024◇信頼できない語り手
「「お待ちください、姫殿下!」」
唐突に現れた二人の女性が、俺様のピンチを救ってくれた。
「む?」
「純白のお召し物がありませぬ。急ぎ調達してまいりますので、お時間をいただきたく存じます」
一人は俺たちよりちょっと年上くらいの、侍女風の服装の女性だった。
若くて綺麗な女性だけど、どことなく言葉に険がある。
どこかの貴族令嬢が、嫌々この立場にいる感じだ。
まあ、それを言ったら筆頭侍女のプリムローズさんも似た印象だけど、彼女は少なくともラウラ姫に対してネガティブな感情はもっていない。
「『破瓜の儀』を執り行う場をお教えいただければ、そちらにお届けいたします」
もう一人も、20代前半の、侍女風の女性だった。
こちらは大人しくて、真面目で平凡な印象だ。
――どっちにしろ、ラウラ姫を制止してくれるのかと思ったら……違った。
たぶん、決められている「しきたり」を、段取り通りに進めようとしているだけだ。
このままだと、どんどん追い込まれて行きそうだ。
でもって、よく知らないけど、王族の女性の「初夜」には白い服着るのか?
「えーっと、あなた方は?」
彼女たちの正体が、ちょっと気になった。
「「……」」
二人とも無言だ。
流れから言って、ラウラ姫の侍女らしいけど、どうも姫を見る目つきが変だ。
「む」
ラウラ姫が促すと、やっと応じてくれた。
「姫殿下の第二侍女です」
貴族令嬢っぽい人だ。
真鍮みたいな感じの金髪と、くすんだ茶色い瞳だ。表情もキツめだし、すごい生意気そうに見える。
「第五侍女に御座います」
真面目そうな人だ。
『この世界』でいちばん多い混血の進んだ感じの、すこし浅黒い肌で、黒髪で黒い瞳だ。ちょっと地味目だ。
てか、2人飛んで5人目の侍女さんなんだ? 残りはどこに居るんだ?
そして侍女って「お仕着せ」でみんな同じ服着てると思ってたけど、全員違う服だ。みんな地味目な色だけど。
「「以後、お見知りおきを」」
二人は仕方なさそうに、ちょこんとお辞儀した。
名前は名乗る気はないらしい。
それにしても、プリムローズさんの他にも、ラウラ姫付きの侍女って居たんだな。
まあ、そりゃそうか。彼女は「筆頭侍女」だもんな。
「こちらこそよろしくお願いします。ところで先日……『絶対に働てはいけない日』には、お会いしませんでしたよね? お二人はどちらにいらしたんですか?」
なるべく刺激しないように、のんびりとした口調で訊いてみた。
「お休みをいただきましたので、自由にしておりました」
真面目そうな第五侍女だ。
ただ、表情は硬く重い。体調がすぐれないのかも知れないけど、不機嫌そうだ。
「わ、わたくしもです! いけませんか?」
貴族令嬢っぽい第二侍女だ。
憤然とした赤い顔で睨まれた。
反発心剥き出しだ。そして、その向かってる方向が妙だ。主人であるラウラ姫に向いてるのだ。
この女は……何かがちょっと違う気がする。
気をつけないと、いけない気がする。
ラウラ姫に危害を……直接手を下さなくても、暗殺者の手引きくらいは平気でしそうだ。
姫は言ってたじゃないか。
『実は四番目に生まれた『四の姫』でな。上の姉が一人、事故で亡くなったために、繰り上がったのだ』
って。
そして、プリムローズさんも、先刻の襲撃を姫の命を狙ったものと考えて、
『言え。どこの家の手の者だ?』
と問い詰めていた。
たしか、女王陛下には『愛人』というか『愛し人』がいっぱいいて、姫とドロレスちゃんを除くと、兄弟姉妹全員父親が違うとも言ってたな。
つまり、五番目や六番目に生まれた「姫」の父親の関係者が、「繰り上がり」を狙って姫を排除しようとしてもおかしくないワケか。
もし、姫にそういった「敵」がいる場合、どういう条件の時に襲ってくるか……。
白無垢の衣装を用意するとか言っても、『破瓜の儀』はつまり「えっちなこと」。
最終的には、生まれたままの丸裸。
もっとも無防備な状態を晒す事になるけど……そこは俺がまた「楯」になれば問題ないか。
それに……シンシアさんが変な事言ってたな。
『癒し手』として付き添うとか、プリムローズさんも『見届け人』とか言ってた。
江戸時代の将軍様みたいに、人に付き添われながら「する」のか? どーなの、それ?
イヤ、とにかく姫一人じゃないわけだし、それにプリムローズさんなら、何か強力な『魔法』でなんとかしそうだ。
その「前」に、ラウラ姫が丸出し……イヤ、丸腰でひとりで「沐浴」とか。
そういうタイミングがいちばん危ない気がする。
それを防ぐためには、俺も一緒にお風呂で……。
――てか俺、いつの間にか『破瓜の儀』やる気満々か?
でも多分、「儀式」の前に一緒にお風呂とか……それは許されない気がする。
お楽しみは「儀式」にとっておかないといけないハズだ。
――てか俺、本気で『破瓜の儀』やる気満々だな?
えーっと、邪念は捨てて……つまり、ラウラ姫自身を「囮」にして、最大のピンチを「敵」を捕らえるチャンスに、変えないといけないわけか。
そうしないと、最悪「儀式」の最中に襲撃されてしまうからな。
うん、それはイヤだ。
――てか俺、完全に『破瓜の儀』やる気満々だな?
そんな事を考えているうちに、筆頭侍女から指示を受けた侍女二人は、『神殿』から出て行ったらしい。
それぞれに役割を振り分けられたんだろう。
「プリムローズさん、お聞きしたいんですけど、いまの女性ってなんか必要以上に姫様を敵視してる気がするんですけど」
「ええ、そうよ。第二侍女の方ね」
彼女はあっさりと肯定した。
「彼女は、殿下のすぐ下の妹君の姉なのよ」
「え? ナニソレ? ややこしい」
つい遠慮のない感想が口をついて出てしまう。
「女王国の王族の女性は、結婚しないで『愛し人』を持つのが一般的なのだけれど……」
プリムローズさんが説明する。
それってたしか女王陛下が、夫や親族を政治に介入させないためじゃなかったけ?
「今上の女王陛下が、殿下を産んだあとに『愛し人』にしたのが、彼女の父親だったの。まあ、愛人は童貞じゃないといけないわけでもないから、別にいいらしいんだけど。問題は、既に娘がいた男性だったことで、その娘が殿下や他の姫様方に変な対抗心やら敵愾心を抱いてしまっている事ね。彼女の父親も、そこそこの貴族だし」
ラウラ姫が傍にいるので、はっきりとは言えないけど、その「家」の人間が「繰り上がり」を狙ってるかもしれないと?
「それと……そうそう、言っておかないとね。『愛し人』って言っても『お姫様のヒモ』じゃないからね。お金は貰えないわよ」
「……はあ」
イヤ、別に期待してないし……そんなの。
「……ん? おおっ?」
ふと横を見て、びっくりした。
「「「……」」」
ミーヨとシンシアさんとドロレスちゃんの耳が、巨大化していたのだ。
『★聞き耳☆』という「盗み聞き」と言うか「集音魔法」だ。それははいいけど……何故にシンシアさんまで。
「面倒くさそうですね」
俺が言うと、
「面倒くさいわよ。私が侍女辞めたくなる理由分かるでしょ?」
プリムローズさんが疲れたように言う。
それを聞いていたらしい。
「む? ……辞めたいのか? プリムローズ」
ラウラ姫がすがるように筆頭侍女に訊ねた。
小さな子供みたいで、頼りなげだ。
「はい、殿下。第三王女の侍女は遣り甲斐なく思います。殿下が女王を目指すのであるならば、仕え甲斐があるのですが」
プリムローズさんが、わりと聞き捨てならない事を口にしている気がするけど……大丈夫なのか?
「む。『星』を稼げというか?」
ラウラ姫が、呟く。
星?
「うむ。分かった。爾後、励もう」
「御意」
……なんか大仰な。
「『星』ってなんスか?」
訊いてみた。
「この場合の『星』は『手柄』の意味よ。言ってなかった? この国の女王が選ばれる仕組み。第一から第三王女までの『三人の王女』の中から『星』をいちばん多く獲得した王女が即位するのよ」
新情報だ。まったく知らなかった。
「へー、選挙でも前の女王の遺言でもなく長女でもなく……なんていうか国に対する功労者みたいな王女が女王様になるんですか? 聞いたことのない『システム』ですね」
――それって、第三王女のラウラ姫でも女王に成れるって事か?
プリムローズさんは、それを狙ってるのか?
「たしかに、『地球』じゃ聞かない仕組みだよね。王女たちに競わせて国のため尽くさせる、それは善政にも繋がるんだけどね……」
プリムローズさんが複雑な表情だ。
この人、いろいろと『女王国』についても知っているらしいからな……何か裏にあるのかも。
でも、その姫の身に、危険が迫ってるかもしれないのだ……って俺の事じゃないよ?
「ちょっと良いかな? みんなに相談が……」
「「「「……なになに?」」」」
俺の考えを告げて、みんなの協力を得られる事になった。
よし、これで『破瓜の儀』に集中出来るな。
――って俺、やっぱり『破瓜の儀』やる気満々だな?
◇
で、『愛し人』になるための「簡単な誓約書」とやらを書く事になったよ。
「ここに、自分の名前と両親の名前を書くだけでいいから」
プリムローズさんが雑に言う。
「イヤ、待ってください。誓約書も何も、文言が何も無いじゃないスか?」
白紙の紙だよ。ひでーよ。詐欺か?
でも、名前だけ書けって言われる事。『この世界』ではわりとよくある。何かの『魔法』で本人確認してるのかな?
「うん、あまりにも急でね。本式なのが用意出来なかったんだよ。なーに、一緒に『王都』に行く事になってるんだから、そしたら何とかするよ」
この様子だと、細かい事は何も知らなくて、後で調べればいいやと思ってるに違いない。
「ですけど……俺、実は『前世の記憶』のせいで、『この世界』での両親の記憶を失ってるんですよ」
名前も知らない事に、いま気付いたよ。
「そうだったのかい? 同じ『前世の記憶』持ちと言っても、私とは随分違うんだな」
プリムローズさんの方は、「逆子」で産まれて、赤ん坊の時に「死んで生き返り」して、「ものごころ」つくまでは自覚が無かったらしいのだ。
「私は喉に『へその緒』が巻き付いて、窒息死したらしいんだよな」
「怖っ! ……そ、そーだったんスか?」
うわー、考えたくもねー。
でも、考えたら『ヱヴァン○リヲン』の「アンビリカル・ケーブル」ってよく絡まないよな……コードさばきの助手がいる訳でも無いのに。あれってそんなには長くないのかな? 伸びきって別のケーブルに取り換えてた事もあったしな。
「ま、ミーヨに聞いてみればいいさ。あの子はずっと君と一緒だったんだから」
「……はあ」
でも、他の子の……と言うか王女様の『愛し人』になるのに、ミーヨは何故か嫌がったり、反対してくれないんだよな。
てか、「……ぼそっ(ヤッちゃって!)」ってどういう意味なんだ? そのまんまか?
なんかひんやりとした違和感を感じる。まさか……これをきっかけに、俺と別れる気か?
俺は、そんなのヤだよ?
◇
「それでね。話し合って、お互いの『生理』の時以外は交互にって事に決まったから」
「……はあ」
おお、なんてこったい。
ミーヨがお姫様と二人で、俺を「シェア」する気まんまんだ。
だが、おめおめ引き下がれないな。
ここは、頑張らないとな。男を見せないとな。
気のせいか……なんか下品だな。気にしたら負けだな。
それはそれとして、ハッキリ言っておこう。
「俺がいちばん好きなのはお前だぞ」
「……いちばん?」
「いちばん」
「それだと、その下もいるって事にならない?」
「「…………」」
「でも、所詮は『なまもの』だから、色々流動的にはなるだろう、ってプリちゃんが言ってた」
「プリムローズさんまで参加してたのか? その会議」
なんなんだよ、「なまもの」って。
「でも、お前、ずっと一緒にいたい、って言ってたけど。……その時は」
「あとね。お姫様が『そーゆーこと』する時には、『見届け人』ってゆーのが付くらしいんだけど……わたし、それになってずっと見てるから。いつも一緒だから」
「怖いよ!」
なんで、俺のいないところで色々な事が決まっちゃってるんだ?
もう全部成り行きにまかさせてしまうしかなさそうだ。
俺が何を言っても、彼女たちは動かせない気がするし。
……そんで『見届け人』って言っても、暗い部屋の中で、近くに「付き添う」だけらしいし。
でも、俺の『光眼』の「暗視機能」みたいな『魔法』ってあんのかな? ありそうだけど……まさかそんなもん誰も使わないよな?
「あ、そうだ。忘れるとこだった。……お前、俺の両親についてどんくらい知ってる? 名前判るか?」
『前世の記憶』が蘇って『俺』として覚醒しちゃったから、元々の「ジンくん」の二親についてはスルーしちゃってるんだよな。
「ジンくんのお母さんは『スピンナ』さんだよ」
スピン? ナニか回転しそうな名前だな。
「スピンナ・ヅ・ラ・トビさん」
「ヅラ飛び?」
ヅラが飛ぶの? どっかの教頭先生みたいだな。
「って言って、元々は『貴族』の家柄だったんだよ」
「……へー」
衝撃の事実かも知れないけど、実感ねー。
でも、目の前の子も「ミーヨ・デ・オ・デコ」さんって言う『高位貴族』の家柄だしな。
それに――
「家柄だった――って?」
過去形なのだ。
「うん……言いづらいんだけど……火遊びで……」
「……まさか……『王都大火』……?」
「ううん。ちがくて、成人前の15歳の時に、外国から来た男の人と……」
「そっちの『火遊び』か!」
ヤレヤレ。
……イヤ、推奨してるワケじゃないから。
てことは、俺の母親って若いと言えば、まだ若いんだな。年齢不詳のスウさんよりも年下だな……たぶん。
「それがジンくんのお父さんの『キ』さん」
「キ?」
ヤバい人?
「キ・コーシュさんって人だったんだって」
「……」
なるほど。『奇○種』か。やべー。
でも、ミーヨも俺の父親がどこから来たどんな人物かは知らないらしい。
母親の方は、成人前に俺を懐妊してしまったために、実家から追い出されたらしい。そんで同じ「産院」に通っていたミーヨの母親と親しくなって、その縁でオ・デコ家に身を寄せて、そのままミーヨの乳母兼家庭教師みたいになっちゃってたらしい。
俺は母方の姓を名乗れず、仕方なく乳型……イヤ、父方の「ジン・コーシュ」を名乗らされていたらしい。
プリムローズさんも、その辺の事情は知ってたみたいだ。
王女様が自由に『愛し人』を選べるって言ったって、最低限の線引きはあるだろうし……俺の母親が元「貴族」らしいから、OKなのかな?
◇
「なにここ? 一泊いくら?」
プリムローズさんが手配した高級宿屋の、最高級の一室に現在滞在中だ。
――宿泊客が王女様だけに、リアルにロイヤルスイートルームだ。
高級宿屋の格式として、一種の見栄で用意しておく、普段は決して使用されることのない無用の長物的な一室だったらしいけど、急きょ本当に王女殿下ご一行が宿泊することになって、宿の主人以下みなみな仰天していたそうだ。
しかも、使用目的が『破瓜の儀』(……)という事で、見届け人と不測の事態に備えた『癒し手』も含めた5人(スウさんと未成年のドロレスちゃんには遠慮してもらった)で宿に着いた時、従業員一同によるお出迎えの挨拶の際、彼らからは何とも言えない生暖かい視線を浴びせられ、それはそれは辛く痛々しい思いをした。
部屋には、例の侍女二人組が用意したと思われる、純白の初夜用寝間着一式が取り揃えられていた……らしい。
よくそんなものがあったな……サイズ合うのか? ラウラ姫ちっちゃいのに。子供用?
『地球』の花嫁さんみたいに、白いブラと白いパンツと白いガーターベルトと白いストッキングと、ついで頭にも白いヴェール……みたいなブライダル下着セットを想像してるんだけど……どんなんだろ?
『この世界』って『魔法』とかファンタジー要素のある異世界なのに、そういう性的ファンタジー要素は薄いからなあ。
と言うか、男性向けのえっちなものもある事はあるらしいけど、この国『女王国』だからか、大っぴらには存在してない気がする。
……それにしても落ち着かない。
どことなくヴェネツィアの「ゴンドラ」みたいなカタチの、寝台に腰かけてる。
高級宿屋だけに、ベッドはふっかふかだ。スウさんとこのパン工房で使ってた寝台は低反発というよりも、カッチカチだったからな。仕方なく、その横でミーヨと立ちバ……イヤ、余計な事を考えるのはやめとこう。
ああ……それにしても落ち着かない。
結婚初夜みたいだ。でもまあ、似たようなものか。
◇
「殿下。湯加減はいかがですか? しばらく外しますので、ごゆっくりご入浴ください」
浴室の外から、プリムローズさんの声がする。
打ち合わせ通りだ。
浴室の前の脱衣室には、ラウラ姫の脱ぎたての、あれやこれやと、わざとらしく目につくように『佩刀』が置いてある――ハズだ。
わざと目立つように、大きな隙を見せて、襲撃者を誘い、それを捕縛する。
という作戦を立てて、俺たちはそれぞれの配置と役割を決め、万全の態勢で襲撃に備えて待ち構えていた。
そして俺は――浴室で奇妙な物を見た。
イヤ「湯船」なんだけど……完全に「船」のカタチだった。
ここ異世界だし、その手のダジャレじゃないと思うんだけど……。
尖った船首にあたる部分には、帆船によくある張り出した棒がついていて、なんかの船首像みたいな物もあった。
真ん中は……まあ、お湯が張ってあって、二人はゆったり浸かれる。
船尾楼みたいな腰かけがついてる。お湯をかき混ぜるのは舟の櫂だ。
でも、なんでこんな形なんだろう?
デザインで、こうなってんのかな?
ま、寝台も「船」みたいなカタチだったけれども。
てか、実は『この世界』の食卓で目にする食器類も、大半は楕円形だ。「船」と言われれば、「船」に見えるのだ。
なんでやろ?
「姫。この浴槽、なんでこんなカタチなのか、ご存知ですか?」
我慢できなくて訊いてみた。
「うむ。我がご先祖が船に乗っていたからであろう」
ラウラ姫が言った。
……意味不明だ。
日本人顔の黒髪の美少女シンシアさんも、先祖は『ご朱印船』に乗ってたって言ってたな。
『この世界』の人たちや動植物(の一部)が、何らかの方法で『地球』から連れて来られたのは間違いない、と思うけど……宇宙船とかならともかく、海に浮かべる「船」じゃないと思うんだけどな……。
そしてそれを「バスタブ」にするかな?
船の内部に水入ったら、船沈むやん。そんな縁起でもないコトする? 「縁起でもない」とか、発想が日本人的すぎるか。イタリアのローマには舟のカタチした噴水があったはずだしな。
……謎だ。
そのうち……解けるかな? この謎。
あ、あと「お風呂に入ってるフリ」なので、裸じゃないです。二人とも。
「……ん?」
ふと見ると、姫のうなじに変なものが入っていた。
イヤ、人間じゃないよ? ラウラ姫ちびっこいし。
奇行は多い気もするけど……それは俺も同じだな。
てか、特徴のある「わしゃわしゃした金髪」をひとまとめにして頭頂部に乗っけてるので、首筋が丸見えで、そこに黒子を見つけたのだ。
ぱっと見は、ただのホクロだけど、何か妙な違和感がある。
気になるので、ちょっと確認しておこう。
(『光眼』。顕微鏡モード)
めったに使わないけど、こんな事も出来ます。
ちなみにガンガン倍率を上げると、顕微鏡みたいに「ミクロの世界」を覗く事も出来る。
(拡大。拡大――あ、『星』だ)
黒子を拡大して見ると、精緻な「星の紋章」だった。「★」だ。
中に『この世界』の文字で「4」とある。
ゲームじゃないんだから、「残機」とかじゃないだろうし。ラウラ姫は「第三王女殿下」だけど、実は『四の姫』って言ってたから、そう言う意味だろうな。
もっと大きくて、はっきりと目立つ『星』なら、ジョース○ー家の血筋か? ス○ンド使いか? と思っちゃったろうけれども。多分……イヤ、絶対に違うだろうな。アレって肩だしな。
目立たなくて、さり気ない、小さな黒子だ。
にしても、拡大しないと見えないとか、紙幣の偽造防止措置みたいな感じだ。ルーペとか細工道具が無いと……違うな。たぶん、『魔法』で入れた刺青だ。……めっちゃ細かいし。
さっき、姫とプリムローズさんが会話してて「『星』を稼ぐ」とか言ってたけど……コレは関係あんのかな?
「むむ? くすぐったいぞ、何か?」
姫に訊かれた。
ちょっと接近し過ぎて、俺の鼻息がくすぐったかったらしい(笑)。ならば、これもついでなので訊いてしまおう。
「姫。ご自分のうなじに、星のカタチをしたホクロがあるのを、ご存知でしたか?」
「うむ。王家の出自を証だてるためのものだそうだ」
あっさり教えてくれた。
「それは姫のような『三人の王女』だけですか?」
特別な身分証明証代わりかな?
「む。我が妹にも同じものがついているぞ」
「我が妹」って、ドロレスちゃんの事だろう。
そんなん、姉妹で「見せっこ」とかしたのかな? でも、ちっさいから、ルーペでもないと見えないよ?
「我が国で生まれた者は皆、身分証として、それがあるはずだ」
「そうなんですか?」
「うむ。昔、『化物混入事件』と言うのがあって、それ以後そんな事になっていると聞く」
「そんな事があったんですか?」
『化物』って、卵から孵化した直後に見た生物そっくりに擬態して生きてくモノらしいけど……そんな「事件」があったのか? ……でも、教えてくれた姫自身はその詳細は知らないようだ。後で誰かに訊いてみよう。
「王家の血をひく『姫巫女』の祈願によって、そのようになったと聞く」
「……そうなんですか」
『巫女』って、シンシアさんが目指してる『七人の巫女』の事らしい。
その「祈願」で、『魔法』のシステムの一部が書き換わる……というよりも「新機能が追加」されるのかな?
俺にもあんのかな?
その「身分証」みたいなホクロ。
ミーヨには、あったかな?
いつも彼女としてる「立ちバ……イヤ、いつも彼女がしてる「緩めの三つ編み」って、意外とうなじ部分が隠れてるしな。
◇
その後も、俺たちは配置に付いたまま待った。
そして――結論を言おう。
襲撃は……なかった。
つまり、俺の――考えすぎだった。
思い過ごしだった。気のせいだった。思考の上滑りだった。勘違いだった。推理が間違っていた。思い違いだった。邪推だった。杞憂だった。ミスリードだった。
俺は『信頼できない語り手』だった。
あるいは……現実逃避だった?
◇
「うむ。今宵は何事もないようだ。重畳」
ラウラ姫が、純白の装いで言った。
純白の装いは『夜の服』と呼ばれる「前合わせ」の服だった。
腰帯を結んで留めるバスローブみたいな服……てか寝間着だ。
ちなみに『昼の服』は「後ろ合わせ」で、背中で紐で閉じるフリーサイズな感じの服だ。
『この世界』では、昼と夜とで、服装が大きく異なるのだ。
そんなんは良いとして――
「……」
俺の方は、頭の中が真っ白だった。
「うむ。では、いざ」
イヤ、戦場に向かうんじゃないんだから。
「「「……(じーっ)」」」
見届け人のミーヨとプリムローズさん。そして『癒し手』のシンシアさんに見守られている。イヤ、暗闇だから気配だけで、彼女たちからはハッキリと見えないだろうけど……見られてるのは分かるし、感じられる。そのうち暗闇に慣れれば、かなり見えちゃいそうだけれども……いいのか? それで。
「……」
どうしよう?
『正解』が分からない。
――教えて、真道○路朗。
※『正解する○ド』最終話のネタバレ注意※
ひょっとして、『正解』は「子作り」か?
◇
で、その夜、俺はミーヨとプリムローズさんとシンシアさんに見守られながら、ラウラ姫と結ばれた。
逃げ道は無かったよ。
二人目ゲットだぜ!!(※ポジティブシンキング)
◆
いろいろ肩すかしでゴメン――ばつ×




