051◇包み込むやさしさ [※ちょい足し版※]
「ちくしょう! 覚えてやがれ!!」
俺はそう言って、巫女系三人娘を庇いつつ、後退する。
「「「「なんで、お前がそれを言う!?」」」」
もっともな質問だ。なんでやろ?
そんなんはいいとして、黒尽くめの男たちも、退き時とみたのか駆け出した。
木立に繋いであった馬に飛び乗ると、ゆるい丘が続く放牧地の方へ逃げ去った。
ワン! ワン!! ワン! ワン!!
牧羊犬みたいな犬に吠えられてる。……噛まれればいいのに。
で、どんどん遠ざかっていく。
オフロード・バイクでもないと、もう追いかけられそうもないな。
関係無いけど……草原の遊牧民がバイク乗ってたり、氷原の少数民族がスノーモービル乗ってたりすると、なんかガッカリするよなあ……。
連中を見送りながら、ぼんやりとそんなことを思ったよ。
――で、結局は逃亡をゆるしてしまった。
一連の騒ぎの跡には、灼き切られた縄と、俺が着ていたトガとパンツの「燃えカス」が残っていた。
そして、それを食べに、どこからともなく子供のゴロゴロダンゴムシが数匹やって来た。おなじ「黒尽くめ」でも、こっちは、なにやら健気だ。
……そんなんでいいなら、たんとお食べ。
心の中で、そっと声をかけたよ。
◇
「お三方とも、お怪我はありませんか?」
俺は、シンシアさんとヒサヤとロザリンダ嬢の方を振り返って、訊ねた。
イヤ、状況から言って、ぜんぜん無事なのは判ってはいるけれども。
「あ、見えます。お兄様。丸見えです」
ヒサヤが、両手で顔を覆いながら言う。
でも、指の隙間から、いたいけな明るいブラウンの瞳が見えてるぞ? 君は、『ゴールデンカ○イ』のアシ○パさんか? ただし、アシ○パさんは青い瞳だよ。
「……(凝視)」
ロザリンダ嬢は言葉を失って、呆然と俺を見ていた。
いい機会だとでも思っているのか、ガン見だった。
まあ、俺様も男だ。見るが良い。ほれ。
「ジンさん。今のは……先刻の『道』の?」
シンシアさんは慣れてるらしく、冷静だ。
目と目を合わせながら、そんなことを訊かれた。
「分かりません。しかし、狙われていたのは俺でした」
「理由は……『石』ですか?」
ここで、シンシアさんの視線が下がった。なんか嬉しいのはなぜ?
「たぶん」
「そうですか」
シンシアさんは、こくん、と頷いた。
彼女の理解の速さが、今まで築き上げて来た俺たちの絆というか「親密度の深さ」にイコールなんだろうな、と思うと嬉しかった。
だからだろうか?
――不意に、昨夜の事を思い出してしまった。
はっきり言うと、シンシアさんの白い裸体だ。
……イヤ、ミーヨのお笑い魔法で発動された「謎の白い光」で、最重要ポイントは見れなかったけれども。
それでも、ついつい△△してしまった。てへ。
「え!? えっ? えっ?」
ロザリンダ嬢が、予想外に驚愕している?
見たことないんだろうか? ああ、『巫女』や『巫女見習い』は恋愛禁止だっけ。
「わ――――っ」
ヒサヤは年相応な、邪念のない純真な驚き方だった。
「ジンさん! ダメです」
シンシアさんが、どうにか隠そうとして慌てているけど、『神殿』の『巫女見習い』としての「戒律」があるらしく、アタフタするだけだった。そんな姿も、レアで可愛いぜ。
「ああ、もう!」
思いきって、全裸の俺に抱きついて隠そうとしたのか、一歩踏み込んで来た。
――その時だった。
「祈願。★おむつっ☆」
そんな声がしたので、そちらに目が行く。
見ると、虹色にキラめく『魔法』のキラキラ星と共に、一枚の白くて「長――い布」が、空を飛んで来た。めっちゃ長い。
……なんか、こんな「妖怪」いたよなー。
なんて名前だっけ? 「一反木綿」? でも、俺が知ってるのは黒かったな。そして人間に変身可能だった。
で、その「長――い布」は、俺の股間に、しゅるしゅるしゅるっ、と巻きついて、俺様の俺様を包み隠してしまった。
――まるで、オムツのように。
「ふ――っ、危なかった!」
ミーヨだ。おでこの汗を拭うフリをしてる。
小芝居もいいとこだ。ぜんぜんテカってないし。
「まさか、こんなところで将来のために覚えておいた『育児魔法』が役に立つとは思わなかったよ」
『育児魔法』……って、そんなのあるんだ?
「しかも、赤ちゃんより先に、お父さんに使うとは思ってもなかったよ」
なんか、俺様の子を妊娠中みたいな事を言うなよ。
正直、めっちゃ身に覚えはあるけれども……。
「……ジンくん。また罰金だね」
ミーヨが俺に同情するように言う。
てか、同情するなら金とるな!
「おにさ、あかぼー、みたい」
猫耳奴隷のセシリアだ。
それって、「赤い棒見たい」って意味じゃないよね? オムツしてるから「赤ん坊みたい」って事だよね?
てか、みんなして俺を探しに来たのかな?
あ、そーみたい。
他の三人の姿を見せた。
「あ、いました。お兄さ――ん! おおっ、またまた奇天烈な格好ですねぇ!」
ドロレスちゃんだ。手に串焼きを持ってる。
俺の分かな? と思ったら、躊躇いなく自分で食べ出した。
「は、む!?」
ラウラ姫も串焼きを食べながら、俺様の華麗じゃない変身に驚いているようだった。
「ぷっ……あはははは。なんだ? ジン。その恰好は……あはははは」
プリムローズさんは、ツボに入ると笑いを堪えられない人らしい。
「ぶわっははははははははははは」
その後も、しばらくのあいだ爆笑され続けた(泣)。
◇
第2回緊急車内会議だ。
「男の先……いえ、先程の男たちは一体なんだったのです? ……(ちらっ)」
いろんな驚愕から立ち直ったらしいロザリンダ嬢から、そう訊かれた。
この女性、俺のオムツ姿をいちいちチラ見するので、ちょっと気恥ずかしい。
いろいろ事情を聞いてみたら、俺が居なくなってから、10ツン(地球の10分くらいだ)以上経っても戻って来ないので、みんなで『じゃんけん』をして、敗けたチームが探しに行く事になったらしい。
今回は、どんな「掛け声」で、『じゃんけん』したんだろう?
何かのアニメで、「チッケッタ」とか「じゃんけんもってすっちゃんほい」とか「じゃんけんじゃがいもさつまいも」とか聞いたことあるな。
ま、それはそれとして、ロザリンダ嬢が敗北してしまったがために、「神殿組」が捜索の任に当たっていたところ、俺が「ちん○」をグルグル振り……じゃなくて、「俺様の雄姿」を見つけたらしい。
どうやら、ロザリンダ嬢。
『じゃんけん』が、ものすごく弱いらしいのだ。
「人攫いです。狙いは俺でした。この通り、無事でしたけど」
俺は、なるべく深刻にならないように気をつけながら、軽い調子で言った。
正直、●(気体)でもなかったしな。
俺一人ならば、『光眼』や『錬金術』を使った脱出方法がいくつかある。
なので、まったく平気だ。なんなら、もっと色々と披露したいくらいだ。脱獄が得意な『脱●(固体)王』と勝負したいくらいだ。
「あの……グルグル振り回していたのは……なにか怒りの表現なのですか?」
美人のロザリンダ嬢に、真顔でそんな事を訊かれた。
先刻は、俺様得意のプロペラ・ダンスまで見られちゃったからな。
アレを見ちゃったのは『巫女』の「戒律」に違反してるんじゃないのかと思うんだけど……いいのか?
でも、それを言ったら、シンシアさんもだな。
色々とやらかしてるな、俺。
「服が燃えてしまって、熱かったんです。ロザリンダさまには、俺がグルグル振り回してるように見えたんですか?」
逆に、問いつめてみた(笑)。
「……い、いえ。別に、そんなわけでは」
めっちゃ動揺してるな。
まあ、実はグルグル振り回してましたけどね(笑)。
「…………」
ふと、シンシアさんと目が合うと、可愛い三日月目になってる。
声を出さずに、笑ってるのだ。
「おにさ、しり、われ、なに、され、るの?」
セシリアの、「奴隷の証」として人前では取ってはいけないらしい「猫耳」が、本物のように震えていた。イヤ、それよりも……。
「いま、なんて言ったの?」
「お兄様が攫われて、奴隷にされるのではないか、と心配しています」
ヒサヤが、セシリアの言葉を意訳してくれた。
そう言う意味だったのか……。
俺の耳には、微妙にヘンな風に聞こえてたけどな。
そんで、そんなにまで心配されてたのか?
10歳ちょっとのちびっ子たちを、いつまでも不安にさせとくわけにはいかないな。
「大丈夫だよ。攫われそうになっただけで、こうして平気でいるだろ?」
「……あい」
もう、みんなにも断っておこう。
「俺のせいで、今後も何か危ない事があるかもしれない。でも、俺が何とかして、みんなに危害が及ばないようにするから、安心して」
そんな事を言ってみた。
「「「「…………」」」」
困った事に、みんなノーリアクションだ。
「とりあえず……ごめん」
ついつい謝ってしまった。我ながら「小市民」だ。
心の中で、「それと、色々とセク○ラじみた事して、ごめんちゃい」と付け加えておく。
伝わらないだろうけど……。
「「「「…………」」」」
なにか驚かれてるような反応だ。
『この世界』って、男が謝ったり、頭下げたりしちゃダメなのか?
右隣りに来たミーヨが、俺の耳元で、俺にだけ聞こえるように言った。
「わたしが悪かったんだよ。あの骨董品店で、出発の日とか、『王都』に行くとか、言っちゃったから……」
珍しく、落ち込んでるな。
「気にすんな。どっちにしろ、あとを尾行られてたからな。お前のせいじゃないよ」
励ますために色々してやりたかったけど……人目があるしな。
「くすくす……今後も……ぷっ……狙われるだろうね……ぶっくく」
プリムローズさんが笑いを堪え……きれてない。この人は……。
「「「「……(くすくす)」」」」
見ると、みなさんも半笑いのようですけど?
まあね、大の男が「オムツ姿」だもんね? そりゃ、笑われるよね(泣)。
◇
いつまでも「オムツ姿」でいる羞恥プレイに耐えられなくなってきたので、ミーヨに似たような布をもう一枚貰って、短い「トガ」風に体に巻き付けたよ。
「先ほど逃げたのは四騎。ですが、『道』では八騎でしたよね?」
シンシアさんが、疑問点を上げた。
出走数の違いは、ゲートでのトラブルとかではないしな。
「俺の勘なんですけど……別腹……イヤ、別口な気がするです。あの二件」
お菓子を頬張るラウラ姫が横目に入ったので、素で言い間違えたよ。
「この『馬車』を狙っている勢力が、いくつもあると?」
シンシアさんが落ち着いた様子で、怖い事を言う。
「うむ。私も狙われているだろう。ただ、私の場合は生命を奪われるだろうな。私が死ねば『下』が繰り上がる故」
ラウラ姫が、淡々とした様子で、自分の生死にかかわる事を口にする。
「「「「……!」」」」
みんな驚いてるし。
達観しているというか……どんな死生観してるんだ?
でも、実は姫も、二番目のお姉さんが亡くなったがために、「四番目」から女王を補佐する『三人の王女』の一人に「繰り上がった」のだ。
姫が剣術に熱心なのは、「護身」がいちばんの理由なのかも。
「ご安心を、殿下。わたくしどもがおります」
「うむ。心強い」
プリムローズさんが真剣な表情で言うと、ラウラ姫は笑顔をみせた。
俺も、こんな感じの「大物感」出したいけど……元が「小市民」だしなー。
そんな事を考えてると――
「ところで……」
ドロレスちゃんが、ふいに何かを思い出したかのように――
「ウチのお爺ちゃんが、『馬車』の護衛のために、騎馬を何騎か出してくれてて……『道』で合流する予定だったんですけど、それらしい人たちは見かけませんでしたか?」
そんな事を言いだした。
「「「「「…………」」」」」
見かけたよ。
そんで、『魔法』で弾き飛ばしちゃったよ……とは言えない。
◇
ドロレスちゃんの話によると――
俺たちが、セシリアやヒサヤと出会うきっかけになった『奴隷脱走事件』のウラで暗躍していた違法な『落とし屋』を追捕するために、『冶金の丘』の「代官屋敷」から派遣された騎馬隊だったらしい。
結局、その犯人は取り逃してしまい、帰還途中に新たな命令を受けて、『馬車』の……と言うか、『代官』閣下の孫娘である、ラウラ姫とドロレスちゃんの護衛にあたる手筈になっていたらしい。
ちなみに、『黒備え』と言う名の精鋭の騎馬隊だったらしい。
で、プリムローズさんは、「黒備え」と聞いて――
「まるで、ジョヴァンニやな」
「『銀河鉄○の夜』っスか?」
「いや、イタリアのフィレンツェのメディチ家のひとだよ。ジョヴァンニ・ディッレ・バンデ・ネーレ」
最後の「ネーレ」が「黒」という意味らしい。
ならば「ゼーレ」はどんな意味だっけ?
「それと、日本の『赤備え』と言えば、『真田家』だね」
プリムローズさん。いわゆる「歴女」らしい。
でも、言わせてもらえば、『ヤ○ト』の真田さんの艦内服は「白」だったよ。でも、『2202』では黒だったよ。そんで、『銀○鉄道の夜』では、ジョバンニは「猫」だったよ。
ま、それはそれとして、マルカさんとジリーさんの二人は、その騎馬隊と合流するという話をまったく知らなかったらしい。
騎馬隊の接近をいち早く察知しておきながら、「同じ職場の同僚」とは思わなかったらしい。「ホウレンソウ」が「まるでなっちゃいない」感じだよ。
でもまあ、そんなのは今更だ。
既に、その人たちは『永遠の道』の上で発生した「謎の突風」によって、全騎落馬転倒するという事故に巻き込まれちゃったしな。
うん、アレは事故……と言う体。
なので、今後も合流とかは……ムリじゃね?
ところで、『競馬』で全部落馬するとどうなるんだっけ?
『前世』でお世話になった、競馬好きの田中さんなら知ってるだろうけど……ここは『地球』じゃないから、田中さん存在してないしな。
……ものすごく良く似た「馬耳奴隷」のおじさんならいたけれど。
そう言えば、その田中さん(※混同)が、『落とし屋』の被害者だったっけ。
◇
会議の結果。
集団での登下校……イヤ、違った。
なるべく、みんなで一緒に、集団で行動しましょう、と言う事になった。
固まってると、逆に目立つ気がするけれども……。
でも、プリムローズさんは「小集団護衛用」の『防壁魔法』が得意らしい。
先刻、過剰防衛気味に黒尽くめの騎馬隊を吹き飛ばしてしまった『★風の護円☆』とかいうヤツだろう。
術者を中心にして、その周囲を空気がグルグルと回っているらしいけど……上手く、イメージ出来ない。なんかのアプリとかの「待ち時間」みたいなグルグルかな?
……ちょっと違うか。たぶん、ぜんぜん違うな。
それと、話のついでに、プリムローズさんは黒づくめの騎馬隊を撃退させた件を告白し、ドロレスちゃんに謝罪していた。
黙ってればいいのに……意外と正直な人だな。
しばらく唖然としてたけど、ドロレスちゃんは怒りも騒ぎたてもしなかった。
姉のラウラ姫に似て、そのへん大物なのだ。
「そのうち、追いかけて来ると思いますよ」
……仕返しに来られても困るけれども。
でも、ひとつ確認しておこうっと。
「集団行動と言う事は、おトイレとか、お風呂もみんなで一緒に入るわけですか?」
どうしても気になったので、訊いてみた。
「女子はね」
代表して、簡潔に答えてくれたのは、プリムローズさんだった。
「なるほど」
俺は素直に納得した。
「だってさ、茶トラ君」
「……(すやすや)……」
オス猫の茶トラ君は、たらふく喰って、満足げに眠っていた。
普段はふてぶてしいけど、寝てるとわりと可愛い茶トラ君なのであった。
◇
旅の途中には色々ある。
「なるー」
某アニメ・キャラじゃないよ。でも、何人かいるか。
じゃなくて、目撃した光景に「なるほど」と納得したのだ。
「走りながら、商売してるよ」
「んー……何が? ああ、『店馬車』ね」
『この世界』の『店馬車』は、カマボコ型の「幌」の向きが、『地球』のそれとは90度違う。
なぜ、そうなってるのか不思議だったけれど、その理由の一端が判明した。
大きすぎて簡単には「馬車溜まり」に入って来れない『大型多輪馬車』に、食べ物を売りつけるために、横を並走しながら、商売してるのだ。
だから、「お店の顔」の部分が横向いてたのかー。
双方ともに慣れてるのか、フツーにやり取りしてる。
『大型』の方から、アクロバティックに身を乗り出して、なんか食べ物と飲み物を買って、そのまま御者台に飛び乗ってる。棒でも使えば安全そうなのに。
でも、速度は時速10㎞くらいだし、見てても、そんなにスリリングな感じはない。
『俺の馬車』にも寄って来たけど……馭者台に居る丸齧りさんたちが断ったらしい。
速度を落として、そのまま見えなくなってしまった。
◇
その後は何事もなく、『俺の馬車』は順調に進んだ。
途中、先刻と同じような「馬車溜まり」があったらしいけど、食費が心配……イヤ、安全のためスルーするように、馭者台の丸齧りさんたちにお願いした。
そんで、俺だけが昼食を食べてないことに、ここで気づいた。
それを、隣の席のミーヨに、こっそり耳打ちする。
「俺、お昼食べ損ねてるんだけど?」
「あっ……う、うんっ……んく」
ミーヨの弱点は「耳」なのだ。反応が楽しいのだ(笑)。
「……これで、いい?」
すこし潤んだ緑色の瞳で、赤くて丸いものを手渡された。
「……『ポタテ』かあ」
家畜のエサだよ。
てか、異世界初の食事がコレだったっけ。
「ま、いいか」
『錬成』すればいいし。
俺の『錬金術』は、物質の置き換えみたいな「仕様」だ。
固体Aを固体Bに。液体Cを液体Dに。気体Eを気体Fに……。
なので、「元」になる物質が必要だ。
ただ、なぜゆえに「元」が必要なのかは不明だ。
『錬成』が終わると、完全に置換されて消え去るし、必ずしも必要では無い気もする。
でも、無……ゼロからの『錬成』は、ほぼ確実に失敗する。
なので、仕方なく「仕様」として認めて、諦めてしまってる。
そもそも、誰が、どうやって、こんな事やってるのかも不明だしな。
『この世界』の『魔法』に関わる謎システム『世界の理の司』って、やっぱり、かつてこの惑星にあった超古代文明の遺産的な物なんだろうか?
『クラークの三法則』てのがある。
「高度に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」
ってやつだ。どこかしらで、聞いたことがある人も多いと思う。
俺の場合は、その2番目の精神で、物事にぶつかるしかない。
「可能性の限界を知るための唯一の方法は、不可能なまでやってみること」
ってやつだ。
……ただ、『三法則』って言っといて、1番目はまるで覚えてないし、うろ覚えだから細部が間違ってるかもしれない。そんで、何かの「三人組」って、一人だけ名前を思い出せなくなることが多い気がするなあ。
ま、それは置いといて、とにかく「トライ&エラー」だ!
失敗しても、俺って色々と「不死身」だから、平気だしな。
でも、アニメの「不死身キャラ」って、色々と不遇で不当なあつかい受けてるケースが多い気がする。他人事とは思えないよ。待遇改善を要求したいよ。
そんな事を思いながら――
家畜のエサ(泣)である「ポタテ」を、口いっぱいに頬張った。
そして、念じる。
(口内錬成。ドーナツ。オールドファッション)
それなりの間があって、
チン!
ポタテを元にした「食べ物」の『錬成』に成功した。
あっさりと成功した事に、ちょっと驚いた。
食品の『口内錬成』は初めてだったし、『この世界』にあるかどうかも判らない『地球』の食べ物だったのに。
頬っぺたが、もっこりとドーナツのカタチに膨らんでる。
(……あむっ)
噛んでみる。
うん、俺の記憶にある通りの味だ。
ドーナツだ。
小麦粉と砂糖と卵にベーキングパウダーだけで作れるシンプルな「オールドファッション」だ。あ、揚げ油もいるか。とにかく懐かしい味だ。
巨大な「データベース」みたいになってるらしい『世界の理の司』とやらに、登録されてんのかな?
ま、成功したから、細かいことはいいか。
ただな。いきなり「ソレ」が、口の中に出現するので、「食べる」という行為の楽しみの、80%くらいが失われてる気がする。
視覚・嗅覚・触覚が満たされない。
口の中の物を、ただ噛んで飲み込むだけだもんな。
「……くん……くん? 甘い匂いがしますね?」
ドロレスちゃんが、嗅ぎつけたらしい。
「お兄さん、何食べてるんですか?」
「ふぉたへぇ」
「ポタテ……にしては、本当になに? この匂い?」
ミーヨにまで不審がられてる。早く飲み込もう。
ごっくん。
「む? 菓子が減っている?」
ラウラ姫が、膝の上に乗せていた木皿を見て、悲しそうな顔をしていた。
……ああ、そういう事か?
また、やっちゃったな。
俺の『錬金術』で働く『守護の星』は、すぐにサボりたがって、近場から「材料」を持って来るのを忘れてた。
姫が「馬車溜まり」で「神殿組」が食べてたケーキ・セットを、無理矢理テイクアウトして食べてるのを見て、俺もなんかそれっぽいものを食べたくなって、ドーナツを錬成ってみたのだけれど……その「ドーナツ」の素材を、似たような材料が使われていた「姫のケーキ」から持ってきたらしい。
――やっぱ、迂闊に使っちゃダメだな。これ。
「ジン。何かやったろう? 『星』が流れたぞ」
プリムローズさんから、そう突っ込まれた。
それってきっと、『魔法』発動の最初に動く、体内常駐型の極小サイズの『守護の星』のはずだ。肉眼では見えないような「ナノマシン・サイズ」のはずなのに、そんもの、よく見えたな?
「そう言えば……すこし前に『星』が走りましたね」
シンシアさんは、そんな風に表現した。
こっちは、『魔法』を『魔法』として発動させる目視可能な普通サイズの『守護の星』。虹色のキラキラ星の事だろうな。
とすると、俺が『体内錬成』する時も、普通の『魔法』と同じように、虹色のキラキラ星が見えてるのかな?
俺、『錬成』の時はいつも目を閉じて欲しいものをイメージするから……ソレを見てはいないんだよな。
そんで、『魔法』ってフツーは「音声認識」で「音声入力」だけど、俺の『錬金術』の場合は「思念」で発動するので、二人に怪しまれたらしい。
「おい、何やった?」
プリムローズさんの追及が続く。
――面倒だ。
寝たふりしようっと。
「…………(くかー、くかー)」
「「「また、それ?」」」
何人かの呆れたような声が聞こえたあと、
「寝かせといてあげようよ」
ミーヨの優しい声がした。
◇◇◇
頬に、ふわふわした物が触れた。
「……(むちゅっ)……」
唇に、湿った圧力を感じた。
なに? 「口に虫とまってよー」ってやつ?
ネタバレ防止でタイトル秘密だけど、某アニメの「いいとこ」だよ。
てか、いまの……「目覚めのキス」か?
「……(んちゅ)……」
少し間をあけて、もう一回来た。
なんか、甘い匂いがした。
コレ、なんの匂いだったかな?
この匂い嗅ぐと、ドーナツじゃなくて、『ケン○ッキー・フライド・チキン』食いたくなるな。あれの「ビスケット」を。
とりあえず、目を開けると――
「あ、起きましたか? お兄さん。もうすぐ『駅』に着きますよ」
ドロレスちゃん? ……イヤ、違う。
「ラウラ姫? なにやってるんです?」
「うむ。よくぞ、見破った」
目の前の少女は、満足そうに、にっこりと笑った。
いつもとは逆に、ラウラ姫がドロレスちゃんの真似をしていたらしい。
「あー……やっぱり当てた! ね、言った通りだったでしょ?」
ミーヨの得意そうな声がする。
「うわー、本当に当てやがった。……ボソボソ(近づけば、顔の大きさじゃ見分けられないと思ったのにな)」
プリムローズさんまで、悪ふざけに加担していたらしい。
「お兄さん、見分けた決め手はなんでした?」
本物のドロレスちゃんに、そう訊かれた。
「匂い、だね」
甘いお菓子の匂いで、すぐ気付いたのだ。
ドロレスちゃんは「お肉好き」で、お菓子はあまり食べない子なのだ。
「……まったく……女性としての慎みに」
ロザリンダ嬢が、何かブツブツと言ってるし。
「おにさ、みよねさ、と、ひめさ、と、ちゅ、ちゅ、した」
セシリアも、なんか言ってる。
「…………」
いつもは意訳してくれるヒサヤが、頬を赤らめて黙ってるので、よく分からない。
「あのー、みなさん。ジンさんで遊ぶのはやめましょう」
シンシアさんから、控えめな注意が飛ぶ。
そう言えば、前にも寝てる間に「おもちゃ」にされてた事があった気がするよ。性的なヤツなら大歓迎だけど……出来れば、ちゃんと起きてる時にヤッてほしい(笑)。
でも、「顔にラクガキ」とかはイヤだな。
まぶたに「目」とか、ほっぺに「ひげ」とか……されてないか、不安だ。
てか、俺。
寝たふりしてたつもりが……ホントに寝てたのね?
見たら、座席三人分を占拠して、横になって寝てました。
ごめん。
でも、みんなちゃんと座れてるか。
俺が起き上がると、ちょうどそのタイミングで、
「段差、越えま――す!」
馭者台から、そんな声がして、
がったん!
段差を越える衝撃があった。
『俺の馬車』が、『永遠の道』から外れたらしい。
俺はバランスを崩して、女の子の胸に顔面から飛び込んでしまった。
肉体接触系ラッキースケベ・イベントのお相手は……ミーヨだった。
これって、ラッキーなのかな? 微妙だ。
でも、怒られる心配はないから、思いっきり堪能したよ(笑)。
とにかく、今夜泊まる『駅』に着いたらしい。
◆
エッチなのはいけなくもないと思います――まる。




