表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面倒くさがり屋の異世界転生  作者: 自由人
第1章 異世界転生
6/215

第4話 誕生

 次の日の朝、というか朝なのかどうかも此処では分からないが……目覚めた後に身支度を整えて2人でダイニングへ向かい軽い食事を終えると、とうとう転生の時がやってきた。


「もう、やり残したことはない?」


「ないと言えば嘘になるが、いつまでもここにいる訳にはいかないだろう?」


「それもそうだけど、健が望むなら転生しないでここに残ることも可能よ?」


「それはありがたい申し出だがそういう訳にもいかないだろ? ソフィーリアがせっかく作ってくれた機会だ。きちんと転生して新たな人生を楽しんでみるよ」


「ちなみに転生先は産まれてからのお楽しみだから、今は言わないでおくわね」


 そう言って微笑むソフィの顔はどこか悲しげだった。


「そんな悲しい顔をしないでくれ。決心が鈍るから笑って送り出してくれないか? ソフィの笑顔は格別だからな。愛する妻の笑顔を見ながら転生したいんだ」


「いつも甘い言葉に乗せられると思ったら大間違いよ」


「そう言いつつニヤニヤしているのは、何処の誰かな?」


「ふふっ。やっぱりあなたといると楽しいわ。さぁ、お別れの時間よ。これから第2の人生を楽しんでね。愛してるわ、健」


 健の足元に魔法陣が現れ、光を放ち始める。


「あぁ、精一杯楽しんでみるよ。愛してるよ、ソフィ」


 視界いっぱいに光が満ちると、健の意識はそこで途絶えた。


「頑張ってね、健。いつまでもあなたの人生に幸あらんことを願っているわ」


 そしてソフィーリアは暫く健のいなくなった場所を眺め続けた。時が経つのも忘れて……


「さぁーて、仕事でも再開しましょうかね。あまり溜め込むと健に逢いに行けなくなっちゃうし」


 それからのソフィーリアは、寂しさを紛らわすかのように仕事に励むのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 時は経ち、とある執務室で。


「旦那様、元気な男の子が産まれました! 母子ともに健康です」


「それは本当か!? よし、仕事は後回しだ!」


 仕事を一旦切り上げて廊下を歩いて行く中年男性の後ろに、報告へ来ていたメイドも遅れぬようについて行く。


(バタンっ!)


 勢いよく扉を開けて部屋の中へ入ると、ベッドで休んでいる女性の傍らへと歩みを進めていく。


「あなた……そんなに騒がしくしては、この子が目を覚ましてしまいます」


「おぉ、すまん。嬉しくてついつい、な。それはそうとして、我が子の顔をよく見せておくれ」


「どうぞ、お抱きになって。今はスヤスヤと眠っていますから」


「お前に似て綺麗な顔立ちだな。将来はきっと女泣かせになるだろう」


「目元とかはあなたにそっくりですよ」


「そうか、そうか、私に似ているのか。今はまだ小さいが将来はきっと立派な男に育ってくれるだろう。大きくなるのが楽しみだな」


「あなた、早く可愛いわが子の名前をお決めになって」


「うむ。そうだなぁ……ケビンにしよう! 今日からお前はケビンだ!」


「まぁ、素敵な名前ですこと。我がカロトバウン家にピッタリですわね」


 メイドが部屋の隅で控える中、2人は我が子を抱きながら暫く歓談したのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 それから数年の月日が経過して家族に囲まれながら楽しく過ごしていたケビンは、大した病気もせずにすくすくと育っていった。


 とある日の朝、俺はいつも通りソファで寛いでいたら、母さんがやってきて隣へ座った。


「今日はケビンの3歳の誕生日ですよ。夜にはご馳走がいっぱい出るから楽しみにしててね」


「ありがとう、母さん。今から楽しみだよ」


「相変わらずケビンは落ち着いているわね。とても3歳には見えないわ。大人びているケビンも素敵だけど、お母さんとしては歳相応のケビンをもっと見てみたいわ」


 母さんには申し訳ないが、歳相応の対応というのは難しい。子供っぽい行動が取れるように努力はしているのだが、何せ前世の記憶を持ったまま転生したからな。如何せん恥ずかしい場合がある。


 この世界に産まれてからというもの、最初の方はとても苦労したものだ。自分の意思で動けなかったり言葉を話せないのは当たり前なのだが、それ故にトイレに行けずオムツの中に垂れ流すという行為になり、とても気持ちが悪かった。そんな時は泣いてアピールをすると、すぐに交換してもらったのだが。


 1番の苦行はやっぱり食事だろう。俺からしてみれば母親の母乳を飲むというのは、食事であると理解していてもドキドキするものだ。


 いくら母親だと言われても、感覚的には若い女性の胸にむしゃぶりつくわけだからな。


 とある人種には「ご褒美です!」と言って喜びそうなものだが、俺にはドキドキして理性を保つのに苦労するばかりで無理だった。ある程度成長して離乳食になった時はとても嬉しかったものだ。


「それと今日は3歳になったから、教会へ行って《洗礼》を受けなきゃいけないわ。準備が出来たら出発するわよ」


「洗礼って何?」


「神様にお祈りして加護を頂くのよ。加護と言っても何かあるわけではないわ。神様へ無事に成長出来たことへの感謝をするの。たまに洗礼の時に加護がつく人もいるけど、滅多にいないわ。殆どの人は祝福されて終わりよ」


「へぇー、加護ってどんなのがあるの?」


「そうねぇ……剣術だったら《剣術神の加護》、魔法だったら《魔法神の加護》、商売だったら《商業神の加護》、他にも色々あるだろうけど、それぞれの道を頑張っていたら、いつの間にか加護がついてるって感じなのよ」


 そうか……この世界は色々な神様がいるんだな。勉強とか面倒くさくてしなかったから、そこら辺の知識がないのが痛い。


 それに、産まれてからは魔力操作の練習ばかりしてたしな。【創造】を使うのには必要不可欠なスキルだし仕方ない。


「母さんは何か加護を持ってるの?」


「ふふっ、気になる? 見てみたい?」


 母親は聞かれたのが嬉しいのか、ニコニコしながら返答を煽ってくる。


 そもそも加護って簡単に見れるのか? 話の流れ的に教会へ行かないとわからないと思い込んでいたんだが。洗礼で加護がつく人もいるって言ってたしな、ここはとりあえず母さんの望み通りに子供っぽく答えてみよう。おねだりする子供のようにはしゃぐ感じで。


「見たい! 気になるから見せて!」


 ケビンが子供っぽくオネダリしてみたら、サラに対してそれは効果覿面だったようだ。


「しょうがないなぁ、ケビンには特別に見せてあげよう。みんなには秘密だぞ」


 案の定ノリノリだな。母さんってたまに口調が砕けて子供っぽいノリになるけど、こっちが素なのか?


「ステータス オープン!」


 母さんの目の前に半透明のウインドウが現れる。


「!!」


 そうだ、忘れてた! ラノベだと定番のテンプレワードじゃないか!


 やってしまった……この3年間、無意に過ごしたかもしれない……自分のステータス確認とか初期にやることだった。


「驚いた? 驚いたよねー? お母さん凄いでしょ?」


 母さんごめん。確かに……確かに驚きはしたけど、それは自分の馬鹿さ加減にです。大事なことを忘れているとはありえないです。あぁ、穴があったら入りたい。


 でも、俺が転生者なのは誰も知らないからセーフか? テンプレを忘れていたなんて恥ずかしいことは言わなきゃ誰にもバレないだろ。むしろ知り合いなんていないし、この世界にテンプレなんて言葉はないだろうし。


「さぁ、一緒にステータスを見ましょうね」


 そう言いつつ母さんが俺を抱き上げると膝の上に乗せた。母さんの見事な双丘がちょうど頭の後ろにきていいクッションになる。


 表示されてるステータスにとりあえず目を通してみるか……




サラ・カロトバウン

女性 ??歳 種族:人間

職業:Aランク冒険者

   カロトバウン男爵家夫人、主婦

状態:健康


Lv.75

HP:910

MP:425

筋力:825

耐久:790

魔力:345

精神:310

敏捷:850


スキル

【身体強化 Lv.9】【剣術 Lv.4】

【細剣術 Lv.9】【盾術 Lv.4】

【気配探知 Lv.7】【気配隠蔽 Lv.7】

【魔力探知 Lv.6】【魔力操作 Lv.6】

【礼儀作法 Lv.6】【家事 Lv.6】

【子育て Lv.6】【猫かぶり Lv.10】


加護

剣術神の加護

猫神の加護




 ん……? ちょっと待ってみようか。色々とツッコミどころ満載なんだが。まず、なんで年齢が“??”なんだ? 女性に年齢の話をするのは禁句だとわかっているが、そのせいか? 聞くなってことか?


 いや、男は度胸だ! 子供だから知らなかったで許容してもらえるだろう。いざ行かん、死地へ!


「母さん、年齢が“??”になってるけど、何で?」


 その瞬間、絶対零度たる空気が辺りを包んだかのように思えた。それは一瞬のことであったが、確かに感じ取ることができた。


 俺、早くも死んだか?


「……ケビン? お母さんの年齢が知りたいの?」


 ガクガクブルブル……


 今の心境はまさにこんな感じだった。だが、ここまできて引くわけにはいかない。死地へ赴くと決めたのだ! 俺は勇気を振り絞って答えてみた。


「ダメなの?」


「ケビンはまだ子供だから知らないのよね。いい機会だから教えてあげるわ。大人の女性に対して年齢を聞いてはいけないのよ? これは紳士の嗜みなんだから」


「もし、うっかり聞いちゃったらどうなるの?」


「その時は子供だったら許されるけど、大人だったら死を覚悟するしかないわね」


 マジで!? 死ぬほどのことなの? 年齢を聞くのに命をかけなきゃいけないの? 死にたくないし、今後は気をつけるようにしよう……


「わかった。立派な紳士になれるように頑張るよ」


「さすがはケビンね。偉いわ。スキルについてはわかる?」


 今サラッと話題を逸らしたな。結局何歳なのかは答えてないし……蒸し返したら絶対零度を浴びなきゃならないので、このまま話に乗っかるとしよう。


 それにスキルにもツッコミどころはある。こっちは年齢が関係してないから答えてくれるだろう。


「ある程度は分かるよ。【猫かぶり】って何?」


 俺の予想が正しければあのことだろうが、あえて答えてくれるか聞いてみよう。


「それはね、大人しい人につくスキルなのよ」


 端折ったな、母さん。本来は本性を隠して大人しくしている人のことだろう? つまり、この話題も触れてはいけないということか。タブーが多いな母さん。


 それにしても子供っぽい対応の時に、俺以外の人がくるといきなり淑女になるのはこのスキルのおかげか。


「レベルって10が1番上なの?」


「そうよ。お母さんは大人しいからレベルが10まで上がったの」


 どうやら大人しい人用のスキルで通す気らしい……しかも、レベルMAXとは恐れ入る。


「【猫かぶり】があるから加護に《猫神の加護》がついてるの?」


「ケビンは頭がいいわねぇ。その通りよ。【猫かぶり】を続けていたらいつの間にか加護がついていたのよ」


「じゃあ、母さんはその道を頑張っていたんだね。凄いし、尊敬するよ」


 本当に凄いよ。猫かぶりを極めるとは……しかも、加護つきだし……


「ケビンに褒めてもらえてお母さん嬉しいわ。でも、【猫かぶり】と《猫神の加護》のことは他の人に言ってはダメよ?」


「何で? 母さんの頑張った証なのに教えちゃダメなの? みんな褒めてくれるよ」


 ぶっちゃけ褒めてくれる人はいないだろうが……


「世の中にはね、ケビンみたいにいい子ばかりじゃないの。スキルのレベルが高いと妬みや僻みで、嫌なことをしてくる人もいるのよ。お母さんが虐められるのは嫌でしょう?」


 そう来たか……あえて本題には触れずに在り来りな話でもって、本命には近づけさせない巧みな話術だ。この言い方なら【猫かぶり】云々よりも、スキルのことは他人に話しちゃダメとなる。


「あら? 新しいスキルがついたわ。このことも秘密よ?」


 ウインドウに目を向けると、確かに新しいスキルを覚えていた。


【話術 Lv.2】


 これって今までの話しが原因だよな? しかも、いきなりLv.2からって……


「母さん、凄いよ! 新しいスキルだよ。それに母さんが虐められないように、僕が守るよ!」


「ありがとう、ケビン。お礼にギュッてしてあげるわ」


 ギュッてされると、俺の頭は双丘に埋もれるんだが。


 あぁ、柔らかいな……ここは天国か……?


『ふふっ、ケビンは抱き心地がいいわ。本当ならもっと色々な項目があって

隠しているけど、それは大人になってから教えようかしら。ケビンから怖いお母さんだなんて思われたくないし』


 サラが任意に項目を隠してステータスを表示させていたことなど、今日初めてステータスを見たケビンが知るはずもなく、ありのままのステータスを信じきっていたのはひとえに母親への信頼の証だろう。


 そして、サラのステータスが隠されたものだったと知るのは、ケビンにはまだ遠い先の未来のことであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ