035◇目を閉じて思うこと[※ちょい足し版※]
「そっかー、『石』ってこういう事だったんだね」
ミーヨが両手の手のひらいっぱいに『石』をすくって、それを指の間からこぼすと、色彩と光輝が眩く氾濫する。
「「「「うわー、すっごーい。綺麗」」」」
『宝箱』に入っていた敷物の上にぶちまけられたキラキラした『宝石』は、大小合わせて百個以上はあるっぽい。
ダイヤモンド。ルビー。サファイア。アクアマリン。ペリドット。ガーネット。オパール。真珠。トパーズ。翡翠。エメラルド。メノウ。ムーンストーン。キャッツアイ。琥珀。色とりどりの水晶。……他にもレアな石がごろごろある。
まるで『宝○の国』だ。
てか、「ダイヤモンドがあんなに可愛いわけがない」……そんなんは、まあいいか。
そう言えば「金剛石」がいるのに、「金剛先生」もいるもんな……それも、別にいいか。
と言って、ここには硬度の低いフォスフォフィライトはないみたいだ。
混ざってても、割れるだけだろうしな。
海で足を失って、海辺に打ち寄せられるシーン。綺麗だったな……。
そんで、あの後でシマシマの足に成ったのは……「アゲート」だったかな。
『ヨハネの黙示録』に出てくる「十二の宝石」って何々だっけ?
メノウ(アゲート)が多かった気がする。
ぼんやりと、とりとめのない事が、色々と頭の中に浮かぶ。
キラキラ。キラキラ。『石』が光ってる。
にしても、『石』だけじゃなくて『地球』の生物由来の「真珠」や「琥珀」があるのはどういう事だろう? ちょっと奇異な感じもする。
でも、ミーヨも「真珠」は知ってたからな。
『巫女見習い』たちが身に着けてる『神授の神授』てのも、あるらしいし。『この世界』のどこかで、採れるんだろうけれども。
「「「「……綺麗」」」」
うっとりした声だ。
みんなは色とりどりの輝く星の中から、好きなものを摘まみ上げては、夢見るような瞳で(魔法の)光にかざし、そのキラメキを楽しんでいる。
一応、ズバ抜けて一番硬いダイヤモンドは除けてあるから、かき混ぜても、傷はつかないとは思うけど――と、ふと現実に戻ってしまう。
イヤ、考える事は同じみたいで、ダイヤモンドだけ革袋にくるまれて、別にしてあったのだ。
でも、カットが雑で、不格好な「氷砂糖」みたいだ。
ダイヤモンドって、よく言うようにダイヤ同士で研磨するハズだけど、『この世界』ではどうなんだろう? そこまで詳しくは知らないな。
「あ! わたし、コレ。コレがいい!」
お手柄だったミーヨが、優先選択権を主張して選んだのは、赤く澄んだ「紅玉」だった。虹彩は確実に「橄欖石」なのにな。
ミーヨは、失われてしまったオ・デコ家の家宝の『赤い石』を探しているらしいけど……それって、ルビーだったのかな?
「ミーヨさんは。それですか? でしたら……私はこれかな?」
シンシアさんは、控えめな大きさの「翠玉」だった。ミーヨの瞳の色に近い。
「あたし、これっ!」
ドロレスちゃんは、深みある青い「サファイア」を選んだ。
「うむ。コレかな?」
ラウラ姫は、てろりとした艶のある蜂蜜色の「琥珀」だった。
匂い嗅いでる……飴じゃないよ。食べちゃダメだよ。
でも、姉が「琥珀」で、妹が「サファイア」って……姉妹順逆じゃね?
ちなみに、「ルリ」と「コハク」は双子だよ。
それはそれとして、みんな「自分の瞳の色」は選ばない傾向にあるな。
「「「「うふふふ」」」」
なんかの、お花畑的な声で、みんなが笑ってる。
「「「「あははは」」」」
あれ? ……なんかヤバそう。
みんな、理性的じゃなくなりつつあるのかな?
――止めた方が、いいかも。
「プリムローズさんは冷静っスね? 宝石に興味ないんスか?」
難しそうな表情で黙り込んでるので、声を掛けてみた。
「みんな! これって、懐に入れちゃダメなヤツだわ!」
厳しい声で、そう宣告された。
「「「「……!!」」」」
宝石の山を探るみんなの手が、ぴたっ、と止まる。
「なにしろ『王家の秘宝』だからね。みんなで山分けってワケにはいかないよ」
プリムローズさんはそう言ったあとで、ドロレスちゃんに向かった。
「ところで、いくつか聞きたいことがあるのだけれど……」
「あたしがやりました」
ドロレスちゃんはあっさりと白状した……のか? え? なにを?
「そうか」
プリムローズさんが、納得したように頷いた。
「いろいろと不自然な点があったからな……」
「…………」
ドロレスちゃんが、見たことのないような深刻な表情で黙り込んでいる。
「なんの話でしょうか?」⇒シンシアさん。
「……さあ?」⇒ミーヨ。
「む?」⇒ラウラ姫。
「プリムローズさん?」⇒俺様。
俺たち、置いてきぼりだよ。
「いや、君たち。この二つの箱を見比べたら判るだろう?」
プリムローズさんが、両手で二つの箱を指し示す。
年代物の、「衣装箱」のようなものが二つ。
ひとつは、箱の底の方に『宝石』が敷き詰められていた。
俺たちが、ぶちまけて遊んでた方だ。
もうひとつは――重くて、簡単には動かせなかった。
金貨か金塊かと思ったら、なんのことはない。銅貨がびっちり詰まっていた。
『地球銅貨』と『小惑星銅貨』ばっかり。『女王国』の「小銭」だ。
で、こっちはみんなに無視されていた。
「えーっと、つまり?」
「元々あった『宝物』の中から、換金がラクなものを少しずつ持ち出して、お金にしてたんだろう。そして、『宝箱』を空っぽにしておくわけにもいかないから、こっちの箱には小銭を詰め込んでおいた。――剥き出しの『宝石』って換金しにくいだろうしね。それとも何かの金細工品から石を外したのかな?」
「はい。その通りです」
ドロレスちゃんが神妙に答えた。
「言い訳になりますげど。お爺ちゃんのお金の使い方が雑すぎて、いろいろと穴埋めする必要があったんです」
「「……ああ」」
会った事のある俺とミーヨは思い当たった。あの人じゃ、しょうがない気がする。
「……?」
事情を知らないシンシアさんが不思議そうにしてる。
でも、シンシアさんは会わない方がいいな。言葉遣い悪いもん、あの爺さん。
「私たちが『宝探し』の相談をしてたのは『全能神神殿』の中なんだけど……『神殿』の中に、君の言う『手下』がいて情報を流したのかい?」
プリムローズさんが、冷たい水色の瞳でドロレスちゃんを見つめる。
「いえ、手下じゃないです。あたしです。たまたま『アレの日』だったので」
ドロレスちゃんは、もう何も隠す気はないようだった。淡々と語っている。
「そうか、『アレの日』か」
「ああ、そうでしたね」
プリムローズさんとシンシアさんが納得してるけど、『アレの日』ってなんだろう?
二人の様子からは、特にいやらしい要素はなさそうだけど。
「で、みなさんの動向を掴んで、養老院の前で待ち伏せしてました」
いつものさっくりした口調で、いろいろ話している。
「それで、今のこの状況があると? ところで、この部屋の仕掛けは君が用意したのか?」
プリムローズさんが問いかけた。
「まさか! 違います。ここは10年くらい前に、作り変えられたそうです。元々ここにあった『たからもの』を持ち出して、『王都』から『代わり』を運び込んだ時に。その時お爺ちゃんが立ち会っていたそうで……それで、あたしもここの事を知ってるんです」
「……ほう」
面白い事を聞いたとばかりに、プリムローズさんの瞳が紫に輝く。
「君、よくそんなこと知ってるな。ここから持ち出した『たからもの』って400年前の秘宝の事だろうけど、『代わり』ね。10年前か。すると……あの詩はいつ誰が?」
「「「「…………」」」」
みんな黙り込んでしまう。
「……あたし、これからどうなるんですか?」
ドロレスちゃんがポツンと言った。
「このままだと、犯罪奴隷という事になってしまいますよ」⇒シンシアさん。
「今度こそ本物の猫耳奴隷?」⇒ミーヨ。
「むう」⇒ラウラ姫。
俺たちにも、多少は事情が分かったけれど……どうすりゃいいのやら?
「お兄さんに『扉を開ける仕掛け』を破られたり、『床下の仕掛け』を見つけられて……あの時点で覚悟は出来ていましたけど」
ドロレスちゃんが言う。
「「「「……(じーっ)」」」」
みんなが俺を見る。
てか、俺なの?
「本来であれば、この街の代官とその孫娘が厳罰に処される――となるはずなんだが、この街の警察権を握っているのは、その代官閣下だし、なおかつ今上の女王陛下の父君だからな……あー、ややこしい。よし、匙を投げよう」
プリムローズさんが面倒くさそうに、くるっと俺の方を向いた。
「ジン、君に丸投げする。なんとかしろ!」
(だが断る)
こんな場合のお約束なので、言ってみた。
ただし、声に出さず、心の中だけで。
「……(くかー、くかー)……」
実際には、「寝たふり」しました(笑)。
「ジンくん。呼んでるよ。寝たふりしちゃダメだよ」⇒ミーヨ。
「ジンさん。格好いいところ見せてください」⇒シンシアさん。
「ジン」⇒ラウラ姫。
(やれやれ、俺の愛人どもが煩くて、おちおち寝てもいられねーぜ)
心の中で、こんなセリフを言ってみた。
口に出しては、絶対に言えませんから。
「「「「おーい!」」」」
しかし、俺は寝たふりを続行するぜっ。
「……(くかー、くかー)……」
「「「「…………」」」」
呆れてるような気配がするけれど、気のせいだと信じたい。
「「「「起きて! 起きて!」」」」
「……(くかー、くかー)……」
ここは異世界だから、「――目覚めよ」と言われれば目覚めるぜ。
「……ジン、本当に寝てるのか? ま、ここは『天の岩戸』作戦といくか」
『天の岩戸』ってなんだっけ? 聞いたことはあるな。
「おお、そう言えば、あの約束を忘れてた! ジンにおっぱいを見せるんだったな。今、脱ごう。すぐ、脱ごう」
なん……だと?
イ、イヤ、絶対ウソだ。
ここで目を開けちゃあいけないぜ。寝たふりだッッ。
……しゅっ、しゅるっ……
衣擦れの音がする。
服を脱いでる音……と言われれば、そんな音だ。
見えないだけに、いろいろと妄想してしまうぜ。
某アニメの、理系な眼鏡っ子のニーナは、しゅるしゅると衣擦れの音させて、いったいナニしてたんだろうな?
それはそれとして、これが「ワルキューレの……じゃなくて、『天の岩戸』作戦か?
くうっ……!
そう言えば、「天照大神」って女神なのに、なんで「天宇受売命」の「おっぱい」に負けたんだろ?
岩戸は岩戸で、投げ飛ばされて「戸隠山」になっちゃったし。
あー、なんか蕎麦食いてー。薬味はネギとワサビで。
「わー……プリちゃん、意外と大きいねー」
――ミーヨめ。そんな棒読みセリフにひっかかるか。
「プリマ・ハンナさん。肌きれいですね」
――シンシアさん。……イヤ、彼女は意外と演技派かも。
「うむ、おっぱい」
――ラウラ姫。直球過ぎるだけに本当かも?
「ええーっ、もうしまっちゃうんですか?」
――ド、ドロレスちゃんまで、そんな小芝居を……。
「よし、これで約束は果たしたな。ん? 泣いてるのか?」
――プリムローズさんが、やたらと空々しく言う。
「……(くかー、くかー)……」
ち、違わいっ。
目に汗が入っただけだいっ。
「……ぼそぼそっ(やっぱり、ウソだってバレてたんじゃ?)」
「「「「し――――ッ!」」」」
矢張りそうか。
俺は絶対に、この「偽装鏡面」……イヤ、「偽装睡眠」を解除しないぜっ。
ちなみに「ワル○ューレの岩戸」と「偽装鏡面」は、両方とも『蒼穹のファ○ナー』の話だ。「竜宮島」の『岩戸』から目覚めたのは「乙姫」だ。ただし、読み方は「りゅうぐう」でも「おとひめ」でもないから、要注意だ!
それはそれとして、意地張り過ぎて、目を開けるタイミングを失いつつあるな。
「うむ。では、私が先日体得した『往復ちちびんた』を……」
「なりません、殿下。きやつの思う壺です」
この主従は……。
「「「「……(ひそひそ)……」」」」
なにやら、「打合せ」でもしているような気配がする。
「ジンさん。先刻私たち4人を変な名前で呼んでましたけど、あれってどういう意味なんでしょう?」
「お兄さん、パンツ四姉妹とか言ってましたね。ひょっとして先日買った同じアレだったんですか?」
「ああ、あの工房巡りをした日に、ジンが着替えていた隙にみんなで買った白いアレか?」
「みんな、せーのっ、で服の裾めくりあげて確認してみようよ」
なるほど、そうきましたか。
「じゃ、みんな行くよっ」
「「「「せーのっ」」」」
俺は声のする方を向いて、カッと目を見開いた。
「「「「あ、起きた?」」」」
みんな、スカートをめくりあげたりしてませんでした。
そりゃそうですよね。
ですが、
「……ぶっ!」
ふと横を見ると、ラウラ姫がスカートをめくりあげてました。
「うむ。見るが良い」
◇
「なんで鼻血なんて出しちゃうんですかー(泣)。私、血が苦手だって、何度も言ってるじゃないですかー(泣)」
シンシアさんが、血を見て、かるく錯乱している。
「ふびばへん」
「すみません、だって」
ミーヨが通訳してくれる。
「もー。☆いやらし……間違えたじゃないですかー(泣)。☆癒しの手☆ あれ? 弾かれる?」
シンシアさんが、普段からは信じられないほどの乱れ方だった。
せっかく俺好みの黒髪美少女なのに。
「こういう場合は……。あのー、ちょっと失礼します。☆治癒の指☆(ぶすっ!)」
シンシアさんは、大胆にも俺の鼻の穴に、白い光を纏った指を突っ込んだ……。
「ふがふが」
なにしてくれてんの?
「上手くいきそうです。どうですか?」
「あ、とまったみたい」
ミーヨが、俺の鼻孔をのぞき込んでる。よく平気だな?
とりあえず止血は成功したみたいだけど、釈然としないものが残るな。
「はー、怖かった」
シンシアさんも、落ち着いたようだ。
御迷惑をおかけした事を、きちんと御詫びしようっと。
「すみません、シンシアさん。ラッキースケ……と言うよりも、急降下の後のサプライズだったので、血圧がロケット・ローンチなみに急上昇しまして」
「『ろけっと』? 意味分かりません」
ですよね?
色々と『地球』の言葉がまじってますもんね。
でも、『この世界』でも「キス」は「キス」で通用するんだよな。
『地球』由来の「外来語」なのだ。それとも、「借用語」かな?
とにかく、そのまんま「キス」なのだ。
考えたら、「目覚めのキス」を強請れば良かったな。
「お、落ち着いたか? ドロレスの事、どうするんだ?」
「お兄さん、あたしどうなるんですか?」
「むう」
プリムローズさんとドロレスちゃんとラウラ姫だ。
「やっぱり、俺が決めなきゃいけないんスか?」
「もちろんだ。君の止血待ちだったんだぞ」
待つなよ。んなこと。
俺に裁定を求められても困るよ。
「じゃあ、ドロレスちゃん」
「……はい」
「一緒に『王都』に行こう」
「……え?」
「盗んだのは『王家の秘宝』だろ? じゃあ、その被害者である女王陛下に直接事情を説明して、それでも『被害届け』を出すのか? って訊いてみよう」
「「「「「…………」」」」」
思いは様々だったろうけれど、みんな一様に黙り込んでいる。
「ま、俺はその場には立ち会わないけどね」
「「あららららっ?」」
ミーヨとシンシアさんが、某・新喜劇みたいに、かるくコケた。
君らは今後、そういう路線で行く気か?
「おい!」
プリムローズさんに睨まれちゃったよ。
「分かりました。かーさ……女王陛下にお目通りが叶うなら、そうしたいです」
ドロレスちゃんが、決然と言った。
「うむ。私がとりなそう。心配するな、妹よ」
ラウラ姫が、安心させるように妹の肩に手を乗せる。
頭部と右腕の仰角は約40度だった。
「うむ」
俺も、そんな風にうなづいた。
あとは、その女王陛下が、産んで放り出したままの、この子をどう扱うかだけど……。
でも、どんな人間なのかも知らないしな。
また、いつものように、出たとこ勝負だ。
いま気にしてもしょうがない。うん、後回し後回し(笑)。
「心配するな、ドロレスちゃん。俺たちは『白い花』の下に集った仲間じゃないか」
俺が力強く言うと、みんなは深く感動――してなかった。
「「「「「……(じろり)……」」」」」
白い目で見られた。
◇
帰り際、少し疑問に思う。
……にしても、なんであの床、「鏡」みたいだったんだろう?
あれって、やっぱり――
「気になっていたことがあるんですけど……。ドロレスちゃん、いい?」
シンシアさんが、ドロレスちゃんに声をかけてる。
「なんでしょう?」
「ミスロリ板はどうしてたんですか? 私たち5人がかりで持ち上げたんですよ?」
そう、俺とパンツ四姉妹でだ。
ま、ドロレスちゃんも一番下の妹だけど。
とにかく、アレを持ち上げるには、強力な「電磁石」でもなきゃ、一人じゃ無理だろ。
「…………」
ドロレスちゃんは、顔を赤くして黙り込んだ。
「?」
「……スです」
「え?」
「キスです。キスして吸い上げてました」
「「「「えええっっっ!?」」」」
――マジか?
どんなバキュームポンプだよ。厚くて重かったよ、あの板。
「もちろん、する前に『魔法』で綺麗にしましたよ」
ドロレスちゃんが、弁解するように言った。
「じゃあ、床全体が磨かれててピカピカだったのって、そのせい? 一枚だけ磨いてあるの不自然だもんね」
ミーヨが、「鏡の床」について納得したようだった。
「……へー」
……そうだったのか。
てっきり、「俺の普段の行いが良いから」だと思ってたのに(笑)。
とても素敵な事に、みんなのパンツが反射って見えるほど、ピカピカだったもんな。
「冶金の丘でミスロリを扱う工房のウラワザで、霧吹きで強めのお酢を吹きかけた後で『★滅菌☆』をかけると、ピカピカになるんです」
ドロレスちゃんが、そんな事を言って、ちょっと得意げだ。
ステンレスの表面て、酸化膜に覆われてるはずだけど……それをなんかするのか?
「お爺ちゃんに教わった直伝のやり方なん……あ」
「む。やはりお爺様を庇っていたのか?」
妹の失言に含まれていた真実を、姉が正確に指摘した。
「……」
ドロレスちゃんが、悔しそうな顔で黙り込んだ。
大人びてても、まだ12歳の子供なんだな。
ならば、ちょっと気持ちを持ち上げてあげよう。
「そーか、ドロレスちゃんは、ぜんぜん悪くないな。じゃ、『王都』行きはナシで」
言ってみた。どんな反応するやら。
「ええ――――っ」
残念そうだ。むしろ楽しみなのか?
「で、鏡に映った自分にキスするのって、どんな感じ?」
さらにからかってみる。
「なんなら、お兄さんの首筋に真っ赤なくちびるの跡を付けてあげましょうか?」
挑むような青い瞳のドロレスちゃんに、大人なテイストで反撃された。
◇
「「借りてきたよー!」」
ミーヨとドロレスちゃんが、『冶金組合』から「手押し車」を借りて来てくれた。
『宝石』の方の箱はともかく、銅貨が詰まった方は、重過ぎて持って歩くのが不可能だったのだ。
持ち出す『宝箱』は、見た目はそうは見えないので、ただの「古い衣装箱」として、偽装も隠蔽もしていない。むき出しのまんまだ。
そして、プリムローズさんの提案で『王家の秘宝』の発見は、あくまでも非公式の事、として公表しない方針でいくことに決まった。
『王都』や『王宮』の、「裏の事情」にも詳しい彼女の判断なので、みんな従う事にしたよ。
「うむ。では、行こう」
ラウラ姫の合図で歩き出す。
俺は、二つの箱と「姫」を乗せた手押し車を進めながら、ミーヨと話す。
「結局、旅の資金稼ぎにはならなかったな」
「うん。でも、みんなで楽しかったから、いいよ」
ミーヨは、特にがっかりもしていないようだった。
言葉通り、「宝探し」が楽しかったからだろう。
俺も、悲観はしていない。
今回の件で、たくさんの『宝石』に触れる事が出来たからだ。
『前世』では、宝石なんて無縁だったから、見た事も触った事もない物質を、『錬金術』で錬成るのは不可能だと思っていた。
けれど、先刻の「宝石遊び」で、『この世界』にあるほとんど(たぶん)の種類の『宝石』や『貴石』を見て、触る事が出来た。
『宝石』といっても、大半はわりとありふれた元素が、何かと結びついて結晶化したもののハズなので、理解ってしまえば、簡単に『錬成』出来るハズなのだ。
これから先に、希望の持てる出来事だったのだ。
――と、強がってはみるけれども。
「でも、早めに旅費くらいはなんとかしたいなぁ」
お金が足りないのは事実なのであった。はふ。
「なあに、この小銭の方は貰ってしまえ」
歩きながら、プリムローズさんが物凄く大雑把に言うけど、どうなの?
「……イヤ、さすがにそれは問題が……。と言うか、今回見つけた『王家の秘宝』って、結局のところ何だったんスか?」
このまま『王都』に持って行って、女王陛下に提出するらしいけど、「出元」とか「正体」はなんだったんだろう?
「うーん。私が思ってたんと違っててね……」
「そーなんスか?」
「建国してすぐの、約400年前くらい前の物かと思ってたのに、10年前に『すり替え』があったらしいし……そうね。『臆病者の保険』ってところかしらね」
「『すり替え』? 『保険』?」
「12年前の『王都大火』の後で、反乱騒ぎやらいろいろあってね。何かあって万が一『王都』に居られなくなった時に、『冶金の丘』に逃げ込んで再起をはかるための資金なんじゃないかって気がする。それがそのまま忘れられていた感じね」
隠しておいて忘れちゃうとか、冬眠前のリスが木の実隠すんじゃあるまいし……。
でも『前世』でも、廃品として回収されたタンスから札束が見つかる、とかあったな。
「じゃあ、その古い方の、400年前のって言うのは?」
「王家が、ひた隠しにしたい『都合の悪い真実』ね」
筆頭侍女がラウラ姫に聞こえないように、こっそりと言う。
『都合の悪い真実』……ナニソレ?
『ラ○プラス』のBOXか?
確かに、他人に見られたら恥ずかしい……って、間違えた。
じゃなくて、『機○戦士ガン○ムUC』の『ラプ○スの箱』か?
そんで、『ラブ○ラス』はBOXじゃなくて、Newで+の完璧なコレクションだよ。
オッス、フレミング右手の法則だよ。電・磁・力だよ。
そんな俺を横目で見つつ、プリムローズさんは言葉を繋げる。
「個人的には、『地球』の宗教にまつわる『何か』かと推測してたんだけど……見つからなかったしねえ」
「そーなんスか?」
「『この世界』って『全知神』や『全能神』が実在してるから、『神殿』には彼らが祀られているでしょ?」
てか、昨日『ご光臨』があって、実際に会っちゃってるしな。神様たちと。
「でも、殿下のご先祖は元の『地球』の宗教を捨てきれずに、『隠れ切支丹』だった可能性があるのね」
『都合の悪い真実』って言うからには、もっと引っ張るかと思ってたのに……あっさりバラしちゃうのね?
「あ、プリムローズさん。近年では『隠れ切支丹』じゃなくて『潜伏キリシタン』て言うんですよ」
「……さよか」
不機嫌そうだ。
「ま、もう確かめようがないけどね」
あ、なんか適当に誤魔化そうとしてる。
「にしても、なんでそんなものがここに? 『王都』じゃあないのに」
「『女王国』の前身の『かすてら・のばぁ』が最初に征服したのが、この『冶金の丘』だったのよ。武器を造るための拠点を真っ先におさえたわけね。それと『王都』が建設されたのは、建国後だから、当時は『王都』なんて無かったのよ」
「粕寺お婆あ? 日本の妖怪? あ、『カステラ・ノヴァ』か」
「『かすてら』って『地球』の『いべりあ半島』の『かすてぃーりゃ』の事だと思うわよ。お菓子の『かすてら』と同じく、発音とかが間違えて伝えられて来たのね、誤伝よ」
「誤伝……って、なんか『おでん』食いたくなってきた」
「なんでやねん?」
突っ込まれた。
俺の脳内には、『この世界』の人が話した言葉が『日本語』として思い浮かぶ『脳内言語変換システム』みたいなものがあるのだけれど、プリムローズさんには、そういうのは無いみたいだ。
「……てか、『宗教的な何か』って『お宝』じゃないじゃないですか」
「ちゃうね」
さくっと言われた。
「ひどっ! 俺ら、本当に金ないのに!」
俺の非難を無視して、
「……ぼそぼそ(だとするとやっぱり、他の場所にも、何かあるのかしら?)」
筆頭侍女が何かぶつぶつ言ってる。てか、しっかり聞こえてるけどな。
「ああ……ホントに旅費どうしよう?」
そもそも、この『宝探し』は旅費をなんとかするためのものだったのに。
とか言いつつ、みんなの『お宝映像』はしっかりとゲットしたから、心の奥底では満足してしまってる自分がいるけれども。
「あたし、お爺ちゃんにいくらか出して貰えるように頼んでみますから」
ドロレスちゃんが申し訳なさそうに言うけれど……無理じゃね?
「そうですね。私も馬車に乗せていただくんですから、旅費を用意しますね」
シンシアさんからも、生真面目な感じで言われた。
「いえいえ。気にしないでください」
シンシアさんには素敵な『お宝』を見せていただきましたから、もちろん無料ですよ。
決まってるじゃないですか!
とは口に出しては言えないけれども……。
「……(じーっ)」
誰かの視線を感じるし。
ミーヨだけど。イヤ、もちろん貴女も無料です。
いつもお世話になっております! 感謝してます!!
「……(じーっ)」
俺はプリムローズさんを見る。
この人からは見せて貰ってないな。約束したのに。
「いや、殿下と私はタダにしなさい。元は殿下の馬車でしょう?」
確信犯的表情だ。強めの口調で言われた。
もうすでに『俺の馬車』なのに。
◆
硬い宝石でも傷はつく――まる。




