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034◇鏡のような


 スウさんのお祖母ちゃんや何人かの知り合いに挨拶した後、俺たちは養老院を後にして『丘』に向かう。

 『店馬車』が商売している工房街を通ると、また買い食いしそうなので、別の路地を通る。


 ひんやりとした薄暗い路地で、何匹か猫を見かけた。


 いつの時代に『地球』から「貼り付け(ペースト)」された猫の子孫だろう? 白黒の猫や三毛猫がいた。

 ドロレスちゃんとシンシアさんが触りたそうにウズウズしてる感じがする。二人とも猫好きなのかも。


「あ、ウチに来てる子もいる」


 ドロレスちゃんが、そんな事を言う。

 彼女の家って、猫が通ってくるような家か。へー。


「ところで、ドロレスちゃんのお爺さんってどこに住んでるの?」


 前々から気になってたけれども、訊く機会がなかったな。


「この街の代官ですから、広いお屋敷に住んでます」

 いつもの、さっくりとした調子で答えてくれた。


「へー、凄いね」

 俺が言うと、

「いえ、広すぎて、野良猫がたくさん住み着いてエライ事になってます」

 ドロレスちゃんが難儀そうに言う。


 猫屋敷か。たいへんそう。


「そのせいもあって、殿下は『神殿』に滞在する事になったんだよ」

 プリムローズさんが言う。


 聞いたら、ラウラ姫一行は『代官屋敷』にずーっと滞在する予定だったのが、そこの「猫屋敷化」によって、清掃が終わるまでの仮宿として「『神殿』にご滞在」しているらしい。


 王女様が「『神殿』にご滞在」ってなんか違和感はあったけど、そんな裏事情があったのか……でも、それが無ければ、みんな(特にシンシアさん)とこうして知り合う事も無かったかもしれないし。


 猫ちゃんたちに感謝しないとな。


「ドロレスちゃん。『一日奴隷』の時につけてた猫耳ってそういう事だったの?」

 ミーヨの問いに、ドロレスちゃんはにんまり笑う。


「まあ、そうです。――猫は嫌いじゃありません。嫌いなら追い出してます。可愛いことは可愛いですし」

「ですよね」


 元・猫耳ちゃんの言葉に、シンシアさんもにこやかに同意してる。


「…………」


 ラウラ姫は、またまた俺の背中で眠ってる。

 前にプリムローズさんが昼寝好きって言ってたけど、ここまで睡眠時間が多いと思わなかった。


 猫なみに寝てる。


      ◇


 『飛行魔法』で俯瞰(ふかん)すると、『冶金の丘』は日本の「前方後円墳」にそっくりらしい。

 古墳好きな『恋○嘘』の主人公君なら、コーフンするかもだ。あの作品って設定からして、なんとなくSFファンタジーみたいな側面あるけど。なんにせよ、高○さんも莉○奈も選択(えら)べないよねー? 二人とも可愛いよねー。


 ……それはそれとして、金属精錬施設のある丸い『丘』と、それに付属した工房街を中核とした『街』と、その全体を取り囲む『(ほり)』が、「周濠」のある「前方後円墳」を連想させるらしいのだ。

 先日、プリムローズさんから聞いた話だ。


 空を飛べない身の視点だと、街は「石垣」の上にあるので、そんな感じは受けないけれども。


 『丘』に来るのは、街に入った初日以来なので、かなり久しぶりだ。

 またあのトンネルの入り口みたいな場所から、エアカーテンを潜って中に入ると、やっぱり内部はひんやりと涼しかった。


「やっぱ。涼しいなー」

「ホントですね。外とはぜんぜん違います」


 丘の中に入るのは、初めてらしい。シンシアさんが驚いている。


「上の『どーむ』で水を蒸発させてるらしいよ。水は浄化された下水が地下から来てるらしい」

 プリムローズさんが説明してくれる。


 気化熱を利用して熱交換してるのか……昼間『丘』を見ると、ゆらゆら陽炎(かげろう)が立ってるけど、そういう事だったのか。熱対流で大気が揺らいでたわけだ。熱のせいか、『丘』には草一本生えてないもんな。

 でも俺はともかく、他の子たちに「ドーム」って言って分かるのかな?


 ここがホントに古墳なら、「玄室(げんしつ)」に繋がる「羨道(えんどう)」に当たるであろう通路を歩く。


「これからどうするの? 『冶金組合』の事務所に行って、この黒い石ころ見せればいいのかな?」


 ミーヨが今後の段取りを確認するけど――誰もその「正解」を知らないんだよな。


「王家の秘宝なんだから、お代官様が預かってるんじゃないのか、って気もするけど……ドロレスちゃんのお爺さんが」


 一応、俺も意見を述べておこう。


「ですけど、『石は丘に』というのが鍵に」

 シンシアさんの鈴の()のような美声は、

「待っておったぞい!」

 ひび割れた銅鑼(ドラ)声で断ち切られた。――なんてことしやがる。


「あっ、お婆ちゃん。お元気そうで何よりです」

 シンシアさんが丁寧に挨拶する。


 そこに居たのは、『扉の守り人』として我々の前に立ちはだかった(?)あのお婆ちゃんだった。


「おお、あたしの命の恩人の嬢ちゃんか、お(かげ)でこの通り元気じゃ、あと60年はイケるわい」

「…………」


 もう、突っ込むのはやめておこうっと。


「どうか、されましたか?」

 プリムローズさんの問いに、

「お役目よ。先刻(さっき)、孫に会いに行くと言うて走って逃げたのは、ここに先回りするための偽装工作じゃったのじゃ」

 お婆ちゃんは非常に活舌よく説明してくれた。


「「……へー」」


 なんというか感情が乗らない。ドロレスちゃんも同様らしい。


「お役目って、この黒い石ころに関係あるんですね?」


 ミーヨが手のひらの上には、よく洗って滅菌魔法もかけた『黒い石ころ』が乗ってる。


(おう)よ! ついて来るがよい」


 お婆ちゃんはくるりと背を向けて、しっかりした足取りで通路の奥へ向かった。


 これ、ほっといて一人だけで行かせたら面白いだろうな――とは思ったけど、俺以外の子たちはみんな素直に従った。


 逆に俺が一人ぼっちになりそうだったので、後を追いかけようとしたら、耳元で声がした。


「ジン、下りる」


 ラウラ姫が目覚めたようだった。


      ◇


「「「「「……」」」」」


 みんなで黙々と歩く。

 途中、大曲りに方向転換して、さらにかなりな距離を歩いたので、『丘』の下から『街』側の地下に入ってる気がする。


 お宝の隠し場所への「地下通路」とか……ロープレなら絶対バトルがありそうなのに、敵とのエンカウントはゼロだった。

 みょーなさみしさを感じるよ。これも何かに毒されてるのかも知れないけれども。


「ここじゃ」


 案内されてやって来たのは、地下倉庫っぽい一角にある一室だった。

 部屋の中にも、いくつかの扉があって、その中のひとつに目指す目的の扉があった。


 目立たない、ただの板扉だった。


「その石があれば扉は開く――と我が家の家伝にはあったが……どうじゃ? 開くか?」


 お婆ちゃんの一族が、どれくらいのあいだ『扉の守り人』を継承し続けてきたかは知らないけれど、ここまで辿り着いたのは俺たちが最初だったらしい。『守り人』本人がいちばん興味津々だった。


「開き……ません」


 ミーヨが試してみたけど、ダメだったようだ。


「石貸して」


 俺はミーヨから黒い石ころを受け取って、扉を観察する。


 この「石ころ」が、実は強力な「永久磁石」なのはもう判っているので、扉の向こう側にある()のカギとか(かんぬき)を動かすかだろう――と推測は付く。


 何度か石を動かしていると、向こう側に引っ張られる手応えを感じる。そこに合わせて斜め上に石を動かすと、カシャッと音がした。


「……」


 扉を押してみると……開いた。


「「「「「おおぉっっ!」」」」」


 みんな驚いてくれるけど、たいしたこっちゃないよ?

 今時、推理モノの密室トリックの仕掛けで、コレやったら、フルボッコされるよ?


「おおっ、では中に入るがいい……あたしゃここまでじゃ」


 お婆ちゃんは名残惜しそうに去っていった。後で顛末を教えた方がいいのかな?


      ◇


 中は――暗かった。


「祈願。★光球っ☆」

 空中に小さな光球がぽつんと浮かぶ。


 その魔法は俺の……まあ、いいか。ここでは問うまい。

 とりあえず、ミーヨの魔法で室内は……大して明るくならなかった。なんてゆーか、いちばん小っちゃい『ナツメ球』くらいの輝度しかない。


 ここで俺の右目の『光眼(コウガン)』の「照明機能」を使うと、何か(※ラッキースケベです)があった時に「カメラ機能」で撮影出来なくなるしな……と思っていると、


「★光球ッ☆」


 声と同時にパキン! というプリムローズさんが指を鳴らす音がして、室内が一気に明るくなった。


「「「おおっ」」」


 見ると、空中に野球の硬球くらいの白い光球が浮かんでいた。

 めっちゃ明るい。同じ魔法でも使い手が違うとこんなに違うのか……ミーヨがちょっと凹んでる。よし、慰める意味でたっぷりと(以下略)。


 それは後として、少し熱を感じるんだけど、なんなんだろ? これ。


「あ、触るなよ。消えるから」


 光球に手を伸ばしたら、プリムローズさんから注意された。

 人間が触ると消えちゃう仕様か。


 たぶん、『魔法』のキラキラした虹色の星が、なにかやって発光してるんだろう。

 ただ、その『守護の星』を触って、捕まえようとしても、それこそ磁石の同極の反撥みたいに、すっ、と逃げられちゃって、素手ではつかめないんだよな。


 そんな事を考えていたら――


「うわー、下見てください。鏡みたい……あ、ジンさんはダメですっっ!」


 シンシアさんが、親切にも「いいこと」を教えてくれた。


 イヤ、ダメって言われても、もう遅いです。


 見たら、床一面が鏡みたいで、みんなのスカート内部の反転画像が……。


(カメラ。連写!)


   パシャパシャパシャパシャパシャパシャ――


 見ました。撮りました。やりました! やりました、俺!


      ◇


 その部屋の床一面に銀色の金属が敷き詰められていて、まるで一枚の鏡のようだった。

 壁は他の場所と同じく、素っ気ない土色のコンクリートみたいだった。


 そして、天井は魔法の照明のせいで、はっきりしないけど、ゆるいドーム形かな?


 イヤ、この状況で天井なんて見たくないんだけど、

「……放して、首痛い」

 ミーヨに無理矢理上を向くように顔を捩じられてます。


「これ魔法合金だよね?」

 ミーヨの問いに、

「ミスロリですね。凄い磨いてあります。ピッカピカです!」

 ドロレスちゃんが心底驚いたようにそう言った。


 確かに魔法合金『ミスロリ』こと「ステンレス鋼」を、鏡みたいに磨くのって難しそうだ。ステンレスって下手に磨くと逆にキズだらけになるしな。


「埃が……積もってないな。正方形の金属板のハメ合わせ……隙間がほとんどない」

 プリムローズさんが慎重に言った。


「俺が持ってる黒い石ころなら『お目当てのもの』を見つけられます!」


 俺は天井を見せられながら言った。


      ◇


「じゃ、行くよ」


 解放してもらった俺は、みんなに距離をとってもらい、床の金属板の上で黒い石ころを転がしてみた。

 まん丸いそれ(・・)は、鏡のような表面をつつ――――っ、と勢いよく転がっていく。真球に近い精度なのかな?


 そして、ある地点で『魔法』みたいに、ぴたっと静止した。


「そこだッ!」


 磁性のあるステンレス板……イヤ、ミスロリ板の上で静止したのだ。


 非磁性の場合でも、磁石による電磁誘導で金属板が電磁石になって一瞬だけくっ付く事はあるけれど――コレはぴたっと付いてる。

 このブロックのミスロリ板が「当たり」で間違いないだろう。


 そして多分、この下に――


「「「「ここ?」」」」


 黒い石ころが止まったミスロリ板の周りに、みんながスカートのまましゃがみ込む――って、こらー、やめろー、撮ってしまうやないか――――い!


   パシャパシャパシャパシャ――


 これ、俺が悪いんとちゃうよ――っ。


「この下にお宝があるんだね? もう貧乏とはサヨナラなんだね?」


 この下に俺の宝物が……イヤ、白だ。


「ジンさん、今のはなんですか? 『魔法』ですか?」


 真っ白。純白。似合い過ぎです。


「なるほどー、磁石だったのか……」


 意外だ。白だ。なんで?

 どうせなら、『俺ガ○ル』のヒキタニ君(※間違っています)の名言集から「パンツ。ピンク。意外」とか言ってみたかったのに(笑)。


「お兄さん、ところでこの板、どうやって取るつもりなんですか?」


 おおっ、白。全員白か!?


 てか、下の床が鏡みたいなので、上下反転した画像で、2倍……イヤ、3倍以上の破壊力だ。


 いかん、刺激が強すぎる。

 緊急避難的に違う事を考えよう。お婆ちゃんか? お婆ちゃんなのか? それともスウさん(失礼)か?


 ……あれ?

 でも、ラウラ姫どこだろ? と思って横を見たら、姫も隣で俺と同じ光景を見つめていたようだった。


「うむ。みんな見えてるぞ!」

 ラウラ姫が真実をみんなに告げる。


「「「「え!?」」」」


 緑。黒。紫。青。

 宝石のような四人の瞳が俺を見る。


「イヤ、待って! お礼は後で言うから! それより、誰か来ないうちに早く『お宝』を見つけないと!」


 俺はそう言って、その場を誤魔化した。


      ◇


「うん。ムリぽ」


 そのミスロリ板を磁石ごと持ち上げようしたが――ダメだった。

 かなりの厚みと重さがあるらしい。


 この部屋(八畳間くらい)の床は、一辺30㎝くらいの正方形の金属板によって、隙間なく埋められている。


 その中の一枚だけを持ち上げようとしても、板同士の摩擦で全体の重量がかかって、先に磁石が板から外れてしまうみたいだった。

 でなきゃ、板同士の接触面になんか特殊な表面加工が施されているのかも?


 この板の下がどうなってるのか判らないので、俺の「レーザー(ガン)」も使えないし。プリムローズさんの『★空気爆弾☆』も使えない。


「うーん、ダメか?」


 『体内錬成』で潤滑油みたいなものを錬成(つく)ろうかと思ったけど、流し込む隙間もなさそうだ。

 ん、隙間?


「プリムローズさん、今日の昼食の時に果物冷やしてたじゃないですか。この板だけ冷やせませんか? 冷やして収縮させるんです」


 金属だし、冷却すれば熱膨張の逆で縮むはずだ。

 そこを上手く真上に持ち上げれば……。


 関係ないけど、そう言えばこの人、前に『★冷金☆』とか言う対男性用のろくでもない『護身魔法』使ってたっけ……。思い出したら、俺様の金○袋もキュンとなるな。


 プリムローズさんは俺の意図を察してくれたけど、

「んー? 言いたい事は理解(わか)るけれど……金属に隙間開けるなんて、零度以下まで思いっきり冷やさないと、ダメなはずよ。それこそ『ばなな』で釘を打てるくらいにね」

 口から出たのは否定的な言葉だった。


「「「「……『ばなな』?」」」」


 みんな不思議そうだ。


 実は『この世界』にはバナナが無いのだ。

 いろいろ探してみたけど、色や大きさやカタチを説明すると、変な誤解されて笑われるし(泣)……俺バナナそのものはともかく、バナナチップスは好物なのにな。


 てか、その「バナナで釘を打つ」ってモトネタなんなんだろ? 昭和?


「冷やせばいいんですか? あたし得意ですよ」

 ドロレスちゃんが言う。


 でも、たしか……。


「待て! ドロレス、自爆しないだろうな? こんな板一枚を狙うんだぞ? 制御出来るのか?」


 プリムローズさんはドロレスちゃんの『魔法』の技量を把握しているのだろうか? そんな事を訊いた。


「確実に自爆します」

 堂々と言うな。


「ですが、『癒し手』がここに」

「わ、私ですか?」

「ええ、あたしが死んだら蘇生お願いします!」


 なんか無茶な事を言い出してる。


「「「「ちょっと、待った――っ!」」」」


 四人がかりで、なんとか食い止めた。


 他に方法はないのか?


 その後も妙案がなく、


「…………」


「「「「「…………うーん」」」」」


 退屈そうなラウラ姫以外の面々が悩んでます。


「ねえ、ジンくん」

 ミーヨが何か思いついたようだ。


「これって周りの4枚を押すと出て来ないかな? トゲが刺さった時に周りをぎゅ――っと押すと、にゅるっ、って出て来るじゃない?」


 シズル感たっぷりに説明するけど、どうなんだ?

 この板の断面が「台形」ならば、出て来るかもしれないけれど。


「うむ。やってみるがよい!」


 ラウラ姫が命ずる。よっぽど暇だったんだね?


 ――よし、やってみるか!

 引っ張ってダメなら、押してミーヨだ?


 俺はみんなに指示する。


「じゃあ、パンツ四姉妹のみなさんは、この板の周りに一人ずつ……」


「「「「誰がパンツ四姉妹よっ!?」」」」


 え? だって、みんな白だったじゃん。


「「「「ぶうぶう」」」」


 みんなのブーイングに、

「む。豚さんか? そう言えば、お腹空いたな」


 ラウラ姫が、食欲を感じた? らしい。

 ぶうぶう言ってても、豚さんじゃないよ?


 イヤ、淑女として、彼女らの行いを正すために言ったのかもしれないけど……どっちだろ? 微妙だ。


「「「「…………むう」」」」


 みんなむくれてる。


「大丈夫。みんな太ってなくて、可愛くて美少女だから」


 違う意味でも「美味しそう、食べたい」とか言ったら怒られるだろうから、自粛する。


「「「「……(にこにこ)」」」」


 フォローにはなったらしい。とりあえず、みんなの機嫌は直った。


 てか、みんなチョロいよ。

 変な男に騙されないか、本気で心配になるわ。俺も十分「変な男」に入るかもだけど。


「じゃあ、みなさん、こっちに……」


 配置に着いてもらいました。


「準備はいいですか? じゃあ、俺が『パンツァー・フォー!』と言ったら、同時に押してください」


 二度目だな、このネタ。


「「「「ナニソレ?」」」」


「ドイツ語で『戦車前進』という意味です」


 パンツ愛好家が四人、とかいう意味ではありません。


「「「「ナニソレ?」」」」


      ◇


 でもやるよ。


「パンツァー・フォー!」


「「「「えいっ!」」」」


 みんなが押すと、それ(・・)はほんの少し浮き上がった。


 今田……イヤ、今だっ! イヤ、今田って誰?


 俺はミスロリ板の真ん中へんに磁石をくっ付け、それを取っ手にして板を持ち上げた。


「おおっ、やったぞ。ミーヨ」


 ホントに接触面がナナメだったのか……。

 俺の好きな軽駆逐戦車『ヘッツァー』を、ひっくり返したようなカタチだったのか?


「上手くいったね」


 得意げだ。ミーヨ(のおでこ)が輝いて見える。


 で、その下には――


「さどうそうち、です、か?」


 シンシアさんの、ちょっと間抜けな感じの声が可愛かった。


 そう、現れたのは、何かの作動装置……スイッチだった。押しボタン式だ。


 まさか、自爆スイッチ? 


 この部屋全体が崩落するとかじゃないよな?

 押すべきか? 押さざるべきか? どうしたら……。


 悩み無用だった。


「ポチっとな!」


 時々悪女気取りになるドロレス様が、どこかで聞いたことあるような掛け声と共に、あっさりとそれを押してしまった。でも、押すのは違うキャラだっけか?


 途端……。



    ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――



 どこからか、凄い唸りがした。


 まさか、ホントに崩落か?


 ――と思ったら、壁の一部が斜めにスライドして開いた。

 あのボタンは、スライドドアのストッパーのスイッチだったらしい。


 そして、壁に『押し入れ』くらいの空間があらわれた。

 そこには、年代物の衣装箱のようなものが、二つ置いてあった。


 そのうちのひとつには、銅貨がたくさん詰まっていて、もうひとつには……『石』が入っていた。


      ◆


 ふたつあるなら、両方いっとけ――まる。

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