るところが大きくて、毎回微妙に色が違うのだ。


 あ、そうだ!


 ――この際だから、『口内錬成』で色々と遊ぼう。


「姫。気晴らしに俺と馭者やりませんか?」

 そう誘ってみた。

「……うむ」

 なんか妙に照れてる。別にデートとかじゃないよ?


 ほんの短い時間停車して、俺とラウラ姫は馭者台に登った。

 足元には「あるもの」が大量にある。


 交代する時に、

「殿下のような高貴なお方が馭者を買って出られるなど……」

 プリムローズさんが「嘆いたフリ」をした。完全に「フリ」だ。


「良い。気晴らしだ」

「左様ですか? では、ご随意に」

 その証拠に、あっさりと認めて、敢えて引き止めないし。


 とりあえず、『★星の雨傘☆』とやらで、牽き馬たちを含めた『俺の馬車』全体を守って貰った。

 傾斜を付けて展開する事で、走行時の空気抵抗の低減もしてたらしい。


「『かうんたっく』みたいにしといたから」

 そんな事を言われて、ちょっと驚いた。


 ひょっとして「ランボルギーニ・カウンタック」みたいなクサビ形ってコトかな? 知ってるとは意外だ。

 俺も実車は見た事がないし、某ゲームでしか知らないけれど。


      ◇


「姫。何か食べたいものはありますか?」

 俺が馬車を走らせながら訊くと、

「むう? なぜそんな事を?」

 如何(いか)にも疑わしそうだ。

 空腹で気が立ってるらしい。青い瞳でかるく睨まれた。


 まあ、そりゃそうか。


「俺が『魔法』で姫の食べたいものを作ります」

「む? そんなことが出来るのか?」

「ハイ」


 実は『この世界(アアス)』の料理人の中には、本当に「そんなこと」をやってる人もいるらしいのだ。

 調理の一部を『魔法』でやってる「マジカル・シェフ」が。


 ちなみに「マジカル・パティシエ」は「デラちゃん」だ(※『ニセ○イ』OAD)。和菓子屋の長女なのに……。


 ……じゃなくて、前にプリムローズさんが言ってた、お料理の『れしぴ』みたいな事を考えて発動させる『創作系魔法』って、ズバリそういう事らしいのだ。


 よくある「術式」とか「呪文」とか、コンピュータのプログラミングに類するような事だと、素人には難しいだろうけど、具体的な「手順」を脳内でイメージ出来れば、それを『魔法』のキラキラ星である『守護の星(普通サイズ)』に実行させる事が可能らしい。


 それで個々人が、オリジナルの『魔法』を編み出して、「固有スキル」みたいに使ってるのだ。


 ただ、俺の『錬金術』と違って、いきなり「完成品」が出て来たりはしないそうだけど。


「どうぞ、お好きな物を」

 体調もある程度回復して来てるらしいし、食欲もあるみたいだ。

 食べたい物食べて、機嫌も治して欲しい。


「うむ。では、まず、甘い菓子がいい。蜜の味がいいな」

 ふむふむ。

 そう言えば、あの甘い匂いは「メープルシロップ」の匂いだったな。

 『この世界』でも似たような樹液が、代用品みたいにお菓子に使われてるらしい。

 蜂蜜って高価だからな。そしてもっとも一般的な甘味料のアマネカブって、どうしても「カブの風味」がするし……。


「分かりました。あ、姫。最初にお断りしておきますが――口から口の、口移しになります。構いませんね?」


 手頃なお皿持ってくるのを、忘れてたのだ。

 でも、何度もしてるもんね。平気だよね?


「……むきゅう」

 あれ? 照れてるのか?


 ま、いいか。


「それでは、しばしお待ちを」

 ちょっと気取って言ってみた。


 『錬成』のモトになる「あるもの」……『ポタテ』はいっぱいある。

 俺は足元の袋から「真っ赤なポタテ」を取り出して、口いっぱい頬ばる。

 この時に詰め込んだ「容積」が、そのまま完成品の「体積」になる。そんな「仕様」なのだ。


 にしても、相変わらず生なのに「茹でたジャガイモ」みたいな食感がする。

 

 そう言えば、試しにやってみたら口の中に「げんこつ」が入ったよ。

 自分でもその容量にたまげたよ。

 俺って、頬っぺも膨らむし、口の中がデカいのだ。


 とにかくしっかりと、その味を脳内で構築して、『守護の星』をミツバチのように周囲に派遣するイメージを思い描く。


(口内錬成。はちみつケーキ)


 ……待ち時間だ。


 走行中の馬車の馭者台だからか、いつもより時間かかりそうだ。


 『口内錬成』の「発見」当初は、口の中に入れれば、石ころだろうが木だろうが「材料」は何でもいいと思っていたけど……実験を繰り返してみた結果、ダメだった。


 どうやら「人間の口の中にあっても、不自然ではないもの」じゃないと『口内錬成』は出来ないようで、無機物質をベースにすると、不成功に終わるのだった。


 つまりそれは「食べ物」なんだけど、どこかに消えてなくなるもの(未だにどこに消えてるのか不明だ)に、わざわざ高価な食材は使いたくない。


 で、「(ガサ)」があって、値段が安くて、手に入りやすいもの――というと、『俺』が『この世界』で初めて食べた家畜のエサである異世界食物「ポタテ」が、いちばんコスパがいいのであった。


 実は馬車を牽いてくれる馬たちのオヤツ用に大量購入したものが、この馭者台の座席の下に有り余ってるのだ。


   チン!


 ポタテ独特の風味が、はちみつ風味に切り替わる。

 よし、出来た。


 俺はラウラ姫を無言(※口内錬成なので、しゃべれないのだ)で抱き寄せて、ぶちゅっ、とキスして、口の中の甘い塊を、姫の口の中に舌で押し込んだ。


「ん……んぐ……ん……あっ」

 なんか喘いでる。

 押し込むペースが速かったかな?


「……んはぁっ」

 甘い香りの吐息が漏れる。


「……ほぉっ」

 美味しかったんだろう。なんか、うっとりしてる。


「他に食べたいものはありますか?」

「うむ。太い腸詰め肉がいい」

「かしこまりました」


 ぶっとい、ソーセージだな。よし。

 たしか、車内に姫のおやつの「干し肉」があるハズだ。

 原料(?)にピッタリだ。組成が近い物が近くにあれば、大幅な時短になるし。

 それを狙って、イメージを膨らませる。


(口内錬成。太い腸詰め肉)


 『この世界』でのソーセージは「冬場の保存食」みたいな位置付けらしいので、いまの季節はあんまり見かけない。

 出回ってるのは燻製されてドライソーセージ(サラミ)になってるヤツばっかだ。

 『魔法』で成形される皮無しソーセージ『お肉の棒』(……)ってのもあるけど、パリパリした皮の食感が無いから、なんとなくそっちは「つくね」っぽい。


 そんな事を考えながら、出来上がりを待つ――


   チン!


 ポコっと頬っぺが膨らむ。


 成功だ。わりとすぐ出来た。

 薫り高いソーセージの匂いが鼻から抜ける。

 モッコリした頬が痛いので、俺は舌を使って口の中で向きを変え、一方の端を口からむにゅっ、と出す。


「……むう」

 ラウラ姫が、真っ赤な顔をしてる。はて?

 俺は細かい事は気にせず、口に(くわ)えたソレをラウラ姫にも咥えさせる。


「んぐっ……おっきい」

 たしかに小柄な姫は、口も小さい。

 それでも、めっちゃ大食いだからなー。不思議なもんだ。


「はむ……んくっ……んぐんぐ」

 噛み切って、咀嚼(そしゃく)してる。なんか小動物みたいで可愛い。


「はむ」

 もう一度、咥えさせる。

「ん……れろれろ……んっ」

 今度は、噛み切らずに、肉汁を舐めとるようにしてる。


「はむっ」

 脂の味に満足すると、噛みついて、残りを自分の口に持って行った。


「ちゅぽん」


 ――なんか、俺、ひな鳥に口移しで食べ物を与えている親鳥になった気分だ。


「他に食べたいものは?」

「……うむ。太いのをもう一本」

「かしこまりました」


 姫は『ビストロ俺様』の味を気に入ってくれたようだ。

 よかったよかった。


「んはぁっ……んんんっ。はぁはぁ」


 でも、何か……おかしい。

 どう見ても、姫が「性的に興奮」しているようにしか、見えない。


 ただ、錬成した食べ物を食べさせているだけなのに……()せぬ。


「もっと……もっと……」


 うーむ。「おねだり」もなんか、やらしいぞ。


 俺自身は、まったく、えっちなことをしてる気分じゃないんだけどな。

 『錬金術』はイメージが大事なので、雑念が入ると上手くいかない。

 だから、えっちなことなんて考えもしてないんだけど……なんでだ?


 なんで姫はこんなに悶えて、エロっちい事になってるんだろう?


「「「……(じ――っ)」」」


 そこで、はっ、と気付いた。


 馭者台の背後にある物見窓から、俺たちの様子を見つめている人たちがいる事に……。


「む? 見るでない!」

 俺はラウラ姫口調で言った。


      ◇


 ミーヨ先生から「指導」が入り、ラウラ姫は車内に連行されていった。

 そこでいくつかの衛生系『魔法』をかけられたようだ。『★洗浄☆』とか『★乾燥☆』とか。

 なんなんだろう?


 ――そして今。


 二人しか座れない馭者台には、俺を真ん中にして右手にミーヨ。左手にシンシアさんの三人がいる。

 正直、狭くて気持ちいい。二人とも密着してるし、気持ちいい。


「まったくー、人前であんなに何度もぶちゅぶちゅと……して、もー」

 ミーヨ先生がぷりぷり怒ってる。


「ジンさん。ヒサヤやセシリアみたいな小さい子供もいるんですから」

 風紀委員のシンシアさんにまで注意された。


 イヤ、俺もついつい忘れちゃうけど、ドロレスちゃんも12歳だよ?


 でもって、してたのは馬車の外側にある馭者台だよ?

 人前じゃないだろ。車内でみんなの目の前でしてたワケじゃないんだから。

 物見窓から勝手に覗き見してたのは、そっちでしょ?


 ――不当で理不尽な非難だ。


「…………」

 でも、口に出しては言えない。だって「小市民」ですもの。


 俺とラウラ姫が馭者台に上がってからすぐに、座席を交換してもらって、ず――っと観察していたらしい。


「それで、何やってたの? また『たま○ん術』?」

「ちげーよ。『錬金術』だ」

「……」

 下品な事を言うなミーヨ。シンシアさんが呆れてるじゃないか。

 あと『全知神』様からいただいた「ケンちゃん」こと『賢者の玉』を、「たま○ん」と呼ぶな。


「口の中で『錬成』して、食べ物作って、食べさせてたんだよ。そんだけだよ」

 俺は特に隠さず、そう言った。


 ――どうせ、この二人はいろいろ知ってるし。


「ジンさん、そんな事も出来るんですね……? あ、じゃあ、この前いただいた大きな宝石もお口の中でつくられたんですか?」


 あれ?

 俺の●(固体)ベースの、『固体錬成』の事は、シンシアさんに言ってなかったけ?

 あの時はまだ……。


「……ええ、まあ」


 今さら、俺の「*」から出しました……とは言えない。

 すんごい座薬感……イヤ、罪悪感が……。


(……ミーヨ。黙ってて)

 すぐ右横に向けて、目配せする。

「……(こくん)」

 よし、いい子だ。後で必ずや、その忠義に報いるであろう。ぐへへへ。


「じゃあ、わたしも食べたい。太い腸詰め肉」

 ミーヨからおねだりされた。

 よし、いい機会だ。


 特訓(?)だな!!


      ◇


 ……とは言え、さすがにシンシアさんの目の前で「親鳥式給餌法(口移し)」に名を借りた「特訓(?)」は出来なかった。


「「わ――っ!」」


 俺が口から、太いソーセージを出して見せると、二人とも手品か大道芸を観るみたいな感じで驚いていた。


 そしてふと何かに気付いたように、恥ずかしそうに頬を染めた。

 ラウラ姫もそうだったけど……なんで?


 で、ミーヨが用意していた船型木皿の上に、『錬成』した太い腸詰め肉と、そのモトになったポタテを載せて、なんちゃってドイツ風『農民の朝食』にしてみた。もう時間的には昼過ぎだけど。


「祈願。滅菌っ。……あれ?」


 ミーヨが唱えた『★滅菌☆』は発動しなかった。


「それって、汚れていないからですよ。『世界の理(ことわり)(つかさ)』が対象物に雑菌や汚れを感知しない場合には、その『魔法』は発動しないはずです。ジンさんが『魔法』で作ったものですから、『世界の理の司』を通じて、そう判定されてるんじゃないでしょうか」

 シンシアさんが言った。


 どうなんだろう?


 雑菌がついてないんじゃなくて……逆に、俺の『錬金術』では雑菌とか微生物とかの、微細なレベルまで「再現」出来ないのかもしれない。

 てか、そんなレベルまで再現しようとは思ってもいないけれども。


 『錬成』中は、口内にも何かしらの「被膜」が張られてる感覚はあるし、「出来上がり」までは味も匂いも何も感じない。

 完全にクリーンな無菌状態で出て来るらしい。

 てか「食べ物」だしな。でないと困るよ。


 とすると……俺の『口内錬成』では、微生物による「発酵」が必要な食品って、つくれないのかな?

 その「段階」をすっ飛ばして『錬成』出来ると思うけど……後で「実験」してみよう。


 でも、一応確認はしておこうっと。


(右目『光眼(コウガン)』。顕微鏡モード)


 めったに使わない「顕微鏡モード」だ。


(拡大。拡大。拡大――)


 4倍。8倍。16倍と……なぜかそんな感じで倍率が上がる謎な仕様なので、最大65535倍でカンストするかも?


 で、『錬成』した極太ソーセージの表面を、拡大して見てみる。


 微細な光の粒がちょろちょろ動いてるけど、にょろにょろした微生物的なモノはいないみたいだ。


 そして、この光の粒って『守護の星』の極小サイズのちっこいヤツで、『魔法』にかかわるナノマシン的なヤツのハズだ。


 詳しくは不明だけど、人間の体内にもいるらしいし、『この世界』の水や食べ物のほとんどすべてに含まれてるものらしい。


 なので確証はないけど……食べても平気そうだ。


 あ、そうだ!

 『魔法』のキラキラ星の被膜で包んである『お肉の棒(※皮無しだ。ある意味大人だ)』みたいに、『守護の星(普通サイズ)』でマジカル・ラッピングしちゃえば、抵抗感なくなるかも。


(口内錬成。太い腸詰め肉にキラキラ星ラッピング)


   チン!


 ポコっとな。何故か完成までの速度がUPしてる気もする。


「……ふぉれふぁらほーれす」


 でっかい虹色ソーセージが出来たよ。


「うええっ、『お肉の棒』みたい! ああっ、でも、きれー!」

「何でしょう? 真珠みたいな光沢が……あ、『守護の星』で包んであるんですね」


   パキン!


 手で持って二つに折ると、皮が弾ける「いい音」がする。

 そしてその寸前、『魔法』のキラキラ星は飛び散っていくのが見えた。

 へー、食品用の『★密封☆』って、こんな「仕様」なんだ? と、ちょっとびっくり。


「……はむっ。……別に……変な味は、しないよ」

 ついでに二人の目の前で、毒見してみせる。


「じゃあ、食べる」

「では、私も」


 よし。試作品が高評価なので、量産に移行だ。


      ◇


「「いただきまーす」」


 二人ともお皿の上で、『この世界』での宗教的なシンボル「X」印を描いてから、食べ始めた。

 俺が口から出したモノなのに、平気な顔で食べてる。


「「おいひい……(はむはぐ)」」


 何の文句も言われなかった。

 どういう基準でOKなのか不明だけど……だったら、姫みたいに口移しでもよくね? ダメ?


「牛酪が欲しいところですね」

「牛酪?」

 シンシアさんに言われて戸惑う。


「ジンくんが『ばたー』って言ってる物だよ。あれってポタテに合うもんね」

 ミーヨが助け舟を出してくれた。陸上で馬車の上だけど。


「ああ、なるほど……あれって牛乳が原料だよな。馬車にあったかな?」

「牛乳じゃなくても、おっぱいなら何でもいいはずだよ」

「そうなのか?」


 牛乳以外のミルクは「おっぱい」呼ばわりか。

 にしても、おっぱいなら何でもいい――とか、「おっぱい博愛主義者」の俺みたいだな。

 俺って、大きくても小さくてもウェルカムだしな。つっても大抵は大きいお胸に目が行くけど(笑)。


「てかバターってどうやって作るんだ? 塩入れるのか?」

「違うよ。ジンくんが『くりーむ』って呼んでるおっぱいの脂からだよ。搾り立ての生乳を冷やすと浮いてくる、おっぱいの脂肪の部分をゆさゆさ揺するといいんだよ」


「……へー。めっちゃ楽しそうだな」

 俺は本気で、心の底からそう思った。


「ジンさん。なにか誤解してませんか?」

 シンシアさんの声が、アイスクリームみたいにひんやりしてた。

 俺の評価が低下しないか心配だ。


「ジンさんのおち……いえ、あのー、そうではなくてですね、あのー、夜空のプロペラ星みたいに、グルグル振り回した方が早いですよ?」

 製法について、そんな事を言われた。


「ああ、遠心分離機ですね?」

 よくそんな事知ってるな。シンシアさん。


「え? 分離? うそ? 取れないよね?」

「ミーヨさん。ナニか誤解してませんか?」

 俺は生暖かく言った。


「……(くすくす)」

 黒髪の美少女がかわいい三日月目になってる。


      ◇


「ところで、シンシアさん。『神殿通信』ってご存知ですか?」

 いい機会なので質問してみた。彼女は『神殿』の『巫女見習い』なのだ。


「『神殿通信』は、『神授の真珠』を介した超長距離の相互通話……相互『念話(ねんわ)』の事です」

 シンシアさんが、いつものように明快に言った。


「超長距離の相互念話?」

 そんなのがあったのか。初耳だ。


「それは『★伝声☆』の『魔法』みたいな? 『神授の真珠』を介してるというと……『巫女見習い』の方が?」


 やっぱり『神授の真珠』には、情報端末的な機能が色々と搭載されてんだな。


 ――俺も欲しい。なんとか『錬成』でコピーしたい。


「いえ、『神殿通信』は『巫女見習い』を引退した『神官女(しんかんにょ)』様同士で行います。まだ十代の『巫女見習い』だと、無駄話に時間を費やしてしまいがちですから」

「はあ」

 女性の長電話に年齢は関係ない気もするけど……。


「時間を費やしてしまう……と言うと、通話時間に制限があるわけですか?」

 3分間とかかな?

 NT○は5分だっけ? 『UC』の「デス○ロイ・モード」の事だけど……あれには「ハイフン」入るけれども。


「二打点(約3時間)ですね」

「……長いじゃないですか」

 寝落ちしそう。


「いえいえ。合計で二打点なんです。直接会って、手を握り合って『★伝心☆』の『神聖術法』で繋がった者同士が、接続と遮断をこまめに行いながら……の合計二打点なんです」

「かなり、面倒なんですね?」

 なんか例える物が見当たらない感じだ。なんだそれ? でも「手を握り合う」とか『合体魔法』みたい。


「普通の『魔法』だって、二打点で消えちゃうでしょう?」

 話を聞いていたらしい。ミーヨが言った。

 確かに『この世界』の『魔法』の「仕様」で、時限タイマー式に勝手に停止するのだ。


「叔母に言わせると『てれふぉん・かーど』みたいな感じだそうですよ」

 元・日本人の『前世の記憶』を持つというシンシアさんの叔母さんか……。


「……そーなんですか」

 そう言えば、昔あったな。テレカ。テレフォン・カード。懐かしい。

 あらかじめ決められたポイントを消費しちゃうと、そこで「通話終了」か。


      ◇


 さらに話を聞いたら、シンシアさんのお姉さんが『ほっかいどー』で生まれ育ったと言う『前世の記憶』持ちだった。

 さっきの「遠心分離」の話はその「現代知識チート能力(?)」……らしい。


 にしても、どこだろ? 『ほっかいどー』って。


 イヤ、まあ、心当たり……あるけど。


      ◇


 食事を終えると、俺は先日「ドロレス馬車教習所」で教わった馭者のやり方を、二人に伝授した。

 といってもミーヨは故郷のボコ村で馬を扱った経験があるらしく、主にシンシアさんに教える事になった。ミーヨは『魔法』以外ならなんでもソツなくこなす子なのだった。


「……よし。今日の練習はここまで! 今日学んだ成果は、本番で発揮するように!」


「「はい、『こーち』!」」


 二人とも、いい返事だった。


 これで、馭者を出来る子が増えた。

 みんなちょっとずつ楽になるな。

 まあ実は『馬蹄(ばてい)組合』が貸し出す『永遠の道』専用の「()き馬」は、本当に賢くて馭者が必要ないくらいなんだけれども。


「ところで、ジンくん。『俺のことはコーチと呼べ!』って言ってたから、そう呼んであげたけど……『こーち』って何? 別にえっちなことじゃないよね?」

 そのへん、妙に鋭くなってるミーヨさんから突っ込まれましたよ。


 確かに、部活モノのAVの中では、エッチなコーチもいっぱいいるだろうけれども。

 特に水泳部とかテニス部とかに。ああ、俺も就任してー(笑)。


「『コーチ』は運動競技なんかの指導者の事だな。ただ(さかのぼ)ると、ハンガリーの地名らしい」


 ウィ○で見た覚えがあるのだ。


「「『はんがりー』?」」


「板バネ付きの馬車の製造で有名な『コチ』って場所で、そこで作られた馬車はみんな『コチ』って呼ばれたらしいよ」

 馬車の馭者台で、そんなことを語ってみた。


「「……ナニソレ?」」


 ただ、異世界で『地球』のウンチクを偉そうに語ってみても、痛い「不思議ちゃん」扱いされて終わりだった(泣)。


      ◇◇◇


 その日の『駅』に着いた後で――


「むう。干し肉がない」

 ラウラ姫が嘆いていた。


 「お肉」を『錬成』しすぎて、姫のおやつが無くなっちゃったらしい。


 ――ごめんちゃい。


      ◆


 保存用の食品を、普通に食べきっちゃう事ってあるよね――ばつ×

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