004◇初めての錬成と早すぎる再会
「滑走路……じゃない……のか?」
元々は真っ白なのかも知れないけれど、灰白色の、硬い岩みたいな表面だ。
しかも、起伏が無くて、真っ平らなままで、ず――っと続いている。
飛行機の「滑走路」なら、せいぜい3㎞くらいで足りるはずだ。
こんなに長過ぎる意味が分からない。
てか、「地平線までまっすぐ続く道」なんて、初めて見た。
あり得ない規模の、とんでもない道路だ。
道幅は、かるく100m以上はありそうだ。
何にも走ってないのに、なんなんだ、この無駄な広大さは?
こんなに広過ぎる意味が分からない。
「なんだよ、『永遠の道』って……縁起でもない」
その名が正しいのなら、ホントに永遠に向かって続いてるような道だ。
常軌を逸した広さの道だ。
でも、ホントに『道』かな?
でも、『道』だろうな……きっと。
脇の草むらに、黒い丸い……どう見ても「古タイヤ」みたいなモノが、いっぱい放置されてるし。
この世界では、タイヤが使い捨てなのかな?
にしても、道路には見えないくらいに、だだっ広い。
ここを、大き目の街目指して延々徒歩で旅行とか……無いな。無理だわ。
「……もうヤだ」
その道のあまりの規模・長大さに、俺の心は折れた。
そこの上に居るのもイヤになって、脇の草地に戻って、膝から崩れ落ちて、地面に手をついた。
今の俺を横から見たら、見事なまでにorzだろう。
「…………」
カッコつけて飛び出して来たのに――なんというザマでしょう。
何を根拠に一人でもなんとかなる、と思ってたんだろう。
アホもいいことだ。
……あ、思い出した。
俺に埋め込まれたのが本当に『賢者の石』だとしたら、それでなんでも錬成れるじゃん――と簡単に考えてたんだわ。
じゃ、やってみるか。
「錬成。食い物」
うん、ちょっと恥ずかしい。
し――ん。
出ないよ?
俺、あのアニメ、ちゃんと観てないから、よく知らないんだけど……えーっと、たしか等価交換とかで、なんか代償とかいる感じ? それとも、やり方かな? たしか、こう両手を叩くんじゃなかっけ?
「錬成。食い物」
ポン!
し――ん。
出ないよ? 食い物。
死んじゃうよ?
◇
……結局、その後、何度試しても上手くいかず、ついにあたりが夕焼けに包まれた。
「うう……えぐっ、えぐっ……ひくっ」
俺は今、目に汗が入っている。
「うぐっ、ひくっ……うええっ」
見知らぬ異世界に生まれ変わって、思い出さなきゃいいのに『前世の記憶』を取り戻してしまって、その最初の夜が、コレか……。
そしてよくよく考えたら、俺の金○袋にインプラントされたアレの事を、『全知神』とか言う女神様は『賢者の石』じゃなくて『賢者の玉』って呼んでだっけ……なんなんだよ、ソレ。知らねーよ。トリセツくらい置いてけよ。
前世じゃ、マニュアルもチュートリアルも、華麗にスルーしてたけれども。
「うぐっ、うええーん」
日は完全に沈み、世界は完全な暗闇に包まれた。
……イヤ、そうでもないか。
白くて広大な『永遠の道』があるせいだろう。
星明りを反射してるらしくて「雪明かり」みたいに、ぼんやりと明るい。
地平線を見渡して、人工的な光を探したけど……何も無いなあ。
って、そう言えば――右目の『光眼』!
これが本当に光るんだったら、『賢者の玉(仮)』とやらも本物ってコトの証明になるんじゃ……。
「光れ、我が『光眼』よ! 闇を打ち払うのだ!!」
右目の前で、横ピースをキメながら、俺は叫んだ。
いろいろあって……ちょっと病みかけてるな。『リ○ロ』のヤバい司教様も同じポーズとってたな。
あれ? 点かない。
(ほら、光れよ)
カッ!!
……ホントに、光った。
「うあ。眩しッ」
左目が潰れそうなほどの光量だった。
本当に光ったとしても、せいぜい懐中電灯くらいかな――と思ってたら、強力な投光器なみの明るさだった。
自動車のハイビームみたいに、あの白い道を白く照らしてる。
消えろ――と念じると、消えた。
目に光の残像が残ってる。
「やべ、ホンモノだった。……俺、目からビーム出しちゃったよ」
ちょっと呆然とする。
ま、お尻からビーム出す人もいるけど……ってアニメの話だ。それは。
気を取り直して、いろいろ試してみると、光の強・弱や、収束・拡散が自分の「思ったとおり」に出来るようだった。
……と言うか、「声に出す」と失敗する。
頭の中で「念じる」と成功する。
光ってる間は、当然右目でモノは視れない。「発光」と「受光」の切り替えが必要だった。
ただし、今のところ判明した機能は完全に「照明器具」としてのそれなので、腹の足しにもならない。
でもまてよ。光眼を弱めに点けっぱなしにしとけば、そのうち走光性の虫とか寄ってくるんじゃ……。
「て、俺は自販機に貼り付いてるカエルかッ!?」
虫喰うのはイヤですう。
「……もう寝よ」
視界の隅に見えていた大き目の木の下に向かう。
見知らぬ世界でいきなり野宿とか……めっちゃ不安なので「寄らば大樹」だ。
幹が太くて真っすぐで、その上にこんもりとした丸い樹冠がある。
花澤……イヤ、花野菜のカリフラワーみたいな木だった。
あ、違うな。昼間明るい時に遠目で見た時には、幹も緑がかってた。
ブロッコリーみたいな木だ。
「……あの女神(?)が言ってた『伝説のデカい樹』ってコレじゃないよな?」
神秘的な感じはしないし、邪悪な瘴気も放ってない。
そもそも、そんな伝説級にデカいとは思えない大きさだし。
何故か幹まで緑色なのは異世界仕様だから、しょうがないとして……ただのフツーの木だな。
木の根元の草むらに寝転んだ。
見上げると、広がった枝と葉っぱに邪魔されて空は見えなかった。
鳴いて、止んで、鳴いて……断続的なリズムの虫の音が、「潮騒」みたいに聞こえる。本当に「虫」なのかは、まだ分かんないけど……。
もう、疲れた。
目を閉じると、今朝初めて会った異世界の恋人……ミーヨの顔が浮かんだ。
(ダマしてでも連れてくればよかった)
つい、そう思った。
◇
お○っこがしたくなって目が覚めた。
そこで、地球では見られない星空が広がっているのに気が付いた。
(うわー、すげー)
真っ赤な薔薇だ。
物凄く目立つ赤い薔薇みたいなガス状星雲があったのだ。驚いた。
こんなの「天体写真」でしか見た事がない。
そして、どこかの「棒渦巻銀河」を真上(?)から見たような星の固まりが見えた。
回ってるプロペラを高速度撮影したみたいな感じだ。こんなものが肉眼が見えるなんてあり得ない。よほど近いのか、それともアレがデカいのか……ますます、ここって地球じゃないな、と思えてくる。
星は瞬いて、すごく綺麗だった。
なんかキラキラと虹色に瞬いてる。ふしぎな星空だ。
アレはどこだろう?
昼間うっすらと見えてた空の端から端まであった「白い弧」が……見えない。
……あ、アレだ。あの黒い線。
ぼやぼやっとした白いガス星雲みたいなのが、あちこちにあって、それを横切ったり、切り取るように「黒い線」が見える。全体的には、大きな大きなアーチだ。
昼間とは違って「黒い弧」になって見えてた。でも白い部分もある。
いま俺がいるこの場所は、惑星の自転で「夜側」にあるから……惑星の影が落ちて、暗くなってるのかな?
だとしたら、かなり高度低いんじゃないの? あの「わっか」。
隕石とかになって降って来ないのか?
でも、『月』だって『地球』の「影」で「満ち欠け」してるんだしな……距離までは推定出来そうにない。
ミーヨは『みなみのわっか』って名前で「星の輪」って言ってたから、それを信じるなら、木星や土星にある環みたいに、リング状になってて、この惑星を包んでるはずだ。
見ると、『わっか』の中にチカチカした明るい星が見える。
金星……イヤ、夜中に見えてるんだから、この惑星よりも外の軌道を回ってる星だろうな。火星とか木星みたいな。
地球の夜空とは違って……「天の川銀河」は見えない。
あれって、つまり「太陽系」が「渦巻き銀河」の端っこにあるから見えるはずのもの。
この惑星と言うか「この太陽系」だって、どっかしらの星団の中に存在してるはずだけど……少なくとも端っこの方じゃないのかな? 夜空が明るくて賑やかな感じだ。
「『天の川』って『ミルキーウェイ』って言うんだよな」
つい、声に出た。
細かい話は憶えてないけど『ギリシャ神話』から名付けられたはずだ。「乳の道」だ。
この世界で目覚めてすぐに見た「母親(?)」と、別れてしまった「恋人(?)のミーヨ」のおっぱいを思い出して、めっちゃ淋しくなって後悔した。特に後者(泣)。
そう言えば前世では、飲むとお腹がゴロゴロするので、牛乳はあまり飲まなかったな。
この異世界に、人間以外の哺乳類がいるのかどうかも……まだ分からないけれども。
とにかく腹減ってる。
(ああ、牛乳でもいいから飲みたい)
そう強く思った。
チン!
この音なんだ?
なんか、聞こえたぞ。
どこかで聞き覚えがあるような気がする音だった。
そんなことを思いながら、お○っこをすると――夜目にも分かるほどの真っ白い液体が出てきた。
イヤ、精○じゃないよ? 量がまるで違うし、さらさらしてるし。
「あー、これ牛乳ぽいなあ。……てか、この匂い、あっためた牛乳じゃん!」
……俺は愕然とした。
イヤ、俺の特定部位から出てるんだから、絶対に牛乳ではない。
しかし、限りなくホットミルクに近い液体が出てきている。
「これって…………もしかして、これが『錬成』?」
そんな呟きが漏れる。
なんというか、あまりの衝撃に完全に目が覚めた。
あたりに、ほんのり甘いミルクの匂いが漂っている。
いつの間にか、お○っこも止まっていた。
まだ、残ってる感覚があるので、試してみる。
(錬成。真水)
チン!
この音、錬成成功の音なのか?
てか、コレ、俺が『前世』で使ってた安物の電子レンジの加熱終了の音だ。
これが出来上がりの音なのか?
レンチン術か? 錬金術じゃないのか?
とりあえず、出してみる。
「おお、透明だ。匂いも……ぜんぜんない」
星明りで、キラキラ光ってる。
――ただ、本当に真水かどうか、飲んで確かめる気にはなれない。
俺は、謎の宇宙生物と戦うどっかの騎士(※当時訓練生)じゃないのだ。
てか、自分のだし、飲みたくねーわ!
☆白の? 飲むよ! 当然だろ!!
上野さんの? 田中に任せるよ!
……それはそれとして、えーっと、つまりアレだ。
自分の体内にあるモノなら『錬成』で、別の物に作り替えられるってコトか?
ちょっとお腹に膨張感があるので、もう一度試す。
(錬成。毒ガス)
チン!
怖っ、毒ガス作れるのか? ――って、死ぬわ!
(錬成。花の香り)
チン!
今度は安全だろう――放ってみる。
うん。フローラルなフレグランスだ。
いちど錬成したものも、再錬成が可能か。
ふむふむ。
物質には三態がある。
液体・気体・固体だ(※順不同)。
●(液体)・●(気体)と成功した。
つまり、アレだ。
最後の、●(固体)も錬成可能ということになるけど……今のところ、●(固体)意は無いし、脱●(固体)出来そうにないから、あとで忘れずに試してみよう。
あとは、液体と固体の中間的なコロイド状態もあるだろうけど……人間で言ったらソレって吐●物とか軟●だしな。それは無視しよう。
ただ――それで、食べ物を錬成れたとしても、当然のことながら、そんなもの食いたくない。
心理的な障壁が高すぎる。
ぜんぶ、もともとが排泄物っていうのが、ヒドすぎる。
俺は宇宙船に乗ってるわけでもなければ、雪山で獲物を追ってるわけでもないのだ。
食えるか、そんなもん! と大声で言いたい。
食っていいウ○コなんて無いのだ。俺は不死身じゃないのだ。
でも、ここは異世界のようだし、味噌食べたくなったらどーしよう?
『ゴール○ンカムイ』みたいに「オ○マ美味ー!」とかシャレになんないしな。
イヤ、待てよ。
すると俺って、「ゴールデンオソマ」なら錬成れると言うのか?
……でも、やっぱりシャレになんねー。
……それはそれとして、やっぱりあの女神、ろくでもねーわ。
スゴイことはスゴイけど、いま現在の空腹を満たすという点では、まったくの無駄スキルってことだよ。
あー、腹へった。
ごろん、と「ふて寝」する。
そして何故か風が強くなって来た。
ざわざわざわざわ――と枝葉の擦れる音が凄い。
上空の黒い雲が、かなりの速さで流れていく。
地表の熱まで奪われてくような、すごい肌寒さだ。
俺は、寒いのが嫌いだ。
なので、木の幹の風下になる部分に移動して、猫みたいに丸まって寝た。
◇
「♪ふふーんふ ふんふふ ふんふふふー」
なんか、また聞き覚えのあるメロの鼻唄だ。
「……ミーヨ」
「なに、ジンくん?」
「あ? イヤ、今のは俺の寝言」
「そう」
…………あれ?
俺、いつの間にか寝てたのか?
あ、ミーヨだ。
となりに体育座りしてる。パンツ見えてる――って。
「……えぇぇぇええええ?」
「な、なに、いきなり大声で?」
ミーヨはびっくりしたように、後ずさった。
あ、足は閉じなさい。女の子なんだから。
「ななななななな何でいるの?」
「え? いつものことでしょ。ジンくんが家出する。わたしが迎えに来る。これがたしか七回目かな?」
いたずらっぽく笑う――とはこういう顔なんだろう。どことなく楽しそうだった。
「毎回『永遠の道』までなんだよね。ジンくんの家出って」
『永遠の道』って――あの滑走路みたいな広い道のコトか?
ホントに、縁起でもない名前の道だ。
でもって、あそこで何度も「前の俺」の心は折れてたのか……ますます縁起でもねー。
「いつもの家出なら、ここまでなんだろうけど……ジンくん、今度は本気で村に戻らないつもりじゃないか――って思えるんだけど?」
「……」
大きな深い緑色の瞳でじっと見つめられて、なんとなく答えに詰まる。
「お父さんには、ジンくんが言ってたこと伝えたよ。それでジンくんのお母さんと再婚すること決心したみたい。二人とも喜んでた」
「そうか、よかった」
……まあ、そっちはそっちで他人事だな。会ったこともないし。
「ジンくんが村を出るって言ったら二人とも驚いてたけど……わたしも一緒に行くからって言ったら、なんか納得したみたいに『そうか』って」
イヤイヤイヤ。そこで納得されても困る。
「いろいろ準備もしてきたし。あ、そうだ! 一度『王都』には寄ってね。わたし用が――」
「――待った! 生まれた村を出ることになるんだよ。一緒に来るつもり?」
ミーヨの言葉を、断ち切るしかなかった。
ほっとくと、そのままズルズルと物事が進みそうだったのだ。
「わたしたち、生まれたのは違うとこだよ?」
もう決意は固そうだけれども……。
「……」
この子以外に知人もいない見知らぬ世界で、一人旅しなくてすむと思えば、素直にうれしいけれど――この子にはこの子の人生があるはずだ。
――でも、この際だから、はっきりと言ってしまおう。
「ダメだよ。俺はね、ジンくんじゃないんだよ。……別人なんだ。君の知ってる『ジンくん』は死んでしまって、もういないんだよ」
「…………」
ミーヨは俺の言葉をかみしめるように聞いて、しばらくしてから答えた。
「……うん、死んじゃって生き返るところを、わたしは見てたわけだから、ジンくんがそう言いたい気持ちも分かるよ」
「違う。そうじゃなくて、えー、今の『俺』ってジンくんの前世の人格なんだよ。昨日、前世の記憶が目覚めた――みたいな話をしただろ? 見かけは元のままかも知れないけど、中身が別人なんだ」
どう言ったら、理解してもらえるだろう?
この子を騙すような事は……したくない。
「こうやっていろいろ話してても、わたしにはぜんぜん別人に思えないよ。ちょっと変わっちゃったところもあるけど、ジンくんのまんまだよ」
「変わっちゃったところって?」
「……それは、言わない」
なぜ、頬を赤らめる? めっちゃ気になるがな。
「つまり、あなたがジンくんの前世なら……それはもうジンくんでいいんじゃないのかな?」
「イヤ……でも」
「じゃあ、こうしよう。あなたとわたし。一緒にいたい間は一緒にいる。そのかわり、もう一緒にいたくないって思ったら離れる」
「…………」
二者関係の基本というか――単純すぎて、答えがふたつしかない。
「わたしはあなたといたい。あなたはわたしと一緒にいたくないですか?」
見つめられて、訊ねられる。
「……一緒にいたい」
――ああ、俺、もうこの子の事好きになっちゃってるかも。
「じゃあ、一緒にいようよ」
ミーヨはふわりと笑う。
「でも、居づらいだろうから村から離れたい――って一心で飛び出しただけだから、本当に行く当てもないんだよ。目的地もない」
自慢じゃないけど、ただのアホなのだ。
「♪ふふーんふ ふんふふ ふんふふふー」
ミーヨの返事は、さっきの鼻唄だ。
モトが思い出せない。聞いた事はあるのに。
「……わたし『伝説のデカい樹』に行きたい」
ミーヨがぽつんと言った。
「え? 『伝説のデカい樹』?」
そう言えば、あの『全知神』とか言う女神様も言ってたな。それのコトか?
そんで俺たちは今、なんかブロッコリーみたいな木の下にいるけど……コレじゃないだろうしな。
「言う機会がなかったけど、あの二人の神様に言われてたの、なにかあったら、そこに来なさい――って」
「あー、それは俺も言われたけど……親同士の結婚でなんか居づらくなって家出――って『なにか』にあたるのか?」
「で、ジンくん。どこにあるか聞いてる?」
そんな事訊かれてもなあ。
「聞いてない。てか、それがどこにあるかどころか、ここがどこかも分からない」
正直、こんな状態だし。
「やっぱり……。わたしも伝説しか知らないしなぁ」
ちょっと悔しそうにしてる。
「伝説? どんな?」
俺が訊くと、ミーヨは少しためらった後で、
「『伝説のデカい樹の下で祈った願いは必ず叶う』って」
と言った。
ナニソレ? ゲームか?
それとも、なんかの『魔法』か? 何時でも誰でも、願いが叶っちゃうのか?
「えへへ」
ミーヨがスゴい恥ずかしそうにしてるけど、どこかに恥ずかしがる要素あった?
それとも、俺が鈍いのか?
「それ場所に関しては、なんのヒントもないぞ」
「『ひんと』? ジンくん時々変な言葉話すようになったけど、それが『前世の記憶』ってやつ?」
ミーヨが不思議そうな顔で訊ねてくる。
「まあね。で、ぜんぜん場所も分からないようなとこまで、どうやって行くんだ?」
「調べよう。探そう。楽しそう」
「そんなんでいいのか?」
「うん♪」
ミーヨは、本当に楽しそうだった。
そう言えば、俺がこうなる事件の発端からして『ふしぎなわっか』の謎解きごっこだったわけだから、もともとがそういうのが好きな、好奇心旺盛な子なんだろう。多分。
ま、とりあえず、今後の方針がざっくりと決まった。
そして――不意に思い出した。
さっきの鼻唄。
「♪ふふーんふ ふんふふ ふんふふふー」
正確なタイトルは知らないけど、○立のCMソングだ。ハワイにある大きな木をバックに流れる曲だ。
ここって、『魔法』があるような異世界らしいのに……なんで、この歌が?
ま、理由なんてひとつだろう。大した謎でもないか。
……きっと、俺みたいに『前世の記憶』を持ってる人が、他にもいるんだろうな。
◇
「ミーヨ。俺の目を見て」
俺が言うと、ミーヨは大きな深緑色の瞳を見開きながら、近寄って来て――
ちゅっ。
「えへへへ」
俺にキスして、照れくさそうに笑った。
じゃねーよ!
「イヤ、俺の目って、左右で色が違わないか?」
俺の右目の『光眼』って、言ったら『魔眼』だろうし、はっきりと目立つくらい色が違ってたら、ちょっと困るなあ……と思って、訊いてみたのに。なんかチューされましたよ。ぐへへへ。
「うー……んと、別に同じだと思うけど?」
片目ずつ、接近して覗き込まれる。
「そっかー、ならいいんだ」
「そう?」
悪目立ちしたくないし、他人に怪しまれずに済みそうだ。
「村はどうだった?」
何気なく村の様子を訊いてみたら、
「うん。ムギ刈りで忙しくなる前だから、その直前に出て来ちゃったのは気が引けるけど――あ、そうだ! あの『黒い大鎌』ね。なんとかンタイトっていう凄い魔法合金で出来てるんだって。アレ使えばムギ刈りなんてあっという間だって、みんな言ってた」
ミーヨが、何かの照れ隠しみたいに早口でそんな事を言った。
魔法合金?
『錬成』のことがあるから気になるな。
なんとかンタイト――って「アダマンタイト」かな?
「それにお母さんに金貨いっぱいあげたでしょ? 村のみんな、ジンのヤツすげーって褒めてたよ」
「…………」
もともと、降って湧いた金だし、実感が無い。
「……でも、わたしたちだってお金がいるから、半分貰ってきちゃったけどね!」
ミーヨはあの『金貨袋』を俺に見せて、ニカッと笑った。
ちゃっかり……イヤ、しっかりしてるのね?
俺は手渡された『金貨袋』から、一枚だけ取り出して、『全能神』と『全知神』が並んでる面をミーヨに見せる。
「お前が見たお爺ちゃん――ってこんな感じだった?」
「……わあ、これが『太陽金貨』かぁ。ちゃんと見るの初めて」
ミーヨが珍しそうに、金貨を見つめている。
「え? これ知ってて、爺さんのこと『全能神』って呼んだんじゃないのか?」
「違うよ。そのお爺ちゃん、指が4本だったの。だから、きっと神様なんだろうなって思ったの」
「――小指無かったのか?」
「ううん、こんな感じ」
ミーヨが薬指を折りたたんで、4本指で右手をワキワキさせてる。
神様って、指が4本なのか?
あの『全知神』は……どうだっけ?
うーん、顔と胸しか覚えてない。
我ながら、どこ見てんのよ! だ。
ま、そのへんの知識は少しずつ仕入れるしかないような気がする。
「これ、ミーヨが持ってて」
金貨の入った『金貨袋』を返す。
「え、でも……」
「いいから、ミーヨのこと信用してるし」
この世界の貨幣価値なんて、まったく知らないしな。
でも、この子が絶対に俺を裏切ったりしない事は、なぜか確信出来る。
「分かった。預かる」
ミーヨは、しっかりとそれを受け取った。
「ところで……昨日お前と別れてから何にも食べてないんだけど……なにか、食べる物持ってきてない?」
「あ、あるよ。じゃあ、『とんかち』のとこに行こっ」
とんかち? ハンマーのことか?
◆
人を「好き」になるのに、時間も記憶もいらない――まる。