227★最終章[28]◇再会[後]
「産むんですか?」
「うむ」
産む気まんまんだ。
『王都』に帰還し、久しぶりに会ったラウラ姫は、大きく成長していた。
……おなかが。
姫は、大食いの「食いしんぼうキャラ」で、食べ過ぎると「お腹ぽっこり」になるのだけれど……それとは違う「ぽっこり感」だ。
こちらも、ガチな「妊婦さん」なのだ。
いまは、だいたい140日目くらいらしいよ。
つまりは、『冶金の丘』の代官屋敷で「夜会」があった日の夜らしいよ。
……恐ろしいよ。『女王国』の『見届け人』システム。
そんなことまで判るなんてな……。
でも、実は惑星『アアス』の一日は、『地球』の「23時間56分4秒」よりも数時間は長い。さらに、『アアス』の公転周期「一年間」は、384日だ。
なので、俺の「17歳」も『地球』風に数えなおすと、「18歳」かそれ以上の年齢であると思われる……って、この期におよんで「逃げ」に走ってどーする?
「お元気そうで、なによりです」
「うむ。ジンは……すこし背が伸びたかな」
まぶしそうな表情で、見上げられながら言われた。
そこそこ長いこと『宇宙』の「無重量状態」にいたせいか……身長が伸びたらしいんだよな、俺。
「『七堂巡り』の護衛役。ご苦労様でした」
「うむ。我が事ながら、誇らしく思う」
猫みたいによく眠る姫が、おなかぽっこりにもかかわらず、『聖女』さま御一行の護衛役を完遂したんだから、すごい事だ。
『全知全能神神殿』の『守護の戦士の長』の「代理人」としての「お役目」とは言うものの、実は「代理の代理」を立てるのが普通で、姫のように直接同行して護衛にあたったのは、きわめてレアなんだそうだ。
なので、『神殿』はラウラ姫に対して、とても好意を寄せているらしい。
好意? 「好き」ってことだよ。俺もだよ。
「いつごろ産まれるんですか?」
「うむ。来年の『萌えの日々』と聞いている」
四月ごろだな。姫自身の「お誕生日」も、その頃だ。
「今から、楽しみではある」
「ハイ。俺もです」
完全に、産む気まんまんだ。
なんか、たのもしい限りだ。
「われらが大望でもあるゆえな」
「ハイ」
『女王国』の女王に成るためには、『三人の王女』の中で、『星』をもっとも多く獲得することの他に、「出産経験があること」という謎ルールがあるのだ。
◇
「だがしかし、本当に俺の子でいいのだろうか?」
ついつい、そんな独り言が出てしまった。
「血統的には、まったく問題ないよ」
姫の筆頭侍女のプリムローズさんだ。おひさっス。
季節がら、赤黒い光沢の侍女服が「冬服仕様」になってるな。
「むしろ、『王家』にとってはありがたいだろうね。血統がひとつになって、すっきりするし」
俺自身には、そんな自覚は無いものの……俺のママンであるスピンナさんは、源流を辿れば『王家』に行き着くという、名門貴族家の出身なのだそうだ。
で、そこん家、後継ぎがいないらしくて、ミーヨに双子が産まれたら「一匹くれ」とか言ってるらしいよ。犬や猫じゃあないんだよ。まったくもーもー。
「イヤ、そういうこっちゃなくて、『俺』という個人そのものの資質に問題があるような気がしないでもないような気がして仕方ないんですけど?」
「気にしない。気にしない。女王さまは……言わば『神輿』だからね」
俺が言うと、筆頭侍女さまは笑いながら応じた。
にしても、『前世の記憶』持ちらしい言葉のチョイスだ。意外に「お祭り」好きらしいんだよな。プリムローズさん。
そう言えば、『ハイ○クール・フリート』に登場する江戸っ子じゃないのに江戸っ子気質なちびっ子機関長が、「神輿は軽くて馬鹿がいい」とか言ってたな。何気にヒドいな。艦長のミケちゃんは、悩んで藻掻いてガンバってたよ。
でも、『はれ○ぜ』って「航洋艦」とかで、艦船の規模が小さいから、正確には「艦長」じゃないんだっけか? 広島出身じゃないのに広島弁しゃべる子が、そんなこと言ってたような気がする。で、この子、OVAではなぜか「主役に昇進」してたな……。
そんなことを考えながら黙り込んでいると、妙な激励をされた。
「心配しなくても、周囲の人間が盛り立ててくれるさ」
てか、それって、俺の「未だ見ぬ我が子」がダメな前提やん。
でも、たしかに『女王国』の女性たちは有能で、誰が女王になっても、国家体制そのものは小動もしないだろうなあ……。
◇
現在いるのは、前に一泊した『白百合の小宮殿』だ。人造湖の湖畔だ。
元々は、ラウラ姫が成人前に暮らしていた「第二子供部屋」だそうだ。
でも、他に王女様が住めるような手頃な「空き」がなく、しばらくここに居つくことになったらしい。
で、その食堂でのこと――
「この、どう見ても3人分なのはラウラ姫の?」
『○鉄城のカバネリ』では、妊婦さんが「ちまき」を2個もらってたな……。
「ご懐妊中ですからね」
「ジン様、こちらのお席にどうぞ」
第二侍女ポーニャ嬢と第五侍女アルマメロルトリア嬢だ。
「あ、俺はパンにしてくださいね」
わざわざ「パン」を指定したのは、以前の『東の円』ツアーで、ラウラ姫が「米飯」を気に入り、ちょくちょく食卓に上がるようになってたからだ。
で、『魔女の宅○便』のパン屋の「お○ノさん」も「妊婦さん」だったな。最後には、めでたく「お母さん」になってたよ。
「ジンさまは、パンだそうですよ」
「めんどくさいなあ。出されたもの食べればいいのに」
『北の帝国』から拾って来た「あの二人」もいるよ。
姫の侍女軍団とも再会したよ。みんな元気そうで何よりだ。
ちなみに、第三侍女は『癒し手』用なので、現在「空席」。
一時的に、そのポジションについていた『巫女見習い』ヒサヤは、もともと『冶金の丘』の『全能神神殿』に所属していたのだけれど、その有能さ故に、現在は『王都』の『全知全能神神殿』に移籍しているらしい。
第四侍女であるベコジッタばあちゃんは、ご高齢のため「有給休暇中」。
あと、第六侍女ミヨレッタ嬢は「産休中」だ(笑)。
でも、実は彼女も現在『王都』に「上京」して来ている。
第七侍女ドロリータ嬢は、『冶金の丘』のおじいさんのとこに戻ってるらしい。
てか、そもそも「第六」と「第七」は「偽装」だしな。
その正体は、ミーヨとドロレスちゃんだし。
『じょし○く』では、ロクでもない理由から妊婦さんを「偽装」してたな。
あと、その意図はなくとも、『SEED』では、宇宙服のおなかに元々着てた服を入れた「ラ○ス・クライン」が「妊婦さん」みたいな見た目になってたよ。
「それで『★マジカル・スペーススーツ☆』という『魔法』で……」
昼食を摂りながら、『宇宙』での事を、姫とプリムローズさんに語った。
「……むう?」
「まったく……君ってやつは」
したら、驚かれたり 呆れられたり。
『TARITA○』に、おなかが大きくなって「産休」でお休みした「高橋先生」がいたなあ……と思い出したり 懐かしかったり。
ホノカに聞いた『見える○ちゃん』にも、産休とった先生がいたらしい。
他に「妊婦さん」というと『C○PPELI○N』かな。産まれたのは双子だったな。
『とある』にも「妊婦さん」がいたな。サブキャラだったけれども。
あと思い出せるのは、『○物語!!』の剛田君のお母さんくらいかな?
産まれたのは、4200gの大きな女の赤ん坊だった。
でも、それを「ちっちぇーな」とか言ってたよ、剛田君。そして、お父さんに間違われてたよ、剛田君。
あと、「高橋先生」の赤ちゃんも「女の子」だった気がするな。
(わたしは、『高橋先生』だと『亜人ちゃんは○りたい』を思い出します)
お、カオリちゃんだ。
俺には、その作品を某アニメのスピンオフだと誤解してた記憶があるなあ。
でも、完全なオリジナル。だよね?
(そこ、『まる』は要ります?)
要るよ。
で、その高橋先生。
女生徒とハグしてたよ。……男性教師なのに。
(『巫女』や『巫女見習い』にハグはダメですよ?)
で、『聖女』さま(※中身はカオリちゃん)は、現在どこにいるんだろう?
カオリちゃんの顔も、早く見たいな。
(またまた女の子になって、鏡を見ればいいじゃないですか?)
で、「うそつき」とでも言えと?
(『♪鏡の○のLiar』ですか? ……そう言えば、ジンさん。なんでまだ刺されてないんですか?)
だから、「○たまた」じゃなくて、俺の方がシェアされてるんだってば!
◇
産まれてくるのは、「女の子」がいいな。
そんで、ラウラ姫が『女王国』の女王に即位して、さらにその子が……。
俺様の「世界征服」の野望が、また一歩現実に近づこうとしているな。
(そんなことは、させないっちゃ!)
だ、誰だ!? なんだ、その語尾は?
イヤ、誰かはすぐ分かった。
『東の円十二単王国』の女王『火巫女』さま。つまりはホノカだ。
こいつもまた『神輿』だと思うんだけどな。
どうやって担ぎ出されたんだろ? 彼の地は、「十二支」になぞらえて、十二分割されてるらしいから、「総選挙」的ななにか?
(覚悟するっちゃ! おしおきだっちゃ!)
これきっと、『うる☆やつら』の「ラ○ちゃん」だな。
で、原作は「高橋先生」だ。作品のアニメ化率がすごいよね。
前にも、色々言ってたけど観たことあるの?
オリジナル版は1980年代で、のちの時代では「謎の光」とかの表現規制がはいるような部位が、見えちゃったりするんでしょ?
(2022年に、再アニメ化されたのだっちゃ!)
そうなんだ?
そしたら、俺の「先輩」が喜んだだろうなあ。
(うちは、ジン君の『弱点』を知ってるっちゃ)
肌色いっぱいなお姉さんたちのことか?
だが、それを引っ張り出した時点で、俺の勝ちな気がするぞ(笑)。
(ジン君の世界征服の野望は、うちが阻止するっちゃ! 『アアス』の平和は、うちが守るっちゃ!)
……イヤ、「イッツ・ジョーク!」だよ?
ただの冗談だよ。そんなことはしないよ。
てか、俺に「世界征服」とか……そんなこと出来ると思う?
(思わないっちゃ)
で、○ムちゃんて「地球の平和をまもる系」のヒロインだっけ?
(元々は『地球』を侵略しようとした鬼族のインベーダーなのだべさ)
……まさかの真逆やん。
(普段から空中浮遊してっから、ホントに逆さまになる事もあったべさ)
でも、学校に行くときには、セーラー服着てるんじゃあなかった?
スカートとか……どうなるの? でも、「虎皮ビキニ」のまんまかな。
そもそもの話。
どうやって「空中浮遊」してるんだろう? 重力制御的な何か?
たしか、○ムちゃんて「電気ビリビリ」だよな?
黄色と黒の「虎皮ビキニ」って、「Yellow with Black stripes」的な意味合いの警告色になってるんやろか? てか、あのシマシマ模様の正式名称なんていうんだろ?
そんで、体内で「電気」つくれるんなら、『とある』の御坂○琴みたいに、電磁力の応用で空中浮遊してるのかも。
『みなみのわっか』でも、「電気関係」で色々あったし。
『宇宙』はタイヘンだったよ。
(ラ○ちゃんのイトコの、虎皮オムツの幼児テ○ちゃんは、アヒルのお○るみたいな超小型飛行艇に乗って、宙に浮いてたのだべさ)
『幼女○記』でも……やめとこ。
てことは、なんらかの機械的なサポートで飛んでるの?
(テ○ちゃんは速度は遅いけども、単独でも空を飛べるのだべさ)
赤ん坊が「はいはい」するくらいの速度らしい。
ホノカ曰く、「めっちゃ可愛い」らしい。
(あと、○ンちゃんは怒ると口から火を噴くのだべさ)
詳しくないけど、某「格闘ゲーム」にいた気がするな。「電気ビリビリ」と「口からファイヤー」なキャラ。謎なオーラを身にまとって、空中浮遊するキャラもいた気がする。
それと、魔法少女の付き添う小動物的なキャラの中にも、空中浮遊してるのが多いよな。アレは「魔法」なんやろか?
ここ『アアス』でも、『魔法』による「空中浮遊」が可能だけれども。
ミーヨの新領地『英知な都』への「帆船空輸作戦」も、色々あって、めっちゃタイヘンだったからなあ……。
だが、それはまた別な物語として語られる事になるであろう。
…………またかよ?
◇
てか、ホノカとも長らく会ってないよな。
遠い『東の円』にいるのだから、仕方がないけれども。
(もうじき、ジン君たちと再会出来るのだべさ)
え? どういう意味?
(表敬訪問なのだべさ。夏に『東の円』を訪問してもらったのに対する答礼なのだべさ。現在、飛行船で『女王国』に向かっている途中だべさ)
ま、「表敬訪問」なんて名ばかりで、実際には強制的な『召喚』だったけどな。
(はやく見てみたいのだべさ)
俺が『宇宙』から持ち帰った「コスモ・スーベニア」が気になって、無理矢理日程を組んで、やって来るらしい。
◇
で、すぐ翌日のことだった。
「お久しぶりに御座る。ホノカ殿」
ホノカを出迎えたのは、女王陛下の名代である第三王女ライラウラ姫殿下だ。誰からふき込まれたのか知らないけれど、言葉遣いがヘンだ。
「おなつかしゅうございます。殿下」
久しぶりに、ホノカの「実体」を肉眼で確認した。
あいかわらず、白と緋の「巫女装束」が似合う。凛とした長い黒髪の美少女って、やっぱいいなあ。そして、カシューナッツ食いたいなあ。
「お互い、知らぬ仲ではない。堅苦しいのはやめよう」
姫が気さくに言った。
実際、何度も会ってるしな、この二人。
「したら、おなか撫でてもいいべか?」
「みながそう言うな。うむ、くるしゅうないぞ」
俺は言ってない。でも、触らせてもらったけどね。
「……(なでなで)……」
ホントに撫でてるし……。
でも、どうなんだろう?
巫女さんが、妊婦さんに触れるのは……アリなんやろか?
ま、ここは異世界だしな。堅苦しいのはナシだな。神社の御守にも「安産祈願」とかあるし。アニメとコラボしてる、萌え~な神社もあるし。
「……(すっ)……」
不意に、ホノカが両手をあげた。
タクトは持ってないけれど、まるでオーケストラの指揮者みたいな仕草だ。
なんだろう?
「したら、両方の◎首の先っちょを当ててもいいべか?」
それは止めろ。
◇
ホノカオの二人と再会出来たのは、『全知全能神神殿』の中だった。
そして、そこで待っていたのは「残酷な現実」だった……。
――ホノカさん。ホノカさん。応答願います。
「…………」
何の反応もないな。こちらを見もしない。
完全に、『★伝心☆』が途切れてるな。
――カオリちゃん。カオリちゃん。
「…………」
まったく念話が繋がらない。
どうなってんだろ?
別にいま『夕焼け空の魔法停止現象』が発生してるわけじゃない。初冬の曇り空だし。
◇
おーい! もしもーし!
「「…………」」
反応無しだ。
異常だ。
もう、四打点(約6時間)以上も、『★伝心☆』がつながらない。
今日は、『地球』で言う「日曜日」にあたる『お菓子の日』ではあるけれど……そんなんじゃあないだろうし。
『アアス』の『魔法』システムに、なんらかの通信障害的なことでも発生してるんだろうか?
◇
ミーヨとは、つながってるな。
(今日? もう! 知ってるくせに!)
俺は何も言ってないのに、なんなんだ、その反応は?
ちなみに、今朝会ったときに「肉眼で確認」しといたのだ。
明るくていい色だった。山口県のガードレールみたいな色だった。……怒られるか。
◇
なんとか、ホノカに接近して、口頭で質問してみた。
「『火巫女』さま」
「……ぼそっ(なんだべか?)」
普通なら聞こえないような、小声で返された。
「……ぼそぼそ(念話。つながらないんだけど?)」
「……ぼそぼそ(とっくの昔に、時間切れで切れてるべさ)」
…………え?
イヤ、だって……ずっと『宇宙』で……話してたよ?
それで、俺、孤独じゃない。一人じゃない、って励まされて……。
そしたら……俺が念話で会話してたのは……?
まさか……俺の脳内だけの……ひとり芝居?
一人きりの「孤独」を埋めるための……幻覚?
……嘘だろ? そんな……残酷なことって……。
(なーんちゃって! うさピヨン!)
頼むよ、ウソだって言ってくれよ……。
(……だから、嘘なのだべさ。ちなみに、現在『東の円』の『宮処』は『卯の国』にあるのだべさ)
……ホントのホントにホントのホノカか?
したら、俺の知らない「未来の出来事」を教えて。
(高○神社の○木さんの巫女姿は、めっちゃ可愛いのだべさ)
そ、そんなコラボがあったのか?
(あと、文化祭では、またまた木村君がナイスアシストをきめたのだべさ)
もう、愛のキューピットやん。木村君。
じゃあ、もうひとつ訊くけど、某・漫画って完結したの?
(…………)
なんで、黙ってるの?
確かに、タイトル特定してないから答えにくいのかもだけど。
それはそれとして、どうして、俺の呼びかけに応えてくれなかったの?
不安で不安で、心が……。
(ああ、もう! いまは黙っててください! 『巫女』や『聖女』が、男性と『★伝心☆』でつながってるなんてバレたら、大スキャンダルになりますから!)
カオリちゃん? それが理由だったの?
そしたら、『宇宙』で俺と念話してたのは「俺自身」とかじゃなくて、やっぱり本物のカオリちゃんやホノカだったんだな……。
なんか……ホッとした。安堵した。
「……う、ううっ……うぐっ……ひぐっ……いぐっ……」
目に汗が入った。嗚咽ではないのだ。
「……うええんっ」
泣いてなんかないやい。
(……よしよし)
赤ん坊をあやすみたいな、やさしい思念波だ。ミーヨだ。
◇
で、その日の夜。
関係者がそろったところで、こっそり確認してみた。
場所は、『王都』の『西の街区』。
『西日が当たる地区』にある秘密のアジト『将棋愛好会』の一室だ。
「まるで、『電脳○イル』ですね」
カオリちゃんの感想だ。
ごく普通のメガネにそっくりな「装着式ディスプレイ」のせいで、みんなして「眼鏡君」と「メガネっ娘」になってるのだ。
「……メガネ……メガネ……」
ホノカが、おでこにズラして、「お約束」やってるし。
てか、それだと「おばあちゃん」だよ。
「じゃあ、入れるよ?」
「うむ」
「や、やさしくしてね」
イヤ、君ら二人とも「妊婦さん」だし……じゃなくて!
断っとくけど、「未来の記憶媒体」を「未来の再生機器」に入れたのだ。
記憶媒体の方は、『軌道リング』に存在していた「謎のガラス部屋」で発見した、某ゲームの「クリスタル」に似た石英の結晶体だ。
大きさは、「カバ○食品株式会社」の『フィンガー○ョコレート』くらいだ。
再生機器の方は、俺の知らない「未来の技術」によって製造されたスーパーマルチメディアプレーヤーだ。
きちんと事前に動作確認してある。ジャンク品ではないのだ。
『宇宙』で発見した、超大型の未来油槽船『はれるや』の船内移動用の電気自動車に搭載されていたものを、俺が「動け! 動け! 動け!」と念じながら『錬金術』で再現したものだ。俺の願いは届いたのだ。
メインメニュー画面には「△□×○」が表示されていた。
どうやら、俺も知ってる「某ゲーム機」の未来版らしいよ。
で、それぞれの「メガネ」に投影された映像は……外国の古い実写映画だった。
「……なつかしいなあ」
感嘆しているのは、プリムローズさんだったりする。
「これ、なんて映画なんスか?」
「『小さな○のメロディ』だね」
そしたら、新吹替版は、某声優さんが演じてるはずだな。
あと、『♪小さな○のうた』ならば、高○さんがカヴァーしてたな。
「心をこめて歌います」
ホノカだ。イヤ、いまは歌わなくてもいいから。
てか、それってモトネタはなんなの?
◇
「……しょんぼりだべさ。2022年冬アニメ『スロー○ープ』の第8話に「恋ちゃん」が、まったく登場しなかった時以来の失望と落胆だべさ」
つまり、大したことではないのでは?
「ジ、ジン君は知らないから、そんなことが言えるのだべさ!」
言ってません。
内心で思ったことを、読み取られてしまったのだ。
でもまあ、気持ちはわかる。「お気に」のキャラが出ない回は、テンション下がるよね?
それはそれとして、俺が『宇宙』から持ち帰った「コスモ・スーベニア」の中に、ホノカが求めていた「未来の記憶媒体」が無かったのだ。
『フィンガーチョ○レート』三袋ぶんくらいの数量は、あったのに……。
ちなみに、一袋には29個入ってるらしいよ。『フィンガーチョコ○ート』。
ホノカが、その身に宿す「黒い星」の中に「地球人ユヒ・ホノカ」の『前世の記憶』があるという事は、かつてこの惑星『アアス』にホノカの「オリジナル」が、コピペで再現されていたのは間違いのないことだろう。
だから、その時所持していた「私物」も、コピペされてるに違いない……という雑な理屈に基づいているのだけれども。
そうそう、上手くいかねえってこったよ。
……やれやれ。
「もう一回、『宇宙』に行って、探して来て欲しいのだべさ!」
面と向かって、肉声で依頼された。
「無茶言うなよ! とは言わないよ。……わかったよ。俺も観たいアニメがいっぱいあるし」
俺も肉声で応えた。
◆
だが、それはまた別な物語としては語られない(ひでぇネタバレ⑦)。




