030◇神回(男湯編)
またまた宿無しになってしまった俺たちを救ってくれたのは、またまた黒髪の美少女シンシアさんだった。
『全能神神殿』の巡礼者用の宿泊房に、一部屋用意してくれたのだ。
「今日は本当にごめんなさい」
シンシアさんが、深々と頭を下げて謝罪する。
綺麗な黒髪が、しゃらりと肩からすべり落ちる。
「とんでもない。俺の方こそ『ケモノ』に○○される寸前に助けてもらったんですよ。シンシアさんは俺の恩人です」
俺は精一杯の感謝の気持ちを込めて、そう言った。
「……そうですか。そう言っていただけると、これから先、今日の事を思い出した時には、いつも笑顔になれると思います」
「イヤ、それはどういう意味ですか?」
「……(にっこり)」
てか、今現在目元が笑ってます。三日月目です。
――やっぱり、おもしろ可笑しかったんですね?
「あんなことがあったことですし、今日は性交できませんね」
そして、またまた大人のジョークですか?
「イヤ、俺、そんなとこ使わないですよ?」
今のところは未開発の自然保護区なのだ。
「ミーヨさん、今夜も我慢してくださいね」
シンシアさんの言葉に、ミーヨはむくれた。
「嫌です」
……らしくない。意地っ張りな子供みたいになってる。
「でも、わたしのジンくんを助けてくれて、ありがとうございました」
丁寧に礼を言ったと思ったら、まだ頑ななままだ。
「でも、嫌! です!」
「……おい、ミーヨ」
「あのー、ここは『神殿』の宿泊房ですよ? そういう意味で言ったのであってですね……」
シンシアさんが困惑してる。
「シンシアさんもここに泊まればいいじゃないですか、わたしとジンくんがえっちしないように、見張りに」
挑戦的な態度だった。
「……そうですか、分かりました。そうします。ええ、そうしますとも」
受けて立つらしい。
「そうすればいいんです」
なに? なんなの、この二人?
「でも、シンシアさんは『巫女見習い』だから、ホラ」
「「わたし(私)たちと寝るのがイヤなの?」」
「むしろ、ウェルカムです」
って、どうせナニで出来ずに「生殺し」だろうし。
「「『うぇるかむ』?」」
分かんないか。
「じゃあ、私はジンさんの左側でいいですか?」
「うん、わたしはいつも右側だから。えへへ」
なんかちょっと仲良くなってるし。
「「おやすみ」」
「おやすみ」
「……」
「………………」
「…………………………」
って、寝れるか―――――――っ!!
「……さて、冗談はこれくらいにして、私は部屋に戻りますね」
むくっと起き上がって、シンシアさんが寝台から脱け出した。
……冗談だったんだ?
「おやすみ、シンシアちゃん。また、明日ね」
親しみをこめて、ミーヨが言う。
「はい、また。ジンさんもおやすみなさい」
向こう向きだったので判らなかったけど、どんな表情だったのやら。
「……お、おやすみなさい。シンシアさん」
◇
「――という事があったんスよ。どう思います? プリムローズさん?」
「良かったわね。おめでとう。三人目『げっと』だぜ!! って感じかしら?」
彼女らしくない調子で茶化された上で、
「というか、違う話がしたかったんじゃないの?」
しっかりと見透かされていた。
「ハイ。昨日の事もあって、所持金が激減してまして」
「まあ、そうよね」
プリムローズさんが頷く。
なんだかんだ行き当たりばったりの成り行きで、俺は4人の奴隷の女の子のご主人様になってしまったけど、もともと『この世界』の一般的な平均年収ぐらいのお金しかなかったのに、今回の件で壊滅的に減少してしまった。
俺たちの所持金の残りは『明星金貨』2枚と『月面銀貨』7枚と『地球銅貨』8枚。あとは10円くらいの小銭『小惑星銅貨』がジャラジャラ――日本円に換算するとだいたい16万円くらいにまで減っている。
もう、はっきり言って当初の目的である『伝説のデカい樹』を目指しての旅――とか、完全に無理な状況だ。
パン工房に預けた3人の分の購入費(ヤな言い方だ)を、スウさん出してくれないかなー、と淡い期待を抱いていたけど……ダメだった。
『奴隷期間』中に『癒し手』として覚醒したヒサヤの場合、本来であれば奴隷から解放されるはずなので、そもそも購入費なんて発生しないはずなのに……結局、払っちゃってるしな、俺。
ヒサヤを保護している『全能神神殿』経由で、『奴隷の館』に返還を申し入れてもらえるように、シンシアさんに頼んで交渉してもらっているけど、あまりあてには出来ない感じだ。
ああ、またなんか愚痴っぽくなってるな。
――でも、お金が足りない。切実だ。
「なんなら、『宝探し』でもしてみる?」
プリムローズさんから、意外な話が飛び出して来た。
「ええっ! そんな話があるの? プリちゃん?」
石造りの大きな室内に、大きな声が響く。
昨日、危うくパンツを売りそうになったミーヨが、話を聞きつけて近寄って来た。
ここは、『全能神神殿』に隣接された沐浴場(女湯)だ。
女湯だけど……俺がいても問題はない。今は使用禁止の掃除中なのだ。
前にミーヨがここに入ってシンシアさんのお胸を見た――という話を聞いてたので、誰でも入れる公衆浴場だと思ってたけど、『神殿』に参拝に来た人しか入れないらしい。参拝に来た人達が身を清めるためのものだったのだ。
『神殿』の敷地は意外と広くて、他にも『神殿学舎』なんてものがあって、俺が『神殿』を小学校と勘違いしてたのはあながち間違ってなかったみたいだ。
今も子供の声で、『地球』の聖歌とかコラールみたいな合唱が聞こえる。
『神殿学舎』は一応、カタチだけは4歳からの幼年部。8歳からの初等部。12歳からの中等部に分かれてるらしい。
なんでカタチだけかと言うと、家庭の都合で毎日通えない児童・生徒に配慮して「単位制」になっていて、必要な単位を取ると進級出来ちゃうらしい。
そんで休日以外に毎日のように通うと、12歳くらいで全日程の単位が取れちゃうらしい。
12歳のドロレスちゃんが、毎日暇そうなのが不思議だったので、聞いてみたらそう言う話で、もう「中等部卒業」扱いになってるらしい。
そんで、中等部以上の教育は各種「職業訓練校(みたいなところ)」で習うらしい。
この街には「大学」にあたる部分が無い(『王都』にはあるらしい)ようで、「学びたい」という意思がある人は、有名な講師の『私塾』に通うらしい。
俺は、『この世界』では16歳の「成人」した状態で、あの麦畑の中で、ミーヨの『往復ちちびんた』で目覚めたので「異世界学園生活」を完全にスルーしてしまってる。
ちょっと淋しい。
いろんなイベントがあっただろうに。
ひょっとしたら「部活」とかもあったかもしれないのに。
でも、「学びたい」という立派な意思は無いし、塾通いとかもヤだし……今更だしな。
それはそれとして、俺とミーヨはまたまた『神殿』内にある宿泊房に泊めて貰ったので、またまた無料奉仕の清掃活動中なのだ。
プリムローズさんは正規の滞在者なので、その必要はないけれど、ミーヨに巻き込まれるようにしてここにいる。
その彼女が、『宝探し』なんてことを言い出してる。
「まあ、色々と予定は狂いっぱなしだけど、殿下の佩刀が仕上がるまで、あと8日。そしたら『王都』に出発だから、それまでに大きく稼ぎたいよね? 話だけでも聞く?」
プリムローズさんは、珍しく上機嫌で言った。
「「うん、うん」」
なんか凄そうな儲け話っぽい。
俺たちは、一応「成人」なのだけれど……なぜか飲酒や賭け事や性風俗は18歳から、というズレた決まりがあるので、「酒場で情報収集」とか「賭場で一攫千金」とか「えっちなお店でエクスプロージョン(笑)」とかは出来ないのだった。
それはそれとして、今はプリムローズさんの話が気になる。
「わたし、気になります!」
俺は、瞳を輝かせながら言ってみた。
でも、やっぱダメだな。千反○さん(※『氷○』)じゃないと可愛くない。
「そうだろう? いや、実はこの『女王国』には各地に『王家の秘宝』伝説があってね……」
王女様の筆頭侍女がいいのかな?
そんな事言ったら、評価が下がるんじゃ……。
でも、『王家の秘宝』とか、古典的な展開だ。
元素番号22は、チタンだ。まったく関係無いけど。
そして……ラウラ姫の家、エルドラド家のお宝か。
てか、「トレジャーハンティング」って言ったら「古典部」じゃなくて「美術部」を思い出してしまうな。そんで関係無いけど「シスト」って何語だろ?
俺が、そんなアニメな回顧に浸っていると――
「うむ。やはり修練のあとは、湯に浸るに限る」
「姫殿下。足元お気をつけください。そこ、段になっております」
ラウラ姫とシンシアさんが入って来た。
二人とも、完全に入浴を前提とした姿だった。
使用禁止の清掃中なのに。
「「…………」」
あまりにもお約束通りの展開だったので、以下のドタバタは省略する。
◇
「確認しましたが、本当に『清掃中』の札が出てました。私の落ち度でもありますので、もう何も言いませんが……。ジンさん、とってもいい笑顔ですね?」
一部の隙も無く完璧に着衣したシンシアさんに、そう言われた。
『巫女見習い』の平服――というか雑務用の薄い白灰色のローブを着てる。初夏なのに長袖だ。
「ハイ、ありがとうございます。シンシアさん」
俺はきちんと礼を言った。
自分がいま笑顔かどうかは分からないが、なにかあった時に素直にお礼を言えるようになって来た事には満足している。成長したな、俺。後で一人で画像確認しようっと。ラッキーだったな、俺。
なんというか、今すぐ街に飛び出して「イヤッホ――――ッ!」と叫びたい衝動を必死で抑えてます。
「――まあ、いいです……ぼそっ(私もいつも見てるし)」
シンシアさんは、おっ……心のとても大きな女性だ。
人間として素晴らしいことだ。尊敬に値する。
そして最後の呟きは――いったいナニをいつも見てるんだろう?
「シンシアちゃん、あんなにおっぱいおっきくて、弓矢射るのに邪魔じゃないの?」
「はい、そうなんですけど、最近なんですよね。おっぱい大きくなり始めたのって」
昨夜からちょっと仲良くなったミーヨとシンシアさんが女子トーク中だ。
てか、二人とも、俺が言わないように気をつけてるワードをあっさりと口に出してくれて、どうもありがとう。
シンシアさんは弓矢が得意で、昨日はそれで俺も一度は助けられたからな。
ま、その直後に俺の「*」を襲った悲喜劇は忘れるとして(泣)。
とにかく彼女は『巫女見習い』になった後も、弓の修練を欠かさないらしい。
そのせいか、胸もとの筋肉が発達していて、美しさと大きさを兼ね備えた理想の形状だったよ。でへへへ。
そこに、姫とプリムローズさんが戻って来た。
ラウラ姫がお風呂に入れず、残念そうだった。
「む。やはり『衛生魔法』は味気がない――あっ!」
俺と目が合うと、真っ赤になってプリムローズさんの後ろに隠れた。
ちっちゃいので、すっぽり隠れてる。
「……(じーっ)」
そんな目で見ないで、いぢめないから出ておいで。
てか、俺って姫の『愛し人』なのに。
◇
女湯の清掃が終わったので、みんなで場所を移動した。
――といっても、今度は男湯だ。
ここに入ったの初めてだな。
先日のラウラ姫との『決闘』で、全裸で俺様の俺様をグルグル振り回しちゃった俺は、『プロペラ小僧』(笑)と呼ばれて、有名になりつつあるので、公衆浴場とか入りにくくなっちゃってるのだ……。
ところで、神官のおっさんとか入って来ないよね?
「で、『宝探し』の話なんだけど」
ミーヨが大きなモップ的なもので床を洗いながら、話を戻す。
あいまいに「モップ的」と言ったけど、なんとなく生物の毛皮っぽいので、はっきりモップと呼ぶを躊躇う清掃道具なのだ。生きてるみたいでちょっと不気味なのだ。
「『宝探し』? なんですか、それ?」
シンシアさんまで清掃を手伝い始めた。桶に汲んである水を床に撒いている。
「『お宝』なんて、この街にあるんですか?」
なぜか、俺をちらっと見る。
『お宝』か……。
シンシアさんの『お宝映像』ならつい先刻ゲットしたから、もうある意味満足してる自分がいるな。
「シンシア。悪いが聞かないで欲しいんだが――君を巻き込むのは問題がある」
プリムローズさんが、この場の指揮官のように胸の前で腕組みしてる。
偉そうにしてないで、あんたも清掃手伝え。
あと背後のラウラ姫もいい加減、姿をあらわせ。
「『宝探し』だから、頭数が少ない方が儲けが大きいとか、そういうのですか? 私は数にいれなくていいですよ。私、昨日の『ケモノ』の討伐報奨金頂いてますし」
シンシアさんはそんな事を言って、笑った。
「えっ? そうなの? いくら?」
ミーヨが遠慮なしに訊く。
俺も、一応戦ったかな?
……まあ、ぜんぜん役に立ってないか。
「はい。『月面銀貨』2枚でした」
シンシアさんは明快に言う。
「安っ。『ケモノ』、安っ」
『金一封』レベルだ。
日本円だと、一万円と二千円ちょいかな? 愛してる?
「あ、あとで半分、ジンさんにあげますね」
にっこり笑って言われた。無邪気な三日月目が可愛い。
シンシアさんはお金に拘りがないというか……微妙に金銭感覚がないのかも。
『神殿』暮らしだからかな?
大変そうだよな、『がっ○うぐらし!』。……って、そっちか? でも、あんな部活はさすがにヤダな。
それはそれとして、
「俺は倒してないですし、貰えませんよ。シンシアさん」
きちんと言っとかないと。
でも、純粋な人だしな。誰かに騙されないように、俺が守ってあげないとな!
うん。見ちゃったしな。うん。
「でー、『宝探し』の話なんだけどー?」
ミーヨが浴槽の中に入って、モップ(?)で洗いながら、またまた話を戻した。
ちなみに、ここのは細長い木製の浴槽だ。13m×2mくらいで妙に細長い長方形だ。
先日の某イベント(笑)で『高級宿屋』に泊った時に見た「湯船」は、なぜか「船」のカタチをしてたけれど、それに比べたらエラいシンプルだ。
不特定多数の人間が入る沐浴場の浴槽だから、意匠に拘ってもしょうがないのかもしれないけど、とにかく素っ気ない。
白い石のプレートが敷き詰められた床から、掘り下げてある石組みに、そんな木の湯船がハメ込まれているのだ。
『神殿』のほとんどの部分が、『永遠の道』から切り出した「石灰岩」を『魔法』で「大理石」に魔改造した石材で作られてるらしいので、ここのお風呂もそーみたいだ。
総大理石風呂とか、なにげに贅沢な。でも『神殿』の沐浴場だしな。
「むー……『宝探し』はー?」
ちょっと不機嫌になってるみたいだ。
「そうだな、話が進まない。シンシアは他言無用という事で頼む。では、殿下、よろしいですか? 例の件を、皆に話してしまっても」
プリムローズさんが、背中に隠れていたラウラ姫を前に押し出し、是非を確認しようとした。
「む?」
姫の方は、なんのことか理解していないようだった。
「では、話します」
姫の意向は無視らしい。
「うむ。我がエルドラド家の秘宝か」
ちゃんと理解していたらしい。どっちなんだよ?
「はい、殿下。では……『女王国』の王家の血脈が『地球』から、この惑星にやって来たのは、約400年前だが……」
はいー?
「ちょっと待ってください。そんな話が伝わってるんスか? 今ズバリ『地球』から、って言いましたよね?」
いきなり話を断ち切ってしまったので、プリムローズさんが不快そうだけど、俺はまったく知らない話なのだ。
「ああ、姫の家系は後着組なんだ。来歴はわりとはっきりしてる」
「後着組?」
ナニソレ?
「……それも知らないのか?」
呆れられてるけど、知らないものは知らない。
『俺』が『この世界』で目覚めて、地球感覚でまだ一ヶ月程度なのだ。
「ジンさん、まさかとは思いますが『方舟』のこともご存知ないのですか?」
シンシアさんから控えめに訊ねられる。
「『方舟』って……大洪水があるから、でっかい船作って、人間や動物を乗り込ませて……ってアレ?」
俺は、あいまいな記憶を探って返答する。
旧約聖書のノアの方舟とか、ギリシャ神話のデウカリオンとか。
似たような感じの「洪水伝説」は、『地球』の各地にあるらしいけど。
ちなみに有名なノアの方はともかく、デウカリオン(デューカリオン)の方は、アニメ『アル○ノア・ゼロ』繋がりで名前知ってるんだけど……艦の名前なんだよね。
「なんだ、ご存知じゃないですか。それが『この世界』の始まり、『方舟に乗り込みし人々、目覚めし時には、この地に立てり』って『神行集』の冒頭にありますし、『神殿学舎』で習いますよね?」
シンシアさんは、当然の事のように言う。
確かに、そんなような話をミーヨから聞いた事がある。
だから、『この世界』には人間の他にも『地球』由来の動植物が存在してるらしいのだ。
その『方舟』とやらに積まれていたらしく、ムギもあるし、ハトっぽい鳥もいる。犬や猫や豚や牛や羊や山羊もいる。
ただ……『方舟』の伝説そのものが、途中から完全に別物にすり替わってしまってるっぽい。
「それが『方舟の始祖さま』。数千年前の話で、もう年代がはっきりしないらしいのですけれど」
シンシアさんが言い終えると、
「わたしのず――っとず――っと前のご先祖様は、その『方舟』に乗ってたら、いつの間にか『この世界』に居たんだって、お祖父ちゃんから聞いたことがある」
ミーヨが言った。
ミーヨのオ・デコ家にも、そんな言い伝えがあったのか?
「前にミーヨから、その……『神行集』を貰ったけど……ぜんぜん読めなかったよ?」
まるで、『この世界』の文字には見えなかったのだ。
仕方なくミーヨから、ざっくりした内容を口頭で聞いただけだった。
「そーだった? なんで?」
ミーヨが戸惑ってる。
「ああ、分かった。それ『ジカバン』だろう?」
プリムローズさんだ。
「「「「……『ジカバン』?」」」」
「自家版。つまり手製で、私製の本だね。多分、鏡面反転してあって、鏡が無いと、マトモに読めないハズだよ」
あっさりとそう言われた。
「反転してあるんですか? 一体どうして?」
そう訊ねたのは、シンシアさんだ。
「いや、だから印刷の原版になるゴロゴロダンゴムシの殻に、手彫りで文字を刻む時、印刷後の事を考えずに、そのまんま写したんだと思うよ。素人がよくやる失敗だね」
プリムローズさんが「解説」してくれた。
なお、ゴロゴロダンゴムシの殻は、『永遠の道』の脇の草地に、不法投棄された古タイヤみたいにいっぱい落ちてる。その質感はほぼゴムなので、市街地用の馬車の車輪や、靴底に貼られてたりする。完全にゴム扱いだ。
それを利用した「ゴム板版画」みたいな印刷物があるワケか。
「うー……そっかー。『神殿学舎』の初等部の夏休みの宿題で作ったやつだったんだけど……そうだったんだ?」
「気付けよ。中身確認してから、くれよ」
道理で読めねーわけだよ。
「やっぱりね。君らとボコ村で過ごしていた時に、そんなような事があったように記憶してたんだ」
プリムローズさんが、にやりと笑う。
そんで『神殿学舎』に「夏休みの宿題」なんてものがあるのか? どこも同じだなあ。
にしても鏡面反転か……『前世』では見慣れたエロ画像を反転させて、新鮮な感動を感じた事があったけど(笑)……まさか文字が反転してあるなんて、ぜんぜん思い当たらなかったよ。
よし、ならばここで一句。
「おさんぽ」の 「さ」の字を左右 反転だ
『前世』の先輩から教わった、しょーもない「バカ川柳」だ(笑)。
「……?」
「あ、ゴメン。話続けていいよ」
ちょっと一人でニヤついてました……。
あと関係無いけど「さ○たま市」の「さ」って繋がった「二画」って決められてるらしいよ。
「うん。それで……時代は飛ぶけど、400年くらい前に、大きな疫病があって……」
言いにくそうにミーヨが口ごもると、
「沢山の人が死んだそうだ。そして、その人口の激減を埋めるように、その頃また『地球』から様々な人々が連れて来られた。……おそらく『全知全能神』によってね」
プリムローズさんが繋いでくれた。
「それで、その頃に、『この世界』に来た人たちが『後着組』って呼ばれてるんだよ」
ミーヨはそう言うけど……知ってたんなら、もっと前に教えておいて欲しかった。
でも、それって逆の可能性もありそうだけど……『後着組』のせいで、疫病が起きたかも知れないよ?
ラウラ姫の先祖がそうだって言うんなら、ちょっと口に出して言えないけど。
『俺』が麦畑で目覚めて、最初にミーヨと色々話した時に出て来た、大鎌を持った『死神』のイメージは、その疫病が原型かもしれないな……なんて事をぼんやりと思う。
「我が家の家伝では、異国を目指して『ご朱印船』という船に乗っていて、気付くと『この世界』にいたそうです」
シンシアさんだ。前にも聞いたな、この話。
その時には、はっきりと『あゆたや』目指して『ご朱印船』に乗っていた――って言ってたな。『女王国』がある大陸の東方には、『地球』の『日本』にそっくりな文化や風習を引き継ぐ『東の円』って名前のまん丸い島があるらしいけど……。
「へえ、じゃあ『安土桃山』か『江戸』の初期かな? いわゆる『鎖国』の前だね。ちなみに私のところは、大航海時代の『ポルトガル船』って聞いてる」
プリムローズさんが言うけど、シンシアさんは『地球』の日本の歴史についてまでは知らないと思うよ?
「うむ。我が家のご先祖も、新大陸を目指して『ひすぱにあ』なる地から船出したそうな」
ラウラ姫だ。
待て。そしたら、『エルドラド』って黄金郷のことか?
前に姫が、ド・ラ・ド・ラ言ってたから、そういう発想がなかったわ。
ああ、でもラウラ姫言ってたよな。
先日の某イベントで『高級宿屋』の「湯船」がなんで「船」のカタチをしてるか訊ねたら……「うむ。我がご先祖が船に乗っていたからであろう」って。
――で、ぜんぶに、みごとなまでに共通項がある。
「みんな、船だ」
「「「「…………」」」」
俺の指摘に、みんなは黙り込んだ。
あれ? 気付いてなかったのか?
「…………」
プリムローズさんまでなにやら黙考中だ。
「船に乗ってどこか別の土地に行こう、っていう旅立ちの決意や覚悟みたいなのを利用されてる気がする」
俺は思いつくままに言ってみる。
「さもなきゃ、誰も見てない海の上なら攫って拉致しやすい――とか」
「あッ」
不意にシンシアさんが短く声を上げた――その直後。
☆☆
『失礼なことを言うな。我々を人さらいみたいに』
『全能神神殿』の男湯に『全知神』があらわれた。
ちょっと、おこ、な感じだ。
『コピーして来てペーストしただけじゃ。元のオリジナルには指一本触れとらん。そのままあの地球で命をまっとうしとるわい』
『全能神神殿』の男湯に『全能神』があらわれた。
ミーヨの言ってたとおり、白いお髭がウソみたいに長い。
で、言いたい事を言って、すぐに消えた。
あっ、という間の出来事だった。
空中に虹色のキラキラ星が浮かんで、ゆっくりと舞っている。
「「「「「…………」」」」」
みんなで、しばし呆然とする。
「「………………今のは?」」
プリムローズさんとシンシアさんから、長い間をおいた後で訊かれた。
うん、驚くよね。
「「神様」」
俺とミーヨは応える。
「うむ。そのようであったな」
平然としてる。
ラウラ姫は、ちっちゃいけれども大物だ。
「……ぼそぼそ(『こぴー』とか『ぺーすと』とか、久しぶりに聞いたな)」
プリムローズさんが、呆然となにやら呟いてる。
彼女にも、そう聞こえてたのか? 『地球』の言葉で?
でも……「音声」じゃなかった気がするけれども。「思念」……テレパシーみたいな感じがしたよ?
「私が『ご光臨』に立ち会う事になるなんて……『全知神』さまと『全能神』さま……なんですよね?」
シンシアさんは、ちょっと怯えてるようにも見える。
そんで『この世界』では、神様の出現と言うか顕現の事を『ご光臨』と呼ぶのか。そんな大層なものかな?
『前世の記憶』を持つ俺から見たら「神様」ってよりも「地球外知的生命体」なんだけどな。
俺が知る21世紀の地球人よりも、遥かに高度な科学文明築いてたっぽいけれども。
そんで、前々から思ってたとおり、やっぱり俺たちって『地球』の人類をベースにしてるんだな。
にしても、「コピーして来てペーストした」って……無断でか?
『地球』の46億年の歴史に謝れ!
――てか、俺が殺されて「生き返った」のって、それと同じ能力でか?
彼らは、どうやって、俺たちの会話に割り込んで来たんだ?
ずっと、聴いて……見ていたのか?
俺の右目の『光眼』を通して……。
――ひょっとしたら、『俺』そのものが、彼らの情報収集端末みたいになっちゃってるのか?
「…………」
イヤ過ぎる。
言いたいこと、訊きたいことは沢山あったのに、また逃げられた。
◆
「女湯編」は……めっちゃ先です――まる。




