第58話 ゴブリンキングダム
ギルドでクエストの受注をしたら、そのまま街を後にした。武器屋に寄って剣でも買おうかと思ったが、魔法が使えるからもう少しお金を貯めてから寄る事にする。
今回は森の深くまで進まなきゃ行けないので、寄り道できないことも理由の1つだ。
森へ辿りつくと、まずは今回のクエストで試したい魔法を、ラビット相手に練習する。
(傷をつけずにモンスターを狩るとなると、やっぱり窒息死だよな。毒はダメって言われてるから論外だし)
空気中の酸素を操るという事で、風属性の魔法を使い、ラビットの周囲から酸素が無くなるようなイメージをする。
この際、気づかれては逃げられるか攻撃をされてしまうので、自然の風をそのままに酸素だけ抜くイメージを強める。
「……(酸素……酸素……)」
(意外と難しい……そもそも、大雑把に酸素と定義しているけど、もっとイメージを詳細にした方がいいかも)
「……(O2……O2……)」
(これでもダメか……こうなったら、化学で習った大気の主要成分を参考にしよう。確か、窒素が8割弱くらいで、次に多いのが酸素の2割、アルゴンが1%弱程度で、二酸化炭素は0.03%くらいだったかな。他にも色々含まれてるけど、基本構成はこれだし、この中から酸素が無くなるとイメージしながら試すか。質量保存の法則は無視しよう。ダメだったら水蒸気も入れたやつで試してみよう。)
「……(大気の主要成分に酸素はない……)」
今まで無反応だったラビットが少し震えだした。その場から動き出そうとするが、痙攣しているような感じで動き出せていない。
少しすると横に倒れてピクピクしていた。その反応すらなくなったところで近づいてみると、泡を吹いて死んでいた。
「成功したな……取り敢えず収納して、と。凄いものを作ってしまったし、魔法名は何にしようかな?」
スキルの【創造】を意識しなくても、魔法が作れていることに本人は気づいていないが、自画自賛しながらも、肝心の魔法名が思い浮かばない事に悩んでいた。
「酸素……酸素……あっ! 《酸素消失》にしよう! 中二っぽいが別に気にする必要もないか。これを応用すれば、逆に酸素量を増やして火魔法の威力上げれるな。」
イメージ通りの新しい魔法を作ることに成功したため、若干(?)テンションが上がりまくっていた。
「そうだ、こうしちゃいられない。クエストのために来たんだった」
本来の目的を思い出し、森の奥へと突き進む。時折、魔物と出くわしては《酸素消失》を使いまくり倒していく。
森の奥へとどんどん進んでいくと、次第にゴブリンに出くわす回数が増えてきた。
「そろそろ集落に着くのかな?」
それから暫く歩いていくと、集落らしき物を遠くに発見する。【生命隠蔽】を使いつつ近づいて色々観察していると、見た目からして完全に集落だった。
「実はゴブリンって、知能高いんじゃないか?」
そんな感想を抱きつつも、【マップ】と【完全探知】の合わせ技でゴブリンの種類を確認していく。
「一通り揃ってるな。これはもう集落と言うより1個の国だな。“ゴブリンキングダム”と命名しよう。今回の依頼はキングの討伐だし。とりあえず、外に出てるやつらから始末していこう」
茂みに隠れたまま、ケンは《酸素消失》を連発する。
「数が多くて面倒くさい……範囲魔法として使えないかな」
そんな中、ゴブリンたちは、いきなり倒れた仲間に困惑していた。
「グギャ?」
ゴブリンが倒れた仲間を揺すってみるが反応がない……
「グゲッ! グゲゲッ!」
ひときわ大きな叫び声を上げたゴブリンが、辺りを警戒し始めた。その声に釣られてか、ワラワラと他のゴブリン達が集まりだす。
「グギャギャ、グゲゴ!」
(うん、何言ってるかわからないな。今の内に範囲魔法になるか試してみよう)
イメージを持ちながら、オキシロストを範囲的に使えるようにしてみる。
「グ……」
「ギャ……」
範囲的な使われた《酸素消失》によって、次々と倒れていくゴブリンたち。
(おっ、成功した! 範囲は狭いけど纏めて倒せるから効率的だな)
そんな中、杖らしきものを携えたゴブリンが出てくる。
「ゴギャ!」
そのゴブリンが叫ぶと、一斉にそこらにいたゴブリンたちがこっちに目を向けた。
(ヤバイ! バレた!!)
あのゴブリンは間違いなく“ゴブリンメイジ”だ。魔力の流れでも辿ったのだろうか? 隠蔽魔法は一度認識されると効果がなくなるから、こうなるともう使っている意味がない。
「急いで倒さないと! 多勢に無勢は避けないと!」
急いで範囲指定の《酸素消失》を連発する。しかし、そこはさすがと言うべきか……
統率の取れた指揮で、次々とゴブリンたちが出てくる。いつの間にかジェネラルが出てきていたようだ。
「くっ! 有象無象と統率の取れた集団では、やはり戦いやすさが変わってくるな」
どんどん出てくるゴブリンたちに、辟易しながらも地道に《酸素消失》を放っていく。
ゴブリンたちの数が減ったと思ったら、今度はゴブリンナイトが出てきた。ナイトとメイジの連携が取れていて、ナイトの攻撃の合間を縫って、牽制やら攻撃やらで魔法が飛んでくる。
「これやっぱり知能高くないか? 人と同じように戦術を使ってくるとは」
何とかしないと物量で押されてジリ貧になってしまう。色々思考を巡らせるが、魔法も飛んできてるので避けないといけないし、ナイトが詰めてきて近接戦もしないといけないしで、やることいっぱいだった。
それでも少しずつは数を減らし、回り込まれて囲まれないように、注意しつつ魔法を放っていく。
「1番簡単なのはジェネラルを倒すことだけど、あいつ1匹って事はないだろうしなぁ。どうしたもんか……うわっ、危ねぇ!」
考え事をしながら避けていたら、危うく魔法が当たる寸前で、地面に転がりながら回避できたのだが、体勢が崩れて次の行動が必然と後手に回ってしまった。
「グゲーッ!」
ナイトが振りかぶった剣を凝視する。
(これは不味い!)
視界の端では、次の詠唱に移っているメイジの姿。奥の方ではニタァと笑っているようにも見える、ジェネラルの姿が見て取れた。頭をフル回転させて取れる手段を模索する。
かなりの頭痛に襲われたが背に腹はかえられない。生命を失えばそこまでなのだ。とりあえず、ナイトの攻撃を横に転がりながら、なんとか避けると、すかさずメイジの魔法が飛んでくる。
その間もフル回転中の頭で思考を巡らせると、頭痛が最高潮に達した時、不思議な声が聞こえてきた。
『スキル【並列思考】を獲得しました』
(何だ!? 誰だ!?)
過度の使用のせいで頭が痛いのに、その上変な声まで聞こえてくる始末。混乱する中、最悪の状態ではあったが、先程よりも思考が楽になった気がした。
敵の攻撃を避けつつも、何故か打開策を同時に考えられるようになっていた事に不思議に思いながら、目の前の攻撃を対処していく。
(わけがわからないが、とにかくこいつらを何とかしないと)
攻撃を避けつつ範囲指定の拡大に心血を注ぐ。もとより、綺麗な状態で倒そうとしなければ、楽に終わらせることが出来ていたのに、意固地な性格からか、何としてでも綺麗な状態で倒すことにこだわっていた。
「よし、くらえっ!」
広範囲の《酸素消失》を使い、視界内のゴブリンたちを一気に殲滅すると、次々と倒れるゴブリンたちに漸く一息つくことが出来た。
「はぁ……しんど」
とりあえず、出てきていたゴブリンたちを全員倒したのを確認して、その場に座り込んだ。残りは探知に反応している洞窟の奥深くだろう。
洞窟内の残党は、動き出す気配がまだなかったので、暫く休むことに専念するのだった。
死体の山の中、場違いなぐらいにくつろいで休憩を取りながら、物思いに耽けっていた。
「傷をつけずに倒すのって、集団戦ではかなりきついな。ま、達成感は一入だけど……あぁ、動くのがしんどい……死体を回収して回るのが面倒くさいし、楽できる方法を今の内に考えよ」
そもそも【無限収納】へ入れるのに、手で触れなきゃいけないのが面倒くさいんだ。そんな決まり事は誰が作ったんだ? 誰が決めたかは知らないけど【創造】があるんだし改造しよう。
そこからは楽するための努力を開始した。まずは【無限収納】をベースとして、手で触れなくてもいいように作り変える。
実際、死体とかにあまり触りたくなかったのだ。普通に考えてグロいでしょ。こちとら普通の日本人だよ? 今は中身だけなんだけど。
「よし、試作1号完成。試しにそこの死体を……出来た!」
次は、距離の無効化だった。手で触れなくても、近くまで行かないと回収できないのでは、効率があまりにも悪すぎた。これは無駄に範囲を指定するよりも、視界内に入っていれば出来るように改造した。
「試作2号完成。では、さっそく……よし! ここまで出来たら上出来だな。でも、欲を出すのが人間というものだ。視界内に収めても、見えていなければ回収できないなら、見えていなくても回収出来るようにしてみたい」
出来るかどうか分からなかったが、物は試しと思いつつ、どうやって見えない物を収納するか考えた。
「こういうのは死体に限らず、ありとあらゆる物を収納出来るようにしたいな。そうなると……見えない物を見るのだから透視能力が必要か? いや、透視のシステムがわからないから、作るのに難儀しそうだな。それなら、対象を指定して回収する方法なら難易度は下がるかな? 対象の指定は元々【無限収納】についてる機能だし」
色々と思いつく限りの方法を考えつつ、プランを練っていく。
「やっぱり【マップ】を使いつつ、回収するのが1番楽かな。【マップ】に対象を指定する機能を付けておいたし。そうなると、【マップ】と【無限収納】の結び付けだけで、出来るようになるかな?」
さっそく【マップ】と【無限収納】が連動出来るように、【無限収納】改造していく。
「よし、試作3号完成! では、【マップ】でゴブリン種の死体を検索して……」
視界内に映るマップに、灰色で▼のマーキングがついていく。
「おぉ、結構見えない場所にもあるな。これに【無限収納】を使えば……」
マップ上で認識している▼が次々と消えていく。
「やった! 成功した!! これで回収が楽になるし、わざわざ視界内に収めなくても済む。これを完成形にしよう」
『【無限収納】が【創造】スキルによる改造により、バージョンアップされました』
「ん? そういえば、戦闘中もこの変なアナウンスが頭の中に流れたな。あの時は頭が痛いのに、傍迷惑なアナウンスだと思ったが……あなたは誰ですか? それとも、この異世界はそういう仕様なのか?」
『……』
「反応がないな……レベルアップみたいなイベントが起きないと、アナウンスが流れないのか? やっぱりそういう仕様か? 考えても仕方ないし、スキル改造で時間もかなり掛けてしまったから、早くキングを倒しに行くとするか」
頭のアナウンスは反応がなくなったので、洞窟の中に残っているゴブリン種の残党狩りへと向かった。
洞窟の入口には変な骨の頭部が飾ってあり、如何にもな雰囲気を醸し出していた。
「明らかに外とは別ですよ的な飾りだな。キングのいる場所って考えると納得もできるが」
洞窟内に入ると暗闇が広がっており、いくら外から太陽光が差し込んでいても奥までは光が届いていなかった。
「暗いな。《ライト》」
空中に光の玉が出てきて辺りを照らす。すると、奥まで続く道の他に、横道なども存在していたことがわかった。
「へぇ、結構入り組んでるんだな。隠し通路とかあるかな? 財宝溜め込んでたりして。【マップ】を使えば全部わかるんだろうけど、それじゃ味気ないしな。とりあえずこのまま適当に進んで、キング倒した後にゆっくり探索するか」
そのまま真っ直ぐ奥へと進む道を選んで、脇道には帰りに寄ろうと心に決めた。途中で、ゴブリンナイトと遭遇したが、仲間を呼ばれても面倒なので瞬殺する。
「やっぱりキングの根城はナイトで固めてあるな。本当に国みたいだ……大方、キングの傍にはジェネラルがいるんだろうな。メイジも控えてそうだ」
そんなお決まりみたいなフラグを立てつつ、最奥へと歩みを進めた。ひときわ大きな広場に出ると、予想通りのメンツが揃ってた。
中央にはこれ見よがしに、手作りの禍々しい玉座に座るキング、右手側にはジェネラル、左手側にはメイジが控えていた。
そこに至るまではナイトが整列しており、まさに、人間の真似事みたいな風景だ。
「ここまでくると、高い知性を感じずにはいられないな」
「ほう、人間にしては見る目があるようだ」
独り言ちたつもりで呟いた言葉に、キングが返してきた。
「お前、喋れるのか!?」
まさか喋れるまでの知性があるとは思わず、普通に聞き返してしまった。
「当たり前だ。俺様は歴代最高のキングだぞ。そんじょそこらの下等な魔物と一緒にされては困る」
「そんなに高い知性があるなら、何故人間が住まう地域の近くに、国を構えたんだ? 王国騎士に攻めこまれるのがオチだろ?」
「そんなのは簡単だ。ゆくゆくは支配地域を拡大し、人間の国を攻め滅ぼすためだ。男どもは殺し、女は苗床にする。まぁ、多少の男は残すがな……家畜が女だけになったらそれ以上増えないから、苗床の確保が面倒になる」
「そうか……高い知性を持っていても、所詮は魔物ということか」
人間を家畜にするという言葉に、ケンは酷い不快感を感じるが、そもそも魔物だから価値観が違うのだろうと、無理やり自身を納得させる。
「ここまで来たんだ。お前はそれなりに強いのだろう? 俺様の配下になるつもりはないか? 女なら掃いて捨てるほど与えてやるぞ? お前ら人間の男はハーレム願望があるのだろう?」
「まぁ、確かにハーレムは男の浪漫だが、人から与えられたものじゃ満足できないな。あぁ、人じゃなくて下等な魔物だったな」
「ふん、活きのいいガキも悪くはないが……だが、俺様をそこらの下等な魔物と同じに語ったことは許さん。お前はもう必要ない、配下どもの餌になるがいい……殺れっ!」
その言葉を皮切りに、整列していたナイトたちが一斉に襲いかかってくる。背後に控えるメイジが魔法を唱えているが、キングの側近とあってか、今までのメイジとは格が違うようだ。発動までの時間が短い上に、威力も高そうに見える。
「俺様に楯突いたことを、後悔するがいい!」
勝利を確信して揺るがないキングは、余裕の笑みを浮かべている。
「お前は俺に出会ったことを後悔するがいいさ。《酸素消失》」
魔法を受けたナイトは苦しみもがきながら倒れ、ピクピクと痙攣している。そんなのもお構いなしに、次から次へとやってくるナイトに辟易しながらも回避行動をとるが、回避先に魔法を撃ってくる、メイジのいやらしさに冷や汗をかく。
素材を傷つけないという縛りプレイを、自らに科しているケンは、普通の冒険者たちが戦いに挑むよりも、格段に難易度が高い状態での戦闘を繰り広げていた。
それでも確実と言える場面では魔法を放ち、敵の数を減らしては逃げての繰り返しをしていた。
傍から見れば無様な戦い方だが、確実に数は減っていった。しかしながらメイジのいやらしい魔法を、完全に避けきることはできずに、時折被弾はしている。
とうとう最後のナイトを倒したところで、多勢に無勢の状態から、たった3匹まで減ってしまったゴブリン種たち。残るはキングとその側近であるジェネラルとメイジだけだった。
「はぁ……はぁ……で、後悔したか? 俺様野郎」
「ふざけるなぁ! お前ら殺れっ!」
ジェネラルとメイジが連携を取りつつ攻めようと動くが、今回は数が少ないので、厄介なメイジを先に倒すことにして魔法を放つ。
「《酸素消失》」
メイジが倒れても気にすることなく、ジェネラルが襲いかかってきた。身の丈2メートルは確実にあるであろう、その剛腕から振り下ろされる斬撃を、余裕を持って回避する。
ナイトたちの戦いで動き回ったから、体力的な心配もあり長引かせるわけにはいかなかったので、メイジを先に倒しておいたのは正解だったと認識しながらも、残るジェネラルを倒した。
「とうとうお前だけになったな。キング」
玉座へ振り向くと、キングはわなわなと両腕を震わせていた。
「な、な……」
「お前が持ってる高い知性を活かして、ここから離れるんだったら、見逃しても良かったんだがな。人間を家畜にすると聞いてしまった以上、生かしておくわけにはいかない」
「おのれぇぇっ!」
キングが怒りを顕にすると、傍らに掲げてあった大剣を掴み取り、玉座から立ち上がる。やはりキングだけあって体躯はかなりのものだ。
だが、空気を読まない俺は、わざわざキングと剣を交わすような熱きバトルはしない。そう、しないのだ! 理由は、無駄に縛りプレイをして疲れたから!
「《酸素消失》」
たったそれだけで、キングは倒れた。この魔法を作るのに大分頭を悩ませたものだが、酸素を必要とする生き物に対しては、絶対的なアドバンテージが取れる、無双の魔法だ。……多分。
「まだまだクエストが残ってるんでな。お前だけに時間をかけるわけにはいかないんだよ。縛りプレイで疲れている上に、余計に時間がかかっているからな」
空気を読まない戦法に、誰に対してでもなく言い訳っぽく独り言ちる。
「さて、ゴブリン種を回収して探索するか。キングの剣は良さげだから貰っておこう。高値で売れるかもしれないし、他の奴らのも貰っておくか」
一通り回収し終わったら、洞窟の残りの区画を探索するため、広場を後にする。
「まだ昼だけど巻きで進めよう。本当はじっくり探索したいけど、まだ残りのクエストが終わってないしな。さすがに門が閉まるまでには街に戻りたい」
ケンは【マップ】を使って、洞窟内の見取り図を表示させる。完全なイージーモードで広い区画を順次回っていき、ゴブリン達が貯めてたであろうお宝を回収する。
「てっきり苗床にするために、女性を攫ってると思っていたが、1人もいなかったな」
俺的にはテンプレの、くっころさんがいるかと思っていたんだが、早々上手くはいかないようだ。
ケンが洞窟の外に出ると、この場所をゴブリンに再利用させないために、洞窟の入口を土魔法でしっかりと固めて塞いだ。
作業が終わったら、次の目標を決めるために思考を巡らせる。
「ここから近くにいるモンスターは……オークか。その後に、キラーアントの殲滅に入るかな」
ケンは、時間も押していることもあってか、早々にその場を立ち去り、次の目的地へと行くのであった。




