048◇永遠の道へ
『冶金の丘』から出た『俺の馬車』は、水路沿いの接続路を『永遠の道』に向けて進む――と見せかけて、近くの空き地に待機していたミーヨ、ヒサヤ、そして二人のメイドさんと合流する。
ラウラ姫の体調不良もあって、急きょ馬車の後部を寝台仕様に戻したために、乗れなくなった面々が、馬車工房に『★羽書蝶☆』で手配した別便で先行して待っていてもらったのだ。
「懐かしいなあ……。ここって、あの『馬車村』があったとこだよな」
馭者台から降りた俺は、ミーヨに確認する。
「うん、このへんだったね。ジンくんが黄金のアレ、錬成ったのって」
そう言えば、そうでした。
「姫殿下は落ち着いていらっしゃいます。もう少し、馬車を動かさずに休んでいただいた方がいいと思います」
ラウラ姫に付き添っていたシンシアさんに、そう言われたものの、
「いや、のんびりしてたら今日泊まる『駅』に着けなくなる。『道』なら馬車は揺れないし、殿下にはご忍耐願おう」
プリムローズさんの思考が意外とスパルタンだった。
馬車から、豪華なドレスを着た長身の少女が下りて来た。
「うむ。私ならば平気だ」
「イヤ、君、ドロレスちゃんだから」
姫の代役としてパレードで群衆に手を振っていたため、頭には偽装用の銀のティアラを載せている。
「『三人の王女』ってタイヘンですね。養女に出される『七の姫』で良かったです」
ドロレスちゃんには『七の姫』なんて二つ名もあるのか……って二つ名じゃないか。
言ってる事とは逆に、実は自分自身がきちんとした王族として、公式に活動したいのかもしれない。
12歳という年齢のわりには、いろいろと謎の多い子だしな。ホントは何を考えているのやら。でも、いくら顔がそっくりでも、身体のサイズがLとSくらい違うからラウラ姫と「入れ替わり」なんて出来ないだろうしな。
今回は馬車の窓から手を振るだけだったから、問題なかったけど。
ひょっとして、既に「入れ替わり」は済んでいて、実はドロレスちゃんが16歳で、ラウラ姫の方が実は12歳とか……それくらい体格が違うんだよな。ま、考えすぎだな。ソレは無いだろう。いくらなんでも。
そう言えば……『女王国』の人間には、「うなじ」に身分証として『魔法の黒子』を入れるのが習わしになっているそうで……「王家の姫」の場合には、特別に生誕順の数字が入った「★」が付いてるんだっけ。ラウラ姫のは……とあるシチュエーションで確認してるけど、ドロレスちゃんのは見た事ないな。
でもわざわざ「見せて」って頼むのも、微妙な感じになっちゃうだろうから、何かの機会を待とう。
てか、お姫様の「入れ替わり」とか言うと、某アニメを思い出すなあ。
ネタバレ防止でタイトルは秘密だけど……俺の知る限りでは3作品くらいあるな。
ん?
「「……」」
ふと見ると、ドロレスちゃん付きの二人のメイドさん。マルカさんとジリーさんが、ドロレスちゃんを奇妙な表情で見つめていた。
ドロレスちゃんではない、他の誰かを思い出しているような、なんか遠い目だった……。
◇
ついついボケっとしてたけど、ここではやる事が色々あった。
まず牽き馬を、『馬蹄組合』という『女王国』全土に展開してるらしい広域団体からの「『永遠の道』専用馬」に付け替える。
この「品種」は、数千年だかの自然な品種改良が進んでいて、平坦な直線路を走らせる分には、とても優秀で賢いらしい。
でも、どうなんだろう? 『地球』の「サラブレット」だって、たった一頭の「優駿」が始祖だって聞いた事あるしな。競馬好きの田中さんから。
『この世界』でも、突然変異的に生まれた、凄い馬の血統が、ず――っと続いてるだけのかもしれない。
ま、それはそれとして、ミーヨがボコ村から乗って来た『とんかち』を牽引して、パレードを行うわけにも行かなかったために、いったん取り外しておいたやつを、ここで取り付けた。
『とんかち』には、有り余るみんなの衣類を詰め込めるだけ詰め込んである。
さらに、これから走る『永遠の道』での直進安定性向上のために、馬車のホイールベースを延長させる「変形」を行った。
ちょっと期待してたけど、特に面白い事は無く、ただストッパーを外して前後の車輪を車軸台車ごと引き出し式に引っ張り出して、またストッパーを掛けて固定するだけだった。
その操作で、前後の車輪が、馬車本体から大きく飛び出した。荷重は車体下部の構造体で分散させてるらしい。
で、ちゃんと出来たから、いよいよさあ出発! と思ったら――
「ああっ!」
不意に、ミーヨの短い悲鳴がした。
なんだ? どうした?
「お兄様、実は……」
草むらから出て来たヒサヤが、誰かを連れて来た。
「おにさ」
黒髪に猫耳をつけた少女……って、あれ?
「セシリア? なんでここに?」
スウさんのパン工房に預けていた三人の獣耳奴隷のうちの一人――てか、さっき円形広場でみんなで手を振ってたよね?
「ホントに、一体どうしたの?」
ミーヨもびっくりしてる。
「あた、おにさ、たちと、いきた」
「私もお兄さんたちと一緒に行きたい……そうです」
ヒサヤが通訳してくれるけど……なんとなく分かるよ?
「あい」
セシリアが頷く。
「ああっ!」
今度は馬車の方から悲鳴だ。なんなんだ?
「なんでここにー!?」
着替え中だったはずのドロレスちゃんが、ドレスを半脱ぎのまま、でっかい猫を抱いて馬車から飛び出して来た。
チラ見えする下着がセクシーだった。猫がジャマだったけど。
「あの猫……」
見覚えがある。『代官屋敷』のボス猫「茶トラ君」だ。
ふてぶてしい顔で俺たちを見た後、がばっと口を開けてあくびした。
なんというか、また増えた……。
◇
「スウ、おばちゃ、にこと、わた」
スウ小母……イヤ、スウさんには一応断ってきたらしい。
ヒサヤが事情を尋ねたところ、先日ダイヤモンドを売却しに行った時に、俺とミーヨが仲良く夫婦漫才している所を見かけて、どうしても俺たちに着いてきたくなったらしい。機会を伺っていて、つい先刻ほとんど発作的に脱走して、俺たちの馬車が通りかかるのを待っていたらしい。
「セシリア、また脱走しちゃったのか?」
「だそ、ちゃう、おにさ、ごしゅじ」
「お兄様はこの子の本当の『ご主人様』ですから、『脱走』と呼んでは可哀相な気がします」
ヒサヤが冷静だ。
「ほかふた、おやいる、あた、いない」
馬車工房にいるお父さんたちと会える、他の二人が羨ましくて、
「おにさ、みよねさ、ふふみた、あた、こになる」
俺とミーヨが夫婦のように見えたので、親代わりになって欲しい――という意訳でいいのか?
――無茶を言う。
「そっかー、分かったよ、セシリアちゃん。親子には無理があるけど、お姉さんにはなれるよ。おいで」
みよねさ……イヤ、ミーヨお姉さんがセシリアを抱きしめる。
「おねさ」
「セシリアちゃん」
ひしっ、と抱き合う二人。
「待て! 本気で連れてく気か?」
「もちろん!」
ミーヨがセシリアを抱きしめながら叫ぶ。
俺が言っても相手にしてもらえない。
で、向こうでも、
「ほら、ここからならまだ屋敷に戻れるから、早く」
「……」
茶トラ君が馬車から動かなくなったらしい。
「おい、ジン!」
プリムローズさんが……ちょっと怒ってる?
「この際、人は増えてもいいから、早くしろ! 決断しろ! どうするんだ?」
「「「……(じーっ)」」」
ミーヨとセシリア。さらにシンシアさんにまで、じ――っと見つめられる。
一方――
「「「……(じーっ)」」」
しばらく無言のままの、ロザリンダ嬢と二人のメイドの視線から、さすがに王女の乗る馬車の車内に、獣耳奴隷を同乗させるわけにはいかないらしいのが、察せられる。
「セシリア……。馭者台でいいか?」
「あい!」
いい返事だった。
「「「…………」」」
みんな、それぞれに納得なり、妥協したらしい。
空気が緩んだ。
よし、こっちはいいか……。
「茶トラ君……。馭者台でいいか?」
試しに同じように訊いてみる。
「……」
茶トラ君は黙ったまま、目を細めた。
いいらしい。たぶん。
で、またまた馬車の中を座席仕様に戻して、「後部コの字形座席」のいちばん後ろにラウラ姫が横になれるようにした。
姫は小柄なので、そのスペースに寝せても大丈夫だった。
こう言ってはなんだけど、コンパクトで収納性に優れてるのだ。
そして、セシリアに付き添う形で、同じ『奴隷の館』にいて、「ねー(姉)」と慕われていたヒサヤも馭者台に乗る事に成った。
二人ともちびっ子なので、3人掛けでも座れるし。俺は大き目のおっぱいが好きな健全な男子だし。『女王国』の正装してるけど、変態紳士じゃないし。てか言い訳し過ぎると逆に疑われるか。
「じゃあ、改めて、出発っ!」
俺は馭者台で宣言した。
今度こそ『俺の馬車』は、水路沿いの接続路を『永遠の道』に向けて進む。
◇
がったん!
「「「……(ひっ)!」」」
馬車の車内から、悲鳴が上がったようだった。
(もっと静かに動かしなさいよっ)
すかさずプリムローズさんから『★伝声☆』が届く。鼓膜がビリビリするよ。
「……そう言われてもなあ」
接続路と『永遠の道』の繋ぎ目が、段差になっていたのだ。
俺のせいでも、馬たちのせいでもないのだ。
とにかく、ついに『永遠の道』の上に出た。
俺は、二頭の馬を手綱で操って、馬車を左に曲げる。
『王都』の方角へ。
灰白色の『永遠の道』は、やっぱり長大な滑走路のようだった。
あきれるほど広くて、道の両端は地平線まで続いている。
ひたすら真っすぐで平坦だ。
『道』の脇には、やっぱり点々と黒いゴロゴロダンゴムシが居た。
『道』の「路肩」には、真っ白い「塩線」が続いてる。
『道』の真ん中へんには、白いソフトボールくらいの謎物体がいっぱいある。元々は水中に棲息してる「ヌメヌメスベスベ」というカタツムリの『陸棲型』らしい。
『永遠の道』に出たのは久しぶりなので、なんか懐かしい。
「がったん!」
さっきの衝撃音を、セシリアが真似する。
ミーヨとシンシアさんから、日除け用の大きな白い屋根帽子を付けてもらって、彼女はご機嫌だった。
奴隷の証の『獣耳(セシリアのは猫耳だ)』が隠れてて、普通の女の子にしか見えない。
茶トラ君は、走り出してすぐに、馭者台の後ろにある物見窓の上の換気口から無理矢理中に入り込んでしまったので、ここにはいない。
その時、中からひんやりした空気が流れて来た。
プリムローズさんが、冷房みたいな『魔法』を発動させたんだろう。外は暑い。
『道』は白くて、眩しい。初夏の陽光でじりじりと照らされている。
地平線まで続く『道』の彼方は、ゆらゆらした熱対流でかすんで見えない。
その果ての向こう、ずーっと向こうに『王都』があるらしい。
そして他にも、いろいろ。
俺はまだ『この世界』について何も知らない。
「眩しいですね」
同乗したヒサヤが言う。
こちらは『巫女見習い』が被る白いヴェールを日除けにしてる。頭部全体が覆われてるので、日焼けの心配はなさそうな感じだ。
「眩しいね」
出来ればサングラスが欲しい。
でも『この世界』には、眼鏡がないらしい。
視力を補う『魔法』があるかららしいけど……一人も「眼鏡っ子」がいないのはちょっと淋しい。必須だと思うんですけど。
にしても、
「『道』って真っ白だと思ってたけど……ちょっと汚れてるな。馬車の通った後かな?」
見ると、黒っぽいくすんだ筋があったり、赤っぽい色に染まっているところがあるのだ。
「牽き馬が付けている蹄鉄と、車輪がすり減って、少し汚れてるんだと思います」
ヒサヤが大人びた丁寧な口調で言った。
馭者台にいると、その蹄の音が、リズミカルに聞こえてくる。
カッポカッポカッポ、と。
街中で使うような馬車の車輪には、ゴムみたいな弾力性を持つゴロゴロダンゴムシの脱皮後の殻が貼られてるけど、『道』用のは鉄輪だ。直線の長距離走行だから、生物由来の素材だと擦り切れてしまって交換が煩わしいらしい。なので『俺の馬車』の後部に連結してある『とんかち』の車輪も、実は『道』用の鉄輪に改装してある。
「鉄と、鉄錆の色か」
「でも、明日には見事に真っ白になりますよ。雪の日の朝みたいに」
ヒサヤが言う。
「そーなの? なんで?」
誰が掃除してんだ?
「はい。ヌメスベちゃ……いえ、あの『道』の真ん中に見える『陸棲型』と呼ばれるヌメヌメスベスベの成熟したものが、夜の間に這い回って、汚れを舐めとった後で、白く塗り固めて綺麗にするんです」
「……へー」
そう言えば、ドロレスちゃんもそんな事言ってたな。
ただし「夜中にウロチョロして繁殖相手を探す」とか言ってた……。
「白く塗り固めるって、どんな成分か知ってる?」
『炭酸カルシウム』らしいけど……『この世界』には「元素周期表」みたいなものが無いのだ。
「『骨』と似たようなものらしいです」
「……へー」
そういう風に理解されてるらしい。
「……ヌメヌメスベスベの『中身』って……なんか薄い赤っぽい感じだよね?」
俺もあんまり見た事無いけど、生き物の「舌」みたいなのだ。キモいのだ。
「はい。オトメナス色です」
そんな野菜があるのだ。乙女なハート形の茄子で、ピンク色なのだ。可愛いのだ。
だとすると積極的に鉄分を体内に取り込んで、少し赤っぽい色なのかも知れない。
オトメナスも、実は切った直後は白いけど、少し放置するとピンク色になる。たぶん鉄の「酸化」だと思われるのだ。
まあ、ヌメヌメスベスベを捕まえて解剖とか……怖くて出来ないけど。
「詳しいね、ヒサヤ」
「はい、好……いま読んでる本に書いてあったんです」
「……へー」
みんな馬車の中で読む本を、てんでに持ち込んでるんだよな。
◇
『永遠の道』は道幅が10万なの(100m)以上ある。
それが大地の向こうの消失点まで続いてる。
初めて見た時も思ったけど、やっぱりアホみたいに広い。
かなりな時間走ってるのに、「進んでる感」があんまり無い。
「それにしても、相変わらず広いなあ」
「それにしても、相変わらず広いなあ」
セシリアが、俺の言ったことをそのままリピートした。
ちょっと驚いた。
「セシリア、ちゃんとしゃべれるじゃん」
「きたこと、そのま、ま、んたん」
ありゃ?
「聞いたことを、そのまましゃべるのは簡単。言ってみ」
「聞いたことを、そのまましゃべるのは簡単。言ってみ」
すらすら話した。
ならばもう一度。
「ろさきねんしすあんぶぅとんぷてぃすーる」
「ろさきねんしすあんぶぅとんぷてぃすーる」
「?」
最後の「?」はヒサヤだ(笑)。
「言えてる。なんでだ?」
セシリアは、完全なオウム返しでなら、活舌よく話せるらしい。
自分で文章を組み立てながら話すのがダメなのかな?
「きっと、お兄様がセシリアの『ご主人様』だからですよ」
「あい」
ヒサヤがそんな事を言うと、セシリアも同意した。
ヒサヤは『癒し手』として覚醒して解放されたとは言え、元・獣耳奴隷なのに『奴隷制度』に否定的な事は言わない。『前世の記憶』を持つ俺からしたら理不尽極まりない事なのに、二人ともそれを自然に受け入れてしまってるみたいだ。不思議だ。そんな風に「教育」されたのかな?
「そんな事ないと思うけどな」
猫耳奴隷セシリアと他の二人をカタチだけ「購入」した時も、ただ書類と、彼女たちが付けてる『獣耳』のカチューシャの裏に名前を書かされただけだった。「迷子札」みたいなもので、別に『魔法』で拘束してるような事は無さそうだったのに。
よく分からんけど、こういう特殊な脳の働き、って何か聞いたことあるような気もする。
「それにしても、めっちゃ広いなあ」
「それ、しても、めちゃ、え、ろい、なあ」
……間違えてるし。
イヤ、俺に関して言えば間違えてないかも?
「あ、そうだ。『永遠の道』ってこんなにエロ……イヤ、広いのに、馬車は両端しか走ってないけど……何でか理由知ってる?」
なんとなくヒサヤなら知ってそうな気がしたので、訊いてみた。
「俗に『道』の真ん中は『神さまの通り道』と言われていますが……もっと現実的な理由があると思います」
しっかりした口調でヒサヤが言う。
「それって?」
「両端だけを馬車が走る事で、『道』が少しずつ擦り減って、緩い傾斜がつきます」
「うんうん」
路面の損耗と言うか摩耗か? ●毛……は、俺の「レーザー脱毛」で無○になっちゃった人いるけど。約二名(笑)。
「すると雨が降った時に、自然に水が流れて、馬車の車輪が滑らなくなります」
「そんな理由?」
意外としょーもないな。「すべらない話」か……自信ねー。
でも、この子と近い将来「すべる話」もしそうな予感がする。
「水が流れると……あの『お塩』の線に流れ込むんじゃないの?」
『永遠の道』の両端には、まるで「路肩」の区切り線みたいに「お塩」で出来た「謎の白線」がずーっと続いているのだ。
「『シオアリの防衛線』ですね」
「そんな名前が付いてるんだ? 防衛って? 何から何を守るの?」
「色々な意味があるのですが……」
その後もヒサヤと色んな話をした。賢くて、ただの11歳とは思えない感じだった。
◇
なんとなく、空を見上げると、いつか見た無尾翼機みたいな鳥がゆっくりと空を横切っていった。
俺たちが進む『道』の左手の空には、うっすらと白い環が見えた。
『この世界』の人たちは、あの白い環を見て、方角の目安にしてる。
この惑星の赤道の延長線上に環があるので、『南』の目安になるのだ。
そして、空の一点に驚愕すべきものを見つけた。
「人だ! 人が空飛んでる!」
あまりにびっくりして、見たまんまを口に出してしまう。
「どこですか?」
ヒサヤには白いヴェールが邪魔で、よく見えないらしい。
「たく、へ、だ」
猫耳のセシリアがなんか言った。
「まったく、●(気体)だ」って俺のこと?
酷い事言うと泣くよ? 俺ってメンタル弱いよ?
「ほら、あのへん」
俺は空を指さす。
なんとなくCGっぽく、直立した人が飛んでるのだ。
びっくりだ……ってそう言えば、プリムローズさんが空飛んでるところ、2度も見たしな。今さら驚く事じゃないか。
でも、飛んでる様子が全然違う。
まるで妖精だ。
透明で虹色に光る四枚羽が背中にある。
たぶん『魔法』のキラキラ星『守護の星(普通サイズ)』で「成形」したヤツだろう。
そんで、俺とプリムローズさんが戦った『四ツ目の怪鳥』と似たような原理だ。上下2枚ずつ2組の「魔法の羽」は、それぞれ役割があって、下は固定されていて動かないけど、上は激しく羽ばたいてる。
これきっと、上の羽で空気流を造って、それを下の固定された「翼」に当てて、「揚力」を生み出してるに違いない。
「たく、へ、だ」
そうか、分かった!
「あれが『対空兵団』の『飛行歩兵』か」
話には聞いてたけど、初めて見た。
「あい!」
セシリアの返事が可愛かった。
怪鳥とか翼竜とか……『この世界』における人類の天敵『空からの恐怖』に対抗するのが『対空兵団』だ。
プリムローズさんが前に『飛行歩兵』は妖精みたいに飛ぶって言ってたけど……こういう事だったんだな。透明で虹色の四枚羽で飛んでる。
でも……羽がかなり大きい。体と羽の比率は、妖精と言うよりも「トンボ」みたいだ。
『飛行歩兵』は、現実的な装備としては、ボマージャケットみたいな革の服と、ヘルメットみたいな短兜、そして目元は風よけのゴーグルみたいなものを装備していた。あんまし兵隊っぽくない。でも体の中心に『魔法式空気銃』を両手で固定してる。空気抵抗にならないように、だろうな。
『魔法式空気銃』以外は、ハンドルの長いチョッパー(バイク)に跨ってると似合いそうな人が……背中にファンタジーな『魔法』の羽つけて空飛んでるよ。
異世界だなー。
『幼○戦記』の航空魔導師は……色々あったな。スキーみたいなのとか、なんとなく「おまる」みたいに見える馬型とか(笑)。あの作品、人名が難しくて「ターニャ・デ○レチャフ」しか覚えられなかったよ。はや○んが演ってたヴィー○ャのフルネームなんだっけ?
「飛び去っていきますね」
「あい」
ヒサヤとセシリアだ。名付け親は俺だ。
『この世界』の『飛行歩兵』は、『永遠の道』を見わたすようにゆっくり目に移動して、俺たちの進行方向とは逆方向に飛び去った。
なんかの巡回みたいな事をやってたのかな?
どうでもいいけど、眼鏡はないのに「ゴーグル」はあるんだな。
ふと思い出してみると、『冶金の丘』の金属工房の人たちの中にも、火花対策で色付きのゴーグル付けてた人もいた気がする。
でも女性が着けたら、某分隊長(※後に司令)みたいな風味になるだろうな……。
◇
周りに森の多かった『冶金の丘』から遠ざかると、『道』の脇の景色は、広大な草地に変わった。
この辺りはなだらかな丘陵地で、放牧地らしく、遠くに黒い動物の影がいくつも見えた。
そして、俺とミーヨが『冶金の丘』まで乗って来た『とんかち』の『動力付き車輪』として活躍してくれたゴロゴロダンゴムシが、なぜ丸まってゴロゴロ走るのか、理由が判明した。
彼らは『道』の掃除屋らしくて、『道』に落ちた生ゴミみたいなものを嗅ぎつけると、どこからかゴロゴロと転がって来て、それをゲットするとまた丸まってゴロゴロと転がって、速攻で『道』の外に逃げていくのだった。
そうしないと、上空で旋回してる肉食の飛行生物に食べられてしまうらしいのだ。
『道』は灰白色なのに、彼らは黒か赤なので、凄く目立つから、物凄いスピードでゴロゴロと転がって、逃げていく。
『生存戦略』の一環だったんだな。
で、やつらが見つけたのは、はるか上空からの「石弾投射攻撃」で、硬い殻を砕かれて『空からの恐怖』に食べられちゃったらしい『陸棲型』の成れの果てだった……。南無。
『永遠の道』は、この惑星『この世界』をぐるっと一周してる環状周回道路らしいので、この惑星のあちこちで似たような光景が見られるのかもしれない。
なんか過酷な、自然の掟ってやつだ。
でも、ふと気付いた。
「緑の丘」の丘陵地帯はいいけど……なんか不自然な……と言うか人工物っぽいのだ。
植物は生えてるけど、カタチがまん丸くて「トーチカ」みたいだ。誰かの左遷先?
規格化されてるみたいな同じ大きさの「丘」がポコポコポコっと「さやえんどう」みたいに並んでるところもある。
しかも、よく見たら「丘」に穴……じゃなくて窓が開いてる。
ヒサヤに訊いてみたら、
「あれは『フユチカ』です」
ホルンとフルート吹きそう……って、そっちは『ハル○カ』だ。
「放牧地の家畜を入れる『冬期用耐寒地下壕』です。雨風を防ぐためだけでなく、『ケモノ』や『空からの恐怖』から家畜を守るためにも使われるそうです」
「……へー、そんなのがあるんだ……」
ホントにまだまだ知らない事ばっかだ。
◆
人間もまた自然の一部――まる。




