020◇決闘前のちょっとした出来事
「あのー、ジンさん。ミーヨさん」
神秘的な白いヴェールで顔を覆った『巫女見習い』に話しかけられた。
その声で、誰なのかはすぐ分かった。
昨日、お会いした日本人顔の黒髪の美少女シンシアさんだ。
「「あ、シンシアさん!」」
俺とミーヨがハモる。
「「「こんにちは!」」」
なんか、挨拶までシンクロする。
今日はきちんと『巫女見習い』の清楚な白い服を着ている。
くるぶしまで隠れそうな長い白いローブだ。背中にある「紐の結び目」を隠すための、小さな白いマントが付属してる。木靴も白だな。
全身白づくめだけに、長い黒髪に、ハッとさせられる。
俺はなんだかんだ言って、元・日本人の『前世の記憶』持ちなのだ。
ところで彼女の豊かな胸……じゃなくて、イヤ、じゃない事もないけど……とにかく胸元の真ん中に、ぽこん、とした膨らみがある。
なんなんだろう? なんかのアクセサリかな?
ふと、ローブの下はどんななんだろう? と思っちゃイケナイ事を思ってしまう。
でも、相手は『巫女見習い』。「清き乙女」なのだ。自制しようっと。
「お二人は、パンの配達ですか?」
荷物そのものは厨房に届け終わって手ぶらなのに、そう言われた。
色々と察しのいい人みたいだ。
「そうです。お世話になってるパン工房のお婆ちゃんがここにいて」
「ああ、そうでしたか」
シンシアさんが、かるく微笑んでる……ような気がする。
……白いヴェールの奥なので、表情がよく見えないのだ。
「実は、前にも何度か、お二人のお姿をお見かけした事があるんです」
たしかに、俺たちもここで何人かの『巫女見習い』の姿を見かけていた。
その時に、見られてたのか……。俺、ちゃんとしてたかな?
でも、考えてみると、昨日めっちゃ恥ずかしいところを見られてるから……もう今更だけどな(泣)。
「声をかけてくれれば良かったのに……って、無理か」
俺の言葉を、ミーヨがつないだ。
「その頃はまだ、お互いの事知らなかったもんね」
シンシアさんとは、昨日きちんとした面識を持ったばかりなのだ。
日本人顔の黒髪の美少女なので、俺のストライクゾーンど真ん中なのだ。
出来れば、もっと早くお知り合いになりたかった……イヤ、別に出会いが遅すぎたわけではないし、『巫女見習い』は現役の間は純潔を守るために「恋愛禁止」らしいけど、将来的な展望はある。
今のうちから、色々と頑張るんだ、俺!
差し障りのない雑談をしつつ、訊いてみたら、シンシアさんは『神殿』の『癒し手』として、この『養老院』で慈善活動中……の休憩中らしい。
◇
ここは、スウさんのお婆ちゃんがいる『養老院』だ。
俺が神業じみた技能でこねこねした「柔らか白パン」を納入しに来たのだ。
スウさんによれば、「柔らか白パン」は、お年寄りや貧しい人向けの「作るのがタイヘンな割に、儲からないパン」らしい。
だったら、量産すればいいのに。金属の型に入れて焼いて「食パン」作ればいいのに。この街には、金属加工の工房がいっぱいあるし、頼めば「型」くらい作れると思うけどな。
でも、ガテン系肉体労働者の多い『冶金の丘』では、ぎっちりと身の詰まった重たいパンが好まれて、ふかふかの白パンとかは「空気を食ってるみてえだ」とか「腹持ちしねえ」とか言われるらしい。
食文化の違いってヤツだろうな。
ここじゃあ、パンが主食だもんな。
そんな事を考えていると――
「ジンさん。昨日の今日で、まだ早いかもしれませんが、姫殿下から『お断り』は来ていませんか?」
シンシアさんに、そう訊ねられた。
「いえ、特に何も。ところで『お断り』ってなんですか?」
これと言った連絡は無い。
メールも電話も『この世界』には無い。葉書をチョウチョみたいに飛ばす『魔法』はあるけれど。
「昨日、姫殿下と『決闘』の約束をされてましたけど……慣例では、通告から実際の決闘まで三日の『間』を開けるんです。その意味は、お分かりですよね?」
そもそも、『前世』でも決闘とかした事ないんですけど……まあ、多分。
「お互いに、頭を冷やして、冷静になるための時間ですか?」
「そうです。ただ、通告した側からでないと『お断り』が出来ない決まりでして……ジンさんの側からは断れないんですけどね」
シンシアさんがそんな事を言って、ちょっと憂鬱そうになる。
昨日も『決闘』の立会人になるのイヤそうだったしな。
俺も想像してみると……フツーにイヤだな。
「……心配です」
シンシアさんは、ぽつんと言った。
どうも、俺の事じゃなさそうなのが淋しい。
「ジンくんには『全知神』様の加護があるから、もう死なないよね?」
ミーヨが、さらっと怖い事を言う。
不安をまぎらわすためなのかも知れないけど。
「まあね」
心配させるのも悪いので、平静を装う。
「お二人……凄い信頼と自信ですね? 『巫女見習い』の私が疑うわけにもいかないのですが……『全知神』様の加護とは一体……?」
シンシアさんが、ちょっと考え込む。
「昨日、見せていただいたアレは……」
そんな事を言って、白いヴェール越しにもはっきりと分かるくらい真っ赤な顔になった。
一体ナニを思い出したんだろう?
「とにかく、『お断り』が届いたら、素直に受けられた方がいいですよ? それでは、私はこれで……」
シンシアさんは、動揺を隠すように、あわてて去って行った。
また、お会いしたら、いろいろ突っ込んで訊きたいな(笑)。
◇
『養老院』の厨房を手伝った帰り際の事だった。
「ジンくん。あそこの『扉』の前で椅子に座ってるお婆ちゃんって、前から居た?」
ミーヨが、お爺ちゃんお婆ちゃんの「憩いの場」になってる大広間の端に居る一人のお婆ちゃんを見ながら言った。
「さあ、どうだったっけ? 居たんじゃないのか」
適当に返事しておく。
美少女ならはっきり憶えてるだろうけど、お婆ちゃんだしな。みんな似た感じだ。
「そーだっけ? なんか変な事をぶつぶつ言ってたから、ちょっと気になるんだよね」
ミーヨは何を聞いたんだろう?
でも、お年寄りの話って長くなるからなあ。
「お年寄りって、そういうものなんじゃないの? で、何て言ってたんだ?」
「『あたしゃ、この扉の守り人さ』って」
ミーヨが、妙にしわがれた声で言った。真似てんのか?
「ふうん、金庫番かなんか?」
「知らない。でも、そう言ってた」
「ま、別にいいか。じゃあ、スウさんのとこに帰ろう」
「うんっ」
この時には、特に気にもしないで、そのまま工房に戻った。
◇
ミーヨが色々と情報収集をしてくれて、第三王女殿下がかなりのスゴ腕の剣士らしいのが分かって来た。
小さな街だけど、『冶金の丘』にも「剣術道場」みたいなものが二つ三つあって、そこにお姫様が道場破りみたいに乗り込んでいって、次々と自分よりも体の大きな相手(といってもお姫様はめっちゃ小柄だ)を倒しているらしい。
「一応、前もって見ておいた方がいいと思うんだ」
そんな事を言って、ミーヨは王女殿下が滞在しているという『全能神神殿』に「偵察」に行ってしまった。
……パンの配達があるのに。
てか、『決闘』の当事者である俺が見ないで、どうすんだ?
俺も情報収集すべく、仕事の隙を狙って『神殿』に行く事にした。
そして、パン工房を出ると――
「あのー、ジンさん」
神秘的な白いヴェールで顔を覆った『巫女見習い』に話しかけられた。
「あ、シンシアさん……じゃない。誰?」
声も違うし、なんというかボディラインが違うので、同じ『巫女見習い』の白い服を着ていても、すぐに別人と分かった。
「分かりませんか? あたしです」
「ドロレスちゃん? なんで、『巫女見習い』に化けてるの?」
「化けてるなんて、ヒドい! 人を『化物』みたいな言い方しないでください!」
珍しく、ちょっと怒ってる。
「イヤ、ごめんごめん。てか、知らないんだけど……『化物』って、人間に化けるモノなの?」
まだ、どんなのか知らないのだ。
よく聞く『ケモノ』って要は「獣」で、「天敵」とか「害獣」くらいの意味らしいし……そっちの『ケモノ』はどんななんだ?
「うーん。色々かな。卵から孵って、最初に見た物の、姿カタチをずーっと真似して生きていくモノらしいですよ。ただし、ある時まで」
「……ある時?」
「気になる異性を見つけた時に、化けの皮を脱いで、正体を現わすらしいですよ」
「……へー。それで何するの?」
「繁殖のために交尾するんです」
「……また、それかよ」
生命のいとなみ、って言われれば、それまでだけれども。
「その正体は、つるんとしたヒトガタの生き物らしいですよ」
「……そんなのが人間の中に混じってるのかと思うと……怖いよ」
「いえいえ、人間に化けるのは滅多にいないそうですよ。いても全然無害で何もしないそうです。まあ、人間型で、なんにもしないって、無害じゃない気もしますけど」
ちょっと毒がある。誰か思い当たる人でもいるのかな?
「大体は、人間以外の動物や植物に化けるらしいですよ」
「へー、そうなんだ。で、なんでそんな『巫女見習い』の恰好してるの?」
「あたし、扮装や変装が趣味なんです」
さくっと言われた。
「……へー」
コスプレ好きか……21世紀の日本にいたら、どんなコトになるのやら。
そんな事をやって店先でモタモタしていたせいで、
「ジンくーん! 私、釣りに行くから、店番代わってえ!!」
スウさんに見つかってしまった。
◇
そして、次の日。
ミーヨが、とてつもなく重要な情報を仕入れて帰って来た。
第三王女殿下が滞在してる『全能神神殿』には、大きな公衆浴場があるらしく、そこでお風呂に入ったミーヨが、そこで見て来たというのだ。
てか、情報収集で何で風呂に入る必要がある?
ミーヨが、しょんぼりと言う。
「シンシアさん……わたしよりも……おっぱい大きかった」
――とてつもなく重要な情報だった(笑)!
「そ、そっかー……(ごっくん)」
そっかー、あの黒髪の美少女と一緒にお風呂入ったのかー。いいなー。
そんで、シンシアさん、お胸も大きいのかー。
ミーヨだって、別に小さいわけじゃないのに、そんなに落ち込むほど大きかったのかー?
そう、ドロレスちゃんとのボディラインの違いは、お胸の部分なのであった。
くう~、俺も直に見たいっっ!!
……イヤ、違うだろ。
王女殿下の情報収集じゃなかったのか?
「あ、そう言えば」
ふと、思い出した。
シンシアさんから『伝説のデカい樹』の事を聞き出しておいてくれ、って頼んでおいた件は、どうなっただろう?
ちょっとくらいなら、話す時間があったと思うけどな。
「ミーヨ。シンシアさんといろいろ話しただろ? なにか聞けたか?」
俺は訊いてみた。
「ああ、うん。なんでも、お姉さんが1人と、弟さんが2人いるんだって」
「……へー?」
「それで、お父さんが獣耳奴隷だったんだけど、奴隷じゃなくなった今でも、『狼耳』つけてるんだって」
「ふうん」
「で、亡くなったお母さんが、元『巫女』さまで、そのお母さんに憧れて、自分も『巫女』になりたいって頑張ってるんだって」
「そうなんだ」
「そんだけ」
「そっかー」
「うん」
訊き出せたのは「家族構成」だけで、肝心の話はしなかったらしい……。
◇
で、結局、その日も王女殿下からの『お断り』は届かず、「頭を冷やす」ための三日間は過ぎて、俺は王女様と『神前決闘』する事になってしまった。
俺も、そのあいだに『決闘』に備えた「ある特訓」を、こっそりと行ってはいた。
「ジンくん、ホントにやるの? 恥ずかしいよう」
「応よ。で、今のはどれくらい飛んだ? さっきよりは飛んだろ?」
「でも、角度がいまひとつだった気がする。高いと真上に上がるから飛距離が出ないし。逆に、低いとズルッ、って剥けちゃう感じになるし」
「なるほど。流石はミーヨ先生。角度か? 参考になるう」
「うー……褒められても嬉しくないよう」
ナニやってたかは、まだヒ・ミ・ツ。
◇
その日は、よく晴れた『決闘』日和だった。
早朝一回目のパン焼きを終えた俺とミーヨは、スウさんに断って、『決闘』の支度を始めた。
初めての『決闘』だ。
何が必要だろう?
水筒とお弁当。あとはおやつだな。バナナはおやつの範疇か? でも『この世界』にはバナナ無いんだよな。水筒の中身はジュースでも大丈夫か? でも、炭酸はやめとこう。弁当のおかずには仕切りがないと、煮汁がはみ出るな。日持ちするように、ご飯に梅干し入れよう。あとはえーとえーと。トングとお土産入れる袋か? イヤ、犬の散歩じゃない。ウ○コの事はいいのだ。えーとえーと。
あっ、そうだ!
『決闘』だから、ミーヨにも勝負下着をつけさせよう。そうすれば、後で俺が楽しいし。
――という感じで、完全にワケが分からなくなっていた。
実は前夜、俺の『★不可侵の被膜☆』の唯一の欠点というべき、落とし穴が発覚していたのだ。
で、その時の回想……っと。
◆◇◆
「ねえ、ジンくん。これって痛い?」
ミーヨがぺったりと密着した状態から、きゅっと肌を抓った。
「い、痛い」
「昼間、シンシアさんのおっぱいの話でニヤニヤしてたよね?」
きゅうううう。
「待て! 本気で痛い。ちょっ……」
「痛いの? これってジンくんの弱点なんじゃないの?」
ミーヨの指摘は、おそらく正しいのだろう。
確かに、そこは俺の弱点だった。イヤ、間違えた……確かにそれは俺の弱点だった。
『★不可侵の被膜☆』は、動の衝撃から俺の身を守っているものなので、密着した状態から性的……もしくは静的な刺激を受けると、発動されないようなのだ。
まあ、どんな刺激でも無効化されてしまったら、えっちなことがぜんぜんきもちくないので、それはそれでナイスな仕様なのだが、これを相手に気付かれるとマズいかもしれない。
例えば、柔道の寝技みたいな状態に持ち込まれて、関節を極められたら、かなり辛い。
イヤ、骨を折られたら折られたで、『体内錬成』を利用して治せる自信があるけれど、そのあいだ無抵抗のままになってしまうし、なによりも、そういった激痛に耐えられるかどうか不安だ。
なんとなく、あっさりタップしてギブアップしてしまう自分のイメージが浮かぶ。
ヘタレな「まいったちゃん」として有名になってしまう。
ネットがない世界でよかった。
いけない。
思考がネガティヴになっている。
もっと「ポジティブシンキング」で行こう。
でも、どんなことを考えたらテンション上がるんだ? エロい事か?
我が右手にミーヨ。左手にプリムローズさん。我が右足にドロレスちゃん、左足に王女殿下。我が前方にシンシアさん、後方にスウさん。
両手両足前後に花。
「ハーレムか? ハーレムなのか?」
「『はーれむ』って何? なんかやらしいこと?」
ミーヨの勘が鋭くなってる。うん、その通りだ。
だがしかし、「小市民」の俺には、性格的にハーレムとか無理だ。
『前世』で恋愛シミュレーション・ゲームの古典名作をプレイした事があるけれど、高三の春から爆弾が連鎖的に爆発し続けて、なんか違うゲームやってる気分になったことがある。ゲームの中とはいえ、悪夢のような状況だった。
攻略人数が多いと、ややこしくなっていけない。
少ない人数の中から、わりと庶民的なポニーテールの高嶺の花の人相手の方が、ラクでいい。持って来れば良かったな、アレ。
イヤ、俺の場合は「異世界転生」であって「異世界召喚」じゃないのだ。
『地球』のモノを持ち込むとか、無理だ。
でも、それだったら『この世界』の人たちは、どうやって『地球』からやって来たんだろう?
シンシアさんのご先祖は、『ご朱印船』に乗ってたとか言っていたし。
◇
「ジンくん。この服、どう?」
ミーヨが、先日買ったタンポポ(白いタンポポもあるらしいけど、黄色いヤツだ)みたいな色の夏着を着て、目の前で、くるん、と回って見せた。
……断っておくけど、「前転」じゃないよ。
あと、側転でもないから。そんなことしたら、パンツ見えるから。
「どう?」
ミーヨはもう一度、ショーのモデルみたいにスカートを、ふわん、とさせてターンした。
あ、見えた。
しまった! 油断してた。
撮れなかった(泣)。イヤ、泣くほどじゃないか。
「似合ってるし、可愛いぞ。ただ、そのグルグル回るのは人前ではやめとけよ」
ちょっと悔しいので、他の野郎に見られないように注意しておく。
「えへへ。せっかくジンくんの『決闘』なんだから、ちょっとおめかししたくって」
そう言うけれど、『決闘』って、そういうものだっけ?
「早くしな! 『決闘』に遅れるよー!」
下の方からスウさんの声がして、ミーヨはその服で行く事になった。
俺は『旅人のマントル』を着ていく。いつものスタイルだ。
ちなみに、その下は全裸だ。いつものスタイルだ。
「あ、わたし、麦わら帽子取って来るから、先に行ってて!」
「おう」
階下に降りると、スウさんはかなり大きな「編みカゴ」に、お昼の準備をしていた。
凄い量だ。何人分用意してるんだろ?
ちなみに、今朝の朝食は「ハムカツ」だった。
元々『この世界』にも、パン粉をまぶした似たような「揚げ物」があったので、俺が『前世』で暮らしてたとこでは、勝負事がある時に「必勝祈願」の願掛けに「カツ」を食べるんだと言ったら、それをスウさんが覚えていたらしい。
『この世界』の揚げ油は『虹色豆・深緑』を搾った植物油で、ぜんぜんクセも油っこさもなくて、さくっと揚がる。
でも、新鮮なお肉が無くて、中身が「塩漬け豚腿肉」になったらしい。
みんなで、「……はむっ」と食べたよ。
「昼食後に、『全能神神殿』て約束でしたよね? 『決闘』」
『女王国』では、『時告げの鐘』の「昼の一打点(地球の12時半くらい)」が鳴った後が「昼食休み」だ。
そして、午後のお仕事開始時間は、「昼の二打点(午後2時くらい)」だ。
そのあいだ、約90分……イヤ、『この世界』風に言うと「90ツン」もある。
何というか、「昼食後」の定義が、非常にあいまいだ。
「ところで、この街の『神殿』って、どこにあるんスか?」
前もって下見しておくはずが、結局行かないでしまったので、正確な場所を知らないのだ。
「工房街の方よ。暑苦しいところ。お昼食べてたら、『決闘』に間に合わないから、どうする?」
スウさんから、その「お昼」の入ったカゴを受け取って……すこし考える。
「……そうっスね。『決闘』のあとで、『神殿』のどこかに場所を借りましょう。シンシアさんもいるでしょうから」
「やっぱり、彼女のこと、狙ってるの?」
スウさんが、ちょっと不気味な笑みを浮かべながら、日除けの薄布を被った。
そのショールからは、目元しか出てないので、すごく「怪しい女」に見える。
「ミーヨちゃんには内緒にしておくから、お姉さんに正直に言ってごらん」
「…………」
「黙ってるってことは、本命はわたし?」
「違いますよ」
「…………(しゅ――ん)」
なんか、勝手に凹んでるし。
昼食は後回しにするとして、何かしら「飲み物」だけは飲んどこうと思って、スウさんから勧められるままに、どろっとしたバナナ・オ・レみたいな物を飲んだ。
『この世界』には、バナナは無いのに……なんだろ、これ?
そんで、俺は『前世の記憶』のせいで、牛乳苦手なんだけどな……。
そう言えば、スポーツアニメの名作『ハイ○ュー!! セカンドシーズン』で女子マネの子(※当時仮入部)が飲んでたのは、『ぐるぐるバナナ』って言うバナナ・オ・レと思しき紙パック入り飲料だったな……あ、違うか『ぐんぐんバナナ』だ。
「なんかニヤニヤしてる。思い出し笑い?」
スウさんに突っ込まれた。
「ち、違いますよ」
俺が、何かのきっかけで「日本のアニメの事」を考えていると、傍からは「思い出し笑い」に見えるらしい。ま、好きだけどね、谷地さん。
それはそれとして、変な目で見られないように気を付けようっと。
「おまたせー」
やっとミーヨが現れた。
故郷の「ボコ村」に居る頃に自作したという「麦わら帽子」を頭に乗せてる。懐かしの『とんかち』の中にしまってあったらしいよ。
三つ編みに、麦わら帽子がよく似合ってるな。
可愛かったので、スナップショット的に『光眼』の「カメラ機能」で一枚撮ったよ。パシャっとな。
「じゃあ、『決闘』に行きましょうか」
「「は――い!」」
スウさんの先導に、俺とミーヨは声を合わせて返事した。
にしても、留守番いなくて大丈夫なのかな?
と思ったら――
「祈願! 今から10ツン後に ★戸締りっ☆」
スウさんが、いきなり『魔法』を使った。
てか、そんな『魔法』まであるのか?
歩きながら、謎のバナナ・オ・レについて訊いてみると、
「『虹色豆・クリーム色』よ。筋肉にとっても良いの」
スウさんは、笑顔でそう言った。
『虹色豆・クリーム色』は、大きさとか見た目が「煮豆」に使われてる「白花豆」にそっくりで、食べると何故か「節分の炒り豆」の味がする。
と言うか、7種類ある『虹色豆』って、どれも『地球』の食べ物に味が似てる気がする。
『虹色豆』は、「神授の食べ物」とされている。
つまり、『この世界』の神様『全知神』や『全能神』によって、遺伝子組み換え的な「魔改造」がほどこされているに違いない。
そう考えると、食べるのが怖い気もする。
ま、それは置くとして、さっきの飲み物は「隠れ肉体派」のスウさんが愛飲してる「プロテイン飲料」的なヤツだったらしい。
あるいは、イソフラボンで、ボンキュッボン(from『て○きゅう』4期)になるのかな?
どっちにしろ、『決闘』当日に、そんなん飲んで、効き目あるんか?
◆
次回。プロペラ小僧、爆誕――まる。




