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029◇赤ずきんの謎(※タイトル詐欺)


 『ケモノ』の(たけ)り狂うビースト・モードのエン○リープラグが、俺の初号機に挿入されようとした――その刹那(せつな)


(★剛腕(ごうわん)っ☆)


 どこかで、そんな声がした。


「ぎャわン!」


 野良犬が蹴られたような鳴き声を立てて、シャクレオオカミが弾け飛んだ。


(なんだ? 助かったのか?)


 そう思って、力が抜けた次の瞬間だった。



    ブスリ。



 俺の初号機が、何者かによって侵食された。


(……うそん)


 赤く……視界が赤く染まる。


 ズキンズキン……という痛みが、心臓の鼓動にシンクロ率100%だ。


 ――気が遠く……な……る。


「ジンさん、ゴメンなさ――――い! 大丈夫でした……か?」


 シンシアさんが見たのは、自分が放った矢を、ミラクルな部位でミラクルに受け止めたミラクルな俺の姿だったらしい。


      ◇


 ――そして。


(ちっぱいだ)


 目を開けると、ちっぱいがあった。

 それも一人分ではなく、四人分。

 八つのちっぱいが、俺の新たな人生の幕開けを祝福していた?


(なぜに、全部ちっぱい? ひょっとしてアレか? 名前がロリばっかの四大魔法合金の呪いか?)


 しかし、そこで俺は平静を取り戻した。


(――イヤ、これってきっと俺が助けた奴隷の女の子たちだね)


 俺は、奇妙なほど冷静に、状況を分析していた。

 いい加減、このパターンも4回目なのだ。飽きたわ。


 でも、みんな可愛い。

 無事で良かった。『人間大砲』なんて無茶した甲斐があったよ。


 そう言えば、幼女とペアで戦う『ブラック・○レット』でも、ロリ○ンの主人公が「人間大砲」の砲弾になるエピソードがあったな。イヤ、腕だけ飛ばしたのか……って、だからホントに俺ロリ○ンじゃないよ?


「おにさ、め、さめ?」

「お助けくだすって、ありがとでごんす」

「おねさん、の黒毛、おにさん、抜いて、倒れた、矢」

「血が苦手でお嫌いだそうで、卒倒してしまわれました」


「……」


 立て続けに色々とメチャクチャな事を言われて、ちょっと困る。


 でも、最後の子だけ、えらい流暢で大人びた口調だな。

 あの、勇敢で気高い少女だろうか?


 ――ところで血?


 俺、出血したのか?

 まさか「*(注・伏せ字です)」からか?


 無敵のバリアー『★不可侵の被膜☆』にも、ひょっとしたらアキレス腱みたいな「弱点(あな)」があるかもしれないと思った事はあったけど……それが「*」だったのか?


 『★不可侵の被膜☆』が発動しない「*」に、奇跡的なピンポイントでラッキース○ライクというか、「的の真ん中(ブル)」というか、出血したらしいのでレッド○ルというか。


 見ると(かたわ)らには、俺の『旅人のマントル』を敷き毛布がわりにして、シンシアさんが横たわってた。


 青白い顔で、眉間にしわがよってる。

 美少女にはちょっと相応しくない寝顔だった。なにか悪い夢でも見ているのかもしれない。


 その脇には、白く美しい弓が置いてあった。

 その弓で、この俺を間一髪で助けくれた直後に、この俺の初めてを奪ってくれたらしい。


 でも、『ケモノ』じゃなくて良かった。


 シンシアさんならいいや。

 俺は自分を無理矢理納得させた。矢だけに。


「祈願! ★乾燥っ☆ ★乾燥っ☆ ★乾燥っ☆ ★乾燥っ☆ はふー、疲れた。はい、みんな服乾いたよー! あ、ジンくん気がついた?」


 ミーヨが、子供たちの服を洗って乾かしていたようだ。

 服を渡して、着せながら、他のみんなに呼びかけた。


「みんな、ジンくん、気がついたよ」


 見渡すと、まだ森の中だった。


 みんなは周囲を警戒しながら、俺とシンシアさんと子供たちを守っていてくれたらしい。

 あの茶色いトラ猫は……いないな。あの野郎、どこ行きやがった?


「ジン! 大丈夫か? 場所が場所だったからな、本当に笑……大丈夫か? *は平気か? みんな笑……心配したぞ」


 プリムローズさんことプリマ・ハンナ・ヂ・ロースさんが言った。


「ジン! *は痛まぬか? 私にはシンシアの『癒し手』があった(ゆえ)、初めての時も苦痛は然程(さほど)でもなかったが、君はどうだ?」


 ……わざわざ、そんなこと訊かないで(泣)。


「そう言えば……俺も痛みはない。……シンシアさんが俺の*を癒してくれた、んじゃないのか?」


 ラウラ姫の言い方からすると、どうも違うような。

 誰かが「*から矢を抜いて、すぐ卒倒した」って言ってたか?


「この子がジンくんの*を治してくれたんだよ」

「この子?」


 ミーヨが肩を抱いて、前に進ませた女の子は、矢張(やは)りあの時の子だった。


 『ケモノ』に襲われそうになっていた女の子を、身をもって助けようとしていた子だった。

 『奴隷の印』である「蒙古斑」が出るようには思えない、コーカソイド系の少女だった。

 肩で切りそろえた淡い金髪と、明るいライトブラウンの瞳をしている。


「君の名は?」


 セーフだよね、これ?


「わたしは『印』のせいで捨てられ、名前がないんです」


 10歳かそこらの子供。

 それも捨て子とは思えない、堂々とした立派な態度だった。


「これも何かの縁。お兄様がわたしに名前をつけてくださいませんか?」


 そうか、この子が俺の「*」を治してくれたのか……。


「ヒサヤ・ダイ○クドー……というのはどうだろう?」


「やめとけ、バカモノ!」

 プリムローズさんに怒られた。


「ヒサヤ――いい響きです。それにします。わたし、今日からヒサヤと名乗ります。ありがとうございます、お兄様」


 めっちゃ感動されて、嬉しそうにその子に言われてしまった。


 本当に、それでいいんだろうか?

 確かに音だけなら、なんか涼し気な感じだけど……男の子の名前にありそうだ。


「……ぼそぼそ(なるほど。繁った森の中だけに)」

 プリムローズさんが、何やらぶつぶつ言ってる。また昭和ネタですか?


「イヤ、こちらこそ*を治してくれて、ありがとう。――君は『神聖術法』が使えるの?」

 俺は彼女にお礼を言った。


「『神聖術法』? いいえ。ただ、わたしたちを助けてくださったお兄様をなんとかお助けしたい――と、強く願っていましたら、白い光が右手に宿り……それをお兄様の*に――」


 ヒサヤは、自分でもよく判らないらしく、言葉を途切れさせた。


「私の時と同じです。私も姉を助けたいと必死で祈っていたら、『癒し手』として覚醒しました」

「シンシアさん? もう平気なんですか?」


 見ると、シンシアさんが上体を起こしていた。

 ……まだ顔が青白い。


「ごめんなさい。私のせいで、ジンさんの大事な*を……」

 シンシアさんは申し訳なさそうに言って、頭を下げた。


 ……どうでもいいけど、みんなして「*」とか言うの、もう止めようよ。


「私の方から見て、ちょうど『ケモノ』が弱点をさらしていたので、そこを狙って矢を放ったんです。ジンさんも同じような姿勢だったので、2頭いるのかと勘違いしてしまって、連射してしまいました。それが……あんなことに」


 前髪で表情が隠れてる。

 肩が、小刻みに震えている。


 ――まさかとは思うけど……笑ってませんよね?


「あなた、ヒサヤという名前を貰ったのですね、ジンさんに」


 顔を上げると、なんとなくにこやかだった……血の色が戻ってた。


「はい、名付け親になっていただきました」

「では、ヒサヤ。私達が証人となります。共に『神殿』に行き、『癒し手』として覚醒した事を承認してもらいなさい。そうすればあなたは奴隷の身分から解放されるでしょう。ただし、完全な自由を得られるわけではなく、『神殿』で『巫女見習い』としての修行を積む事になりますが……」


 シンシアさんがそう告げると、ヒサヤは――


「いいえ、わたしだけが奴隷でなくなるというのなら、わたしは行きません」

 気高い態度だった。


「ねー」

「姉さん」

「おね」


 ヒサヤは他の子に慕われているようだ。

 この子だけ、みんなよりちょっとだけ年上みたいだな。

 でも、ヒサヤ(ねえ)か? あぶない。ギリだな。


「今は我慢してそうしな。近い将来、このお兄さんが『この世界』から『奴隷制度』なんてものをぜんぶ無くしてくれるよ!」

 プリムローズさんが、そんな宣言をした。


 はて?

 このお兄さんって、誰のことだろう?

 この場には、男は俺ひとりしか……。


「……俺!?」


 あっしのことですかい?


「うむ。ジンなら出来る」


 ラウラ姫、それってこの『女王国』の体制を(くつがえ)すって意味もあるんですぜ。


「ジンさん。そんな立派な(こころざし)が……」


 シンシアさんに熱く潤んだ眼差しを向けられる。凄くいい気分だ。うん。


「ジンくん。わたしの『勇者』さま…………ぼそっ(あそこは『魔王』だけど)」


 ……ミーヨさんや。最後の呟きはナニかね?


 また俺の意に()わない方向に追い込まれそうだ。


 みんなして、まるで狩りの「勢子(せこ)」のようだ。

 俺が『ガル○ン』で一番好きなのは『ヘッツァー(勢子)』だけど……それは今はいいか。


 とにかく、このままだと逃げ場がなくなる。


「ところでドロレスちゃんは? 居ないようだけど」


 俺はなんとか退避路を探る。

 窓でも非常階段でもいい、俺なら飛び降りれるから。


 そこへ、

「とうッ!」


 赤い影がシュタッ! と降り立った。


 すわ、忍者か? ――と思ったらドロレスちゃんだった。


「……(ニカッ☆)」

 赤い頭巾をつけてる。


 イヤ、忍者の頭巾じゃなくて、童話の『赤ずきん』の方だ。

 いくら森の中で狼に襲われたからって、そんなこだわりは――


 そこで、はッとなった。


「……ドロレスちゃんって――『前世の記憶』を持ってるの?」

 でなければ、こんな偶然は……。


「ん? なんのことです?」


 心当たりが無さそうだ。


「この暑いのに、なんでそんな赤い頭巾を……」


 この森の樹々は、例のこんもりとしたブロッコリーみたいなカタチで、葉っぱが楓みたいな樹ばかりなので、日差しを遮られた木陰は、実はかなり涼しいけれども……季節的に。いま夏だし。


「防寒具です」

 ドロレスちゃんはさくっと言う。


「防寒具?」


 ナニソレ? ますますワケが判らない。


「あたし冷気魔法が得意なんですけど、細かい制御が苦手で自爆気味に発動させちゃうんです」

「……そうなんだ」


 てか、知らんがな。


 まあ、童話の通りならドロレスちゃん、狼に丸呑みされないといけないしな。


「まあ、戦闘は終わってるようなので、脱ぎますけど」


 ドロレスちゃんは、あっさりと脱いだ。

 といって俺みたいに全裸になったわけじゃないけど。ただ赤頭巾外しただけだけど。


 てか、俺またまた全裸のままだわ。こんなに女の子がいっぱい居るとこで。


 でも、誰からも何も言われない。

 もう、みんな慣れちゃってるのね? 新たな刺激が欲しいのかしら?


「混乱した隙に『奴隷の館』に手下を送り込んだのですが……肝心の『落とし屋』のニセモノに逃げられちゃいました。ごめんなさい」

 ちょっと元気なくドロレスちゃんが言う。


「イヤ、君が謝る事じゃ……って、ドロレスちゃん。本当に『手下』いるの? 君、何者?」

「『冶金の丘(ここ)』って女王陛下の直轄領でして」


「うん?」


 なんか意外な話になって来てるぞ?


「ウチのお爺ちゃんがその代官なんです」

「あの、ク――で始まる下品な言葉を連発してた爺さんが?」


 まったくそうは見えなかったよ?

 しかも、「お代官様」じゃなくて「ご隠居」って呼ばれてたよ? *門様のニセモノじゃね? あ、間違えた「黄門様」だ。


「まあ、名前だけで、ほんっとうになーんにもしないんですけど……」


 ――若干恨みがましい。


「で、手下ってつまり……?」

「お爺ちゃんの部下にあたる人たちですね。お爺ちゃんの口癖が移ってあたしまで『手下』呼ばわりしてましたけど」

 ちょっと言い訳っぽい言い方になる。


「で、『落とし屋』のニセモノ――女性だったそうで、その『奴隷商人』の鑑札は押さえましたから、これから商売しにくくなると思います。どこかで網にかかれば捕まえられるかもしれないです」


 凄みのある笑顔を見せる。

 ホントにこの子、何者?


「で、この事件。どうまとめるんですか?」


 ドロレスちゃんの問いに、俺は――


「君ら4人、値段いくら?」


「「「「ええっ?」」」」


「「「「「買うの?」」」」」


「他所に売られるのをほっとけないし、こんな小さな子だけで遠い『東の(つぶら)』へ落とすのもムリそうだし、もうカタチだけでも買っちゃって信頼出来るとこに預けた方がいいと思うけど……たとえば、スウさんのパン工房とか。あそこお兄さん夫婦が帰って来ても人手不足はそのままらしいし」


 自分で言うのもなんだけど、俺は珍しく長口舌で言った。


「……まあ、そうね。現実的に考えてアリかもね」

 プリムローズさんがしぶしぶ賛同する。


「いいかもです。一度脱走した奴隷は『要注意』とされて値段が大きく下がるんです。あと、罰として『奴隷期間』が3倍になります」


 ドロレスちゃん、すっかり奴隷問題の専門家っぽくなってるし。


「3倍? あた、まだ、ある」


 そういって、一人の子が後ろを向いて、粗末な服をたくしあげた。

 確かに背中とお尻に蒙古斑がまだ残ってる。


「ジンくん、見ちゃダメでしょ?」

 ミーヨが慌ててその子を隠すけど、

「へき、あたも、みた」

 平気そうだった。何を見たんだろう?


「10年の、4倍の、3倍、120年?」


 言葉はたどたどしいのに計算得意か?


「「「「「あー……」」」」」


 みんなで嘆く……。


 『奴隷期間』が120年て……。

 一生でもまだ足りないやん……。


「うむ。しかしそれはジンが何とかしてくれるだろう」

 ラウラ姫、安請け合いしないで。


「そうですよ! ジンさんなら、きっと」

 任せてください。シンシアさん。


「で、お金は誰が出すのでごんすか?」


 ケンタロウ氏の娘さんから、もっとも現実的な質問が飛び出した。


「「「「「この人が!」」」」」


 みんなが俺を指す。


 イヤ、直球すぎるでしょ? 

 ここは「わたしが」「私が」とか言い合って、最後に「どうぞどうぞ」っていうお約束のネタが……って。


「俺?」


 あっしですかい?


「「「「「…………(こくんこくん)」」」」」


 ――というわけで、俺は奴隷4人のご主人様になるらしい。


 俺も、もう無駄な抵抗はしないで、なるがままに任せるしかない――って悟って来たよ。


「おにさ、あた、なま、ほし」


 120年の子に言われた。

 生欲しい? まだ子供なのに?


「お兄様、この子も捨て子で、名前がないのです。名付け親になってください」

 ヒサヤ(もう決定らしいです)が言う。


「うーん」


 パン屋に預ける予定だし、背中とお尻の蒙古斑も見ちゃったし……。


「セシリ……ア? セシリア」

「セシリア、いいな、うれし」

 セシリアは喜んでくれた。


 見た目は完全に日本人顔の黒髪の子なんだけど、異世界だし、いいだろう。


      ◇


 で、後始末だ。


 ちなみに『★後始末☆』はトイレのあとで使う魔法だ。俺は使えないけど。


 『ケモノ』を警戒しつつ、子供たちを守って、俺たちは(ほり)まで戻った。

 濠には探しに来ていた小舟が何艘もあったので、乗せてもらう。

 この街全体を包む大きな濠は『ケモノ』対策だったんだな――と今更ながらに気付いた。


 船着き場近くには、『奴隷の館』の関係者やケンタロウ氏と田中さん|(イヤ、違うんだけどさ)らが待ち構えていた。


 親子の再会があった。

 感動的だったけど、捨て子の二人の事も考えると、詳しく語るのはやめとく。


 『奴隷の館』の連中は、ラウラ姫とプリムローズが表に出ると、大人しくなった。


 結構長いこと、この街に滞在している第三王女を知らぬ者はいないらしい。

 脱走騒ぎを起こして「要注意」となった4人を、俺がまとめて買い取ると言ったら、すんなり話がまとまった。


 人間の値段なんて言いたくないけど……四人で『明星金貨(フォスファ)』30枚。脱走したお(かげ)(?)で、元値の半分以下になってるらしい。


 しかし、これで俺たちの所持金は九割がた減ってしまった。


 しかも、さらなる問題があり、俺が『人間大砲』の砲車にした『とんかち』が、発射の炸薬替わりの魔法『★空気爆弾☆』によって、大破してしまったのだ。

 俺が空中で聞いた「ああっ!」というミーヨの叫び声は、それだったのだ。


 まあ、本当の火薬じゃなかったので、燃えたり焦げたりしなかったのが幸いではあったけど、ドラム缶くらいあった収納部が潰れて砕けた。


 半壊した『とんかち』は市内を巡回する廃品回収業者によって持ち去られる寸前で、ドロレスちゃんの指示によって、彼女の手下A氏によって確保され、今はラウラ姫の馬車を改装していた馬車工房に預かってもらっている。


 これも、預かり代とか修理費とかが発生しそうな気配だった。


 ま、子供たちの未来を守る「正義の味方」が、こんな愚痴言ってちゃダメだな……。

 ヒーローらしくないよ。


 てか、いっそ、ダークヒーローかアンチヒーローで行くか?


      ◇


「ジンくん。やっぱり、わたしのパンツ売ろうか?」

「違うな。間違ってるぞ、ミーヨ!」


 俺が(ひそ)かに敬愛する「アンチヒーロー」のル○ーシュ様の口癖を真似てみる。


 でも、黒マントじゃなくて、大きなズタ袋を背負っているので、ぜんぜん(サマ)にならない。

 壊れた『とんかち』からとりあえず必要な物だけを、前にスウさんから貰っていた穀物袋に詰め込んで、持ち運ぶ羽目になったのだ。


「あ、そだね。パンツじゃなくて、パンツの中の『太陽金貨(ソル)』でした」


 所持金の激減に動揺を隠せないミーヨさんだった。


 我々、ちょっと経済的に追い詰められてきてます。


「そして、それは俺の宝物だからダメ」

「そっかー、うん。そこまで言われるとなんか嬉しいよ」


 ミーヨは何かを諦めたようだった。


「あた、の、うる?」


 アタノール? 『錬金術』で使う道具か?

 見ると、俺が「セシリア」と名付けた子が、心配そうにしていた。


「心配しなくても、へーきだよ」

 ミーヨが、笑顔で応じてる。


 てか、この子もノーパンだったよ? 俺もだけど。


「ねえねえ、そこの君。馬車買わない? 今なら安くしとくよ?」


 俺はラウラ姫に言ってみた。

 あわよくば、大金が転がり込むかも。


「うむ。いくらかな?」

「なりません、殿下。きやつの思う壺です」


 プリムローズさんに阻止された。てか、「きやつ」って俺かよ?


「では、私たちはここで」

「お兄様、助けていただいてありがとうございました。それでは、また」


 シンシアさんとヒサヤ、そして王女主従と『全能神神殿』前でお別れする。


「うん、またな」


 俺とミーヨは、他の子供たち三人を連れて、スウさんのパン工房に向かう。


      ◇


 歩きながら、

「いったん村に戻って、金貨何枚か貰ってこようか?」

 何かと気苦労の絶えないミーヨが、最終手段を提示する。


 頼りなくてホントに申し訳ない。


「でも……それはヤダなぁ」


 カッコ悪いし。

 どうせなら、逆に『故郷に錦を飾る』って感じで凱旋帰国(?)したい。


 そんな会話を続けていたら、子供たちが騒ぎ出した。


「おにさ、パン、まだ?」

「♪パンパンパン」

「パンでごんすか……(じゅるる)」


「あの、煙突のとこだから」

 指差して目的地を教える。


 なんか、小学校の遠足の引率的な状況になってるな。


 あ、いたいた。


「スウさ――――ん!」


 スウさんの姿を見つけると、俺は先手を取って大声を出した。


 こういう場合、先手を取った方が勝ちだ。

 そうすればいろいろと誤魔化しが利くのだ……。


「あらー、ジン君……久し……ぶり?」


 スウさんは元気そうだった。

 パン屋の看板娘として頑張っている。


 ちなみに、スウさんとお別れしたのは昨日だ。


 また、来ちゃった。てへ。


      ◇


「で、この子たちを一人前のパン職人になれるくらいに仕込めばいいのね?」

「そうです」


 俺が言うと、スウさんは隠れ肉体派らしく力強く頷いてくれた。


「わかったわ! まあ、わたしが結婚するまでの間だけど、教えられることは全部教えましょう」

「え? スウさん近々結婚するんですか?」

「ううん……ぜんぜん、そんな話ないけど(泣)」


 よかった。これで3人も、しっかりと一人前に育つだろう。当分そういう話はなさそうだし。


「…………(しくしく)」


 なんかスウさんが落ち込んでる気もするけど、きっといつものちょっとお茶目なパン屋さんモードだろう。


 ケンタロウ氏によれば、この子たちの母親も呼び寄せるつもりらしい。

 俺はその事もスウさんに頼み込み、快諾を得た。

 家族みんなで同じ街に住むことになるし、会える機会はたくさん出来るだろう。


 捨て子だったセシリアは可哀相だけど……強く生きて欲しい。


 がんばれ。


「あなたたちのお母さんて何歳くらい?」

「29歳でごんす」


 ケンタロウ氏の娘さんだ。

 まあ、10歳の子の母親だから、そんな感じなのかな?


「…………ウソ?」


 スウさんが、虚脱状態になった。


 あ、魂がすうーっと脱けてゆく……。来世ではお幸せに。


(スウさんて本当は何歳か聞いてる?)

(知ってるけど、秘密)


 うん、別に知らなくてもいいや。


      ◆


 全てを知る必要はない。たぶん――まる。

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