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043◇オーダー! 服を、オーダー!


「え? 正装!?」

 言われて俺は、訊き返した。


「うん。ジンくん持ってないでしょ? 正装」

 精○なら持ってますけど……多分、違うだろうな。

 『女王国』の男女が公式の場で着るフォーマルな装いの事だな。意味かぶってるな。


「まあ、このあいだの夜会の時は借り物だったしな」

「うん、『王都』に行ったら、絶対に必要になるから、今のうち『冶金の丘(ここ)』で仕立てておけって、プリちゃんが」

 プリムローズさんが、ミーヨにそんな事を言ったのか、ふむ。


「やっぱり、貴族のご令嬢が着るような……キラキラした感じの」

 俺が言うと、ミーヨは慌てて否定した。

「わ、わたしじゃなくて、ジンくんのだけでいいよ」


「そんなこと言うなよっ。ミーヨが買わないんなら、俺も買わないぞっ!」

 ちょっと可愛く、そう言ってみた。


「もー……しょうがないなあ」

 意外と乗り気なようですけど?


      ◇


 スウさんのパン工房に居た時は、朝から晩までスウさんにこき使われていたし、その後ちょっとお世話に成った『全能神神殿』では、奉仕活動とかいう名目で、『宿泊房』で寝泊まりした分を働いて返して来た。


 でも『代官屋敷』に移ってからは、完全に「お客様」扱いで、やる事も無くて急にヒマになってしまったのだった。


 屋敷にいる馬を借りて、馭者の練習はしてるけど、そんなに大きな街じゃないし、大きくて真っ白い『俺の馬車』は目立つので、なるべく人気のない時間帯にこそこそやってる。

 具体的には「お昼時」だ。

 みんなお昼時には、ぴたりと仕事止めて家の中でくつろいじゃうので、好都合なのだ。


 『王都』に旅立つ準備は整いつつあるけど、ラウラ姫がこの街に来た最大の目的の『佩刀』の完成がまだなので、それ待ち(・・・・)的な空白状態にあるのだった。


 ラウラ姫と汗を流したり(※剣術の基礎体力作りです)、プリムローズさんから『この世界』について少しずつ話を聞いたり、ミーヨと汗を流したり(※詳細は非公開)、さらにラウラ姫と汗を流したり(※『見届け人』には公開)……。


 いろいろあって俺たちが助けた、3人の獣耳奴隷の女の子たちの様子を見に、スウさんのパン工房を訪ねたり、一人だけ『癒し手』として覚醒して『神殿』の『巫女見習い』となったヒサヤの様子を見に行って、ついでに黒髪の美少女シンシアさんとお会いしたり……それまでのドタバタした日々に比べれば、割とのんびりしたこの二日間だった。


 しかし今日。


 いよいよ決戦の時が来たのだ!(※ウソです)


      ◇


「じゃ、お借りします」

「あいよ、気ィつけてね」

 馬丁のおっちゃんに挨拶し、俺たちは「街乗り」用の一頭立て二輪馬車を借りて、『代官屋敷』を後にした。


 二輪馬車は、プリムローズさんに言わせると、『地球』の古代にあった「戦車(チャリオット)」にそっくりらしい。

 古代ローマでは、これを四頭立てで()いて『戦車競走』とかやってたらしい。なんか映画で観たことがあるような気もする。


 でも『戦車』って言われて、俺が真っ先に思い浮かぶのは『ガ○パン』だしなあ。


 中でも『ヘッツァー』がいちばん好きだけど……アレって厳密に言うと「軽駆逐戦車」とかで、主砲も固定されてて旋回しないんだよな。

 俺様の主砲は、それはもうグルグル旋回するけど。

 …………。

 ……。


 そ、それはともかく、『この世界』のチャリオットは、車輪まわりと装具を除いた本体は『竹』で出来ていた。シルバーならぬバンブーなのだ。

 『西』のどこかの国からの輸入品らしい。

 最初はびっくりしたけど、乗ってみると全体的に独特な「しなり」があって、乗り心地は良い気がする。


 ただ、「街乗り」用の軽便で快速な馬車のハズなのに……ぜんぜんスピードが出ない。


「「「「「狭っ!」」」」」


 乗り過ぎだ。


 立ち乗りで二人乗り用なのに、5人ってなんなんだ?


 ああ、密着して気持ちい……イヤ、暑苦しい。

 今日から『地球』の7月に相当する『深緑の日々』なのに。

 日本じゃ夏アニメが始まる時期なのに……観れないけど(泣)。


 途中、

「お先~(笑)」

 荷馬車に追い抜かれたよ(泣)。


      ◇


「ここですね。きちんと採寸して、注文通りに仕立ててくれます」

 まだ12歳のドロレスちゃんだけど、ずっと『冶金の丘』で育って来ただけに、いろいろ訊いたら、いろいろ詳しかった。

 で、彼女の案内で『服の仕立て屋』に来た。

 ちょっとお高めのオーダーメイドの店だ。ここで俺様の正装をオーダーするのだ。


「うむ、では参ろう」

 ラウラ姫は何故か俺と『決闘』した時と同じ、クラシック・バレエの王子様みたいな白と金の服装だ。短かめのマントを付けてる。

 腰の飾り帯には、長めの短剣を差している。単なる買い物なので、長い騎兵刀は控えてくれたのだ。


「ハイ。姫」

 眠くなったら、いつでもおんぶするからね……と心の中で言う。


「……(きょろきょろ)」

 プリムローズさんは周囲を警戒してる。

 筆頭侍女なのに自らSP役も買って出てる。気苦労の絶えない女性(ひと)だ。


「ちょっと、待って」

 遅れがちのミーヨが慌てて、追いかけてくる。

 『明星金貨(フォスファ)』の詰まった『巾着(きんちゃく)』が重いらしい。

 スカートのポケットを外側から支えてる。微妙な位置なので微妙な手つきになっちゃってる(笑)。


 既にチャリオットは、円形広場に居た『犬耳奴隷』の女の子に見張りを頼んで預けて来た。

 プリムローズさんはいい顔しなかったけど、『冶金の丘』にしっかりしたパーキングのシステムはなく、そうするのが当たり前になってるらしいので仕方がないのだった。


 こういう場合普通は無料で頼めるけど、ミーヨはいくらかチップを出したらしい。女の子は嬉しそうだった。なんとなく見覚えのある子だけど、どこかで会ったかな?


「じゃあ、入りましょうか」

 ドロレスちゃんがさくっと言う。


 扉を開けると、


   カランコロン


 心地いいドアベルが鳴った。


      ◇


「ご注文はうわぎですか?」


 女性店員に訊ねられた。

 なんのトラップだ? はたまた神の試練か? よし、敢えてスルーしよう。


上着(うわぎ)だけじゃなく、上下一式を」

「『女王国』男子の正装をお望みですね?」


「ハイ。ああいったやつを」

 俺は人体模型みたいなのに着せられてる尻っ尾の丸い燕尾服みたいなヤツを指して言った。ただ、襟は無くて、前も閉じない。

 男性は公式の場では、だいたいこの恰好だ。この間の夜会の時もそうだった。


「……」

 あれ? なに、その反応?


「あちらは……中高年向けで御座いまして、お客様のようにお若い方ですと……こちらになります」

 女性店員は、横の派手な服を指差した。


「……これですか?」

 何て言うか、スペインの闘牛士が着るような上着だ。「ボレロ」っていったかな?

 さっきの中高年向けのヤツの尻っ尾を、バツンと切ったようなカタチだ。そして派手だ。いくらお若い方向けって言ったって、シックな感じが好きな人もいると思うんだけど。


「そうなんですか? プ」

 ……リムローズさんは、居なかった。


 てか近くに誰も居ない。ミーヨもラウラ姫も、ドロレスちゃんも。

 みんなして俺を放置して、女性服の方に行ってしまったらしい。まあ、同じ店内だからいいけど。

 この場は俺様一人で乗り切るしかないようだ。


生地(きじ)は選べるんですよね?」

 俺は訊いた。

「はい。お好きなものを」

 女性店員がにこやかに言った。


「わたしどもの工房には『魔法の糸紡ぎ』と『魔法の機織り』が御座いますので、なんでしたら糸からお作りいたしますが」

 そんな事まで言われた。なんかの童話みたいな話だ。


 前にミーヨが『★運針(うんしん)☆』とか言う『魔法』で、雑巾縫ってるの見た事あるから、別に驚かないけれども。

 ちなみに雑巾のモトになった「ぼろきれ」は、俺が『永遠の道』で『とんかち』走行中に、アホな理由でバカみたいに転げ落ちた時に、ボロボロになった服の残骸だった。エコな再利用だ。


 あと関係ないけど、俺が密かに敬愛するル○ーシュ様の名言の中に「ぼろきれのように捨ててやる」というセリフがあったっけ。

 犠牲になった某ヒロインを思い出すと……泣きそうになるよ。


「『魔法の糸紡ぎ』と『魔法の機織り』ですか?」

「左様に御座います」


 聞いたら虹色にキラキラ光る『守護の星』で、何かを回転運動させる『魔法機関』が動力らしい。「タービン」みたいになってるんだろう、きっと。


 そんで『地球』由来の植物性繊維や動物性繊維と、『この世界』固有の植物性繊維や動物性繊維とを混ざ合わせた複合材料的な「糸」を紡ぐらしい。


 さらに「布」にする時にも、経糸(たていと)緯糸(よこいと)の組み合わせを色々と変える事で、布地の風合いや手触りが大きく変化するらしい。


 なんか布地の「見本台帳」みたいな分厚い本まで出されて見せられたけど、俺は別にプロのバイヤーじゃないしな。


 そんで、糸から作ってたら、流石に時間かかりそうだ。


「今、ある物の中から選びます」

「かしこまりました」

 既に生地になってる物の中から、なるべく地味目で目立たない感じの色で、手触りのいいやつを選んだ。


「お目が高い。『西』からの輸入品に御座います」

 『女王国』の外の「西」らしい。俺が「自社製」を選ばなかったのが、残念そうだ。


「おおっ! 『ニジクロ』だ!!」

 なんだろう? 向こうの方で、プリムローズさんが珍しく大きな声を上げてる。

 ここオーダーメイドのお店だから、『地球』の衣料量販店は関係ないハズ……イヤ、『虹黒』って言ってたのかな? なんか珍品でも見つけたようだけど。ま、いいか。


 で……次は採寸だ。


「こちらへどうぞ」

 他の客から見えないような位置に移動する。

 採寸係は、新人の見習いっぽい少女だった。地味目で可愛い子だ。


「上着をお預かりします」

「ハイ」

 俺は『旅人のマントル』を脱いだ。


 下は当然、全裸だ。


「……(凝固)」

 見習いちゃんが、俺の全裸を見て固まった。


 うん、「やっちゃった」らしい。

 ついついクセでまたまた全裸になってしまったよ。

 でも今更服着るのも……てか、その着る服がないから買いに来たんだしな。

 先日ラウラ姫の『佩刀』の装剣細工を依頼した工房では、男性ばっかりだったけど、ここは女性ばっかりだし「やっちゃった」よ。


「……(凝固)」

 まだ固まってる。


「……(凝視)」

 おーい?


「……はッ」

 突然硬直が解けて、俺をそのままにして奥に引っ込んでいった。


「店長。店長。お客様が丸出しです」

 そんな声がした。


「そんなバカな事があるかい、パンツくらい穿()いてるだろ?」

「いいえ、丸出しです」

「そんなバカな……仕方ないね。みんなおいで」


 みんなで見に来るらしい。


「「「「「……どれどれ」」」」」


 奥から数人の女性たちが出て来た。見習いの子以外は、みんな年増のお姉さんだった。


「「「「「……わお」」」」」


 奥からさらにがぞろぞろ出てきて、しげしげ見られる。


「「「「「……(凝視)」」」」」


 ガン見されてます。


「あのー、採寸は?」

 俺は訊いてみた。


「あ、はい。ただ今」

 年増さんの一人が、ふざけた事に俺様の俺様の全長を計測しようとしていた。


「……(ぐりん!)」

 ソコは非公表なのだ。

 俺は年増さんの目の前で、俺様の俺様を一周させたった。


「「「「「……おおっ!!」」」」」


 観衆の皆さん(?)から大きな歓声が上がる。


「じっとしてて下さいな」


「……(ぐりん!)」

 ダメったらダメ。

 俺は年増さんの目の前で、俺様の俺様をもう一周させたった。


「「「「「……おおおおっ!!」」」」」


「もしや……」

「……ええ、あのお方は」

「プロ……」

「……ペラ……」

「…………小僧さま」


「「「「「プ、プロペラ小僧さまっ!?」」」」」


 店内は狂乱の坩堝だった。


 違うと思います。思うだけで、断言はしませんが。


「と、ところでプロペラ小僧さま。なぜ、本日は下着をお召しでないので?」

 今更だけど、そんな事を訊かれた。


「持ってないんです。パンツ」

 ちょっと恥ずかしかったけど、俺は正直に答えた。


「「「「「なら、まずパンツ買えよ!!」」」」」


 全員に言われた。


      ◇


「大変失礼をいたしました。時おり全裸で女性店員の反応を楽しむ不届きな殿方のお客様もいらっしゃいますので、あのようなやり方で追い払う事にしているのです。当店の作法に御座います」

 女性店長にそんな事を言われた。

 「当店の作法」って……アレって、マニュアル通りの対応だったんだ?

 露出狂の変態さんは、逆に大喜びするんじゃないの?


「お客様の場合、こちらの質問にごくごく正直に『持ってないんです』とのご返事でしたので、なんと言いますか、誠実さが伝わりました」

「……はあ」


 俺はまず皆さんからの助言(?)に従ってパンツを購入し、続いて採寸を行った。

 担当した見習いちゃんが、ずっと恥ずかしそうに頬が赤くしてたのが、とても好感を持てた。イヤ、俺は露出狂じゃないよ? ……たぶん。

 採寸もオーダーもスムースに終わって、俺は店長と会話してる。というか一方的に話を聞かされてる。


「うちのシャツは縫い目が無いのが自慢なのです」

「……へー、そうっスか」


 で、「縫い目の無いシャツ」ってどうやって縫うの? 誰にあげるの? 魔法使い? 嫁?

 元々のモトネタは『スカボロー・フェア』って曲らしいけど、きちんと聴いた事無いな。古い曲だそうだから、プリムローズさんなら知ってるだろうな。


 それはそれとして、例のボレロみたいな上着とその中に着るシャツ。下はズボンと靴下とパンツまでセットで、夏用・冬用をそれぞれ2着ずつオーダーした。


「祈願! ★型紙っ☆」

「祈願! ★裁断っ☆」


 服の原型になるようなカタチに切り取ってるらしい。

 俺の右目の『光眼(コウガン)』の「レーザー(ガン)」でも、その気になれば工業用のレーザーカッターみたいな事も出来るけど……連続照射時間が5秒くらいだから、大したことは出来無い(泣)。

 でも『縁日』の屋台にある「型抜き」の簡単なヤツとか……ってここは異世界だから、そんなんないけど。


「祈願! ★糸通し☆」


 『魔法』って使い過ぎると、病気になりやすくなるって聞いてるけど……ここの人たち平気なのかな? てか針の穴に糸を通すのまでか? いらんやろ。老眼か?


       ◇


「オーダー! 靴も、オーダー!」

 俺は魂で叫んだ。


「な、なにか?」

「……イヤ、何でもないです。すみません、驚かせてしまって」

 俺は心から謝罪した。


「では、ちょっとおみ足を失礼」

 なんか板の上で「足の型」とられてる。


 服の他にも、革靴まで「抱き合わせ」で頼む事になった。

 となりが『靴の仕立て屋』だったのだ。商売上手だ。そこの職人さんが出張って来てるよ。


「祈願! ★運針っ☆」


 へー。「革靴」って針と糸で「縫う」のかー……知らんかった。

 にしても、すんごい太い針だ。


 そう言えば『ビッグ○ーダー』の主人公の「オーダー(特殊能力)」は、ワイヤー付きの鉄杭みたいな「アンカー」で突き刺すんだった。ぶっとい針と糸みたいな感じだった。


 ちなみに俺は、第2話の「次から次へと襲い掛かって来るトラップ」のシーンが大好きだったりする。


 ぼけ――っ、とそんな事を考えていると――


「ところでプロペラ小僧さま。下着は二枚でよろしいので? 少なくはありませんか」

 そんな事を訊かれた。


「普段、穿かないんです。パンツ」

 ちょっと恥ずかしかったけど、俺は正直に答えた。


「「「「「普段から、パンツ穿けよ!!」」」」」


 全員に言われた。


      ◇


 ところで、出来上がりはいつだろう?


「夕方になります」

「えっ? 今日の夕方?」

 オーダーメイドのくせにめっちゃ早いぞ。なんだ、それ?

 クリーニングじゃなくて、布地から裁断する「服の仕立て」を頼んでるのに。即日仕上げって早すぎだろ?


 ラウラ姫の『佩刀』の装剣細工は、完成まで10日って言われて、俺たち「それ待ちクローバー」なのに……イヤ、クローバーって何だ? 何待ってんだ? 春か?


「手間のかかる縫製は『魔法』で行いますので」

 さらっと、当たり前のように言われた。


 M・A・○(※ここ記号の「丸」です)……イヤ、『魔法』か。


 てか、さっき『魔法の糸紡ぎ』と『魔法の機織り』があるとか言われたっけ。

 超高速で縫える『魔法』のソーイング・マシンとかもあるのかな? 例えば名前は『結衣(ゆい)』とか……ないだろうけど。


 にしても『地球』の産業革命って、紡績とかの繊維産業の機械化・自動化から始まったはずだけど、『この世界』には『魔法』があるから……産業革命とか、その先にある高度に工業化された科学文明とか……当分、辿り着きそうにないな。


 これでいいのか悪いのか?


「……夕方ですか」

 というか夕方に出来上がるんだったら、このまま『代官屋敷』には戻らずに、どっか街中で時間潰した方がいいかな?


 これからの予定をどうしようか考えていると、一人の店員がやって来て言った。

「今日はアレになりそうですが……」

「ああ、アレね。では少し急ぐよう皆に伝えなさいな」

「かしこまりました」

「アレ?」

 疑問だったので、つい口に出てしまった。


「ええ、今日は天気がよう御座いますから、夕焼けになりますでしょう? アレとはアレの事でございます」

「ああ……アレですか」

 思い当たった。


 『夕焼け空の魔法停止現象』の事だろうな。


 『この世界』って晴れた日の夕方、大気がオレンジ色の夕焼けに包まれると、謎の『魔法停止現象』が発生するんだった。俺はどっちにしろ『魔法』を使えないから……あんまし関係ないけど。

 とにかく『コー○ギアス 反逆のル○ーシュ』の「ゲフィ○ン・ディスターバー」で「ユグドラシル・ド○イブ」が止まるが如く、『魔法』が止まっちゃうらしいのだ。


 それはそれとして、『魔法』が使えなくなるから、急ぐわけか。

 アレが起きてる間って、若い女性は護身用の『魔法』が使えなくなるから、外を出歩かないのが普通で、結果として男性にも「夕焼け時」が不人気なんだよな。


 『地球』の感覚だと、夕日ってロマンチックなイメージあるけど……『この世界』ではそうでもない。文化の違いってヤツだ。

 そう言えば、さっきの見習いの子、俺に『護身魔法』使わなかったな。セーフ(?)だったんだな。


 ミーヨも夕焼け空が嫌いだし……さて、これからホントにどこでどうしよう?


 と思ってたら、


「店長! プロペラ小僧さまのお連れのご婦人方から大量のご注文が……とても、さばききれません!!」


 これがホントの「嬉しい悲鳴」ってヤツだな。

 良かったね……って、ちょっと待って!


 俺の連れ?


「えへへ」

「うむ」

「お兄さん、ありがとうございます」

「助かるよ、ジン」


「……今度、着替え……イヤ、着てるところ見せてね(泣)」


      ◇


 『服の仕立て屋』で大量の服をオーダーした総額は、『明星金貨(フォスファ)』384枚でした。


「あははは」

 ちょうど『この世界』の公転周期……1年384日と同じだ。


「いひひひ」

 ちなみに『明星金貨』は日本円でだいたい5万円くらいだ。


「うふふふ」

 毎日、5万円使えるって結構な生活だよね?


「おほほほ」

 ぜんぜん楽しくないのに、何で笑ってんだろ、俺? 抜けてるなあ、えへへへ。


 ミーヨが調子に乗って「ジンくんが全部出してくれるから」とか言ったらしい。

 その結果、所持金を全部はたいても払えなくなった。


 とすると、やるべき事はふたつ。


      ◇


 その夜ミーヨにたっぷりとお仕置きをした(やるべき事①)後、ひとり孤独にトイレの『個室』に籠って、またまたダイヤモンドを『固体錬成』した(やるべき事②)。


 あらかじめ「●通」が良くなるように、ポタテ料理を食べまくったのだ。

 「ポタテ」は、俺が『この世界』で目覚めて初めて食べた真っ赤なジャガイモみたいな食べ物で、普通は家畜のエサだ。

 はっきり言って美味しくはない。でも安いし、頼むと大量に出てくる。


 その涙ぐましい努力の甲斐あって、夜中にビッグウェーブが来た。

 その波に乗って、俺は大き目のダイヤモンドを11粒産み出した。


 前回でだいたいの売り値は掴んでるので、そのうち7個を、例の『骨董品店』で売却する事にした。

 そして、その7個分の売却金で、オーダーした服の代金の支払いをするのだ。

 ちなみに、ナ○コカードに入金できるのは最大5万円まで。『明星金貨(フォスファ)』1枚分だ。まったく関係ないけど……。


「ごめんな。お前のおでこにかけて誓ったのに……誓いを破る事になって」

 ズルして「お金稼ぎ」はしないハズだったのに。


「……ううん、わたしたちが買い過ぎだったのが悪いんだよ。あと昨夜はありがとう」

 ミーヨは本気で反省してるらしい。お礼を言われた。あれ?


「でも、ジンくん。なんか赤ちゃんみたいだったよ」

「……」

 懲罰おしおき的な意味で、ミーヨの特定部位に集中攻撃を加えたら、誤解されたようだ……イヤ、誤解じゃないか。


      ◇


 骨董品店に入って、すぐさま勘定台の上に7個のダイヤを叩きつけて、

「とにかく『明星金貨』384枚欲しいんです!」

 性格的にまったく交渉事に向いてない俺は、いきなり手の内を相手に見せてしまった。


 というか、それくらいテンパっていた。


「よろしゅうございますよ」

 例の脂ぎったスケベそうなおっさんは、平然と言った。

 でも明らかに足元を見られて、買い叩かれてる感じだ。ニヤニヤ笑って満足気だ。

 ホント、この店でだけは、もう売りたくなかったんだけどな……。


 また、このおっさんを儲けさせてしまったらしい。悔しい。


      ◇


 流石に現金は無かったので、『骨董品店』から発行された『買取証明書』と『女王国兌換券(だかんけん)』を『両替商』に持ち込んで現金化し、そこから近い『服の仕立て屋』にまで、重たい金貨袋を持って行って支払いを済ませた。現金じゃなくて『兌換券』の方で良かったのに……とお店の人に呆れられたよ。

 出来上がった服は、『代官屋敷』に届けてもらえるらしい。


 ホントにきっちり『明星金貨』384枚での買取だったので、右から左に消えて、プラスマイナスゼロの収支だ。てか、とんでもない「BIG expenses」だった。まるで『ビッグ○ーダー』のサブタイトルだよ。


 それにしても服代が、馬車の改装費用の7倍近くって何なんだ?

 どこのお姫様だよ? ……って『女王国(このくに)』の第三王女だよ。ラウラ姫。


「「……はあ」」


 ミーヨと二人、溜息をつく。


「……行こうか。姫とプリムローズさんとドロレスちゃんは『神殿』だろ?」

「……うん」


 俺たちは、とぼとぼと歩き出した。


      ◆


 次回。説明回――まる。

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