139◆『選挙』直前
いよいよ『巫女選挙』の開幕も近い。
みんな揃って、第2控室で開始待ちだ。
開始直前のバックステージの、ピリピリした緊張感がある。
みんな、既に着替えは済ませてある。
『お披露目会』に備えて、頭部を『巫女見習い』の標準装備『虫蚋除け』で覆い隠し、その下は『夏の旅人のマントル』で全身を隠している。
さらにその内部には、白いツーピース水着『全知神の三角』を着用している。
そのバックスタイルは完全に『地球』の「Tバック」なので、お尻が丸見えだ。
実は「お披露目」とは、お顔とお尻を、人前に明らかにするって事なのだ。
建前としては、『この世界』で『奴隷の印』と誤解されている「蒙古斑」が、お尻についてないのを人前で証明するため……って事になってるけれど、10代半ばにもなって、そんなもの残ってるハズねーだろ? 発案者誰だよ? 出てこい! 褒めてつかわすぞよ。
「……(じ――っ)」
ある人に、睨まれてる。
……ち、違うんです。説明なんです。
俺は、みんなの「お着替えシーン」は見れなかった。
『おトイレ』で色々とバカな事をやってるあいだに、すっかり終わってしまっていたのだ。がっかりだ(泣)。
なので、俺は腹立ちまぎれに、ナニも包み隠さず、大胆に豪快に着替えてやったぜ。みんな唖然とした顔で見てたぜ(笑)。
でも、元『七人の巫女』のロザリンダ嬢が手作り……じゃないな。『魔法』で作成してくれた『全知神の三角』を着用後、とある部位に違和感がハンパ無い。
なにやら、ずーっとムズムズしてる。
俺は思念で呼びかける。
(カオリちゃん。カオリちゃん)
(なんですか? ヨハンナさん)
(お尻の間に何か挟まってるような気がして仕方ないんだけど、見てくれる?)
(『何か』じゃなくて、水着の紐ですよ。Tバックなんですから、外せませんよ)
あ、そうだ。「外せません」と言えば……いったんは「グレイゾーン判定」で、俺の『黒幕』から外されたカオリちゃんだけど、俺が「『巫女選挙』に出ないかんね!」とゴネにゴネて、正式に『黒幕』として認められた。
ハイ、その時の回想。
◆◇◆
「やだい! やだい! 『黒幕』がオリカ・テレコちゃん(※カオリちゃんの偽名)じゃなきゃ、やだい!!」
俺はゴネた。
「「「「「……」」」」」
床に寝転がって手足をバタつかせながら暴れ、「駄々」をこねる『巫女見習い』ヨハンナ(中身は俺)を『神官女長』を初めとする面々が、困り果てたように見下ろしていた。
「カオリちゃん(※言い間違えました)が『黒幕』じゃないんなら、『巫女選挙』出ないかんね! もう、知らないかんね!」
『第二次ポエニ戦争』でローマ軍が、ハンニバル率いるカルタゴ軍に「包囲殲滅」されたのは『カンネー(カンナエ)の戦い』だ。ちなみに某アニメには触れないよ。ネタバレになるからね。
そして俺は今『巫女選挙』関係者に取り囲まれて包囲されてるが、決して殲滅はされないぜっっ。
「「「「「……」」」」」
と言っても、ただの「駄々っ子」だけでは、シスコンの眼鏡のお兄ちゃんとか、シスターズのゴーグルのお姉ちゃんにだって、要求なんて通らないだろうな。特に同性相手だと逆効果になるんだっけか?
ならば、もう一手。
「先日の『ご光臨』の折に、『全知神』さまから『器ちがい』で生まれた人のために」
俺が言いかけると、
「そ、そんな『お告げ』があったのですか?」
『神官女長』が釣られたよ。
「……」
俺は黙った。
もちろん、意図があっての沈黙だ。
カオリちゃんから聞いて知った事だけれど……「魂の循環」や「輪廻転生」が信じられている『この世界』では、魂の性別と肉体の性別が食い違って誕生してしまう人がいて、そう言った人たちを『器ちがい』と呼ぶそうな。
さらに言うと、『神殿』関係者の方々は、『ご光臨』だの『お告げ』だのと言うワードに過剰反応するのだ。ついつい、からかいたくなってしまうのだ。
「おっしゃいなさい。そんな『お告げ』があったのですかっ?」
「……いえ、他言すべき事ではありませんでした。申し訳ございませんでした、皆様」
そんな『お告げ』があったかどうか? については明言を避けつつ、俺は「駄々をこねる●(固体)餓鬼モード」から脱却して、きちんと立ち上がり、冷静に丁寧に謝罪した。
「「「「「……(唖然)」」」」」
俺の豹変ぶりに、砂肝……イヤ、度肝を抜かれたみたいだ。
ギャップが大きいほど、効果的なのだ。こう言うのは。
「……ああ、『全知神』さま。御○は○坂は……じゃなくて、御心に適わず……」
大袈裟に嘆くフリをしてみました。どうでしょう?
「お、お待ちなさい!」
『神官女長』が慌てふためいてる。
「「「「「……(ぼそぼそ)」」」」」
ただいま『神官女』同士がまとまって、協議中だ。
いつだったかみんなに言われたみたいに、どんどん詐欺師っぽくなってるな、俺。
でも、俺の事を「実験体」呼ばわりした『全知神』さまの御心に適ってるだろ。
俺の右目の『光眼』を通じて、モニタリングしてるに違いないだろうし。
「「「「「……(ぼそぼそ)」」」」」
まだ協議中だ。
そう言えば、あの「打ち止め」の子って何番だっけ?
あとで、知ってそうな「00003」のカオリちゃんに訊いてみようっと。
てか、それでいくと……俺って「00002」なのかも?
「「「「「……(ぼそぼそ)」」」」」
早よしてや。
くるり、と『神官女長』が振り返って、
「特例として、きょ、許可しまプ」
噛んだ。
結果、宿泊場所を分ける事で許可された。
正義は勝つのだ!
……ただ、ひとつ条件をつけられた。
新人ちゃんの「教育係」だ。
◇
「ハンナと申します。何分、右も左も分からない若輩ですが、よろしくご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いいたします」
今日『巫女見習い』になったばかりだという、ハンナ嬢だ。
俺の後ろに並んで、「巫女選挙立候補者名簿」に記名してた子だ。
「『巫女見習い』ヨハンナ。貴女は先任なのですから、この子を善き道に導くように。それでは頼みましたよ」
『神官女』A~Dさんの中の、Bさんっぽい人が言った。
そして、最後は慌てて逃げるように去っていった。
イヤ、先任って言ったって、一日差だよ?
新人をド素人に押し付けて、どーすんだよ?
ひでーよ。無責任過ぎるよ。まったくもーもー。
ま、どうせ、この子も「ニセモノ」だからいいか。
「昨日ぶりですわね。お願いした『秘密指令』の方は、上手く行きまして?」
「ふふふっ。やっぱりカンタンに見破ってしまうんですね? ヨハンナさん」
そう、この子は実は、元「第一王女殿下の第108侍女」で、現在は「ラウラ姫の第十侍女」のハンナ嬢と同一人物なのだ。……ああ、ややこしい。
「それで、あの大きなお胸はどこに置いてきたんですの?」
そう、服の胸元を突き破らんばかりに元気いっぱいだった巨乳が消え失せて、真っ平らになっていたのだ。実に嘆かわしい事だ。先刻、見た時に、本気でびっくりしたよ。「どうして……」って思ったよ。
ま、結論から言うと、またまたニセパイにダマされてたんだな、俺。
「胸なんて、どうでもいいじゃないですか。バカな男みたいな事言わないで下さい。ヨハンナさん」
「……」
ヨハンナの中身は、そのバカな男だ! おっぱい返せ!!
「ヨハンナさんは、第三王女ライラウラ姫殿下の『秘密の侍女』だとか……私に、色々と協力していただけません?」
「……」
勘違いも甚だしいわ!
……って、ソレってどこからの情報?
イヤ、俺の言うコトを聞いてもらうために、『秘密指令書』に、なんとなくそれっぽい事をふわっと書いちゃったから、そう思い込んでるんだろうな……きっと。
あ、ちなみに、『秘密指令書』を書くために、こっそりと借りてた『爪ペン』と余った紙は、きちんと『巫女選挙運営本部』に戻しときましたので、ご心配なく。ハイ。
「貴女は……一体どちらの方? 本来の所属は?」
訊いてみた。
この子、正体は何者?
「……(にッ)」
彼女は何も答えず、ただ唇の端を吊り上げている。
全体の雰囲気は大人だけど……見た感じよりも、実年齢は低そうに思える。
下手すると、まだ成人(※16歳)前の子供なんじゃないのか? って気がする。
何が目的で『巫女見習い』に成った?
何が目的で俺に接触(※非物理)して来た?
あっちこっちに潜り込んで、何を企んでやがる?
「ハンナさん。貴女の忠誠心はどこを向いてるんですの? ここの『お向かい』ですの?」
今いる「ここ」は『北の街区』で『王宮』の一部なので、南の『神殿』か? と言う意味で訊いたのに。
「ええ。その通りです。『お金』は裏切りませんものね!」
彼女の忠誠心は、『西の街区』のカドにある『両替商組合本部』に……つまりは「お金」に向いているらしい。
お金次第で、どこにでも付く、二重……というか「多重スパイ」なのか?
二枚舌以上の、深剃り「5枚刃」か?
それとも、ヨハンナちゃん(中身は俺)は、何かの●毛……イヤ、陰謀に巻き込まれつつあるのか? 筒無いけど。
陰謀なんて、たいていは無……イヤ、不毛な結果で終わるのに。
◇
で、その謎の女スパイのハンナ嬢も、そのまま押し付けられっぱなしだ。
この子には、今夜『王宮』で行われるという『お見合い会』の様子を探らせようと思って、そんなような『秘密指令』を出しといたんだけど、そっちは「人」……と言うか、はっきり言って第一王女殿下の『愛し人』になってくれそうな「男」が集まらなくて、『お見合い会』そのものが中止になってしまったらしい。
『巫女選挙』の『お披露目会』と同日だもんな……誰だって、そんなものには出ないよな。
チラリ、と『巫女見習い』姿のハンナ嬢を見ると、
「……(ツン)」
まるで、何もしてません、知りません、みたいな澄まし顔だ。
たしかに「『巫女見習い』ヨハンナと、常時連絡を取れるようなところに居ろ」って指令は出しておいたけれども、まさか大胆にも『巫女見習い』に成るとはな。
いまひとつ、この子の取り扱い方、分かんねーんだよな。
カオリちゃんの事でゴネるのに、時間かかって、この子を追及してる暇が無かったしな。
でも、逃げ出す様子も無いようだから、このまま泳がせておこう。
てか、本人が言ってた通り、小銭を出して頼むと、色々やってくれるので、かなり便利なのだ。
(にしても、お尻に違和感があるなー)
(水着の紐なんですから。我慢してください)
カオリちゃんがちょっと冷たい。
(水着の紐? 取れないの? この紐)
厳密に言うと「紐」じゃなくて「極細の布地」なんだけれども。
(取ったら、垂れ下がるんじゃないんですか? マワシかフンドシみたいに)
(女の子なんだから『裸エプロン』とかじゃないの?)
(そんな小さい三角形のエプロンなんて、『地球』にも『この世界』にも存在しませんよ)
ですよね?
(いつもながら、ホントに緊張感無いですね。あ、そうだ!)
カオリちゃんは途中から、
「確認し忘れていた事があるので、ちょっとお尻を見せてください」
思念から音声に切り替えて、俺の後ろに回り込んだ。
チャンスだ!
(気体錬成。メスの『シャクレオオカミ』の匂い。ちょっと薄め)
チン!
ポスン! と間抜けが音がして、「それ」はカオリちゃんの眼前でハジけた。
(はい。はい。『やる』と分かってました……えっ? 何? この香り?)
カオリちゃんが驚愕してる。
(いいニホイでしょ?)
メスの「シャクレオオカミ」は、何故か「バニラ」みたいな匂いがするのだ。
それで前に色々あったけど……今となってはいい思い出だ(泣)。
とにかく、薄めると甘味のある「凄くいい香り」になるのだ。ミーヨにも人気の一品(?)なのだ。
毎日のように練習してた(笑)だけあって、俺の『気体錬成』は、神の領域に到達しているのだ!
「「「「「……ヨハンナさん。いい匂――い!!」」」」」
まあね。みんなにリラックスして欲しくてね。
でも、ゴメンね。
元が、俺の●(気体)で(笑)。
◇
俺が、なんでまたまた『錬成』が可能になってるかと言うと、自分自身に『★不可侵の被膜☆』を張り直したからだ。
『神授の真珠』をゲットして、かなり正確な現在時刻がわかるようになったので、「昼の四打点(午後5時ちょっとくらい)」に合わせて発動させた。その正確な消失時間を計測して、把握するためだ。
フツーの『魔法』は二打点(約3時間)で効果が切れるけれど、体内に『賢者の玉』を宿した『巫女見習い』ヨハンナの場合、普通の人よりも持続時間が長いらしいのだ。
カオリちゃん説が正しいなら、1.5倍の三打点(約4時間半)かもしれないのだ。
それはだいたい「夜の二打点と半」……『地球』風に言うと、午後9時過ぎだ。良い子は寝る時間だ。
実は俺、昨夜はあんまり寝てないから……それまで起きてられるか、ちょっと心配だ。
(やっぱりお尻の右側にありましたよ、『双子星』。元々のジンさんにもあって、今の女体化したヨハンナさんにもついてる。これってどういう事なんでしょう? その『女体化』って何なんですか? 魔法的な肉体改造? 遺伝子レベル? 性染色体の書き換え?)
カオリちゃんから、ゴチャゴチャした思念が届く。
てか、「ソレ」が、本当に『双子星』かどうかは、まだ判らないんだけどな……。
(そのへん、怖いから、深く考えないようにしてるんだけど)
(…………)
あ、黙り込んだ。
とりあえず、こっちはこっちで、ちょっと『お披露目会』の式次第(?)のおさらいをしておこうっと。
「えーっと、『第2控室』の窓から物干し場に出て……」
「『南天の星見』ですよ、ヨハンナさん。『物干し場』なんて呼び方はお止しになって」
俺がツルッツルにしてあげた『巫女見習い』アルルミナ嬢に訂正された。
「『南天の星見』から、馬車乗り場の屋根の上に降りて」
「『乙女の道』です。『馬車乗り場の屋根の上』なんて言い方は止してください」
念のため、俺がツルッツルにしてあげた『巫女見習い』ポタテちゃんに訂正された。
「えーっと、その『乙女の道』に立った後で、『全知神の瞳』を見ながら、『全能神の杖』の前で一礼して、簡単な自己紹介。次に服を脱いでっと」
『瞳』とか『杖』は、カメラやマイクみたいな『神授の道具』だそうだ。
あとスピーカーやプロジェクターにあたるものも、あるらしい。そんなのがあるんなら、何らかの情報記憶媒体が存在しててもおかしくないハズなんだけどな。
「『お披露目』です。ヨハンナさん。『服を脱いで』なんて言い方はしないでくださいな」
俺がツルッツルにしてあげた『巫女見習い』の……その……。
(サレイシャさん、です。あといちいち、ツルッツルにしてあげた、は余計です)
俺の思考を読んだカオリちゃんが、すかさず「思念」で助言してくれた。どうもね。
(……いえ)
「『お披露目』の後『乙女の道』を端から端まで歩いて、中央に整列。そして、みんなで歌ったり踊ったり」
「歌ったり踊ったり、はしませんよ? ヨハンナさん」
そう言えば『Tari○ri』は合唱部のお話だもんな。
バドミントンもやってたけど……って、カオリちゃん、この子の名前は?
(ドロワーさんです)
(ドロワー? ドロワーズって『地球』にあるよね?)
(昔の女性の下着ですね。膝まであるぶかぶかのパンツです)
(ゴスロリとかのやつだよね?)
あれ、別にイヤラしくないもんね?
人によりけりかもしれないけれども。そう言うマニアックな性癖の人もいるかもだけれども。
「お互いに『選挙』がんばりましょうね」
「ええ。お互い」
パンツちゃんに愛想よく言われて、戸惑いながら返事する。
(『パンツちゃん』は止めてあげましょうよ。ドロワーさんですよ)
……はーい。
ともかくこれで、『新・パンツ四姉妹(仮称)』全員の名前が判明したワケか。最後の一人がパンツちゃんだったけど。
(ドロワーさんですよ。普段からきちんとしないと、いざという時に間違えますよ?)
……ハイ。
まるで「おかん」やん。
(んー……?)
そのドロワー嬢の隣に、見知った感じの人がいた。
ふと、プリムローズさんを思い出したよ。よく似てる。
そう言えば、『恋と選挙と○ョコレート』ってアニメのEDは、『風の中のプリ○ローズ』って曲だったけれど……異世界のプリムローズさんは今どこに?
……っていたよ! 目の前に!!
パンツちゃんの『黒幕』についてる。
よく見ると「よく似た人」じゃなくて「本人」だったよ。
顔は黒いヴェールで隠してるけど、あの燃えるような赤毛と、ほっそりとした背格好は、間違いなくプリムローズさんだ。
……一体、なにゆえ?
(ご親類の応援だそうですよ)
カオリちゃんが、あっさりと謎を解き明かしてくれた。
親類? 同じ赤毛だし、アルルミナ嬢の方が似てるけどな。
(あちらも、ご親類だそうですよ)
そう言えば、ドロレスちゃんが『女王国』の高位貴族はみんな親戚だって言ってたな。
てことは、パンツちゃんも貴族のご令嬢か。
でも、何でカオリちゃんがそんな事まで知ってんだろ?
(プリムローズさんの思考、読んだの?)
(いいえ。さっき少しお話したんです。なんでも休暇を利用して、本家筋のお嬢様の『黒幕』になってるんだそうです)
休暇? 彼女の主人のラウラ姫も、実は休暇中なんだよな。
たしか「陛下が『巫女選挙』の喧騒を嫌って『王都』を離れて避暑に出掛ける。私もそれに同行する」とか言ってたな。それに合わせて、お休み貰ったのかな?
(あとですね。『この世界』には無い、チョコレートの話はしないで下さい、って前に言ったじゃないですか!)
(……ハイ)
怒られた。
ホノカと双子揃って大好物だったのに、無くて暴れたって話だったな。
(『プリムローズ』からの連想だったんだから仕方ないよ……って、カオリちゃん。唐突だけど、『チョコ』の原料って何か知ってる?)
(『カカオ』じゃないんですか?)
(コ○アも同じだよね?)
(別にアニメの話じゃないんですから、伏せ字にする必要ないでしょう?)
なんで伏せ字なのが分かったんだ?
……カオリちゃんには、どんなカタチで俺の思念が伝わってるんだろ?
(『日本語』の文字列が流れ込んできます)
特に伝えようと思ってない部分まで、ダダ漏れに伝わってんだね?
まあ、今更だから……別にいいや。もう、カッコつけなくてもいいか。
兎に角、今ふと思ったんだけど『神授の真珠』の授受式で、不味い「黒パン粥」を食べた時に感じた「ほろ苦さ」は、なんかブラックココアっぽかった気がするんだよな。
そもそも『虹色豆』は、歴代の『巫女』が神様に色々と無茶な「おねだり」を繰り返したしたあげく、色々な『地球』の食べ物の代替品として完成された『神授の食べ物』らしいし。
『青』とか「枝豆」みたいだし、『こげ茶』も甘く煮ると「あんこ」みたいだし。
なので、『虹色豆』が最後に「相変異」する『黒』って、『地球』の「カカオ」をイメージしてあるんじゃないか? って思えるのだ。
『虹色豆・黒』の入った、食べると眠れなくなるという『黒豆パン』ってのがあるそうだけど、チョコレートやココアにも、微量のカフェインが含まれてるはずだし……それが濃縮されてんのかも?
かつて、『虹色豆・黒』をベースとした「代用チョコレート」があって、いつの間にか、その利用法や製法が忘れ去られて、無価値なもの、としての認識になってしまっているかも知れないのだ。
(ホントに?)
ただ、それを「チョコレート」にまでもってくためには、あと何が要るんだろう?
おっぱ……イヤ、乳脂肪じゃないよな。
(カカオマスとか、カカオバターですよ)
カ○オ○ス? いつの間に覚えたんだ、磯○?
「……(ギロリ)」
睨まれちゃった。
(断っておきますけど、材料をただ混ぜ合わせただけじゃ、美味しい『黒くて甘くてほろ苦いお菓子』は出来ませんよ? テンパリングとか色々あって)
テンパーリング? 何が10%UPする指輪? 財力? そんなんあったら両手の全部の指に装備するよ? すると最終的には何%UPするんだ?
(テンパリングです。口どけの温度を決める大事なトコです。それで人肌の温度で溶けるように調整するんです)
体温で溶けるように……「座薬」みたいに?
(…………)
物凄い冷気が伝わって来るよ。マグマも固まりそうなくらいの。
と、とにかく、その脂肪分と甘味……砂糖か。『この世界』の「アマネカブ」って甘い事は甘いけど、なんだかんだ言って「カブ」風味なんだよな。
でも、探せば「原料」になるモノがある気がする。
それに、俺の『錬金術』は「湯煎」とか「テンパリング」とかの実際の製造工程とは無関係に、ただ「チン!」するだけの、ご都合主義的なファンタジー仕様だから大丈夫。
うん。錬成れると思うな。
(お願いです! わたしにチョコレートを下さい!!)
カオリちゃんが、かなり本気だ。
でも、俺は終戦直後の進駐軍じゃないから。
チョコ食べても「ごち、USA」とは言わないでね。
◇
「落ち着いてらっしゃいますね? ヨハンナさん」
不意に近寄って来たシンシアさんが、美声をくぐもらせながら言った。
神秘的な白いヴェール『虫蚋除け』の、元のレース地の半透明な白いレイヤーが多重に積み重なってるので、お顔がほとんど見えない。お声も聞き取りにくい。
「お気遣いいただき、ありがとうございます。シンシアさま」
「…………」
よく見えないけれど、多分微笑んでいるものと思われる。
「それでは」
あっさり立ち去った……と思ったら、他の子たちに次々と声を掛けてる。
その後ろには、『黒幕』のミーヨとセシリアが付き従っている。
最高位の『巫女見習い』として、みんなを気遣って回ってるようだ。
流石は『俺の聖女』。ホントにホンモノの『聖女』にしてあげたいけど……選出方法が「じゃんけん」して「くじびき」だしなあ……選挙の得票数を操作するようには、いかないだろうなあ。その辺の展開がまだ白紙だ。真っ白だ。
てか、俺も視界も白い。
昇格して、折り目が増えちゃったのだ。
でも、『お披露目』の後の「選挙期間中」は、立候補した『巫女見習い』は全員、『虫蚋除け』を被らずに素顔のままで過ごす決まりだそうだ。
『この世界』は、『魔法』のキラキラ星『守護の星』のお陰かは知らないけれど、大気汚染とかは無いみたいだし、普段被ってるヴェールを外したからと言って、鼻毛が伸びる心配はいらないだろう。
(みんな女の子なんですから、そういうのは止めてください)
カオリちゃんに怒られた。
――思考伝達OFFっと。
だって先刻みたいに『体外口内錬成』で「鼻毛カッター」とか、イヤじゃないですか?
そんなの、俺は楽しくもなんともないし。
チラリ。
「…………」
うん。カオリちゃんは無反応だ。よしよし。伝わってない。
それにしても、なんか無性に魚肉ソーセージ食いたくなってきたな。
あとで『口内錬成』しよっと。
イヤ、『体外口内錬成』で「普通のソーセージ」を、お口に咥えるか、キスしながらレンジれば「魚肉ソーセージ」に生まれ変わるかも……画面がアレみたいだけど。
てか、何考えてんだ、俺。「レンジれば」じゃなくて「念じれば」だろ?
さしもの俺様も、開始間際で緊張してんのかな?
緊張を紛らわせるために、カオリちゃんと雑談……雑念の飛ばし合いでもするか。
――思考伝達ON。
(カオリちゃん、唐突だけど『れぷらかーん』の『おーらきゃのん』って知ってる?)
(はい。知ってますよ。それって発信源はホノカの叔母さんでしょう?)
(うん。まあ、俺はその息子さんから聞いたんだけどね。で、ナニ?)
(80年代初頭のTVアニメ『聖戦士○ンバイン』ってご存じありません? 日本の異世界ファンタジーものの、原型のひとつになったような作品だそうですよ)
(……ああ、知ってる。何かのゲームであったわ。オー○バトラー・バン○イン……じゃなくてダン○インか)
(ダン○インです。色々苦労話があるみたいだから、間違えちゃダメらしいですよ?)
(へー)
(それで、そのアニメに出てくる『オーラ○トラー』って言うロボットの名前が『れぷらかーん』だそうです。敵方です)
(それに、なんか小っちゃい妖精が出てくるよね?)
(○ャム・ファウの事ですね? ミ・フ○ラリオって言う妖精だそうです。大きくなるとエ・フェ○リオで、最後はチ・フェラ○オだそうです)
(カオリちゃんも詳しそうだけど?)
(だからホノカの叔母さんから聞かされたんです。わたしがゲームで見て少しなら知ってます、って言ったら……延々『スパ○ボ』の話をされて……チ○ムを戦艦に乗せてMAP兵器で敵をまとめ食いして無理矢理レベルアップして『奇跡』を覚えさせた、とか言う)
(……へー、そーなんだ? 俺は何かのアクション・シューティングだったな)
(じゃあ、もういいですか?)
カオリちゃんが話を終わらせようとする。
(イヤ、待って! だから『おーらきゃのん』は?)
(……知りたいんですか?)
(知りたいよ。気になってたし)
(『れぷらかーん』の股間の息子さんの位置に付いてるビーム砲みたいなヤツだそうです)
(…………)
(…………)
(……やっぱり予想してた通り、男の武器だったんだ)
(あ、ちなみに『びらんびー』の股間には、牙の生えた口みたいなのが付いてるそうです)
(……へー)
ヴァ○ナ・デンタタだっけ? 歯のある女性器か? 怖いよ、それ。
(『東の円』からの移動中に、そんな話ばっかり聞かされて、ホントに難儀しましたよ)
カオリちゃんの思念が、うんざりしてる。
(次郎氏の母親って、そんな人なのか……)
たしかに、今日ちらっと会ったけど、そんな感じだったかも? だ。
(よし、俺『前世の記憶』があるの黙ってよっと)
(あ、ずるい)
よし。だいぶ、緊張感がなくなってきたよ。
(それ、ダメなやつですよ)
(それで……『お披露目会』の本番まであとどれくらい?)
(……知ってるくせに)
ハイ。『神授の真珠』の「時計機能」で、バッチリ分かります。
あと、5ツンほどです。
『前世』の感覚で言うと、午後6時半くらいかな。
夏だし、『王都』はそれなりに緯度が高いらしくて、まだまだ明るい。
ただ、運よく曇っていた。
『この世界』では、よく晴れた日の夕刻に『夕焼け空の魔法停止現象』が発生するけど、今日は曇り空で、それが起きずに『魔法』を使った会場設営が、非常にスムーズに運んだそうだ。「運よく曇っていた」とはそういう意味なのだ。
(あれ? そう言えば先日のホノカの『天気予報』って当たったの?)
『七人の巫女』慰労の晩餐会に潜入した時の話だ。
(当たってますね。曇りましたから)
カオリちゃんの思念が届く。
(どうやって、そんな事出来るんだろ? ちょっと欲しいな『神授の真珠(極太)』)
(なればいいじゃないですか? 『七人の巫女』)
無茶言うなよ。
そして、なんで二人して倒置法なんだよ? 二人とも性別が転倒してるけど。
(では、わたしはホノカの方に行きますね。『お披露目会』頑張ってください)
(そっちもねー)
カオリちゃんは去っていった。
『お披露目会』を盛り上げるために、ホノカオの『合体魔法』で『花火』を打ち上げるらしいのだ。
リン、ゴ――ン。
夜の一打点だ。始まる。
「行きますわよ!」
言ってみた。
「「「「「はいっ!!」」」」」
まさかのレスだ。ちょっと気恥ずかしい。
◆
いよいよ次から『巫女選挙』。やっとだよ――まる。




