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021◇昼すぎの決闘



 『神前決闘』が行われる『全能神神殿』は、灰色の石の列柱と、正面の石造の大階段が特徴的な、とても大きな建造物だった。


 でも、なんか「地味なお爺ちゃん」という感じで、大きさの割に目立たなかった。


 実は、何度も目にしていたけれど、『神殿』だとは気付かなかった。

 近くを通りかかると、たいてい子供の歌声がしてたので、小学校的な建物かと思ってたのだ。


 へー、これがそうだったんだ? って感じだ。


 見渡すと、王女殿下と筆頭侍女であるプリムローズさんの姿はない。


 でも、それ以外の人間はいっぱいいた。

 どこからどういう風に噂が伝わったのか、『神殿』の幅広い石造の大階段には、かなりの人数が見物に来ていて、客席のような状態になっていたのだ。


 『神殿』の前には、石畳の広場があって、そこにも人垣が出来てたけれど、その真ん中には人が居なかった。

 『決闘』のためのスペースとして、立ち入り禁止にしてあるんだろうな。


 あ、シンシアさんだ。


 広場の人垣の中に、シンシアさんを見つけた。

 えっちな言い方になるけど、ボディラインに見覚えがあったのだ。


 『巫女見習い』の「白い祭服」を着て、(りん)としている。

 お顔を隠すための白いヴェールを被ってるので、全身真っ白で、なんとなく涼し気だ。


 こちらも、美しいお姿でったので、『光眼(コウガン)』の「カメラ機能」で一枚。パシャっとな。


 人間相手の『決闘』なので、『四ツ目の怪鳥』を撃墜した必殺の「レーザー(ガン)(※面倒なので改名諦めました)」を使うわけにもいかないし……今日はずっと「カメラ」のままで行こうと思ってるのだ。


 シンシアさんは『神殿』側の立ち合い人……介添人とか言ってたっけか? そういう関係で出てきているらしく、ちょっと気軽に挨拶とかは無理そうだった。


「「「おおっ、殿下だ」」」


 ざわめきが起こり、見ると王女殿下がプリムローズさんをセコンドのように従えて現れた。


 王女殿下は、下半身の白いぴったりとしたタイツが目立つ、クラシック・バレエの王子様みたいな白と金の服装に、短かめのマントを付け、左脇に帯剣していた。わしゃわしゃとした癖のある金髪が、陽光にキラキラ輝いてる。


 こちらも、なかなか愛くるしいので、パシャっとな。


 プリムローズさんは、塔で会った時と同じ黒いドレスだった。

 たぶん、侍女の正式な服装なのかもしれない。赤い髪はアップでまとめていた。表情が険しい。自分たちが見世物みたいになってるのが、気に食わないんだろうな。


 二人は、わざわざ人の居る石段の真ん中を、かき分けて下りて来る。


「「「ぐわああっ!」」」


 押し出されて、石段の脇に転落した人がいるような気もするけど、大丈夫か?


 そして、その声はどこからともなく聞こえてきた。


「「「姫様……小っちぇーな」」」


 ま、「民衆の声」ってヤツだ。


「……(かーっ)」


 でも、遠慮のない露骨な言い方だったため、王女殿下が紅潮した。


      ◇


 『神前決闘』が行われる理由は、それぞれ様々らしいけど、王女殿下側からの申し込みによれば『王女殿下の女性としての尊厳に対して名状しがたい深刻な侮辱行為があったにもかかわらず、その加害者が無抵抗の受動的条件下の不可抗力として責任を回避し、謝罪しないこと』が理由だそうだ。うん、意味不明だ。


「では、宣誓を」


 介添人となる神官の男性と、負傷した場合の治癒者『癒し手』として控えるシンシアさんから、こまごました説明(前にシンシアさんから聴いていた話とほぼ同じだった)を受け、最後に宣誓を求められる。


「例え意に添わぬ結果になろうとも、それこそが『全能神』の御心と、裁定を受け入れる事を誓うか?」


 責任逃れ的な言いぐさだなあ。


「「誓います」」


 俺と王女殿下が唱和する。

 ここだけ切り取ると、結婚式みたいだ。


「祈願! ★刃止(はど)めっ☆」


 神官のおっちゃんが『神聖術法』で、双方の剣の刃を封じた。

 するとどうなるんだ? 「鋭い鈍器」になるのか? 意味不明だな。


「両者、中央へ」


「「…………」」



    リン、ゴ――ン! リン? ごてっ。



 『神殿』の方で、間抜けな音の鐘が鳴った。


 最後の方、なんか落下音がしたようだけど……。

 どっか老朽化してたんじゃね? なんせ『全能神』本体が長いひげの爺さん(ミーヨ談)らしいし。


 てか、これって『時告げの鐘』の「昼の二打点(午後2時くらい)」のハズだから、「お昼休み終了」の合図なのに、集まった群衆は仕事に戻る気ゼロだ。『決闘』を最後まで観戦する気満々だ。


「…………」

「…………」


 俺は、王女殿下と対峙(たいじ)する。

 王女殿下は、いつでも抜刀出来るように、すっと態勢を低くした。


 盛り上がりに欠けるので、気付かなかったけど、先刻(さっき)の鐘が開始の合図だったらしい。


 俺はこの時を待っていたので、宣言する。


「俺は男で、殿下は女性。本来戦うべきではない組み合わせゆえ、俺は無手、そして全裸で戦う!」


 渡されていた剣を投げ捨てる。


 ここで、ミーヨとこっそり行っていた「ある特訓」の成果を披露するぜ。


 右手で左肩のマントをガッと掴み、そのまま仰角5度で右手をスイング。

 この時、身体を(ひね)り、ねじれ(トーション)を使って右手の動きを加速。顔の正面辺りで、それを投げ捨てるのだ。



    ぶわさっっっ!



 これが、『旅人のマントル』の最高にカッコいい脱ぎ捨て方――


「バサッとな!」


 ――だ。


 もちろん、今の俺は全裸だ。

 あー、涼しい。


「「「「「おおおおおおおっっっ!!」」」」」


 観衆から凄まじい怒号のような喚声が上がった。

 やっぱり、女の子の黄色い歓声(※誤解)とは違うなぁ。男の野次馬多いもんな。


「……(唖然)」


 ふっふっふ。驚いてる驚いてる。


 これが俺様の「最強モード」だ。


 服を着た状態では発動が遅れる『★不可侵の被膜☆』だが、全裸ならノータイムで発動可能なのだ。


 だから、俺はこれからも全裸で戦うぜ!

 昼だろうと夜だろうとな!!(※一部に大人のジョークが混入しています)


「……(赤面)」

 王女殿下の頬が羞恥に染まる。


 この決闘の原因となった出来事が脳裏に浮かんだのかもしれない。

 俺の全裸には殿下の動揺を誘う戦術的意図もあったのだ(※ウソ)。


 俺に羞恥心?


 そんなものは、『地球』に置いて来たぜ(笑)。


「「……」」


 王女殿下の背後に控えているプリムローズさんが、呆然とした顔で俺を見つめていた。


 そのとなりにいるシンシアさんは、表情と視線の行方は白いヴェールでよく判らないけど、遠慮なく俺様の俺様を見ている気がする。イヤ、それは俺の願望かもしれないけど(笑)。


「引き締まったいいお尻。やっぱり、ジン君素敵」


 この呟きは、スウさんだろうか?

 俺の背後から聞こえて来た。なんか、マニアックなフェティシズムがぷんぷん匂います。


「ジンくーん、足閉じてないと間から見えるよおーっ!」


 ミーヨの声もする。

 なかなか観察が細かくて、的確な忠告だった。でも、それはお前の位置からだけだと思うぞ?


「「「「「…………」」」」」


 どよめきが去ると、あたりは水を打ったような静けさに包まれた。


 なんとなく、視線を感じる。


 見ると、『全知神の瞳』とか呼ばれている、丸い半目の「魔除け」だった。

 これを配置している事で「神前(しんぜん)」……「神の御前(みまえ)」って体裁らしい。


 そして、ふと気づくと、広場を取り囲む建物の窓にも、人が鈴なりだ。


 窓枠に、びっちり顔が詰まってる。

 しかも、『★遠視☆』の『魔法』を使ってるらしくて、みんなの「目がおっきく」なってる。魔法使用中のマナーなのか、そういう「仕様」なのだ。ちょっと怖いのだ。『★聞き耳☆』だと「耳がでっかく」なるし……。


「…………」

「…………」


 あれ? 攻めて来ないな。


「…………」

「…………」


 ぜんぜん来ない。


 距離をとったまま、動かない。

 完全に「受け」にまわってる……てか、「攻め」とか「受け」とか。考え過ぎか。


 そう言えば、王女殿下の得意技は『居合』って言ってたな。

 俺が王女殿下の攻撃可能範囲――「間合い」に入ったら、抜刀と一体化した斬撃が来るんだろう。


 日本人顔の黒髪の美少女シンシアさんの父君から習ったらしいけど……その人、和の肉体に和の魂が宿った稀有なケースだろうな。


「…………」


 マジで自分からは絶対にかかって来ない気か?

 完全に待つ気だ。


 しかし、それは俺も同じだ。

 斬りかかってきたところを、『★不可侵の被膜☆』で斬撃を無効化して、驚いて隙が出来たら、剣を奪い取る予定だったのに。


 ……仕方ない。挑発しよう。


 俺は左足を曲げ、右手は肩の高さ。そして左手で天を指す。


 これがッ――


夜叉(やしゃ)の構○」


 『夜叉の○え』だ(from『て○きゅう』Performanced by新庄か○え)。

 そして、そこから左手回して8時の方角を指す。


「……?」


 ダメだ。

 王女殿下は、まるで理解していない。不思議そうな顔してる。


 ――次だ。


「金○かゆい」(from『て○きゅう』Performanced by新庄○なえ)


 仕草は自粛した。

 俺の○玉は『全知神』によって一つ奪われ、一個しかない貴重品なのだ。


 それにしても、俺の失われたもう片方はどうなったんだろう?

 どっかの山脈で、牡蠣(オイスター)の炒め物にされてなきゃいいけど……。


「……?」


 ダメだ。反応しない。挑発に応じない。


 ――何故だ?


 まさかとは思うが、この異世界では『て○きゅう』が放送されてないのか(※されてません)?


 何期やってると思ってんだ?

 スピンオフ作品まであるんだぞ?


 こうなったら、文化や文明に関係なく、はっきり「挑発」と判る行為でないと……よし、アレでいくか。


 俺は、ゆっくりと腰を回し、徐々にそのスピードを上げた。

 当然、俺様の俺様も、時間差をおいて揺れ、回転し始める。


 やがて、遠心力によって回転を増したそれは、プロペラのように高速回転を始めた。


「「「「「うぉぉぉぉおおおおっっっ!!」」」」」


 物凄い喚声が上がった。


 『○宮なすのです!』と『う○かめ』は、『て○きゅう』のスピンオフ作品だ。

 だが、俺様の俺様は、どんなにグルグル振り回してもスピンオフはしないぜっっ。


 濁りない心で、良く見るがいいっっ!!


「「「「「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」」」」」


 なんか、とんでもなく盛り上がってきたよ。


 あと、気付いて貰えないと、しょんぼりだから自分でバラすけど、ずっと『て○きゅう』の「棒の部分」を隠してます(ニヤリ☆)。


 まあ、俺様の俺様は、丸出しのままで元気にハシャいでますけど、それがナニか?


 調子に乗って、俺様の俺様をグルグル振り回していると――


「あのー、いい加減にしないと、反則負けにされますよ?」


 不意に、耳元でシンシアさんの声がした。


 ぎょっ、となって横目で見ると、白いヴェールを被った清楚な『巫女見習い』の女性が、吹き矢でも飛ばすみたいに口元の前で手を丸めていた。

 離れた場所に声を飛ばす『魔法』か『神聖術法』らしい。


 なんとなくだけど、俺様の俺様を、じっと、ずっと見てたっぽい。


 そうですか、シンシアさん。

 シンシアさんも見てたんですね……。


 ……ああ、止めときゃ良かった。


「……プロペラだ」

「ああ、プロペラだ」

「プロペラ小僧だ」


「「「「「……プロペラ小僧!」」」」」


 観衆(みんな)が僕に名前をくれた……じゃない。


 変な二つ名がついた。


 ここは異世界だけど、夜空には真上(?)から見たような丸い「棒渦巻銀河」があって、それが『プロペラ星』と呼ばれているのだ。


 『前世の記憶』を取り戻した転生者が広めたらしく、発音まで完全に「プロペラ」なのだ。みんな、それを知ってるのだ。


「……ぬぬぬ。素手の相手に先に抜くのは……汚辱だが」


 お姫様が、そんな事を呟いたのが聞こえて来た。

 なんか、「素手」とか「先に抜く」とか「汚辱」とか――先日の事が……それはいいか。


「どうした、ジン・コーシュ! 私に恐れをなして近寄れぬか? 君はそれでも」


 王女殿下の方からも、挑発された。

 てか、途中で顔赤くして言葉が切れたけど、なんと言おうとしたんだろう?


 性別の確認をする必要もない全裸(注・最強モードです)の俺に向かって「挑発」とは――いい度胸だな。


「では、こちらから行きます!」

「きゃっ、しょ、正面からはダメっ」


 意外と可愛い悲鳴だった。


 俺は武道も武術も経験がないので、丸出しで……イヤ、ど素人丸出しで正面からすたすた歩いて、近づいた。


 そして、掴みかかろうと両手を上げた時、王女殿下の間合いに入ったらしい。


「はッ!」


 短い気合と共に、凄まじい一撃が襲って来た――一瞬先日の事が……それはいいか。


 俺はそれを、回避(かわ)した。

 あれ? 避けちゃった。

 予定と違う。


 イヤ、あまりにも来る(・・)のが見え見えだったので、反射的にバックステップしちゃったのだ。

 反射神経も強化されてるな、俺。


「む……やるな!」


 相手と交錯する瞬間を狙ったクロスカウンターのような一撃必殺の技が、あっさりと回避(かわ)されたために、王女殿下は驚愕していた。


「「「「「……おおおおおっ!」」」」」


 観衆のみなさんからも驚愕の声だ。


「……」


 王女殿下の剣は、日本刀っぽい騎兵刀(サーベル)だった。

 一度抜いた以上、納刀すれば戦意喪失と受け取られるからだろう、そのまま右手で剣を構えている。


「はッ! はあッ! はぁあッ!!」


 気合の入った三連撃が来た。


「ほいっ、ほいっ、ほいっと」


 俺は逸らし、(かわ)し、避けた。


「「「「「……おぉぉぉおおおおっ!」」」」」


 自分じゃピンと来ないけど、傍目(はため)から見ると凄かったらしい。


「す、すげーな。プロペラ小僧!」

「ああ……なんで、あんなにあっさり躱せるんだ、プロペラ小僧?」

「ああっ、プロペラ小僧さま。グルグルと、何と言う激しい動き」


 最後の女性は、どこ見てナニ言ってんだろ?

 てか、みんなして「プロペラ小僧」はやめろ。


「……」


 王女殿下は騎兵刀(サーベル)を両手で持ち、剣道の竹刀のように中段に構え直した。


 いわゆる「正眼(せいがん)」っていうやつかな?

 ただ、(グリップ)が片手用で短いため、左の手のひらの上に刀を握った右手を乗せる変則的な両手持ちだった。


「……」


 あの構え……ひょっとすると、「突き」を狙っているのかもしれない。


 正直やめてほしい。

 王女殿下は小柄なので、「切先(きっさき)」がちょうど俺のデリケートゾーンに向いているのだ。金○袋がキュンと縮むよ。「切先」は空を仰いでてほしいよ。


「はァッッッ!」


 ホントに「突いて」来た。

 身体(からだ)全体で踏み込んで、低い位置から切先が迫ってくる。


 俺は、それを逸らして流し、勢い余って転倒しそうになる王女殿下のマントを背後から掴んだ。


「キャン!」


 首を締めてしまったらしい……小型犬のような悲鳴がした。


 そして、そのまま彼女の軸足のカカトを、前方へ払った。


 ――結果、「崩し」に遭った王女殿下は、みごとに地面に倒された。

 柔道とか、ちゃんとやったことないのに、何気に出来てる自分スゲー。


「……」


 仰向けになって、空を見ながら呆然としている。

 俺はためらいなく、王女殿下の腹の上に乗り、マウントをとる。


「お覚悟……」

「……くッ」


 王女殿下は目を閉じた。


 ――イヤ、さすがにボコれない。


 でも、目を覚まさせる意味で、一発だけ頬っぺを軽くハタこう。

 俺は右手を振りかぶって、王女の小さな頬に振り下ろした。


「……ひッ!」



    ふにゃ。



 ――あれ?


 叩けなかった。


 王女殿下の頬をハタこうとして触れた瞬間に、俺様の無敵のバリアー『★不可侵の被膜☆』が発動してしまったらしい。


 なんとなく、王女の頬を優しく撫でてるみたいなカタチになっちゃってる。


「……」


 来るはずの衝撃が来なかったせいで、王女殿下が涙目のまま困ったように俺を見上げている。


 イヤ、俺も今、ちょっと困ってます。


 どうやって決着つければいいんだ?


 俺って『★不可侵の被膜☆』のせいで、素手では他人を殴れないらしい。


 傍目には、凄い非暴力主義者に見えることだろう……やれやれ。

 ミーヨがなんかヘマやらかしたら、罰として「お尻ぺんぺん」とかやってみたかったのに……まあ、それは今いいか。


「介添人! これは俺の勝利と思うが、如何(いか)に?」


 俺は、そばに控えているはずの介添人の神官に訊ねた。


「キスを! キスすれば貴殿の勝利です!」


 え? ナニソレ? マジで?

 てか、この声どこかで聞き覚えがある気がするけど……誰だっけ? 女の子みたいな声だ。


 でもまあ、小っちゃい子を痛めつけるのはイヤだし、このままだといつまで経っても決着がつかないから、言われた通りにしようっと。


「……(むちゅううっ)」


 俺は王女殿下にキスをした。


「…………(ふぐうううう)」


 女の子なのに鼻息荒いな、この子。


「1・2・3……」


 なるほど、テンカウントで俺の勝ちか?

 『地球』のプロ格闘技みたい。


「「「「……………」」」」


 なんか、周りの群衆から固唾を飲む気配がする。


 これって、「決まり(ルール)」なんじゃないの?

 まあ、男同士の決闘ではキツいだろうけど。


「……9・10・11」


 あれ? ちょっと長かったかな?


「……(ちゅぽんっ)」


「お兄さん、やっぱりお兄さんはあたしのお義兄さんになるんですね?」


 顔を上げると、『巫女見習い』に変装したドロレスちゃんがいた。


 道理で、さっきの声聞いたことあったはずだわ。

 姉の王女殿下と同じ、わしゃわしゃとした癖のある金髪は、白いヴェールに隠されていた。まあ、二人そっくりだもんね。いろいろマズいだろうけれども。


「――神意、明らか(なり)! 勝者、ジン・コーシュ殿!」


 こっちが、本物の「介添人」の声らしい。


「「「「「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおっっっ!!」」」」」


 地鳴りのような喚声だった。


「――プロペラ小僧だ!」

「プロペラ小僧が勝った!」

「ああっ、プロペラ小僧さまっ」


 それ、やめてください。不本意です。


「…………」


 王女殿下は、地面に大の字のまま、空を見上げて大粒の涙をこぼし続けていた。


「……初めてだったのに」


 そんな呟きが聴こえた。


 どうやら俺は、彼女の大切なものを色々と奪ってしまったらしい。


      ◆


 人生を賭けた勝負に負けても、だいたいやり直しがきくから大丈夫――まる。

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