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033◇黒い石ころとなべのふた


「これって……石ころ? 黒い石ころにしか見えないんだけど」


 ミーヨが呆然としている。

 みんなで顔を寄せて、「それ(・・)」を確認する。


「「「「石だね」」」」


「でも、石でいいんじゃないんですか? 『石は丘に』が当たりだったんだから」


 最終問題に正解した後、ずっと無口だったドロレスちゃんが言う。


「「「「だね!」」」」


 みんな、さっくりと同意する。


「……」


 でも、少し気掛かりな事があるな。


「ところで、プリムローズさん。このまま行くと本当にお宝が出て来そうなんですけど――王家とは無関係な俺が」

「む。違う」


 俺の言葉は、ラウラ姫に途中で切られた。


「君はもう無関係じゃないだろう。第三王女ラウラ姫殿下の『愛人』が何を言ってる?」


 プリムローズさんが言うと、姫が頷いて笑った。


「うむ」


「「「あ、愛人!?」」」


 俺とミーヨとシンシアさんだ。ハモっちゃった。

 てか、より優雅に『(いと)(びと)』と呼んでほしいっス。


「でなきゃ、君に王家の秘宝探しなんて持ち掛けないよ。王家の一員のラウラ姫殿下の『陣営』である我々が秘宝探しをしても、問題はないさ」


 陣営ってなんだよ?

 選挙か? いつの間に、そんな(くく)りに。


「あのー、私とミーヨさんは?」

 シンシアさんの問いに、プリムローズさんが面倒くさそうに応じた。


「君らは殿下の愛人の愛人だから問題ない。細かい事は気にするな」

「うむ」

 ラウラ姫が気安く頷いた。


 いいのか? そっかー。


「いえ、あのー、私は『巫女見習い』なので、そんな関係では」

 黒髪美少女の困惑する感じとか……萌えるな!


「でも、シンシアさんは俺の初めての(ひと)ですし」

「え? あ――っ、なんて事を言い出すんですか?」


 一瞬考え込んだけど、思い当たる節があったのだろう。シンシアさんが顔を真っ赤にして俯いた。


「……」


 あ、いけね。

 ミーヨが俺を睨んでる。


 俺は、落ち着いてその視線を受け止め、

「そして、ミーヨも俺の初めての(ひと)だし」

 そう言うと、

「わた、わたしも、そうだったよ」

 ミーヨが、おでこまで赤くなった。


 よし、全方位外交終了。

 人間って、こうやって大人になってくんだな……違うか。


 そこへ誰かやって来た。


「こっちにミーヨちゃんが来てるって本当……? あ、いたいた。ミーヨちゃん!」


 名前は知らないけれど、顔には見覚えがあるな。

 養老院(ここ)で働いてる、炊事のおばちゃんの一人だ。


「あ、サーシュカジュシエンヌさん」

 ミーヨは人あたり良く、微笑んで言った。


 うん、覚えらんねー名だ。


「あ、ジン君も来てるね? またアレ頼んでいいかな?」


 サー……さんが俺を見つけて、寄って来る。


「えー、アレっスか?」

「ア・レ・よ」


 イヤ、俺の3倍以上の年齢の女性に、そんな風に言われてもな。


      ◇


 またしても話は脱線して、脇道に逸れる。


 養老院には、たくさんのお年寄りが暮らしてるけど、固い食べ物はウケ(・・)が悪い。


 みなさん、加齢で歯が無くなっていたり、あごの力が弱くて、上手に噛めなくなっているからだ。

 そんなこともあって、スウさんの工房では「柔らか白パン」を作ってここに納めているのだけれど……。


 人はパンのみにて生きるにあらず――


 原典は知らないけど、『地球』には、そんな言葉があるのを俺は知ってる。


 つまり、パン以外にもオカズがいるのだ。


 あれ? 原典の主旨から完全に外れた気がする。

 まあ、いいか。


 もちろん、オカズといっても、年頃の男の子が……って、そういうのもいいか。


 オカズとは、「副食」や「副菜」の事だ。

 ……ただ、こっちの方も、固いとウケが悪い。


 貴族の「ご令嬢」とはいえ、田舎の農村で育ったミーヨは、いろいろと詳しいらしく、ここの「まかないのおばちゃんたち」に調理方法について、いろいろと相談を受けていた。

 しかし、山菜の「アク抜き」だの「渋抜き」だのは知ってはいても、食べやすく柔らかく……というと難しいらしいので、俺に無茶ぶりしてきた。


 めんどかった俺は、『錬金術』で、それを行う事にしたのだった。


 養老院の食堂に隣接された厨房で、食材の野菜が山積みになった台の前で、俺は念じた。


(液体錬成。セルロース水溶液)


   チン!


 今回も、さくっと成功だ。


 植物なんて、固さの元になってる「食物繊維」のセルロースを抜けば、あとはフニャフニャ。これで「柔らか野菜」の出来上がりだ。


 あとは料理して、「おあがりよ!」だ。


 そう言えば、あれの○色先輩って「裸エプロン」だったな……男なのに。

 イヤー、それも()えるわー。フニャフニャになるわ(笑)。


 それはそれとして、超古代文明の遺産(たぶん)である『守護の星』による物質の『再構築』――俺の『錬金術』は、「楽をしたがる」という傾向があるのが判っているので、原材料が「近く」にあれば、そこから調達するのは確定的。


 それを利用して、特定の物体『野菜』から特定の物質『セルロース』を引っこ抜くような『錬成』を行うと、結果としてお年寄り用の『柔らか食材』が誕生するのだった。


 これって、最初のうちは、あくまでもお年寄り用の食材軟化作戦だったので、出来た『水溶液』は考えなしにそのまま(下水に)流していた。


 しかし、ある時「たしかセルロースって、なんかとくっつくと凄い硬くなるんじゃなかったっけ?」と思い付き、しばらくして『なんか』がリグニンという物質だったのを思い出した。


 で、『ケモノ』が出る森の中にこっそり忍び込んで、どう見ても利用価値のなさそうな「木の切り株」のある区画で、『リグニン水溶液』を錬成(つく)り、セルロースと混ぜて、楯としても使える『なべのふた』を製作してみたのだ。


 型をとって圧力を加えたり、均等に乾燥させたり……といった試行錯誤はあったけど、製作は上手くいって、それは先日の事件で、楯として使う前に『人間大砲』の砲尾と俺の乗る台座として使用された。


 発射炸薬となったプリムローズさんの魔法『★空気爆弾☆』でもほとんど破損しなかったので、その強度と有用性は証明されたけど……植物繊維の密度が高くて、ミーヨが持つには重たいらしい。


 その軽量化のために、ものすごく軽くて同じ厚みの鉄の数倍以上の強度を持つという「セルロース・ナノ・ファイバー」を『錬成』しようと試みてはいるものの、こっちは全然性交……イヤ、成功していないのだった。


 なんでやろ?


      ◇


 いい機会だったので、幼い頃『魔法の天才』と呼ばれていたというプリムローズさんに相談してみた。


「『せるろーす』? 『かーぼん・なの・ちゅーぶ』じゃなくて?」

「イヤ、むしろそっちは絶対に無理だと思います」


 俺の『体内錬成』は、俺自身が『前世』もしくは今世で、見たり、触ったりしたものじゃないとダメだから、そんな『地球』の研究所レベルの物質は不可能だと思えるのだ。


 ただ、先日見たり触ったりした『魔法合金』の「ロリ○ンタイト」って、その正体はなんだったんだろう? って疑念も湧くけれども。

 ……イヤ、一応物質の名前だから伏せ字の必要ないか。「ロリマンタイト」だよ。


「ああ、でも『なのせるろーす』とか、食品にも使われてたって聞いた事はあるな」

「でしょう?」


 アイスクリームの「型崩れ防止」に入ってるヤツも、あるらしいのだ。

 と言うか、そもそもが「ナノメートル」単位にまで、細かく千切れたセルロース繊維の事なので、どこかしらで「体感」してるはずなんだけどな。


「でもまあ、考えられるのは、『この世界(アアス)』の『世界の理(ことわり)(つかさ)』に無いからじゃないの?」


「――と言うと? と言うか、そもそも『世界の理の司』ってなんなんスか?」


 ミーヨは厨房の手伝いに行ってるし、ラウラ姫は寝てる。シンシアさんは『癒し手』として具合の良くないお年寄りを診てる。

 ドロレスちゃんは……どこだろう?


「かつて『この世界』にあった超古代文明の遺産と推測される『世界の理の司』は、『いんたーねっと』のような『ねっとわーく』を張り巡らせて、世界に満ちている『守護の星』を動かして『魔法』を発動させるけど……その本体がどこにどういう風に存在してるか? については今のところ謎ね」


「……はあ」

 調べようがないのか……誰も調べようとしないのか。


「でも、いろいろな可否の『判定』や『判断』などを行っているところを見ると、その中核部分は『地球』で言う『人工知能』みたいなものじゃないかと推測されるわね。どうやら、人間の思考や感情まで読み取れるようだし」

「……はあ」


 『判定』とか『判断』って、他の生き物に対して殺傷能力のある攻撃的な『魔法』を発動させる事が出来ない――っていう『この世界』の『魔法』のルールの事だろうな。


 そんで、人間の思考や感情……って、どうやって読み取ってるんだ?


「そしてその中には、でっかい『でーたべーす』というか巨大な『らいぶらり』というか、知識と情報の塊のようなものを内包しているらしいのよ」


 プリムローズさんの水色の瞳に赤みがさして、紫色に見える。

 知的好奇心が刺激されてるんだろう。


「それはおそらく――今朝がた、お風呂の掃除中(……ぷっ)にあらわれた『全知神』の掌握するところじゃないか、と思えるんだけど……その知識から、さっき言ってたのが洩れ落ちている気がするわね」


 彼女の名誉のために言っておくけど、「……ぷっ」って●(気体)じゃないよ(笑)。「お風呂の掃除中」というところで、何がツボだったのかプリムローズさんが笑いを堪えられくなって、噴いたのだ。

 思い出し笑いってヤツだ。


「つまり、レシピの分からない料理は作れないと? 検索してもひっかからないと? 『全知神』のクセに知らないと?」

「そういう言い方も出来るだろうけど……君、また怒られるよ?」

 プリムローズさん自身も、半笑いだけどね。


 『この世界』の『魔法』を発動させているシステムの正式名称が『世界の理(ことわり)(つかさ)』だとすると、プリムローズさんが「決まり文句」みたいに言ってる『守護の星』ってなんだろ? 彼女はたいてい「『守護の星』よ! 『世界の理(ことわり)(つかさ)』に働きかけよ!」と言ってるので、文脈が合わない気がする。


 ついでなので、訊いてみよう。


「『守護の星』って『魔法』を使うと見える、キラキラした星ですよね? それって何なんス? 星占いとかじゃないっスね?」


 俺様の『錬金術』で、働きバチみたいに飛び回って、必要な元素を採って来るのが、ソレなハズだ。


 俺が言うと、プリムローズさんが端正な顔をしかめた。


「役割がいろいろあって、ややこしいのよ」

「……はあ?」


「役割が違うと『さいず』がぜんぜん違う。フツーの大きさのは『魔法』を発動させるとキラキラ光って見えるでしょう? でも、それよりも遥かに小さなものは、肉眼では見れない。その目では見えない極小の『守護の星』は、生き物が身を守るために体内に宿してたりするものなの。それって生物の免疫力に関わってたり、消化酵素みたいな働きもするらしいわよ」


 SFでよくある「ナノマシン」みたいだな。

 てか、そんなような話をミーヨから聞いたな……。


「ああ……おっぱい」

 ふと思い出して、つい呟くと、

「おっぱい!?」

 物凄い目つきで睨まれた。

 なので、慌てて弁明する。


「違うんです。前にミーヨから、赤ん坊の時に母親から初めて貰うおっぱいに『魔法』の(もと)になる何かが含まれてる――って言う話を聞いた事があって、それのコトかなあ、と」


「ああ、そう言う話ね? 確かにそうよ。びっくりした! ……ぼそぼそ(約束の事かと思ったわ)」


 最後になんか呟いてる。

 大丈夫、ソレはソレで忘れてないから!


「とにかく、その目に見えないくらいに小さなものが、『魔法』を発動させる時には、一種の信号波として体内から出て行くらしいの」

「……へー」


 電磁波の代わりかな?


 その目に見えないくらい小っちゃい『守護の星』で、目視可能な大き目の『守護の星』にコマンドを出して、『魔法』を『魔法』として発動させる、と。


 別々な名前で呼べばいいのに……さっき言ってた「ややこしい」ってコレか。


「人によって『魔法』の効果に強弱があるように思えるんスけど、どうしてなんスか?」


 イヤ、答えは想像がつくけれども(ニヤリ☆)。


「うん。『魔法』の強さは『守護の星』を『どれだけ沢山、遠くまで飛ばせるか?』にかかわって……何ニヤついてるんだ、君は?」

「……イヤ、なんでもないっス」


 やっぱ想像通りだった。


 でも、『この世界』には夕焼け時の『魔法停止現象』なんてのも、あるんだよな。


 アレは何がどう停止してんだろ?

 太陽電池的なものでもなさそうだし、完全に陽が沈んだ暗闇の中では『魔法』は使えるらしいんだよな。


 それと、『機○戦士○ンダム』シリーズの「ミノ○スキー粒子」って、詳しい設定どんなんだっけ? あれは電磁波を阻害して、レーダーとかを無力化するんだったかな?


 俺が、ぼんやりとそんな事を考えていると――


「それと、目には見えないくらい小さいって言ったけど……実は目視出来るんだけどね。ね、シンシア」

「ええ、その通りです」


 気付いたら、シンシアさんがいた。


「『癒し手』がその手に(まと)う『白い光』は、目には見えないくらいにとても小さな『守護の星』の集まりなんだそうです。そして、とても小さいから、人間の身体の中にも入って行って、病んだり、傷付いた人体を、内側から癒せるんだそうです」


 その『癒し手』として、具合の良くないお年寄りを診ていたシンシアさんが「手が空いて」俺たちの話を聞いていたらしい。


 『この世界』で『魔法』を発現させている『守護の星』のキラキラ星にも、大小いろいろな大きさがあるのは、なんとなく経験的に知ってるけど……その中でもナノマシン的なヤツが集まると「白い光」に見えるわけか……イヤ、待って!


「だとしたら……『癒し手』は、自分の体内に常駐していて、自分の体を守ってる『守護の星』を、他人に譲り渡してる事になるんじゃないんですか?」

「そう言う事になりますね」

 シンシアさんが明快に言う。


 まるで他人事みたいだ。


 ……つい先刻(さっき)、ひと一人を生き返らせちゃったじゃないか?

 ゲームだったら『リザレクション』とか、膨大なMP喰いそうだし……。


「それって、自分の生命(いのち)を他人に奉げてるようなものじゃないんですか? シンシアさんの体内にある『守護の星』が無くなって……枯渇しちゃったら……どうなるんですか? まさか……」


 この美しい少女が……死んじゃうのか?


「あ、ご心配なく。確かに体内から失われますけど、食事で補充出来ますから」

 にっこり笑顔で言われた。

「……」

 そーなんだ。


「それと……『癒し手』じゃなくても、普通に生活していれば『おトイレ』で出ちゃいますから」

 にっこり笑顔で言われた。

「………………」

 ……そーなんだ。


 この美しい少女が……出しちゃうのか?


 聞きたくなかったな、今の話。


「ジンさんのおち……いえ、その、あのー、わ、私たちの『魂』が輪廻転生を繰り返すように、グルグルと回ってるんです」


 シンシアさんが、途中でナニかアタフタしながら言った。


「『守護の星』は『この世界』に満ちてるんだよ。空気や土や水の中にもある。それが生き物たちの(いとな)みを通して、循環を繰り返してるんだよ。『食物連鎖』に組み込まれているんだよ」


 プリムローズさんが、フォローするように言った。

 でも、「食物連鎖」を、わざわざ日本語で言ったので、シンシアさんがなんか驚いてる。


 とすると、その極小サイズの『守護の星』は、ウイルスみたいに人体内部で増殖してるってワケじゃなさそうだ。元々の由来はどこからなんだろ? 海かな?


 そんで、食べ物や排●物にカタチを変えながら、グルグル回ってるのか……。


 ……その話も、聞きたくなかったな。


      ◇


 シンシアさんが立ち去った後で、

「そう言えば、さっきの『錬成』の話だけど……いくらお年寄りでも食物繊維をぜんぜん()らないと、今度は便秘になるわよ?」

 プリムローズさんにそんな事を言われた。


「…………」


 なんかの経験則っスか?


「……なるほど。でも毎日俺が来てやってるわけじゃないので」

「そうね。たまにならいいか。――ところで君、なんかもじもじしてるけど、『おトイレ』行きたいんじゃないの?」

「めっちゃ行きたいです」

「行ってきなよ」


「大丈夫です。もし漏らしても『セルロース水溶液』ですから、ぜんぜん汚物じゃないです」

「行ってきなさい」

「ハイ」


      ◇


(にしても、神さまである『全知神』に「知らない事」を教えなきゃならないっていうのは……)


 それって、どうなのよ?

 どうすりゃいいのよ?


 本当にまた怒らせて、『ご光臨』を願うしかないのか?


 ま、そっちは後回しにして……とりあえず、早く出したい。

 繊維質のせいか、なんか必要以上にムズムズするのだ。


 でも、『この世界』のトイレって全部『個室』になってる代わりに男女共用なので、ちょっと行き辛い。


 そんな事を考えながら、トイレに向かうと、

「あっ、ジンくん! お願い、助けて!」

 ミーヨが俺を見つけて泣きついて来た。

「ん? どうかしたのか?」


「さっきの黒い石ころ、落としちゃって」

「え? 中でか? まさか●器の中にか?」

「……うん。でもなんか変なの」


 何かを不気味がってるようだけど、なんだろう?


 ミーヨに手をひかれ、とある個室に案内される。


「まさか、穴に詰まってるのか?」


 さすがにそれは……ハードル高いな。


 他の街は知らないけれど、冶金の丘(ここ)のトイレは、だいたい煉瓦組みの便座の中にでっかい金属製の漏斗状の●器があって、そこにした後で手動で水洗するタイプが多い。その●器は、四大魔法合金のひとつミスロリことステンレス鋼で出来ている。


 そして利用者は、終わった後で自分自身に『★後始末☆』という『魔法』を使うのだけれども……ミーヨさん、したか? そんな声しなかったけどな。


 もっとも俺も、無敵の『★不可侵の被膜☆』の副作用的に『魔法』が使えないから出来ないけれども。

 でも、『体内錬成』で●(固体)を「別な物質」に錬成(つく)り変えてから排●してるから、汚れはないよ?


「ここなんだけど」


 ミーヨに促されて●器を見てみると、漏斗の坂道の真ん中へんに、黒い石ころがくっついていた。なんかのイボみたいに見える。


「ああ、コレ、磁石だったのか……」

「『じしゃく』?」


 ミーヨは知らないのか?

 『この世界』で磁石って認知度低いの?


「まあ、とりあえず下まで落ちてなくて良かったな」

「あっ」


 ミーヨが恥ずかしそうだったけど、俺は気にしないでソレを手に取った。


 表面から剥がす時、強い抵抗があった。


 そこで、ふと気付いた。

 ステンレスって、磁石くっ付くんだっけ? たしか材質とかで磁性のあるヤツと非磁性のがあるハズだ。

 でも、普通の鉄よりもくっ付きにくいはずだけど……コレって、なんかガッチリと張り付いてたな。


 ――相当に強力な「永久磁石」ってことになるわけか。ふーん。


 俺はソレを目の前でじっくりと観察した。

 そんな俺に、ミーヨがあらぬ誤解をした。


「やーもう! ……匂いなんて嗅がないでー」


 ちげーよ!!


 しかし、これで俺は『ミーヨのお○っこ』を『液体錬成』で作り出せるようになったわけか……。


 よし、さっそく試して……みないよ?


 例え俺が『ミーヨのお○っこ』を体内で錬成出来たところで、俺様の俺様から排出されたらそれは『俺の●(液体)』であって、もはや『ミーヨのお○っこ』ではなくなるのだ。あくまでも最終的に排出した人物の属性を帯びるわけだから、『ミーヨのお○っこ』ではなく、俺が作り出した『ミーヨのお○っこ』は、俺の体内で……何がなんだかワケが分からなくなってきた。


 至高の堂々とスカートめくり……イヤ、思考の堂々巡りに陥ってしまったようだ。


 てか、俺もトイレに来たんだった。フツーに洩れそう。


「ミーヨ。俺これからするから、出て」

「まだ出てないから出さないで。きゃ――っ」

 悲鳴を上げながら、本気で嫌がってはいない。


 そんなタイミングで、シンシアさんとドロレスちゃんの声がした。


「……中だと思いますよ」

「ここですかね?」


 こっちに来るようだ。


 マズい、個室に二人じゃ変態だ。


「あのー、ジンさん」

「お兄さん」



    ガチャ。



「「……え?」」


「「……あ」」


 てか、居ると分かってて何故ノックもなしに開ける?


      ◇


「あのー、プリマ・ハンナ(プリムローズさんの事だ)さんが、そろそろ『丘』に行こうかって言ってまして」

 シンシアさんが、にっこりと笑顔で言う。


「で、あたしたちが迎えに来たんだよ」

 ドロレスちゃんも、いい笑顔だ。


「うん、そうだね。早く行こっ」

 着替え終わったミーヨも、爽やかにほほ笑む。


 三人とも、まるで何事もなかったかのような大人の対応だった。


「よし、じゃあ行こうか!」


 そんな中で、俺だけがぐずっていても、しょうがないので、前を向いて進もう。


 決めた。

 もう、泣かない。もう、振り向かない。挫けない。負けない。逃げない。人にかけない。


      ◆


 人に心配や迷惑をかけてはいけない――まる。

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