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049◇合体魔法炸裂!


 退屈だ。


 『永遠の道』の両脇の景色に変化が無くなってから、だいぶ経つ。


 波打つような緩い丘陵地帯がずっと続く、緑色の放牧地だ。

 見慣れてしまうと、ぜんぜん面白くない。


 『永遠の道』専用「()き馬」は賢いので、ぜんぜん御する必要がないくらいだ。

 ひたすら真っすぐな『道』を、ひたすら愚直に進んでいく。


 ただ、『道』を馬車で進むのは初めてなので、上手くペースがつかめない。

 この「レンタル牽き馬」は、『駅』で借りて、次の『駅』で『馬蹄(ばてい)組合』に返却するのが普通で、刻限は「夜の一打点(だいたい午後6時45分くらい?)」というのが一般的らしい。


 でも、もうなんだかんだで昼近い時間帯なので、次の『駅』に、日暮れまで到着出来るかどうか微妙らしい。


 プリムローズさんからは、なるべく急ぐようにせっつかれている。


「……(くう、くう)」

 少し前から眠そうだった小さな『巫女見習い』のヒサヤが、俺の左腕にもたれかかって、ついに寝てしまった。


「がったん!」


 先刻(さっき)の段差越えが面白かったらしい。

 猫耳奴隷のセシリアが、時々そんなことを言うようになった。


 そう言えば、昨夜……。


      ◆◇◆


「合体!? ……ですか?」


 シンシアさんが『脱毛エステ』の休憩タイムに、そんな事を口にして俺を驚かせた。


「ええ、ご存知かもしれませんが、『全能神』さまと『全知神』さま……合体すると『全知全能神』になられるらしいのです」

「はあ?」


 ここには俺とミーヨとシンシアさんの三人がいる。


 一万二千年前の主題歌も超有名な3機合体アニメもあるけど、俺って2作目しか観てないし……てか、マシンの合体だし。


 生身の「合体」と言うと……イヤ、エロ抜きで……。


 そんな条件で脳内に浮かんだのは、『この○術部には問題がある!』の「伊万○」と「コ○ット」の可愛い「合体」だった。


 でも「伊万(いま)○まりあ」って、丸の中「里」じゃなかった気がする。メイン・ヒロインじゃなかった気がする。そんで美術部でもなかった気がする。3機合体のお誘いを断ったメイン・ヒロインの宇○美さん役の声優さん、頑張り過ぎて、声が嗄れてた気がする。そんで、その方をずっと亜季(あき)さんだと思ってた気がする。……なんか、この記述部には問題がある気がする。


 ちなみに俺は、『こ○美』の『美術部長殺人事件』が大好きだったりする。


 あと、(うち)(すばる)君とナ○キ・スバル君って中の人同じだった気がする……これはまったく問題ないか。放送時期が同じだったけれども。


 いつものようにそんな事を考えてると――


「ジンさんは『全知神』さまからいただいたという『賢者の玉』をお持ちですよね?」

 シンシアさんから真摯な様子で訊ねられた。


「……(こくん)」


 ハイ、金○袋の中に――とは口に出して言えないので、無言で首肯した。


「それで……あの『扉の守り人』のお婆ちゃんを助けるために、咄嗟(とっさ)の判断で、ジンさんと『合体』してみたんですけど」

「うええっ? 何時(いつ)したの、そんなこと?」

 黙って聞いていたミーヨが割り込んで来た。


「ああ……。手だ手」

「手で、したの!?」


「落ち着いてください。ミーヨさん、手を握ったのです。握手です」

 シンシアさんがあくまでも冷静なので、ミーヨも大人しくなる。

「……そーなんだ」


「はい、その手を繋いだ状態で『癒し手』の力を発動させた時、お婆ちゃんは蘇生しましたよね?」

 どことなく強張(こわば)って、蒼褪あおざめたような顔だ。


「ああ、完璧に生き返りましたよね? 本人、あと60年はイケる、とか言ってましたし」

「たしかに元気そうだったよ。走り回ってた」


 そう言えば……あの時生き返ったお婆ちゃんは、俺やプリムローズさんと違って、『前世の記憶』を取り戻さなかった。


 あの後聞いたら、「仮死あるいは臨死状態だった時間の長さ」に関係しているらしく、あのお婆ちゃんの場合それがほんの短い時間で、すぐさま蘇生したために『前世の記憶』は蘇らなかったらしい――と話だけ聞いても、理解も納得も出来ない。どんなメカニズムやねん。


 それはそれとして……生き返っちゃダメだったんだろうか?


「「何か……問題ある……の?」」


 俺とミーヨは、おそるおそるシンシアさんに訊いてみた。


「効果が強すぎたんです。『☆魂結(たまむす)び☆』は本来、死が近づいた人を、ごく一時的に延命させる措置……別名『遺言(ゆいごん)のための術法』と呼ばれるもので、死者が完全に生き返るようなものではないのです……。きっとそれはジンさんの……」


 シンシアさんは、そのことがずっと気になっていて、ひとつの推論に至ったらしい。


 ――俺と肉体的接触状態で『魔法』または『神聖術法』を発動させると、その効果がいちじるしく増強されるのではないか? と。


「それが俺のケンちゃん……イヤ、『賢者の玉』の力だと?」

「そうかもしれないのです。ですから後でお二人で試してみてください。あのー、そのー」

 シンシアさんは言葉を途切れさせ、メロメロに照れてる。


「――合体」

 ミーヨが呟く。


「そうです。『合体魔法』です。そう言うと何かカッコイイですけど、することは『えっちなこと』ですが……あ、いけない。言っちゃった!」

 シンシアさんは自分の手で顔を隠して、真っ赤になってる。


 事故なの? 今の?


「……合体」

 ミーヨが瞳を潤ませて、俺を見る。イヤ、『合体魔法』だつってんだろ?


      ◇


 よし、試してみよう。


 大人のジョーク好きなシンシアさんは、性的に合体しろ、みたいな事言ってたけど……実際には、俺と手を繋ぐだけでいいみたいだし。それだけでいいのなら、全年齢対応だ。うん。


 『シド○アの騎士』の『掌位(しょうい)』のジンクスみたいに、かるい気持ちで手を握ればいいんだろう。

 てか「合体」ってよりも「連結」だから、「合体ですね!」って言ったら、あの忍者みたいな丹○さんに怒られそうだ。


 あと、別にヘンな意味は無いんだから「おとさんとママの合体」とか、言わなくていいじゃん、つむぎちゃんたら!

 ……イヤ、この「つむぎちゃん」って『シド○アの騎士 第○惑星戦役』の融合個体じゃなくて、『甘○と稲妻』の幼稚園児なんだけど……。


 ……よし、いい加減そろそろ『前世』で観たアニメの話は置いといて、試してみよう。


「……(くう、くう)」

 いま、『癒し手』のヒサヤは寝てるし……この子は純粋な回復役として育てたいしな。

 でもある程度レベルが上がったら『魔法』も使えるようにクラスチェンジ……ってゲームか? 残念ながら無いよ、『この世界』には。


「セシリア。『魔法』って使える?」

 俺が訊ねると、猫耳奴隷のセシリアはふるふると首を振った。


「じゃあ、頭の中に思い描いてみて」

「あい」

 その方がイメージしやすいんだろう、セシリアは目を閉じた。

 ちょっと吊り目な子なので、本物の猫っぽく見える。


「俺たちの馬車。遅いよね? どうしたら早くなると思う?」

「うーう―…う――」

 呻り始めた。サイレンか?


「かぜ、しり、おす」

 後方から風が吹いて背中が押されるイメージか?

 帆船みたいな感じかな?


 さっき見た『対空兵団』の『飛行歩兵』も、『魔法』で空気を操って空を飛んでいるらしいし、馬車の加速くらいなら『魔法』で出来るハズだ。


「もっと、早くしたいなー」

 俺が言ってみると、

「かぜ、かぜ、おす、おす」

 強い風のイメージが出来上がったらしい。


「セシリア。手握るよ」

「あい」

 小さな手だった。


「今の想像続けて、早く! 早く! 馬車を早く進めたい!!」

「あい!」


 試そう! 『合体魔法』!!


「俺の真似して。祈願。追い風・加速」

「俺の真似して。祈願。★追い風・加速☆」


 キラキラキラン☆ と星が舞って、セシリアの『魔法』が発動した。


 どこかがギシッと(きし)んだあと、『俺の馬車』は加速し出した。

 後ろから、ぐん! と押される感覚があった。


「「ヒヒヒヒン!」」


 馬たちが焦ってる。

 めっちゃ早い。これ、もう馬車の速度じゃない。


   カッカッカッカッカッカカカカカカ――


 ひづめの音が凄い。


「「ひひ――――ん!!」」


 マズイ。馬がついてこれない。


「セシリア、目を開けて!」

 彼女がぱっ、と目を開けると――『魔法』の効果がキャンセルされたらしい。

 今度はかくん、とつんのめるように減速しだした。


「な、なんだったんですか? い、今のは?」

 眠っていたヒサヤも、覚醒したようだ。

 ライトブラウンの瞳が大きくまん丸く見開かれてる。驚かしてゴメンよ。


「いま、ばしゃ、はや、かた」

 セシリアが上気した顔で俺を見る。

 初めて『魔法』を発動出来たのを、自分でもはっきりと理解出来たんだろう。

 ちょっと誇らしげだ。


「うん。上手くいったけど……早すぎた」


 うーむ。ほんの思いつきでやってみたら出来ちゃった。てへ。


「ジン! あんた、一体なにやってんの――っ!!」


 『★伝声☆』かな? と思ったら、プリムローズさんの肉声だった。


 振り向くと、物見窓から物凄い形相で睨まれてた。

 イヤ、貴女(あんた)が急げって言ってたから……。


      ◇


 なるべく「塩線」を踏まないように気をつけつつ、『道』の「路肩」に馬車を停車させた。

 制動装置を固定して、馭者台から下りて、惨事が起きた車内の様子を伺う。


「「「「「……」」」」」


 みんな無言だ。恨めしそうに睨んでらっしゃるお方もいらっしゃる。


 そして『赤茶』のすっぱい匂いが凄い。

 車内では、すこし復調したラウラ姫を(まじ)えて「お茶会」を始めていたらしい。

 そのタイミングで、『合体魔法』による急加速と急減速があり、車内に『赤茶』がブチまかれて、色んなものが赤とピンクに染まってしまったようだった。


 てか、走行中の馬車の車内で「お茶会」て。アフタヌーンティーにはまだ早いのに。

 そして走行中の馬車の車内で、どうやってお湯を沸かしたんだろう?


 見ると、ひっくり返ったティーポットの中から、マカロンみたいな物が飛び出て転がってるようだった。

 なんかの魔法加熱器かな?


 てか、ひでー有り様だな。車内。

 特に白が基本の『巫女』さまや『巫女見習い』たちの装いが、マダラなピンクになっちゃってるよ。

 やけどとかはないようで良かったけれども。


「セシリア。元々の車内覚えてるか?」

「……うにゃ」

 否定的な返事だ。

 そう言えばそうか。乗せてないや。


「とにかく、この中のものすべてを真っ白にする感じを思い描いてな」

「あい」


 俺とセシリアは手を繋いで、『赤茶』まみれになった車内に『合体魔法』を発動させる。


「しっかり想像したか? 祈願。漂白ッ」

「しっかり想像したか? 祈願。★漂白ッ☆」


   キラキラキラキラキラン☆


 物凄い数の星が煌めく。


「「「「「うわあああっ!」」」」」


 悲鳴に近い歓声が上がった。


 キラキラした虹色の星がすべて消えると、車内の調度品もみんなの服も、ほぼ元通りになっていた。

 心なしか、みんなのお肌にも「美白効果」があったような気もする。


 驚きの白さだ(……)。


 すげーな、『合体魔法』。あらためてびっくりだ。


 ただ……なんか微妙に塩素ガス臭い気もする。

 俺の「漂白」のイメージが、『前世』で使ってた塩素系漂白剤だったからかな?


 突然、

「はきゅ」

 変な声がして、セシリアが目を回したように後ろに倒れ込んだ。


「セシリア!」

 ミーヨが抱きとめようとするけど――一瞬早かったのは、ラウラ姫だった。


「うむ」

 姫は自分自身の瞬速の動きに、満足そうだった。


「「「「…………」」」」


 みんな驚いて、固まってる。

 『この世界』で、王女さまに抱きとめられた『獣耳奴隷』って、ひょっとしてセシリアが初めてなんじゃね?


「気にせぬ(ゆえ)、中に入れよ」

「かしこまりました、殿下」


 ラウラ姫の一声で、あっさりとセシリアは車内への同乗を許された。

 ミーヨとヒサヤに支えられながら、座席に座らされる。


「……王家の馬車に獣耳奴隷が」

 ロザリンダ嬢が驚いていた。


 イヤ『俺の馬車』だってば。


 それよりも、セシリアはどうして突然倒れたんだ?

 そんな疑念を抱いていると、

「むう……気持(きぼ)ち悪い」

 ラウラ姫の体調が、再び崩れたようだった。今度は俺は姫を支えた。


 二人とも……『漂白魔法』の塩素ガス臭のせい……か?


      ◇


「『守護の星』よ! 『世界の理(ことわり)(つかさ)』に働きかけよ! ★空気清浄っ☆」

 プリムローズさんが車内の換気をしてくれてる。

 イヤ、ただの換気じゃないな。「空気清浄」って如何(いか)にも『前世の記憶』持ちっぽい。


   ジャカジャッ、ジャカジャッ――

   カッカッカッカッカッカッカッカッ――


 何十もの馬の蹄の音と、金属のこすれ合う凄い音がする。


 路肩に停車してる『俺の馬車』の横合いを、何台かの馬車が通り過ぎていったのだ。

 トラックの「船団(コンボイ)」みたいな荷馬車の集団だった。


 だいたいは重たい金属製品を積んでる。

 最大の消費地である『王都』に向かってるんだろう。

 重さを分散するための多輪構造になってる馬車が多かった。八輪とか十輪馬車だ。トレーラーみたいだ。車輪と同じくらいの数の、牽き馬に牽かせていた。


「馬たちは無事でしたよ」

 ()き馬の様子を確かめに行っていたドロレスちゃんの報告を聞いて、ほっとする。

 なにしろ借り物の馬なので、万一負傷とかしたら、どうするのかまったく分からない。


「良かった。ありがとう、ドロレスちゃん」

「いえいえ。ただ汗をかいたようなので水とお塩をあげるといいと思いますよ」

「お塩ね。分かった」


 『永遠の道』の両端には、謎の「白線」がずっと続いてる。

 白線の正体は「お塩」だ。「ゴマシオ」に入ってるような感じの、大き目の顆粒状だ。

 塩素は入ってるけど、安全な塩化ナトリウムだ。()り過ぎは危険だろうけど。


 俺はしゃがんでそれを両(てのひら)いっぱいに(すく)い上げる。

 指の隙間から勝手に零れ落ちる「塩の粒」がある。コレ、実は生き物だ。全部逃げ散ったのを確認してから、馬たちに舐めさせる。


 こそばゆい。なおかつ、馬のよだれで手がべたべただ。


 この「お塩」は「シオアリ」と言う生き物の産物だそうだ。

 擬態なのかは知らないけど「塩の粒」と「その生物」を見分けるのは非常に困難だ。

 ここを「塩場」にしている動物たちからは、そのまま舐められ、食べられてる気がする。カモフラージュの意味ねー。


 でも一番の天敵は、近くの水路や『道』にいる、白くて丸い殻を背負ったカタツムリ似の謎生物「ヌメヌメスベスベ」らしいので、ヌメヌメスベスベが苦手にしている「塩の長城」を築いて身を守っているらしい。


 先刻さっきヒサヤが『シオアリの防衛線』と言ってたのは、この事だったのだ。


「ここの塩ってタダなんですよね?」

 プリムローズさんが近くにいたので訊いてみた。


「そうだよ。天然自然のものだからね。誰でもタダで自由に採れるよ。だから『地球』みたいに塩の売買で儲けたり、専売にして国家が丸儲けしたり、密売人が横行したり……という事が無いんだよ。少なくとも『女王国』ではね」

 何故か残念そうだ。そう言うのがいた方が面白そうだと思ってるみたいな感じだ。


 『永遠の道』の脇には、ところどころに「うっすらとした塩水」が湧き出す場所があって、そこから人工的に整備されてた「水路」に導かれている。


 ただ、この「水路」。雨が降るとあっけなく氾濫して、周囲を水浸しにしてしまうらしく、そこは農地化されてない。草地のままだ。ちなみに、ここってゴロゴロダンゴムシの領域だ。


 そんで、溢れた塩水が乾くと、「粉が吹く」みたいに地面に白く塩分が現れる。

 それをシオアリたちが体内に取り込んで、顆粒状の結晶にしてから排泄するらしい。

 しかも、分泌液的なヤツで表面が蝋状物質(ワックス)でコーティングされていて、雨水で一時的に濡れても、溶けない感じになってるらしい。

 

 なので『永遠の道』の近辺の農地は「塩害」に悩まされることはないらしい。

 そんな風に、色んな意味で「防衛線」らしい。


 でも、大人のヌメヌメスベスベは、塩に対する耐性を獲得し、それを乗り越えて『道』の真ん中に棲み処を移し、『陸棲型』と呼ばれる最終形態になるらしい。


 『道』ってアホみたいに広くて日当たりがいいから、エサになる極小生物が昼の間にいっぱい増殖するらしい。ちっさくて肉眼では見えないけれども。

 で、陸棲型たちは、夜間に『道』の上を這い回って、それを「収穫」してるらしい。


 『永遠の道』は、陸棲型ヌメヌメスベスベの「農園」とか「牧場」みたいな側面があるらしい。


 ……ま、全部ヒサヤから聞いた話だけど。


「コレって地下深いところでは『岩塩』みたいになってるそうだよ。でも、人口の多い所では枯渇気味で、溝みたいにエグれてしまってるけどね」

「へー……集めて来るの、タイヘンそうなのに」


 ちょっとシオアリに同情。

 ミツバチの集めた蜂蜜よりもはるかに安易に誰でも採れるしな。「()れる」かもしれないけど。

 そう言えば、俺たちが「はむっ」と食べてる塩漬け豚腿肉の「塩」ってコレらしいんだよな。


 現に今も、向こうの対向車線側の「白線」には、「お塩」を採りに来てるらしい人が数人いる。

 でも、そんな虫のフンみたいなモノを……人間がそのまま直接食べても平気なのか?


「祈願! ★滅菌っ☆」

 ミーヨだ。広くて可愛い「おでこ」が汗だくだ。

 『魔法』で殺菌した「お塩」で塩分補給らしい。


 指先についた白い物を、ぺろっと舐めてる。ちょっとセクシー……と思ったら、しょっぱすぎたらしい。可愛く顔をゆがめてる。

 色んな意味で、なるほどね。


      ◇


(レーザー(ガン)。草刈モード)


   バサ、バサバサバサ……


 また、つまらぬ草を刈ってしまった……。


「ほら、食べな」

 水路で水を飲ませて、そのまま馬たちの「おやつタイム」になった。

 馬って大きな体に比べて胃袋が小さいとかで、すぐお腹が()くらしいのだ。

 水もめっちゃ飲んでた。びっくりしたよ。


 見ると、みんなも「車中お茶会」を再開してる。懲りない人たちだ。

 ふと思ったけど、小柄なラウラ姫がめっちゃ大食いなのは、馬たちとは逆に「胃拡張」なんじゃないの? って気もする。


      ◇


 半打点(約45分間)ほどで、馬たちも落ち着いたようなので、再発進だ。


 俺はさっきの出来事を説明するために、車内に移る事になった。

 交替にマルカさんとジリーさんが馭者台に座る。


 だいたいいつもの面々だし、着っぱなしの礼装が窮屈なので、全裸になろうとしたけど、ミーヨに制止された。


 パンイチの上にトガをまとい、なんちゃって古代ローマ人になった俺の着替えを、みんなは黙って見ていた。

 奥の座席に、横になったラウラ姫までが、じ――っと俺を見てた。

 そう、みんなに見てられていた。ずっと。


 普通、見ないようにするもんなんじゃないの?

 まあ、俺は全然気にしないからいいけど。


「ジンさん、さっきの急加速は? もしかして……」

 隣に座ったシンシアさんから、言葉を濁しながら訊ねられた。


「……(こくん)」

 俺が肯定すると、

「セシリアは……『魔法』を使えたのですか?」

「いえ、初めてみたいでしたよ」

「では、そのせいかもしれませんね。セシリアが意識を失ったのは」

「? どういう事ですか?」


人間ひとの『思い』や『願い』を、『魔法』として発動させるには、わたしたちの体内にある小さな『守護の星』を放出して『世界の理(ことわり)(つかさ)』を介して、大きな『守護の星』を動かす必要があります」

 シンシアさんが言う。


 『前世の記憶』を持つ俺は、なんとなく電磁波で「指令」を出してるのかと思っちゃうけど……違うらしいんだよな。

 そんで、同じ名前でややこしいけど『守護の星』には、肉眼では確認出来ない「極小サイズ」と視認可能な「普通サイズ」。さらには宇宙空間で有害な宇宙線から地上の生物を守っている「特大サイズ」があるらしいのだ。


「それで……」

 ちょっと躊躇(ためら)ってる。美少女なのでめっちゃ可愛い。


「初めての時って溜まっていたものが一気に出るのでスゴく疲れるんだそうです」

「…………」

 ……なんか不必要にエロい。


「ジンさんも初めての時って疲れませんでした?」

 にこやかに訊かれた。

「……ど、どうでしたでしょう?」

 答えに困ります。


 てか、セシリアが倒れたのは「それ」じゃない気がするな。

 「悪いこと」して責められた重圧が辛かったんじゃないかって気がする。

 そしてそれから解放されてホッとした瞬間に、気が抜けちゃった感じだった。


「ところで、その『守護の星』って、どこから出るものなんですか?」

 訊いてみた。

 別に『この世界』の人たちに、(ツノ)触角(アンテナ)があるワケでもない。

 「アホ毛」が出てる人はたまにいるけど、あれは寝グセとかだろうし……。


「『言葉』と一緒に出る、と考えられていますので、お口からでしょうか?」

 珍しくちょっと困ったような表情だ。

 何しろ目には見えないくらいに小さいモノだから、その辺は不確かみたいだ。


「『言葉』と一緒にですか?」


 だから「音声入力」みたいに、口に出して言わないとダメなのか?

 と言って日本の『言霊(ことだま)』とも、なんかニュアンスが違うみたいなんだよな。


 そして俺の『錬金術』は、逆に「口に出して言う」と失敗するんだよな。謎な仕様だ。なんでやろ?


「……それにしても二人目ですね。ジンさんが眠っていた力を目覚めさせた子は」

 不意に、シンシアさんが真剣な表情になる。

 美少女なので、その横顔がめっちゃ綺麗だ。


 一人目は『癒し手』として覚醒したヒサヤのことだろうな、きっと。


「ヒサヤに、ジンさんの………………………*を癒した時の事を聞いたのですが」

「……ハイ」

 そんなにまで口にするのを躊躇(ためら)うんなら、最初から「*」とか言わないでください。


「ヒサヤは最初、どうしていいのかまったく分からずに、ただジンさんが苦しんでいる様子を見て、少しでも痛みを和らげたいと思って、ジンさんの手をとったらしいのです。そして『そうしたら、白い光が右手に宿りました。……その手で、お兄様の*に指を突き刺したら、分かったのです。お兄様の*がどんどん癒されていくのが――』と言ってました」


「……」

 最後の方は、きっとヒサヤの真似だったんだろうけど、あんまり似てない上に、シンシアさんとヒサヤって微妙にキャラかぶってるしな……。


 イヤ、問題はソコじゃないな。


 俺の「*」に指を突き刺した?


「……」

 ついヒサヤの方を見てしまった。


「…………」

 ヒサヤは、セシリアの容態が安定したのを確認したあとは、一生懸命に本を読んでいる。


 『ふしぎな生き物たち』という本だった。

 ひょっとして、先刻の「シオアリ」や「ヌメヌメスベスベ」の生態に関する「ネタ本」かな? 俺もちょっと読みたい。

 ただ、本についてる「栞のリボン」が千切れてボロボロになってる……どうやら茶トラ君がじゃれついて引きちぎったらしい。ま、猫だしなー。


 それはそれとして……たった11歳の女の子なのに、横顔には大人びた気品を感じる。


 ――こんな子に、そんなことさせちゃったのか?


 シンシアさんにも鼻血を止めてもらうために、鼻の穴に『治癒の指』を突っ込んでもらった事があったけど……それ以上の難易度だな。ゴム手袋も、指サックも無しだし。


 それにしても、俺は気を失ってて、その時の事をまったく覚えてないもんな。

 てか目を覚ましてみたら、みんなに半笑いで面白がられたっけ……。


 思い出したら……なんか、凹んできたな。


 俺がそんな事を考えながら、黙っていると、

「あまり、深く思い悩まなくても……。何も悪い事では、ないのですから」

 シンシアさんは、そんな風に励ましてくれた。


「……ハイ」

 お互いに、決定的に何かがズレてる気がしないでもないけど心遣いは嬉しかった。

 ホントなら、俺の方がシンシアさんの事をもっと気遣わないといけないのに。


「シンシアさんも平気ですか? いま」

 

 生理中でしょう? と言おうとしたら、素早く止められた。


「あ、ジンさん。それはいま無かった事として忘れてる事になってますから、言わないでください」

「……ハイ。すみませんでした」


 自分では俺に向かって「生理」とはっきり言うのに、人から言われるのはダメみたい。色々とむつかしい。


「話を戻しますが、つまりヒサヤも無意識のうちにジンさんと『合体』していたのです。そして『癒し手』として覚醒した。……やっぱり、ジンさんの力は、凄い、です」


 でも、シンシアさんの俺に対する讃辞には、どこかに怯えが混じっていた。


 今までに聞いてきた話を総合すると、『魔法』の強弱って『守護の星(極小サイズ)』をどれだけ多く遠くまで飛ばすかによって決まるらしい。

 「伝令」が多いと「実行部隊」である『守護の星(普通サイズ)』を、普通よりも多く「動員」出来るらしいのだ。


 つまり、なんだろう?


 俺の体内――金○袋(泣)に埋め込まれちゃってる『賢者の玉』が、その『守護の星(極小サイズ)』の製造装置に近いものならば……俺の体内に、それが有り余ってる感じ?


 握手する事で、その握手して繋がってる相手にまで余剰分が行き渡っちゃう感じ?


 それで俺は『魔法』の力を増幅・増強する「ブースター」として機能してるワケか?

 物理的に接触するだけで、相手にノーコマンドの強化系の「バフ」がかかるのか?


 どっちにしろ、なんかサブキャラの能力やん。


 ヒーローっぽくないやん。


 ……しょんぼり。


      ◆


 合体と聞くとなぜかときめく男心――まる。

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