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面倒くさがり屋の異世界転生  作者: 自由人
第7章 ダンジョン都市
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第139話 鮮血の傭兵団

 王都からダンジョン都市へと戻ったケビンたちは、引き続きダンジョンの攻略に勤しんでいた。


 そんな中、ダンジョン都市の2大クランの内、【月光の騎士団(ムーンライトナイツ)】の突然の解散にギルド内は騒然としていた。


 理由は簡単で、団長パーティー以外のクランメンバーが奴隷になるか死んでいるかしている上に、団長であるアイナが冒険者資格を永久剥奪されたことも起因している。


 このことはギルドでも上層部の者にしか知らされておらず、“口外厳禁である”と箝口令も敷かれたことにより、それを知らない冒険者たちは憶測の域での噂話に花を咲かせるのである。


 これによって勢いづいたのが、2大クランの内のもう1つのクランである【鮮血の傭兵団(ブラッドファイターズ)】である。


 久しく姿を見せていなかった鮮血の傭兵団が、都市内ダンジョンに姿を現したことにより、一部の荒くれ者となっている冒険者たちは活気づいていた。


 それも偏に、鮮血の傭兵団が荒くれ者の集まりであり、我が物顔で好き放題するからである。


 月光の騎士団がいる時は、数的な不利や仲の悪いこともあって姿をくらましていたのだが、月光の騎士団が解散した途端に街へと戻ってきたのである。


 ギルドは以前から再三の注意を促しているが、他の冒険者たちでは手に入らないダンジョンの素材を提供してもらっていることもあり、あまり強く言えないでいた。


 が、それはケビンたちが来る前までのことであり、今はケビンたち【ウロボロス】が、すぐには捌ききれない大量の素材を定期的に買取として持ってくるので、ギルド側は強気の姿勢に打って出ることにした。


「――ですから、これ以上好き勝手されるのであれば、冒険者資格を剥奪するとギルド上層部からは通告されているのです」


「……んだとぉ? 俺たちがいなきゃ、ダンジョンの素材は手に入らねぇんだぞ? 頼みの綱である月光の騎士団が解散したことくらい知っているんだからな!」


「それは問題ありません。他の冒険者たちで賄えますので」


 今ギルド内では、鮮血の傭兵団の一員たちと受付嬢が口論を繰り広げている。


 ギルド側は強気の姿勢を全く崩さず、鮮血の傭兵団側はいきなり態度を変えてきたことを怪訝に思いながら、それぞれの主張を繰り返していた。


「――よって、次に問題を起こした場合は、その時点でその方の冒険者資格を永久剥奪とします。更に、貯金がいくらあろうとも損害への賠償として没収されますのでご了承ください。これはギルドの決定ですので覆ることはございません。その後、問題を起こせば一般人扱いですので、すぐさま衛兵に検挙されるということをお忘れなきようお願いします」


「ちっ! どうなっても知らねぇからな? 後で後悔しても遅ぇぞ。行くぞ、お前ぇら」


 捨て台詞を吐きつつその男たちはギルドを後にして、街中を歩きながら先程の一件を話し合うのであった。


「一体何が起きてやがる……月光の騎士団がいなくなった状態で、ギルドがあそこまで強気に出ることはねえ。強気になれる何かがあるはずだ……」


「早くクランに報告を入れた方がいいだろうな」


「幹部に伝えようぜ」


 その男たちは、クランも然る事乍ら幹部へ報告するためにも、メンバーが集まっているアジトへと赴くのだった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ところ変わってケビンたちは、44階層から攻略を再開して今現在50階層へと到達していた。


「とうとう50階層のボス部屋だね。変わり映えもしないしここで終わりじゃないんだろうね」


「そうね。ここのボスはどんなのかしら?」


「未到達階層だから不明」


「逆に小細工されてないとわかると、安心できますね」


 ケビンたちはボス部屋の前でそんな会話を繰り広げていた。そのまま扉を開けて中へと入ると、待ち構えていたボスは山羊の胴体に獅子の頭と山羊の頭がついており、尻尾の部分は毒蛇となるキマイラであった。


「これは手強そうだね。3人でいけそう?」


「とりあえずやってみるわ。相手は1体なんだし今までに比べたらマシよ」


「ティナ、それは間違い。頭が3つあるなら3体分と考えた方がいい」


「そうだね。あれに死角はないと思って戦った方がいいよ」


 そんな2人の忠告に余裕の構えだったティナは不安が募り、ケビンに助けを求めることにするのだった。


「……ケビン君、バフ掛けてもらえる?」


「バフだけでいいの?」


「とりあえずそれで様子を見るわ」


「了解」


 ケビンは3人にステータス向上のバフを掛けて、後方で待機することにした。


 ティナたちは初めてケビンにバフを掛けてもらったが、その効果の凄さをすぐに思い知ることとなる。


「ルルはあまり近づき過ぎないように戦って。特に尻尾の蛇には注意して。恐らく毒を持っているわ。ニーナは魔法で支援しながら手数で勝負して。私は弓で攻撃しながら魔法を撃ち込んでいくわ。どんな攻撃方法があるかわからないからみんな注意してね」


「わかった」


「わかりました」


 作戦が決まったところで、ティナたちは攻撃を開始する。先ずはティナが矢を同時射撃で3本撃ち放つと、恐るべき速度で矢は飛んでいきキマイラの体に深々と突き刺さる。


 ルルは死角がない相手ということで、注意をしつつスピードで翻弄しようとするが、気づいた時にはキマイラのすぐ側まで到達しており、慌てて一撃を入れたにも関わらず、深々と斬りつけることに成功しており、呆然としながらも離脱する。


 ニーナは《アイスランス》を唱えて発動させると、通常よりも多い数の氷の槍が顕現され、キマイラへと襲いかかるとその身に深々と突き刺さっていくのを目の当たりにする。


「「「えっ!?」」」


 3人はあまりの出来事に戦闘中であるにも関わらず、その場で棒立ちとなり呆然としてしまう。


 普通ならば、そんな隙だらけの敵をキマイラが見逃すはずもなく襲いかかるのだが、今現在、キマイラは自身の身に起こった異常で動くことすら困難であった。


 そんな3人の視線は一斉にケビンへと向けられるが、対してケビンは戦闘中ということもあり、3人に対して叱咤する。


「まだ、戦闘中だよ」


 3人は言い表しようのない感情とともに戦闘を継続することを選び、再びキマイラに向かい攻撃を開始するが、キマイラは今現在できる最善の反撃で迎え撃つのだった。


 獅子と山羊の頭が口を開いたかと思ったら、灼熱の炎を辺りに撒き散らして、近づいていたルルは慌てて距離を取ろうとしたが、服の一部に触れたらしくその部分は焼け焦げて灰となっていた。


 チリチリと燃える範囲を延ばしている僅かな火の粉を振り払おうと、ルルは服を叩こうとするのだがそれを見たケビンが慌てて叫んだ。


「触るなっ! 破り捨てろっ!」


 ケビンの言葉にルルは叩こうとした手を慌てて引っ込めて、豪快に服を破り地面に投げ捨てると、破り捨てられた部分の服は一向に火の粉の勢いが収まらず、全てをじわじわと燃やし尽くしていた。


 その様子を見ていたルルは額から嫌な汗が流れ落ちて、仮にもし触っていたのならどうなっていたのか恐怖するのである。


 そんな状態のルルを他所に戦闘は未だ継続されており、近づくことのない2人は善戦を繰り広げながらルルへと声をかけた。


「あの炎は危険」


「私たちがメインになるから、ルルは近接を止めて投げナイフで応戦して!」


 ティナから指示を受けたルルは、剣を鞘に納めると投げナイフによる中距離攻撃へとシフトした。


 3人による中遠距離からの攻撃によって、キマイラは炎を吐き出し続けて応戦するも、為す術なく倒されるのであった。


 終わってみれば意外と呆気ないもので、それもこれも偏にケビンのバフが原因であることは、3人にとって想像に難くない結論である。それを問いただすべくケビンに詰め寄ると、代表してティナが疑問を口にした。


「ねぇケビン君。あのバフ……ありえない効果が出ていたんだけど?」


「初めてバフを掛けたからね。加減を間違えたみたい」


「バフって一定の効果しか出ないのよ? そもそも、加減でどうにかなるようなものなの?」


「【魔力操作】の賜物だよ」


「あぁ……それがあったわね」


「キリもいいし今日は帰ろうか」


「そうね」


 50階層を攻略したケビンたちはそのまま家へと帰るのであるが、ダンジョンの外で家に帰って行くケビンたちを、影に隠れながら観察する1人の冒険者がいた。


 この男は、ダンジョンに出入りする冒険者たちをずっと観察しており、ギルドが強気に出られた原因を探るべく、鮮血の傭兵団から派遣された斥候であった。


 男は、ダンジョンから出てくる冒険者たちがいなくなると、人知れず街の中へと姿を消していくのだった。


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