第6話 プレゼントと加護
『原初の神様へ、ソフィに逢わせてくれてありがとうございます。元気そうにしており、大変嬉しかったです。少ない時間でしたが有意義に過ごせました。本当にありがとうございました。神様も体に気をつけて、適度にゴロゴロしながら仕事を頑張ってください』
よし、神様へのお礼は終わりとして、あとはソフィにもプレゼントのお礼でも伝えておくか。
『ソフィへ、プレゼントの中身はまだ見てないけど、君がくれたものなんだから、きっといいものなんだろう。ありがとう。あと、久々に逢えてとても嬉しかったよ。相変わらず可愛かったし、お茶は美味しかったし。次はいつ逢えるかは分からないけど、楽しみにしておくよ。あと、体に気をつけて仕事を頑張ってな。愛してるよ、俺だけのソフィ』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
~ 原初の神様 side ~
「ふぉっふぉっふぉっ。良いのう……ソフィーリアがのめり込むのも分かるぞい。真っ直ぐな魂じゃ。ソフィーリアが寂しそうにしておったから、仕事を頑張ってるご褒美に逢わせてやったんじゃが、儂に感謝の祈りを捧げるとはのぅ。儂の楽しみでもあるゴロゴロを理解してくれるやつでもあるしのぅ。ソフィーリアには白い目で見られたが……」
何を隠そう、この神様はソフィーリアにベタ甘である。孫を相手にする時のお爺さんのように。今回の事もソフィーリアの為にやった事で、ケビンの事は割とどうでもよかった。
そして、やはりと言うべきか、ゴロゴロするのはソフィーリアに不評であったらしい。
しかし、ケビンの真っ直ぐな姿勢に対し、少し、ほんの少しだけ興味が湧いたのだが、ゴロゴロの理解者とわかると一気に関心度が増えた。
「どれ、儂の唯一の理解者にプレゼントでもするかのぅ。ソフィーリアもプレゼントを渡したようじゃしな。ゴロゴロの同志への餞別じゃ」
こうして、ケビンの預かり知らぬところで、原初の神様の関心を引き、勝手に同志へと定められたのである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
~ ケビン side ~
お祈りを無事に終えた俺は、その場で立ち上がり魔法陣から外へ出た。お祈りの言葉はきっと届いただろう。
「ケビン君、洗礼の儀式は以上になります。お疲れ様でした。ケビン君の祈りはきっと神様にも届いたでしょう。あとは、ステータスの確認になりますがやっておきますか? 洗礼の儀式後は祝福を受けているので、何時でもお越し頂ければ確認できるようになっていますから、特段今見る必要もありませんが」
祝福を受けないとステータスは確認できないのか? なら、産まれた後にステータス確認をしようと思っても、どっちみち出来なかったってことか。
こんなところでテンプレ忘れの救済処置があるとは、世の中捨てたもんじゃないな。まぁ、この世界の人たちにとっては当たり前のことだから、救済でもなんでもないんだが。
ソフィがプレゼント渡したって言ってたからな、あまり人前で確認するのは良くないかな? でも、このままずっと確認しないのも怪しまれそうだしな、悩みどころだな。
そう思っているとガイル司教が察したようだ。
「ステータス確認は、プライバシーに関することなので、司教である私と保護者のカロトバウン夫人とケビン君の3人で行いますよ。覗き見するような輩は厳罰に処されますから安心して頂いていいですよ。もちろん、立ち合った私自身も人に喋ると厳罰になりますよ」
なんと!? 異世界にプライバシー保護法があるとは! それなら、安心して確認でもするかな。プレゼントの中身も気になることだし、多分、何とかなるだろ。
「それなら、確認していきたいと思います。お手数でしょうがよろしくお願いします」
「えぇ、ではこちらに」
連れてこられたのは簡素な別室だった。部屋の中には、石造りの置物が1つあるくらいで、他には何も無かった。
「こちらにあるのがステータスを表示してくれる魔導具になります。使い方は簡単で、両手を石に乗せるだけです。乗せている間だけステータスが表示されるようになっています」
へぇーこれ魔導具なのか……確かに変な紋様とか入ってるし、ここに手を乗せればいいのか?
「では、私は後ろに控えていますので、試されてください」
試しに両手を乗せてみると魔導具が淡い光を放つ。すると、目の前にウインドウが現れステータスの確認が出来た。
ケビン・カロトバウン
男性 3歳 種族:人間
職業:年端もいかない子供
状態:ウキウキ
Lv.1
HP:5
MP:4
筋力:6
耐久:4
魔力:8
精神:6
敏捷:5
スキル
【言語理解】【創造】【センス】【隠蔽】【偽装】
【剣術適性】【魔法適性】
【身体強化 Lv.1】【属性強化 Lv.1】
【病気耐性 Lv.EX】【魔力操作 Lv.EX】
加護
女神の寵愛
原初神の加護
称号
アキバの魔法使い
女神の伴侶
ゴロゴロの同志
俺は速攻で手を離した。ヤバイ、色々とヤバイ……母さんもそうだったが、俺のステータスもツッコミどころ満載だった。
「ケビン? どうしたの?」
「い、いや……いきなり目の前に現れたからビックリしちゃって」
「あらあら、ふふっ」
とりあえず誤魔化すしかない。流石に本当のことは言えない。
「ははっ、そういうところはケビン君も年相応なのですね。まぁ、魔導具に触れたのも初めてでしょうし、特に危ない代物でもないですから大丈夫ですよ」
よし、母さんもガイル司教もいい感じに誤魔化せたようだ。まずは、自分のステータスを何とかしないと2人には見せられないな。
とりあえずスキル欄の中にあった【隠蔽】で何とかするしかないな。使い方は……よし、頭の中に流れてきた。これで、スキルと加護と何故かあった称号の欄を何も無い状態に隠蔽しよう。
よし、あとは普通に両手を乗せてゆっくり確認すればいいかな。ステータス値は低かったから、異常ってことはないだろう。
そして、改めて両手を魔導具の上に乗せる。
ケビン・カロトバウン
男性 3歳 種族:人間
職業:年端もいかない子供
状態:焦り
Lv.1
HP:5
MP:4
筋力:6
耐久:4
魔力:8
精神:6
敏捷:5
「ガイル司教様、表示されました。この後、どうしたらいいのですか?」
「カロトバウン夫人、拝見されますか?」
「そうね、折角だし見てみましょうか」
そう言って2人してこちらに寄ってくると、ウインドウを覗き込む。
「やはり、加護はついていないようですな。神像が光ったので『もしや?』と思っていたのですが」
「そうですわね。しかし、これからの成長もありますし、先を見据えた神様からの祝福かも知れませんわ」
「そういうこともあるかも知れませんな」
2人で談議するのはいいが、置いてきぼりはさすがに困るのだが。
「もう手を離してもよろしいですか?」
「おぉ、これは失礼を。もう手を離されて大丈夫ですよ。ついつい主役を差し置いてカロトバウン夫人と話してしまいましたな」
「お疲れ様、ケビン。アレスも待っていることだし、帰りましょうか?」
「はい、わかりました」
教会の入口へ進むと、直立不動のアレスが出迎えてくれる。もしかして、ずっとその体勢だったのだろうか? 休んでないのだろうか?
「それでは、ケビン君。機会があればまた来てください。あなたに神の祝福があらんことを」
「本日はありがとうございました、ガイル司教様。機会があれば是非お伺いしたいと思います」
そう答えると俺は馬車の中に乗り込む。母さんはすでに乗り込んでいたようだ。アレスも俺の乗車を確認したら御者台へ向かう。
「では奥様、出発します」
「お願いするわ」
帰ったらステータスの詳細を確認しないといけないかな。ステータスは魔導具を使わないと見れないような雰囲気だったが、母さんは魔導具無しで表示させていたから大丈夫だろう。
多分やり方はわかるが、いきなり使えるようになっていたら不審がられるかもしれないし、母さんに聞けばやり方を教えてくれるだろう。ノリノリで。
家についてからしばらくして、俺は母さんのところへ向かった。
「ねぇ母さん、聞きたいことがあるんですけど、少しお時間よろしいですか?」
「そろそろ来る頃だと思ったわ。ケビンは頭がいいから矛盾に気づいたのでしょ?」
「母さんには敵いませんね。ステータス表示の事を教えていただきたいのです。教会での事を考えると普通はステータス表示出来ないのですよね? 魔導具を使わない限り」
「そうよ。普通はね……周りに人もいないし教えてあげるわ。こっちへいらっしゃい」
ソファで寛いでた母さんの元へ向かい、隣へ座る。
「そこじゃないわ。ここよ」
そう言って、俺を膝上へと抱えて座らせなおす。母さんはここへ座らせるのが好きなのだろうか?
「ふぅ……。やっぱりケビンを抱っこすると落ち着くわ。精神安定のスキルでも持ってるの? というか、スキルは何も無かったわね」
「そうですね。それで、何故母さんはステータス表示が出来るのですか?」
「私が冒険者やってた事は教えたわよね。その時に、ソロじゃなくてパーティーを組むこともあったの。その組んだパーティーの中にね、嘘か本当かわからないけど、“異世界から来た”って人が居たの」
マジか……もしかして、召喚組の脱走者か? 勇者やってなかったら、冒険者やってるはずだしな。それか若しくは転移者だな。
「でね、その人と話している時に愚痴ったのよ。自分の強さを確認するのに教会に行くか、魔導具を買うかしなきゃいけないから面倒だぁって。そしたらね、そりゃ不便だなって言って、その後に自分はそんな事をしなくても見れるって言うのよ」
そりゃそうだよな。異世界から来るやつの特権みたいなものだしな。
「その時は『こいつ頭おかしいのか?』って思っちゃったんだけど、それが顔に出ててわかったのでしょうね。実際にやって見せてくれたときには驚いたわ。それから、そんな簡単に見られるなら、やり方を教えてくれって頼んだの。最初は凄く渋ってたんだけどね、私の根気勝ちで教えてくれることになったの。まぁ、教えてくれるまで襲い続けるって言って、戦闘を吹っかけてたんだけどね」
母さん何やってんだよ……心底、その異世界人に同情するよ。母さんが戦闘を嬉々として吹っかけている様子が目に浮かぶようだ。
「でね、最初に絶対守れって言われたことがね1つだけあるの。それはね、信用出来る相手以外には絶対見せるなってことなの」
「それは何で?」
「この力を使うとね、自分と同じ異世界人だって誤解されて、最悪強制労働させられるか、殺されるからだって。奴隷じゃあるまいし、そんな事あるわけないのにね」
今ので確定したな。その異世界人は召喚組だ。強制労働は勇者の仕事で、使い道がなければ殺されるってことだろうな。
「その異世界から来たって人は大変だったんだね」
「ケビンは会ったこともない人にも優しいのね」
会ったことはなくても、その人の状況はだいたい想像がつくからな。
「修行とかいっぱいしたの?」
「大してしてないわよ。コツさえ掴めばすぐに出来るわ。それに、使うのは頭の中の想像力よ。暇な時はそれに没頭してたからすぐに使えるようになったわ」
相変わらずハチャメチャな人だな。習得しようと思っても中々できる事じゃないと思うんだが。天性の素質と言うよりも天然の素質ってやつだな。
「分かったよ。暇な時は想像力を働かせてみるね」
「ケビンならすぐに出来るわ。なにせ私の息子ですもの。それと、自分だけが確認する時は『ステータス』って念じるの。で、相手に見せる場合は『ステータス オープン』って念じればいいわ」
「あれ? 母さんは声に出してたよね?」
「だってその方がカッコイイでしょ? 右手の掌を前に突き出すとポーズも決まってさらにカッコよく見えるし。その人に教えてもらったのよ」
あぁ、あの「伏せカード オープン!」みたいなノリか。母さんに何教えてんだよ異世界人……母さんは母さんでやっぱり子供よりも子供っぽいよな。無邪気というかなんというか。
「ありがとう。母さん。色々と試してみるよ」
「出来たらお母さんにも見せてね。楽しみにしてるから」
「うん。分かった」
そう言って、母さんの膝上から下りて自室に向かった。ベッドに横になると早速試してみるのであった。