015◇絶対に働いてはいけない日ともう一人の幼馴染
いろいろと情報収集を続けてる。
俺が『前世』を過ごしていた「太陽系」とは異なる銀河にあると思われる、この恒星系の主星は『太陽』と呼ばれていた。
いちばんでっかい金貨と同じ名前だ。
俺がいま「今世」を過ごしている、「地球」に相当するこの惑星は『この世界』と呼ばれていた。残念ながら「おっぱい星」じゃなかったのだ(※そりゃそうだ)。
耳で音だけ拾うと「アアス」と聴こえる。『地球銅貨』と同じ発音だ。
俺には自前の脳みそと『前世の記憶』で構成されてる『脳内言語変換システム』みたいなものがあるけど、そこでは『この世界』という書式が固まってしまってる気がする。
多分、俺が目覚めて以来ずっと、頭の中でこの世界の事を「この世界」と呼んでいたせいだろう。
そして『この世界』は、前にミーヨがチラッと言ってたけど、圧倒的に「海」が広い「水の惑星」らしい。
で、『太陽』の周りを『この世界』が公転して、一周すると「一年」になるわけだけど……『この世界』には『地球』の「西暦」に当たるものが無かった。
毎年、一年の終わりに『神殿』のお偉いさんたちが、その年に名前を付けるらしいのだ。
「夏の荒々しい嵐の著しき一年」とか「とても寒い冬の厄災多き一年」とか……そんなんがミーヨが『日記帳』と呼ぶ文庫本サイズのメモ帳の後ろの方に、ずらーっと並んでいて、それと照合しながら「あの事件はこの年にあった」とか「自分はこの年に生まれた」とか回顧するらしい。
正直、めんどくさいし、分からない。
なので、俺はそれを華麗にスルーしている。
理解しようと努めても、無理なものは無理なのだ。
で、それは置いといて「一年」は大きく四分割されていて、それぞれが「四分」と呼ばれていた。
たぶん、英語の「四分の一」と同じ事だろう、と思う。「冬季」「春季」「夏季」「秋季」って感じで、「季節」がきちんとあるらしい。
でもって、「四分」が三分割されて『地球』の「一ヶ月」「月」にあたるのが『○○の日々』だそうな。
さらに『日々』を四分割した8日間が『地球』の「一週間」に相当する『巡り』と呼ばれる区切りになるらしい。
なお、『○○の日々』の、○○の部分には、卑猥で淫猥な言葉ではなく、「色の名前」が入る。
おそらくは何千年か前に地球から連れてこられたであろう、この惑星の……『この世界』の人々のご先祖は、長い長い時間をかけて天体を観測し、太陽の運行を観察して、一年間のあいだに訪れる「冬至」「春分」「夏至」「秋分」を見つけ出して、「冬至」のある「日々」の次の「日々」を、便宜的に「新年の最初の日々」と設定したらしい。
一月にあたるのが「白の日々」。たぶん雪の色かな? 寒そうだ。
二月が「銀の日々」。寒さ募って氷の色かもしれない。
三月が「土の日々」。雪が解けて地面が見えるからだと思う。
土の色ってそれぞれの土地土地で違うらしいので、決まった色じゃなくてただの「土」らしい。
四月が「萌えの日々」。
まるっきり違うことを想像してしまうけど、植物の芽や若葉の事らしい。
これも決まった色がないので、こう呼ばれている。
五月が「水の日々」。
これも色じゃねーだろ! といい加減突っ込みたくなる。
春の雪解け水のことらしい。それとも雨かな? とにかく水だってさ。
で、六月以降はざっくりと、青・深緑・クリーム色・黄色・赤・こげ茶・黒――だ。
ま、「クリーム色」って何だよ? って気がしないでもないけど、何故か俺の『脳内言語変換システム』ではそう訳されてる。
そして実はこれ、『この世界』でよく食べられている『虹色豆』の色の変化に対応している。
ミーヨは「収穫する時期によって、色がいろいろ変わるんだよ」と言ってたけど、実は逆で、『虹色豆』の色の変化に合わせて、それぞれの「日々」の名前が決まっているっぽい。
聞いたら『虹色豆』は、ず――っと大昔に『巫女』が『神様』にお願いしたら「冬至」にあたる日に授けられたものらしい。
なんか、こうガリガリの「遺伝子組み換え」とか「ゲノム編集」(同じか?)的な人造……イヤ、神造の植物っぽい。
そんで『巫女』つっても、日本の「巫女さん」とはかなり違うみたいだ。
ついでに言うと、「それきっかけ」で「冬至」の日は『神授祭』という祝日になっていて、今でも『巫女』がお願いすると、神様から何かしらのプレゼントが貰える……と信じられているらしい。
クリスマスとサンタクロースみたいな感じだろうか?
なんとなく、今から楽しみだ。
でも今は初夏で、それと真逆の「一年でいちばん昼の長い日」……「夏至」だ。
日没の時間って、実際には緯度によって違うはずだから、『女王国』って『地球』でいうと、どの辺にあるんだろう? という疑問も湧くけど……俺個人の力じゃ調べようもないしな。
それはそれとして「夏至」は『女王国』では、『絶対に働いてはいけない日』と呼ばれていて、祝日になっていた。
実は今日がそうで、『冶金の丘』全体が弛緩しきっていた。
なにしろ、一年に一度の『絶対に働いてはいけない日』なのだ。
だらけないといけないのだ。
こう、だら――んと。夏場の金○袋みたいに(笑)。
なんでそんなにだらけた休み方しないといけないのか? とスウさんに訊いたら、
「だって、一年でいちばん昼の長い日だから」
と雑な感じで言われた。
そして、そうか、つまり『地球』の「夏至」と同じかあ……と気付かされたのだった。
この『絶対に働いてはいけない日』は全ての店舗が休業するので、人々はその前日に食料品やお酒の買い出しに躍起になる。
俺とミーヨがお世話になっているスウさんのパン工房も、どえらい忙しさだった。
遊びに来たドロレスちゃんは、その様子を見て、手伝わされるのが嫌なのか、
「あたし、『神殿』に行ってきます」
と言って立ち去った。
彼女は、ちょくちょく『神殿』に行ってるようだ。よく知らないけど信仰心が篤いんだろう。
俺なんて、その『全知神』さまに一度殺害されて生き返ってるので、とても拝む気にはなれない。
ミーヨから『この世界』の「聖典」らしい『神行集』とか言う文庫本くらいの本を貰ったけど……まったく読めなかったしな。『俺』に成る前の「ジンくん」は、フツーに「読み書き」は出来た子だったそうだけど……その本はまったく読めなかった。ひょっとして生理的な拒絶反応かもしれない。
とにかく、誰もお手伝いがいないまま、普段は早朝と午後の2回しか焼かないのに、その日に限ってはまったく休む暇なく5回もパンを焼いた。
『絶対に働いてはいけない日』なんて逆にいらないし、迷惑だと思えるほどの、その前日の煩雑さだった。
そう言えば、日本の大晦日の風物詩「絶対に笑ってはいけないあの番組」。
もう観れないんだなあ……しみじみ。
◇
「あれ……ジンくん、どこ行くの?」
ミーヨがベッドに横になったまま、訊いてくる。
まだ、寝ぼけまなこだ。早朝なのに、起こしてしまった。
「今日なら人もいないだろうし、ちょっと行ってこようかと思って」
俺はベッドから下りて、立ち上がる。
「んー……塔に登りたいって、本気だったんだ? わたしも行きたいけど……ごめん、疲れてる」
「昨夜はタイヘンだったもんな。いいよ、寝てて」
仕事が忙しかったという意味だ。
「うん、お休み」
「お休み」
俺はそっと扉を開けて部屋を出る。
工房の二階の部屋をつなぐ廊下は、壁のない外通路になっていた。
通路の手すりの上に右足だけで立って、明るくなりかけてる東の空を見る。
『明星金貨』の名前の由来になってる「明けの明星」が金色に輝いてる。
惑星『この世界』よりも内側の、太陽に近い軌道を回ってる惑星だろう。『地球』から見える『金星』よりも大きくて眩しい気がする。
しばらく、朝焼けの空を眺めたあとで、俺は身につけていた『旅人のマントル』をすぐ下の裏庭に放り投げる。
そして、そこから全裸で投身した。
――自分でも奇行だと思う。
でも、無敵のバリアー『★不可侵の被膜☆』は、俺の皮膚でしか発動されないから、全裸になるしかないのだ。
目算で4mくらいの高さだったろう。下は石畳だった。
身体が地面に触れると、その瞬間に『★不可侵の被膜☆』が発動し、全ての衝撃がキャンセルされる。
自分としては、衝撃――運動エネルギーが被膜それ自体の硬度に転換されるような印象を抱いている。
着地した部分の石畳も、無傷だった。
自分の想像どおりなら、石畳に何らかのダメージがあるはずなのに、それがない。
(――やっぱり仕組みがよく分からないなぁ)
俺の身体は……普通だったら打ち身や骨折でのたうち回るような行為なのに、ぜんぜん痛くも痒くもなかった。
コケタッター!
別にコケてねーよ!
『地球』のニワトリそのものの「日の出鳥」が、人を小馬鹿にしたみたいに鳴いてやがるぜ。「コケコッコー」と鳴け。
――何日か前に、暇を見つけて、こっそり街を取り囲む『濠』を泳いで越えて、森に遊びに行ったことがある。
そこで「シャクレオオカミ」とかいう『ケモノ(この場合は化け物ではなく獣だ)』の一種と遭遇した。
森の中で子供の悲鳴を聞いたような気がして、駆けつけたら、放し飼いにされてた「日の出鳥」が襲われそうになってるとこだったので助けたのだ。ちなみにさっき俺を小馬鹿にしたヤツとは違う個体だ。
シャクレオオカミは、名前の通りに下顎が突き出てはいたけれど、それ以外はただの犬みたいだった。なので『★不可侵の被膜☆』の実験のつもりで、そいつの好きなようにさせた。
さんざん噛みつかれたり、爪を立てられたりしたけど――何ともなかった。
そいつは、俺を噛みちぎれないと悟って、諦めて帰っていった。
『ケモノ』は人類の敵認定されているので、きっちり倒すべきだったかもしれないけど、戦うまでもなく、森の奥に引き返して行ったので、追いかける気にもなれなかったのだ。
その後、工房に戻ってから、ミーヨに『★消臭☆』という珍しい魔法をかけられた。
帰りも水の中を泳いだから、大丈夫だと思ったけど……臭かったらしい。
確かに、バニラを濃くしたような甘ったるい匂いが鼻の奥に残っていた。
――そんな事を思い出しながら、俺は立ち上がって『旅人のマントル』を身に着ける。
今回は、この『全裸ダイブ』を、円形広場の真ん中にある『塔』の上部から行ってみようと思う。
平日なら、広場にはたくさんの人が居て、塔からの飛び降り実験なんて不可能なので、チャンスを狙っていたのだ。
ホントは右目の『光眼』に付加した「新機能」の「実験」が最優先だけど。「それ」はかなり危険なので、街中では無理だし、見晴らしのいい塔の上で思う存分やってみたいと思っていたのだ。
俺は、『旅人のマントル』をひるがえし、塔へと駈け出した。
◇
いつもなら朝市の野菜売りでカラフルな円形広場も、さすがに今日は閑散としていた。
イヤ、閑散と言うより、完全に誰もいない。
休日の早朝の、誰もいない街なんて、久しぶりだ。
『塔』には普段なら『対空兵団』と言う名の、防空警備隊みたいな組織の一隊が、不眠不休の監視体制を敷いている……らしいんだけど、今日に限っては誰も居なかった。
さすがは、『絶対に働いてはいけない日』。
休んじゃいけない人たちまで休んでるようだ。
丸い塔の内部は、白っぽい石の段と赤っぽい硬質な煉瓦の段が交互に続いているツートーンの螺旋階段になっていた。
まるで紅白の垂れ幕を下に敷いたようなヘンな感じだ。白い方は炭酸カルシウムの塊みたいな『永遠の道』から削り取ったものに『魔法』で熱と圧力を加えて「変成」させた人造……と言うか「魔造」の大理石みたいなものらしい。そう言えばスウさんのパン工房の作業台も白い大理石みたいな一枚岩だ。同じものかもだ。
そんで、この塔って『空からの恐怖』に対する物見台だけでなく、実は「給水塔」の役目もしてるらしい。
『魔法』か何かで、水を上にくみ上げて、あとは位置エネルギーかサイフォンの原理かで、市内に水を送ってるらしい。
なので、中はひんやりとしていて、湿っぽい感じだ。
俺は毎晩のように身体強化の『身体錬成』を行って、心肺機能・骨格・筋肉・神経組織の強化に成功していた。
といっても、常人の1.5倍くらい。
そんなにハチャメチャには強くはなれなかった。
『★不可侵の被膜☆』によって、内向きに封じ込められるような制約があるせいなのかもしれない。
でも全体的に筋肉質に引き締まったようで、ミーヨにも褒められたし、スウさんにはちょくちょくお尻を触れるようになった。
あの人、女だけど痴女じゃなくて痴漢だ(笑)。
それに心肺機能の強化もあって、この塔くらいなら、息も切らさずに余裕で上まで登れるようにはなっている。
登る途中、なんとなく、赤っぽい煉瓦の段だけを踏みたくなって、二段飛ばしで階段を駆け登る。
階段が切れて、光が見えた。
念のため、ちょっと顔を出して誰もいないか確認する。
予想通り、そこに無人のようだった。
階段を登りきると、広いフロアになっていて、四囲を見張るため、柱以外の遮蔽物はない。
たぶん、ここ冬場も吹きっさらしなんだろう。寒そうだ。
普段はここに『対空兵団』の駐屯兵が詰めてるらしいけど……今日はお休みだ。
真ん中には、もう一段上のフロアにある大きな鐘を鳴らすための太い引き縄とハシゴがある。
なんか『魔法』で動く「対空速射砲」みたいなのがあるって話を聞いてたけど……見当たらない。今日はお休みだから、イタズラ防止のために撤去してあるのかもしれないけれども。
どこかで、ちょろちょろと水音もする。
でも、水を吸い上げるための動力らしきものは見当たらない。やっぱ『魔法』なのか?
てか、街の水源なんだから、こんな雑な管理でいいのかな?
ぜんぜん誰とも会わずに上まで来ちゃったよ。
◇
何気なく、『丘』の方を見ると、一人の少女が空中に浮かんでいた。
彼女もまた『丘』の方を見ているらしい。こちらに背中を向けて、俺には気付いていないようだった。
豊かに波打つ長い赤毛が、風に揺れて、朝日を浴びて、煌めいている。
羽があったら妖精だと思ったろう。
後ろ姿は、ほっそりした子だった。
『魔法』で空気を操って空中浮遊しているらしい。
普段はこの塔にいるはずの『対空兵団』の『飛行歩兵』は、空を自由に飛べるらしいけど、俺はまだ見た事がない――
――なので、人が空飛んでるのを、初めて見た。
ちょっとびっくり。
赤毛の魔女なら、対戦車ライフルに乗って空飛んで欲しい気もするけれども。
(――下手に声かけたら、落っこちるとかないよな?)
つい黙って見てるだけになってしまう。
「場所はあそこか……目立つ建物ね。後で何の建物か確認しないと」
風に乗って、彼女の呟きが聴こえてくる。
「……ここって丘と街と濠とで、まるで日本の『前方後円墳』みたい。誰かが意図的に……それはないか」
少女はそう言うと、唐突に空中でターンして、こちらを向いた。
「「……」」
目が合った。
「…………」
赤みの混じった水色の瞳は紫に輝いて、なにかの宝石みたいだった。
意志の強そうな赤い眉。厚めの柔らかそうな赤い唇が何か言いたそうに少し開いている。
黒く飾り気のない禁欲的な雰囲気のドレスが華奢な身体を包んでいる。
足元は白くて短い靴下と黒い革靴。
そんなものまで見えたのは、もちろん宙に浮いてるからだ。
その子はじっくりと俺の顔を確認すると、懐かしそうに、人を小馬鹿にしたような声でこう言った。
「やあ、ジン。久しぶり」
「…………」
見覚えがないのに、俺の事を知ってる。
ミーヨが前に言ってた俺たちの幼馴染の『プリちゃん』ってこの子の事だろう。
面倒くさいことになるかも……だ。
「そこに行くわ。退いてて」
言って、浮いたまま塔の内部に入って来た。
ブォォォオオオオ――
風の唸る音がして、途端に周囲に猛烈な風が吹き乱れる。
たぶん、自分自身と同じ質量の空気を下方に吹きつけていたんだろう。ヘリコプターのホバリングみたいに。
床に叩きつけられた空気が上に跳ね返って……ぶわっ、と黒いドレスのスカートがめくれ上がった。
予想通り。
お約束の展開だった。
(右目・連写)
パシャパシャパシャパシャパシャ!
よし、貰った!
撮ったど―――――――――っ!!
今日のこの日が来る事を想定して、『光眼』の「カメラ機能」に「連写モード」を開発しておいて本当に良かった!
ぐへへへ。
偶発的なラッキースケベ・イベントだから、俺は悪くないよ……たぶん。
俺の脳内データだから、他の人に拡散しようがないし。
とにかく、いただきました! ゴチっス。
「くッ、いま見たよね?」
いえ、撮りました(笑)。
「……ぐぬぬぬ」
恥ずかしさというよりも、自分の迂闊さに腹を立てているようだった。
俺の方に、つかつかと詰め寄って来る。
「ねえ、なんか言いなよ。ジンなんでしょ?」
「すごいね、空飛んでた。人が空飛んでるの、初めて見た」
俺も飛びたい。
「初めて? そうなの? ……別に、大したことじゃないわ。『対空兵団』にならいくらでもいるし」
スカートの裾を直しながら、無表情に少女は言った。
「ホンモノの『飛行歩兵』なら、それこそ御伽噺の妖精みたいに空を飛ぶしね」
そーなんだ? まだ見た事無いしな。
「プリちゃん……だよな?」
愛称だとは思うけど、ミーヨから、この子の正確な名前は聞いてなかったしな。
「子供っぽいから、それ止めて。今はプリムローズと呼ばれてるから、そう呼んで」
紫と水色の混じったみたいな瞳で見つめられながら、名を告げられる。
この子の虹彩から想起させられるのは、アレキサンドライトという希少な宝石だった。あれって、レアで高価いんだよな?
ところで、プリムローズ?
「それって、地球の花の名前だよね、何の花だっけ? あと、なんで『日本の前方後円墳』なんて言葉知ってるの?」
ふしぎに思った事を、そのまま直球で訊いてみる。
俺は、駆け引きとか苦手なのだ。
「ん? あんたこそ……そうか。つまり、あなたもそうなのね」
少女――プリムローズさんは、俺の顔をじーっと睨んだ。
不思議な紫色の瞳で、真実を正確に察したらしい。
てか、『あなたも』と言うからには、自分も元・日本人の生まれ変わりだと言ってるようなものだ。
――そして思い当たった。
ミーヨが鼻唄で歌っていた「スコットランド民謡」や「○立のCMソング」は、きっとこの子から教わったんだろう。そうに違いない。
「あなた、ジンの姿をした何者? 名乗りなさい」
口調が一段とキツくなる。完全に詰問されてる。
「俺はジンだよ。それ以外の何者でもない」
たとえ『前世の記憶』があったとしても、今ここで生きている俺は、ミーヨの「ジンくん」なのだ。
イヤ、正直に言うと、『前世』の自分を……思い出せない。
思い出したく、ないのかもしれないけれども。
「じゃあ、あなたの母の名は?」
そんな事を訊かれても……知らないな。よく考えたら。
「知らない。俺『この世界』で目覚めてから、そんなに経ってないんだ」
正直に、そう言うしかなかった。
「目覚めた? ああ、『前世の記憶』が蘇ったって意味ね? それは、いつだったの?」
言葉遣いが、すこし和らいだ。
同情されてるのかも知れない。
「水の魚の日……って分かりますか?」
ミーヨからは、そう教えてもらってるけど。
「『水の日々』の『お魚の日』? 最後の『巡り』ね。じゃあ『三巡り』……24日くらいね。まあ、日が浅いと言えば、浅いけれど」
彼女は言って、少し考え込む。
「でも、つい最近あなたがミーヨと一緒に、この広場に居たところを見かけたことがあるのだけれど?」
ミーヨが、この子を見たって言ってたけど……俺と一緒に居た時だったのか?
でもって、この子からも、俺たちは見られていたのか。
「あの子を騙して連れ回してるの? 言いなさい」
なんか偉そうに上から来る。ちょっと腹立つな。
「ミーヨは全部知ってる。魂が同じなら、前世の人格になってても、それはジンくんだから――って」
俺が言うと、ぴりぴりしていた警戒感が消えた。
「……そうなんだ」
何かを諦めたように、そっぽを向いた。
その時だった。
なぜか広角ワイドになってしまった右目の『光眼』の視界の隅に、何かがちらついた。
あれ? なんだあれ。
「ところで、プリムローズさん」
「なに?」
「あそこ見て、なんか飛んで来る」
俺が朝日の方を指さすと、彼女もそちらを見た。
大きな鳥のようなシルエットだった。
「……ぼそぼそ(……ああ、やっちゃった! 朝方に『飛行魔法』を使うと、呼び寄せちゃうってホントだったのね)」
プリムローズさんが、何やらブツブツ言ってる。
「――あれは『空からの恐怖』よ! ジン! 警鐘鳴らして!!」
何かを誤魔化すみたいに、彼女がそう叫んだ。
◆
幼馴染が二人って、それほどいいものでもないと思う――△




