023◇成り行きに身を委ねて
「む。結婚がダメならば、私の『愛し人』になって欲しい。そうだ! そもそも王家の女性は結婚せずに、『愛し人』を持つのだった。忘れてた。んー、あむっ」
イヤ、王家の事情なんて知らないし。
『愛し人』って、ようするに「お姫様の愛人」って事でしょ?
「「………」」
――しかし、なんでこうなった?
自分の置かれた状況が解らなくなりつつあった。
俺、なんか姫に好かれるような事したか?
まあ、決闘の時のドサクサで、俺からキスしちゃったし、その後も謎の襲撃者の狙撃から守ったりしたけれども……イヤ、狙われてたのは俺だったけど。
お礼なら、『手作りクッキー』くらいでいいのに。
無理に仲良くなろうとしなくても……いずれにせよ、矢張り俺様の異世界ラブコメは間違っている、と思えるな(※色々と間違っています)。
みんなはみんなで、ワイワイヒキガヤしてるし(※判定は微妙です)。
「また、してる」
「ふあああああ……眠い」
「お兄さんもおねーちゃんも、キスが好きなんですね」
「吸うのね? まあ、凄い」
「みなさん、あまり直視するのは……」
「「………」」
「ジンくんって『全知神』さまから貰った『賢者の玉』で、なにか女の子を惹きつける不思議な力を手に入れちゃったんじゃないのかな?」
「「……」」
――そんな、エロゲみたいな話はないだろう。
そんな特殊なフェロモンなんて、出てないと思うぞ。
てか、ミーヨがどういうつもりなのか分からない。
俺って、お前の恋人だよな? 嫉妬とかないのかよ?
「ありそうね……って私は違うわよ! でも、『賢者』って俗に言うとアレだし……ぶつぶつ」
「「……」」
何か『前世』の事でも思い出してるのか、プリムローズさんがぶつぶつ言ってる。
「え、『賢者の玉』とは何ですか? 『全知神』様のご加護とは別のものですか?」
『神殿』の『巫女見習い』であるシンシアさんの興味をひいたらしい。
「「………(ちゅぽんっ)。――ぷはぁ」」
また、チューされてました。ハイ。
「いえ、貰ったのは同じ『全知神』さまからで、両方は一体化してるといいますか……って、ミーヨ、バラし過ぎ。俺の秘密が次々とダダ漏れじゃねーか!」
関係者以外秘密だからな!
なんだったら、シンシアさんにも「関係者」になって欲しいけど!
「すーはー。すーはー。……んちゅ」
海女の潜水の前にみたいに呼吸を整えていた姫が、またキスして来た。
いいかげん、何度目だろう?
「実に怪しからん。実にだ! むへへへ」
「「……」」
何がだよ。スウさん、思い出し笑いしてるし。
まあ、スウさんと関係する事はないな。うん。
「お兄さん、ごめんなさい。あたしもおねーちゃんがこんな破廉恥なキス魔な女だとは思わなくて」
「「……」」
ドロレスちゃんが、申し訳なさそうだ。
嘘つけ。君が仕掛けて何度もキスさせたろう?
「………(ちゅぽんっ)。妹よ、私は一度全てを失い、そして新たに手に入れたのだ、全てを!」
ラウラ姫が、ちょっとヤバい。
なに言ってんだコイツ的にヤバい。
ラウラ姫――そう、初対面の時には、自分で「ラララ・ド・ラ・ド・ラ・エルドラド」と名乗ってたけど、実は「ライラウラ・ド・ラ・エルドラド」が本名だったのだ。そんで、「ラウラ」は愛称らしい。
自他の人名を噛む――という特殊なスキル(?)によって、間違えて名乗っていたのだ。
プリムローズさんの名前も、「プリマ・ハンナ・ヂ・ロース」がどうしても言えなくて、「プリムローズ」になっていたらしい。
ま、プリムローズさんの方は、本人も納得しているようなので、俺も呼び方を変更しないけどな。
それはそれとして、決闘に敗れて、ファーストキスまで奪われてボロ泣きしてた姫が、やっと泣き止んだと思ったら、今度は俺から離れようとしないのだった。まあ、流れで『命の恩人』扱いまでされてるし、すっかり懐かれてしまったのだった。今さら捨てて来なさい、と言われても可哀相な感じなのだ。でもこのままなし崩し的にえっちなことも出来ないのだ。相手はこの国の第三王女なのだ。なんか、成り行きでとんでもない事をしでかしてしまった。どうしよう?(棒読み)
あー、『カリオ○トロの城』。もっぺん見てー。
俺は現実逃避ぎみに、そう思った。
◇
「とりあえず、姫とプリムローズさんは『俺の馬車』で『王都』までお送りしますから」
これが、いちばん現実的だろう。
二人には、『王都』に帰ってもらおう。
『決闘』の直後で、異常なテンションになっているだけで、『王都』に帰れば、落ち着いてくれるだろうし、二人を送り届けた後で、俺はさっさと立ち去ればいい。
うん。コレで、すべて上手くいくだろう。
「む? その馬車は元々私のものだから、もれなく私とプリムローズが付いてくるぞ。抱き合わせだから切り離しようがないぞ」
何度もキスして満足したのか、今度は食事に取り掛かったラウラ姫が言った。
「いえ、殿下。私は付きません。別売りです」
筆頭侍女が反論する。
イヤ、「もれなく」とか「抱き合わせ」とか「別売り」って……。
「あのー」
「何ですか? シンシアさん」
「実は私。殿下のご帰還に合わせて、『王都』まで同道する約束があったんですけど……」
なんか、意外な話が出て来た。
「そーなんですか?」
「ええ、近く『選挙』があるので、『王都』で」
聞いた話によると、『巫女選挙』は毎年夏に『王都』で行われていて、『女王国』全域から集まった『巫女見習い』への投票で、上位七人が『七人の巫女』となり、『女王国』の大きな都市に一人ずつ派遣されるそうな。
で、去年選出の『七人の巫女』の一人も『冶金の丘』にもいるらしい。会ったことないけど。
「あの『七人の巫女』を選んだあとに、殺し合いで『聖女』が選ばれるという」
「殺し合いではなく、じゃんけんです。そんな血生臭いこと言わないで下さい。吐きそうです」
シンシアさんは、すでに顔面蒼白だ。
「あ、ごめんなさい」
言ってはいけないボケだった。失敗。
「それで、姫殿下の馬車がジンさんに譲られたとなると……その約束はどうなりますでしょう?」
心配そうだな。
「そういう約束があるのなら、俺は構いませんけど……」
俺としては、まったく異存がない。
てか、美少女と「馬車の旅」とか、めっちゃいいじゃないですか。イヤ、ここにいる子たち、ほぼ全員美少女だけど。
「プリムローズさん、その馬車ってどれくらいの大きさなんスか?」
実物を見てないので、訊いてみる。
「乗れる人数という事なら……そうね、馭者台に2人。改装しちゃったから車内には6人くらい? 後部の護衛用踏み台に1人……ここは立ちっぱなしね。無理すれば両脇の踏み台にも1人ずつ……屋根には5人くらいかしら? 合わせて16人?」
真面目な表情で、無茶苦茶な事を言われた。
「なんでそんな屋根にまでキツキツに乗らないといけないんですか? 発展途上国の鉄道じゃあるまいし」
「そんな言い方はよくないわ。貧しい事は罪ではないし、恥でもないのよ」
プリムローズさんの『前世の記憶』が、なんか語り出しそうだ。
阻止しよう。
「えー、つまり俺とミーヨとラウラ姫とプリムローズさんとシンシアさん。これくらいなら余裕で乗れると?」
「まあ、そうね。馬は最低でも二頭立てになるわね」
プリムローズさんの言葉を受けて、シンシアさんに向く。
「大丈夫のようですよ」
「よかった! うれしいです」
シンシアさんは喜んでくれた。
何人かの視線が冷たい気もするけど、暑いからちょうどいいや。
「ところで、いつ発つんですか?」
もっともな質問をされる。
馬車は改装してるらしいし、どうしよう?
思わずミーヨを見たら、
「スウさんのとこに居れるのはあと10日の約束だよ」
きちんと察してくれたらしい。うん、いい子だ。後で(以下略)。
確か、下宿の契約期間は32日間だったはずだから……22日も経ったのか……。
「そんなに経ったんだな……この街に来てから」
パン工房が忙しくて、旅の準備とか情報収集とか……大したことしてないなあ。
毎日毎日が、パンとの格闘だった。
そして最後には、「お姫様と『決闘』」とか……異世界だなあ。
不意に、スウさんが何かを急に思い出したかのように言い出した。
「あ、でも、キース兄さま、『絶対働いてはいけない日』が過ぎたら、帰るって言ってたのよね。ヘタすると、今日か明日あたり」
そう言えば、先日の「昼食会」の大量の料理は、そのために用意したものだった。
その大部分を、ラウラ姫とドロレスちゃんの「王女姉妹」が喰っちゃったけれども。
「……(どうしよう?)」
ミーヨが、心配そうに俺を見てる。
アイコンタクトで、言わんとするところは伝わる。
「じゃあ、スウさんのところの都合に合わせますよ。お兄さんが戻り次第、俺たちは出て行きます」
「えー、出て行っちゃうの? ……お姉さん、がっかり」
スウさんが、かなり本気で落胆していた。
「ラウラ姫のご予定は?」
本人にではなく、筆頭侍女のプリムローズさんに訊ねる。
でも、答えたのは、姫本人だった。
「うむ。滞在は『三巡り』のつもりだった」
一時的に食事を止めて言った。言い終わると、すぐさま食事を再開した。
やっぱり「チビの大食い」だ。めっちゃ食う。
そっちは放置するとして、『この世界』の「一週間」にあたる『ひと巡り』って8日間だ。
なので、『三巡り』は24日間て事だ。
『ひと巡り』の8日間にも、『地球』の日曜日・月曜日……みたいな呼び名があるけど、まだ覚えきれてない。貨幣の数え方といい、色々とめんどくさいのだ。慣れそうにない。
そんで、現在は『青の日々』。
『地球』の北半球で言うところの「6月」だな。
はっきり「6月」と断言出来るのは、「夏至」にあたる『絶対に働いてはいけない日』があったからだ。
そう言えば、プリムローズさんから雑談の中で聞いた話だと、シェイクスピアの『夏の夜の夢』って「夏至」の事らしい……というのは、今関係ないか。
でも、「ティター○ア」って名前の、とんでもないお胸をした妖精の女王様が『魔法使いの○』に出てたんだよね。いまそれは関係無いけどね。
「えーっと、それに合わせると……12日後に、『王都』に向けて出発って事になりますかね?」
正直、『この世界』のカレンダーはあやふやなままだけど、そう言ってみた。
「そうだね。多少ズレても、馬車に寝台が付いてるから車中泊も出来るし」
プリムローズさんだ。「車中泊」とか、『前世』っぽい言い方だ。
「暦で言うと、次の『深緑の日々(地球の北半球の7月に相当)』の最初の『お野菜の日』だね」
プリムローズさんが、『神殿』で発行してる『日記帳』を取り出して、日付を確認してる。
そう、この『お野菜の日』とか『お豆の日』とかが「曜日」に当たるのだ。覚えられないのだ。
でも、ミーヨの誕生日は知ってる。『深緑の日々』の最後の『お野菜の日』だ。
てか、俺も同じ日に生まれてるらしいので、俺の誕生日でもあるのだ。
以上を踏まえて、シンシアさんに向き直って確認する。
「だそうです。それで構いませんか?」
「はい、ありがとうございます。助かります」
シンシアさんは喜んで、お礼を言ってくれた。
よし、この調子で好感度を積み重ねるんだ! 頑張れ、俺。
「ところで……馬車に寝台が付いているのですか?」
シンシアさんが、不思議そうに訊ねてる。
「そのための改装だったのよ。殿下がお昼寝好きなの」
プリムローズさんが、ラウラ姫の秘密を教えてくれた。
でも、寝る子は育つ、というけれど……育ってねー。
「うむ。それまでは時間があるのだな? では、ジン。私に付き合ってもらおう。新造の剣の柄を変更したいのだ」
ラウラ姫が俺の腕を引く。
「剣の柄?」
「ほら、『白い花』が咲く前に、姫様言ってたよ。ジンくんのカタチにしたいって」
ミーヨの言い方は、微妙にやらしかった。
てか、俺の暴発事故は『白い花』ということで、美しく飾られているらしい(笑)。
白い花ってより完全に『惡○華』だけどな!
別に、体操着とかは盗んでないけどな。
ちなみに、あの白い花の名前は……やめとこ。
「「「「「……ああ、あの時」」」」」
そう言えば、ここにいるみんなの共有体験だった。
俺たちは、同じ経験をした仲間なんだ!
仲間って素晴らしい!
「む?」
そんな仲間の一人に、フレンドリー・ファイヤーしちゃったけどな!!
「――って、本気だったんスか?」
「うむ。口で説明しても分からないだろうから、直接見本を持ち込もうと思う」
「え? それって?」
姫の言葉にシンシアさんが食いつく。
「ジンくんのおちん」
「はい、そこまで! では、私たち4人はそういう予定で行動しようか。シンシアは『巫女見習い』の仕事に戻るんだろう? 『決闘』の立ち合いご苦労さま。そして、スウさん。美味しいパンと食事をどうもありがとうございました。深く感謝いたします」
プリムローズさんが仕切ってくれる。
楽でいい。俺このまま空気主人公でいいや。
「……ドロレスはどうする? 一緒に来るかい?」
「え? 一緒に行っていいの? あたし前々から『王都』に行きたかったんだー」
無邪気にそう言われ、困ってしまう。
どうやら、ドロレスちゃんは、プリムローズさんの言葉を「『王都』にまで一緒に来るか?」と訊かれたと勘違いしたらしい。
「「…………」」
俺とプリムローズさんは、思わず顔を見合わせた。
ドロレスちゃんは、まだ12歳で、成人してないはずだ。
しかも、王家から養女に出された子を、『王都』に連れ出してしまっていいんだろうか? 厄介ごとに巻き込まれたりしないだろうか?
「――『王都』行かないで、他行こうか? ほら、前に海に行きたいって言ってなかった? たしか港の南とかいう……」
俺は、適当に誤魔化そうとしたけれど。
「えー、『選挙』は『王都』なんですってば。しかも『美南海の水都』って、もー、ジンさんのえっち。どすけべ。エロ野郎」
顔を赤くしたシンシアさんに「エロ野郎」扱いされた。なんで?
てか、エロ野郎ってよく翻訳されたな。俺の『脳内言語変換システム』。Verアップでもしてるのか?
そして、ミーヨが言った次の言葉に、俺は驚愕する。
「シンシアちゃん。『裸んぼの渚』に行かなきゃいいんだよ」
な、なんだと?
シャキ――ン!(※覚醒)
裸んぼの渚? ナニソレ?
とっても素敵なワードですこと。聞きまして、奥様?
……ひょっとして「ヌーディスト・ビーチ」っぽいものが、『この世界』にもあるのか?
『裸んぼの渚』――タグ添付。
分類(⇒エロ)。記憶(⇒脳内)。……よし!
ならばそこに、赴くしかあるまい。
なんとしても、俺様の『振動○頭』を届けねば!
「じゃあ、そこに」
「はい。ダメ! 行くのは『王都』!」
俺の言葉を遠慮なくブチ切ると、プリムローズさんはドロレスちゃんに向き直った。
「ドロレス。私は、今日これから殿下に付き合うか? という意味で訊いたんだ」
「…………行かない」
ドロレスちゃんは硬い表情で言った。
そりゃ、重巡……イヤ、従順になれるはずが無いよ。
だって「ハ○ナ」(※シャキ――ン! のモトネタのキャラだ)は「コ○ゴウ」型戦艦の三番艦なんだから。相棒の「キリ○マ」は四番艦だよ。「クマのヨ○ロウ」だよ。……今はやめようよ。アニメネタ(from『蒼き鋼のアル○ジオ ア○ス・ノヴァ』)は。
「妹よ、お爺さまのお許しがあれば『王都』に行くのも構わんぞ」
ラウラ姫が「妹」のドロレスちゃんを「見上げて」言った。
「いいんですか?」
「うむ。私とて『繰り上がり』が無ければ『王都』とは無縁に育っていたかもしれない。人生には様々な経験が必要だ。私のように」
おお、姫が大人になった――のか?
ところで、
「繰り上がり?」
ナニソレ?
「うむ、私は第三王女で――『三人の王女』の一人。王家の決まりによって、『女王国』のために努めねばならない義務があるのだが……実は四番目に生まれた『四の姫』でな。上の姉『二の姫』が事故で亡くなったために、繰り上がったのだ」
ラウラ姫が、淡々と身の上を語る。
「――それが12年前の悲劇。かの『とても寒い冬の厄災多き一年』の『王都大火』なのだ」
『王都大火』って、ミーヨの実家オ・デコ家が火元だったっていう大火事か。
「「「……!」」」
何人か、はッ、と息を止めたようだ。
ミーヨを見ると、
「…………」
血の気の退いた青ざめた顔をして、今にも崩れ落ちそうだった。
「……ミーヨ?」
近寄って肩に触れると、そのまま俺に向かって倒れこんで来た。
気を失ってしまったらしい。
誰かが失神するところなんて……初めて見た。
「……む?」
ミーヨの変調が、自分の発言が引き金だった事に気付いたラウラ姫が、驚いていた。
◇
「――腕に宿れ、白き光。我が手に集いて、愛し子へ」
『魔法』の呪文詠唱と言うよりも、何かの「手順」を確認してるみたいな印象だ。
「☆癒しの手☆」
そう言ってシンシアさんは、ミーヨの広いおでこに、白い光を纏った手をかざした。
彼女の手のひらから、溢れる淡く白い光が、ミーヨの全身を包み込むように広がっていく。
――これが他人を癒す『神聖術法』。
『癒し手』の能力か。
なんか俺まで、やわらかく癒されていくようだ。
それはけして、俺の立ち位置からシンシアさんのかなり豊かな胸の谷間が見えるからではない。
イヤ、そうかもしれない。
『巫女見習い』だけが持つ事を許されるという『神授の真珠』を、慌てて引っ張り出したために、ちょっと胸元が乱れているのだ。
彼女の胸元の、ぽこん、とした膨らみの正体はそれだったらしい。
てか、『しんじゅのしんじゅ』ってダジャレ?
『癒し手』の効果を強化するような効果があるらしいけれども。「親父ギャグか!」って突っ込みたい。
イヤ、ミーヨを心配していないわけではなく……。
きわめて冷静なシンシアさんから、前もって「呼吸も鼓動もしっかりしていますから、大丈夫です」と、落ち着くように言われているのだ。
一方で、俺の呼吸も鼓動もピッチが速くなってる気もするけど。
だって、シンシアさんのお胸の谷間が……見えてるんですもの。
「……あ……」
白い光がおさまると、ミーヨの血色は完全にもとに戻っていた。
てか、おでこがテッカテカだ。
なんか、可哀相なくらい「そこ」が目立ってる。
「……もう、平気ですね」
シンシアさんは、ミーヨの手首から手を放した。
脈拍も計っていたらしい――そういうことも含めて、神聖な『術』『法』らしい。……知らんけど。
「……ぼそぼそ(ミーヨさんも、『大火』の年に、お母様を亡くされてたんですね)」
呟きが聞こえた。
シンシアさんだ。てことは、彼女自身も、そうなのか?
「……平気か? ミーヨ」
「……ジンくん」
「念のため、今夜は性交をひかえてくださいね」
「「ええー?」」
「ふふっ、冗談です。人目も気にしないで見つめ合うから、からかいたくなりました」
クスクス笑いながら、そう言われた。
黒髪の美少女シンシアさんは、意外とお茶目なひとのようだ。
でも、「性交」とか……露骨だ(笑)。
「大丈夫か、ミーヨ。私も君もいろいろあったようだが、今はもう何も言うまい」
ラウラ姫が、本当に一皮剥けて大人になったようだ。
うん、俺に負けたお陰だな。
そういう俺は、ぜんぜん大人になってないな。うん。
「はい、姫さま。今夜、ジンくんをお願いします。3回です」
何を頼んでる?
アレはシンシアさんの大人のジョークだぞ。
「おい、ミーヨ」
「……ぼそ(ヤッちゃって!)」
はあ? ナニを?
「うむ。私も初めてゆえ、どうなるか分からないが、最善を尽くそう。3回か?」
のっかるな!
「……お待ちを、殿下。その流れだと私がまた『癒し手』となって殿下の『破瓜の儀』に付き添うということでしょうか? 私、血が怖いんですけど」
シンシアさんが、またまた顔面蒼白だ。
よっぽど血が苦手なのね?
てか、『破瓜の儀』?
「そうですか。そのご決意を……。では私も覚悟を決めて『見届け人』を努めさせていただきます」
プリムローズさん?
たしかに、王侯貴族の「そういう行為」には、そういう人がつくと、何かで見たことはあるけれども。
「ただ、こちらの『神殿』の中でとはまいりませんので、場所の選定にお時間をください」
「うむ、任せる」
ラウラ姫が力強く頷く。
「イヤ、プリムローズさん。貴女までナニ言ってんスか? 止めて下さいよ。あり得ないでしょう?」
「しかし、殿下も君の事を気に入ってしまったようだしな」
何を企んでるのか半笑いだ。
なんなん、この女性。
「王女様のお相手が、どこの馬の骨かもわからないようなヤツでいいんスか?」
「そんな事はないだろう。君、自分の母親の事も知らないのかい?」
「……母親?」
正直言って、知らんがな。
「ああ、私の口からは言いにくいよ。後でミーヨに聞いてみなさい」
「……はあ?」
なんか、やらかしてるっぽいな。俺の母親。
そんで、ミーヨの様子は……目を閉じてる。
でも、寝てるわけではないようだ。
血の気も戻って、顔色もいいし、身体的には大丈夫のようだけど……。
あんな風に、とつぜん気を失うなんて、初めてだしな。昨夜ヤリ過……じゃなくて、なんらかの要因で寝不足だったのかもしれないな。
「王族のしきたりでね。即位前の王女様は、本人の自由に『愛し人』を選べるんだよ」
プリムローズさんが言う。
「何? その無駄に高い恋愛自由度」
「本当は『実技試験』と『筆記』があるけど、それは免除してあげるよ」
「運転免許証か! てか、実技はともかく『筆記』ってなんスか?」
「『筆記』はともかく、『実技試験』するのヤだし。あ、ちなみに『筆記』って言うのは、簡単な誓約書書いてもらうだけだから」
どういう事だ?
「……その『実技試験』のお相手って、誰が務めるんスか?」
「……筆頭侍女らしいよ。いや、だからヤだから、免除でいいってば」
「……そんな」
いろんな意味で。
「うむ。話は済んだか?」
ラウラ姫に訊ねられた。
なんか変な流れになってるぞ。ヤバいぞ。これ。
――よし、逃げよう。
「お兄さん。やっぱりお義兄さんになるんですね、ガチで」
「ガチとか言うな。てかそこ退いて、逃げるから」
ドロレスちゃんが立ちふさがった。
「わたしというものがありながら」
ないない。
スウさんはないから。
「――というわけで、ジン・コーシュ。お膳立ては整った。私を君のものにしてほしい」
「イヤイヤイヤ。その前にきちんとあるでしょう、好きとか嫌いとかいう告白が」
最後の抵抗を試みる。
「ジン・コーシュ。私は君が好きだ。私を君のものにしてほしい」
とどめの一撃だった。
「「「「「…………」」」」」
ミーヨとプリムローズさんとシンシアさんとスウさんとドロレスちゃんが、俺とラウラ姫を、じ――っと見てる。
「……」
どうしよう?
このまま成り行きに任せちゃってもいいのか?
『正解』が分からない。
――教えて、ヤハク○ザシュニナ(※『正解する○ド』の謎な来訪者)。
◆
成り行き任せもゲームなら楽しい――まる。




