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202★最終章[3]◇宇宙への旅立ち


 俺は一人、反り返って細長いものを右手で握った。


 そして、念じた。


掌内(しょうない)錬成。キャベンディッシュ種)



    チン!



 こ、これは……ひと回り大きく、立派に成りやがったぜ。


 皮をむいて、食べちゃお。


「……(ほむほむ)……なかなか美味いな」


 ナニをしてるかと言うと、『錬金術』だ。

 屋敷の庭で、バナナの一種「プランテン」を発見したのだ。カオリちゃんが言う事には、コレって「生食(なましょく)」には向かない加熱料理用の品種だそうだ。なので、生食が可能な我々がよく知る「バナナ」に作り変えたのだ。バナナは「リン」が豊富なのだ(笑)。


 つっても、一本一本じゃなくて、樹全体を丸ごと『錬成』しないと、「種」として根付かないだろうな。


 ま、それは戻ってからで、いいか。


 でも、「オヤツ」として何本か持って行こうっと。

 ところで、「バナナ」はオヤツに入るのか? そして、この議論は、何年前から続いてるんだ? プリムローズさんも知ってたぞ。


「じゃあ、行ってくる」


 …………。


 誰も何も答えない。


 まだ薄暗い早朝だしな。

 みんな、まだ寝てる。ZZZ……だ。


 見送られるのも、ツラいので、一人で行くよ。


「祈願! ★飛行☆」


      ◇


 白い塔の周囲を旋回飛行して、中に入れそうな部分を探す。


 某アニメの、ジェットからプロペラに切り替わる、白い複合推進機が飛んでるシーンを思い出したよ。この中には「眠り姫」はいないだろうけど。でも、あれは概念的なアレか。「実体」はすぐ傍にいたし。


「祈願! ★着地っ☆」


 とりあえず、「軌道エレベータ」の「付け根」の部分に……イヤ、それは「海底」にあるだろうな。はるか海の底から、積層されてるはずだ。


 地表面の、見かけ上の「タワーの付け根」部分に降り立った。


 しかし、めっちゃ高ええええ。


 これを……上まで、『宇宙』にまで登るのか……。

 一体、どのくらいの「高さ」なんだ?


 考えたら……最終決戦の地が「タワー」のアニメって、色々あるな。


 空飛んでて思い出したけど、『荒野のコ○ブキ飛行隊』の最終決戦の地は……「ササキタワー」だったな(※違います)。


 みんなプロペラのレシプロ機なのに、最後の最後に「F-86セイバー」みたいなジェット機が出てくるんだよな。あれがラスボスだっけ? 違うか。


 ゲームとかならば、「タワー」を上に登れば登るほど敵が強くなっていって、最後は屋上のヘリポートとか……イヤ、俺の場合、ラスボスとのバトルがあるわけじゃないんだけれども。


 でもまあ、俺にとっては「最終決戦」と言えなくもないか。


 行くぜ、『宇宙』へ。


      ◇


 ……んな、アホな。


 き、軌道エレベータなのに……「エレベータ」が無い。

 そしたら、上までどうやって登れって言うんだ? 徒歩か?


 中は……「螺旋階段」だった。

 イヤ、「段」は無い。スロープだ。斜路だ。坂道だ。


 前にカオリちゃんが言ってた『坂○のアポロン』は、昭和のアニメだ。でも、制作されたのは平成だ。俺はどっちかというと、『コ○リコ坂から』を思い出しちゃうけど。坂道を自転車で下るのは、怖いよ。『ろん○らいだぁす!』でも、言ってたよ。


 てか、「下り」じゃなくて、これから「上る」んだよ。

 ……しかも、『宇宙』まで……。


(アニメネタを連発してると言う事は、『現実逃避モード』に突入してますね?)


 カオリちゃんだ。まだまだ早朝なのに、目覚めたらしい。


 そんで、「現実逃避モード」とか。そんな事は……無くも無いけれども。


(そんなアナタに朗報です!)


 なに? なんなの?


(ジンくん?)


 ミーヨだ。

 彼女の前では、俺もヘタレなところを見せるワケにはいかないぜ。


(どうしても、一人で行くんだね?)


 おう、行って来るよ!


(気をつけてね。わたし……ずっと待ってる)


 微妙に、何かのフラグになりそうなセリフだ。


(あと、今日のは……『うすい紫色』だよ。わきの方は『ひも』になってる)


 これから、男の一人旅なのに、そんな事「報告」されてもなあ……。


(……なんの話ですか?)


 いえ、なんでもないです。


(こないだ、ジンくんから『お誕生日』に貰った『せくしーらんじぇ)


 キャー! キャー! 止めて! 言わないでえええええ!!


      ◇


 というわけで、「軌道エレベータ」の内部にある「螺旋スロープ」を、「徒歩」で上る事になりましたとさ。


(『魔法』で飛んで行けばいいじゃないですか?)


 あっさりと言ってくれる。


 こんな感じの「狭い室内空間」では、『★飛行☆』は使えないんだよ。

 言ったら、「空気を操る風系魔法」だから。


(そうなんですか? ま、現場の判断にゆだねますが……ガンバってください)


 スゴイ棒読みだ。心がこもって無いぞ!


 ――ま、ここまで来た以上、イクところまでイクしかねーか。


 でも、いちばん近い「低軌道」にある『駅』まで、『地球』風に言うと、数百㎞あるらしいよ(泣)。そう言えば、『アアス』の「長さ」の単位「なの」は、あまりにもインフレ過ぎるから、個人的にはあんまり使わなくなってるよ。


(違うな。間違っているぞ、ジン・コーシュ)


 俺が密かに敬愛するル○ーシュ様みたい。

 ちなみに、なぜ俺がル○ーシュ様を密かに敬愛しているのかと言うと……答えは「男のロマン」である「世界征服」の偉業を成し遂げたからだ(笑)。


(そこって、『基部』になってる『タワー』の中でしょう?)


 ああ、うん。


(でしたら、その『タワー』の部分は、せいぜい数百mくらいのハズですよ? その頂上部から、『宇宙』に向けてワイヤーケーブルが延びているんですから)


 なるほど、そうか。

 でも、「ワイヤー」と「ケーブル」って、直径による規格があって、ごっちゃにしちゃイケナイものなんだけどな。似て非なるものだよ。「そうめん」と「ひやむぎ」くらい違うよ。ところで、『はた○く魔王さま!』で、ひたすら食いまくってたのは……どっちだっけ?


(あ、ごめんなさい! 『朝の礼拝』があるので、一旦切ります)


 あ、ハイ。ご公務、ガンバってください。


(――――)


 念話が切れたよ。


 いよいよ一人旅か――


 にしても……このスロープ。

 ところどころ濡れてて危ないよ。坂の上の方から、「しずく」が伝ってる感じだ。踏んだら、滑って転びそうだ。


 上層の方は寒いだろうし、結露でもしてるんかな?

 しかも、その気温差のせいか……なま暖かーい風が、螺旋スロープを上に向かっているのを感じる。


 幸いなことに、「傾斜」はキツくはないから、滑って転んでも、一気に下まで転げ落ちて、最初から「やり直し」とかはなさそうだけれども。


 でも、気をつけて登ろう。

 転ぶのは、イヤだ。


 ……しかし、このゆるめの「傾斜角」。

 どういう基準で、この「角度」なんだろう?


 このせいで、直線距離で数百mであっても、螺旋状にグルグル回りながら上る事になるから、実際の「踏破距離」は、その何倍にもなるはずだな(泣)。


 これって、『アアス』の「海」から這い出た「這い上がりしもの」が活動しやすいような、「最適の角度」なんだろうか?


 てか、「這い上がりしもの」って、その「正体」はなんなんだろう?


(……嘘でしょう? まだ、気付いてないんですか?)


 え? 何を? ……てか、まだ繋がってたの?


      ◇


 一体、どれくらいの時間がかかっただろう。


 やっとのことで、『基部タワー』の「螺旋スロープ」を上りきった。

 足がガクガクしてる。太ももが痛い。足の裏も痛い。土踏まずが引き()ってる。


 螺旋の、いちばん最後の「ひと巻き」の部分には、「屋根」も「天井」も無かった。突然、途切れたように終わっていて、そのまま「外」だ。


 ああ、こうなってんのか……。


 『軌道エレベータ』そのものの構造に、ちょっとがっかりした。


 けれども、とりあえず一休みだ。

 暑いので、全裸になった。この高さだ。誰も見てないだろうし。


「アンギャアアアアァァァァァ」


 たまに『翼竜』が、全裸な俺様を見てるけど(笑)。


 でも、襲っては来ないな。近寄ろうともしない。

 ここに『軌道エレベータ』があるのを知ってる飛び方だ。ま、それならそれでスルーしよう。


 俺は最上部の「ふち」に立った。風が気持ちいい。


 およそ数百mの「高所」なだけあって、青い空が、一段と広く感じられる。


 眼下には、緑の熱帯林。

 その向こうにも、緑色の「海」が見える。


 でも、「水」固有の色は「うすい青」のはずだ。

 大量に集まるような場所や、背景が「白い」場合には、その事がはっきりと分かる。ここの海の「緑」は、何らかの「生物」の色かもしれない。


(おつかれー)


「……お、おう?」


 唐突に、ミーヨの『★伝心☆』が届いた。


(お昼、できてるよ?)


 今は、そんな時間帯か?

 持ち込んだ「バナナ」を「補給食」にしつつ、夢中で登ったからな。


「……ならばッ。召喚! ★お昼の入った樽っ☆」


 俺は、「樽」を召喚した。


 バサバサッ……と熱帯林の葉が揺れて、そこから「樽」が飛び出して来た。

 驚いたのか、バサバサッ……と、カラフルな熱帯の鳥が何羽も飛び立った。


「たーるっ。たーるっ。たーるっ!」


 ついつい妙なテンションになってしまう。


 俺はいちおう、『錬金術師』だ。

 専用の『工房(アトリエ)』は無いし、妖精さんもいないけれど。


 お菓子で……「コインチョコ」で雇えないかな、妖精さん。

 てか、そんなのがいたら、人類が衰退してそうだな。そう言えば、バナナで滑って、○○○が増えてく話があったな。『○類は衰退しました』に。


 それはそれとして、召喚したのは、帆船『クリムソルダ二世号』で使われていた食物保存用の「樽」だ。


 航海中、船内のほぼ全ての「もの」に、地道にぺたぺたと触って、『ひも付け』しておいたのだ。てか、船の建造費を出したのは、実は俺だ。なんだったら、まるごと全部『★召喚☆』出来るのだ。……イヤ、呼ばないけど。


 『宇宙』行きの「荷物」の軽量化……というか、「手ブ……「手ぶら」でも行けるように、必要な物資を必要な時に『★召喚☆』出来るようにしといたのだ。


 ただ、今のところ、限界高度が不明だ。

 『アアス』の「魔法システム」を使用可能な「魔法圏」は、どれくらいの高度にまで到達してるのだろう? 『宇宙』と呼ばれるような空間にまで、虹色の『守護の星』は進出しているはずなんだけどな。


 お、着いたか。


 キラキラした星に纏わりつかれた「樽」が、目の前にやって来た。

 と言っても、ワインとかブランデーを入れて寝かせるような、大きな「樽」じゃあない。


 山岳救助犬のセントバーナードとかの首についてるような、小型の「樽」だ。……イヤ、待てよ。『黒ひげ危機○発』くらいの大きさかな? 関係ないけど、「ファイト○発!」って個人差あると思うんだけどな。ちなみに俺は昨晩……。


「……あ!」


 両手の上に乗ったのに……アホな事考えてたら、落としてしまった。


 せっかくミーヨが用意してくれた「お昼」だ。

 このまま、地面に食わせてたまるか!


「祈願! ★飛行っっ☆」


      ◇


「祈願! ★着地っっ☆」


 フルパワーダイヴからの「空中キャッチ」に、見事成功したぜ。

 俺は再び『基部タワー』の最上部に降り立ったぜ……って、あれ?


 こんな事が可能なら……『基部タワー』の外側を、『魔法』で飛んで最上部にまで来れるんなら、半日もかけて、わざわざ「内側」を徒歩で踏破するとか……そんな必要無かったやん。完全にアホやん。


(……ぷっ……)


 この思念波は……カオリちゃんか?


(……あはははははは)


 笑うなよう!

 てか、何で最初に教えてくれなかったんだよう!


(だから、『現場の判断にゆだねます』って言ったじゃないですか)


 完全に、知ってて黙ってたな?


(これから、数万㎞を旅するんですから、ウォーミングアップだとでも思ってください。本番はこれからですよ)


 …………。


 そう言われると、何も反論出来なくなるよ。


 そこに、ミーヨがザッピングして来た。


(本番はこれから? だとすると、『うぉーみんぐあっぷ』って『前戯』って意味?)


 …………。


 間違ってるけど……かと言って、完全には否定出来ない。そんな感じ。


 でも、そういう事ならば、めっちゃ重要だな! 『うぉーみんぐハァッ!!


 ……で、でこが痛い。


(『★指でっぼう☆』です)


 どこから「狙撃」してんだよう?


      ◇◇◇


 だかしかし、きちんと『俺』として『魔法』を受けたがゆえに、「魔法コピー能力」で「ラーニング」する事が出来た。


 この『★指でっぽう☆』が、まさか『アアス』の危機を救う事になるとは……この時の俺たちは、知る(よし)も無かったのである。


      ◇


「ごちそうさまでした」


 ミーヨお手製の「お昼」は、「バナナタルト」だった。

 イヤ、バナナじゃなくて、「プランテン」だ。加熱調理用のやつだ。あんまし甘くない。やはり、本格的な「バナナ」の『錬成』は、喫緊の課題だな。一刻を争うな。


(そんなのはいいから、早く『宇宙』に旅立ってください。いつまでひっばるんですか? それと、全裸で登るのは止めてくださいよ。『★遠視☆』だと丸見えですよ?)


 カオリちゃんから怒られた。


(頑張ってください。『宇宙』が、ジンさんを待っていますよ)


 と言って、そこまで到達するのに、どれくらいかかるかまったく分からない。


 いざ来てみたら、「人間」が乗って『宇宙』にまで行けるような、機密性があって、予圧されてて空気があって、各種生命維持装置やらバストイレやらダイニングやらキッチンが付いてるような「ケージ」が無かったのだ。


 四本の「黒い線」が、まっすぐ上に延びているだけだった。


 この「黒い線」。遠目では視認不可能だった。


 CGの無い時代の「特撮」の撮影現場の動画を観た事がある。

 飛行機を飛ばすシーンで、「模型」にピアノ線を張って上から吊るす時、その「線」を黒く塗ると、見えにくくなるらしい。それと同じ事なのかしら? ふと、そんな事を思い出したよ。


 とにかく、四本の「黒い線」だ。


 それが、俺が登って来た『基部タワー』の「中心軸」から垂直に延びていた。


 ……イヤ、ここから延びてるんじゃなくて、『宇宙』空間の「静止衛星軌道」あたりで造られて、そこから下に垂らしてあるって話だった。


 そんで、この「黒い線」を保持するのが、『基部タワー』の役割だろう。

 『軌道エレベータ』の最先端部には、「カウンターウエイト」が付いてるって話だから、抑えておかないと、すっぽ抜けて、『宇宙』にまで飛んで行くんだろうか? ……イヤ、流石にそれはないか。


 内部のグルグルとした「アルキメディアン・スクリュー」みたいなカタチの「螺旋スロープ」は、『基部タワー』の「中心軸」に巻きついていた。それって、「中心軸」を補強する目的で、そんな構造になってるのかも。


 で、その「中心軸」から「黒い線」が四本。四角く並んでいる。

 両手を広げれば、触れられるくらいの間隔だ。鉄道のレールの、「狭軌(きょうき)」くらいの幅かもしれない。


 見上げると……その「先端」が見えない。

 空に吸い込まれるように、消えている。


 ホノカが言ってた事だけど……冬場、寝転んで自分に向かって降って来る雪を、ただずっと見ていると、「空を飛んでいる」ような錯覚に陥る事があるそうだ。


 ずっと「黒い線」を見てたら、目が回りそうになってきたよ。


 ――さて、どうやって登ろう?


 例えば、俺たちが乗っていた飛行船『空の浮き船』を使って、「おもし」用のバラストを全部捨てれば……。


 さらに、「飛行艇アル○トロス号」みたいに、内部の調度品やら何から何まで捨てて軽量化して、高度を上げれば……どれくらいまで上昇出来るだろう?


 ちなみに、「飛行艇アル○トロス号」が登場するのは『ル○ン三世』の「2期目」だ。……合ってるかな? この言い方。

 『死の翼○ルバトロス』というサブタイの、宮崎○監督が担当した有名な回だ。アルプスの登山者の眼前に、冷蔵庫が落ちてくるのだ。


 それはそれとして、実のところ、あの飛行船はホノカによって既に「ひも付け」されてるので、俺には『★召喚☆』出来ない。


 そう言えば……帆船に「乗り換え」した『美南海の水都』に、そのまま置きっぱなしだったよ。あの後どうなったんだろう?


(ご心配なく。ホノカが『東の円』にまで呼びつけたそうです)


 またまたカオリちゃんだ。

 これまさか、ず――っと繋がりっぱなしなのか?


(客室に珍しい物がいっぱいあったそうで、「ジン君。お土産ありがとう」って『★伝心☆』で言ってましたよ?)


 それって、俺たちの「お土産」だよ! まったくもーもー。


 こうなったら、その対価として、また全裸を……。


(何か思いました?)


 いえ、なんでもないです。


      ◇


 さて、本当に、どうやって登ろう?


 ここには、「エレベータ」の「ケージ」に相当するものが無いのだ。


 ただの「黒い線」しかない。

 これを伝って、上へ登るための……言わば「垂直ロープウェイ」みたいな「乗り物」があって(しか)るべきなのに……。


 この惑星の生物たちは、この「黒い線」を使って、どうやって『宇宙』まで往復してるんだろう?


 『ガン○ム Gのレコン○スタ』の軌道エレベータ『キャ○タル・タワー』には……あれ? あの「イモムシ」か「串団子」みたいな「四連球体」の正式名称。なんて言うんだっけ?


 行ったり来たりと「往還(おうかん)」する……あ、思い出した。あれは「王冠(クラウン)」だ。いま気付いたけど、ダジャレ……なのか?


 ま、それはそれとして、これは想定の範囲内だ。


 こんなこともあろうかと、密かに用意しておいたものがある。


「じゃーん! カーラービーナー!」


 …………。


 一人って、わびしい。自由って、さみしい。


 坂本○綾さんの名曲『モアザン○ーズ』では、「自由」って……。


(いいから、早く行きなさい!)


 グダグダやってたら、また怒られたよ。


 登山用具で、ロープに引っ掛けて使用するのが「カラビナ」だ。

 ただ、俺の『前世の記憶』には、本格的な登山経験とかが無くて、正確なカタチが思い出せなかった。


 某100円ショップでも売ってましたよ? とカオリちゃんから言われて、思いついたのが、税別200円で売ってるハリガネ製の「物干し」だった。


 その上部の「留め具」みたいな感じになってしまっている。

 こんなんで、俺の体重を支える事が出来るだろうか? イヤ、出来ない。


 ついでに言うと、100円ショップの「カラビナ」は、あくまでも「ホルダー」なので、登山用具として使うには使うには、強度が足りないそうだ。それと、ドイツ語だと「カービン(騎兵銃)」の事も「カラビナ」って言うはずなんだけどな。どう違うんやろ?


(…………)


 なんかイライラした怒りの波動が伝わってくるような……。


「よし、行くぜ!」


 俺は決意した。


 いちばん「握り心地」がいい「黒い線」を選んで、「留め具」を引っ掛けた。


 でも、そのショボさに、自分でもがっかりする。

 靴下とかを干すんじゃないんだから、高所作業の人が使うような、もっと強度がありそうな「フック」を用意しとけば良かったと後悔する。でも、それも俺は触った事も無いしな。


 とにかく、この「命綱」をくくりつけた状態で身体を保持しつつ、『★飛行☆』で可能なところまで「高度を稼ぐ」のだ。


「祈願! ★飛行っっ☆」


 思いっきり気合を入れて、俺は叫んだ。


      ◇


 ……ぐ、ぐる゛じい゛。


 ぼー、限界ば(※誤字ではありません)。


「祈願! ★解除っ☆」


 呼吸が苦しくなって、飛行魔法を停止した。

 すぐさま、ポール状の「黒い線」を両手で掴んで、しがみついた。


 そして、間髪入れずに――


「祈願! ★不可侵の被膜っ☆」


 ゆらん、とした虹色の薄膜に包まれた。


(体内錬成。呼吸器系に、酸素。酸素)


 大事な事なので、二回念じた。


    チン! チン!


 呼応したのか、二回鳴った。


「……ぷっはあ」


 やっぱ酸素は大事だ。


「見晴らし、サイコー!」


 そんな感想が、つい口から出た。

 赤道付近に、「群島」として続いてる『美南海』の島々が、たくさん見えるのだ。陽光で、緑色の海面がギラギラ光ってる。


 高さは……大して「上昇」出来てない。

 実は、「上昇限界高度」に到達して、呼吸が苦しくなったのではないのだ。


(ジンさん? どうしたんですか? そんな中途半端なところで)


 どこで見ているのか、カオリちゃんが心配そうに念話を繋いで来た。


(何か、トラブルでも?)


 そう言えば、「20体限定・加藤○等身大フィギュア」を凌ぐ、10体限定で298万円(※税別)の等身大フィギュアって……。


(そんなのはいいですから、本当にどうしたんですか?)


 あー、うん。


 実は……俺いま『旅人のマントル』着てるやん。そんで、それに「フード」付いてるやん。背中の方に垂らしてるんだけど……そのフードに風が入って、膨らんで、そのせいで首を絞められてしまって……呼吸困難に陥ってしまったんだよ。わっはっは。


(……――)


 無言で切れた。


      ◇


 さて、ここから先は、「人力」だ。


 言ったら、『宇宙』への「ロープのぼり」だ。


 引っ掛けた「カラビナ」を――


    パキン!


 あっさり壊れた。


 慌てて、両手で「黒い線」を握り直した。


「……あっぶねー」


 落っこちるとこだったよ。


 俺には、無敵のバリアー『★不可侵の被膜☆』があるから、落下しても平気だろうけれども……また下から「やり直し」ってのがイヤ過ぎる。


 やっぱ、良くは知らない「登山道具」を、適当に『錬成』してもダメだったか。


 でも、めげない。

 こんなこともあろうかと、用意しておいたものがある。


「じゃーん! 旅人のマントルううう」


 てか、いま着てるヤツだ。

 実はコレって、『空からの恐怖』のひとつに数えられる『軍団鳥』の『飛行被膜』という部位で作られていて、めちゃくちゃ丈夫なのだ。ただし、『軍団鳥』は「臭気が強い」ので、数年にわたって外気にさらして「匂いを飛ばす」必要があるそうだ。


 その端っこを、お母さんが赤ん坊を抱っこする時に使う「抱っこひも」みたいに、「黒い線」に引っ掛けて、結ぶ。もちろん、「絶対にほどけない結び方」だ。航海中、船乗りのおっさんから、何種類かの「ロープワーク」を習っておいたのだ。


 そして、両方の手でロープクライミングのように……でも、この「黒い線」は硬い。ロープのようには、たわまない。なので、どっちかというと「ポール」だな。「竿」だ。


 そのポールを握って、上へ上へと、身体を運ぶ。


 右手、左手。右手、左手。右手、左手……リズム良く、○ンポ良く。


 でも、「一挙手」で、肘から先の「長さ」しか登れない。


 疲れたら、休む。無理はしない。


 ポール状の「黒い線」に回してかけた『旅人のマントル』に、リクライニングシートに倒れ込むみたいに、体重をかける。


 その重みが、結び目で摩擦を生む。

 それを「滑り止めのストッパー」として使う。足の裏も「黒い線」に当てて、ブレーキにする。


 何回か腰をゆすって、安定したところで、おやつタイムだ。

 またまた、バナナを食うぜ(笑)。


 見上げると、先は……まだまだまだまだまだまだまだまだ長い。


 ガンバろう。


      ◇


 惑星の自転によって、『アアス』自身の「影」に入った。


 もう、「夜」だ。

 

 初日だし、我ながらガンバったよ。


 もうすでに、普通なら酸欠になりそうなくらいの「高度」だ。

 しかも、夜間だし、本来ならば「寒い」だろうな。


 でも俺は、無敵のバリアー『★不可侵の被膜☆』のお陰で、「暑さ寒さも彼岸まで」だ。使い方間違ってるな。ついでに言うと、彼岸花(ひがんばな)曼珠沙華(まんじゅしゃげ)だ。曼珠沙華は、某アニメキャラのモチーフだ。


(『悪魔の○ドル』とかですか?)


 『最○無敗の神装機竜(バハムート)』っス。でも、俺は「夜○」よりも、「フィル○ィ」の方が好きっス。おっきいんス。愛称は「フィーちゃん」っス。


(その口調。『悪魔のリ○ル』の「(はし)(にお)」みたいっスね)


 そんなキャラいるんだ? 観た事ないから……知らんけど。

 まさかとは思うけど……走りながらナニかするワケじゃないよね?


(それと、「フィー」というキャラが登場するアニメも、ありますよ)


 そうなんだ? 何て作品?


(『宇宙』に着いたら、お教えします。お楽しみに)


 予告か!


      ◆


 予告だ――まる。

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