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028◇砲 撃[※ちょい足し版※]



「それで、どうするか決まったんですか?」


 ドロレスちゃんが合流した。


 両手の指の間に、8本の串焼き肉を持つという離れ技を披露している。

 まるで『だがし○し』の「枝垂(しだれ)ほ○る」のようだ。彼女は「き○こ棒」を両手に8本持って、「デビルズソード」と呼称していた。連続食いで、粉をボロボロこぼしてた。


 それはそれとして、ドロレスちゃんは、食べ物を頼めば喜んで「パシリ」になってくれる、とってもいい子なのだ。


「正面から、カチコミかけるんですか?」


 てか、「カチコミ」とか、どこで覚えた?


 そこに、ふっ、と現れた人影がある。


「うむ。大儀であった」


 ラウラ姫だった。

 そう言って、妹から6本の串焼きを奪い取った。


「あ……」


 ドロレスちゃんが悲しそうだ。


 なお、ドロレスちゃんの容姿は、すべてにおいてラウラ姫に酷似している。

 ただし、体格比は姫8に対してドロレスちゃん10だ。食欲比(?)はその逆だ。

 ただし、常人の値は2くらいだ。


「「……はむっ……」」


 そんな音を立てて、かぶりついてる。


 ハムじゃなくて「串焼き」なのに……でも、作るところを見てたけど、正確には「串焼き肉」じゃなくて、「焼き肉の串刺し」だった。鉄板で焼いた四角いお肉を、トングで押さえて、そこにブスブスと串を刺していくのだ。串のままでは焼いてないのだ。


 俺以外は気にしてないようなので、きっとどうでもいい事なんだろうけれども。


 ついでに言うと、「串」は金属ではなく「竹」で出来ていた。

 『この世界』にも、竹があるんだな。なんか不思議な気分だ。


 ふと、落語を主題にした某アニメの、2期目のEDを思い出したよ。あの「竹輪」ならぬ「竹林の輪」には、どんな意味があったんだろう?


 串焼き8本は『地球銅貨(アアス)』8枚だった。

 日本円で、三千円ちょいかな? お金は俺が出したよ。


「「まだ、足りない」」


 さて、腹ごしらえ(王女姉妹限定)も済んだし……って、済んでないの?


      ◇


 街の東の(ほり)に沿った「船着き場」の近くにやって来た。


 今回は、みんな徒歩だ。

 俺なんて、「ピコピコハンマー」みたいなカタチをした二輪の荷駄車『とんかち』を()いて来たよ。これには、俺とミーヨの「家財道具一式」が入ってるのだ。


「あそこでしょ? 『奴隷の館』って」


 ミーヨが、この街には珍しい総石組みの灰色の建物を指さす。


 他の建物は、赤い煉瓦と白い魔造石の組み合わせなので、遠目にはピンク色に見える。


 でも、ここのは灰色だ。

 見た目は、堅固な城塞みたいだった。


 昨日、プリムローズさんが不機嫌な表情で睨んでいたのは、この建物だったんだな。


 『奴隷の館』は俗称で、正式には「前世の罪人(つみびと)のための救いの場」とか言うらしいけど……知ったこっちゃない。


 個人所有奴隷以外の、街角に立つ公共奴隷の獣耳奴隷の人たち(言葉は悪いけど売れ残りらしい)が、夜になるとここに帰って来て、寝泊まりするそうだけど、扱いは家畜なみらしい。


 そして、『奴隷の印』が出た子が通うのは、ここの事らしい。

 さらに言うと、『印』が出たために親から捨てられてしまった奴隷候補の孤児(10歳未満)も、ここで育てられるらしく、孤児院的な施設でもあるらしい。


 でも、運営しているのは『奴隷商人組合』とかいう団体で、公共の福祉とは無縁っぽい。


 よく知らないから、揉めた時どうなるか分からないのに――


「奴隷のおじさんを騙して子供を奪うような連中なら、正義の鉄槌を下してやりたい!」


 ――とは、王女主従・ラウラ姫とプリムローズさんの(げん)だ。

 言うことが強硬過ぎて、手に負えない。


 本来、姫を(いさ)めるべき立場の筆頭侍女プリムローズさんも、『この世界』の奴隷制度を本心から嫌ってるらしく、冷静さを欠いているのだ。困ったもんだ。


 この主従を前に出すと、確実に(いさか)いになりそうなので、俺一人で行こう。


 俺一人なら、『★不可侵の被膜☆』で攻撃の無効化が可能だし、俺からは人間を傷つける気もないので、双方怪我人が出ない。


 なるべくなら、穏やかで平和的な解決を望みたい。うん。


「まず、俺が殴り込みます(あれ?)」

 俺がそう言うと、

「待ってください。なにかおかしいですよ?」


 シンシアさんに「突撃」を制止された。

 ところで彼女、背中になにか背負っている。なんだろう? 武器?


「確かにヘンだ。バタバタしているな。不自然な人の出入りが多い」

 プリムローズさんが指摘する。




『逃げたのは何人だ?』

『女のガキだけ、4人だ!』

『朝飯ん時だろ、遠くにゃ行ってないはずだ』




 俺の強化された聴覚によって、その会話はハッキリと聞こえた。

 と思ってたら、俺そのものが、いつの間にか近寄ってたらしい……。


「ん? なんだ? お前?」


 おっさんが目の前に居た。


「なんかあったんスか? 俺に出来る事なら手伝うッスよ」


 俺様得意の『小者モード』で、イカツいおっさんに声をかけてみる。


「おう、手伝え! 奴隷のガキが逃げやがった。女のガキだ。10歳ぐれぇの。連れ戻したら、小遣いやるぞ」

「ういッス」


 その場を離れ、みんなの所に戻って、だいたいの事情を説明する。


「脱走? 10歳くらいの女の子……それって」

 ミーヨが気付いて、驚いている。


「うん、昨日のおじさんたちの娘さんたちっぽいな」


 年齢的に言っても、状況的に言っても、どうやらそれっぽい。


「まさか、『濠』は越えてないだろうな……。街の外の森には『ケモノ』も出るんだぞ」


 プリムローズさんが心配している。


 俺も行ったことあるから、知ってる。

 野犬か狼っぽいのと遭った。かなりの大きさなので、小柄な子供なら、口に(くわ)えて連れ去られるかもしれない――それはマズい。


「たしか、『★迷子探し☆』とか言う『魔法』なかったか?」

「うー……だって知らないんだよ。会った事もない子たちだから」


 ミーヨが困ってる。

 そう言えば、「握手」とかの非エロな「肉体的接触」が、発動の必須条件って話だった。


「それに、明るいから『星』が繋がってるの見えないし」

「そうなのか?」


 『魔法』のキラキラ星の事だろうけど、昼間の場合には、それが視認困難らしい。


 とにかく、『魔法』による探索は無理っぽい。

 緊急時なのにな。大事な時に不便だ。


「手分けして探しましょう! 急ぎ『神殿』に走り、手助けを呼びます」


 シンシアさんは言うけど、そんな大ごとにはしたくない。


「あたしは、手下を呼んでくる!」


 イヤ、『手下』って誰だよ? ドロレスちゃん。


「どこを探す? 西? 東か?」


 ラウラ姫が、剣の柄についた組み紐を解いている。

 いつでも抜刀出来るように、戦闘態勢らしい。てか、街中で抜刀とか、ダメだと思うんだけどな。


 ……というか、武装してるのは姫だけだし、それも防御力は無いに等しい。


 みんなに危険が及ばないように、俺一人で、なんとかしたい。


 そんなことを考えてると、いきなり――


「『守護の星』よ! 『世界の理(ことわり)(つかさ)』に働きかけよ! ★飛行ッ☆」


 プリムローズさんが、予告も警告もなしに、『飛行魔法』を発動させた。



    ぶわっっっ。



「「「「きゃ――――――っ!」」」」


 おおおおおっ!


 空気を操る『魔法』なので、暴風が巻き上がったよ。

 このあいだ「着地」するとこは見たけど、飛び上がる時はコレか……。


「あ、ゴメンよ」


 さっくりした軽い謝罪を残して、プリムローズさんは空高くに舞い上がって行った。


 上空から捜す気らしい。


 それはそれとして、地上では色とりどりの花が咲いたよ。


「「「「もお――っ!!」」」」


 他の子たちから、非難ごうごうだ。


 日本では、「(はな)(カタキ)は嵐なりけり」というけれど、ここは異世界。


 風とお花は、お友達なんだろう。

 素敵すぎる「お花畑」だったよ。


 ナイスっス! プリムローズさん!

 てか、「プリムローズ」も、何かの花の名前だっけか?


 もちろん、『光眼(コウガン)』の「カメラ機能」は「連写モード」でフル稼働だった。

 この貴重な瞬間を、絶対に逃してはならないのだ。絶対にだ。


「「「「……(ううっ)」」」」


 みんな、泣きそうな顔で俺を見るけど、特に文句は言われない。

 俺には、なんの非もないからだ。


 俺は、地上の出来事にはまったく興味のないフリをしながら、上空のプリムローズさんの様子を見守る。


 ――何か、見つけたらしい。


 自分だけスカートを気にしながら、下降してくる。


「★着地☆ リタルダンド」


 ところで、「リタルダンド」ってなんだろう?

 『地球』の言葉に聞こえるけど……ま、それは今はいいか。


 俺は、着地した彼女に駆け寄る。そして――


「ありがとうございます。プリムローズさん!」


 素直な感謝の気持ちを伝えた(笑)。


「え? 何が? ……それよりも、見つけたよ」


 『★遠視☆』の『魔法』を使用したらしい。目がデッカくなってる。

 先日見せてもらった時には、「ケ○ト・デリカットみたいでしょ?」とか言ってたけど……誰それ? 声優さん? 何かのアニメ映画にでも出てるの?


「東だ! 東の森の中に、裸の子供たちがいた!」

「裸? まさか、濠を泳いで渡ったの?」


 ミーヨが驚いていた。

 たしかに無茶な話だ。「濠」には、小型のワニっぽいのがいるらしいのに。


「裸はマズいです! 人間の匂いで『ケモノ』を呼び寄せてしまいます!」

 シンシアさんが、白いヴェールを揺らしながら叫んだ。


「ああ、『シャクレ』らしい『ケモノ』もうろついてるようだ」


 プリムローズさんが、デカい目のまま言った。

 非常時だけど、ちょっとおもろい。


 ……イヤ、待て。


 『ケモノ』? 人間の「天敵」だというアレか?

 ならば、急がないと、危機的な状況になる可能性があるな。


「俺が行きます! ミーヨ! プリムローズさん! 『大砲』だ!!」

「うんっ!」


 ミーヨが、

 手際よく準備するミーヨと対照的に、プリムローズさんが愕然としてる。


「……本気だったの?」

「もちろんです!」


 事前に話しておいた「作戦」を決行する時だった。


「キャスト・オフ!」


 俺は叫んで『旅人のマントル』を脱ぎ捨てた。

 もちろん、「手動」でだ。


 例の、バサッとな! だ。


 いつもの戦闘態勢は整った。


 ――全裸だ。


「「「「…………」」」」


 女たちの熱い視線を受け、実にいい気分だ。


 このメンバーには、俺の素肌で発動される『全知神』の加護(かどうかは微妙だ)である無敵のバリアー『★不可侵の被膜☆』の事は、すでに話してあるのだ。セク○ラではないのだ!


 にしても、防具()らず武器要らず、全裸で無手(むて)が「最強モード」って、俺はコスパ最高か?


「何を得意そうにふんぞりかえってるんだか……。『守護の星』よ! 『世界の理(ことわり)(つかさ)』に働きかけよ! ★送風ッ☆」


 プリムローズさんが、実に器用に小指で指パッチンする。


 ミーヨが用意したソレに、大量の空気が送り込まれ、ぶわーっと立ち上がった。


「「「おおおおっ!」」」


 みんなびっくりしてる。


 実はコレ、昨日買った「なんちゃって古代ローマ人」用の『トガ』を縫い合わせて、丸い円筒状にしたものだ。


 まるで、「こいのぼり」か「吹き流し」みたいだ。

 ただし、『魔法』で送り込まれた風で「直立」してる。


「…………」


 プリムローズさんが、「デコピン」の発射直前の仕草をしてる。

 右手の薬指の爪を、親指で押さえてる。


 これは、彼女が『魔法』を使う時の「クセ」らしい。

 それぞれの「指」に、「風」とか「火」とか「冷気」とか、属性ごとに割り振ってるそうなのだ。


 関係ないけど、『緋弾のア○アAA』に、指の爪をカラフルに塗った敵キャラがいたな。あと、物凄い「鳥取推し」のお嬢様キャラがいたな……ふと、そんな事を思い出したよ。


「★霧氷ッ☆」


 空気中の水分が凍って、輝き出した。

 にわかに出現したダイヤモンドダストが、キラキラと煌めきながら、円筒へと集まっていく。


「……きれい」


 誰が言ったんだろう。そんな声がした。


「★氷結ッ☆」



      ピシィッッ――



 霧氷を(まと)った円筒は、一瞬で凍り付いた。


 某・魔法科の黒髪の美少女とは違って、「六花(※雪の結晶)」は見えなかったけれども。


 見上げると、熱で大気が、ゆらゆら揺らいでる。

 上空に向けて放熱して、その下の「対象物」を、一気に冷却させる『魔法』らしい。


 氷の厚みは3㎝くらいになった。

 円筒の直径は……イヤ、これは実は『大砲』なのだ。

 なので、「口径」は40㎝くらい。「砲身」は12mくらいか。


 出来上がった「氷の大砲」を、持ち込んだ『とんかち』の上に乗せかける。


 今回は、これが「大砲の台車」だ。


 世界初の自動車は、18世紀フランスの「キュニョーの砲車」という「大砲運搬用の蒸気機関車」だったらしい。パッと見、「巨乳に放射」と思えてしまうのは、俺だけだろうか?


 緊急時にも関わらず、そんなバカな事を考えつつ、プリムローズさんの指示する方向に「砲口」を向けた。


 ちなみに俺は、『前世』でお世話になった先輩の影響で、ヒドい「ダジャレ(へき)」が出ることがある。それが今だ。我ながら困ったもんだ。


 とにかく、急いでる。

 いろいろ贅沢は言ってられない。


 俺は、「氷の大砲」の根元から、中に入り込んだ。


 すかさず、ミーヨが俺の足元に、鉄よりも硬い木製の『なべのふた』を大小2枚置く。


 これは、俺が『錬金術』の応用で作っておいた「丸盾」だ。「ラウンドシールド」だ。ネーミングは「お約束」だ。本来の使用目的から激しく逸脱してるけど、今回は「フタ」として使用するのだ。


「★凍結ッ☆」


 砲尾(ほうび)は閉じられた。

 中は、かなり寒かった。


 めっちゃ寒い。

 早くしてほしい……と思ったら、不意に寒さを感じなくなった。


 俺の無敵のバリアー『★不可侵の被膜☆』の機能の一部らしい。

 石弾とかの「運動エネルギー」だけではなく、俺の身に危険がおよぶような「温度」まで、遮断出来るらしい。知らんかった。

 でも、どういう条件で発動されるのか、俺にもよく分からない。


「待って、今からタメる」


 凍った布地の向こうから、プリムローズさんの声がする。


「みんな、退避。耳ふさいで! じゃあ、いくよ! ★空気爆弾ッッ☆」



      ドバンッ!!



 俺の足元、2枚の『なべのふた』の間で、それは爆発した。

 白い氷壁のような、凍った砲身の内部を通り抜けると、青空が広がった。


 ――俺は、空を飛んでいた。


 『人間大砲』だ。「砲弾」は俺だ。


(おおっ、見晴らしいい! やっぱ、空飛ぶっていいなぁ)


 不思議なくらい余裕があった。

 恐怖なんて、ミジンコなかった。……間違ってるか?


(ああっ!)


 遠くで、ミーヨの悲鳴が聞こえた……けど、なんだったんだろう?


      ◇


 先日の、ラウラ姫との『神前決闘』。

 俺のせいで、「賭け」に大敗した男から、『魔法式空気銃』による襲撃を受けた。


 その後、プリムローズさんとの雑談中に、作動原理を訊いてみたら、彼女が前に使っていた『★空気爆弾☆』を「発射炸薬」代わりに使用している事が判明した。


 つっても、『ジョ○ョ』の吉○吉影の「殺人女王」と「猫草」のコンボとかじゃなくて、『魔法』で圧縮した空気を、瞬間的に解放するだけものだった。


 さらに話を聞いたら、『魔法式空気銃』を大型化した『魔法式空気大砲』も存在する事を知り、飛行魔法を使えない俺は、こういうイロモノじみた方法で「空中高速移動」を実現する事にしたのだった。


 でも、無敵のバリアー『★不可侵の被膜☆』を持つ俺にしか出来ない荒ワザなので、よい子は絶対に真似しちゃダメなのであった。


      ◇


 空中飛行そのものは、あっという間に終わった。


 弾道曲線にまかせて飛行すると、『この世界』でよく見かけるブロッコリーみたいな樹の群れが、ぐんぐん視界で大きくなった。


 でも、樹にぶつかることもなく、上手いこと地面に着弾した。


 てか、砲弾って俺なので、着弾てゆうか「着地」なんスけど。


 しかも、運動エネルギーを吸収する『★不可侵の被膜☆』のお陰で、着地が「ふにゃり」って感じで、自分でも気持ち悪かったよ。


 とにかく俺は、『冶金の丘』を取り囲む「(ほり)」を飛び越えて、東の森の中に降り立った。


 振り向くと、樹々のあいだに、茶色い石垣が(そび)えているのが見えた。

 相当な「高低差」があるので、一気に移動するには、空を飛ぶしかなかったのだ。


 街から、200mくらいは飛んだかな?

 でも、やっぱり急造じゃダメだな。飛距離が出ない。


 ペットボトルロケットの方が、もっと飛びそう(泣)。


 某アニメの最終話の、あの脱出方法って……ネタバレになるから、やめとこ。


 にしても、爆発(的な空気の膨張)自体は、音速を超えてるはずなのに、初速が凄く遅かった気がする。


 砲身内部に、螺旋状の「ライフリング」が無い「滑腔砲」だしな。


 てか、俺自体がグルグル回転させられてもな。

 たぶん、フツーに気持ち悪くなっちゃうだろうしな……。


 とにかく、「方角」は間違いないはずなので、急いで子供たちを探そう。


 俺は大声で叫んだ。


「お――――い! ケンタロウの娘――っ! お父さんの命が惜しかったら、素直に出てこ――い!」


 別に、あの馬耳おじさんには何もしないけど、こんな事したら「心配かけて、お父さんの寿命が縮んじゃうぞ」って言いたいワケだ。うん。


「お、おっ(とお)には、何もしないで欲しいのでごんす」


 濡れた服で体を隠しながら、女の子が木の陰から出て来た。

 奴隷の証の作り物の「獣耳」は……つけてなかった。まあ、脱走したんだから、当然か。


 そして、親子そろって、その「語尾」なのか?


「君がそうか? もう一人は? 田中さんの娘は無事か?」

「タナカさん? 誰でごんす?」

「ホラ、君のお父さんの友達の田中……イヤ、名前知らないわ」


 俺の勘違いだった。馬耳奴隷Bさんだ。


「……」


 近くから、もう一人が、こっちを見ていた。

 なるほど、二人とも父親たちが自慢したがるような可愛らしい子だった。イヤ、俺ホントにロリ○ンじゃないよ?


 二人とも、『奴隷の印』である「蒙古斑」が出そうな、ばりばりのモンゴロイドだった。きっと『ご朱印船』に乗っていた遠い昔の日本人の子孫なんだろう。元・日本人の『前世の記憶』を持つ俺から見ても、完全な日本人顔だ。


「じゃあ、二人とも街に戻ろう。ここは『ケモノ』が出て、危ないんだよ。めっちゃ大きくて、君らなんか丸呑みしちゃうような」


 手頃な見本が居たので、俺はそちらを指さす。


「ちょうど、あんな感じの……」


 『ケモノ』だった。

 めっちゃでっかい。


 見たコトある。

 コイツ、「シャクレオオカミ」だ。


 実は円形広場の商店街の隅に、コレの剥製が飾ってあるのだ。


 コレのメスにも遭遇した事あるけど、メスはただの野犬みたいだった。

 でも、オスの個体は、名前の通りに下顎(アゴ)が大きく突き出ていて、そこから上向きに大きなナイフみたいな牙が()えてる。体の方はデカくて茶色い「狼」だ。


 プリムローズさんが単に「シャクレ」って呼んでたけど、関西人らしい(?)無遠慮な表現だ。的確だけど。


 にしても、オスとメスで随分と違う。確か「雌雄二体」ってヤツだ。クワガタかカブトムシみたいだ。肉食獣ならライオンか。



      シャルるるルルゥ――



 変な唸り声だ。シャクレてるせいかな?


 ギラギラした目でこっちを睨んでいる。


 てか、タイミングがマズい。


 俺の必殺技「レーザー(ガン)」が使えないのだ!


 先ほどのラッキースケベ・イベント(笑)で「カメラ機能」の連写モードをやりすぎて、10分ほどのクールダウンが必要なのだ(泣)。何事もやり過ぎは良くないってコトですね。


 てか、アホか俺は?


「逃げるぞ!」


「「キャイン!」」


 俺は女の子二人を引き寄せ、小脇に抱えて、森の中を走り出した。

 声からすると、この子たち、犬耳かな?


 そんなことを考えながら、俺は走った。

 ふしぎなことに、アイツは追って来なかった。


      ◇


「ジン!」


 森の中で見つけたのは、プリムローズさんとラウラ姫とシンシアさんだった。


 ――なんで、みんな防具もなしに、危険な森の中に入ってくるかな。


「みんな、どうして?」

「『魔法』で……濠を……凍らせたんだ……ハアハア……走るのは……苦手だ」


 プリムローズさんが、息も絶え絶えに言う。


「二人とも無事か?」

「うむ。二人とも泣かずに頑張ったな」

「二人とも、怪我はありませんか?」


 三人三様だけど、俺はまったく心配されてないらしい。ちょっと淋しい。


 でも、とりあえず目的達成だ。子供たちは、無事保護した。


「まだ、いる。森の中……」


 田中さんの娘が、たどたどしく言った。

 ……イヤ、田中さんじゃないんだってば。


「え? どうしたの?」


 ミーヨまで追いついて来た。

 手には『なべのふた』を持っていた。かなり重たそうだ。可哀相に。


「もう二人、一緒に、脱走」

 女の子が、森の奥を指す。



『逃げたのは何人だ?』

『女のガキだけ、4人だ!』



 ……そう言えば、そうだった。


「この二人を頼む!」


 俺は森の中に引き返した。


      ◇


(間に合え!)


 俺は走った。


 そして見た。


 その光景を。


 樹木の間の巨体と、その前の小さな人影。

 小さな女の子が小さな女の子を守るために、『ケモノ』の前に立ちはだかっていた。

 両手を広げ、後ろにへたりこんでいる子を(かば)うようにして。


 我が身を捨てて、他人を助けようとしていた。

 震えながら、守るべきもののために、気高(けだか)く立っていた。


 俺は激しく胸を打たれた。


 そして、こうも思った。


(俺には、絶対に真似出来ない)


 ――なぜなら、


(俺、不死身だし)


 ガバァッと大きく開いた狼の(あぎと)に、俺は自分の左腕を差し込んだ。



      あむっ



 発動した『★不可侵の被膜☆』のお(かげ)で、痛くも痒くもなかった。

 『前世』で喰らった事のある猫の「甘噛み」の方が、ずっと痛かった記憶があるよ。


「……?」


 狼が戸惑っている。

 噛み砕いたはずの俺の腕が、ずっと牙の間に挟まっているからだろう。


「逃げろ! 早く!」

 俺は二人の少女に叫んだ。


 しかし、二人は目の前の光景に呆然としてた。


 ――当然か、いきなり全裸の男が現れて、狼の口に素手を突っ込んでるんだから(笑)。


「早く!」

 もう一度促す。


 一人の子が、座り込んでる子を立ち上がらせ、

「……(こくん)」

 俺にちょっと頷いてから、二人で手を取り合って走り出した。


 よし、離れてくれた。


(気体錬成。毒ガス)


      チン!


 こんなこともあろうかと、密かに練習を繰り返して来て、練りに練った『毒ガス』だ。

 ……って、普段はこの後「花の香り」に再錬成するから安全だけれども。


 とにかく、今回は演習ではない。実戦なのだ!


 俺は、発生したガスを右手で握りしめ、狼の鼻先で解放した。

 専門用語で言う『にぎりっ●(気体)』だ。


 ソイツは慌てて俺の手を放し、少し後退(あとずさ)ると、ぶるるるん、と頭を振った。

 ……あんまし、効いてない。


 ま、塩素ガスだしな。ガチな毒ガスとか無理だし。

 そう言えばガスマスクをつけた主人公が、悪の秘密結社の一員として世界征服を目指すアニメがあったな。アレの首領も幼女だっけ。


 それはそれとして――シャクレオオカミを完全に自由にしてしまった。


 完全に失敗だ。


 ソイツは、向きを変えて女の子たちを追う気らしかった。

 マズい。


 俺の目から見ても、俺よりあの子たちのほうが美味そうだもんな。

 イヤ、変な意味じゃなしに。


 狼の気をこちらに惹きつけなければ……惹きつける?


 よし。


(気体錬成。メスの『シャクレオオカミ』の匂い)


 俺はそれ(・・)を嗅いだことがあるのだ!


      チン!


 珍奇な匂いだった。甘いバニラのようだった。


 すかさず(※二重の意味(ダブル・ミーニング))、全力で放った。


 専門用語で言う『放●(気体)』だ。




 狼が――止まった。




 そして鼻をひくつかせながら、こっちを見た。

 ハアハア言ってる。大量のヨダレが垂れてる。


 ……発情したオスの顔だった。


 これ、別な意味でヤバくね?

 俺、いま全裸だし、なんかちょうどお尻から『メス狼』の匂い出しちゃったし。


「えーっと、そんな興奮しないで、落ち着こうか?」

 言ってはみたけど、無駄だった。


 ソイツが襲い掛かって来た。

 股間には、モザイク処理が必要だった。


 慌てて逃げようとして、向きを変えると、そこには何故か茶色いトラ猫がいた。

 ソイツに気をとられて、木の根っこに足をとられた。


 ちょうど、orzの体勢になってしまった。しかも、全裸で。


 後ろからは、盛りのついた獣のような『ケモノ』が迫って来る。


 前方に虎猫? *門に狼?


 俺様、大ピンチだった!


      ◆


 ピンチはチャンス! 名言ではある――まる。

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