026◇工房めぐり[※ちょい足し版※]
「それにしても、5本も剣を注文してるんスか?」
「普通の鋼と、四大魔法合金すべてをね。まあ、凄い金額になると思うわ」
聞いて、びっくりだった。
ラウラ姫の筆頭侍女プリムローズさんも、嘆き気味だ。
四大魔法合金。それは――
ミスロリ。ダマスロリ鋼。ロリマンタイト。ロリハルコン。
――の四つだ。
すべてロリ。ロリまみれだ。
俺は、それらすべてをじっくりと見て、撫で触り、匂いを嗅ぎ、舐めて味わい、その音を聞かなければならない……って言うと、完全に変態みたいだ。人の道から外れてるな。
イヤ、俺の『体内錬成』でそれらの魔法合金を作り出すためには、それを五感……視覚・触覚・嗅覚・味覚・聴覚で感じなくてはならないのだ。
その全てではなくてもいいハズだけど、とにかく「実物を知らないモノ」は、『体内錬成』で『錬成』出来ないのだ。
ついつい忘れそうになるけれど、俺は「括り」としては『錬金術師』なのだ。
名前がロリばっかとはいえ、金属相手にヘンな気持ちになるワケがないのだ。
「ラウラ姫の体に合わせたら、ちょっと長めのナイフくらいの大きさになるんじゃないスか?」
「まあ、金属製品って重さや大きさも値段に関わって来るから、子供料金なみに安く……って、今の黙ってて! ミーヨも!」
「……二人とも、最初から言わなきゃいいのに」
ミーヨが呆れ顔だ。
俺はともかく、筆頭侍女のプリムローズさんも忠誠心低すぎだ。
◇
鍛冶工房を、一軒一軒回る事になった。
鋼と四大魔法合金を扱う工房が、それぞれ、別な場所にあるそうなのだ。
工房街では、『魔法』の葉書『★羽書蝶☆』がフワフワいっぱい飛んでる。
見た目はカラフルで、ホンモノの蝶みたいで可愛いけれど、プリムローズさんに言わせると、工房街の業務用の連絡やら発注やらの、味気ない内容らしい。
ところで、どうしてわざわざ王女様が『王都』ではなく、この『冶金の丘』にまで剣をつくりに来たのか気になったので、鍛冶工房に向かう道々に、王女主従に訊ねたら――
「うむ。『先生』が勧めてくれたのだ」
元々口数の多くないラウラ姫は、それだけ言うと、あとは筆頭侍女に説明を投げてしまった。
「そうなんスか?」
俺がプリムローズさんに振ると、
「(びくっ!)……え、ええ、そうなのよ」
どことなく挙動不審だ。
「この前、少し話したけど、『先生』っていうのは、元・戦闘奴隷で、シンシアの父君よ。ついこの間まで、この街に居たのだけど……召還命令が届いて、先に『王都』に帰られたのよ」
「そうなんスか」
一応、『先生』について補足しながら、姫の言葉に繋げて説明してくれた。
ただ、何かを我慢しているように顔をゆがめてる。なんなんだろう? 街全体が発する「騒音」が苦痛なのかもしれない。
「その『先生』から習った殿下の剣術は『抜刀術』。君にも分かると思うけど……専用の『刀』がいるのよ」
なるほど。
確かに、俺が個人的に好きな、凛々しくてスーパー可愛い『師匠』も「刀最強説」を唱えてらしたしな(※『RE○ASE THE SPYCE』だぞ)。
「で、『王都』よりも『東の円』と近くて」
「『東の円』? なんスか、それ?」
初めて聞くワードだったので、思わず口を挿んでしまった。
「知らないの? 『東の円』って言うのは、『女王国』がある大陸の東方の海にある、まん丸い島よ。まあ、私も話でしか知らないのだけど……」
プリムローズさんは、ざくっと説明してくれた。
そこには、異世界なのに『地球』の『日本』みたいな文化があるらしい。
『巫女見習い』の黒髪の美少女シンシアさんは、自分の先祖は『ご朱印船』に乗ってた……と言ってたし、それに繋がるんだろうな。
さもなきゃ、俺やプリムローズさんみたいに、日本で暮らした『前世の記憶』を持った人たちが住み着いてるのかもしれない。
「で、『東の円』と交易も盛んな『冶金の丘』なら、『日本刀』に近い刀を作れる職人もいるらしいのよ」
「……へー」
そう言われてしまうと、それで納得するしかないような話だった。
でも、何か裏の事情で私的な要件もあって、姫と一緒に来たんじゃないのかな? この人。なんとなく、そんな気もする。
「……『この世界』の地理って……ぜんぜん知らないな。とりあえず仲の悪い隣国とか無いですよね?」
「『女王国』の北には『北の帝国』ってのがあってね。そことはちょっと険悪ね」
「……そうなんスか?」
そして他にも、南には『美南海』の島々。
西には『西の七国』……なんて国々があるらしい。
「なんか『女王国』が世界の中心みたいな呼び方で、偉そうですね」
感じたままに、そう言ってみた。
「そりゃそうよ。『この世界』に最初に人間がやって来たのは……現在の『王都』だしね」
「えっ? そーなんスか?」
ああ、でも、ミーヨもそんな風なことを言ってたな。
「今度、いろいろ話してあげるよ」
「是非、お願いします」
とりあえず今度、いろいろと教えてもらう約束をした。
◇
『鋼』の刀身を作る工房は、何というか「和のテイスト」が満載だった。
壁には、小さな「神棚」まであった。
そして、どう見ても日本人の「刀鍛冶」みたいな人が、鍛造で刀身を鍛え上げている。さっき話に聞いた『東の円』の人らしい。
現代刀の制作現場の動画は、TVとかで見た記憶があるけれど、それとどんな風な違いが生じてるのか、興味深い。
でも、よくよく見ると、刀鍛冶のおじさんは「狐」みたいな獣耳をつけていた……『獣耳奴隷』らしい。
……なんか、悲しい気持ちになった。
◇
『ミスロリ』――は銀色の合金だった。
『冶金の丘』の地下で作られたという「地の厚板」を、切断したり、研磨したりと色々『魔法』で加工してる。
工房の人からは「絶対に錆びない鉄です」と説明された。
つまり、ほぼ確実に、単なるステンレスだ。
ステンレスって刃物に向いてるんだっけか?
『前世』で使ってた包丁とかハサミなんかは、ステンレス製も多かった気がする。
でも、ステンレスと言ったら、鉄にニッケルとかクロムとかが入ってるだけなので、これで「魔法合金」と言われても……詐欺に遭った気がする。
そして、実はコレ、この街のいたるところにある。
トイレの「●器」が、コレで出来てるのだ。
この街のトイレは、使用後に手動で水洗するので、錆びないようにステンレス製らしいのだ。
ただ、なぜかトイレ以外ではあまり見かけない。
食器とかに使うと、トイレを連想してしまうためかもしれない。……知らんけど。
◇
『ダマスロリ鋼』――は物凄い地肌の金属だった。
銀色に斑がうねっているというか、マーブル模様というか……質の違う金属を重ねて多層化しているらしい。
ひたすら重ねて鍛造。重ねて鍛造って感じ。工房もドカドカガンガン! と騒がしかった。プリムローズさんの端正な顔が苦痛に歪んでる。やっぱりうるさいのが苦手らしい。可哀相に。
そして、これって俺の『体内錬成』では作れない気がする。
あと、『魔法』の要素が無い。
イヤ、鍛造用の大型ハンマーは『魔法』で動かしてるっぽいけれども。言ったら、「魔法合金」じゃなく「魔造合金」だった。
◇
『ロリマンタイト』――は期待に反して真っ黒だった……とか言ったら問題か。
これは俺が『全知神』さまから斬殺された時の得物となった『黒い大鎌』の材料と同じものだった。
知っていると言えば、知ってる「素材」だ。
真っ黒いし、軽いし、炭素繊維系の素材のような気がする。
でも、どう考えても「合金」じゃないし、どうやって作ってるんだろ? と思って奥の方を覗いて見たら、俺の『錬金術』と似たような『魔法』で作ってるらしい。
『見本』となる物質を手にして、修行僧みたいな風貌のおっさんが足を組んで瞑想してる。
それで、ちょっとずつ『ロリマンタイト』が「成長」していくらしい。
人間3Dプリンタか!
その「成長速度」は遅そうだ。
しばらく観察したけど、ぜんぜん剣が伸びない。1日に何ミリとか、そういうレベルみたいだ。大量生産は無理そう。
これは俺自身も「よく知ってる」し、『錬成』は可能だろうな。
ただ、俺の体内では「ロングソード」とか不可能だな。ナイフも無理そう。
俺様の「●(固体)」と置換される『固体錬成』だと長さに制限があるし。最終コーナーを立ち上がった後のホームストレートを利用しても、せいぜいペーパーナイフの刀身部分くらいしか錬成れないだろうなあ……。
で、ラウラ姫用のは「黒い日本刀」だ。
輝きが無い……と言うか、光を反射しないで吸い込んでるような色味だ。
スーパーブラックというかブラックボディ(黒体)というか。
黒い日本刀って言うと……アニメ『宝石○国』に登場したカタナを思い出す。
あの黒い黒曜石みたいな刀身、何で出来てたんだっけ? フ○スが両手でも持てないほど重いんだよな。
でも、黒い刀身っていったら『鬼○の刃』もそうか。
あの優し過ぎる主人公の名前が「炭○郎」だからなのか?
そう言えば、あの作品、最後まで観れなかった記憶があるな。
『キャ○チュー』もだな。アレの3期目も……ああ、そして『進撃の○人』なんて、めっちゃ大事なトコの直前までしか観た記憶が無い……。
てことは、俺って『前世』では、いつ「■んだ」んだろ?
2019年の「夏アニメ」は……ラインナップだけは、うっすら覚えてるな。
2019年の「秋アニメ」については……まったく記憶がないから、2019年の6月の……初め頃かな?
ま、今さらだから、まあ、いいか。
◇
『ロリハルコン』――はミスロリとは逆に「魔法合金キターーーーッ!!」って感じの不思議合金だった。
地は黄金色だけど、本物の金と違って、金ピカには光らず、表面にぬらりとした遊色効果が出ている。
虹のような輝きに包まれた刀身は美しかった。
持たせてもらうと、意外なほど軽い。
色味は金みたいなのに、比重はどれくらいなんだろう?
ちびっこいラウラ姫も余裕で持ってる。そういった意味でも「軽い」し。
なんとなく、チタン系の合金なんじゃないか、って気もする。
でも、チタンって、刀剣に出来るのかな?
ジェットエンジンのタービンブレードって、何で出来てるんだっけ? ……てか、ブレード違いか。
アニメ版は観てないけど……某・漫画では「チタンの大剣」があったな。
ちなみに、女性の◎首を吸うと強くなる漫画だ(笑)。
それはいいとして、『この世界』最強の魔法合金『ロリハルコン』は、別名「永遠不滅の金属」と呼ばれていて、錆びたり、傷が付いたりしないらしい。……ホントかな?
でも、綺麗すぎて武器っぽくない。
見た目だけの、「なまくら」じゃないよね?
「うむ」
刀身を確かめて満足したラウラ姫は、それを仮鞘に入れて、長い袋に包んだ。実際に持ち運ぶのは俺だけどね。
とにかく俺は、全てのロリ……じゃなくて『魔法合金』を体感した。
近くに必要な元素さえあれば『錬金術』で錬成れるようになっている事だろう。すべての『魔法合金』をマスターしたのだ。
関係ないけど、「HDリマスター」が「H○リマスター」に見えてしまう事ってない?
…………。
……。
俺たちは、次の場所に向かう。
◇
刀剣類の装飾を手掛ける『装剣細工』の工房にやって来た。
ここでは剣の柄と鞘、そして付属の金具の作成。それに加えて、全体的な装飾が施されるらしい。様々な工程があるので、職人がいっぱいいる大きな工房だった。
「……このカタチを……剣の柄にせよと仰せですか?」
職人頭の男性は、見本として持ち込まれたソレを、じっくりと観察している。
「うむ!」
ラウラ姫が頷く。
「かしこまりました。ただいま細部まで採寸いたします。おい」
職人頭が指図すると、見習いか弟子と思われる男性が現れた。
数瞬間、見本として持ち込まれたソレを見て愕然としていけれど、すぐに自失から立ち直って、採寸を始めた。
長い物差しと、リボン状の布を使って、手際よく作業を進めていく。
――もちろん、全長その他のスペックは非公開だ(笑)。
その様子を、ラウラ姫とミーヨとプリムローズさんとドロレスちゃん……って全員かい! が興味深そうに見学していた。将来、ナニかの役に立つといいね。
ちなみに、『この世界』での長さの単位は「なの」だ。
『地球』の「ナノメートル」と混同しないように、俺の『脳内言語変換システム』が、平仮名で「なの」と表示している気がする。
最小の「1なの」は、大体1㎜だ。
元々は「爪で入れた刻みの幅」らしいけど……それって1㎜か?
でも、「なの」とか。
小動物系の無口な萌えキャラの語尾みたいだ。
可愛い女の子に、元は「160なの」。
でも、1.5倍で「240なの」とか言われると、なんか楽しいかも。
――あれ?
ま、いいか。細かい事は。
ただ、それも「10万なの」……『地球』での約100mくらいまでで、それ以上の長い距離をなんと言うのか、まだ知らない。
まさか、「なのです」とかじゃないよな?
ま、そんなんは置いといて、見本として持ち込まれたソレが、姫の注文通りの形状を保つように、俺は目を閉じ、今朝のミーヨとラウラ姫による『ダブル往復ちちびんた』の様子を脳裏に思い浮かべた。
――寝たふりして、こっそり薄目を開けて見てました。ハイ。
あと、『光眼』のカメラでも画像保存してますけど、なにか?
「きゃっ!」
「「「「……おおおっ!」」」」
見本として持ち込まれたソレが、まるで生き物のように動いたらしい。男性(?)と、ウチの女子4人が驚いて声をあげた。
でも、お姫様のわがままで仕方なくやってる事なので、これは「セク○ラ」とかではないのだ。
「お、終わりました」
男性(?)が、顔を赤らめながら言った。
なんか声が甲高い。動揺してる。オカ○の人じゃないよね?
「うむ。可能な限り、忠実に再現してほしい」
ラウラ姫が見本として持ち込まれたソレを見ながら、職人に頼んだ。
「……なんで『魔法』で採寸しないんだろ?」
プリムローズさんが不思議そうに、ぶつぶつ言ってた。
そんな……『魔法』で出来るんなら、見世物になる必要なかったじゃん。
なお、彼女――プリムローズさんことプリマ・ハンナ・ヂ・ロース嬢は、俺が『俺』として覚醒する前の「ジンくん」とミーヨの幼馴染で、12歳まで一緒の村に暮らしていたそうだ。
なので、「ジンくんのジンくん」は見慣れているらしい。
だとすると俺は、子供の頃からずっと、人前で全裸になるような子供だったのか?
ま、今サラダから真イカ……って動揺して、俺の『脳内言語変換システム』が誤変換しとるやん。
「材質は、最高級のオークで?」
「うむ」
オークと言っても、女騎士に「くっころ」言わす方じゃない。
木材の樫だ。『地球』から人間と一緒に持ち込まれたっぽい。
「表面は黒い……サメの皮ですか? 珍しい素材ですが、在庫はありますゆえ、お任せください」
日本刀の柄はそうだったらしく、いわゆるサメ肌が滑りにくくて、握りやすいらしい。
本当に『鮫』の皮なのかどうかは知らないけど、『東の円』から輸入してるそうな。
てか、「俺様の俺様」をモデルにした柄に、「皮」を被せるのか?
すげー、ヤだな(泣)!
「出来上がりは10日後で……よろしいでしょうか?」
「うむ」
姫が鷹揚に頷く。
お姫様のわがままパワーで急がせるのかと思ったら、そんな事しないんだな。
「では、よしなに」
預かり証の発行とかの雑事はなく、ラウラ姫とプリムローズさんの顔パスらしかった。楽でいいな。
5本の刀身を預けて、俺たちはそこを後にした。
にしても、10日後というと――ちょうどみんなで『王都』に出発するあたりになるかな?
結構、時間が空くな。
何してればいいんだ、その間? 特に昼の間は……。
◇
「ジンくん。今夜どうする?」
「えっ!?」
突然ミーヨに言われて、びっくりした。
「……もうスウさんのところには戻れないし、泊まるところどうしよう?」
一瞬、えっちな事か? と思って、ちょっとびっくりしたよ。
人の話は最後まできちんと聞くものだな。そういう事か。
「……そうだよな。姫にかこつけて俺たちまで『神殿』に泊まらせてもらうわけにもいかないよな」
完全にノープランだった。どうしよう?
「馬車を受け取れば、その中に泊まれるよ。改装が終わっているはずだから、ついでに引き取りに行こう」
プリムローズさんが請け負ってくれる。頼もしい。
「では、私も行こう」
「あたしもー」
ラウラ姫とドロレスちゃんが、二人で手をつないでいる。
仲良のいい王女姉妹だ……妹が姉に見える大小逆転姉妹だけど。
二人の後ろにミーヨが立つと、服の色から、なんとなく赤と黄色のチューリップが並んで咲いているみたいだった。
◇
馬車の工房は、街の正門近くの半円形のロータリーに面していた。
ここのロータリーに来るの、久しぶりだ。
『冶金の丘』に入った時以来かもしれない。
馬車工房は、建物の一階部分が、両側の壁以外は「ぶち抜き」になっていて、分解修理中の車体や、部品がいろいろ並んでる。
その光景は、『前世の記憶』にある日本の自動車修理工場みたいに思えた。
ただ、金属や油の匂いが少なくて、木と接着剤みたいな匂いが強いけれども。
「これは殿下……あ、ああっ! プロペラ小僧さまっ!?」
奥から出て来た30代くらいの女性が、俺を見て、いきなり叫んだ。
「な、なぜこちらにっっ?」
そして、ぷるぷると震えて紅潮している。俺の事を知ってるらしい。
そう言えば、なんちゃって古代ローマ人の恰好が落ち着かなかったので、さっきの工房を出る時に『旅人のマントル』に戻したのだった。これって、『決闘』の時(※脱ぐ前)の服装だしな。
そこへ、もう一人の同年代の女性が入って来た。
「聞きまして、奥様? 王女殿下の『破瓜』のお相手。例のプロペラ小僧さまらしいですわよ……って、お? おおっ!?」
昨日の今日で、いろいろと噂が広がっているらしい。拡散してる。
そろそろ、この街出たい……マジで。
噂のご本人ご一行にブチ当たった、そのご婦人は「おほほほほ」と笑いながら、すぐに退場した。そういう役回りだったんだろうな。
とりあえず、最初の女性がここの女主人で、設計技師も兼ねているらしい。
そして昨日は、馬車の改装を依頼されている姫の決闘話を聞きつけて、『神殿』の広場にまで出かけて見物していたらしい。
裏で、どっちが勝つかの「賭け」が行われていたらしいのだけれど(※そのせいで、俺が襲撃されたよ)。
この女性は「大勝ち」したっぽい。
俺の事を「さま付け」で呼ぶし、相当儲けたらしいな。
てか、仕事を依頼した姫に賭けなかったんだな? それもどーなんだ?
スウさんもそうだったらしいけど、女性の力になれて良かった……と思う事にしよう。
◇
「こちらにございます」
裏庭のような場所に案内されると、白い豪華な馬車が停まっていた。
(――ああ、目立つ)
見てすぐの印象がこれだった。
『前世』の感覚で言うと、客室部分は大き目のワゴン車くらい。
両脇には大きな車輪が前後に並んでいる。他の馬車を見て前々から思ってたけれど、技術レベルの高い、しっかりとした車輪だ。工業製品みたいに規格化されるっぽい。プリムローズさんから聞いた『西の七国』からの輸入品らしい。
前方には、馭者が乗る「馭者台」がある。この馬車の「運転席」だ。
その先には、かなり長いT字形の牽き棒がついてる。
牽き馬を繋ぐところだろうけど、今は馬はいないし、どんな感じになるのか……うまくイメージ出来ない。
全体として、パレードに使うような儀礼用とかじゃなく、しっかりとした旅行用の「箱馬車」で、それなりに頑丈そうだ。
ただし、色がめっちゃ目立つ。
真っ白い馬車なんて、この街で一度も見たことない。
なおかつ、ポイントポイントに銀色のレリーフがあって、それも目立つ。
そしてそれ、どうも『王家の紋章』らしい。……やれやれだ。
「これは塗り直せないんですか?」
思わず、そう聞いてしまった。
「ええっ? また塗りなおすんですか?」
「また?」
すでに、再塗装してるの?
「殿下の、ひいおばあ様にあたる『先々代の女王陛下』が行幸に使っていたものを、殿下が譲り受けたのよ。これでも綺麗になったわ」
プリムローズさんが赤い髪をかき上げながら言った。
どうでもいいけど、黒い侍女服が暑そうだ。
彼女の侍女服は、糸で織り込んであるのか、布地を重ねてるのか知らないけれど、不思議な赤い光沢を持つ黒い布地だ。珍しいので、街中ではわりと目立っていた。
ちなみに、何か服が汚れそうな作業する時には、何かの『魔法』で防護するらしい。
今朝がた、ふざけて身に着けていた白いエプロンとかは、ミーヨからの借り物だったらしい……。
「そういう意味じゃなくて、悪目立ちするから他の色に」
「これでいいんだよ。王家の所有物と丸わかりだから、余計な面倒に巻き込まれずに済む」
「うーん」
黒のスモークフィルム張った黒塗りの高級車には近寄りたくない――とか、そういう心理か?
――てか、もうこれ俺んだぞ。『俺の馬車』だぞ!
馬車には、前後左右に採光と物見のための透明な窓がついていた。板ガラスだ。
プリムローズさんに訊いたら、透明な「ガラスガイ」の貝殻を溶かして、溶かしたスズ(※『生徒会○員共』のちびっ子キャラじゃなくて金属の方だ)の上に広げて作ってるらしい。
よく知らないけど『地球』の「フロート・ガラス」ってやつと作り方が同じらしい。原材料は異世界仕様だけれども。そしてこれまた『西の七国』からの輸入品らしい。
窓の上には、換気用らしい小さな「鎧戸」もついてる。
窓ガラスそのものは「ハメ殺し」になってて、開かないのだ。
「中は、このようになっております」
女主人が俺とラウラ姫をちらちら見た後で、馬車の扉を開けて中を見せた。
出入り出来るのは車体の左側だけで、扉が観音開きというか両方にぱっくり開く。車内の後部は、まるまる大きな寝台になっていて、すでに寝具が完備されていた。
さっきの意味ありげな視線は、そう言う事かい!
後で、たっぷり使ったるわい!
で、車内の前部には、寝台の方を向いた3人掛けくらいの座席があった。
進行方向と、逆向きに座らなきゃいけないらしい。それもどうだろう?
中に入ってみると、車内の高さはわりとある。
ただ、俺が直立すると天井に頭がぶつかる。少し首を曲げる必要がある。
ミーヨなら、ギリで大丈夫そうだ。あの可愛いおでこを擦らずにすみそうだ。
「座席と寝台の下には、ご注文の通り『収納』を備えさせていただきました」
そう言って、寝台の下についた引き出しを引っ張り出して見せた。
てか、俺はそんな発注してないけどな。プリムローズさんだろうな。
(スペースの有効利用か! 匠の仕事か! なんということでしょう! ……とか言って欲しいのか?)
心の中で、そう突っ込んだよ。
「ただし、こちらの座席の下には、『拡張装置』の『操作引き具』と『固定引き具』がありますので、荷物は入れないよう、ご注意を」
「拡張装置?」
ナニソレ?
あと、引き具って「レバー」だよな?
俺の不思議そうな表情から、察したらしい。
女主人が「説明」してくれた。
「今のこの状態は、市街地の仕様になっておりまして、こちらの引き具で前後の車輪の間隔が広がりまして、『永遠の道』仕様に変形いたします」
変形すんのか? なんか燃えるな!
と言っても、ロボットや戦闘機になるワケじゃなさそうだ。
てか、あの滑走路みたいにだたっ広い『永遠の道』仕様って事ならば……。
「そうか。車輪の間隔が広い方が、揺れないし、真っすぐ走れますもんね」
「おっしゃる通りです」
女主人は嬉しそうに頷いた。
ホイールベースが長いと、直進安定性が増すし、車内もリムジンみたいに快適になるはずだ。
にしても、わざわざ変形すんのか?
つっても、見た感じ「客室」の下の台車部分だけしか伸びそうにない。
プリムローズさんと女主人が支払いの話でもするのか、工房の方へ入っていった。
その隙に、ラウラ姫とドロレスちゃんが寝台に、ぼふん、とダイブしてる。二人とも、お行儀悪いよ。
ミーヨは、車体の後部に回ってる。
ボコ村から持ち込んだ『とんかち』を連結して牽引出来るのかどうか、確認してるんだろうな。
◇
話が終わったらしい。プリムローズさんが戻って来た。
「ところで、牽き馬はどうしてたんスか? 買うんですか?」
馬って、買うと一頭いくらくらいなんだろう?
『前世』でお世話になった「競馬好きの田中さん」から、色々と馬の話を聞かされてたけれど、それこそ「馬の耳に念仏」とか「馬耳東風」ってヤツで、完全に聞き流してたからな……。
「牽き馬は借りるんだよ。『駅』から『駅』までのあいだね」
当然の事のように、あっさりと言われた。
「そうだったんスか?」
「『女王国』の全土に展開してる『馬蹄組合』というのがあってね。きっちりとしたそう言う仕組みが出来上がってるのよ」
「……へー」
初めて知ったよ。
「専用の牽き馬だから、慣れてるし、賢い。馭者がいらないくらいよ」
「そうなんスか」
自動運転のレンタカーみたいなものか? ――ちょっと違うか。
「元々は地球から来た馬なんでしょうけど、『永遠の道』で『駅』と『駅』の間の馬車運行を数千年も続けてたら、そんな風な『品種』が確立されてしまったらしいのよ。『なちゅらる・せれくしょん』……いいえ、人為的な選択をし続けて来た結果ね」
ナチュラル・セレクションて言うと……「自然淘汰」か。たしかに「それ」じゃない気がする。
他にも、『この世界』の馬車についてレクチャーを受けた。
『この世界』には、幅が広くてひたすら真っすぐな『永遠の道』(ミーヨによると惑星をぐるっと一周しているらしい)があるので、馬車もそれ専用に真っ平らな直線路を進む事に特化されていて、そのままの仕様で街中に入ってくると、とたんに操作が難しくなるそうだ。
「馬車工房の女主人から受けた説明では『変形レバー』が付いてて、ホイールベースを延長出来るらしいですけど」
俺が言うと、プリムローズさんが珍しく知らない言葉にぶち当たったらしくて、奇妙な表情になった。
「『ほいーるべーす』?」
知的な彼女がちょっとアホみたいに見える。
「前後の車輪の間隔の事です」
「……へえ?」
言っても、よく理解してないらしいけど。
「まあ、『王都』には軽便な『辻馬車』があるから、『道』用の馬車で乗り入れるのは『中央駅』前の『三角広場』までだけどね」
めげてないな。『中央駅』つっても鉄道の駅じゃないはずだから、馬車が集まる施設だろう。そこに三角形の広場があるらしい。
「直進はともかく、曲がるのがなかなか厄介でね」
フツーの馬車には、方向転換用の操舵装置がなくて、前後四輪とも直進安定性を優先してほぼ固定されてるらしい。
そして、六輪とか八輪とかの大型貨物用多輪馬車もあって、その手の馬車は曲がり角を曲る時には、下に板を敷いて、周りの人の手を借りながら後輪を横滑りさせて、方向転換するらしい。
プリムローズさんに言わせると、まるで「山鉾巡行の辻回し」だそうだ。
たぶん、京都の「祇園祭」のことだろうな。
「私は『やりまわし』の方が好きだけどね」
よく分からなかった。槍回し?
「『やりまわし』って何なんスか?」
「前世の話よ。『だんじり祭り』って知らない? 狭い町の中を『すぴーど』落とさないで曲がる事よ。『てれび』とかで見たことない?」
口に出したのが久しぶりだったのか、「スピード」と「TV」がちょっと変な発音だった。前世の事は「身の上話」以外の雑談なら、けっこう話してくれるプリムローズさんなのであった。
「あ、ああ……ハイハイ」
思い当たった。
そっかー、「やりまわし」ってアレかー。
「山車が電柱を砕き折ったり、民家に突っ込んだりする、豪快で勇壮なお祭りですね?」
もちろん、俺も知ってた。
「いや、それはあくまでも事故だから……言っておくけど市街地破壊する目的でやってるお祭りじゃないのよ」
「えっ? そうなんスか? てっきり、お約束でやってるのかと」
「ちゃうわ」
そりゃそうか。
「じゃあ、『ガル○ン』作中の大洗みたいに、建物が壊れたら『連盟』から補償金が出るシステムじゃないわけですね」
ま、正確には「学園艦」の上にある町だけど。
あの某シーサイドホテルの壁は、いまどーなってるんだろ?
「……『が○ぱん』? ナニソレ、美味しいの?」
「食べ物ではないっス」
有名な作品なのに、知らないのかな?
『ガー○ズ&パンツァー』だよ。
「ところで、『連盟』って何の?」
「『日本戦車道連盟』です」
「…………はあ?」
プリムローズさんは怪訝な顔してるけど(笑)、俺はスッキリした。
とりあえず、馬車も手にはいる事だし。
いっちょ、言っとこう。
パンツァー・フォー!
◆
知らない方のために……「戦車前進!」って意味――まる。




