第146話 新装備の受け取り
ケビンの家名が決まってから、1ヶ月が経過したある日のこと……
「そろそろドワンさんの所へ、様子を見に行こうか?」
「新しい装備ができているといいわね」
「楽しみ」
「一体どんな感じに仕上がっているのでしょう」
「あれから1ヶ月も経ってるし、できているんじゃないかな?」
ケビンたちは、ドワンの店の近くであるいつもの路地裏に転移すると、そのまま店内へと入って声をかけた。
「ドワンさーん、いますかー?」
「おお、ケビンか。久しく顔を見せなかったが、随分遅かったな?」
「ドワンさんが満足のいく作品作りを行えるように、急かすような余計な顔見せは控えていたんですよ」
「ははっ、職人冥利に尽きる対応だな」
「新装備はできていますか?」
「もちろんできているぞ。ダンジョンの素材があったからな、試行錯誤していつも以上の仕上がりだ」
ドワンは一旦店の奥に戻ると、次々と装備品を持ってきた。
「先ずはエルフの嬢ちゃんからだ」
今回からティナさんの武器は、弓と接近された時のための細剣を新たに作ってもらった。
弓は以前の物と比べてさほど変わり映えしない見た目であるが、効果が全然違うようだ。
「こいつは付与効果に、射速強化と貫通力強化が施してある。あとは、魔力が通りやすくなっているのは、以前と変わらんな」
ティナは弓を受け取り弦の調子を確かめると、気づいたことをドワンに確かめることにした。
「これ、弦が軽くなっていますね。引きやすいです。あと全体的に軽い気がします」
「速射が出来るように、調整したからな。軽いのは的をすぐ狙えるようにだ。これからは細剣も扱うのだろう? 武器が重くちゃ、すぐにへばるからな」
「ありがとうございます」
「次はこれだ。こいつの付与効果は、切れ味増加と耐久力強化だ。こっちも軽量化が施してあるから、そのための耐久力強化でもある。元々細剣だから、軽量化すると脆くなるからな。あとは弓と同様に、同じ魔石を埋め込んである」
新しい細剣のガード部は、丸みを帯びた形になっており、握り手を包み込むような感じに仕上がっている。
ティナは細剣の握った感触を確かめると、鞘から抜き放ち素振りをするが、初めて剣を扱うことも相まって子供のチャンバラよりも酷かった。
「防具の方はそれぞれに物理耐性に魔法耐性、脚部には敏捷強化が施してある」
防具は今までと変わらないデザインで、違う点は耐性が付いたことと、敏捷強化がされているところだけだった。
「次は魔術師の嬢ちゃんだな。杖は要望通り、全属性の魔石を埋め込んでおいたぞ。それ以外だと、魔力伝導率向上に魔法強化、軽量化が施してある」
ニーナの杖は全属性の魔石が組み合わされて、1つの魔石のように象っていた。それが先端部に取り付けられて、7色の輝きを見せている。
「ニーナさん、全属性の魔石を入れたの? 3属性しか使えないよね?」
「修行して他の属性を覚える。新しい試み」
「魔石を介すことで、覚えやすくするってこと?」
「そう」
どうやらニーナは魔石を補助具として、新しく使える魔法のレパートリーを増やすようである。
「ローブの方は、物理耐性に魔法耐性を施してある。以前よりかは、防御面で格段に良くなるはずだ」
「ありがとうございます」
「最後は前衛の嬢ちゃんだな。ケビンと同様、二刀流を試すって聞いた時にはビックリしたもんだが、この剣は魔石と軽量化は勿論のこと、斬れ味増加に耐久力増加、魔力伝導率向上が付けてある。ケビンと同じがいいって言ってたから、鞘と柄の部分は同じようにしておいたぞ」
ルルの扱うふた振りの剣は、ケビンと同様で黒と白のカラーリングが施されており、まさにケビンの扱う刀の剣バージョンとなっていた。
「防具はエルフの嬢ちゃんと同様で、物理耐性に魔法耐性、あと脚部には敏捷強化を施しておいた」
「ありがとうございます」
「ドワンさん、ありがとうございました。これで皆の戦力アップが出来たので、ダンジョン攻略を再開してきます」
「おう、気をつけろよ?」
「はい。また素材を卸しに来ますね」
「色々な素材でいっぱい試せたしな、今度はケビンの刀をそのままのデザインで強化してやるぞ」
「その時は、よろしくお願いします」
ケビンたちはドワンの店を後にすると、再びダンジョン攻略を行うために、一旦夢見亭の部屋へと戻るのであった。
その頃、鮮血の傭兵団は今までにない頑張りを見せて、70階層を攻略し終わり80階層に向けて進軍中であった。
ケビンたちを何がなんでも見つけるという執念にも似た感情を糧に、ひたすらダンジョン攻略に勤しむのである。
ギルドはそんな鮮血の傭兵団が、最近は粗暴な行いも見せずに攻略を頑張っている姿を見て、心を入れ替えたと勝手に解釈して評価を上方修正に改めていた。
ギルドにやってくれば普通に素材の買取を済ませて、次の攻略に向けて準備を行い、準備が終われば攻略を再開するためにダンジョンへと足を運んでいたので、周りの冒険者たちも鮮血の傭兵団らしくない行動に混乱するが、街が平和ならそれでいいかと思考することを放棄した。
その日ケビンたちは、ダンジョン攻略のためにアイテムなどの補充を行い、攻略は翌日から再開することにした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
次の日になると、ケビンたちはいつものようにダンジョン内へと転移して、これからの行動予定をケビンが示達する。
「とりあえず、新装備での戦闘に慣れるのが目的だから、攻略スピードのことは考えずにどんどん魔物との戦闘を行うよ」
「わかったわ」
「わかった」
「わかりました」
95階層から魔物との戦闘を意図的に繰り返して、各々の戦闘感覚を養っていくと、フロアの魔物がほとんどいなくなったところで、下の階層へと下りていく。
そんなことを繰り返していたケビンたちは、100階層へと到達したがボス戦は日を改めて挑むことに決めて、再び階層を行き来しながら戦闘訓練を行っていくのであった。