100◇黒髪の美少女と俺
「よ――おっ!」
ポン! ×4
何故か一本締めだ。
プリムローズさんの『前世の記憶』が、そうさせてるのだ。
『協調魔法』を発動させる際には、事前に参加者全員で呼吸を合わせて「同じ事」をやると、成功率が高まるらしい。
俺が提案した『シド○アの騎士』の『掌位』のジンクスみたいな「両腕を交差させた握手」が採用されなかったのだ。……しょんぼり。
てか、これからやるのは『協調飛行魔法』だからな。
成功率とか、怖い事言わないでほしい。失敗したら、墜落やん。
とにかく、みんなで輪になって、手を繋ぐ。
フォークダンスで、こんなの無かった? アレは、何だったかな?
「毎回思うけど、『べんとら・べんとら・すぺーすぴーぷる』みたいやな」
……なんですか? それ。
ついつい、某アニメの「黒髪の美少女の思い人」みたいな感想が出るよ。
プリムローズさんから、きちんと「解説」して欲しかったけれども――
「「「「祈願! ★飛行っっ☆」」」」
そんな暇もなく、俺とラウラ姫とドロレスちゃんとプリムローズさんは、パンツ屋(※総合衣料品店)の屋上から飛び立った。
これで何度目だろう。
やっぱり、『魔法』で空を飛ぶのは楽しい。
ただ、自分の意思で自由に飛び回りたいなあ……と毎回思う。
自分の行きたい方向に進めないから、「乗っけてもらってる感」がハンパない。
「え、そっちからですか?」
『永遠の道』の『大交差』が描く「X」の真上は、避けて通るものらしい。
「あの上を通ると、『えあ・ぽけっと』みたいに高度が落ちるのよ!」
それってなんだろう?
気圧とかの問題じゃなくて、重力の特異点みたいになってるんじゃないの? って気もする。
そもそも、何故ゆえに『永遠の道』は、ここで「交差」してんだろ? 謎だらけだ。
◇
「うおおっ!!」
思わず叫んでしまった。
『おっぱい宮殿』の異名を持つ『双丘大宮殿』は、空から見下ろして見ても、やはり「おっぱい」だったのだ(笑)。
「『北の馬場』の『増幅円』に着地いたします!」
「うむ!」
見ると、『おっぱい宮殿』北側のひらけた平地に、「○」が描いてある。
『飛行魔法』で飛んで来るひと用の、「ヘリポート」みたいなものらしい。
でも、『増幅円』って聞いてたのと違うな。
プリムローズさんは、お下劣な「○○○○マーク」そっくりだって言ってたのに。
ただの「○」でも、いいんだ?
パイロット役のプリムローズさんが、ぐぐーっ、と体勢を傾けた。
その動きに同調して、俺たちの「冠」みたいなヒューマン・チェーンも着陸態勢に入った。
その「わっか」を目がけて、ゆるい螺旋軌道を描きつつ、降下を始めたのだ。
「「「「祈願! ★着地っっ☆」」」」
そして、盛大な土煙を吹き上げ、虹色のキラキラした『守護の星(普通サイズ)』を乱舞させながら、見事に着地が決まった。単機で宇宙に「往って還って」をやろうとしてる『地球』のロケットの「垂直着陸」みたいだ。
「★隠蔽解除っ☆」
パキン! とプリムローズさんの指が鳴る。
飛行中、その正体がバレないように、ラウラ姫とドロレスちゃんの姿を『魔法』で包み隠していたらしい。外側からは、どんな風に見えてたんだろ?
今は二人とも、「お忍び姿」から着替えた『王宮』用のドレス姿だ。
「はひー、なかなか凄かったです」
ドロレスちゃんは初めて空を飛んだらしい。色々と感慨深げだ。
「うむ。愉快であった」
その姉のラウラ姫の方は平然としてる。てか、楽しそうだな。
ただ……ヘルメットも何も無しに空を飛んだせいか、二人とも「御髪が乱れている」ような気もするな。
でも、二人とも元々が「わしゃわしゃとした癖のある金髪」なので、俺には判断がつかない。『甘○と稲妻』の幼稚園児のつ○ぎちゃんみたいな髪型なのだ。
ちょっとズルイけど、こういう時は服を褒めよう。
「お二人とも、お召し物がとてもよくお似合いで。素敵ですよ」
「「……(照れ)」」
二人とも言われ慣れてないのか、照れてるのが可愛かった。
とにかく、ラウラ姫とドロレスちゃんが、母親である女王陛下と一緒に、スペイン風の午後のお昼寝タイム『しえすた』を過ごすために、飛んで来たのだ。
「では、また後ほど」
俺がそう言うと、
「うむ。任せよ。たっぷり寝てまいる」
ラウラ姫は力強く言った。
すんごい頼もしいけど……ナニソレ?
「それでは、殿下。いったん失礼いたします」
プリムローズさんはそう言って、今度は俺をみんなの元へ送り届けるために、
「★飛行っ☆ 二人前」
『合体飛行魔法』を発動させた。
てか、二人前て。
◇
ここは『王都』上空。
ある目的を果たした後で――
「おい。本当に『投下』していいのか?」
「お願いします!」
プリムローズさんは急いでラウラ姫のところに戻らないといけないらしくて、時間的余裕がないそうなので、俺の事は空中で投げ捨てても構わないと言ってあったのだ。
「まったくもーもー」
呆れてる。てか、そのセリフ。クリムソルダ嬢が言ってたの、聞いてたんだな?
「じゃ、行くよ」
中途半端な高さだと目立つから、限界近くまで高度を上げてもらってるのだ。
「あ、いま思い出したけど……『紺屋』の大甕に隠れてて、瓜で買収された子供に隠れ場所を密告されて敵方に捕まっちゃったのは」
言葉を切って、息継ぎしてる。
そして、切り離された。
「細川高国よおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
一体何故にこのタイミングでぇぇぇぇえええ?
そして、その人って誰ぇぇぇぇええええええ?
――ま、いいか。
俺はすぐさま、両手両足を広げて「大」の字になる。
せっかくのスカイ・ダイヴだ。少しでも長く楽しみたい。まるで『Char○tte』のOPのワンカットみたいだ……一人なのは淋しいけど、次は誰かと飛びたいな。血のつながった「妹」だと、落下先が異世界になりそうだけれども。てか、ここが正に異世界だよ。
ゴォォォォォォォオオオ――
何の音だろ? ずっと耳元で……ああ、風切り音か。騒音だな。
空中遊泳が終わりに近づく。
建物の屋根が、迫って来ている。
『この○ば2』のOPみたいに水の女神のピンクの羽衣で、パラシュート降下?
イヤイヤ、俺一人しかいないよ。
俺は直立して、足を地面の方へ向ける。
空気抵抗が減って、ぐん、と加速した。
『プリ○セス・プリンシ○ル』のア○ジェみたいに、緑色に光るケイバーライト内臓の「Cボール」は無いけれど……俺なら大丈夫。
どこかも知らない建物の屋根に、俺の素足が触れると、
ふにゃり
全ての衝撃エネルギーは、足の裏で発動された『★不可侵の被膜☆』に吸収されて消え去り、俺はその場に立った。
自分でも、その感覚は、ちょっと不気味だ。
にしても『★不可侵の被膜☆』って、俺の金○袋に収められてる、丸くて金色の『賢者の玉(仮)』が、発生源なのかな?
とすると、俺のは「Gボール」だな。
…………。
……。
反省。
◇
んんん?
凄い変な建物の上だった。
縦横比が6対1くらいの細長い建物だ。
3階建てくらいで、屋上には、明り取りの為の小屋根がずーっと並んでる。
しかも、同じ規格で建てられてるらしい建物が幾つかあった。
集合住宅というか、それが寄り集まった「団地」みたいなところに降りたらしい。
でもなぜかひどく閑散としてる。みんな寝てんのかな?
建物の端っこの、十数mはある高さから飛び降りて(※真似しないように)、その「団地」から抜け出した。
振り向いて見上げると、建物には「木造に見えるような塗装」が施されてあった。
変なとこだ。なんか特別な意味があるのかもしれないけど。
そこにいてもしょうがないので、何となく人が多そうな方に向かう。
ちょっと人通りのある通りに出ると、その街並みには、まったく見覚えが無かった。
全体に古びた感じで、『西の街区』にあった活気と賑わいが無い。
「えーっと、ここどこ?」
迷子になったよ。
◇
ここはどこ? 私は誰?
そう思いつつ『この世界』の麦畑で目覚めて、早や数十日。
あの時は目覚めてすぐに『往復ちちびんた』をくらったっけ。
おでこが広くて可愛いミーヨから。
――いやあ、夏川椎……イヤ、なつかしいなあ(しみじみ)。
でも、今はたった一人だ。よく知らない街で。
『宝石』を売ったお金や、『宝石』そのものは、飛行中に落っことすといけないので、全部ミーヨに預けて来て、一文無しだ。
俺、これからどうなるんだろう?
――と思ってたら、なんの事はない。すぐに知り合いを見つけた。
さすが「ご都合主義」。展開がヌルいぜ。
街行く人波の中でも、すぐ見つけられる『俺の聖女』だ。
なぜか、俺と同じ『夏の旅人のマントル』を着ている。彼女も「お忍び」でお買い物かな?
俺は、その長い黒髪の美少女に声をかけた。
「シンシアさん!」
完全に無視された。
「シンシアさん!」
またしても完全に無視された。
……ひ、ひょっとして、怒ってるんですか?
一人だけ別に『神殿』に送り届けたせいで、「無断外泊」を咎められて、午前中は外出禁止の上に『おトイレ』掃除だったって、クリちゃん言ってたもんな。
しかも……見るとシンシアさんは、若い男を連れていた。
誰だろう?
前に言ってた双子の弟さんのうちの一人かな?
……イヤ、違う。シンシアさんのような「日本人似」の顔立ちをしていない。
『この世界』でいちばん多い、多人種の特徴が混ざりこんだ浅黒い顔立ちだ。
なんとなくだけど……俺に似てる気がする。
てか……完全に俺そっくりだ。
こっちも俺と同じ色の『夏の旅人のマントル』着てやがる。
誰かが見てて、俺と勘違いしたら、どーすんだ?
そのくらい、そっくりだ。激似だ。ほぼ俺本人だ。
なんで? ドッペルゲンガー?
俺、もうすぐ死ぬのか? それとも思春期症候群?
ちなみに「思春期症候群」は、from『青春○タ野郎』だよ。
あるいは未来のわたし? タイムリープ? タイムパラドックスとか大丈夫?
イヤ、俺とはまったく別の「個体」なんだろうけれども……。
『この世界』には『化物』っていう正体不明の謎生物がいて、ソイツらはタマゴから孵化して最初に見た物をそっくりそのままコピーするらしい。その時「コピー体」は「学習」のために数日間「オリジナル」に付きまとうらしいんだけど……俺そんな覚えないよ?
「……」
「……」
二人は親し気に顔を寄せて、何か話している。
俺は『★聞き耳☆』の『魔法』は使えないけれども、『身体錬成』で強化した聴力は常人のそれを、遥かに凌駕するのだ!
集中!
「『ここってどこなの? わたし、『女王国』の地理なんて全然知らないわよ』」
俺にそっくりな若い男は、『この世界の日本語』で、そんなヘタレじみた事を言って、シンシアさんにべったりとくっついた。
許せん! 殴ってやりたい。
と言っても俺は『★不可侵の被膜☆』のお陰で人殴れないけどな。
「『平気平気。カオリは、なんも心配しなくてもいいべさ』」
シンシアさんが『この世界の日本語?』で、俺そっくりの若い男にそう言った……べさ?
俺にそっくりなそいつは……カオリって名前なのか? 女の子みたいだな。
「『灰狼さんは『女王国』じゃ、めっちゃ有名人だから、人に聞けばすぐだべさ』」
長い黒髪の美少女がそう言って、ほほ笑む。
てか、『灰狼』さんはシンシアさんの父君のはずだけど……普段から「さん」付けで呼んでんのかな? なんか違和感が。
「『うん、頼りにしてるね』」
カオリと呼ばれた若い男は、おっとりとした口調で甘えるように言った。
全体的に、なよなよしてる。男性らしくない。
俺そっくりの男が、オカマちゃんってどういう事なんだ?
誰か説明しろ!
「『でも、あたしのお父さん、って言っても、産みの……違うな。うーん、なんて言えばいいんだべ? 『この世界』での血のつながった父親なんだべさ。して、あんたを探すために家を飛び出して以来……もう4年あってないんだわ』」
「『不安にさせないでよ、ホノカ』」
俺に激似のカオリちゃんが、シンシアさんをまったく違う名前で呼んだ。
ホノカ?
つまり……シンシアさんじゃない。
見た目は完全にそのものだけど……別人だ。
イヤ、俺は「話」としては聞いてるし、知ってる。
たぶん、『前世の記憶』を取り戻して、『前世での双子の片割れ』を探すためにいなくなったっていうシンシアさんの双子のお姉さんだ。
でも、その人はシンシアさんの『美月』と対になった『日向』ちゃんじゃなかったっけか?
そんで……どんな偶然かは知らないけど――俺にそっくりなカオリちゃんが、次郎氏が言ってた『前世の記憶』で結ばれた『魂の双子』って事になるな……。
ああ、そうか思い出した「ゆ○かおり」じゃなくて「ユヒ・カオリ」ちゃんだ。その名前のインパクトで「ほのか」なんてひっそりとした名前を忘れてた。
――そんな事を考えていたら、
「「………」」
そのシンシアさんそっくりなホノカちゃんと、俺にそっくりなカオリちゃんが、じ――っと俺を見ていた。
そこに――
「あのー、ジンさん。お一人なんですか?」
そう言って俺に話しかけて来たのは、今度こそ間違いなく『俺の聖女』黒髪の美少女シンシアさん……まで、なんで俺たちとおんなじクリーム色の『夏の旅人のマントル』着てるんですかあああ……。
「ジンさん?」
可愛らしく訊ねられる。
「シンシアさん」
「はい」
「今から、見るのは『鏡』です。いちにのさんで、左を向いてください」
「はい?」
「いちにの」
「「さん」」
二人組は居なかった。
どこいったんだろ? と思ったら、耳元で声がした。
「あのー」
「うおおっ!」
びっくりした。
「ちょっと、すみません。地元の方ですか?」
黒髪の美少女ホノカちゃんだった。
『この世界』の言葉だ。フツーに流暢だ。
「えっ?」
黒髪の美少女シンシアさんが驚いてる。
「すみませんけど、『灰狼』さんって方のお家を探してるんです。ご存知ありませんか?」
シンシアさん激似のホノカちゃんが、俺に訊いて来た。
「……」
イヤ、君さ、自分とそっくりなカオしてる人間がすぐ目の前にいるのに、よく平然としてられるね?
「それなら、私の家です」
シンシアさんが言うと、
「「えっ!?」」
二人組は驚いていた。
「ちょうど、私も家に向かっているところです。ご一緒しましょう」
シンシアさんはそう言って、俺の手を取って歩き出した。
なんだろ? 気付いてないのかな? と思って横顔を見ると、ちょっと興奮した感じの赤い頬をしていた。
「ジンさん、気付いてらっしゃいますか?」
俺は頷いた。
「ハイ、シンシアさんにそっくりですね」
「あのお方、ジンさんにそっくりですね」
「『あのお方、ホノカにそっくりだね』」
「『あの野郎、カオリにそっくりだべさ』」
発言は同時だった。その主旨も同じだった。
「「「「……(妙な沈黙)」」」」
「『……一度、みんなで冷静に話し合わない?』」
俺は『日本語』で、そう提案してみた。
「「「……(こくん)」」」
3人は頷いた。
◇
屋根付きでちょうどよかったので、『都馬車』の待合所に入った。
『王宮』前の三角広場にやって来る大型の『長距離馬車』じゃなくて、『王都』の市内を巡回してるヤツらしい。
出発時間を過ぎたばかりらしく、他に誰もいないので、都合がいい。
シンシアさんが待合所の隣の「喫茶店」みたいなところから『赤茶』を四人分買うと言うので、俺も手伝う。
ここのは、『地球』由来の「ヒョウタン」から進化した「百生びょうたん」をカップにしていた。
一本の木から,小振りなヒョウタンが大量に生るらしい。
手のひらサイズでヒョウタン特有の「くびれ」の部分に中指がフィットする。
しかも底がほぼ平らなので台に置ける。麦酒用の「ひょうたんジョッキ」もあるらしい。
そんで、植物由来なので、飲み終わったら道に捨てとけば、何かの生き物が食べてくれるらしい。
何かって言うけど、たぶんゴロゴロダンゴムシだ。街中の道端にもひっそりと存在してるのだ。ゴロゴロダンゴムシが。
みんな見慣れてるのか、全然だーれも気してはいないのだけれども。
……そんな事は、今はどーでもいいか。
「どうぞ」
すんごい微妙な気持ちになりながら、自分のそっくりさんにひとつ手渡す。
「あり、がとう、ござい、ます」
カオリちゃんはきちんと礼を言った。
『この世界』の言葉だ。多少たどたどしいけど。
向うでも激似の二人……シンシアさんとホノカちゃんが微妙な空気だ。
「どうぞ」
「……(むー)」
シンシアさんから『赤茶』を受け取ったのに、ホノカちゃんはむくれたように黙っている。
でも、美少女なので「むくれ顔」も可愛い。
「わたしの言葉は分かりますか?」
カオリちゃんが優しく丁寧に言った。
俺そっくりなので、可愛くもなんともない。
「「………(こくん)」」
俺とはシンシアさんは頷いた。
「貴女の事は、ホノカ……あの子から、少し聞いてます。……双子なんですよね?」
「はい」
シンシアさんが、ホノカちゃんを見ながら頷いた。
「ですけれど……こちらのお方は一体どなたなのですか? なにやら、『今のわたし』に似てるような気が、そこはかとなく、しているのですが」
カオリちゃんは、俺を見つめて不思議そうだ。
「……『今のわたし』……とは?」
シンシアさんは明敏だ。
きっとそうだ、カオリちゃんは間違いなく『前世の記憶』持ちだ。
「確かに……俺たち似てるよね」
『王都』に来てからは、わりとあちこちに『鏡』があるので、自分の顔をよく見るようになっていたので、俺としては不思議と言うよりも不気味で仕方がないけれど。
「……あ!」
と言うか、思い出したよ。
俺は言われていたのだ。
麦畑で目覚めてすぐに。
『全知神』って女神から。
『君にはちょっと『実験』に付き合って貰うぞ』
そして――
『君はいずれ、もう一人の自分と出会うであろう』
と。
……つまり、それってこう言う事だったのか?
もしかしたら、もう名前さえ思い出せなくなってる『前世の自分』と対峙させられるのか? とも思った事があったけれども……。
「……ひょっとして」
と、カオリちゃんは言う。
てか、女の子じゃないんだから、ちゃん付けで呼ぶ必要はないか。
「わたしと貴方も、双子なんでしょうか?」
俺と瓜二つなカオリは言った。
「……イヤ、違うと思うけど」
『もう一人の自分』って、こーゆー事?
中身は別人の「そっくりさん」ご登場?
精神攻撃とかじゃなくて物理的なヤツ?
お約束的に「入れ替わり」しちゃうの?
『全知神』さまって、本当に何を考えてるの?
こんな事をして、一体何になるって言うんだ?
「確かめる方法はあります。『この世界』では、双子が生まれた時に取り違えのないように、『魔法』で黒子を入れる慣習があります。私と……日向も」
シンシアさんの言葉は、双子の姉に断ち切られた。
「ヒナタじゃないべさ。あたしはホノカ! こう書くんだべさ!」
そう言って立ち上がり、『この世界』の言葉で『魔法』を発動させた。
「祈願! ★火名輪ッ☆」
声と共に、空中に大きな「炎の輪」がふたつ出現した。
それぞれの輪の中に『火ノ火』と『火熾』という赤い火文字が現れた。
漢字だ。
てか、カタカナが混じってるので、完全に日本語だ。
「ハンコかっ!」
前世が日本人の俺は、見たまんま即座に突っ込んだよ。
まるっきり「印鑑の捺印あと」みたいだったのだ。
『この世界』にも「ハンコ」があると、今日のドタバタの中で知ったけれども……そっちは『★密封☆』を解除する魔法道具らしいんだよな。
「あたしたち二人の、自己紹介用魔法だべさ! して、これが『ハンコ』と分かるからには、あんたも日本からの転生者って事になるべさ!」
火ノ火が言った。
にしても、ヒナタじゃなくてホノカか……すると趣味は登山じゃなくてカメラか?
てか、『この世界』の言葉でしゃべってるのに、北海道弁らしき語尾が、俺の『脳内言語変換システム』で表示されるようになっちゃってるし。ヒナタは武蔵の国でホノカは上野の国なのに。俺様の象さんは白くないのに……って、とりあえず『ヤマノ○スメ』はいいから。
「てか、火事になるから、消せ」
「あ、なんか焦げ臭いわよ」
俺と俺そっくりが言った。
「ジンさんも、あの文字を読めるんですね? 以前、ジンさんは『にほん』からの生まれ変わりで、そこには私のような黒髪で黒い瞳の人たちばかりが住んでいた、っておっしゃってましたけど……もしかして彼女たちと同じところから?」
シンシアさんがすごく冷静で、クレバーで助かる。
「ハイ。そうです」
俺は素直に返答した。
「その時に聞いた話では、私にそっくりな初恋の女性がいたとか……彼女は……あ! よく考えたら違いますよね? てへ」
な、なんですか? その最後の照れ笑いは……めっちゃ可愛いじゃないですかっ。
「いちゃつかねー! へっぺこく気かい?」
「ほ、火ノ火」
カオリ……火熾ちゃんが慌ててる。
ところで「へっぺこく」ってナニ?
◇
めんどいので「百聞は一見に如かず」だ。
イヤ、「へっぺこく」の方じゃないよ?
「ほれ、見てみれ」
言ったのは火ノ火だったけど、シンシアさんも『夏の旅人のマントル』の合い間から、にゅるり、と素足を突き出した。
おおっ、足だけでもいいなあ。
二人とも、「カメラ機能」でGETっス。
「ああ、確かに右膝と左膝にありますね、二つ並んだ黒子が……これが『双子星』ですか?」
俺そっくりの火熾ちゃんが納得したように言った。
どうやら前世は本当に本物の女の子だったらしいし、もう「ちゃん」付けでいいや。
「産まれた時は、ホントに双子だったんだべさ。したら、ジン君のはどこだべか?」
火ノ火は俺を向いて言った。
本当に『俺の聖女』シンシアさんそっくりで、しかも『前世』日本の北海道弁っぽい言葉遣いなので、ちょっと対応に困る。
「ジンさんのは、お尻の右側です」
シンシアさんが、あっさりと言った。
「「「……」」」
「な、なんですか!? 知ってちゃいけませんか?」
即答されるとは思ってませんでした。よくご存じで。
「じゃ、見せるべさ(ニヤリ)」
火ノ火が、俺様のケツを見る気満々だ。
「ほれ、早く脱いで(ニヤリ)」
ほ、火ノ火ちゃんってS? Sなの?
「え? ちょっと待って、火ノ火! わたしも? わたしも脱ぐの?」
「当たり前だべさ!」
「えー、やだやだ!」
「早く、脱ぐっしょや!」
「やだやだーっ」
『前世の記憶』で結ばれた『魂の双子』のお二人が、揉めてます。
「えーっ、だってジン君、男の子なのにィ。男の子に、お尻見せるなんてー」
俺そっくりな火熾ちゃんが不気味な事を言う。
「「「お前もだろ!」」」
「……(ずうううん)」
そう突っ込まれると、心は女の子。身体は俺そのものの、火熾ちゃんが深く傷ついたようにおち○こだ……イヤ、落ち込んだ。
『この世界』では、「輪廻転生」とか「生まれ変わり」があるから、性別が逆転して転生する人もいるそうだ。
今日知り合った『五の姫』ちゃん(?)も、そうなんだろうか?
「……ああ、なんでわたし、男の子の体で生まれ変わっちゃったんだろ? ねえ、火ノ火。わたしがお○っこする時の気持ち……アナタに分かる?」
「……分かんないべさ」
意外と冷たい。
火熾ちゃんと火ノ火が……って、夏なのに二人とも暑苦しい名前だから、もう、戻す!
「「……」」
カオリちゃんとホノカが見つめ合った。
「……こう、ぽろん、と出てくるじゃん? それを指でつまんで」
カオリちゃんが酸っぱい物でも食べてるみたいなカオで言った。
「あのー、早くしませんか? 長引くと、他の関係ない人たちが来ますから」
シンシアさんが待合所の外を気にしている。
「ハイ。シンシアさん」
俺がそう言うと、
「まーた、どう見ても、日本人顔なのに、シンシアってなんだべさ」
ホノカがからかうように言った。
「……私の母がつけてくれた名です!」
シンシアさんが、怒ったようにホノカを睨んでる。
「……ああ、おっかない。怒らないでいいっしょ」
ホノカがヘラヘラ笑ってる。
本当にシンシアさんとそっくりだけど、中身はまるまんま違うべさ。
この子、後でなんらかのお仕置きが必要だな。
そうだ! いい事を思いついた。
◆
「いい事」が善事であるとは限らない――まる。




