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047◇パレードと旅立ち


「いよいよ出発か」

 思えば感慨深い。

 見知らぬ異世界の麦畑で目覚めて、初めて暮らした街から別の街か……。


「♪ふんふんふふーん。ふふふふふん」


 ミーヨがまた「あの鼻唄」を歌いながら、旅支度を整えている。

 スポーツ・アニメの最高傑作と言っても過言ではない『ハイ○ュー!!』の、第19話で青○の及○が歌ってた鼻唄に似てなくもないヤツだ。でもここは『地球』とは違う異世界だから、絶対に違う曲のはずなんだけど……完全にメロが同じだ。


 もしかして……ミーヨの中に眠ってる『前世の記憶』が目覚めようとしているのか?

 俺やプリムローズさんみたいに「一度死んで、生き返る」と、『前世の記憶(それ)』ははっきりと蘇るらしいけど……。

 でも、俺が好きなのはいまのミーヨだしな。

 万一そうなって、変なギャルみたいになられても困る。


 よし! そうならないように、俺が絶対にミーヨを守ろう!!


 そんな決意をして、グッと握りこぶしを作っていると――


「あ、ジンくん。そろそろ着替えた方がいいよ」

「着替え?」


 これから旅立つ俺は、当然のように『旅人のマントル』を身に着けている。

 その下は当然、全裸だ。合ってるか? この言い回し。


「ほら、馬車で行進するから『正装』しろって言われてるでしょ?」

「そーだっけ?」

「そーだよ」

「そっかー。でも荷物の積み込みあるから、その後にするよ」

「うん」


 ついでだし、ちょっと怖いけど……訊いてみよう。


「ところで、ミーヨ。さっきの鼻唄って、どこで覚えたの?」

「あー……あれ? 前に、ジンくんが歌ってたの、覚えちゃった」

「え? 俺?」


 発信源でどころ、俺だった。


      ◇


 朝食を済ませた俺たちは、『代官屋敷』の正面「馬車寄せ」に乗り付けた『俺の馬車』に荷物を積み込み、出発の支度を始める。


 どうでもいいけど「客」として滞在したお屋敷の真正面で、「荷物の積み込み」とか……ま、いいか。


 『俺の馬車』は、元々はラウラ姫の物だった。

 さらに元を辿れば、その曾祖母の先々代の女王陛下の国内巡幸用の馬車だったらしい。


 その内部は改装されて、姫の「お昼寝用寝台」が取り付けられていたけれども、それは折り畳み可能な構造だったので、寝台を座席に換えた。


 そこに生まれた「後部コの字形座席」に7人。

 車内前方には元々「後ろ向き座席」があるのでそこに3人が座れる。

 「馭者台」には2人は乗れる。馭者は交替で務めることにした。


 なんだかんだで10人にまで増えてしまった『王都』行きメンバーだけど、馭者以外は全員車内におさまる事が出来そうだ。


 ちなみにそれぞれの座席内部は収納になってる。

 便利だけど、それと引き換えに座席は固い。長時間乗ってると、お尻が痛くなりそうなので、座布団(クッション)の持ち込みは各自自由とした。


 問題は、10人分の荷物だ。

 普通の旅支度に加えて、先日『服の仕立て屋』に大量にオーダーした服の山まで届いたので、それも積み込まないといけなくなった。

 だいたい俺以外はみんな女性なので、服だけでエライことになってるのだ。


 ここ『冶金の丘』では、重たい金属製品を積んだ馬車が、毎日毎日出入りを繰り返している。

 そのため、この街の馬車工房は、ハードなヘヴィーデューティーに耐えるタフな車体の製造で有名らしく、『俺の馬車』の足回り――というか台車部分もかなり頑丈だった。


 ただ、重みには耐えられても、荷物を積み込むだけの空間がないのだった。


「プリムローズさん、なんかこう便利な『収納魔法』とかないんスか? 『インベントリ』とか『アイテムボックス』みたいな時空を操るようなヤツは」

 俺が、荷物の積み込みにうんざりしながら訊ねると、

「『いんべんとり』?」

 ミーヨみたいな反応だ。『前世』ではゲームとかやらない人だったらしい。


「じゃあ『四次元○ケット』みたいに、いろんな物を仕舞っておける便利魔法とかは?」

「ないわよ。そんな都合のいい『魔法』」

 冷たく断言された。

 てかこれは通じた。さすが国民的長寿アニメ。

 遠い昔の『前世』での子供の頃に観てたのかな? ……失礼か。


「じゃあ『超古代文明』の遺産で『どこでも○ア』みたいな便利道具とかは?」

「ないと思うわよ。あ、これは殿下のおやつだから上の方に。『食用煉瓦』は下でいいから」

「あ、ハイ」

 そっかー、ないのかー。


 ちなみに『食用煉瓦』は「煉瓦ブロックみたいな大きさと硬さを持つ堅焼きビスケット」の事だ。食べるためには大量の水で何時間か煮込む必要がある。ホントのホントに非常用の非常食だ。


 みんなの荷物は『俺の馬車』の後部座席を改装した寝台下の収納と、馬車の後ろに牽引(けんいん)される事になったミーヨの『とんかち』に詰め込む事になった。


 『とんかち』の本体部分は、ドラム缶くらいの大きさの円筒形だ。ドラム缶って200リットルって聞いた事がある。

 例えが悪いけど、俺が『前世』で使ってた「生ゴミ袋」は45リットルだった気がする。その約5倍の容量だ。てか普通に2リットルのペットボトル100本分で良かったか。


 なお、『とんかち』は、元々が「王家の馬車」だった『俺の馬車』に合わせて、外観が大きく変更された。


 白と銀で、華麗かつ無駄に装飾されたのだ(笑)。


 見た目は『とんかち』から『打ち出の小槌(こづち)』くらいに昇格してる。もともとは「二輪の荷馬車」だったらしいのに。


 食料品は、『永遠の道』の「わきっちょの売店(?)」で購入できると言うプリムローズさんの言葉を信じて、非常用のドライフードや各自持参のお菓子くらいしかない。ホントに大丈夫かな? 異常に大食いの子が二人もいるし……。

 飲料水の方は、『道』の脇にはだいたい水路があるから、その水を『魔法』で浄化するか、フツーに煮沸するかして何とかなるらしい。


「あのスカ……斥候(スカウト)に使えそうな『飛行魔法』で荷物は運べないんスか?」

 危うく「スカートめくり魔法」と言いかけたけど、誤魔化した。

 てか、斥候って「ピケット」だったかな?


「『飛行魔法』は使用者だけね。荷物は背負ってたり、手に持つ分だけ。何人かで手を繋いで『協調』も出来るけど、『ばらんす』も崩れるし、『着地』もむつかしいらしいわ」

「そーなんですか」

「あらかじめ『ひも付け』しておけば『召喚』出来るけど……アレも距離や重さに制限があるしねえ……」


 やっぱり『召喚魔法』とかあるんだ? なんか生き物は無理そうだけど。


「平らなとこなら『運搬』で重量物も運べるけど……『馬車』を追尾させるのは不可能だし、それに効果は二打点(約3時間)で切れちゃうしねえ」


 なんか、どんどん愚痴みたいになってきた。


「『この世界』の『魔法』って、一体なんなんですかね? いろいろと制約もあるし。便利なようで凄い不便だし」

 つられて俺もぼやくと、

「前にも言ったけど『この世界』の『魔法』は、『この世界で生きるための助け』でしかないのよ。ただ、術者の技術や応用で、それ以上のものにしているけどね。抜け道やダマシやウラワザや組み合わせを使ってね」

 プリムローズさんはそんな事を言った。


「ウラワザっスか?」

「例えばこんな風にね。『守護の星』よ! 『世界の理(ことわり)(つかさ)』に働きかけよ! ★衣類圧縮☆」

 パキン! とフィンガースナップする。


 『魔法』のキラキラ星が、積み重ねておいた予備の侍女服の山を包み込み、


   ぶっしゅぅぅぅぅぅぅぅぅうううう


「……何の音っスか?」

「空気が()ける音。要するに『魔法』の『布団圧縮袋』なのよ、コレ」

「……へー」

 ぺしゃんこだ。厚みが減って、コンパクトに収納可能になった。


「オリジナルの『魔法』っスか?」

「既にある『魔法』を4つほど繋いで、まとめてひとつの『魔法』にしてあるだけ。『衣類圧縮』って言葉はただの『すたーたー』ね。発動句」


 そんな事出来るのか? 俺も『魔法』使ってみたい……。


「でも、コレってプリムローズさんみたいな『前世の記憶』持ちじゃないと思いつかないんじゃないんスか?」

「いやいや。そうでも無いよ。便利さを追求すれば似たような物を思いつくしね。あと……そうね。誰でも使える鉄板の『魔法』ってあるでしょ? 『★後始末☆』とか『★点火☆』とか」


 出来れば「鉄板の」じゃなくて「定番の」と言って欲しい。なんか「粉もの」食いたくなる。


 そんで、そう言われても俺自身は『魔法』は使えないしな。

 『おトイレ』では『体内錬成』で別の物に作り替えてるし、『★点火☆』の代わりは『光眼(コウガン)』でレーザー発射だ。つっても元々の「発光」をレンズで収斂したようなヤツだから、大した事は無い。太陽光をルーペで集めるみたいなイメージだ。


「利用者が多いその手の『魔法』は、『世界の理(ことわり)(つかさ)』にしっかりと登録されていて、もう『起きて欲しい現象』を頭の中で組み立てる必要もなく、その『言葉』を口にするだけで、『守護の星』を動かして『魔法』として発動出来るけどね」


 ふむふむ。


「検索ランキング上位のワードだと、最初の一文字だけで変換候補が表示される――とかっスか?」

「? 『前世』の話よね? ゴメン。懐かしすぎて思い出せない」

「そうなんスか……」

 多分、そんな感じだと思うんだけどな。


「あ、それと今『起きて欲しい現象』を頭の中で組み立てる――って言ってましたよね? それって」

 訊いてみた。

 それって俺の『錬金術』に近い感じがする。

 俺の場合「起きて欲しい現象」じゃなくて「欲しい物質(モノ)」だけど。


「文字通りよ。『いめーじ』ね。アレとアレであーしてこーして……お料理の『れしぴ』みたいな事を考えて、それ(・・)に名前を付けて、その『言葉』を口にするのよ。こっちは言ってみれば『創作系魔法』ね」


「イメージに……レシピ?」


 確かに、個性的な『魔法』を編み出して、「固有スキル」みたいに使ってる人もいるんだよな。

 さっきのプリムローズさんのも正にそうだし……『前世』での豊富な知識を「今世」に持ち越してるアドバンテージもあって、彼女は『魔法の天才』と呼ばれていたらしいのだ。


 彼女は『世界の理(ことわり)(つかさ)』は、「人間」の思考や感情を読み取って理解する『人工知能』みたいなものって言ってた気がする。


 その時に、人体内部には目には見えないくらいのナノマシン的な大きさの『守護の星』が常駐してるって話を聞いた。


 これを便宜上『守護の星(極小サイズ)』と呼ぶ事にして、それっていちばん最初に「母乳」から貰うらしいんだよな……。

 ミーヨからは「赤ちゃんの頃にね。お母さんから初めて貰うおっぱいに『魔法』の(もと)になる何かが含まれてるんだって」と聞いてるし。


 とすると、子供の頃から『守護の星(極小サイズ)』が俺たちの体内……脳の中にまで入りこんでいて、ずーっと共生してるってコトか。


 そうでもない限り、人の思考……「イメージ」なんて読み取れないと思うんだけどな。


 でも、それって突き詰めて考えると……かなり怖い。

 なんかに悪用されそうだ。


 でも――


「口にして……音声にしないとダメなんスか?」

 俺は脳内だけでイメージしてる。

 口に出してはいない。俺の全身を包んでるらしい『★不可侵の被膜☆』との干渉のせいかもしれないけど。


「発動の鍵だからね。いま私たちが話してるこの言葉って、地球の言語とはぜんぜん違うでしょう? これって『世界の理(ことわり)(つかさ)』や『守護の星(こっちは普通サイズだ)』を動かすための言語らしいわよ」

 プリムローズさんは知識を口にする。


「生き物としては『地球』から『コピー』された存在なのに、『地球』の言語が、人の名前の一部くらいにしか残っていないのはそのせいなんスかね?」

 俺は疑念を口にする。


「たぶんね。そして、『奴隷の印』――蒙古斑がついて生まれてくると、ワザと言葉を教えないらしいわ。『魔法』を使えないようにね。酷いよね? ホント、腹立つわ!」

 プリムローズさんが義憤にかられて、瞳を紫色にしている。


 『獣耳奴隷』の人たちの、どこかたどたどしい「話し言葉」は、意図的に言語学習を抑制された結果か……。


「あれ? でもヒサヤは流暢で丁寧な言葉を話しますけど? ――あ!」


「…………」

 ふと気付くと、つい口にした疑問は本人に聞かれてしまっていた。

 ちょうどヒサヤとシンシアさんが、荷物を手にやって来たのだった。


「わたしは『印』が出るのが遅くて、それまでは……名は明かせませんが、さるお屋敷の娘として育ちましたから」

 ヒサヤは落ち着いて語った。

 やっぱり発音も抑揚も綺麗な話し方をする。


「――そうなのですか?」

 シンシアさんも生まれた時は『印』があって、それを隠すために『女王国』ではなく、大陸東の海にある『東の(つぶら)』で幼少期を過ごしたそうだ。だからか複雑な表情だ。


「まさか『印』が出たせいで、捨てられたの?」

 後ろからやって来たミーヨも驚いている。


「はい。ですが、わたしは元々が捨て子で……養女として引き取られた先で『印』が出て、二度捨てられたんです。その時に、名前も失いました」


 たった11歳の子が……そんな境遇だったのか。

 でも逆に、それまでは本当にしっかりとした教育を受けていたってことた゜ろう。言葉遣いが丁寧だ。


「ゴメンな、ヒサヤなんて適当な名前つけちゃって」

 かといって、軽々しく元々の名前なんて訊けないな、この感じだと。


「いいえ、ヒサヤという名は気にいってます。それに……いいのです。わたしは本当に『前世の罪人』なのですから」

 ヒサヤはしっかりとした口調で言った。


「……それは」

 この子も何か、『前世の記憶』を背負って生きているのか?


「では、また」

 きちんとした言葉をかける間もなく、ヒサヤは荷物を取りに屋敷に戻っていった。


 ヒサヤは、『獣耳奴隷』に多いモンゴロイド系ではなく、淡い金髪とライトブラウンの瞳をしたコーカソイド系の少女だ。


 すべての人種で、確率にかなりの違いはあっても「蒙古斑」は出るらしいけど、出現率8~9割のモンゴロイドに比べれば確率は低いはずだ。数%って話じゃなかったかな?


 本人の前では話せなかったけど、今なら、

「そんなに遅く『印』が出るなんて――あるのかな?」

 俺は、どこか不自然なものを感じて、みんなに訊いてみた。


「昨夜、一緒にお風呂に入った時、見せてもらったけど……」

 ミーヨが言いかけて、口ごもると、

「本人には、絶対に確認できないような位置だったな。背中のほうだった」

 プリムローズさんが言葉を引き継ぐ。


「……かなり不自然でしたよ。『印』というより、何かのアザみたいな」

 ドロレスちゃんだ。

「彼女――何かの陰謀に巻き込まれてたのかもしれません」

 どこかの貴族のお家騒動みたいなヤツか?

 でも本人も口をつぐんでるし、詳細は訊き出せそうにないんだよな。


「ですが……現在は『癒し手』として覚醒して、奴隷身分ではないのですし、ご実家にも……いずれ戻れるようになるといいですね」

 シンシアさんの言葉は、彼女自身の願いや期待が込められたものだった。


      ◇


「……微妙だ」

 俺は呟いた。


「「「……微妙だね」」」


 ミーヨとプリムローズさんとドロレスちゃんの、素直過ぎる感想だ。


 プリムローズさんの指示で『女王国』男子の「正装」を着用する事になった。

 前みたいな「借り物」じゃなくて、オーダーメイドでこさえた(・・・・)ヤツだ。体にぴったりだ。ぴったりし過ぎて俺自身が成長したらキツキツになりそうな気もするけど。


 でも、微妙なのだ。


「もっと明るい色の方が良かったんじゃない?」

 ミーヨが言う。


 指摘の通り、色味が地味過ぎたのだ。

 そしてなんか見た目の「下っ端感」がハンパない(泣)。

 小さめの帽子を頭に乗せたら、駆け出しのドアボーイみたく見える。


「イヤ、もう一着の方は、めっちゃ派手なんだけどさ」


 荷物の積み込みによって、重要度の低い物は、下に奥に……と押し込められてしまって、それ(・・)はもう『俺の馬車』の床下の奥底なのだ。取り出すのは、ちょっと無理なのだ。


      ◇◇◇


 でも、この時、何気なく姿見の鏡を見ながら行った行為によって、俺は『錬金術』に関する新しい可能性を見出した。


 ――ま、それは後ほど。


      ◇


 そしてついに出発だ。


 俺たちは、屋敷の人々と挨拶を交わす。

 8日前、全裸で怒られてたロベルトさん(笑)もいる。ちょっと噴きそうになりつつ、挨拶。

 なんだかんだで「ひと巡り(8日間)」もお世話になってたんだな。この屋敷に。


 『王都』に(おもむ)くために、しばらく会えなくなるドロレスちゃんと、『王都』に戻る姉のラウラ姫を続けざまに、ぎゅ――っとハグした後、俺の方に近づいて来た二人のお爺ちゃんであるこの街の代官閣下は、

「俺の孫どもを頼むぞ、このク○ッタレ!」

 俺まで、ぎゅ――っとハグした。


 俺はやめてよ。てか、めっちゃ酒臭いよ。


「「「「「お嬢様を頼みますよ!」」」」」


 屋敷に残る人たちからの見送りに、


「「お任せを!」」


 今回、ドロレスちゃんのお世話を名目に、『王都』に向かう事になった「丸齧りさん」ことマルカさんとジリーさんが応じる。


「じゃあな! ク○ッタレ!」

 代官閣下は、そう言うと、くるっと背を向けて屋敷の中に入ってしまった。


 別れが辛いのか?

 それともガチで、おトイレで脱●(固体)か?

 その内心を斟酌するのは、不可能なのであった。


「「行ってまいります!」」


 ラウラ姫とドロレスちゃんの挨拶で、とりあえずここともお別れだ。

 『代官屋敷』の使用人の皆さんと、猫ちゃんたちに見送られながら、俺は馬車を進めた。


      ◇


 屋敷の前で、待ち構えていた騎馬の集団に敬礼された。


「では、よろしくお願いいたします」

 礼装に身を固め、騎乗したこの街の番兵隊と合流する。


 でもって、行進の連携と隊形を確認するために、『代官屋敷』の周囲を三周してから、円形広場に向かう事になった。


 ようするに、今日これから行う「パレード」の事前……てか直前練習なんだけど。


 ――当日の朝に練習ってどうなの?


      ◇


 馬車の前方に四騎。後方に六騎がつき従う。


 『冶金の丘(このまち)』では毎年「秋祭り」の期間中に円形広場で、番兵隊の騎馬隊による「騎馬競走」が行われるそうで、そのせいか馬たちが円形広場に入ると、血が騒ぐらしくて、御するのが難しくなるらしい……って大丈夫なのか? 暴走させんなよ。


 そんで、その祭りの際、巨大なドーム状の『丘』を人間が駆け上がる「ヒルクライム・レース」も行われるらしい。

 ここ数年はパン屋の看板娘が連覇しているそうな。スウさんの事だろう。あの『丘』ってサウナ風呂みたいに蒸し暑いはずなのに……石窯で熱に耐性があるんだろうな、きっと。


「よろしいようです。では広場へむかいましょうか」

 問題なく屋敷の周囲を三周出来たので、さっそく「パレード」を始めてしまうらしい。

「了解しました!」

 俺も見世物になる時間は短い方がいいので、異存は無い。


 そこに、

(殿下は無理そうよ)

 プリムローズさんから『★伝声☆』の音声が届いた。


 耳に入れた耳栓型……木の(プラグ)を振動させて、「思念」を「音声」として伝える『魔法』らしい。「魔法のワイヤレス・イヤホン」って感じだ。

 俺も同じ『魔法』が使えれば「双方向通話」が可能になるらしいけど……俺は全然使えない。イヤ、『魔法』をね。ヒトとしてダメって意味じゃないよ(泣)?


(代役はドロレスでいくから)

 その「声」に、俺は車内に見えるように手を挙げた。


 実はラウラ姫の体調があまり(かんば)しくない。


 プリムローズさんによれば「いろいろと酔ってる」そうな。


 毎朝の基礎体力訓練で、パン工房のスウさんから教わった「物干し」を鉄棒代わりに使う筋力トレーニングで、何を考えたのか「大車輪」をやり過ぎて気持ち悪くなっちゃったらしい。


 なんでも「うむ。プロペラ小僧と呼ばれるジンに負けていられないな」とか言いつつ、グルグルグルグルと高速回転してたらしい……。


 出発の挨拶には無理して出ていたものの、そこでやたらと酒臭かったお爺さんとのハグで、症状が悪化して、完全に体調を崩して後部座席に()せっている。


 さらに言うと、平坦な道を真っすぐ進む分にはなんともないのに、さっきの当日事前練習で『代官屋敷』の周囲を無駄に三周もしたせいで、またまた調子がおかしくなったらしい。


 で、馬車の窓辺に座り、「見送りの民衆に手を振る王女殿下」の役を、その妹のドロレスちゃんが代行する事になった。


 ラウラ姫とそっくりなドロレスちゃんだけど、この街では平然と素顔を(さら)して歩き回っているし、それなりに有名なんじゃないかって気もする……まあ、バレなきゃいいけど。


      ◇


 円形広場に入ると、すぐに知り合いを見つけた。


「「「ジンく――ん!」」」


「「「おにさー!」」」


 パン工房のスウさんとお兄さん夫妻。俺が預けた獣耳奴隷の三人の女の子たちだった。


「…………(やほー!)」

 俺も大きく手を振ると、みんなぶんぶん手を振り返してくれた。


 ――パン屋の下宿人だった俺が、なんだかんだで王女殿下の『(いと)(びと)』になって、ついでにその馬車の馭者だもんな。


 自分でも、よく分からない流れに乗ってちゃってるな……。


 いつもは、屋台や露店でいっぱいの円形広場のドーナツ状の道には、すでに沢山の人がいた。

 というか、街の大半がここに詰め掛けてるんじゃないかって気がするくらいだ。


 見覚えのある工房街のおっちゃんたちや、『店馬車』のハンナさんもいた。

 養老院の人たちまでいた。サー……さんとか。元『扉の守り人』のお婆ちゃんまでいた。隣はお孫さんかな?


 『服の仕立て屋』の「お姉さん」たちもいた。ナニを思い出してるのか、ちょっと恥じらい気味の見習いの子もいた。『装剣細工工房』の職人さんたち……ってこのゾーン。俺のデリケートゾーンを見た事ある連中ばっかだな(笑)。


 『俺の馬車』に臨時雇いの()き馬たちは、人の群れに少し興奮気味だったけれど、先導の騎馬のペースに合わせて進んでいるうちに落ち着いてきたようだった。


「「「「姫さまー!」」」」


 後ろでは、ドロレスちゃんが上手くやっているらしい。

 今のところ妹君が入れ替わってるとは、思われてないようだった。


「「プロペラ小僧さまー!」」


 俺にもたまにそんな声が掛かる。

 ホント、それやめて。


「「「巫女さまー!」」」


 馬車右側で手を振る『七人の巫女』の一人ロザリンダ嬢もさすがに人気がある。

 実は広場を時計回りしてるので、進行方向の右手には、ずっと真ん中の『塔』があって、見送りの人は少ない。

 にもかかわらず、なんとなくアイドルの追っかけを思わせるような、若い男性たちから大きな声援を受けている。


 でもって、彼女は任期を終えてこの街を去り、後釜にはこれから『巫女選挙』で選ばれる新しい『七人の巫女』が着任する。誰になるんだろう? 『巫女選挙』に出馬のために一緒に『王都』に向かうシンシアさんになる可能性もあるんだよな。


「「「巫女さまー! お元気でー!」」」


 野郎共から、半泣きの悲鳴に近い声もかかる。


 イヤ、このパレードの主役はラウラ姫だから。

 ……まあ、体調不良で寝てるけど。


「「「「姫さまー!」」」」


 馭者台からじゃ見えないけど、ドロレスちゃんがノリノリでやってるんじゃないかって気もする。

 目立つの好きそうだしな、あの子。


 何を間違ったか、騎馬隊のミスか、予定の3周より一周多く周回して、そのまま騎馬の護衛と先導を受けながら、街の外にまで出る。


 『前世』も含めた俺の人生初の「行進(パレード)」は、無事に終わった。

 パレードなんて見た事もなかったのに、まず自分がやる羽目になるとはね。


 久しぶりに『(ほり)』にかかる「跳ね橋」を渡った。

 人工の小島にある番兵の詰め所も、事前折衝によって特例的に素通りする。


 ここで、お金とられたらどうしよう? とミーヨとドキドキしていたのが懐かしい。


 30日以上の前の話だ。

 そんなに居たんだな、ここに。


 出口側の番兵詰め所の壁には、緑色に錆びた青銅らしい大きなプレートがあって、


『冶金の丘は皆さんの再訪を期待します。よい旅を』


 そう刻まれていた。


      ◆


 人生そのものが旅ならば、()はすべて仮初(かりそ)めの宿――まる。

大失態。第17話ではなく、第19話でした!

申し訳ありませんでした。

『ハイキュー!!』の話です。

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