052◇駅
木漏れ日が揺れる綺麗な並木道を通る。
白い石で舗装された接続路だ。そこを抜けると、同じような白い石畳の広場に出た。
これきっと『永遠の道』の端っこを切り取った「石灰岩」だろうな。つっても生物由来の「貝殻」に近い物らしいけど。
広場はだだっ広い。
元・日本人の俺の目には、無駄に感じてしまうほどの、相当な広さだ。
広場の真ん中は、噴水……じゃないな。青くて丸いプール?
イヤ、中心ほど青みが濃い。
逆三角錐の「貯水槽」のようだ。
びっくりするほど「青い」水が貯えられてる。
槽の壁面が白いせいで、そう見えてるんだろうな。
南極の短い夏に出来る雪解けの湖みたいだ。白と青の対比が眩い。
これもまたきっと、例の謎生物「ヌメヌメスベスベ」が白く塗り固めてるんだろうな……白過ぎ!
広場の周辺には、色々な建物が並んでる。
大抵は「旅行者」向けの施設らしい。
食事処や居酒屋。土産物屋。馬車を修理する工房もある。
公衆浴場に公衆『おトイレ』。それに併設された無人廃品回収所『ガチャ屋』もある。
牽き馬を扱う『馬蹄組合』の建物も目立っている。
まるっきり、牧場の厩舎みたいなカマボコ型の建物だ。シンボルは逆U字形の『(馬の)ひづめマーク』だ。
小振りだけど『全知神神殿』もあった。
あとは『道の警備隊』の詰め所なんてものもあるらしい。
そして、広場のいちばん奥の方に、馬車ごと泊まれる大きな『馬車ごと旅亭』やふつうの宿屋がたくさん並んでる。
そう、いちばん奥だ。戦略的な配置だ。
がっちり咥え込まれた上に、飲み込まれちゃってる感じだ。
その他は……ふつうの民家みたいだ。住宅地の向こう側には、農地が広がってるっぽい。
『冶金の丘』の「お向かい」にあった『駅』は、『丘』の金属加工工房で働く労働者が住む衛星都市みたいになってけど、ここも、『駅』とは直接関係なさそうな宅地が多い気もする。
近隣の農家の人が暮らしてるのかな?
とにかく、『駅』というから、なんとなく「鉄道の駅」か「道の駅」みたいなものかと思ってたけど……わりと普通に「町」だった。
でも名前を訊いたら、『北東路・上り第五駅』だった。
「町」の名前としては凄い素っ気ない。やっぱり「駅」なのね。
◇
「夜の一打点に間に合ってよかったよ」
借り物のお馬さんたちは、返却期限の「夜の一打点(午後7時ちょい前くらい)」を過ぎると、それなりな追加料金が加算されるシステムっぽい。
「これから、どんな段取りになるんスか?」
知らないので訊いてみた。
「『馬車ごと旅亭』の空いてるところに、馬車をねじ込む。すると『馬蹄組合』から馬を引き取りに来るから、その時に支払い。あ、これ預かりの札だ」
説明し終わると、プリムローズさんは俺に、なにか金属板を渡して寄こした。
手のひらに収まる大きさの、丸みをおびた銀色の軽い金属板だった。
小判みたいなカタチだ。紐を通すための穴が開いてるけど。
手にしてみると――軽い。
「こ、これって!」
「どうしたの、ジンくん?」
「――『アルミニウム』だ!!」
俺は叫んでいた。
それは、俺が『冶金の丘』での最後の夜に探し回って、見つからなかったものだった。
「プリムローズさん、これどこで……って、ああ、馬の預かり札か……これ、貰っちゃダメですかね?」
「ダメに決まってる。ところで、なんでそんなものが欲しいんだ?」
プリムローズさんが、特に興味もなさそうに言う。
異世界で、精錬に大量の電気が必要なアルミニウムって珍しいと思うんだけど……気にしてないのね? 『この世界』って電気関連のインフラないのに。
「ああ、『軽い銀』ですね。『銀の都』の特産品です」
意外な事に、ロザリンダ嬢が詳しかった。
『銀の都』って『女王国』南西部にある大都市のハズだ。
そんで、アルミニウムが『この世界』じゃ『軽い銀』って呼ばれてるのか?
鉄の三分の一くらいの重さだしな。でも『地球』だと「アルミニウム」って化合物の「明礬」から名前つけられてるんじゃなかったっけ?
『進撃の○人』のアル○ンから補給可能な栄養素(笑)って意味じゃないよな?
「ご存知なんですか? ロザリンダさま。これってその『銀の都』で買えるんですか?」
俺がそう言うと、『七人の巫女』の一人ロザリンダ嬢は皮肉な感じに口元をゆがめた。
「いいえ、『王都』で『期間限定』で買えますよ」
意味ありげな表情だ。
「どういう事ですか?」
「これと同じもので作られた『銀の円盤』がもうすぐ買えます」
からかうような感じだ。てか円盤?
「つまり?」
「知りたいですか?」
「ハイ。是非、お願いします」
「では教えて差し上げましょう。もうすぐ『王都』で行われる『巫女選挙』の投票券が『銀の円盤』なのです」
ロザリンダ嬢はそう言って、胸を張った。
なんか自身の巨乳を自慢してるように見えなくもない。
えーっと、つまり『銀の円盤』ってA○B総選挙のCDにあたるものなのか?
……ちょっと違うか。
アレは同梱されてる投票券に、何桁かの数字とアルファベットが書いてあって、QRコードを読み込んで進む専用のサイトでそれを……イヤ、そっちの選挙はいいか。異世界からじゃ投票できないし。てか、もうやってないんだっけ?
「……『巫女選挙』の投票券ですか」
俺は、その選挙に出るために『王都』に向かう『巫女見習い』を見つめた。
「……」
黒髪の美少女シンシアさんが、ちょっと困ったような顔で、静かに微笑んでいる。
――実弾がいるな。大量に。
「ところで、お兄さん。何するんですか? その金属」
ドロレスちゃんから訊ねられた。
「イヤ、実は……」
アルミニウム(が酸化したアルミナ)って、ルビーとかサファイア……「コランダム(硬玉)」の原料なんだけど……キラキラした『宝石』の、その正体を知ってどうなるんだろう?
別に誰も気にしないかな。『地球』の女性だってそうだしね。
「材料と言うか……」
俺が迷って言い淀んでいると、
「空きがありましたので、馬車を入れます」
馭者台からそんな声がした。
『馬車ごと旅亭』一階の、車庫部分に突入したらしい。車内が暗くなった。
◇
『馬車ごと旅亭』は、その名の通り、馬車ごと宿泊可能だ。
建物の一階部分が、馬車を納める車庫になっていて、その上の二階部分が客室という簡素な宿だそうだ。
食事も出ないし、お風呂もないらしい。『おトイレ』はあるらしいけど。
「駐車場」と「宿」は別にすればいいのにと思うけど……「馬車の盗難防止」と「夜半過ぎの強風」対策のためこんな構造らしい。
そんで、どれも同じ構造なので、選ぶだけムダだそうな。
たぶん、空いてるとこに適当に突っ込んだんだろうな。
「★励光☆」
プリムローズさんが、車内の『水灯』を点けてくれた。
ちなみに『水灯』そのものは、ピンポン玉くらいの大きさのガラス球だ。
その中の謎の発光液体が、滲むように青白い光を放ち始める。毎回思うけど『地球』の満月みたいな光だ。
イヤ、「謎」じゃなくて、その液体の正体は『女体樹』の「ヒカリちゃん」って言う生物から非人道的な方法で採取する「体液」だって、シンシアさんから教えてもらったっけ。
「じゃ、降りよっかー」
ミーヨが言うと、みんながそれに続く。
出入り扉から車外に出ると、みんなして同じように両手でぐーんと背伸びしてる。そんなに窮屈だった?
「あーあ、馬車の見張り番は私とドロレスかー」
プリムローズさんが、ぶつぶつと嘆いてる。
盗難の危険は無くても、一応見張り番は置いておくものらしい。
「あれ、シンシアはどっちに賭けたんだっけ?」
先刻、ドロレスちゃんのフリをしたラウラ姫を、俺が見抜けるかどうかを賭けてたらしいんだよな。
「ですから、18歳未満は飲酒賭け事禁止です」
黒髪の天使シンシアさんは、風紀委員のようだった。それとも委員長か? はたまた生徒会長か?
ちなみに『この世界』に「タバコ」は無い。なので「喫煙」やら「禁煙」の概念が無い。
俺は『前世』で吸ってなかったから苦痛でもなんでもないけれども。
てか『この世界』で目覚めた最初の記憶が、なんか違うもん吸わされた気が……。
「真面目だなー。ま、いいか。上で寝なよ」
ひらひらと手を振って見送られた。
馬車から降りると、『馬蹄組合』の使いらしい人が来ていた。
「ちわーす。『組合』のもんす。馬引き取りに来ました。あと支払いお願いしやす」
俺くらいの年の少年だった。
「ども、ご苦労さん」
俺は馬車の中でミーヨから受け取っていたお金と、アルミの預かり札を持って、彼のところに行く。
「女の人ばっかりのとこで、下働きっすか? 大変すね」
「……(うぐっ)」
話のついでにそう言われて、言葉に詰まる。
女性10人の中に男一人だと、下働きの下男みたいに見えるのか……ショックだ。
まあ、俺とミーヨ。ラウラ姫。プリムローズさん。シンシアさん。ロザリンダ嬢……くらいまでなら、「俺様ハーレム」感ハンパないけど、そこに子供3人(ドロレスちゃんもまだ12歳なのだ)と大人2人の女性が加わると……なんか正体不明な大所帯になっちゃうもんな。
しょっぱい気分で、支払いを済ませて、馬が連れていかれるのを見送った。
一日の借り馬代は、二頭セットで『明星金貨』1枚。
日本円で5万円くらいだ。高いのか安いのかよく分からない。
でも、藤沢から新神戸まで往復で約3万円だっけ?
夜行バスでもその半分だっけ?
『Just Bec○se!』だっけ?
元素記号「au」って金だっけ?
こっちの「葉月」は、チューバじゃなくてトランペットだっけ?
◇
でも、「麗奈」のトランペットは、金色じゃなくて銀色だったよな。
先生はトロンボーンだっけ? お姉ちゃんもだっけ?
そんな事を考えてると――
「宿代は前払いで『月面銀貨』3枚だって」
ミーヨから、そう告げられた。
こっちは2万円いかない。馬車の駐車料金込みだと思うと、安く感じる。
部屋に入ってみると、広い大部屋だった。
寝台が12もあった。何かの映画で見た寄宿舎か、野戦病院みたい。
「「祈願。★清掃っ☆」」
メイドのマルカさんとジリーさんが、『魔法』でベッド・メーキングしてくれている。
安い代わりに食事は出ない「素泊まり」だもんな。ここもセルフサービス式か……。
『この世界』では、空が夕焼け色に染まると、謎の『魔法停止現象』が発生する。
今はちょうど日が傾いて、ギリギリの時間帯なので、二人とも急いでるみたいだ。
てか『女王国』の第三王女殿下も、ここで雑魚寝みたいに寝るのか?
それでいいのか?
「ジン!」
ちょうどそのラウラ姫が、かまって欲しいらしく、俺の方にトテトテやって来た。
筆頭侍女も妹君もいないもんな。
「お腹空いた」
子供みたいに言われた。新造した佩刀が泣くよ?
「あ、食べ物、預かってるよ。姫ちゃん」
ミーヨが気安い。
「うむ(にっこり)」
ラウラ姫が容易い。
◇
日は沈んでしまったけど、その残照で室内がオレンジ色だ。
思いっきり西日の射しこむ場所だったのだ。
部屋の端にあったテーブルに、昼間立ち寄った「馬車溜まり」で買い込んだものらしい食べ物を並べて、みんなで夕食を摂る。
「開封いたします」
丸齧りさんだ。マルカさんか、ジリーさんのどっちかだ。
そう言って、何かすると、テーブルの上のお鍋から、お星さまが散ってゆく。
『魔法』の虹色のキラキラ星だ。
何をどうしたんだろう? 『夕焼け空の魔法停止現象』発生中なのに。
どうやら『魔法』を使えない状況でも、それを解除する『魔法道具』があるらしい。
「風と水と大地と火と星と人に感謝を。いただきます」
『神殿』の『巫女見習い』シンシアさんが、正式な「いただきます」を唱える。
ただ、いつもよりちょっと早口だった。お腹空いてるみたいだ(笑)。
「うむ。いただこう」
ラウラ姫が、『この世界』特有の「船型食器」に盛られた煮込みを食べ始めた。
マジカル・ラッピング『★密封☆』で鍋ごと封じ込めてあった煮込み料理は、食べてみると妙に生ぬるいのが、ちょっと怖い。
密封された時のまま、保温されてたのかな?
「……(真剣)」
ミーヨが「パン切り用まな板」の上でパンを切り分けてる。
何故か、それは彼女の「職分」みたいになっちゃってるのだ。パン切りのスペシャリストなのだ。
「どうぞ」
切り終わると、集中を解いて、ほっとしたような笑顔でみんなにパンを配ってる。
なんとなくパンに見覚えがあったので訊いてみたら、今朝早く、俺が知らないあいだにパン工房のスウさんから貰ったものらしい。
情の篤い女性だ。いい男が見つかるように、祈っておいてあげようっと。
「ちゃ、どぞ」
そのスウさんのパン工房から脱走(?)して俺たちの一行に加わった猫耳奴隷のセシリアが、『赤茶』の入った大きなティーポットを持って来た。
一応カタチだけは、俺の「個人所有の獣耳奴隷」なんだけれども……みんなに共有の小間使いみたいに、こき使われてしまっているらしい。可哀相に。
「……うむ」
煮込みを完食(え? もう?)したラウラ姫が、夕陽みたいな色の、マーマレードみたいな感じのジャムを、たっぷりとパンに塗って食べ始めた。
それを見て……ふと思った。
俺の右目の魔眼『光眼』の「発光」でなら、この『夕焼け空の魔法停止現象』を人為的に発生させられるかもしれない。
単純に、オレンジ色の可視光線を再現出来ればいいわけだし、その領域の電磁波なら、生物には無害なはずだ。
それで『魔法』の無力化が可能になれば……またまた俺様の無敵度がUPしてしまうな。
どうせならそんなのよりも、男性としての素敵度をUPしたいけれども。
そしてこんなダジャレ考えてる時点で、あんまり素敵じゃないけれども……。
とにかく、機会があれば、ミーヨ先生と特訓してみようっと。
それはそれとして、やっぱり『魔法』がないと不便だ。
聞いたら『魔法』で「ガスバーナー」みたいな事も出来るそうなのに。
せめて「燻製塩漬け豚肉」くらいはカリカリに炙って食べたいのに。
『ゆる○ャン△』で志摩○ンが通販で買ってた「メタル賽銭箱」が欲しい(笑)。
「……(くう~、きゅるるるる)」
お腹の鳴る音がした。
見ると、セシリアが切なそうな表情だ。お腹空いてんだな。
「セシリアも一緒に食べな」
俺が何気なく言うと、
「同席はいけません!」
ロザリンダ嬢にキツく拒否された。不快そうに眉をしかめてる。
「イヤ、だって……」
「彼女のためでもあります」
メイドの(たぶん)ジリーさんにも注意された。
悪意は感じない。『この世界』の「常識」に従ってるだけみたいだ。
「いい。あた、あち、いる」
セシリアは下に降りていった。馬車で寝る気か?
「「「……」」」
ロザリンダ嬢だけでなく、二人のメイドさんも当然という顔をしている。
「「…………」」
何も言えないシンシアさんとヒサヤが気まずそうだ。
二人とも複雑な心情を抱えてるに違いないのだ。
シンシアさんは『この世界』では『奴隷の印』とされている「蒙古斑」がついて産まれたけど、獣耳奴隷の制度が無い『東の円』で幼少時を暮らした事で、奴隷化を免れている。
そしてヒサヤは、『癒し手』として「覚醒」した事で、獣耳奴隷の身分から解放されてる。ただ、『神殿』の『巫女見習い』として生きる事を、半分強制されてるけれども。
「可哀想じゃないっスか。まだ子供なのに」
そう言ってみた。
「どうしてです? 彼らは『前世の罪人』として『印』がついて生まれて来たのですよ」
ロザリンダ嬢から冷たく言われた。
現状、「それ」を「でっち上げ」だと証明する方法が無いんだよな。
獣耳奴隷を普通の子として扱っている俺は、他の人たちから奇異に見られてる気がする。
元は日本人としての『前世の記憶』と意識を持つ転生者の俺からすると、「蒙古斑」があるという理由で……17世紀あたりの日本人を先祖に持つであろうセシリアが、奴隷扱いされてるのが腹立たしい。
プリムローズさんが、『この世界』の奴隷制度を毛嫌いしているのが俺にも分かって来た。
……てか、シリアス展開が辛いっス。
とりあえず脱いじゃダメ(笑)?
◇
みんなは食事を済ませると、公衆浴場に行ってしまった。
当然、脱いでるだろうな……。いいなあ。
でも旅の仲間の中で、男は俺一人。
覗きに行こうと誘ってくれる悪友も神様もいないのだ。……って神様?
ま、それはそれとして、
「一体いつ、誰が、この獣耳奴隷の制度を作ったんスか?」
先日、中途半端になってしまった話を、プリムローズさんに訊いてみた。
「初代の国王だよ」
そう教えてくれた。ちなみにここは『俺の馬車』の中だ。
「そうなんスか?」
ラウラ姫やドロレスちゃんのご先祖様だった。……やれやれ。
――でも、その子孫の二人に、獣耳奴隷に対する差別意識が殆どないのが、一体何の皮肉やら……。
「約400年前に疫病で人口が減った後で、新たに地球から連れて……違うか。『こぴー』して来て『ぺーすと』したって言ってたね。神様たちは」
「ええ」
俺は先を聴きたかったので、短く相づちをうった。
「ちょうど地球じゃ『大航海時代』の頃だから、『よーろっぱ』から一獲千金を夢見て新大陸に渡ろうとしていた連中がいてね。その連中が『この世界』で暴れて……いくつかの都市国家を征服するかたちで『王国』を建国たんだよ」
「……」
プリムローズさんはそう言うけど、俺には『地球』と『この世界』の時間軸が並列にシンクロしてるとは思えない。名前は似てるけど。
俺たちが『地球』で死んだ時期+『この世界』で生きた年数イコール『地球』の西暦年じゃないと思う。
ホントに『地球』って、いま現在どうなってる事やら。
そして『全知全能神』ってどうやって『地球』まで行ったんだろ?
いわゆる「ワープ」って空間を歪めるんだったっけか?
歪み――か。
『て○きゅう』8期の主題歌で、どうしても「~きった時空」が「~きった◎首」にしか聞こえない空耳な瞬間があるけど……それは今はいいか。
「まるで『コンキスタドール』じゃないっスか?」
「だね。時代はちょっとズレるけど」
やっぱり『宇宙』レベルでは、考えてない気もする。
でも、それはそれとして……『地球』のアメリカ大陸で、インカやアステカを滅ぼしたような連中が、『この世界』に「コピペ」されたのか……。てか、その連中の「オリジナル」も、地球でなんかしでかしてそうだ。
「その後からだね。『蒙古斑』を『奴隷の印』と称して、奴隷制度を創出したのは……詐欺もいいとこだけど」
プリムローズさんは心底不愉快そうな表情だ。
ネイティブ・アメリカンは大きく括ればモンゴロイドだし、大西洋の三角貿易『奴隷貿易』が当時もう存在していたのか知らないけど……無理矢理に、色々とこじつけたのかな?
イヤ、待てよ。
「たしか安土桃山時代に、日本人が奴隷として海外に売られたのがきっかけで、豊臣秀吉が『切支丹禁令』だか『バテレン追放令』を発布したとか言う話があったような」
俺が言うと、
「うん。ソレ、実はウチのご先祖らしいんだ。日本人奴隷ごと『この世界』にやって来たらしいんだよ」
プリムローズさんはバツが悪そうに告白した。
「……そうだったんですか」
その子孫に、元・日本人の『前世の記憶』を持つプリムローズさんが転生しちゃったわけか。なんて因果な話だ。
「うん。そう言う事もあってね。私としては何としてでも『奴隷制度』なんてものを廃止したいと考えてる。すぐには無理でも、必ず、ね」
決意は堅そうだ。
「プリムローズさんはどうやったら、この制度を廃止出来ると考えてるんスか?」
「もともと王様からの『とっぷだうん』で始まった事だから、止めさせるのにも『とっぷだうん』が必要だと思うよ」
久々なのか、topdownが言いにくそうだった。
「つまり、そのためにもラウラ姫を次の女王に即かせると?」
「いや、それは本人次第だから」
最後は言葉を濁した。
でも表情からは、それに近い事を企んでるっぽい。
「『この世界』でいろいろな謀略を仕掛けようったって、もともと私は前世ではただの一般庶民だったしね。君だってそうでしょ?」
事実なんだろうけど、なんとなく言い訳がましい。
「そうっスね」
俺は「小市民」ですが。
「それに『女王国』だけで『奴隷制度廃止宣言』をしたところで、本当に無くなるかどうか……」
「どういう事っスか?」
「なんだかんだで、まったく同じ制度が、『北の帝国』や『西の七国』や南方にも広まってるのよ。嘆かわしいことに」
『北の帝国』はともかく、西野七……イヤ、『西の七国』ってのが、今ひとつピンと来ないな。
七つの独立国家なのか、七か国の連邦なのか?
「東は……シンシアさんが育ったって言う『東の円』か」
俺の呟きに、プリムローズさんがつなげる。
「こんな制度を続けてたら、『逃亡奴隷』によって拓かれた『東の円』とは諍いが絶えないだろうな。向こう、意外と人口多いらしいんだよ。聞いたところによると、『泥の中で育つムギ』があるらしい。こっちのムギの何倍も収穫量があるらしいよ」
――泥の中で育つムギ?
「……それって『米』なんじゃないんスか?」
俺が指摘すると、
「……言われてみれば……そうかも。ああ、泥の中って『水田』かー」
今更ながらに、プリムローズさんも気付いたようだった。
「ああ、白米のご飯に『玉子かけ』とか……」
そんな事を言って、遠い目をしてる。
見た目が赤毛で、コーカソイド系の水色の瞳の美少女だけに、言ってる事との違和感がハンパない。
「あとでシンシアさんに聞いてみます」
「おお、そうしてくれ」
シンシアさんと話すいいネタが出来た。
「「おにさ」」
そこに、ドロレスちゃんに手を引かれて、セシリアがおトイレから戻って来た。
外はもう暗いので、トイレに行くにも『★光球☆』がいるのだった。
獣耳奴隷のセシリアは、まともなやり方では『★後始末☆』の『魔法』が使えない――あのあと、ちょっと試したけど、俺と手を繋がないと発動しないのが分かったのだ。
「食べ物持って来たから、食べてね」
「「あい!」」
二人でそう言われた。
前から思ってたけど、ドロレスちゃんって必ず誰かの物真似するよな。
もともとは『女王国』の第七王女なのに。
ん? そう言えば……。
「話は戻りますけど、建国が約400年前なんスか? 『女王国』って出来て300年じゃ?」
なんかズレてるな。
「それは誤解がある。前にも話しただろ? 同じ国なんだよ。最初の王朝『かすてら・のばぁ』の直系男子が絶えて、一度断絶してね。他所に嫁いでいた傍系のお姫様が女王に即位したんだよ。それが約300年前」
「……ああ」
そう言えば、その継承権問題で『北の帝国』と仲が悪いらしいんだった。
「その初代女王に『ヘルメス・トリスメギストス』っていう名の切れ者の側近というか謀臣が居てね」
「……え?」
どっかで聞いたような名前だな……ヘルメス。
たしか、ベ○君を「男のロマン(=覗き)」に誘った神様の名前が……って『ダン○ち』だな。それ。
「ところで……『女王国』の王家の男子は、16歳になると『全知全能神神殿』の大岩に刺さった『選王剣』に挑む『選王剣・抜刀の儀』を行い、失敗すると、王位に即けなくなる。それは知ってるよね?」
いったん話を切って、そんな事を質問された。
「アーサー王伝説みたいなヤツですよね? 『聖剣』引っこ抜く」
「引っこ抜く……って、山芋じゃないんだから……ああ、白米のご飯に『とろろ』かけとか……いや、押し麦入りの『麦飯』じゃないと……ああ」
そんな事を言って、遠い目をしてる。またかよ?
「とにかく、その『ヘルメス・トリスメギストス』って人物が『選王剣』の制度をでっち上げたらしいよ。男が王位につけないように。なかなか大掛かりな陰謀だね」
「でっち上げ? 陰謀?」
そんな気はしてたけど、やっぱりそうなん?
わざわざ「男」を王位から遠ざけるための陰謀が『選王剣』?
「でも、ヘルメス・トリス……ってなんか聞いたことがある気が……」
俺がそう呟くと、
「『錬金術』では有名な名前だよね? まあ、こっちのヘルメスさんは女性だったそうだし、完全に偽名だろうけど。すごい策士で陰謀好きだったらしいよ」
きっとプリムローズさんみたいな人だったんじゃないんですか? と言いたかったけど、黙ってた。怒られそうだし。
「ところで、そのヘルメス・トリス……って、どんな意味かご存知ですか?」
「『三重に偉大なヘルメス』とかいう意味じゃなかったかな」
もっと詳しく聞きたかったけど……ここで話が脱線した。
「ところで、君って体内に埋め込まれた『賢者の玉』で、肉体改造を行ったそうだね?」
「はあ、まあ」
やっぱり、ミーヨから聞いたんだろうな……。
あとでまた「ぜんぜん痛くない体罰」だな(笑)。
「で、いろいろなものが1.5倍になった」
「はあ、まあ」
「君の、もともと2つあるべき部位に1つだけ……そのせいで本来『三重に偉大』になるはずが、半分の1.5倍になったんじゃないの?」
プリムローズさんが愉快そうだ。ニヤニヤ笑ってる。
「…………」
そして俺は不愉快だ。『境○の彼方』の眼鏡っ子の栗山さんみたいにハッキリ「不愉快です」とは口に出しては言えないけれども。
「俺、もう上行って寝ます。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ(ニヤニヤ)」
半笑いだ。
ク○ー、いつか、仕返ししてやるっ。
『とろろ』が好きなら、白くてドロドロした……イヤ、自粛。
◆
時代によって言葉の意味も変化する――まる。




