雨
4人の仲間で、学校の後に仲間とファーストフード店でなにともなく話をするのは楽しい。今回は次の休みにどこに行くのか、という話で盛り上がった。そこからどう4人の進む道は絡まるのか
「おう。また明日な~」
学校の後に仲間とファーストフード店でなにともなく話をするのは楽しい。今回は次の休みにどこに行くのか、という話で盛り上がった。
「私、海外に行きたいな」
「高校生だけで?ダメだろ。それに財布が足りねぇよ」
「じゃあ、沖縄」
「だから、財布が足りねぇって。精々5万円位がいいとこじゃないか?」
「5万円だと2泊3日程度かな」
「まぁ、いいんじゃないか。それで。俺は涼しいところに行きたいな。ゆっくりと読書がしたいんだ」
「輝久はいつもそうだな。どこに行っても読書って」
「違う環境で読む本は格別なんだよ」
「そういうものなのかなぁ。その場の楽しみってものもあるじゃない?」
「茜はいつも楽観的すぎるんだよ。旅行はもっと計画的に行動するものだ」
「えー、私、宗佐のそういうところきらーい」
「それ以外は好きってことで良いのか?」
「あんたも諦めないわねぇ」
宗佐はずっと茜に交際を申し入れている。茜は今の関係が丁度良い距離だから、と完全に断るでもなくのらりくらりしている。
俺はそんな仲間の会話を横から眺めているだけで楽しい。
「今日は結局、どこに行くのか決まらなかったなぁ。このままだと、いつものように近場で遊んで終わりそうだなっ、っと」
俺はベッドに座ったまま後ろに倒れて天井を眺めながら今日のことを考えていた。こうやっていつも今日という日を思い返している。そうすると、大概の日でこうしておけば良かった、とか、こうしていたらどうなっていただろう、というような気持ちがわき上がる。それを考えながらお風呂に入るのが楽しみの一つだったりする。
とりあえず風呂にはいるために勢い良く起きあがった。
「うーん……めまい、かな。勢い良く起きあがるのは良くなかったかな」
風呂の中では、海外旅行に賛成していたらどうなったのか、とか、密かに行ってみたいと思っている岐阜飛騨、白川郷に行きたいと言ったらどんな反応だったのか、なんて考えていた。
「おう、今日のテストどうだったよ?」
宗佐が輝久に聞いている。そして輝久はいつものように同じ答えを返している
「なんだ宗佐。自分の現実が受け入れられないのか?現実主義が泣くぞ?」
「まだ現実は目の前にない。問題ない。慎太と茜はどうだったよ?」
「私は上々の出来、だったと思うわよ」
「俺はわかんないな。たぶん、普通位じゃないか?」
「あんたっていつも普通が好きよね。波風あった方が人生楽しいわよ?」
「茜は波風ありすぎなんだよ」
「現実の人生は波風あるものでしょ?現実を見なさい、現実主義者の宗佐くん」
「騒ぐならほかでやってくれないか」
輝久がめがねを人差し指で位置を戻しながら言った。なんというテンプレート。そしてなんという二人の反応。このやりとり、今まで何回見てきただろうか。
いつもと変わらない日常、景色、同じ様な互いの距離感。俺はこの雰囲気が好きだ。誰1人欠けて欲しくない。茜が宗佐のアタックを曖昧に交わしているのも、多分、同じ様な気持ちなんだろうと思う。
今朝もそうだ。学校の近くの橋でそれぞれ別の方向から同じ時間に合流して校門を4人でくぐる。
「なぁ、こんなこと前にもあった気がしないか?
「そりゃ毎日同じように登校してるからな。こんなことは毎日あるだろうに。現実を見ろよ、現実主義者」
「いや、そうじゃなくてよ。なんかこう……うーん、上手く言えないな」
「上手く言えないから茜に振られるんだぞ」
「輝久は冷静にそういうことを言わないでくれよぉ。慎太も!そうやって見てるだけじゃなくて何とかしてくれよぉ」
「お前の恋路をか?」
「いや、それもしてくれるのは嬉しいけど、今の状況で助け船を……」
「どうした?」
「茜は?」
「ああ、今日は体調が悪いとかで休むって言ってたぞ」
「そうか。みんなでお見舞いに行くか?」
「宗佐。なんで茜が今日休みって慎太が知っているのか気にならないのか?」
「なんで?別に気にならないけど」
「そうか。それならいいんだが」
本当にいつもと変わらない日々だ。なにもないのは良いことだと思うが、なにも無さすぎるのも考え物、のような気もしなくはない。
あのときの茜は本気だったのだろうか。俺が受け入れていたらどうなっていたのだろうか。
「雨だな」
「ああ。雨だ」
「輝久、傘持ってないか?」
「持ってるぞ。というわけで俺は帰る」
「まてまて。コンビニに行って全員分の傘を買ってきてくれ」
「珍しく名案を思いついたじゃない。宗佐にしては」
輝久は小銭を集めてコンビニに向かっていった。そして2本の傘を手に帰ってきた。
「1本足りなくね?」
「宗佐、売り切れって知ってるか?というわけで、お前は濡れて帰れ」
「いやだよぉ。そうだ、慎太、茜と同じ方向だろ?」
「いや、そうだけど……」
相合い傘で帰れって言うのか?いいのか宗佐……そこはお前が送ってくのが二人きりになれる絶好のチャンスなんじゃないのか?
「別にいいけど」
「ほら、慎太。茜もそう言ってるぞ」
宗佐は本当のところ、茜のことをどう思っているのだろうか。俺たちに宣言したのは冗談だったのか?
「それじゃ、俺たちは雨が強くなる前に帰るぞ。お前等も早く帰れよ」
輝久と宗佐は別々の方向に手を挙げて歩き出した。マジで茜と帰るのか。
「それじゃ、帰るか」
「うん」
茜が大人しい。どういうことだ。天変地異でも起きる前触れなのか?
「傘、はやく開いて」
「あ、おう」
相合い傘なんて初めてかも知れない。以外に緊張するものだ。まぁ、男同士よりも良いとは思うが。
「ねぇ慎太」
「なんだ?」
「好き」
「ん?なにがだ?」
「慎太が」
「俺?」
「そう。私はね、慎太のことが好き」
唐突にそういわれて俺は戸惑った。ここで俺が受け入れたら俺たちはどうなるのだろうか。宗佐は去っていかないだろうか。バラバラにならないだろうか。
「ねぇ、返事は?」
考える。自分の意志を取るのか、皆とのバランスを取るのか。でもここで断ったら茜が離れていってしまうのではないか。色々と頭の中をコトバが飛び交う。
茜は上目遣いで俺をを見つめて答えを待っている。
「俺は……」
「俺は?」
「そうだな。茜のことは嫌いじゃ、ない」
「良かった。でも私はそれより先に進みたいの。友達の好きじゃなくて、もっと先」
分かっている。茜は恋人同士になろうと言っているのだ。
明日からどんな顔で宗佐と輝久に会えばいいんだ?そもそも伝えるのか?秘密にしておくのか?
「これは秘密にしておくのか?」
「秘密なら、いいの?」
秘密なら宗佐と輝久との関係も崩れないのだろうか。でもいずれはバレる。そうなったとき、秘密にしていた事が逆に仇になったりしないだろうか。
「いや。秘密にはしたくないな。どうせすぐにバレるだろうし」
「その口振りだと、OK、でいいの?」
「だから嫌いじゃないって言っただろ?
こういうときにはっきりと相手に好きだと伝えられる男になりたいものだと思ったのは胸の奥に仕舞ったが、茜にはバレているのだろうな。若干勝ち誇ったような顔をしている。
「それじゃ、もう近いから私はここから走って帰るね!また明日!!」
「おい、待てって!」
横断歩道の信号が点滅しているタイミングで茜は交差点に走り出す。大型トラックが目の前を通り過ぎた後に茜の姿はなかった。一瞬のことだった。
「忍者かよ、あいつ……」
今から追いかけても追いつかないと思ったし、追いかけて顔を合わせた時になにを話せばいいのか分からなかった俺はその場を後にした。
帰りのコンビニで母親に頼まれたごま油を買って家の近くのバス停前で救急車とすれ違う。
「雨の日の事故か。いや、病人かも知れないな。なんにしてもあれに乗る人は不幸なんだろう。救急車は白いけど、実際は悪魔でも乗っているんじゃないのか?不幸にならないと乗れないんだ」
「慎太、なにをブツブツ言ってるんだ?」
「父さんか。さっき通り過ぎた救急車を見てちょっとね」
「ただいま~」
家の前で偶然会った父さんと自宅に入り、どちらが先にお風呂に入るのかジャンケンなどして一人っ子だなぁ、とかお風呂の中で考えていた。
風呂上がりに母さんが誰かと家の電話で話している。
「あ、慎太。茜ちゃんのところから電話」
「ん?なんだって?」
「まだ帰ってこないんだけど、一緒にいないか?って」
「いや、さっきコンビニ近くの交差点で分かれて、茜は走って帰って行ったよ」
「そう」
母さんは受話器に当てた手を離して、俺から聞いた内容を伝えている。
茜のやつ、なにやってるんだ?
「母さん、俺、ちょっと思い当たるところがあるから、ちょっと見てくる」
「風邪引かないように髪の毛、ちゃんと乾かしてから行きなさいよ~」
「分かってるって」
次回、捜索