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044◇大いなるXの説明



 その日のお昼。


 『全能神神殿』の中庭の木陰で、お勉強会となった。

 俺とミーヨが探していた『伝説のデカい樹』の(こずえ)の下だ。


 俺たちの旅の最終目的地だ。意外と近かったよ。


 ……あの『全知神』という女神様は、なんだって「『伝説のデカい樹』を目指すがいい」なんて言ったんだろ?


 特に何もなかったよ。


      ◇


「始めていいかな?」

 講師役はプリムローズさんだ。


 俺が頼んで『女王国』の全体の地理や、これから行く予定の『王都』についての、講義をお願いしたのだ。


 午前中、彼女は何かを『神殿』から受け取ったらしくて、場所をここに指定されていたのだ。

 ところで何貰ったんだろ? 訊いても言葉を濁して教えてはくれないしな。まあ、そのうち分かるか。


 生徒は俺とミーヨとラウラ姫。ドロレスちゃんにシンシアさん。ヒサヤもいる。


 顔ぶれを見て、『服の仕立て屋』に来てなかった黒髪の美少女シンシアさんにも、何か服を仕立ててあげたかったな……と、ふと後悔した。あ、ヒサヤもあの時いなかった。彼女にも。


 でも、彼女たちが着てる『巫女見習い』の服って、フツーのお店じゃ買えないらしいんだよな。『神殿』内部に、服とか神秘的な白いヴェールとかを作ってる「工房」があるらしいんだよな。


 そんな事を考えてると――



    パキン!



 指を鳴らす、景気のいい音がした。


「★水玉っ☆」


 ミーヨが「水汲み」の時によく使う『魔法』だ。

 ちなみにコレをアレンジした雨除け用の『★星の雨傘☆』って「魔法の傘」もあるらしい。


 でも、なんなんだろう? いきなり。

 

 しばらくすると、どこからか……虹色のキラキラ星にくるまれたバレーボールくらいの水球が飛んで来た。

 

 水球は、ちょっと緑かがっていた。どこから汲んだ水なんだろ? 

 『冶金の丘(このまち)』を囲んでる『(ほり)』からかな?


「さて、これが『この世界(アアス)』だとしよう」


 プリムローズさんが水球を指して、説明を始める。


「……?」


 どゆこと? 地球儀的な意味で?


「「「「「……(平然)」」」」」


 みんなは、驚いた様子もない。


 『この世界(アアス)』が丸い球体だという認識があるらしい。

 てか、前にミーヨもチラッと言ってたな。『神殿学舎』とかで教えられてんのかな?


 でも、ただの丸い球体だ。


 この惑星には、周囲を取り囲む『みなみのわっか』とか『南の弓』とか呼ばれてる「(リング)」があるはずなのに。残念ながら、そこまでは再現出来ないみたいだ。


「★描線っ☆」


 プリムローズさんが、白く光る『魔法』の線で、水球に「X」を描いた。


 そんな3Dマッピングみたいな事出来るのか?

 見ると、みんなも多少の差はあっても驚いてるようだ。かなり珍しい『魔法』らしい。


 ところで、その「X」って、なんなんだろう?


 水球が『この世界』を表す仮の惑星儀だとすると……その位置は「北半球」だ。


「この線が『永遠の道』。それで、これをずーっと延長してみよう。それぞれが『この世界』をぐるっと一周していて、世界を大きく四分割してるのが分かるね?」


 水球が、表面に描かれた白い線で四分割された。

 先日『代官屋敷』でちょっとした騒ぎになった『化物(ケモノ)』の「卵割」の四等分みたいな感じだ。


 でも、誰がどうやって「こうだ」と確認したんだろ?


「これは『七人の巫女』が『全知神』さまや『全能神』さまからの『お告げ』の中で見る幻影(まぼろし)のようなものらしいよ」


 なるほど「神様」か。


 『幼○戦記』で言う「存在X」か? くるみ割り人形か?

 てか、俺からすれば「地球外知的生命体」だよ。


 だとすると、衛星軌道上……もっと遠くの「宇宙空間」から見た様子か?


 関係無いけど『ゆる○ャン△』で、志摩○ンが『超古代文明Xの謎』って架空の本を読んでた記憶があるな。あと『UFO遭遇ファイル』とか『徳川埋蔵金』に関する本も読んでた記憶があるな。……なんで、こんな小ネタ覚えてんだろうな、俺。


 それはそれとして、とんでもない規模の、とんでもない話だ。


 聞いてはいたけど『永遠の道』って本当に「惑星周回道路」だったのか?


 とすると「X」の反対側の、惑星の裏側の対蹠地(たいしょち)にも、同じような「X」がもうひとつあるんじゃね?


 そんで、この「惑星」を『五等分の花……イヤ、丸い果実を四等分したみたいになってんのか?


 ……ちなみに、俺の推し順は「三・二・五・一・四」だ。

 てか、ぶっちゃけ○玖の単推しです(笑)。


「東が『太陽の大洋』。南が『美南海(みなみ)』。西が『再会の西海(さいかい)』。北が『北方海面(きたかたかいめん)』だね」


 四分割された「海」には、それぞれ変な名前がついてるらしい。

 てか、俺の『脳内言語変換システム』は相変わらず、どーかしてるぜ。


 それはそれとして、『この世界』は完全に「水の惑星」だ。


 海ばっかだ。


「それぞれに水の色が異なるそうだよ。そして『この世界』の『空を飛ぶ生き物』って『永遠の道』による海洋分断を飛び越えるために、空を飛べるようになった海の生き物だ、って説がある」


「「「「へえー」」」」


 なんとなく、みんなで相槌を入れる。


 前にプリムローズさんが『永遠の道』の事を『海洋分断線』って呼んでたけど、こういう意味だったのか。


 そんで『この世界』そのものを四等分してるって言うんなら……それって、やっぱり「物凄く長い時間をかけて、海底から盛り上がった」んだろうな。


 構造的にはどうなってんだろ?

 長城とかダムみたいなってんのか? ダム壁って水圧に耐えるために湾曲して……イヤ、両側から同じくらいの圧がかかって相殺されてるだろうから、その必要ないか。


「と、こんな感じ。我々の居る惑星の広さはまだ正確に判っていないんで、話の規模を縮小するよ」


 映像が替わった。

 現在判明してる、だいたいの「大陸地図」らしい。


 やっぱりその中心は「X」だ。

 陸地はその左側(西)と下側(南)に(かたよ)って広がっているみたいだ。


「陸地だね。主に、海からの風や波で打ち寄せる砂や生き物の骨やら貝殻なんかの堆積で出来てるらしいよ」


 そうなのだ。

 『女王国』のある大陸は、『地球』みたいに造山運動とかプレートテクトニクスで出来てるワケじゃないらしいのだ。


 色んな人に訊ねても、誰も「火山」や「鉱山」を知らないのだ。


 アニメみたいに悪漢に追いかけられたり、悪漢を追いかけたりして「坑道」でトロッコ・チェイスとかは出来そうにないのだ。……しょんぼりだ。


 ただ、場所によっては、地下から「石灰岩」の切り出しとかやってるらしい。

 俺とミーヨが育ったという「ボコ村」は、すり鉢状のクレーターの形をしているそうだけど、ミーヨに詳しく聞いたら、大規模な「石切り場」の跡地らしいのだ。


 そして、『この世界』の人たちが使ってる金属類は、『魔法』や俺の『錬金術』みたいな方法で、何処からか持ち込まれた物らしい。


 その「供給源」のひとつとされてるのが、『星葉樹』が「変態」する『枯木(こぼく)』って事らしい。


 中には。「鉄」やら「銅」やら「銀」に成る樹もあるらしいのだ。

 とすると、ますます『星葉樹』って植物じゃねーな。何か別の物だ。


 あとは、『空からの恐怖』である『隕石』らしい。

 金属資源回収用の耐熱バケットみたいなのが、宇宙から落ちてくるのかも?


 プリムローズさんは「X」を指す。


「これが、『女王国』の地理の最大の特徴である『永遠の道』の『大交差』だね。ここに『王都』がある」


 『永遠の道』って、『王都』でクロスしてたのか……それが「X」の正体か。


 そんでもって、その「X」の周りに陸地が凝り固まってるって言うんなら、俺たちが今いるところって「金網の目のすみっこ」にこびりついた「水垢汚れ」みたいなものなのか?


 ……なんか泣けてくるな(泣)。


「そして『王都』は『全知全能神神殿』がある神聖な場所でもある」


 へー、そーなんだ? そんなのあるんだ?


「なにしろ『この世界』の始まりの地。『方舟に乗り込みし人々、目覚めし時には、この地に立てり』と言うのは、まさにこの『大交差』の事なんだよ。それがいつか? と訊かれると、数千年前というだけで、はっきりしないんだけどね」

 プリムローズさんが淡々と言う。


「……へー」


 つまりは「聖地」なわけだ。

 とすると、ミーヨや『神殿』の人たちがよくやる「おまじない」の「X」のモトネタってコレっぽいな。


 『この世界』の人は、『地球』のキリスト教徒が「十字を描く」みたいに、色々な場面で「X」印を描く。


 それこそ、パンに入れる切れ目や、服や靴紐の結びまで、わざわざ「X」にしてる。

 ミーヨのおでこを全開にしてるヘアピンも「X」のカタチに留めてある。『小惑星金貨(アスタ)』にも、この「X」が刻印されてる。


 そう言えば、髪に「X」のアクセサリつけてるアニメキャラって、意外と多いけど……男の子はどうなんだろうな。ついつい某ラブコメの主人公君が、頭に浮かぶよ。


「『女王国』の前身の『かすてら・のばぁ』が建国されたのは、約400年前。『永遠の道』の『大交差』という要衝を押さえて、そこに『都』を建設したわけだね」


 次に、上下左右に対応させて、北・南・西・東と方角を書きこむ……もちろん『この世界』の言葉と文字で。『魔法』で、だ。虹色のキラキラ星が見えてる。


「見ての通り、南北の緯度の線。東西の経度の線に対してナナメになっているのが分かるだろう?」


 なんとなくだけど『永遠の道』って、この惑星の経線か緯線をなぞってるのかと思ってたけど……違ってたのね?


 だから、「X」なのね?


 プリムローズさんは、「X」のそれぞれの方向に伸びる線に、ちょんちょん、と点を打っていく。「都市」かな?


「右上に伸びるのが『北東路』。主な都市は……説明はいらないだろう、『冶金の丘(ここ)』だ」


 プリムローズさんは一旦言葉を切って、理解したか? って感じで俺を見た。

 そのくらいは、さすがに俺でも分かるよ。


「右下に伸びるのが『南東路』。突き出た半島沿いに進むと、大陸最大の港湾都市『美南海(みなみ)水都(みなと)』がある」


 『美南海の水都』って、『裸んぼの渚』があるってとこだな……ヌーディスト・ビーチが売りの、ただの観光地かと思ってたよ。


 ちなみに俺、アニメの男性キャラの「男◎首」は「いらない派」です(笑)。正直、必要ないと思います。ハイ。

 でも、女性キャラのは「謎の光」で見えないもんね。フツーは。


「で、左上には『北西路』が伸びて、西方防衛の拠点『鐘楼の街』がある。ここは『森』に例えられるくらいに『鐘楼』がいっぱいあるらしいよ。で、その先には外国だ。四角い『西の七国』がある」


 『鐘楼』って「鐘のある塔」の事だな。

 でもって、防衛拠点って「タワーディフェンス」か? なんかゲームみたいだ。違うだろうけれど。


 そして、その先は「外国」か。

 四角い『西の七国』って意味不明だ。そもそも何がどう四角いんだ?


「……」


 ふと見ると、ヒサヤが物思いに沈んでる。

 まだ11歳の彼女には不似合いな暗い顔だ。どうしたんだろう?


「左下へは『南西路』。こっちには『銀の都』がある」


 『王家の秘宝』探しの時の暗号詩(?)では、「金は銀に」ってあったよな? お金持ちがいっぱい住んでるのか?


「……」


 今度はドロレスちゃんの表情が微妙だ。

 『銀の都』に、知り合いでもいるのかな?


「以上が女王国の四大都市だね。『王都』は含めず」

「あれ? たしか『七人の巫女』が派遣される都市って、七つじゃないんですか? 『王都』も含めて」


 俺が訊ねると、プリムローズさんは頷いた。


「うん。そうだね。他の二つは『永遠の道』から大きく外れた場所にある」


 そこには、交通や水道のインフラが無いワケか。不便だろうな。


「ひとつは、『王都』のほぼ真南にある『万緑(みどり)(あか)』。草原の中にある街で、建物がみんな赤いらしい。万緑叢中紅一点ばんりょくそうちゅうこういってんってヤツだね」


「「「「……?」」」」


 何故か、みんなの反応が不自然だぞ――と思ったら、

「あ、ごめん。今のはウソ」


「「「「む?」」」」


 みんな、ラウラ姫みたくなってる。


「ホントは(みどり)色の海『美南海(みなみ)』に浮かんでる島の事だ。特産品は『赤茶(あかちゃ)』」


 そゆことね。


 みんな、それを知ってて「え?」って思ったんだろうな。

 そしてきっと『赤茶』の赤い花のせいで、島中真っ赤なんだろうな。


 ちなみに、『赤茶』には『黄金茶(ごんちゃ)』という上位品種があって、●(液体)そっくりらしい。

 何でも、『赤茶』の赤い花の中にある「黄金のおち○ちん」みたいなトコロ(黄色いおしべ)を集めて乾燥させたものだそうだ。「同じ重さの金よりも高い」らしいから、めっちゃ高価なんだろう。


 この下品な話は、養女に出されたとは言え、この国の第七王女であるドロレスちゃん(12歳)に教えてもらった。


 あと、その時に俺が「ルフラン」と勘違いしてたモノの正体は「サフラン」と言う名の『地球』の香辛料だと、『前世の記憶』を持つプリムローズさんから教えてもらった。


 サフランの方は「花のめしべ」で、香辛料の他に黄色い染料としても使わてるらしい。


 ルフランの方は、フランス語の「リフレイン」らしい。ルフランとは別なアニメに登場したヤバい薬物も「リフレイン」だったな、そう言えば。


      ◇


「もうひとつは、『王都』の遥か北にある『死の廃都』……って聞いて、どんな街を想像する?」

「名前だけで……人は住んでるんですよね?」

 俺がそう言うと、

「まあ、そうなんだけど……面白くない解答だね」

 つまらなそうに鼻白んでる。


 ええやん、おもろなくても。今回、説明回やし(笑)。


「なんでも2千年ほど昔に、空から『月の欠片』が落っこちて来て、元々あった都市が壊滅したらしい」


「「「「ええっ?」」」」


「うん」


 みんなの驚きのリアクションに、プリムローズさんが満足そうだ。


 にしても、そんな話が伝わってるのか?


 怪鳥や翼竜なんかの『空からの恐怖』どころじゃない。無茶苦茶な話だ。

 てか、そんな小惑星みたいなものが落ちてきたら、地上はメチャクチャになるんじゃねーの? 惑星規模で大量絶滅起きるよ? 「コロニー落とし」か「セカンド・インパクト」みたいな事に成るよ?


「なんでも、当時の『巫女』が『北風が冷たいから、防いで欲しいです』って神様にお願いしたのが原因らしい」

 プリムローズさんが、さらりととんでもない事を言う。


「「「「えええっ!?」」」」


 『全知神』や『全能神』という「現役の神様」がいる『この世界』では、「『神授祭』の夜に『伝説のデカい樹』の下で『巫女』が祈った事は必ず叶う」らしいけど……「お願い」の方はともかく「その結末」が無茶苦茶過ぎる。


「壊滅といっても、生活の基盤が、という意味で、『都』の傍にあった大河が『月の欠片』で()き止めらて、生き物が棲むのに適さなくなって、見捨てられて、『廃都』になったそうだよ」


 その言い方だと、地上にそれ以外の被害は無かったらしいけど……。

 どうやって、そんなものを衝撃波も発生させずに「着地」させたんだ?


 俺様の皮膚(すはだ)に展開されてる謎バリアー『★不可侵の被膜☆』でもない限り……って、そーかも。


 てか、俺のが、その劣化バージョン……イヤ「縮小バージョン」かも。そんな気がする。


「その後に、何かきっかけがあって、また人が住むようになったと?」

 シンシアさんが興味深そうだ。


「うん、二十年ほど前に、お金になるものが見つかったんだね」


 『月の欠片』だし、宝石か貴金属が発見されて、「ゴールド・ラッシュ」みたいな事になったのかな?


「畑の肥料があったらしい」


 月の欠片にか?


「落雷が多いとか、人が住まなくなって『ケモノ』や『空からの恐怖』が棲みついて、そのフンが堆積してたとか、ダイオウフンコロガシの一大群生地があるとか、いろいろ言われてるけど……はっきりとは分からない。私も行ったことがないから」


 ウ○コかよ。


「ウ○コですか」

 呟いたのはドロレスちゃんだった。


 久々のウ○コネタに食いついてきたな。

 てか、『固体錬成』とかやってる俺に、どうこう言えたこっちゃないけど。


 確か『地球』にも、鳥の糞が何万年分も降り積もって「化石」になったっていう石だか砂だかが、あったはずだな。


 グアバ? グアノ?

 なんか、そんな感じの名前だったような(※うろ覚え)。


「ああ、食事中だった。申し訳ありません、殿下」


 実はラウラ姫がそうなのであった。ずっと食べっぱなしなのだ。


「……んむ」


 何か食べ物が口の中に入ってて、いつもの「うむ」が言えないらしい。


「ところでシンシア。父君から聞いてないのかい? 君の父君が活躍した『ケモノ』の暴走事件は、『死の廃都』奪還作戦の失敗が原因だったんだよ?」

 プリムローズさんが、そんな事を言いだした。


 シンシアさんの父君は、元・獣耳奴隷だったそうだけど、何かの手柄で奴隷身分から解放されたって聞いてる……その件かな?


「いえ、父はその手の武勇伝が嫌いらしくて、本人の口からはさっぱり……。ただ、周りからは、『王都』を守って立派に奮戦したとは聞かされていました」

 シンシアさんが控え目に言った。


「うむ! 『先生』は『ケモノ』の大群に立ち向かわれて、一人で百頭以上の『ケモノ』を討ち取ったそうだ」


 自分の剣術の先生が活躍した話が出たせいか、ラウラ姫がやたらと嬉しそうに言った。


「そのお嬢さんも、先日『シャクレオオカミ』を弓矢で見事に仕留めましたしね」

 俺はシンシアさんに向けて言った。


 彼女には、俺の「*」が『ケモノ』に「(ぴー)」される寸前で助けてもらった恩義があるのだ。


「いえ……あれは」

 シンシアさんが困ってる。


「あの節は、お助けいただき、ありがとうございました」

「いえ……そんな」


 シンシアさんが俯いて、肩を小刻みに震わせている。


「「「ぷっ」」」


 みんなが噴いてる。


 きっと、あの時の俺を思い出して、笑ってるんだろう(泣)。……言わなきゃ良かった。


「話が逸れましたね。プリマ・ハンナさん。『授業』の続きを」


 顔を上げると、シンシアさんは予想通りにこやかな笑顔だった。


 そんな素敵な笑顔が見れるんだったら、俺は貴女の矢を何本でも「*」で受け止めますよ(※わりとマジ)。


      ◇


「それで、『北風が冷たい』とか言ってましたけど、『死の廃都』よりも北側ってどうなってるんスか?」


 なんとなく気になって質問してみた。


 『地球』だと「寒帯」とか「亜寒帯」とかの区分があるんじゃなかったっけ?

 ミーヨの弱点は「耳」だけど……それは今はいいか。


「『死の廃都』の北の『月の欠片』のさらに北には『大断絶』があるそうだよ。さらにその向こう側の、『北方大三角』全てを支配するのが『北の帝国』だね。『女王国』とはあまり仲が良くない」


「『断絶』って何なんっスか?」

 言ったのは俺だ。


 壁か?

 その向こうには、熊が棲んでるのか? ガウガウ。


「『大断絶』だよ。『月の欠片』のさらに北側にある、東西にまっすぐ伸びる海峡だよ」

 プリムローズさんがそう答える。


 なんだろう?

 直線的な大地の裂け目ってことなら、「地溝(ちこう)」?


 でも、『地球』のそれは、「プレート境界」とか「断層」のはずだから、『この世界』ではどうなんだ?

 何か別な要因で割れて、裂けてんのか?


「『北方大三角』と言っても『全知神の三角』と違って上向きの三角形だけどね」

 プリムローズさんがそう言うと、

「『全知神の三角』の名を出すのは不適切ですよ、プリマ・ハンナさん」

 反論したシンシアさんのお顔が、ちょっと赤い。


「そうだね。ジンがいた」

「……」


 イヤ、残念ながら俺は『全知神の三角』なんて知らないよ。

 なんかエロい事なの? シンシアさん、めっちゃ恥ずかしそうだよ?


「とにかく、巨大な三角形をした亜大陸なんだよ」


 なんか、テキトーに誤魔化そうとしてる。

 つまり、『地球』の「インド亜大陸」みたいな?

 でも、海峡で分断されてるらしいしな。


 『女王国』の『王都』が「X」。

 四角い『西の七国』に『北方大三角』。

 遥か東の海上には、まん丸い島『東の(つぶら)』があるらしいし。


 つまり、「X」と「□」と「△」と「○」?

 この4つの図形の組み合わせって、なんなの?


 何かのコントローラ? ふざけてんの?


 あと、ラウラ姫が、自分の名前を間違えて「ラララ」って言う事があるよ?


「『北の帝国』って『女王国』と仲悪いんじゃないの? 何度も戦争してるんでしょう?」

 ミーヨがそんな事を訊ねた。


「うん、歴史的にね。『女王国』の前身の王国『かすてら・のばぁ』の男系が断絶して、『北の帝国』に(とつ)いでいたお姫様が戻って来て女王に即位した。それが『女王国』の名の由来に成った初代女王ロザリンダ一世陛下なんだけど」


 ロザリンダって「初代女王」の名前なんだ? ……へー。


 ふと思い出したけど、『機○戦士ガン○ムTHE ○RIGIN』に「ロザリンダ」って「名前だけ」出て来た気がする。……これもまた凄い小ネタだな。


他所(よそ)の家に嫁入りした女性が、実家に戻って実家を継いじゃったから、嫁ぎ先といろいろモメてね。いわゆる『継承権戦争』で何度も戦う事になったんだよ」


 なんか下世話な言い回しだけど、『地球』のヨーロッパでも色々あった王家の跡継ぎ問題にかこつけた戦乱か……庶民にとっては迷惑この上ないな。


「そして、その度に負けて、兵士が取り込まれてるから、向こうはこっちに反感を抱いているようだよ。領土欲の旺盛な国で、人の住めないような森や氷雪の地まで自分の領土だって言って、威張ってるしね」


 プリムローズさん自身も、あまり好意的な印象を抱いていないらしい。


「あのー、兵士が取り込まれてる、とは?」

 シンシアさんが質問してる。


「戦争って、相手国の奥深くまで侵攻すると、補給線が伸びて続行が困難になるんだけど」


「「「「……?」」」」


 みんな、あんまりピンと来ないらしい。


「……育ち切った『星葉樹』の『枯死(こし)』みたいになるわけだよ」


「「「「……なるほど」」」」


 その「例え」で納得しちゃうのか? 俺にはそっちのが理解出来ない。


「それで撤退する時に、負傷兵なんかの敗残兵が取り残されてしまう事が往々にしてあるんだけど……。それを、女王陛下が『寛大な措置』を与えて、そのまま『女王国』に住まわせちゃうんだよ」


「「「「……へー」」」」


 その血統が入って、元々は『地球』の全人種の特徴が入り混じったような『女王国』の人々の中にも、金髪で青い目で白い肌のコーカソイド系の特徴を持つ人が生まれるようになったらしい。今いるメンバーも、明らかに日本人系統のシンシアさんを除くと、みんなコーカソイド系だもんな。


 でも、なんか呑気な戦争だ。

 どっかゲーム感覚なのか?


 『この世界』では大抵の人が、『魔法』を使える。

 でも、かつて『この世界』にあったらしい超古代文明の遺物と思われる『世界の理(ことわり)(つかさ)』によって、直接『魔法』で生き物を攻撃する事が禁じられてるそうだから、本気のガチな戦争にならないのかも。


      ◇


「それで、プリちゃん。これから行く『王都』ってどんな感じの都市(まち)なの?」

 ミーヨがちょっと不安げだ。


 俺たちが生まれた場所らしいけど、居たのは4歳までって話だからな。ぜんぜん知らないのと同じだ。


「うん。『王都』は、『永遠の道』の『大交差』のX印に対応して、東・西・南・北と大きく四つの街区に分かれている。規模からすると、街区のひとつひとつは『冶金の丘(ここ)』よりもずっと大きいよ」


 大都会か。賑やかそう。


「ただ、『王都』と言う名は、約400年前に『かすてら・のばぁ』がその辺り一帯を征服して、『王宮』を築いてからのものなんだ。それ以前は別な呼び名だったらしいけど……正確な伝承が無くてね」


 なんかあいまいな事を言ってる。


「唯一無二の土地として、『()の地』とか言うあいまいな呼び方で通じていたらしいんだ」


 某国のSDFも超次元なゲートをくぐって、異世界で()くのごとく戦ったようだけど……俺は、あの作品に登場する「黒髪の子」が好きだったりする。でも、ロ○リィじゃないよ? ちょっとマニアックだけど、自衛官の「黒川さん」だよ(笑)。


 俺の「黒髪ロング」好きは、「アニメ由来」かなあ……と思いつつ、黒髪の美少女シンシアさんを見てみる。……肝心の黒髪が、『巫女見習い』の白いヴェールでほとんど見えない(泣)。


「呼び名はともかく、数千年前の、いちばん最初の成り立ちから言うと……みんな知っての通り、『永遠の道』からは水が湧くけど『大交差』の辺りは、その湧き出す水量がハンパじゃなくて、水浸しの湿地帯になってて、人が住めない土地だったらしいよ」


「「「「ふうん」」」」


「でも、さっきも言った通り、『方舟の始祖さま』たちが降り立ったすごく特別な土地だから、すぐに『神殿』が建てられたそうだけどね。半分水没した『星葉樹』の森があったそうで、そこの樹上に、木造の家を建てたらしい。それがよく聞く『伝説のデカい樹』だね」


 へー、『伝説のデカい樹』。


 でも、前にドロレスちゃんが、

「伝説のデカい樹の枝にある木の上の家で愛の契りを交わした二人は永久に不滅になれる」

 とか言ってたな。


 それって……この事か?


「……(ニカッ☆)」


 ふと見ると、ドロレスちゃんが俺に向けて笑っていた。


 彼女も、「あの話」を思い出してるらしい。

 でも、そのツリーハウスって『神殿』じゃん。『神殿』って「性交禁止」じゃないの?


「それが今の『王都』の最初の原型……『全知全能神神殿』を中心とした『南の街区』。南側に開けた地形だから、湿地の干拓が比較的楽だったらしい」


 たしか、『全知全能神神殿』って「岩に突き刺さったままの聖剣」があるらしいんだよな。


 イヤ、聖剣じゃなくて『選王剣』だったかな?

 抜くと王様に成れるらしいけど……誰でもいいのかな? 王家の血をひいてないと、無理だろうな。


「とても大きな『神殿』はあるけど、今ではもう庶民の街だね。旧市街で、他とは少し雰囲気が違うし、『王都』の街区の中でも、いちばん広いよ」


 実は『南の街区』にはシンシアさんの「ご実家」があるらしいんだよな。行きたいよ、ご挨拶に。そして、お部屋見たいよ(笑)。


「さっき言った約2千年前の『月の欠片』の落下によって、それまで便利で快適に暮らしていた『古き良き都』が『死の廃都』になってしまって、多くの人が移り住んだらしいんだ」


 天変地異でお引っ越しを余儀なくされたのか。


「苦労しながら排水路を作って水を抜いて、土地を乾かして、市街地を建設したらしいよ。もっとも、その後も排水が追い付かなくて、数百年がかりで大きな人造湖や運河も造られた。終わりなき水との闘いだね」


「とか言いつつ、水路の表面塗装はヌメヌメスベスベとか言う生き物が勝手にやってるんでしょ?」


 別に『この世界』の人間が、苦労してコンクリートとかで塗り固めてるわけじゃないらしいのだ。


「ああ、あれね。苦手な人もいるから、あんまり名前は出したくないんだけど……その通りだよ」


 そう言う本人も、あんまり好きではなさそうだ。

 ミーヨも、パン工房のスウさんもヌメヌメスベスベが嫌いだし、女子に不人気なのだ。


「……ぼそっ(ヌメスベちゃん)」


 誰のつぶやきだ?

 ラブな波動がこもってたな。


「そうして築かれたのが『西の街区』。『大交差』は、この大陸最大の交通の要衝だけに、各地から実にいろいろな物や人が集まっては、また散っていく。だから『王都』は『国際都市』だし『商業の大都』とも言えるけど、その中枢だね。色々な商店が連なった『通り』が何本もある。あと色々な工房も立ち並んでるから、商工業区といった感じかな。いちばんは『空からの恐怖』や『ケモノ』と戦うための武器工房だね。『魔法式空気銃』の生産は大陸一らしいよ」


「「「「へー」」」」


 そう言えば、『冶金の丘(このまち)』で作ってる「鉄パイプ」みたいな物が、『王都』に出荷されて『魔法式空気銃』の銃身に加工されてるって話を聞いた事がある。


「商工業が発展して各地から人が集まると、それを受け入れる宿やら飲食店街やら歓楽街が出来上がる」


 第三次産業の大人のエンタメ部門か? どんなだろ?


「そして最後に……」

「異世界『地球』から征服者がやって来たわけですね?」

 俺がそう言うと、


「「「「……!」」」」


 みんなにぎょっとされた。


「そうなんだけど……殿下を目の前にして……あ、眠ってらっしゃるのか」

「確認してから言いました」


 その子孫のラウラ姫は、今おむね……イヤ、「おねむ」なのだ。


「あたしもいるんですけど」

「……ごめん。そうだった」


 忘れてた。

 ドロレスちゃんも養女に出されてるらしいけど、その子孫だった。


「……約400年前に『かすてら・のばぁ』によって征服されたこの地の、空いていた北側に築かれたのが『王宮』。その『北の街区』には、人造湖と運河と『王宮』の宮殿群。そして貴族の邸宅街がある。官庁街もここ。『女王国』の中枢部だね」


 へー、どっかに割り込まずに、空いてるところに収まったのか。

 街の成立順でいくと、南・西・北か。


 ん?


「あれ? なんか抜けてませんか?」

「うん、『東』だろう? だから、人が集まる宿やら飲食店街やら歓楽街って言うのは『東の街区』の事……だったんだ」


 過去形だ。


「……それって」

 言いかけて、ハタ、と気付いた。


「12年前の『王都大火』?」

 ミーヨがズバっと言った。


 大丈夫なのか? 辛くないなのか?


 彼女の実家オ・デコ家は、『王都大火』の火元扱いされて、その後に見る影もなく没落しているらしいのだ。平気なわけない。


「ああ、そうだ。『東の街区』は『大火』の後、焼け野原になった。そして現在も、復旧は進んでいなくて、『道』に面した部分にだけ、建物がある……誤魔化しの張りぼてだけどね」


「「「「…………」」」」


「で、さらに言うと、殿下のお住まいの『宮殿』は、もともとオ・デコ家の広大なお屋敷跡の一画に……燃え残りの廃材を利用して建てられんんだ。そのため、口さがのない連中からは『焼け跡屋敷』とか『亡霊宮殿』と呼ばれている」


「…………」

 プリムローズさんの遠慮のない言葉に、ミーヨは複雑な表情で黙り込んだ。


 彼女こそ、その「オ・デコ家」の長女なのだ。


      ◇


「ジン!」


 講義も終わって、みんなが解散してから、プリムローズさんに呼び止められた。


「ハイ。なんスか?」

「さっきは言わなかったけどね。『女王国』ってどんな国だと思う? ああ、いや、全体の印象じゃなくて、なんていうかな? 国としての大きなな(くく)りで」

 そんな事を質問された。


「……女王様の専制国家とか? そういう事っスか?」

「うーん。そっちじゃなくて、産業面で」

「ああ、先進……じゃなくて、工業国とか農業国とかの括り?」


 「先進国」と言いかけると、がっかりしたような表情をされたので、途中で言い直しましたよ。


「うん。どっちだ?」


 子供に訊くような調子だ。


「その二択なら……農業国っスか?」


 今俺たちがいる『冶金の丘』には金属加工の工房がたくさんあるけど、規模はそれほど大したことはない。

 なのに『女王国』最大の工業都市扱いなので、どう考えても工業的に発展した国とは考えにくいのだ。


「うん。実はそうなんだ。この国の最大の産業は農業だ。で、その農業を下支えしているのは、どんな人たちだと思う?」


 プリムローズさんの言いたい事はつまり――


「『この世界』に『蒙古斑』がついて生まれて来た人たち……っスか」

「そうだよ、『獣耳奴隷』だ。つまり」


「あ、ちょっと待ってください!」

「なんだい?」


 言葉を遮ってしまったので、ちょっと不機嫌だ。


「俺たちって『前世の記憶』を持ってるじゃないっスか? 『地球』の『日本』の?」

「そうだね」


 はっきり肯定した。やっぱりそうなんだ?


「『魂』の輪廻とか転生とか、正直よく分からないんスけど、その……プリムローズさんが言う『巨悪』が主張する通りに、前世で罪を犯した人間が『この世界』に生まれてくる時に、本当に『蒙古斑』がつく――って事は、ないんですか?」


 最初に「それ(・・)」を聞かされたのは、ミーヨからだったので、心のどこかで彼女の言う事を信じたい気持ちが強いのだ。


「『ない』と思うよ。君は多分『この世界』のいろいろについてミーヨから教えてもらっているだろうけど、彼女が騙されてウソを教わっている事だって、あるんだよ。現にこの間の『宝探し』で『夏至』の事をぜんぜん知らなかったでしょ?」


「……」


 そう言われると、確かにミーヨはごく単純に『夏至』の事をこの国の休日の『絶対に働てはいけない日』だと思い込んでいた。


「それとね、ここは『全能神神殿』だから、古い文書がいろいろあるんだけど、いちばん代表的な『神行集』という書物には、赤ん坊のお尻に出来る青いアザの事も、それがついて生まれて来た子を、将来『奴隷』として扱え――なんてどこにも書いてないんだよ」


 じゃあ、いつ頃、奴隷制度なんてものが生み出されたんだろう?


 それを訊こうとした時だった。


「ジン! プリムローズ!」


 ラウラ姫が俺たちを呼ぶ声がして、話はそれまでになってしまった。


      ◆


 説明回はたいてい面白くない(弁明)――まる。

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