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面倒くさがり屋の異世界転生  作者: 自由人
第8章 ミナーヴァ魔導王国
174/215

第172話 挨拶巡り1

 婚約者やお世話になっている人たちへの物作りが終わった翌日、早速配って回ることにした。


 ティナさんやニーナさんが何かとついてこようとしていたが、こればっかりは同行を許可できず、母さんと一緒にお留守番を頼んだ。


 まず向かったのはギルドだ。そのままスタスタと解体場まで足を運ぶとライアットさんが目に入ったので声をかける。


「ライアットさーん」


「おぉ、ケビン。素材か?」


「いえ、今日はいつもお世話になっているライアットさんに、お礼として贈り物を持ってきました」


「贈り物ぉ? 野郎からは貰いたくはねぇな」


「まぁ、そう言わずに。頑張って作ったんですから」


「しかも手作りか!? 俺にそっちの気はねぇぞ」


「俺だってありませんよ」


 このままでは話が進まないので【無限収納】から、解体道具とマジックバッグを取り出した。


「これです」


「解体道具とバッグか?」


「はい、解体道具は独断と偏見で7つ作りました。素材はミスリルとダンジョンの深層にいる魔物です。効果付与で本人認証と清潔と不朽をつけてあります」


「待て待て待て! ミスリルに深層の素材だと? しかも効果付与だと!?」


「汚れることがなく壊れませんから、仕事には持ってこいだと思います。防犯対策もバッチリでライアットさん以外の人には重くて持てません」


 実際にはいくら力を加えて持ち上げようとも、同じ力の分だけ反転したベクトルが発生して相殺されてしまうので、重く感じてしまうというだけである。実際の質量は物相応で、認証されている本人にはベクトルの反転が起こらない。


 ケビンにそんな知識や技術はないので、スキルと魔法が頑張った結果である。本人もここまでの物ができあがるとは思っておらず、付与したあとはその性能にビビったくらいだ。


「……」


 ライアットは心底ありえないといった表情でケビンを見つめているが、ケビンの説明はまだ続く。


「次はこのバッグです。マジックバッグにしてあります。容量はこの解体場の広さを余裕で賄えて、時間経過はありませんので素材が痛むことがないです。これにもさっきと同じ付与がついています」


 疲れきった表情のライアットがケビンに声をかける。


「なぁ、ケビン……」


「はい?」


「これ、国宝物だぞ……」


「そうするのは無理ですね。ライアットさん専用になっていますから。これらを扱えるのは作った俺かライアットさんだけです」


「はぁぁ……とんだ贈り物だな。こんな価値のある物は初めてだ。大事に使って家宝にさせてもらう。ありがとな」


「喜んでもらえて何よりです。これで俺が素材を持ち込んでも、もう大丈夫ですね。ここを埋め尽くすことがなくなりますから」


「それが本当の狙いか?」


「いえ、以前から不思議に思ってたんですよ。どうしてギルドはマジックポーチを所有していないのか。それがあれば解体場を埋め尽くすこともないですから」


「そりゃあ簡単だ。防犯対策が取れない上に高級品だからな。盗まれたりすり替えられたりした日なんか目も当てられない」


「やっぱり防犯対策がネックだったんですね」


「まぁ、これからは大丈夫だな。これは俺以外には扱えないんだろ?」


「はい。バッグの方は取り出すことすらできません」


「やっぱり国宝物だな……だが、これで仕事の効率も上がる。いい物をありがとな、ケビン」


「いえ、これからもよろしくお願いします」


 ケビンは解体場を後にすると、次はカーバインの元へと赴くためにギルド長室へと足を運んだ。ドアの前に立つとノックをしてから様子を窺う。


「入れ」


「カーバインさん、失礼します」


「おっ、ケビンか。いきなりどうした?」


「今日はいつもお世話になっているカーバインさんに、お礼の品をお持ちしました」


「そんな気を使わなくてもいいぞ」


「俺が好きでやっていることですから受け取ってください」


 ケビンは【無限収納】から社長椅子を取り出した。


「こちらの品です」


「立派な椅子だな。高かったんじゃないのか?」


「いえ、手作りです。いつも腰痛に悩まされているカーバインさんのために、楽に仕事ができるように作りました」


「へぇー嬉しいことだな。このボロ椅子より全然いいぞ」


「こちらの椅子は、ダンジョン内の深層にいる魔物の素材で作っていますので、それなりに丈夫ではありますが、付与効果として本人認証と清潔と不朽、更に休息をつけてあります」


「ちょっと待て、今、聞き捨てならない言葉が混じっていたぞ」


 ケビンのとんでも発言にカーバインの眉間に皺がよるが、そんなのお構いなしにプレゼンは続く。


「付与の説明ですが、カーバインさんと俺以外に動かすことはできません。他の人が座ることは可能ですが効果は発揮しません。更に汚れることがなく、壊れません。そして、メイン機能は体への負担を軽減して、微々たるものですが疲労回復効果がついています」


「あぁ……頭痛くなってきた……」


 ケビンのせいで頭痛を起こしているのに、待ってましたと言わんばかりにケビンが動き出して、社長椅子を側まで運ぶ。


「さぁ、今こそこの椅子に座って下さい! 疲労回復効果が実感できるはずです!」


 テンションの高くなったケビンに促されるまま、カーバインは社長椅子へと座り直した。


「ふぅぅ……座り心地は最高だな」


「そうでしょう、そうでしょうとも。腰痛や疲労の方はどうですか?」


「腰痛も前の椅子に比べると段違いだ。疲労は肩が軽くなった感じだな」


「素晴らしい! 是非この機会にこちらの椅子への変更をご検討下さい」


「そうだな、折角お前が作ってくれた物だ。ありがたく使わせてもらう」


「やった!」


「だが、付与の件は話が別だ」


「え? ……何のことでしょうか?」


 若干、雰囲気の変わったカーバインにケビンは冷や汗を流す。


「このとんでもない代物を他にも誰かにやったか?」


 ケビンは直立不動のまま、咄嗟に思いつく限りの言い訳を答えた。


「いえ、その()()はギルドマスターであるカーバインさんにだけ作った物です!」


 有り体に言えば椅子はその1脚だけだと示唆して、他の人へやる物は別物だからバレないだろうという安易な言い訳である。


「そうか……それならばいい。あまり凄い物を出していると、よからぬ者たちから狙われるぞ」


「ご忠告ありがとうございます! それでは、失礼します!」


 ケビンはボロが出る前に、そそくさとギルド長室を後にして逃げたのだった。


 後になってライアットとばったり会ったカーバインが、ケビンから贈り物を貰ったと喋った(効果は秘密)ことにより、ライアットも同じく貰ったと喋り、不審に思ったカーバインがライアットを連れてギルド長室へと行く。


 ライアットにことの次第を確認したところで、ケビンの言い訳に苦虫を噛み潰したような顔となるカーバインだが、ライアットはケビンのやってのけたこととカーバインの様子を見て、楽しそうにゲラゲラと笑っていたのだった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 無事にギルド長室から逃げ(おお)せたケビンは、次の目的地へと向かっていた。


 トボトボ歩いてやってきたのは学院である。兄姉たちにプレゼントを渡すためだ。


 気配を隠蔽しつつ手馴れた感じで門を通り過ぎていき、久方ぶりの学院内へと侵入する。


 そのまま目的地である高等部へと足を運ぶと、幸いなことにお昼の休憩時間に入っていたようで授業が終わるのを待つ心配がなくなった。


 3年Sクラスに到着したケビンは教室の中で兄を探す。どうやら休憩時間は読書を楽しんでいるみたいだった。


 ケビンは机の前まで足を運ぶと、アインに声をかける。


「やぁ、アイン兄さん。疲れは取れた?」


 声をかけられたことで本から目を離し顔を上げるが、目の前にいきなり弟が現れたことにより、驚きで目を見開いた。


「驚いたようだね、ドッキリ大成功だよ」


「やぁ、ケビン。学院には2度と来ないと思っていたよ」


 2人の会話に周りの生徒たちはザワザワと騒ぎ始める。子供がいきなり現れたこともそうだが、その子供は親善試合で三帝を打ち破った圧倒的強者であったからだ。


 個人戦最終日の変則試合はあちこちで話題となっており、記録映像も今までにないプレミア価格がついて、出回っている数が少ないことから入手困難となっている。


「今日はどうしたんだい? 旅立ちの挨拶かな?」


「まだ帰国はしないよ。今日はアイン兄さんに迷惑をかけたお詫びにプレゼントを用意したんだ」


「迷惑? かけられた覚えはないよ?」


「俺が暴走した日だよ」


「あれを迷惑だなんて思ってはないよ。家族として当たり前のことだ」


「んーそれじゃあ、お世話になっているお礼に」


「兄が弟の世話をするのは当然だろ?」


「じゃあ、大好きな兄さんに」


「それなら受け取るしかないね」


 ようやく受け取って貰えることにありつけたケビンは【無限収納】から剣を取り出した。


「剣をくれるのかい?」


「そうだよ。アイン兄さん専用に作った剣だよ。家紋もちゃんとつけてある」


 アインはケビンから受け取った剣の造形美に感嘆として声をもらす。


「すごい……」


「その剣の素材はミスリル。付与効果として、本人認証と鋭利、清潔と不朽をつけた。簡単に説明すると、俺とアイン兄さん以外は扱うことができないし、斬れ味は上昇して落ちることはなく、汚れることがなくて壊れることがないってこと」


「……ケビン、これは家宝にすべきだよ」


「んー……アイン兄さんのために作ったから、家宝にして飾るよりも使って欲しいんだけど。それにカイン兄さんにも似たようなの渡すし」


「そうだったね、せっかくケビンが作ってくれた物だしね。ありがとう、ケビン。大事に使わせてもらうよ」


「使ってもらえるようで良かったよ。じゃあ、俺はカイン兄さんのところに行くから」


「カインなら発狂して喜びそうだね」


「目に浮かびそうだよ」


 そうしてケビンは3年Sクラスの教室を去っていった。次に目指すは2年Sクラスである。


 ケビンが廊下をのんびり歩いていると、高等部で子供が平然と歩いている姿に誰しもが2度見するという事態に陥ってしまうが、親善試合を見ていた生徒もいたため、その子供が誰であるのかがわかって囁いている生徒もいた。


 やがてケビンは目的地に辿りつく。ケビンの後ろからは遠巻きに様子を窺う生徒たちで渋滞していた。


 教室の中に入ると目的の人を見つける前に、先に声をかけられる。


「ケビンじゃねぇか! どうしたんだ? 兄ちゃんに何か用か?」


 ケビンはカインに近づきながら用件を話した。


「カイン兄さんに俺が作ったプレゼントを持ってきたんだよ」


「おっ! 何くれるんだ?」


「これだよ」


 ケビンは【無限収納】から剣を取り出すと、それをカインに手渡した。


「うおぉぉぉっ! 剣じゃねぇか!? これ、兄ちゃんにくれんのか!?」


「思った通りの反応だね。アイン兄さんの予想通りだ」


「ん? 兄さんの所にも行ったのか?」


「1番に向かったからね。その剣の家紋付きのやつをあげたんだよ」


「家紋付きかぁ、兄さんは当主になるしな。妥当だな」


「で、その剣の説明に入ってもいい?」


「ん? 何か説明するようなことがあるのか? 剣は剣だろ? それとも兄さんの剣と合体でもするのか?」


 カインの突拍子もない合体発言に『それはそれで面白そうだな』と感想を抱くケビンであったが、サクサクと説明することにした。


「その剣の素材はミスリルで、付与効果として俺とカイン兄さん以外は扱うことができないし、斬れ味は上昇して落ちることはなく、汚れることがなくて壊れることがないから」


 ケビンはカインの性格からして細かく言う必要はないだろうと、ざっくばらんに説明するだけに終わらせた。


「すげぇぇぇっ! マジか!? マジなのか!?」


「疑うなら誰かに触らせればいいよ。持てないし、抜けないから」


 カインは嬉嬉として剣を持って近場の男子生徒の所へ向かうと、机の上に置いて試すのだった。その姿はさながら新しい玩具を手に入れた子供のようである。


「ちょっとこれを持ってみてくれよ!」


 男子生徒が剣に手をかけて持ち上げようとするも持ち上がらず、片手で持とうとしていたのが両手に変わり、更には机に足をかけてでも持ち上げようと頑張っていた。


「ちょ、お前、ワザとじゃないんだよな!? 本気で力を入れてるんだよな?」


 男子生徒は真っ赤な顔をしながらも懸命に持ち上げようと試みているが、そのうち血管がきれてしまいそうである。


「カイン兄さん、そろそろ止めてあげないと、その人倒れるよ?」


「わかった! よし、次はお前が抜いてみてくれ」


 カインは近場の男子生徒を捕まえると、剣を鞘から抜くという実験台に使うのであった。


 その生徒は先程の光景を見ており、最初から両手で抜きにかかった。横に引くだけなのに全く動く気配すら感じず、無駄に労力を消費して額に汗を滲ませていた。


 ケビンの贈った剣の性能に大はしゃぎしているカインの姿を見て、ケビンは贈って良かったと満足するのである。


「じゃあ、俺は姉さんの所にも行かないといけないから程々にしなよ、カイン兄さん」


「おう! またな、ケビン。剣くれてありがとな」


 ケビンは再び次の目的地へと歩みを進める。残るは1年Sクラスである。そして、ケビンの後ろには有名人見たさに野次馬が集まりだして、まさに大名行列と化していく。


 ケビンが目的地へ到着すると、待ってましたと言わんばかりに扉が開かれる。


「遅かったわね、ケビン!」


「何でわかるの……」


「お姉ちゃんセンサーに反応があったからよ!」


「無茶苦茶だ……」


「さぁ、こっちへいらっしゃい」


 ケビンは勝手に手を引かれて教室の中へと招き入れられてしまい、挙句の果てには誰のかもわからない席へと座らされる。


「安心して、そこはお姉ちゃんの席よ」


「そりゃ良かったよ」


「ケビンはお姉ちゃんに会いに来たの?」


「逆にそれ以外で何があるわけ?」


「だって今まで1度もケビンから来てくれたことはなかったし……」


「それは追いかけ回すからだよ」


「もうしてないわ。今日だって学院に来たのがわかったけど大人しく待ってたんだから」


「え……?」


 ケビンはふと考えた。来たのがわかった? わかったってことはこの教室から門まで探知範囲ってことか? もしかしたら学院内は全て範囲内なのか?


「ね、姉さん……もしかするとだけど……」


「何? 何か聞きたいことでもあるの?」


「学院内に俺がいたらどこにいるのかわかるの?」


「どこにいるかまでは近くまで行かないとわからないわ。でも確実にいることだけはわかるわよ」


 ケビンは戦慄した。学院内に入る時にはアインにドッキリを仕掛けるため、気配を隠蔽していたからだ。それでもなお、離れた距離の気配を察知すると言うのだ。戦慄せずにはいられない。


「ソ、ソウナンダ……」


「今日は何しに来たの? お姉ちゃんと遊ぶの?」


「いや、遊べないでしょ。授業とかあるんだし」


「授業なんてケビンに比べたらゴミよ」


「母さんに怒られるよ」


「大丈夫よ、成績を維持すれば問題ないわ」


「まぁ、遊ぶのは横に置いておいて。今日は姉さんに俺の作ったプレゼントを――」


 ケビンが言い終わるよりも先にシーラが動いた。目にも止まらぬ速度でケビンを抱きしめたのだった。


 座ってる体勢に立った状態の人からの抱擁である。言わずもがなケビンの頭はシーラの胸に包まれる。


 シーラに抱きつかれることに慣れているケビンは、冷静に姉の胸が少し成長していたことを諦めと共に理解するのであった。


「ケビン、大好きよ!」


「いや……人の話は最後まで聞いて欲しいんだけど」


「大丈夫、聞いているわ!」


 一体何が大丈夫なのか理解不明ではあるが、間違いなく聞いてはいない。しかしながら、そのことを指摘していると話が進まないので、ケビンは仕方なく無視することに決めた。


「ちょっと離して。物が取り出せない」


「わかったわ」


 意外と素直に聞き入れたシーラは、目をキラキラとさせながらケビンからのプレゼントを待った。


「これだよ」


 ケビンが【無限収納】からケースを取り出して蓋を開けると、中には青みがかった氷の結晶を横に並べた髪飾りが入っていた。


「ッ!」


 それを見たシーラは感極まって瞳に涙を浮かべながら、両手で口を隠してその髪飾りを注視するのであった。


「姉さんをイメージして作ってみた。何故か知らないけど氷魔法が大好きでしょ? 氷って拡大するとこういう風に見えるんだよ」


「……」


「これには付与効果もつけてあるから、姉さん以外の人には使えないし、汚れない上に壊れることもないよ。あと、姉さんの身に危険が迫ったら結界が展開して守るように仕込んである」


「……ッ……ケビン……お姉ちゃん、嬉しくて死んじゃう」


「いや、死んだらダメだよ」


「ねぇ、つけてくれる?」


「いいよ」


 ケビンが少し宙に浮くとシーラのつけている髪飾りを外して、そこへケビンの作った髪飾りをつけた。


「はい、ついたよ」


「ありがとう、ケビン。お姉ちゃん、今凄く幸せよ」


「それは良かった。作った甲斐があったよ」


「ケビンはもう帰るの? まだ時間ある?」


「渡すもの渡したし帰ろうかと思ってるけど、まだ何かあるの?」


「ちょっと待ってね」


 シーラはケビンの傍を離れると、周りにいた生徒たちの中から女子生徒を連れてくる。


「ほら、頑張りなさい」


 シーラが背中を押しながら、その生徒はケビンの傍まで少しずつ距離を縮めてきた。


「あ、あの……ケビン君」


「どうしたの? ターニャさん。試合の疲れは取れた?」


「――ッ! お、思い出して……」


「ターニャさんを眠らせてから、しばらく後にだね。兄さんたちや姉さんと闘っている最中に全て思い出したよ」


「……ッ……ごめッ……ごめんなさい……ごめんなさい」


「ターニャさんはそこまで悪くないよ。まぁ、人のプライバシーを喋るのは褒められたものじゃないけど。そういうのは気をつけた方がいいよ。友達なくすから。結果としてムカついたのは、そこにいる姉さんや周りにいた女子だよ」


 思わぬところで矛先を向けられたシーラは幸せな顔から一転、絶望を見たような顔に変わってしまう。


「姉さん、冗談だよ」


 何も仕返しをしていなかったので、ケビンからのちょっとした意趣返しではあったが、シーラにとってはダメージが大きかったようである。


「グスッ……ケビン君……ッ……ケビン君……」


「何? どうしたの?」


「ッ……ケビン君……」


「俺はもう気にしてないよ。だからターニャさんも気にしなくていいし、いつもの元気なターニャさんに戻って。わかった?」


「グスッ……うん」


 しばらくするとターニャは落ち着きを取り戻したが、泣いたせいもあってか目は真っ赤であるものの、何とか笑顔を取り戻せた。


「用事は済んだし、俺はもう帰るよ。まだ予定が詰まってるからね」


「もっとゆっくりしていけばいいのに」


「他にも渡さないといけない人たちがいるんだよ」


「ケビン、また会いに来てね」


「そのうちね」


 ケビンは学院でやることが終わったら、次の目的地へと旅立つのであった。


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