第15話 母さんの報告
母さんを出迎えるために玄関までやってくる。探知スキルを手に入れたのはやっぱり正解だったな。
玄関が開かれ母さんが入ってくると、猛然と突っ込んできて俺を抱きしめた。
「ケビン、お迎えに来てくれたの!? お母さん嬉しいわ」
「母さん、どうしたの? いつもとどこか違うね」
「王宮で嫌なことがあったの。リビングにでも行って話しましょう」
そう言って俺を抱っこするとリビングへ向かった。なんか、いつも以上にスキンシップが激しい……どんだけ嫌なことがあったんだよ。
リビングへついて母さんがソファに座ると、必然的に俺は安定の膝の上。
「母さん、それで何があったの?」
「今日はね、国王に謁見したんだけどね、その時にお母さんを敵視する人がいたの。二人もよ? 私は呼ばれたから赴いただけなのに……酷いと思わない?」
「それは、酷いね」
そっちから呼んでおいて、ついたら敵視とか有り得なくね?
「それでね、用意されていた椅子に座って話をしたんだけどね、最初は1人だった敵対者が二人になったのよ」
ちょっと待とうか、母さんよ……謁見だから当然王の前だと跪くよな? それなのに椅子? 椅子が用意されていたの!? しかも、途中から敵対者が増えた?
「母さん、謁見の間に椅子が用意されていたの? 王の前に?」
「そうよ。椅子があったら当然座るでしょ? 椅子なんだし」
ここに来て母さんの天然ぶりが炸裂したのか!? いやいや、椅子を用意したのは向こうなんだし、座ったところで問題はないはず。というか、最初の敵対者は、その待遇に不満があったんじゃないのか?
「王様と何の話をしたの?」
「えぇとね、襲撃者に気づいていたのかどうかって話をしてて、当然気づいていたって答えたのよ。それで、あの時にケビンと話したように、護衛騎士がいるんだし報告しなかったって言ったの」
んー……ここまでは特に怪しい点はないな。となると、続きを聞くしかないか。
「そのあとは?」
「そのあとは……そうそう、護衛騎士が使い物にならないって言ったのよ。ケビンもそう思うでしょ?」
これだぁぁ! 絶対、今の発言で騎士の誰かが敵意を持ったんだ。そりゃあ目の前で、しかも国王がいる前で貶されたら流石に怒りますよ。
「母さん、もしかして敵視してた内の1人って騎士の人じゃない?」
「さすがはケビンね! 頭いいわね、その通りよ。騎士団長の人が敵意を向けてたの」
ダメだこりゃ……よりにもよって団長さんときたか。そりゃあ、自分の管轄する騎士団が貶されりゃ怒りますよ。
そうなると……最初から敵視していたのは、大臣とかその辺りのお偉いさんかな?
「で、魔法を使った者に心当たりがないかって聞かれたから、知らないって答えたのよ。ケビンが魔法を使ったのは秘密だしね。それで、困ってた国王に助言したの」
えっ!? 国王相手に助言……? 何か嫌な予感がするぞ……
「騎士の訓練に人捜しを入れたら? って」
やっちまったぁぁ! これ完全に向こう側からしたら、馬鹿にされてるって思うだろ。これ、普通なら確実に不敬罪じゃん。
「そしたらね、王女様が不敬だぁって言ってね、魔法を使ったのはケビンじゃないのかって言おうとしたから、お母さん頑張って阻止したの」
まさかの王女キター! 大臣とかのレベル超えてるじゃん! てか、何で俺が魔法使ったって睨んでたの? 誰にもわからなかったはずだけど……母さん以外は。
というか、阻止って何したの!? 聞くのが怖いんだけど……相手は一国の王女だよ? 変なことしてないよね? 信じていいよね?
「母さん、阻止って何したの?」
「んー……軽く周囲を威圧して騎士が腰抜かしたり、団長さんがガクブルして、皆が動けない隙に、入口に飾ってあった甲冑の剣を取ってきて、王女様の首に当てたの。それでケビンの秘密を守ったの。凄いでしょ!」
終わった……王女の首に剣を当てるとか、死刑ものじゃん。何で胸張って凄いでしょって言ってんの? カロトバウン家終わっちゃうよ?
「でも、ちょっとやり過ぎたかなぁって思ったりもするのよ? 王女様が恐怖のあまりお漏らししちゃったから。皆の前だったし恥ずかしかったよねぇ」
お漏らしさせるなんて、王女に同情しかわかないよ。女の子なのに可哀想に……
「で、その後に……」
えっ!? まだ続くの!? もうさすがにお腹いっぱいなんですけど。
「王様がね、無礼を許してくれって言ってきたのよ」
えっ!? 普通、逆じゃないですか? こっちが無礼を詫びるほうじゃない?
「なら、代わりに貴方の首を差し出すの? って聞いたら、娘が助かるならって言ったのよ。愛よねぇ」
いやいやいや! 王様首を差し出しちゃったの!? 娘を助けるために?
「まぁ、そんなこんなしてたら、マリーが話しかけてきてね、娘の社会勉強のために私を嗾けたんですって。策士よねぇ、王女様にはトラウマものなのにねぇ」
ここにきてまさかの新キャラ!? マリーさんって王妃様だよな? フレンドリー過ぎないか?
「マリーさんって王妃様だよね? 仲良しなの?」
「そうよ。マリーが貴族の時からの付き合いなの。よく屋敷を抜け出して私の所へ遊びに来てたのよ。それで、軽く一緒にクエストに出かけたりしたわね。屋敷にバレないように、遠出は出来なかったけど懐かしいわ」
えっ!? 王妃様、冒険者だったの!? 凄い経歴なんだけど……破天荒過ぎない?
「王妃様の冒険者ランクっていくつ?」
「私と同じAランクよ。最初は、冒険の話を聞かせるだけで満足してたみたいなんだけど、その内に「私も冒険者をやってみたい!」って言い出してね、それでこっそり冒険者登録させたの。登録名もマリーにしたし意外とバレなかったわ」
「王妃様って母さんみたいに強いの?」
「私よりかは弱いわよ。ランクも私と一緒に行動してたから、ポンポン上がって行ったし」
「それでもAランクなんだよね?」
「そうね。Aランクの中じゃ上位に入るんじゃないかしら? 二つ名もついてたしね」
「二つ名? 母さんみたいな?」
「そうよ。マリーの二つ名は【インビジブル】よ。二つ名の中に名前が入らなかったから、ますますバレなかったわ」
インビジブルって不可視って意味だよな? 姿を消せるのか?
「何で【インビジブル】なの?」
「やっぱり家にバレると不味いじゃない? 貴族なんだし、更には女だし。それで、コソコソ抜け出す事を繰り返していたら、【隠密】のスキルがいつの間にか手に入っていてね、それで余計、家にバレることはなくなったわ。更には、マリーって容姿がいいでしょ? 当然、ギルドでも話題になってね、何かとプライベートを暴こうとした輩たちがいたんだけど、結局、誰も何も分からなかったの。まぁ、【隠密】スキル使って尾行を巻いてたんだけどね。色んな意味で素性がわからず見えずじまいだったから、【インビジブル】って二つ名がついたの」
「それって母さん以外の人は知ってるの?」
「どうかしら? 私以外だとケビンぐらいじゃないの? 最終的には家には全くバレていなかったんだし」
意外なところで王妃様の秘密を知ってしまったケビンであった。
母さんとリビングで寛ぎながら話を聞いていると、まだまだ続きがあるようだった。
「その後はね、マリーに誘われてお茶会をしたの。私としては1秒でも早くケビンと会いたかったんだけど、マリーってああ見えて1度決めたことは変えないのよ。今日しないんだったら、後日来てって言うのよ。頑固よね」
ああ見えてって言われても、ああ見えるほどの面識がないんですが……
「久々に旧友に会えたんだから、お茶くらいしてきてもいいよ。友達は大事にしないとダメだよ」
「ケビンが言うんだったら、マリーだけは特別に大事にするわ」
そこは、王妃様以外も大事にして欲しいんだけど……
「お茶会って何するの?」
「特別な事は何もしないで、お菓子食べながら昔の話をしてただけよ。あぁ、そういえば、王女様が途中から参加したわね」
まさかの被害者登場!? 今度こそ何もしてなければいいけど。
「王女様もお茶会に参加する事になってたの?」
「そんなわけないじゃない。マリーが案内してくれたのは、マリーしか入る事を許可されてない、プライベートテラスだったのだから。緑が多くてリラックス出来る場所だったわ」
「じゃあ、何で王女様がいたの?」
「私に無礼を働いたことを詫びたかったんだって。扉の前でウロウロしてたのがわかったから、マリーに教えてあげたのよ。マリーは入れるのを嫌がってたみたいだけど」
プライベートテラスに娘すら入れたくないなんて、どんだけ徹底してるんだよ。そこに呼ばれた母さんは、ある意味凄いな。
「で、マリーが扉のところで何か伝えたんでしょうね。青い顔しながら入ってきたのよ」
絶対にアレだな……無作法するな的な何かだな。旧友相手に無作法したら許さない的な。王女様も哀れだな。
「それで、開口一番謝ってきたのよ。私もお漏らしさせちゃったから、気の毒に思って許したんだけどね」
そこは、大人の余裕でお漏らし抜きに許してあげようよ。
「それで、王女様を交えて会話に花を咲かせたの?」
「そうねぇ、あまり会話に参加してこなかったわね。マリーの方が話に食いついてきてたから」
王妃様……娘に対して厳し過ぎやございませんか? 輪の中に入れてあげましょうよ。
「それは、王女様は居心地が悪かっただろうね」
「そうね。途中からなんか空気みたいになっていたわ」
王女様が可哀想すぎる! 空気みたいって……王妃様、自分の事に熱中し過ぎでしょ!
「母さんは助け舟出してあげなかったの?」
「出したわよ。何か聞きたそうにしてたから、何でも聞いていいって言ったの」
偉いぞ、母さん! やれば出来るじゃないか!
「そしたらね、ケビンの事が知りたいんだって」
何故そこに俺が出る……? 面識ないぞ。
「ケビン、襲撃の時に笑いかけたんでしょ? それが見間違いじゃないかって疑問に思ってたらしいの」
あぁ、あの時か……確かに笑いかけたな。
「それでね、多分それは本当の事よって教えてあげたの。あの時はケビンも襲撃者には気づいていたでしょ?」
「そうだね。不穏な空気を感じ取ったし」
「その話にまたマリーが食いついてね。王女様がさらに空気になったのよ」
何やってんだよ、マリーさん! 娘が勇気を出して話しかけた話題だったのに。横から掻っ攫っちゃダメでしょ!
「で、結局、マリーとばかり話してた気がするわ」
「王女様が何故か不憫に思うよ」
「あとはねぇ、再来年の話もしたわね」
「再来年?」
「そうよ。再来年になったらケビンは初等部に入学できるでしょ?」
忘れてた……そういえば、再来年から学院に行けるんだったな。なんか面倒くさいな。今のままのんびり暮らすのも悪くないんだよな。
でも、将来は働かないといけないし、ニートになる気はないんだよな。母さんなら喜んで俺をニートに仕立て上げるだろうけど。
「そうだね、再来年には学校に行く歳になるね。」
「ケビンが行きたくないなら、無理して行かなくても良いのよ? シーラも学校に通ってることだし。まぁ、あの子はその頃中等部にいるんだけど」
ヤバイ……学校に行くと姉さんと会うのか。初等部と中等部だから、基本会わないはずなんだけど、嫌な予感がする……姉さんなら余裕で授業抜け出して会いに来そうだ。
姉さんは基本的に、俺に対しては母さんと同じくらいのポテンシャルを持っているからな。逃げ切れる自信がない。
「その時になったら、改めて考えるよ。母さんに迷惑はかけたくないし」
「そんな事を気にしなくても良いのよ? ケビンはケビンの思うままに生きたら良いからね」
「ありがとう、母さん」
「それじゃあ、王都でする事も終わったし、準備が出来たら我が家に帰りましょうか?」
「そうだね」
母さんは名残惜しそうに、俺をソファへ下ろすとベルを鳴らすのだった。
「マイケルいるかしら?」
「はっ、ここに」
するといつの間にか、ドアのすぐ側でマイケルが控えていた。
「帰るわ。準備をお願い」
「畏まりました」
それから程なくして帰りの馬車の準備が整い、行き同様にアレスが御者を担い帰路につくのであった。
結局、兄さん達には会えず仕舞いだったな……