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046◇異世界エステと謎の光


 場所を移動しました。


 『代官屋敷』に初めて来た時に案内された部屋だな、ここ。

 灰色のメス猫と茶トラのデカいオス猫がいた部屋だ。あのあと、シーツとか替えたよね?

 そんであの時には、つるんとしたヒトガタの『毛……イヤ、『化物(ケモノ)』を見たっけ。


 真ん中にある、大きな寝台の上に三人でいる。

 シンシアさん、『巫女見習い』なのに、本当に大勝負……イヤ、大丈夫なのか?


「それで、『れーざーだつもう』とは、どのようなものなんでしょう?」

「ピカッと光るの。ジンくんのおち……ちがくて、えー、どこだっけ? どこから出るんだっけ?」

「目だよ。右目。てか光るとこ見るなって言ってあったろ、あれ目に悪いんだぞ」


 そう、『全知神』さまから貰った右目の『光眼(コウガン)』の機能拡張を行っていた時に、副産物的に生まれたのが『れーざーだつもう』……イヤ、『レーザー脱毛』だ。


 デフォルトの照明機能を魔改造して生まれた、俺様必殺の「レーザー(ガン)」の試射で、なんとなく両手の体毛を狙ってやってたら、両手がスベスベツルツルになってしまったのだ。

 

 散髪とか、毛抜き程度じゃ無敵のバリアー『★不可侵の被膜☆』は発動しないらしく、試してみたら、レーザー脱毛でも平気だったので、自分自身でさんざん練習したのだ。


 それをミーヨに見られ、隠す事でもないので正直に話したら、「ジンくうん。わたしにもしてー」とおねだりされたので、断り切れずにしてあげたのだ。

 もちろん事前に安全を確認してからだ。


 てか俺までミーヨの真似とか、ないわー。


 その経緯をざっくりと説明すると、

「『全知神』さまから……右目を? ジンさん、あなたは一体……」

 シンシアさんが本気で驚愕している。


 あれ?

 ここ笑うとこなのに、引かれてる?

 ミーヨの真似、面白くなかった?


 その当人は、

「もー……自分だって、この前お風呂で会ったじゃない」

 仮にも神さまを、近所の知り合いみたく言うな。


「た、確かに、私も『全能神』さまと『全知神』さまの『ご光臨』に立ち会う機会に恵まれましたが……それにしても」

 シンシアさんが、不意に何かを悟ったかのように、にっこりと笑った。

「いえ、理解しました。ジンさんです。ジンさんのお傍にいたからこその『ご光臨』だったのだ、と思い至りました」


 イヤ、俺と神さまとの関わり合いって「たまたま偶然、斬殺されたから」なんだけど。そんな立派なこっちゃないですけど。


「凄いです……ジンさん。尊敬します」

 シンシアさんが、俺を崇拝するような目で見つめている。


 ――しかし、その尊敬する凄い人が、これからあなたのムダ毛処理(笑)をするんですよ?


      ◇


「最初にお断りしておきますが、シンシアさん。これは施術……一種の治療行為であって、えっちなことではありません」

「はい。もちろんです」

「心配しなくても、俺があなたにえっちなことをしようとしたら、ここにいるミーヨが止めようとするはずです」


「でも、ジンくんの方が、わたしよりもずっと力が強いから」

「ジンさんは、そんなことはしない。私は信じてます」

「もちろんです。――では、服を脱いでください」

「……は、はい」


「…………」

「ジンくん。顔がえっち。罰金『月面銀貨(ルナー)』1枚」

「もうか? 早くね?」


 なんか俺がエロい顔つきになると、罰金らしいですわ。


「そんで『地球銅貨(アアス)』1枚ずつって話じゃなかったっけ?」

「なに言ってるの、ジンくん! こんな綺麗な白い肌を見ておいて、銅貨ごときで済むと思ってるの?」


「あのー」


「! ……そうだな、俺が間違ってた。ごめん、ミーヨ。シンシアさん」

「うん、分かってくれたらいいんだよ」


「あのー」


「それでは、始めます」

「はい。いつまでも、恥ずかしがっていられないですね。お願いします」


 イヤ、ブラ的な三角形が二つあるので、全裸ではないんだけど……。

 それにしても素晴らしい。


「ジンくん。二枚目」

 俺様がクールなハンサムガイという意味ではなく、きっと罰金の銀貨の事だろう。


「あれ? シンシアさん、たしか首から首飾りみたいなの身に着けてましたよね?」

「ああ、『神授の真珠』ですね。背中に回してます。髪の毛の中です。『巫女見習い』はこれを身につけていないといけないのです」

「そうなんですか?」


「でも、最近、これに頼らずとも『癒し手』の力を発動出来るようになりました。これもジンさんのお(かげ)だと思います」

「イヤ、何もしてませんよ」

「あとでお話します」

「はあ? あ、そのまま万歳してください」


「……? 『ばんざい』ってなんですか?」

「二の腕を耳につけるように両手を上に……ミーヨ。シンシアさんの手首持っててあげて」

「うん。おおっ、シンシアちゃん、なんか『囚われの姫』みたい。あ、ジンくん、三枚目」

 たしかに、今の俺様の顔は三枚目だったかもしれない。反省。


「ふむ。なるほど。それなりに有りますね」

「あっ……いやっ」

「四枚目っと」

「大丈夫です。こんなことくらいで、俺のあなたへの気持ちは小動(こゆるぎ)もしません」

「は、はい」

「五・六・七……繰り上がって『明星金貨(フォスファ)』1枚」

「ちょっと待て! なんでだ?」

「さあ?」


「うぐぐ……。では、シンシアさん、これを着けてください」

「これは?」

「レーザーが光るところを肉眼で見ると、目に悪影響を及ぼします。ミーヨが作った目隠し(アイマスク)です」

「ミーヨさんって器用ですよね。いろいろ手作りしてますものね」

「えへへ。実は『裁縫魔法』でなんだけどね」


「あ、ミーヨも着けないとダメだぞ」

「えーっ、見えなくなるよ。そしたら誰がジンくんの暴走を止めるの?」

「しないよ、暴走なんて」

「あのー、意外と腕がキツいので、早めにお願い出来ませんか?」

「ハイっ、ただいまっ」


(『光眼(コウガン)』。発光。レーザー(ガン)。レーザー脱毛モード起動)


 よーく、狙って。


(発射!)


「……あんっ」


 おおおっ!


      ◇


「ハイ、終わりました」


 一回の照射時間は、1ミリ秒くらい。

 それで、毛根ひとつひとつを地道に狙い撃つ感覚で、範囲を広げていく。かなり神経を使う作業だ。


 俺の「レーザー(ガン)」の連続照射時間は5秒が限界なので、それでいくと約五千回の照射が可能なのかな?

 それ以上は過熱がひどくなって、10分くらいのクールダウンが必要になる。それなりに制約のある必殺技(?)だ。


「祈願。★滅菌っ☆」

 何も言わなくても、ミーヨが施術の終わった部分を滅菌してくれた。いい助手だ。


「どうでしたか? 痛みや痒みはありませんか?」

 自分でやると「爪でひっぱたいた」くらいの痛みはあるのだ。


「はい、平気です」

 そうは言うけど……シンシアさんの事だから、気を遣って我慢してるのかもしれない。

「……んんっ」

 シンシアさんが自由になった両腕で、隠すように自分の胸を抱いた。


「……(うおおっ)」

 そんなことをしたら、谷間が強調されますよ?


「『明星金貨』1枚と『月面銀貨』2枚」

 ミーヨの冷酷な声がする。


 え? もう六万円超えたの? 高いね、このお店。


「はい、鏡。どう? シンシアちゃん」

 ミーヨがシンシアさんの前に鏡を差し出す。この部屋の調度品の、化粧台にあったヤツだ。


「あ、ホントにつるつるになるんですね。やっぱりジンさんは凄いです」

 シンシアさんの、感謝と敬意のこもった言葉が心地いいです。


「お会計。『明星金貨』1枚と『月面銀貨』3枚になります」

「ハイ。って、支払い、俺かよ?」


「あのー」

「なんですか? シンシアさんから、お代はいただきませんよ」

「……し、下もお願いしたいのですが」

 真っ赤な顔でそう頼まれた。


(――な、なんだって?)

 俺は愕然とした。


(み、見えるよ? 見ていいの? 見ちゃうよ?)

 三段活用的な思考が暴走する。


(――しかし、頼まれたからには断れない!)


「途中に何度か休憩を挟んでの長丁場になりますが……か、構いませんか?」

「はい!」

 気持ちはもう(たか)ぶって……イヤ、それは俺だ。

 シンシアさんの気持ちはもう固まっているようだ。


「分かりました。最後までやり遂げます!」

 こうなっては俺も引けないぜ。


「ジンくん! ――お金、大丈夫? 無くなっちゃうよ?」

 ミーヨが本気で心配してくれる。


 だが、その心配の仕方は間違ってるだろう?


      ◇


   チュンチュン♪


   ぶぎゃ――――っ。


   ……バサバサバサ……。



 あー、なんだ? 小鳥か?

 ここ猫がいっぱいいる猫屋敷だから、鳥さん危ないよ?


 外明るいなー、朝かー。

 昨夜、「治療」が終わった直後に、疲れ果ててそのまま寝ちゃったんだっけ。

 硬い床の上なんで、体のあちこちが痛む気がする。


 てか俺なんで床で寝てたんだっけ?

 ああ、そっか。昨夜シンシアさんまで、この部屋に泊まっちゃったんで、恋愛禁止中の『巫女見習い』の戒律を守る(てい)から「男と同室だったけど同じ寝台では寝てない」ってシチュを死守するために、俺が床に寝かされたんだっけ。


 寝台を見ると、


「「…………(すうすう)」」


 ミーヨとシンシアさんが、手を繋いで幸せそうに眠っている。


 ――なんか百合っぽい。

 それにしても、仲良くなったな、この二人。


 で、たしか今日って、『王都』への「旅立ちの日」のハズなんだけど……俺、もうお金まったく無いよ?


「ん……あ」

 色っぽい呟きを漏らし、シンシアさんが目覚めた。


 そして、

「ええっ? あれ? ……ああ、はい、そうでした」

 驚いて、戸惑って、思い出して、納得したらしい。


「あ、おはよー」

 ミーヨも目を覚ましたらしい。こっちは平常運転だ。


      ◇


「あのー、このことは……」

 目覚めたばかりのシンシアさんが、潤んだ瞳で訴えかけてくる。

「分かってます。このことは一生忘れません! むしろ来世にまで記憶を持ち越します! 大丈夫です!」

 俺は力強く約束した。


「ち、違うんですけれど……」

 言いかけて、シンシアさんは俯いてしまった。

 黒髪の間から突き出た耳が赤い。味わいたい(……)。


 てか、もう、からかうのはやめとこう。


「シンシアさん。俺からもお願いです。このことは他言無用で」

「も、もちろんです。私からは絶対に言いません」

 シンシアさんは力強く約束してくれた。


 実はチラッと「趣味と実益」……イヤ、「旅の資金稼ぎ」のために、この異世界で『脱毛エステ』始めようかな? とか思いましけど、実際やってみたら、疲労度ハンパないですわ。


 無理っス。

 他の人に話されて次々と「治療」頼まれたりしたら死ぬっス。黙ってて欲しいっス。


 なお、ミーヨのおでこに誓って『光眼(コウガン)』の「カメラ機能」は使用していない。


 てか、カメラとレーザーのモード切替えって『体内錬成』で右目をいちいち錬成(つく)り換えるようなものなので、俺の心身への負担が大きすぎるのだ。


 ただ……普通に見てしまったものは、脳裏に深く刻まれてしまっている。

 忘れろという方が無理だ。


 呼吸に同期したお腹の上下運動とか、小さなおへそとか、右膝の上に二つ並んだ黒子(ホクロ)とか、いろいろ見ちゃってもうタイヘンなのであった。


 しかし――


      ◆◇◆


 さあいよいよ、という時に、その『魔法』は発動された。


「祈願! ★謎の光っ☆」


 付き添いのミーヨが叫ぶと、シンシアさんの「本当に大事なところ」に「謎の白い光」が差し込み、まったく見えなくなってしまったのだった。


「な、ナニコレ?」

 俺は愕然とした。


「だから、謎の光だよ」


 アニメか! 規制対象部位の隠蔽か!

 某アニメはそのせいで画面真っ白になってたぞ!!


 こうなったら、DVDかブルーレイかどっちかの「円盤」を購入……イヤ、それはアニメの中の「謎の光」の消し方だ。そう言えば『前世』で大量に買った俺の「円盤」。最終的にはどーなったかな? 観ていないのもいっぱいあったのに。


 それはそれとして、聞いたら、これって「妙齢の女性が男性の『癒し手』の治療・診察を受ける際に、大事なところを隠すための魔法」らしい。


 俺はミーヨの事を(あなど)っていたらしい。

 まさかそんな『魔法』があるなんて……。


 なので残念ながら……見れませんでした!


 ……でも、先日いただいた『お宝映像』は、永久保存します!!


      ◇


「ところで、シンシアさん。なんでまた……当初予定していたよりも広範囲の施術が必要だったんですか?」

 適当にボカしながら、訊いてみる。

 まさか、ブライダル・エステじゃないだろうし。


「選挙のためです。『巫女選挙』には、『水着審査』があるんです」

 シンシアさんは明快に言った。


「え? 水着審査?」


 ガン! と見えない何かに、後頭部を殴られた気分だ。


「はい」

 ……嘘でしょう?

 イヤ、シンシアさんは嘘をつく人ではない、言えない事ははっきりと「言えません」という人だし。


「そんなのがあるんですか……」

 それ、もう、「選挙」とかじゃなくて「ミスコン」か、さもなきゃ何かの「オーディション」じゃん。


「ロザリンダさまから教えていただいたのですが、なんでも『全知神の三角』という小さな布地の『水着』を身に着けることになるそうなので……」


 『全知神の三角』って水着のコトだったのか?

 名前がアレだけど……きっとビキニ的なヤツだな?

 『この世界』にも、そんな男子が喜びそうなモノがあるんだ?


 いいね! とか言ってる場合じゃないよ。


 ショックだ。

 シンシアさんは『俺の聖女』なのに……人前で水着って。

 とか言いつつ、昨夜は『★謎の光☆』とか言う『魔法』のマイクロビキニ姿だったけど……イヤ、俺はいい。俺はいいのだ! 俺は彼女の信者と言ってもいいくらいの崇拝者なのだから!


 けど……他の男に見られるはヤダな。


「シンシアさんは『俺の聖女』なのにイ」

 ついつい口に出して言っちゃったら、

「『俺の聖女』?」

 ミーヨに訊きとがめられたよ。


「シンシアさん、俺の中で疑問なんですけど、『聖女』と『巫女』ってどう違うんですか?」

 誤魔化すためにそんな質問をしてみた。昨夜はロザリンダ嬢に答えて貰えなかったしな。


「ジンさんはどう違うと思いますか?」

 逆に問い返された。


「……勝手な印象ですけど……『聖女』って死んじゃった後に、そう呼ばれる感じがするんです。何かの身代わりか犠牲になったり、『殉教者』だったりとか……とにかく生きてる間にそう呼ぶのには違和感があります」

 とりあえず、そう言ってみた。


 『地球』の『聖女』の「定義」ってどんななんだろ? 知らないな。


「『聖女』はもともと『()(しろ)巫女(みこ)』と呼ばれていたそうです」

「えっ? そうなの? なんの『身代わり』にされるの?」

 ミーヨが驚いてる。


 シンシアさんは困ったように、

「私も詳しくは……知らないんです」

 とだけ言った。


「いい感じ受けないね。『()(しろ)巫女(みこ)』なんて」

「はい。その名の印象が悪いので、後の時代に『聖女』と改称されたそうなんです」


 でも、それを「じゃんけん」で決めるワケだから……そんな役目貰っても「勝ち」って言えない気がするな。


「ただ、その代償として『聖女』には、『神授祭(しんじゅさい)』で複数回の『私的な祈願』が許されているそうですよ。欲しい物を神様におねだり出来るそうなんです」

 重くなりつつあった雰囲気を和らげるためか、シンシアさんがお茶目に言った。


「ところで、ジンさん。『ヨハンナ』あるいは『ハイジ』という名前に聞き覚えはありませんか?」

 唐突に、そう訊かれた。


 ヨハンナ? ハイジ? ……どこかで……。


「ハイジなら……『前世の記憶』の中にありますが……」


 寛○大学陸上競技部の主将だな。

 『風が強く○いている』だ。もちろんアニメ版だ。しっかり者で、意志が強くて、料理上手で、良い奥さんになりそうな人だった。……男だけど。


「え? 『前世』ですか? ……ぼそぼそっ(だとすると違うの?)」

 最後の呟きはなんだろう? 意味深な。


 てか彼女のお姉さんが『前世の記憶』持ちって話じゃなかった?

 それって、もしかして『アルプスの少女ハ○ジ』の事? ネタとしては知ってるけど……きちんと観た事はないな。そして『ヨハンナ』って誰?


「シンシアさんのご親類の方ですか? ヨハンナさんて」

「いえ、私との血の繋がりは無いのですが(んぐ)……何代か前の、高名な『聖女』さまなのです」

「……はあ」

 と言って、俺との「繋がり」があるんだろうか?

 そして「んぐ」って小さな呻き声は何?


 俺の方は勝手にだけど、シンシアさんに「運命の(えにし)」みたいなものを感じてしまうのだけれども。


「ところで、ジンさん。ちょっと私の事を、シンシア――と名前で呼んでみてもらえませんか?」

 唐突に、そう言われた。


 ナニソレ? 何かのステップアップ?


「……シンシア」


 俺は最大限の親愛の情を込めて、彼女の名前を呼んでみた。


「……やっぱり、今まで通りに、シンシアさん――って呼んで欲しいです」

 シンシアは、真っすぐに俺を見て、にっこりと笑ってから言った。


「……ハイ。そうします。シンシアさん」


 あれー?


「いきなり、呼び方が変わったら、みなさんに勘繰られるじゃないですか! もう! ちょっと『おトイレ』行ってきます!」

 シンシアさんは表情を隠すように俯きながら、走って逃げていった。


 イヤ、自分から言い出しておいて、ナニソレ?

 しかも照れてるなら赤い顔になるはずなのに、ちょっと血の気が退()いてたよ?


「残念だったね」

 気を使って、黙って見ていてくれたミーヨに言われた。


 残念って何がだろう?


「恋愛禁止の『巫女見習い』じゃなかったら、美味しく頂けるのに」


 おーい、ミーヨさんや?


 この際だから、ついでに確認しておこう。


「なあ、ミーヨ。もしも、これから先にさ、お前の目の前で、俺がシンシアさんとキスしたり、えっちなことしたりしたら……お前どうする?」

「……コーフンする、と思う」


 本気でそう思っているらしい。声の感じから分かる。


「――そっちですか?」


 俺は脱力した。気力が大きく低下した。

 なんかorzの姿勢になっちゃったよ。


      ◇


「……(蒼白)」

 戻って来たシンシアさんが、青ざめた顔をしていた。


「……どうされたんですか?」

 心配なので、そっと声をかけた。


「いえ、ご心配なく、生理が始まっただけですから」

「………」


 なんで、この黒髪の美少女は、男に向かって平気でそんなこと言うんだろう?


「……お大事に」

 他に返しようがない。


「はい、私、痛みとかは軽い方なんですけど。……が大の苦手で。ああ、見なかった事にしたいです」


 「……」の部分はたぶん「血」だと思う。前も同じような事言ってたし。

 先刻(さっき)「血の繋がり」ってとこで、「んぐ」とか呻いてたのは、もしかしてそのせい?


 てか『★謎の光☆』があるんなら、残酷な流血描写を覆い隠す「黒い闇」とかは無いのかしら?

 某アニメはそのせいで画面が真っ暗になっていたけれども……。


 話を聞いていたのか、聞いてなかったのか、脇でごそごそやってたミーヨが、

「シンシアちゃん、これ」

 シンシアさんの手のひらの上に、お手製の『巾着(きんちゃく)』を乗せた。


「なんですか? これ」

 中身は分かった上で、どうして? と訊きたかったんだろう。


「お金。シンシアちゃん、『神殿』から旅費も貰えなかったんでしょう? 『王都』に行くんだから、いろいろ必要になるよ」

「でも、これって昨夜の『罰金』じゃないんですか?」

「そうだよ」


 ミーヨは俺に向き直って、

「ねえ、ジンくん。昨夜の罰金は全部シンシアちゃんにあげるからね。見られて恥ずかしい思いをしたのは、シンシアちゃんなんだからね」

「お、おう」

 何かが決定的に間違っている気もするけれども……それならば文句はないぞ。


 というか先日『服の仕立て屋』でみんなの服をオーダーメイドで大量発注した時に、シンシアさんがいなかったのが、なんか仲間外れのようで、気にはなっていたので、ここで少しでも埋め合わせしたい。俺の勝手な思い込みだけれども。


「そんな、ダメです! ……私だってジンさんの……いつもいろいろと見てますし」


「「え?」」


 俺、見られて恥ずかしいとかないですよ? むしろ得した気分です(笑)。


「本来なら私がお金を支払うべき事柄です。施術者が患者にお金を払うなんてあり得ませんよ」

 シンシアさんは、きちんとけじめを付けたいらしく、きっぱりとそう言った。


 『癒し手』って『神殿』所属の場合は「喜捨」を貰うし、民間の場合はきちんと「治療費」を受け取るものらしいのだ。


 では、彼女の言う事に乗っかって、その盲点を突こう。


「だから、シンシアさん、それは前にミーヨが治療してもらった時の分です。そして、あの『扉の守り人』のお婆ちゃんを生き返らせたのも、シンシアさんでしたよね?」

「あっ、そうそう! シンシアちゃんにはいつも助けてもらってるよ」

「いえ、そんな……」


「受け取ってください。あとですね、ミーヨに『レーザー脱毛』してやっても、こいつ銅貨一枚払いませんよ?」

「えへへ。実はそうなんだけど」

「ですが……」


 まだ躊躇(ためら)ってるのか?


 やむを得ない。


「シンシアさん、貰ってくれないと、昨夜のことを……思い出しますよ?」

 めっちゃ鮮明に記憶してますので。


「思い出しました。ホラ」


 シーツを、バサッとな。


「「きゃ――っ!」」


 なにしろ朝ですから!


 ある程度予想してたんだろう。2度目か3度目ですから。

 嬉しそうな悲鳴だった気がする(※完全に誤解)。


      ◇


「それならば……頂いておきます」


「「ハイ。どうぞ、どうぞ!」」


 最後のセク○ラが効いた(?)らしい。

 シンシアさんは「罰金」を受け取ってくれた。

 蒼ざめていたお顔も、普通の顔色に戻っている。

 恥ずかしさによる赤面で中和されて、ニュートラル状態になってるだけかもしれないけれども……。


 てか、もしも『地球』の『日本』でこんなことやったら罰金刑ですまないな。


 ――異世界でよかった!!


      ◆


 罰金とか反則金とか使途が気になることもある――まる。

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