028◇砲 撃[※ちょい足し版※]
「それで、どうするか決まったんですか?」
ドロレスちゃんが合流した。
両手の指の間に、8本の串焼き肉を持つという離れ技を披露している。
まるで『だがし○し』の「枝垂ほ○る」のようだ。彼女は「き○こ棒」を両手に8本持って、「デビルズソード」と呼称していた。連続食いで、粉をボロボロこぼしてた。
それはそれとして、ドロレスちゃんは、食べ物を頼めば喜んで「パシリ」になってくれる、とってもいい子なのだ。
「正面から、カチコミかけるんですか?」
てか、「カチコミ」とか、どこで覚えた?
そこに、ふっ、と現れた人影がある。
「うむ。大儀であった」
ラウラ姫だった。
そう言って、妹から6本の串焼きを奪い取った。
「あ……」
ドロレスちゃんが悲しそうだ。
なお、ドロレスちゃんの容姿は、すべてにおいてラウラ姫に酷似している。
ただし、体格比は姫8に対してドロレスちゃん10だ。食欲比(?)はその逆だ。
ただし、常人の値は2くらいだ。
「「……はむっ……」」
そんな音を立てて、かぶりついてる。
ハムじゃなくて「串焼き」なのに……でも、作るところを見てたけど、正確には「串焼き肉」じゃなくて、「焼き肉の串刺し」だった。鉄板で焼いた四角いお肉を、トングで押さえて、そこにブスブスと串を刺していくのだ。串のままでは焼いてないのだ。
俺以外は気にしてないようなので、きっとどうでもいい事なんだろうけれども。
ついでに言うと、「串」は金属ではなく「竹」で出来ていた。
『この世界』にも、竹があるんだな。なんか不思議な気分だ。
ふと、落語を主題にした某アニメの、2期目のEDを思い出したよ。あの「竹輪」ならぬ「竹林の輪」には、どんな意味があったんだろう?
串焼き8本は『地球銅貨』8枚だった。
日本円で、三千円ちょいかな? お金は俺が出したよ。
「「まだ、足りない」」
さて、腹ごしらえ(王女姉妹限定)も済んだし……って、済んでないの?
◇
街の東の濠に沿った「船着き場」の近くにやって来た。
今回は、みんな徒歩だ。
俺なんて、「ピコピコハンマー」みたいなカタチをした二輪の荷駄車『とんかち』を牽いて来たよ。これには、俺とミーヨの「家財道具一式」が入ってるのだ。
「あそこでしょ? 『奴隷の館』って」
ミーヨが、この街には珍しい総石組みの灰色の建物を指さす。
他の建物は、赤い煉瓦と白い魔造石の組み合わせなので、遠目にはピンク色に見える。
でも、ここのは灰色だ。
見た目は、堅固な城塞みたいだった。
昨日、プリムローズさんが不機嫌な表情で睨んでいたのは、この建物だったんだな。
『奴隷の館』は俗称で、正式には「前世の罪人のための救いの場」とか言うらしいけど……知ったこっちゃない。
個人所有奴隷以外の、街角に立つ公共奴隷の獣耳奴隷の人たち(言葉は悪いけど売れ残りらしい)が、夜になるとここに帰って来て、寝泊まりするそうだけど、扱いは家畜なみらしい。
そして、『奴隷の印』が出た子が通うのは、ここの事らしい。
さらに言うと、『印』が出たために親から捨てられてしまった奴隷候補の孤児(10歳未満)も、ここで育てられるらしく、孤児院的な施設でもあるらしい。
でも、運営しているのは『奴隷商人組合』とかいう団体で、公共の福祉とは無縁っぽい。
よく知らないから、揉めた時どうなるか分からないのに――
「奴隷のおじさんを騙して子供を奪うような連中なら、正義の鉄槌を下してやりたい!」
――とは、王女主従・ラウラ姫とプリムローズさんの言だ。
言うことが強硬過ぎて、手に負えない。
本来、姫を諫めるべき立場の筆頭侍女プリムローズさんも、『この世界』の奴隷制度を本心から嫌ってるらしく、冷静さを欠いているのだ。困ったもんだ。
この主従を前に出すと、確実に諍いになりそうなので、俺一人で行こう。
俺一人なら、『★不可侵の被膜☆』で攻撃の無効化が可能だし、俺からは人間を傷つける気もないので、双方怪我人が出ない。
なるべくなら、穏やかで平和的な解決を望みたい。うん。
「まず、俺が殴り込みます(あれ?)」
俺がそう言うと、
「待ってください。なにかおかしいですよ?」
シンシアさんに「突撃」を制止された。
ところで彼女、背中になにか背負っている。なんだろう? 武器?
「確かにヘンだ。バタバタしているな。不自然な人の出入りが多い」
プリムローズさんが指摘する。
『逃げたのは何人だ?』
『女のガキだけ、4人だ!』
『朝飯ん時だろ、遠くにゃ行ってないはずだ』
俺の強化された聴覚によって、その会話はハッキリと聞こえた。
と思ってたら、俺そのものが、いつの間にか近寄ってたらしい……。
「ん? なんだ? お前?」
おっさんが目の前に居た。
「なんかあったんスか? 俺に出来る事なら手伝うッスよ」
俺様得意の『小者モード』で、イカツいおっさんに声をかけてみる。
「おう、手伝え! 奴隷のガキが逃げやがった。女のガキだ。10歳ぐれぇの。連れ戻したら、小遣いやるぞ」
「ういッス」
その場を離れ、みんなの所に戻って、だいたいの事情を説明する。
「脱走? 10歳くらいの女の子……それって」
ミーヨが気付いて、驚いている。
「うん、昨日のおじさんたちの娘さんたちっぽいな」
年齢的に言っても、状況的に言っても、どうやらそれっぽい。
「まさか、『濠』は越えてないだろうな……。街の外の森には『ケモノ』も出るんだぞ」
プリムローズさんが心配している。
俺も行ったことあるから、知ってる。
野犬か狼っぽいのと遭った。かなりの大きさなので、小柄な子供なら、口に咥えて連れ去られるかもしれない――それはマズい。
「たしか、『★迷子探し☆』とか言う『魔法』なかったか?」
「うー……だって知らないんだよ。会った事もない子たちだから」
ミーヨが困ってる。
そう言えば、「握手」とかの非エロな「肉体的接触」が、発動の必須条件って話だった。
「それに、明るいから『星』が繋がってるの見えないし」
「そうなのか?」
『魔法』のキラキラ星の事だろうけど、昼間の場合には、それが視認困難らしい。
とにかく、『魔法』による探索は無理っぽい。
緊急時なのにな。大事な時に不便だ。
「手分けして探しましょう! 急ぎ『神殿』に走り、手助けを呼びます」
シンシアさんは言うけど、そんな大ごとにはしたくない。
「あたしは、手下を呼んでくる!」
イヤ、『手下』って誰だよ? ドロレスちゃん。
「どこを探す? 西? 東か?」
ラウラ姫が、剣の柄についた組み紐を解いている。
いつでも抜刀出来るように、戦闘態勢らしい。てか、街中で抜刀とか、ダメだと思うんだけどな。
……というか、武装してるのは姫だけだし、それも防御力は無いに等しい。
みんなに危険が及ばないように、俺一人で、なんとかしたい。
そんなことを考えてると、いきなり――
「『守護の星』よ! 『世界の理の司』に働きかけよ! ★飛行ッ☆」
プリムローズさんが、予告も警告もなしに、『飛行魔法』を発動させた。
ぶわっっっ。
「「「「きゃ――――――っ!」」」」
おおおおおっ!
空気を操る『魔法』なので、暴風が巻き上がったよ。
このあいだ「着地」するとこは見たけど、飛び上がる時はコレか……。
「あ、ゴメンよ」
さっくりした軽い謝罪を残して、プリムローズさんは空高くに舞い上がって行った。
上空から捜す気らしい。
それはそれとして、地上では色とりどりの花が咲いたよ。
「「「「もお――っ!!」」」」
他の子たちから、非難ごうごうだ。
日本では、「桜の仇は嵐なりけり」というけれど、ここは異世界。
風とお花は、お友達なんだろう。
素敵すぎる「お花畑」だったよ。
ナイスっス! プリムローズさん!
てか、「プリムローズ」も、何かの花の名前だっけか?
もちろん、『光眼』の「カメラ機能」は「連写モード」でフル稼働だった。
この貴重な瞬間を、絶対に逃してはならないのだ。絶対にだ。
「「「「……(ううっ)」」」」
みんな、泣きそうな顔で俺を見るけど、特に文句は言われない。
俺には、なんの非もないからだ。
俺は、地上の出来事にはまったく興味のないフリをしながら、上空のプリムローズさんの様子を見守る。
――何か、見つけたらしい。
自分だけスカートを気にしながら、下降してくる。
「★着地☆ リタルダンド」
ところで、「リタルダンド」ってなんだろう?
『地球』の言葉に聞こえるけど……ま、それは今はいいか。
俺は、着地した彼女に駆け寄る。そして――
「ありがとうございます。プリムローズさん!」
素直な感謝の気持ちを伝えた(笑)。
「え? 何が? ……それよりも、見つけたよ」
『★遠視☆』の『魔法』を使用したらしい。目がデッカくなってる。
先日見せてもらった時には、「ケ○ト・デリカットみたいでしょ?」とか言ってたけど……誰それ? 声優さん? 何かのアニメ映画にでも出てるの?
「東だ! 東の森の中に、裸の子供たちがいた!」
「裸? まさか、濠を泳いで渡ったの?」
ミーヨが驚いていた。
たしかに無茶な話だ。「濠」には、小型のワニっぽいのがいるらしいのに。
「裸はマズいです! 人間の匂いで『ケモノ』を呼び寄せてしまいます!」
シンシアさんが、白いヴェールを揺らしながら叫んだ。
「ああ、『シャクレ』らしい『ケモノ』もうろついてるようだ」
プリムローズさんが、デカい目のまま言った。
非常時だけど、ちょっとおもろい。
……イヤ、待て。
『ケモノ』? 人間の「天敵」だというアレか?
ならば、急がないと、危機的な状況になる可能性があるな。
「俺が行きます! ミーヨ! プリムローズさん! 『大砲』だ!!」
「うんっ!」
ミーヨが、
手際よく準備するミーヨと対照的に、プリムローズさんが愕然としてる。
「……本気だったの?」
「もちろんです!」
事前に話しておいた「作戦」を決行する時だった。
「キャスト・オフ!」
俺は叫んで『旅人のマントル』を脱ぎ捨てた。
もちろん、「手動」でだ。
例の、バサッとな! だ。
いつもの戦闘態勢は整った。
――全裸だ。
「「「「…………」」」」
女たちの熱い視線を受け、実にいい気分だ。
このメンバーには、俺の素肌で発動される『全知神』の加護(かどうかは微妙だ)である無敵のバリアー『★不可侵の被膜☆』の事は、すでに話してあるのだ。セク○ラではないのだ!
にしても、防具要らず武器要らず、全裸で無手が「最強モード」って、俺はコスパ最高か?
「何を得意そうにふんぞりかえってるんだか……。『守護の星』よ! 『世界の理の司』に働きかけよ! ★送風ッ☆」
プリムローズさんが、実に器用に小指で指パッチンする。
ミーヨが用意したソレに、大量の空気が送り込まれ、ぶわーっと立ち上がった。
「「「おおおおっ!」」」
みんなびっくりしてる。
実はコレ、昨日買った「なんちゃって古代ローマ人」用の『トガ』を縫い合わせて、丸い円筒状にしたものだ。
まるで、「こいのぼり」か「吹き流し」みたいだ。
ただし、『魔法』で送り込まれた風で「直立」してる。
「…………」
プリムローズさんが、「デコピン」の発射直前の仕草をしてる。
右手の薬指の爪を、親指で押さえてる。
これは、彼女が『魔法』を使う時の「クセ」らしい。
それぞれの「指」に、「風」とか「火」とか「冷気」とか、属性ごとに割り振ってるそうなのだ。
関係ないけど、『緋弾のア○アAA』に、指の爪をカラフルに塗った敵キャラがいたな。あと、物凄い「鳥取推し」のお嬢様キャラがいたな……ふと、そんな事を思い出したよ。
「★霧氷ッ☆」
空気中の水分が凍って、輝き出した。
にわかに出現したダイヤモンドダストが、キラキラと煌めきながら、円筒へと集まっていく。
「……きれい」
誰が言ったんだろう。そんな声がした。
「★氷結ッ☆」
ピシィッッ――
霧氷を纏った円筒は、一瞬で凍り付いた。
某・魔法科の黒髪の美少女とは違って、「六花(※雪の結晶)」は見えなかったけれども。
見上げると、熱で大気が、ゆらゆら揺らいでる。
上空に向けて放熱して、その下の「対象物」を、一気に冷却させる『魔法』らしい。
氷の厚みは3㎝くらいになった。
円筒の直径は……イヤ、これは実は『大砲』なのだ。
なので、「口径」は40㎝くらい。「砲身」は12mくらいか。
出来上がった「氷の大砲」を、持ち込んだ『とんかち』の上に乗せかける。
今回は、これが「大砲の台車」だ。
世界初の自動車は、18世紀フランスの「キュニョーの砲車」という「大砲運搬用の蒸気機関車」だったらしい。パッと見、「巨乳に放射」と思えてしまうのは、俺だけだろうか?
緊急時にも関わらず、そんなバカな事を考えつつ、プリムローズさんの指示する方向に「砲口」を向けた。
ちなみに俺は、『前世』でお世話になった先輩の影響で、ヒドい「ダジャレ癖」が出ることがある。それが今だ。我ながら困ったもんだ。
とにかく、急いでる。
いろいろ贅沢は言ってられない。
俺は、「氷の大砲」の根元から、中に入り込んだ。
すかさず、ミーヨが俺の足元に、鉄よりも硬い木製の『なべのふた』を大小2枚置く。
これは、俺が『錬金術』の応用で作っておいた「丸盾」だ。「ラウンドシールド」だ。ネーミングは「お約束」だ。本来の使用目的から激しく逸脱してるけど、今回は「フタ」として使用するのだ。
「★凍結ッ☆」
砲尾は閉じられた。
中は、かなり寒かった。
めっちゃ寒い。
早くしてほしい……と思ったら、不意に寒さを感じなくなった。
俺の無敵のバリアー『★不可侵の被膜☆』の機能の一部らしい。
石弾とかの「運動エネルギー」だけではなく、俺の身に危険がおよぶような「温度」まで、遮断出来るらしい。知らんかった。
でも、どういう条件で発動されるのか、俺にもよく分からない。
「待って、今からタメる」
凍った布地の向こうから、プリムローズさんの声がする。
「みんな、退避。耳ふさいで! じゃあ、いくよ! ★空気爆弾ッッ☆」
ドバンッ!!
俺の足元、2枚の『なべのふた』の間で、それは爆発した。
白い氷壁のような、凍った砲身の内部を通り抜けると、青空が広がった。
――俺は、空を飛んでいた。
『人間大砲』だ。「砲弾」は俺だ。
(おおっ、見晴らしいい! やっぱ、空飛ぶっていいなぁ)
不思議なくらい余裕があった。
恐怖なんて、ミジンコなかった。……間違ってるか?
(ああっ!)
遠くで、ミーヨの悲鳴が聞こえた……けど、なんだったんだろう?
◇
先日の、ラウラ姫との『神前決闘』。
俺のせいで、「賭け」に大敗した男から、『魔法式空気銃』による襲撃を受けた。
その後、プリムローズさんとの雑談中に、作動原理を訊いてみたら、彼女が前に使っていた『★空気爆弾☆』を「発射炸薬」代わりに使用している事が判明した。
つっても、『ジョ○ョ』の吉○吉影の「殺人女王」と「猫草」のコンボとかじゃなくて、『魔法』で圧縮した空気を、瞬間的に解放するだけものだった。
さらに話を聞いたら、『魔法式空気銃』を大型化した『魔法式空気大砲』も存在する事を知り、飛行魔法を使えない俺は、こういうイロモノじみた方法で「空中高速移動」を実現する事にしたのだった。
でも、無敵のバリアー『★不可侵の被膜☆』を持つ俺にしか出来ない荒ワザなので、よい子は絶対に真似しちゃダメなのであった。
◇
空中飛行そのものは、あっという間に終わった。
弾道曲線にまかせて飛行すると、『この世界』でよく見かけるブロッコリーみたいな樹の群れが、ぐんぐん視界で大きくなった。
でも、樹にぶつかることもなく、上手いこと地面に着弾した。
てか、砲弾って俺なので、着弾てゆうか「着地」なんスけど。
しかも、運動エネルギーを吸収する『★不可侵の被膜☆』のお陰で、着地が「ふにゃり」って感じで、自分でも気持ち悪かったよ。
とにかく俺は、『冶金の丘』を取り囲む「濠」を飛び越えて、東の森の中に降り立った。
振り向くと、樹々のあいだに、茶色い石垣が聳えているのが見えた。
相当な「高低差」があるので、一気に移動するには、空を飛ぶしかなかったのだ。
街から、200mくらいは飛んだかな?
でも、やっぱり急造じゃダメだな。飛距離が出ない。
ペットボトルロケットの方が、もっと飛びそう(泣)。
某アニメの最終話の、あの脱出方法って……ネタバレになるから、やめとこ。
にしても、爆発(的な空気の膨張)自体は、音速を超えてるはずなのに、初速が凄く遅かった気がする。
砲身内部に、螺旋状の「ライフリング」が無い「滑腔砲」だしな。
てか、俺自体がグルグル回転させられてもな。
たぶん、フツーに気持ち悪くなっちゃうだろうしな……。
とにかく、「方角」は間違いないはずなので、急いで子供たちを探そう。
俺は大声で叫んだ。
「お――――い! ケンタロウの娘――っ! お父さんの命が惜しかったら、素直に出てこ――い!」
別に、あの馬耳おじさんには何もしないけど、こんな事したら「心配かけて、お父さんの寿命が縮んじゃうぞ」って言いたいワケだ。うん。
「お、おっ父には、何もしないで欲しいのでごんす」
濡れた服で体を隠しながら、女の子が木の陰から出て来た。
奴隷の証の作り物の「獣耳」は……つけてなかった。まあ、脱走したんだから、当然か。
そして、親子そろって、その「語尾」なのか?
「君がそうか? もう一人は? 田中さんの娘は無事か?」
「タナカさん? 誰でごんす?」
「ホラ、君のお父さんの友達の田中……イヤ、名前知らないわ」
俺の勘違いだった。馬耳奴隷Bさんだ。
「……」
近くから、もう一人が、こっちを見ていた。
なるほど、二人とも父親たちが自慢したがるような可愛らしい子だった。イヤ、俺ホントにロリ○ンじゃないよ?
二人とも、『奴隷の印』である「蒙古斑」が出そうな、ばりばりのモンゴロイドだった。きっと『ご朱印船』に乗っていた遠い昔の日本人の子孫なんだろう。元・日本人の『前世の記憶』を持つ俺から見ても、完全な日本人顔だ。
「じゃあ、二人とも街に戻ろう。ここは『ケモノ』が出て、危ないんだよ。めっちゃ大きくて、君らなんか丸呑みしちゃうような」
手頃な見本が居たので、俺はそちらを指さす。
「ちょうど、あんな感じの……」
『ケモノ』だった。
めっちゃでっかい。
見たコトある。
コイツ、「シャクレオオカミ」だ。
実は円形広場の商店街の隅に、コレの剥製が飾ってあるのだ。
コレのメスにも遭遇した事あるけど、メスはただの野犬みたいだった。
でも、オスの個体は、名前の通りに下顎が大きく突き出ていて、そこから上向きに大きなナイフみたいな牙が生えてる。体の方はデカくて茶色い「狼」だ。
プリムローズさんが単に「シャクレ」って呼んでたけど、関西人らしい(?)無遠慮な表現だ。的確だけど。
にしても、オスとメスで随分と違う。確か「雌雄二体」ってヤツだ。クワガタかカブトムシみたいだ。肉食獣ならライオンか。
シャルるるルルゥ――
変な唸り声だ。シャクレてるせいかな?
ギラギラした目でこっちを睨んでいる。
てか、タイミングがマズい。
俺の必殺技「レーザー眼」が使えないのだ!
先ほどのラッキースケベ・イベント(笑)で「カメラ機能」の連写モードをやりすぎて、10分ほどのクールダウンが必要なのだ(泣)。何事もやり過ぎは良くないってコトですね。
てか、アホか俺は?
「逃げるぞ!」
「「キャイン!」」
俺は女の子二人を引き寄せ、小脇に抱えて、森の中を走り出した。
声からすると、この子たち、犬耳かな?
そんなことを考えながら、俺は走った。
ふしぎなことに、アイツは追って来なかった。
◇
「ジン!」
森の中で見つけたのは、プリムローズさんとラウラ姫とシンシアさんだった。
――なんで、みんな防具もなしに、危険な森の中に入ってくるかな。
「みんな、どうして?」
「『魔法』で……濠を……凍らせたんだ……ハアハア……走るのは……苦手だ」
プリムローズさんが、息も絶え絶えに言う。
「二人とも無事か?」
「うむ。二人とも泣かずに頑張ったな」
「二人とも、怪我はありませんか?」
三人三様だけど、俺はまったく心配されてないらしい。ちょっと淋しい。
でも、とりあえず目的達成だ。子供たちは、無事保護した。
「まだ、いる。森の中……」
田中さんの娘が、たどたどしく言った。
……イヤ、田中さんじゃないんだってば。
「え? どうしたの?」
ミーヨまで追いついて来た。
手には『なべのふた』を持っていた。かなり重たそうだ。可哀相に。
「もう二人、一緒に、脱走」
女の子が、森の奥を指す。
『逃げたのは何人だ?』
『女のガキだけ、4人だ!』
……そう言えば、そうだった。
「この二人を頼む!」
俺は森の中に引き返した。
◇
(間に合え!)
俺は走った。
そして見た。
その光景を。
樹木の間の巨体と、その前の小さな人影。
小さな女の子が小さな女の子を守るために、『ケモノ』の前に立ちはだかっていた。
両手を広げ、後ろにへたりこんでいる子を庇うようにして。
我が身を捨てて、他人を助けようとしていた。
震えながら、守るべきもののために、気高く立っていた。
俺は激しく胸を打たれた。
そして、こうも思った。
(俺には、絶対に真似出来ない)
――なぜなら、
(俺、不死身だし)
ガバァッと大きく開いた狼の顎に、俺は自分の左腕を差し込んだ。
あむっ
発動した『★不可侵の被膜☆』のお陰で、痛くも痒くもなかった。
『前世』で喰らった事のある猫の「甘噛み」の方が、ずっと痛かった記憶があるよ。
「……?」
狼が戸惑っている。
噛み砕いたはずの俺の腕が、ずっと牙の間に挟まっているからだろう。
「逃げろ! 早く!」
俺は二人の少女に叫んだ。
しかし、二人は目の前の光景に呆然としてた。
――当然か、いきなり全裸の男が現れて、狼の口に素手を突っ込んでるんだから(笑)。
「早く!」
もう一度促す。
一人の子が、座り込んでる子を立ち上がらせ、
「……(こくん)」
俺にちょっと頷いてから、二人で手を取り合って走り出した。
よし、離れてくれた。
(気体錬成。毒ガス)
チン!
こんなこともあろうかと、密かに練習を繰り返して来て、練りに練った『毒ガス』だ。
……って、普段はこの後「花の香り」に再錬成するから安全だけれども。
とにかく、今回は演習ではない。実戦なのだ!
俺は、発生したガスを右手で握りしめ、狼の鼻先で解放した。
専門用語で言う『にぎりっ●(気体)』だ。
ソイツは慌てて俺の手を放し、少し後退ると、ぶるるるん、と頭を振った。
……あんまし、効いてない。
ま、塩素ガスだしな。ガチな毒ガスとか無理だし。
そう言えばガスマスクをつけた主人公が、悪の秘密結社の一員として世界征服を目指すアニメがあったな。アレの首領も幼女だっけ。
それはそれとして――シャクレオオカミを完全に自由にしてしまった。
完全に失敗だ。
ソイツは、向きを変えて女の子たちを追う気らしかった。
マズい。
俺の目から見ても、俺よりあの子たちのほうが美味そうだもんな。
イヤ、変な意味じゃなしに。
狼の気をこちらに惹きつけなければ……惹きつける?
よし。
(気体錬成。メスの『シャクレオオカミ』の匂い)
俺はそれを嗅いだことがあるのだ!
チン!
珍奇な匂いだった。甘いバニラのようだった。
すかさず(※二重の意味)、全力で放った。
専門用語で言う『放●(気体)』だ。
狼が――止まった。
そして鼻をひくつかせながら、こっちを見た。
ハアハア言ってる。大量のヨダレが垂れてる。
……発情したオスの顔だった。
これ、別な意味でヤバくね?
俺、いま全裸だし、なんかちょうどお尻から『メス狼』の匂い出しちゃったし。
「えーっと、そんな興奮しないで、落ち着こうか?」
言ってはみたけど、無駄だった。
ソイツが襲い掛かって来た。
股間には、モザイク処理が必要だった。
慌てて逃げようとして、向きを変えると、そこには何故か茶色いトラ猫がいた。
ソイツに気をとられて、木の根っこに足をとられた。
ちょうど、orzの体勢になってしまった。しかも、全裸で。
後ろからは、盛りのついた獣のような『ケモノ』が迫って来る。
前方に虎猫? *門に狼?
俺様、大ピンチだった!
◆
ピンチはチャンス! 名言ではある――まる。




