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002◇麦畑殺人事件と女神さま的な[※改訂版※]



「『対空兵団』の『飛行歩兵』が『飛行魔法』でね」


 びっくりし過ぎて、ミーヨの言葉が頭に入って来ない。


 にしても……『対空兵団』とか。

 どことなく『進撃の○人』ぽいのは、俺が『前世』で好きで、アニメ版をずっと観てたからだと思う。


 俺の『前世の記憶』が、わざわざそれっぽく翻訳してるとしか思えないのだ。


 そんで、『飛行魔法』なんてものがあるんだ? この世界には。


 そっちは『幼○戦記』か?

 どっかの国と戦争中とか……ないよな?


 青空に浮かんでる、白い()『みなみのわっか』を見た時から、微妙に嫌な予感はしてたけれども。


 ……やっぱり、ここって『地球』じゃないんだ。


 じゃあ、なに? この麦畑?

 なんで、『地球』とは別な惑星に、ムギとかあるの?


 イヤ、そもそも……。


「それでね。空から、その薙ぎ払われた跡を見つけて、すっごい大きな、まんまるい『わっか』みたいになってた――って『王都』に報告したんだって」


 ふいに、金色の麦畑に出来た大きな「わっか」のイメージが頭に浮かんだ。


 それと――


「『王都』か……」


 ここって、どっかの「王国」の一部なんだ?


「で、いろいろ調べたらしいんだけど、結局なんなのか分からなくて、みんなで『ふしぎだなぁ』『ふしぎだねぇ』って。それで『ふしぎなわっか』って呼ばれるようになったの」

「なんだよ! その最後の方の、ぐだぐだ加減は!?」


 ついつい我慢出来なくて、突っ込みを入れてしまった。


 でも、空から見ないと判別できないほどの巨大な図形とか……まるっきり、アレだな。


 『ミステリーサークル』だな。

 場所も、まんま「麦畑」だし。


 でも、ミステリーサークルって、「人為的なイタズラ」ってことで決着してるんじゃなかったかな。


「それが、俺を殺した犯人と、どう結びつくんだ?」


 さっぱりワケが分からない。


「……(こくこくこく)……」


 ミーヨは、(のど)が渇いたらしくて、謎な赤い飲み物を飲んでいる。

 酸味が強い「ハイビスカスティー」みたいな飲み物だ。俺も、また飲みたい……けど、彼女が全部飲んじゃったみたいだ。


「でね。ジンくん。『死神』って言われて、どんな姿を想像する?」


 不意打ちのように、そんな事を()かれた。

 どう見ても「異世界」っぽいのに、『死神』なんて概念あるのか?


「うーん……ドクロ? 頭巾(ずきん)を被ってて、頭が骸骨?」


 俺は仕方なく、そう答えた。

 浮かんだイメージは、タロットカードとかの『デス』です。


「……(こくん、こくん)……」


 わかる、わかる――って感じに、ミーヨが(うなづ)いた。


「手には?」

「鎌だな。でっかい草刈り鎌」


 シックル? イヤ、「サイス」か?

 何人もいるよ。「大鎌」を武器にしてるアニメキャラ。


「それ!」


 ミーヨが、右手の親指と中指をこすり合わせた。

 つまり、指を「パチン!」と鳴らすのに失敗した。


「イヤ、待って! 見た目や持ち物が似てても、ムギ刈ってる時点で、それ『死神』じゃないだろ?」


 普通に「農家のひと」なのでは?


「『死神』が刈り取るのは、人間とか生き物の『生命(いのち)』じゃないのか?」

「でも、ジンくんは……」


 ミーヨは言いかけて、やめた。

 表情が、硬くこわばってる。


 その様子から、察した。


 たぶん、きっと。

 俺も、この麦畑で、一度死んだんだろう。


「うー……やっぱり『死神』は違うかも。うん、違う気がしてきた」


 ミーヨは考え込んだ。

 この子自身も、強い衝撃を受けて、記憶が混沌(こんとん)としてるのかもしれない。


「じゃあ、俺から訊くけど、お前が見たのって、どんなだった?」

「うん。頭巾は被ってなかった。でも手には、こ――んな感じの、黒い大鎌持ってたの」


 ミーヨは手真似で、「大鎌」のカタチを作って見せた。

 かなりデカそうだな。


「じゃあ、カオは?」

「……きれいな女の人だった」


 ちょっとしょんぼりしてるし。


「ぜんぜん違うじゃん」


 『地球』の、日本のサブカルチャー知識がある俺としては、『美少女死神』って見たことあるような気もするけども。


 ただ、俺は2000年代のアニメって、そんなには観てなくて、あんまり知らないんだよな。タイトル思い出せないよ。


 ま、それはそれとして、さらに質問してみた。


「それって、いつ頃? どんな状況で見たんだ?」

「夜中。2回目の後で、お○っこしたくなって、さすがにジンくんの目の前でするのはまだ早いから、ちょっとだけ離れたところでしようとして、裸んぼのまんまで立ち上がった時に……見た(・・)の」


 ……色々と聞き捨てならないワードもあるけれど、今はスルーしよう。


「でも、夜中なら暗かったんじゃないのか? きれいな女の人って言ってたけど、顔見えたのか?」

「あー……そのひと、光ってたの」


「……はあ?」


 ならば、それって「人間(ひと)」ではない……のでは?

 あるいは、「気」とか「魔法のバリア」とかを身にまとってたのか?


「光ってたって、どんな風に?」


 ミーヨの瞳は、深く澄んだ緑色だ。

 人間の瞳の色って、メラニン色素の量で決まってて、色素がうすい人は、光の刺激に強くないハズだな。


 俺は……浅黒い肌してるし、茶色い瞳なんじゃないかと思う。


 てか、俺はどんな「顔立ち」してるんだろう?

 自分の顔を……まだ見てないしな。


「たとえば、ピカッとピカッと?」


 ピカピカッと。……怒られるか。


「じゃなきゃ、ぼんやりとほのかに光ってた?」

「…………」


 その光景を、思い出しているらしい。


「うん。まず最初に、空から光の柱みたいなのが降りてきて……その中に立ってたの。こう……ぼわ――っと、全身あわく光りながら」


 てかもう、それって『宇宙人』とのファーストコンタクトじゃないですか?


 イヤ、違うな。


「それって、普通に『神様』的なアレじゃないのか? 出現場所が、真夜中の麦畑なのが意味不明だけど」


 ただでさえ、未知の状況で目を覚ましてるのに。

 ……もうヤだ。


「あ、心の準備はいい? ジンくん、そろそろ死んじゃうんだけど?」

「……お、おう」


 そんなこと言われてもなあ。


「でね、慌ててしゃがみこんで、隠れようとしたんだけど――そのはずみで限界が来ちゃって、その……2回目の後だったし」

「2回目の後って2回言うな。で、漏れちゃったか? おもらしか?」


「……うううっ……うん」


 ミーヨは顔を赤くして、頷いた。


 ……そうか。

 そうだったのか。


 俺の流血の痕跡(あと)の、横にあった「地面の染み」は、そういう事だったのか(笑)。


「うううっ、恥ずかしいよぉ。死んじゃうよぉ」


 ミーヨは羞恥心から悶絶している。


 でも、今のは「自爆」だよね?


「お前が死んじゃって、どうすんだ? 俺が死んじゃう話はどこに行った?」

「ううっ……でね。それがジンくんの顔の真上だったから、その……」


 まさか顔面に……奇妙な冒険を?


「……おい、ウソだろ?」

「あ、今のはウソ。いじわるするから、お返し」


「こいつぅ」

「あははは」


 ――話が進まない。


「で、その後、どうなったんだ?」


「でも、外だったし、これってセーフじゃない? パンツも汚してないし」

「…………」


 俺の『脳内言語変換システム』は、どうなってんだ?

 目の前の異世界異性が、普通に「セーフ」とか「パンツ」とか言ってるように聞こえたぞ?


「うん、セーフでいいから、話のつづき」

「え? 『せーふ』って何?」


 ミーヨが、きょとんとしてる。


 なんで通じない?


「俺の言語変換システムがぁあああああ!」

「え? なになに? どうしたの?」


 いきなり叫び出した俺に、ミーヨが慌ててる。


 異文化コミュニケーションは、かなり大変だ。


      ◇


「もういいから……早く俺を殺して。話が進まなすぎる」


 ……疲れてきたよ。眠くなってきた。


「『くっ……殺せ』ってやつ?」

「……なんで、そんなこと……知ってるんだ?」


 それ、日本人にしか分からないような、ファンタジーのネタだろ?


「犯されそうになった魔物が、女騎士に言うんでしょ?」

「逆だろ? イヤ……本当になんでそんなこと知ってるんだ?」


「……わたしのお父さん、どエムだから」


 ミーヨは、申し訳なさそうに言った。


 ……へー、そうなんだ?

 この世界にも、そういう人いるんだね。それが身内だと、大変だね。


「……じゃあ、お休み」

「あっ、寝ないで! つづき話すから――えーっと、どこまで話したっけ?」


 慌てる姿が、ちょっと可愛かった。


「お前の父ちゃんが、ど変態だ、ってとこまで」

「そんな風に言わないで! ジンくんだって、何かのきっかけで目覚めちゃうかもだよ?」


「イヤ、俺もう『前世の記憶』が目覚めちゃってるから」


 あ、いけね。


 ついつい言っちゃった。

 秘密にしといた方が、良かったかもしれないのに。


「……ふうん、そうなんだ?」


 ミーヨは、かるく受け入れてしまった。


「そんなノリ? 『前世の記憶』とかウソだろ、って疑われるとか、変人あつかいされる――とか、じゃないんだ?」

「だって、宇宙全体で、『魂』が循環してるなんて、みんな知ってる当たり前のことじゃない? フツーだよ」


 あっさりと、そう言われた。


「……普通なんだ?」


 なんだよ、隠すようなことじゃないのか?


 ここって、「輪廻転生」とか「生まれ変わり」が、当たり前の世界なのか?


「でも、俺、思い出してるんだけど、かなり、はっきり……」

「うー……それって、『一度死んじゃった』せいなんじゃないかな?」


 わりと遠慮のない発言だな。


「そうなの?」

「前に、そういう話を聞いたことがあるの。一度死んで、生き返った人は、『前世の記憶』をはっきり思い出す――って」


 ミーヨは言って、目を閉じて考え込んだ。


 俺の他にも、そんな人がいるのか……。


 でも――俺が思い出したのは『前世の記憶』というよりも、『意識』とか『人格』なのかもしれない。


 俺が、『俺』だっていう意識。


 ミーヨの『ちちびんた』……イヤ、『往復ちちびんた』で目覚める以前の人格とは、別の。


 『地球』の、『日本』という国で、生まれ育って、そして死んだ『俺』という意識。


 ミーヨは、「生まれた時からずっと一緒だった」と言ってたけれど。

 その幼馴染が、別の人格になってしまっているということ。


 それを、目の前のこの子に、伝えてしまっていいんだろうか?


 言って、いいのかな?


「あの……」

「ん?」


 ミーヨが顔を上げると、肩から髪の房が胸元に落ちた。


 目立つ「おでこ」が全開のままだったので、ずっと気づかなかったけれど「髪型」が変わってるな。

 ゆるい三つ編みを、両肩に乗せてたんだな。


 そしたら、最初に会った時に、髪をほどいてたのは「事後」だった……から?


「……髪」


 やっぱり言えない。

 ――すくなくとも、今は。


「え?」

「三つ編み可愛い」


「あ、ありがと。これ、ジンくんのお母さんが編んでくれたんだよ」


 ミーヨはにっこりと笑って、両手で三つ編みを持ち上げてみせた。


「……へー」


 俺の……母親?


 マズい。


 異世界(こっち)の母親が、どんな人なのか、まったく分からない。


 ぜんぜん知らない人と、「親子」として暮らすなんて……そんなの無理だよ。


「ジンくんて、お母さんと、わたしのお父さんとの結婚。イヤがってるじゃない? こういうのヤだった?」


 親同士の結婚? なにその新情報。


 こいつって、俺の「義妹(いもうと)」なのか!?


 ならば、「お義兄(にい)ちゃん」と呼べ!!

 てか、義妹にえっちなことしたのか? 俺って、キチクな義兄なのか?


 違うか。「イヤがってる」だから、まだ再婚はしてないのか。


「でも、わたしたちも16歳で成人(おとな)で、もう子供じゃないんだから、親の恋愛や結婚は、反対すべきじゃないと思うんだけどな」


 そんな事を、真顔で言われた。


「……ああ」


 また新情報だ。


 今の『俺』って、16歳なのか?

 この世界って……16歳で「成人」なんだ?


「じゃあ、俺の父親って、どうしてるの?」

「んー……なんていうか、風来坊(ふうらいぼう)って感じだったって聞いてる。ジンくんが産まれてすぐに、いなくなって、そのままだって」


 所在不明。生死不明か。なんだろうなあ、その人。


「お前の母親って、いないよな?」


 父親が再婚するって言うんだから……いないはずだ。


「いないよ。わたしが4歳の時の、とても寒い冬の年に……死んじゃったから」


 ミーヨは目を伏せて、奇妙な表情で自分のお腹をさすった。


「…………」


 聞いたらマズい話だったかな? 知らなかったしな。


「ま、まてよ、じゃあ――お前の父ちゃんが、ドMなら、俺の母ちゃんって、ドSなのか?」


 その場を取りつくろうつもりで、ワザとふざけて言ってみた。


「そうなの。さっきの話もね。ジンくんのお母さんが女騎士役で――」


 ……(やぶ)から蛇が出てきた。


 関係ないけど、某アニメで某惑星に取り残された「藪くん」って、あの後どうなったんだろ?


      ◇


「――そっか、今までたいへんだったんだな」


 俺は、共感を込めて頷いてやった。


「うん、ジンくんに気付かれないように、すごい気を遣ってて……ああ、話して楽になった。すっとした」


 秘密の告白を終えたミーヨは、いい笑顔だった。可愛い。


「うん、よかったよかった。でも、いい加減そろそろ、俺が真っ二つにされた話も聞きたいんだけな。お義兄(にい)ちゃんに教えてくれ」


 もう……話が()れる。逸れる。

 さすがに、親が「SM愛好家」とか、いらん情報だわ。


「なに言ってるの、ジンくん。わたしのほうが『お姉ちゃん』でしょ? 同じ日でも、わたしは朝早くに生まれたんだから!」


 ミーヨが、口を△にして言った。


 そう言われても、俺としては知らない事実なので、とぼけるしかない。


「お姉ちゃん? そうだっけ?」

「そうだよ」


 ミーヨがむくれてる。口が∧だ。


 ちなみに「△」とか「∧」のモトネタは『お○ちゃんが来た!』だ。2014年の短編アニメシリーズだ。


 それはそれとして、「同じ誕生日」とか、なんか特別なイベント起きそうだ。


 そう言えば……死んで最初に目覚めた時。

 おっぱいを丸出し(笑)にしたママさんが、三人いたな。


 てことは、あの場には「三人の赤ん坊」がいたはずだな。


 センターは『俺』。

 右隣に寝てた赤ん坊は……ミーヨだろうな。


 とすると、俺の左には……誰がいたんだろう?


      ◇


「でね、話は戻るけど――その『光る女の人』が、手に持った大鎌で、ムギを薙ぎ払い始めたの」


 いきなり凄い方向転換だ。


「き、急に話戻すなよ」

「そして、ザッザッザッ……っていうムギを鎌で刈る音が、わたしたちの方に近づいてきて……」

「怖っ」


 ホラーやん。


「ぐわっと大きな赤い口を開けて『見たなぁああああ』」

「きゃ――――っ!!」

「……とは言われなかったんだけど」

「おどかすな――っ!」


「あは……あははは……は」


 笑ってるんじゃない。


 小刻みに震えて、恐怖に怯えてる。

 何か、強烈なことを思い出してるんだろうな。


 抱きしめてやりたいけど……まだ起き上がれない。


「……ジンくん、生きててよかった」


 言って、俺の上に倒れこんで来た。


「……ううっ……うう」

「怖いんだったら、無理に話さなくてもいいんだぞ」


 背中に手を回して、抱きしめる。

 ミーヨが、気丈に話を続けた。


「で……ジンくん。真っ二つにされたの……頭から」

「縦に?」


 いわゆる「脳天唐竹割り」ってこと?

 てっきり、「首ちょんぱ」だと思ってたのに……想定外だ。


「ううん、ジンくんが寝てるところを『横薙ぎ』にされたから……うぉえっ」


 ――言ったら、「魚の二枚おろし」みたいに真っ二つ……か?


 そら、エズくわな。想像のナナメ上すぎる。


 俺、そんな死に方したのか?


「暗かった、から、はっきりは……見えなかっ、たんだけど……うぐっ」


 言葉が、切れ切れになる。辛そうだ。


「もう……話さなくて、いいから」

「でね、その『光る女の人』が、『なぜ、こんなところに人間が寝てる?』って……凄い怖い声だった」


 ミーヨの事を「人間」と呼んでる時点で、ソイツが普通の人間じゃないの確定だな。


「ごめんね、ジンくん。わた、わたし怖くて……ただ見てるだけだった」

「気にすんな」


 ミーヨの息に、酸っぱい匂いが混じってる。

 背中をさすってやる。無理はさせたくない。


「その人も、自分がやっちゃいけないことやったって分かったらしくて。『悪い悪い。あたしじゃ何も出来ないから、じじい呼ぶから待ってな』って言って、空を指さすみたいに手を上げたら、光の線みたいなの出て……そしたら、すぐに空から光の柱が降りてきて、今度は光るお爺ちゃんが現れたの」


 じじい?


「そして、なんか二人で話してたんだけど、『こうなっては、蘇生はムリじゃ』ってお爺ちゃんが言ったから。そこでハッとなって『ジンくんを返して!』って、やっと声が出て……」


 ミーヨは辛そうだ。


「無理しなくていいぞ」


「そしたら『時□は戻せんが、時◇は超えられるによって、3△ンほど戻って、この子を■ピ■してくる』って言って、パッ、と消えたの」

「え? なんだって?」


 またまた意味不明な部分があったぞ?


「そしてね。すぐにまた現れて、『コ■■出来た。今から■ース■する』って、そしたら大きな、白い光の(まゆ)みたいなものが現れて……しばらくして、それがおさまったあとに、ジンくんが元通りになって、そこにいたの」


 やっぱり、言葉の一部が理解出来ない。なんなんだ?


「でね、『肉体は転写したが、魂の転写はどうじゃろう。魂のつながりが不完全になるかもしれん。記憶が混乱するかもしれんのう』ってお爺ちゃんが」


 ――実際、その通りになってますけど?


 俺に『前世の記憶』が蘇ってたのって、なんかの「修復ミス」なの?


「それで、ジンくんが生き返って、息してるの確認して。わたし、お爺ちゃんに『全能神様、ありがとうございます』って言ったら、お爺ちゃんは『わしゃ……全能神じゃあないわい』って言ったあとで……」


 ミーヨは、熱に浮かされたように、しゃべり続ける。


 ところで……全能神?

 ミーヨは、その爺さんのことを、『神様』だと思ったわけか?


 死んだ人間を「生き返らせる」んだから、神様レベルの「何者か」なんだろうけれども……。


「なんかニヨニヨ笑いながら『それにしても眼福。眼福』って。なんだろう? って思ったらわたし裸んぼのまんまで――ジンくん、ごめんね。そのお爺ちゃんにおっぱい見られちゃった」


 なんだと、エロじじいめ!

 例え、神様だろうと許せん!


「そしたら『光る女の人』が『心配すんな、そいつ不能だから、襲ったりしないよ』って」

「不能?」


 全能神なのに、性的に不能なんスか?

 ずいぶんと露骨で下品な話ですこと。


「お爺ちゃんも、『そうじゃ、わしは賢者じゃから、おなごを襲ったりはせん』って」


 ――神様じゃなくて、賢者……なのか?


 なんか、いまいち、しっくりこないけど……本当なの?


「……」


 急に、ミーヨがかくんと項垂(うなだ)れて、黙り込んだ。


 力が抜けて、全身の重みが、俺に()し掛かってきた。


「ん? ミーヨ?」


      ☆☆


『――眠ってもらった』


 それは「声」じゃなかった。


 なにか高い圧力で、脳に直接「思念」を送り付けられている感じ。


 振り向くと、キツい目をした美形の女性が、空中に浮かんでいた。


 半透明で、何かキラキラした星を身にまとってるようにも見える。

 魂とか幽体を、「星  体(アストラル・ボディ)」って言うけれども……ダジャレ?


『あたしが先刻(さっき)この娘が話していた『死神』さ』


 これが、ミーヨの言っていた『光る女の人』だろう。

 ただし、今は、じんわりとしか光ってない。暗いところだと、眩しいくらいに光って見えるのかもしれないけれども。


「…………」


 言いたいこと、聞きたいことはあるのに……声が出せない。

 なんとなく、「存在」としての「格の違い」を感じてしまっていた。


『断っておくが、この娘の語っていたことは、本当の真実ではない』


 どういう意味?

 何か都合の悪い真実があって、それを隠蔽しているとでも?


 そんで、『死神』ならば、なんで俺を生き返らせたんだ?


『もともとは、この娘の母親の『願い』なのさ』


 あれ? 口に出してないのに……思考を読まれた?


 それと、母親の願い? ミーヨの?

 ミーヨの母親は……えーっと、いま16歳で……4引いて……12年前に、亡くなってるはずだな。


 その「故人」の……願い? どゆこと?


(いにしえ)からの契約でな。そうなってるのさ』


 そんなん言われても、この世界の歴史とか知らないし。


『そして、この娘も、あたしに頼んだんだ。もうジンくんが傷ついたり、痛みを感じたりしないようにして――ってな』


 ミーヨが、俺のために?


 ふいに、ミーヨが「謎の力」でふわりと浮いて、俺の隣りに大事そうに座らされた。


 体育座りだったので、パンツが――それはいいか。


 『光る女の人』が、地面に横になったままの俺の真上に、す――っと、やって来た。


 お互い、地面に対して水平姿勢だ。

 『光る女の人』のほうは、空中に水平に浮いてるけれども。


『…………』


 じろり、と見られた。


 なにか、俺の個人情報を読み取られてしまったような気がする。


 『前世』の、恥ずかしい「黒歴史」とかだろうか?

 もしそうならば……イヤすぎる。あの秘密だけは守りたい。


『ああ、そうか。君がそうなのか?』


 妙な感じに納得してる。


 俺が、なんだと言うのだろう?


『ならば、諸人(もろびと)の願いを、まとめて(かな)えてやろう』


 ……ハア?

 諸人(もろびと)の願い? あんた、サンタクロースかなんかか?


「ひゃううっ!」


 見えない何かに、一瞬で服を脱がされた。


 なんなん、その謎パワー?

 魔法か? あるいは何かの能力か?


『ふむ……ふむふむ。ほぉおおお?』


 ガン見された。はっきり言うと「お○んちん」をだ(笑)。


 いやぁ、そんなにじっくり見ないで!


 ――とか、ふざけてる場合じゃなかった。


 ソイツは、ロクでもない事を言い出した。


『これから、君の睾丸をひとつ摘出(とりだ)し、替わりにコレを体内に埋め込む』


 そう言って、『光る女の人』が「金色の玉」を、俺に見せた。


 えー、○玉抜いて、金○入れるの?


 てか、動物に「ICタグ」とか入れるんじゃあるまいし、「体内埋込(インプラント)」とか、やめて!


『では、いくぞ!』


「ぐっ……はぁぁぁああ……あ?」


 痛く――はなかった。


 しかし、股間にすんごい違和感が。


『ふむ、よし。それ(・・)が入っていれば、この娘の願いは叶う。では、加護を与える』


 光が、俺を覆っていく。


『★不可侵の被膜ッ☆』


 ソイツが言うと、七色のキラキラした星が、いっぱい舞い飛んだ。


 これが……『魔法』か?

 すんごい綺麗な発動エフェクトだ。ゲームみたい。


「…………」


 なにか、ぬるりとした、名状しがたい(オイル)のようなもの(笑)に、全身を包まれた感覚があった。


 ナニコレ?


 俺の困惑をよそに、


『ふふふふ。君には、ちょっと『実験』に付き合って貰うぞ』


 そいつ(・・・)は言って、満足気にニヤリと笑った。


 『実験』? なんの実験体にされたの?


『君はいずれ、もう一人の自分と出会うであろう』


 なんの予言? なんの話?


「あのー、女神様?」


『あ、あたしは女神なんかじゃないんだからネ!』


 申し訳ないけど、そこでツンデレみたいなこと言われてもな。


「じゃあ、あなた何者なんスか? ミーヨの話だと、もう一人は『賢者』とか言ってたらしいけど、さっきの金色の玉はなんなんスか? 『賢者の石』とかなんスか?」


 何故かは判らないけれど、もう、怖くはなかった。

 威圧されてるような感じも、もう無い。


 この際だから、色々と聞き出そう。


 あと、先刻(さっき)受けたセク○ラの仕返しに、胸元をガン見してやる。

 ミーヨのおっばいのカタキだ。……違うか。


 でも、さすがに女神様。

 全体に均整がとれすぎてて、まるでエロスがない。逆な意味で残念だ。


『……賢者? うん、そうしよう。アレは『賢者の()』だ』


 今ここで、かるいノリで名前を付けたっぽいぞ。


『君は『錬金術』ってヤツが使えるようになってるはずだ』


「イヤ、絶対ウソでしょう?」


 誰が信じるか、そんなん。


『試してみればよい。口に出さずとも、頭の中だけでよい。――念じよ、『錬成』と』


「いや、やめときます。疲れてるし。……てか、俺を殺したのはアナタですよね? 今回の件に関して、責任ある説明と誠意ある謝罪を……」


 てか、どうせならカッコいい『魔眼』が欲しいよ。


『魔眼? じゃあ――コレもやろう』


 またまた俺の頭の中を読んだのか?


 ――って、俺の目の中に、指を突っ込みやがった!


「……ううっ」


 右目を、ぐりぐりとかき回されてる。

 痛みがまったくないかわりに、ものすごく気持ち悪い。


『魔眼『光眼(コウガン)』を授けよう。暗いとこで光って便利だぞ? 君が失った睾丸(こうがん)のかわりだ』


 しょーもないダジャレをぶちこんでくるな!


『あと、この大鎌もくれてやろう』


 どっかから、「黒い大鎌」を出しやがった。


「俺を殺した凶器だろ、それ?」


 思わず突っ込んだ。


『バカな事を。君はいま現在、死んではいないだろう?』


 突っ込み返された。


 確かに、生きてはいるけれども――

 そんな言い方って、ないんじゃない?


『……あとは何が欲しい? 金か? ほら』


 やたらと重たい、小さな「革袋」を押し付けられた。


「この責任を……」


『いや、謝罪と賠償は行ったろう? 君も男なら、もう言うな。まー、とにかく、スマンッ! あと、なんかあったら『伝説のデカい樹』を目指すがいい! 大概の願いは叶うだろう。じゃ、バイバイキ―――ン!』


 キラキラした星を纏った光の玉が、どびゅ――ん、と飛び去っていった。

 空へ、青く澄んだ蒼穹(そうきゅう)に向けて、飛び去った。


「……そんな、ふぁふなー」


 ミーヨが言ってた『みなみのわっか』の方に消えた。


「…………逃げられた」


 にしても、「バイバイキーン」て。


 何故ゆえに「それ」を知ってる?


 そして、『伝説のデカい樹』ってなんだ? 軌道エレベータかなんかか?


 それと――


『君はいずれ、もう一人の自分と出会うであろう』


 ……その「いずれ」って、何時(いつ)なんだ?


      ◆


 キリよく100話で――まる。

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