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面倒くさがり屋の異世界転生  作者: 自由人
第1章 異世界転生
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第12話 謁見の間

 一方その頃、王城の謁見の間ではこれから来る者への対応で稀に見る緊張感に包まれていた。それもそのはず、今から来るのは機嫌を損ねると王家が終わる程の相手だったからだ。


 国王の座る玉座の左には王妃が、更にその左に第3王女のアリスが座っている。今回は特別に当事者であるアリスの同席が許された。


「お父様、本当にサラ夫人は来るのですか? 断る可能性もあったと聞きますが」


「それについては、先方から“今から行くから待ってるように”と連絡が入った」


「自国の王であるお父様にそんな態度を取るなんて、不敬罪も甚だしいです。そもそも待つのは謁見に来た者ではなくて?」


「アリス、言ったはずよ。それを許されるのが、カロトバウン男爵家であるサラ夫人なのよ。くれぐれも粗相をしてはなりません」


「私にはそこまで構えるような方には見えないのですが。噂話に誇張がついたのではないですか?」


「あなたも間近で相対すれば分かるわ」


「それに、何故謁見者用の椅子が用意されているのですか? 普通は跪いて控えるはずですのに」


「それも相手がサラ夫人だからよ」


「色々と納得がいきません。おかしいですわ」


「アリスよ、あまり駄々を捏ねるようなら退席させるぞ」


(いつもはお優しいお父様からお叱りを受けるなんて、それもこれもサラ夫人のせいです。そこまで謙る必要がないことを証明してみせます! ここには、騎士団長に加え騎士たちが控えているですから)


 のちに王女は、この時の気持ちを後悔するのであった。王族であるという下手なプライドは捨て、両親の言うことを聞くべきだったと……


「カロトバウン男爵家、サラ夫人ご入場」


 謁見の間へ続く大きな扉が開かれる……開き続ける大扉の先には、紅いドレスに身を包んで、凛とした佇まいのサラが扉が開ききるのを待っていた。


 完全に開いたことを確認したら、謁見の間へと入るべく歩みを進めて、静かに少しずつ玉座の前へと近づいてくる。


(やはり、噂は誇張ですね。幾ら強かろうと帯剣すらしていないのですから、臆する事はないはずです)


 次第に近づいてくるサラが、用意された椅子の横まで辿り着くと言葉を発した。


「ご機嫌麗しそうで何よりです陛下。本日は出頭命令につき馳せ参じました」


「久しいな、サラ夫人。先ずは座ってくれ」


「分かりました」


 用意されていた椅子に腰掛けると、怪訝な表情を見せている王女を一瞥する。ほんの一瞬だったので王女自身が気付くことはなかったが。


「本日、ここへ呼んだのは他でもない、先の襲撃事件について話しを伺いたいからだ。あの晩、夫人もご自慢のご子息を連れて会場に参られたであろう?」


「確かにそうですわね。我が子が行きたくなさそうだったので、参加しなくても良かったのですが……これもひとつの社会経験と思い、連れ出した次第です」


「体調でも悪くしていたのか?」


「いえいえ、ただ単にお披露目会に、価値を見いだせなかっただけです。我が子の事ながら、なかなか聡明であるみたいですから。一体誰に似たのかしら?」


 王女はサラの態度に、フラストレーションが少しづつ溜まっていく。まるで王族と旧知の仲であるような対応を取っていたからだ。


 更には、国の恒例行事であるお披露目会に、価値がないとまで言われてしまったのだ。


「ははっ、これは手痛いな。確かに昨今のお披露目会は親が主役となっていて、子供はそっちのけになっておるからの。参加する前からそこに気づくとは、中々の聡明ぶりであるのだろうな」


「そうですわね。一緒に過ごしていても、本当に五歳なのか疑ってしまいます」


「それにしても、サラ夫人がそこまで褒めるなら、一度は会ってみたいものだが……今日は連れてきていないようだな」


「あまり王城にも興味を持っていなかったものですから、留守番して貰っているのです。普通なら、王城に入れるだけではしゃぎそうなものですけど」


「確かに五歳児とは思えないな。ところで話は変わるが、襲撃の夜は気付いておったのか?」


 キリよくひとつの話題が終わりそうになると、ここぞとばかりに本題へ入るべく話題転換してきた手腕は、さすが一国の王であると言えるだろう。


 サラもそれを理解しており、何処から取り出したのか扇子を持ち出し、広げては口元を隠す。


「当然、気づいておりましたよ」


「出来ればその時点で、教えてもらいたかったのだがな。危うく我が娘を失うところであったしの」


「あの時はここの護衛騎士が、あそこまで使えない人材とは夢にも思いませんでしたので。練度が低過ぎて護衛騎士の意味がないのではなくて?」


 この言葉に玉座の近くに控えていた騎士団長がピクリと反応する。それに気づいてかサラが一瞥する。


「それは、儂も思ったところだ。あの後に再度意識を高めるべく、訓練に励むように指示したからな。して、あの魔法を放ち我が娘を守ったのは夫人であるか?」


「違いますわ。魔法は得意ではありませんから、私なら直接叩きに向かいますわ。誰か他の方ではなくて?」


「やはりそうか。見事な対処だったから、褒美を与えようと思ったのだが……夫人に心当たりはないのか? あの場であの魔法をしてのけた者を」


「存じ上げませんわ。私は我が子が危険に晒されないように、傍についておりましたから」


「夫人でも分からぬようであれば、探し出すのは諦めた方がよいな」


「そうですわね。騎士の訓練のひとつに人捜しでも入れてみてはどうですの?」


 サラがその発言を終えると、そこで思いもよらぬところから、話に割り込んできた者がいた。


 王の許可なく発言することは、基本認められていないのに。


「先程から黙って聞いていれば、不敬です! 大体、あの魔法を使ったのは、ケ――」


 そこで発言は終わったかのように思えたが、実際は強制的に終わらせられた。王ではなく一人の者によって……


 謁見の間を覆うほどの絶対零度の威圧が辺り一面を包み込み、整列していた騎士たちは腰を抜かし、騎士団長ですら体の震えを止められなかった。気丈にも腰を抜かすということがなかったのは団長故の矜恃か。


 そんな中、周りの者が次に目にしたのは驚愕の現場だった。王女の首に鞘付きではあるが、剣が当てられていたのだ。王女は自分の首に伝わる冷たい感触に恐怖する。


「ひっ……!」


 そんな王女の足元からは、温かい湯気のようなものが立ち上がる。


「あらあら、端ないわね。粗相をしてしまったのかしら? 後でお着替えをしないとね」


 先程の威圧は既になく、謁見の間にいる者全てが自由に動けるようにはなったのだが、誰一人動こうとはしなかった。いや、出来なかった。


 そんな中、国王が気丈にも動いて言葉を発した。


「す、すまぬ、夫人よ。そなたが来る前にも粗相をしないように注意をしていたのだが。儂に免じて許しては貰えないだろうか?」


「ふふっ。粗相とは発言の事かしら? それともお漏らしの事かしら? それに、あなたに免ずるなら、その首へ代わりに刃を向ければよろしくて?」


「もちろん、それで我が娘が助かるなら喜んで差し出そう」


「それとついでに申し上げるけど、教育がなってなくてよ。この娘は、私が入場した時点で、敵意を向けていたのだから。あとは、そこで今にも腰を抜かしそうな団長さんね。あなたも、敵意を向けたわね?」


「それは、まことか!?」


「私が嘘をつくとでも? 大体、騎士団の事を卑下されたくらいで、感情が揺さぶられるなら精進が足りなくてよ? 団長さんを含めて誰が私の行動を阻止することができて? ちなみにこの剣は、入口の甲冑から持ってきたものよ。あそこまで行って戻って来るのに、誰も反応できていないんですもの」


 その言葉に皆が入口の甲冑を見ると、確かに片方の甲冑からは剣がなくなっていたことに驚愕するのであった。


 一体いつの間に取りに行ったのか……騎士たちは目視することが出来ないほどの実力差を、改めて実感するのであった。


 そこで、沈黙を守っていた王妃が言葉をかける。


「ごめんなさいね、サラ夫人。貴女の強さをどうしても知って欲しくて、あえて娘の行動を止めなかったのよ。私にとって貴女は英雄みたいなものだから強さは知っているのだけれど、娘は貴女の現役時代を知らずに生まれてきたものだから、下に見ていたのよ。私からしてみればそれは、許されざる行為よ」


「今回は、マリアンヌ王妃にしてやられたということね。貴女は貴族の時から護衛もつけずについて来ていたから……一度決めたら変えないのは昔のままね」


 そこで、王女に突き付けていた剣を下ろす。王女は自分の首から剣がなくなったことに胸をなで下ろすのであった。


 そして、母からの忠告もあったのにも関わらず、失態を仕出かしてしまった自分への後悔が、襲いかかってくるのであった。


「今となっては懐かしいわ。貴女に武勇伝を聞くのが日々の楽しみでしたもの。昔のよしみで今回は娘にお灸を据えて欲しかったのよ」


「お灸を据えるのに私を使ったらトラウマものよ? 大丈夫なの? まだ小さいのに」


「いいのよ。これもひとつの社会勉強だわ。権力がいくら強くても、世の中にはどうしようもない力が存在するのだもの。貴女を筆頭に……」


「それは、聞かなかったことにするわ。まるで、私が国に逆らってるみたいじゃない。それと、この剣は返しておくわね」


 そう言うと、目の前から消えてまた現れた……


 ここにいる者たちには、姿がブレた様にしか見えなかっただろう。現れた際には椅子に座りなおし 扇子を持っていたのだから。


「用件は済んだのだし、私は帰って構わないかしら?」


 それに答えたのは、国王ではなく王妃だった。


「久しぶりに会えたのだし、お茶でもしたいのだけどダメかしら?」


「息子が家で待ってるのよ? それより優先すべき事項はないわ」


「後日、お茶をしに来てくれるなら構わないわ。貴女は昔から面倒くさがりでしょう? 今を逃したら二度と来ないと思うのよ」


「確かに来ないわね。面倒くさいもの……息子といる方が楽しいわ」


「なら少しの時間だけお茶に付き合ってよ。最近の話も聞きたいし、聡明な息子さんの話も聞きたいわ。自慢の子なのでしょう?」


「……分かったわ。本当に貴女は一度決めたら変えないのね」


「ふふっ。それは、褒め言葉として受け取っておくわ」


 国王や王女、それに騎士達を差し置いて、お茶会の話は纏まり謁見の儀は終わったのであった。


 そんな中、国王は思う……


(この儂の首を差し出すという覚悟は何処へ持っていったらいいんじゃ? マリアンヌも仲が良いなら教えてくれても良かったのに……ただの熱烈なファンなだけかと思ってたぞ。ちゃっかりお茶会に誘っておるし。それにしても、娘を窘めるのに夫人を使うとは……一歩間違えてたら王家が終わってたではないか)


 こんな王の気苦労は誰も知るよしがなかった。


(はぁ……今日は仕事止めて酒でも飲もうかな……)


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